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高橋克典、父がくれたドラマ

 夕暮れの川辺に静かにたたずむ高橋克典=東京・渋谷(撮影・西岡正)
 夕暮れの川辺に静かにたたずむ高橋克典=東京・渋谷(撮影・西岡正)

 65回目の終戦記念日を迎える15日、俳優・高橋克典(45)が出演するNHK終戦特集ドラマ「15歳の志願兵」(総合、後9・00)が放送される。幼いころから両親の戦争体験を聞かされ育ったという高橋は「戦争で命を落とした方の死を無駄にしないためにも、戦争を知らない世代の僕らが、(平和について)考えないといけない」と訴えた。

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 「父が持ってきてくれた話のような気がしました」。自身2本目となる戦争作品のオファーを受けた高橋が、台本を読んだときの率直な感想だ。

 ドラマは、太平洋戦争末期の1943年、愛知一中(現・旭丘高校)のエリート学生700人が戦争に行くことを志願したという、史実に基づく物語。主人公は、海軍の航空兵不足を解消すべく少年航空兵の大量養成のために創設された飛行予科練習生(甲種)に志願する同校の15歳・藤山正美(池松壮亮)。高橋はその父で、英語教師の藤山順一を演じた。

 4年前に77歳で他界した高橋の父・勝司さんも戦時中、予科練となり、戦争を生き延びた後に教師となった。『予科練』と『教師』‐。亡き父にあまりにも重なるドラマ。台本は、勝司さんの位牌(いはい)の横に供えているという。

 「父は少年のころ、予科練に行ってましたが、あと何人かで自分に出撃が回ってくるとき、戦争が終わりました。宿舎も攻撃を受けて、撃たれた友達を引っ張って避難したという話をよく聞いていたんです」

 高橋家では、終戦記念日や原爆の日という節目だけではなく、海外で起きている戦争のニュースを見るたびに、勝司さんはひとり息子の克典に戦争の悲惨さを伝えた。「オヤジは戦争の話をすると、途中から必ず涙して、言葉にならずで。『戦争だけはイヤだ。今ある物がすべて裏返って、何もなくなる』と言ってました」と振り返る。

 昭和5年生まれで、今年80歳の高橋の母・好子さんは戦時中、満州にいた。成績優秀者だったため、通信兵として戦争にかり出された。「(終戦の)1週間くらい前から最前線の手前に入っていて、そこで戦争が終わったらしくて。母もまた、一度は死にかけたけど、命があった人なんです」。

 父は出撃直前で、母は最前線に配置直前で、終戦を迎えた。両親の生々しい戦争体験は、高橋の脳裏にくっきりと刻まれている。「奇跡的に命を取り留めて成長した2人が出会い、僕が生まれて。僕らは戦争を知らない世代。今も世界では戦争をやってたり、問題もありますが、それでもいい時代(とき)。今ある命と世の中に感謝します」。両親から受け継いだ命の重み。それを再び考えさせてくれたのが、昨年誕生した第1子となる長男だった。

 「40歳代にして子どもを持てて、命の価値を初めて実感したのかもしれません。命の価値って、なくして初めて分かるんじゃ遅いですから。戦時中も今のように命の価値とか言えただろうか…そういう怖さがあります」

 「憲法9条があるからとかでなく、もっと本質的に、僕らが考えていかないといけない」‐。父から高橋へ、高橋から息子へ、次の世代へ。ドラマは伝えていきたい“宝物”となるに違いない。






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