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[20789] 【習作】俺を殺せるやつがいるか!(魏延憑依)
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/04 07:56
 山、山、山。
 目の前に連なるのは日本の物とは似ても似つかないような堅固な山。山だけでなく着物も違う。武器も違う。文字も違う。ついでに言うと歴史も違う。
 平成の世からさかのぼること1800年少々。そう、ここは蜀漢漢中。戦乱の世なのでありました。

 
 農村から狩り出された兵たちが偉そうに馬に乗った人に連れられていく。これはどこの国も一緒だね。戦争のために労働力になるんだ。蜀なんて僻地でのうのうと暮らしていた人たちでさえ数年前に主が変わったせいで戦争の中へまっしぐら。まあ給料とか出るし一旗あげるチャンスではあるんだけど・・・一説によるとこの時代の中国の人口は三分の一から四分の一くらい減ったらしい。怖いねえ、うん。
 蜀の国中から集められた兵たちが東へ東へと向かっていくのを眺めながらぼーっと行列を眺めていられるのは、俺が立派な将軍だからです。なんと牙門将軍。これすごい。係長とか部長とかそんなレベルじゃなくちょっとしたものなのだ。
 どのくらいすごいのかと言うと、魏に向かって備えなければいけない最前線の漢中をあの燕人張飛を差し置いてまかせられるくらいすごいのです。まあ俺の手柄じゃなくて三日前までこの体の持ち主だった人がすごいんだけど。記憶とか全部引き継げてるし身体能力とかも流石は歴戦のつわものってくらいだからイコール俺がすごいということでも構わないと思うんだ。
 でも蜀って負けるんだよね。最初から勝ち目は無かったといいますか、そもそも人口5倍とかの国に喧嘩を売ってるんだからそりゃあ結果は推して知るべきってものだろう。太平洋戦争の時の日本だってそんな国力差じゃ・・・ああ、あっちのほうが酷いのか。まあとにかく、勝てるわけの無い戦を仕掛けているわけですよ。天下三分の計だって。プークスクス。それでいて倒したい魏じゃなくて呉に戦争しかけようって言うんだから処置無しでありますよ。
 蜀が魏に対して互角に戦ってたなんて、あれはほら、三国志演義のお話。物語。主人公が劉備だから蜀があまりにも弱小だと困るしね、呉だって豪族連合なんだし経済力とか都の位置から言っても魏の優勢は揺るがないんだけど、それじゃやっぱ面白くないよね。続く戦乱! 三すくみの国家! 漢朝復興のために立ち上がる帝の末裔! かっこいいね。惚れちゃいそう。
 俺としてはとっとと魏の河北にでも言ってのんびり暮らしたいんだけどこの体の持ち主が偉く劉備さんに義理を感じていたらしくて、いまいちそんな気にもなれない。肉体に精神が引っ張られるってこういうことなのかもしれない。よくあるだろ? 転生したさきが赤ん坊だから精神年齢下がってますとか、女性化で女らしくなったとか。


 あ、今山と山とのあいだから劉の旗見えた。多分今回の総大将の劉備さんだ。今回は参謀の孔明やら法正やら連れて行かないで自分で指揮をとるんだって。おじいちゃんなのに無理するよなー。あれもう法正って死んでたっけ。貴重な知力90以上の武将なのに30代で死んじゃうなんてほんとついてないよね。鳳統もいないし。馬良がついてったみたいだけど、彼にしたって10万を超える大軍の参謀なんて初めてだろう。関羽についてた時だったら関羽がだいたい決めても間違いなんてなかったんだろうけどね。
 劉備さんね・・・いい人なんだけどねぇ・・・。
 なんせ荊州で一武将だった俺をここまで重用して起用してくれたのはあの人がいたからだし、ほらこの体って吃音じゃない? コミュニケーション障害とまではいかなくても、誰だってそんなやつと話すのはだるいだろうにちゃんと使ってくれてすっごく感動してた記憶があるのよ。その点孔明とかは駄目だね。あいつ話もちゃんと出来ないのかって雰囲気たまに出してきやがるの。わかっちゃうんだよねえそういうの。こちとら他人の雰囲気を読んでいかなきゃならない日本社会で20年以上も暮らしてたわけじゃないのです。
 
