一人、また一人と人が傷つき、死んでいきました。
それは月の軍勢も、かぐやの防衛隊も変わりませんでした。
地上戦に移ってからは当初、月の軍勢が有利に事を運びました。
しかし、次第にかぐやの防衛隊が月の軍勢を押し始めました。
月の軍隊は今いる部隊が全部、それに対してかぐやの防衛隊はわずかながらも余裕がありました。
また、簡易とはいえ砦があったこともいい方向に働きました。
疲れてもまともに休むことの出来ない月の軍勢に対して、何度も前線にいる部隊を入れ替えては休ませることのできるかぐやの防衛隊。
戦いが長引いてくると、それが顕著に表れてきました。
やがて最後の月の兵士が倒れ、戦いは終わりました。
月の兵士はただの一人も相手に屈しようとせず、立派に戦い抜きました。
それは彼らと戦っていた武士達もその姿を褒め称えたくなる、立派な立ち振る舞いでした。
戦の勝利にかぐやの防衛隊が勝どきを上げると、やがて東の空から光が差してきました。
長い、長い夜の終わりです。
すると不思議な光景が目の前に広がりました。
月の兵士たちが光の粉になって消え始め、戦いで死んでいったはずの兵士たちが起き上がったのです。
それだけでなく、戦いで傷ついた体がまるで今までのことが夢だったように癒されていきました。
一向に砦から出てこないかぐや達が気になった兵士たちは砦へと向かいました。
兵士たちは砦の奥、スクナとかぐやいる部屋の前に着きました。
しかしそこには、泣き崩れる老夫婦がいました。
不安に思った兵士たちが扉を開けると、あまりの光景に皆膝をつきました。
部屋の中にいる二人は笑顔を浮かべながら手を取り合い、事切れていたのです。
その部屋には三枚の手紙が残されていました。
まだ書いてからそれほど時間が経っていないのか、急いで書いたためであろう多少乱れたその字は、まだ少し湿っていました。
一枚目には自分を育ててくれた老夫婦への感謝と、謝罪。
二枚目には自らを守るために立ち上がってくれた沢山の兵士たちに対する感謝と、謝罪。
そして三枚目には何故死を選んだかの説明と、自分たちの亡き骸について書かれてました。
三枚目にはこう書かれてました。
自分が地球で生きている限り満月のたびに月の軍勢は私を取り返しに来ると。
それを終わらせるために、私は自身の命と,、戦いで倒れた月の民の魂、そして愛するスクナの魂をも使って一つの術法を使ったと。
それは反魂の法。朝焼けの中、自身と、数多の魂を用いて望む者達を生き返らせる秘奥中の秘奥。
そして自らの亡き骸は月の民にも私の死がわかるよう、最も高き処でスクナとともに葬って欲しいと。
それを読んだ兵士たちは先ほどの奇跡をようやく理解しました。
かぐやの自分達に対する深い慈悲の心に感謝をし、またその意を示すためにすぐさまその「最も高き処」へと向かうことになりました。
それは険しい道のりでした。
しかし誰一人と音をあげず、その行進は止まることはありませんでした。
先頭のものが倒れれば二番目のものが、二番目のものが倒れれば三番目のものが引き継ぎ、前へ前へと進んでいきました。
彼らはついにたどり着きました。
そこはまさしく、その国で「最も高き処」でした。
彼らは簡易的な祭壇を作ると、その前にスクナとかぐやを並べまさした。
そして皆が別れを済ますと、ついに火がともされました。
炎が舞い上がり、煙が高く高くと上っていきます。
すると一人の武士が前へと出ました。
その武士は戦いで活躍した、神器を持った武士でした。
その武士はかぐやから貰い受けた武器を、その炎の中へと入れました。
するとここまで来た武士たちがかぐやから頂いたものを次々と炎の中へと入れていきました。
そうして、最後の一人が出てきました。
その人はかぐやに求婚をしていた者の一人でした。
彼はかぐやに想いを寄せた中では最も身分の高き者であり、それは同時にこの国で最も身分の高い、帝その人でした。
彼はかぐやから一つの薬を貰っていました。
それは不老不死の薬。
かぐやはその薬を、この国を治めるものへと渡していたのです。
しかしその薬は炎の中へと入れられました。
帝にとって、かぐやがいなくなってしまったこの世界では不老不死になっても嬉しくなかったのです。
炎は一晩中消えることなく高く高く燃え続けました。
武士たちはその周りを静に囲っていました。
そして夜が明けるころなって、炎は静かに消えてゆきました。
燃えていたところには何も残っていませんでした。
灰も、神器の残骸も、そして骨すらも。
まるでそこには最初からそこには何もなかったかのように。
やがて、その「最も高き処」はそれまでとは違う名前で呼ばれるようになりました。
「不死の山」と。
そこは後の世で、「富士山」と呼ばれる山でした。
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明日の夕方あたりにその他板へ移動しようと考えてます。