きょうのコラム「時鐘」 2010年8月16日

 帰省した知人が「おい、蚊に刺された」とうれしそうに言った。刺されて喜ぶのも妙だが、蚊の襲撃は懐かしい、と帰省土産を手にしたようである

「目出度(めでた)さはことしの蚊にもくわれけり」。小林一茶の句と教わった。蚊に狙われるのも、生きている証(あか)しの一つという。厄介なかゆみも、風流人の手にかかると随分高尚になる

「昼の蚊やだまりこくつて後(うしろ)から」という句もある。周囲の物音が羽音を消してしまう。昼の蚊は不意打ちである。寝静まった夜は逆で、不快な羽音が耳につき、神経を逆なでする。刺すなら早く、とイライラする

羽音から、帰省の折の高速道渋滞のイライラに話は飛んだ。12年度に無料化という公約だが、どうも雲行きは怪しい。金の手当てや渋滞との折り合いが難しい。帰省客ならずとも、無料化の掛け声は気にかかる。夜の羽音のようである

政治を蚊にたとえるのは、無礼であろう。が、あの消費税騒ぎは、「黙りこくって後ろから」襲い、ピシャリとやられた昼の蚊みたいである。渋滞に加え、ことしは無料化の羽音にもいらついて、Uターンする帰省客に同情する。