 あー、旗が見えなくなっていった。この後の展開は三国志をかじったことのある人なら知っているだろうけど、蜀から呉へと攻め入った劉備さんは最初のうちこそ連勝連勝の快進撃で進んでいくんだけど、攻めて攻めて大軍が伸びきっちゃったところを三国一の放火魔コンビの一人である呉の陸遜にキャンプファイヤーにされちゃいます。20万とも30万とも言われる大軍が一気に消滅。その負の遺産で孔明が北伐の時に偉い苦労することになるんだけど。
 まあ知ったこっちゃないわな。
 いや止めたよ。止めたけどね。蜀が弱くなるってことは俺もピンチだし、呉に攻め入ったらあんた負けますよとか言いたかったさ。でも義兄弟の関羽と張飛が殺されちゃってて呉に恨み骨髄に徹してる。何を言っても駄目、あんだけマブダチの孔明が言っても駄目なんだから俺ごときじゃ何を言ってもそりゃ駄目よ。だから呉は火計に強いから火に気をつけましょうとか言っておいたけど聞いてるかどうかわかったもんじゃないし。そういえば火計好きだよね呉って。あんだけ水いっぱいある国なのに火計使いとかどういうことよ、長江氾濫させて殲滅とかやってみろってんだ。

 これからどうしようかなあ・・・死にたくないし適当にがんばります。 



[20789]
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/01 23:16
 やってきました漢中北部。皆が夷陵でがんばってる間に俺も働かないとね。といっても俺の場合は蜀のためというよりは自分の生存のためなんだけど・・・っと。
 うひゃあ、高い高い。高いというか険しい。険しいというか、いや無理だろこれは。
 日本の山道なんぞとは比べ物にならないほどの危険度にも関わらず、現代よりも二枚も三枚も劣る土木技術をもってして水墨画にかかれるような山を歩かなければいけないのだから、これは行軍するだけで命がけというのもわかる話だ。さっさと仕事を済ませてしまおう。
 
 漢中を預かる身として、魏への道を調べるというのはここへくるために何の不自然さを持たない理由だった。漢中、あるいは蜀の地から魏へと向かうための道は何種類かあるが、ここ、というのはその中でも魏への最短距離を行く道であり、魏延という武将にとってはちょっとした因縁のある土地でもある。

 後年、諸葛孔明率いる蜀軍が魏へと侵攻する時にあたり、孔明は漢中から北西へ向かい魏領へと侵入し、そこから東進して長安を目指すという単純な距離で言えば遠回りな道をとっていた。それは全軍の食料を安全に輸送するためであり、あるいは一歩一歩確実に歩を進めるために敗北しても撤退がしやすいというような利点が存在していた。
 その意見に真っ向から異議を唱えたのが魏延である。魏延は、自分が漢中の地理に明るいという自負から、もっとも険しい最短距離を別働隊を編成して走破し、潼関で落ち合うという作戦をなんども提案してはそのたびに危険すぎるとして却下されたという。
 自分が立案する作戦がことごとく採用されないことについて魏延は次第に孔明に対する不満を唱えるようになり、孔明やその他の武将に警戒され、結局は孔明の死後に蜀軍の主力と対立して死を迎える。
 
 まあ俺がそうなるかはおいておいて、三国志ファンなら一度は想像したことがあるだろう“もし孔明が魏延の言う作戦をとっていたら”ということについて検証するために来たわけだ。演技なんかだと司馬懿は私ならば最短距離を行く、などとして魏延の作戦を肯定するようなことを言っていたような気がするけれど、はてさて。

 山の裾を縫うようにかけられた桟道、場所によっては山をえぐり、そのくぼみを通っていかなければならないようなところもある。現代でもこの道を通っていて誤まって命を落とすという人も珍しくはないようだが、これはどうしたものだろう。
 
 身一つならば、渡りきれるような気がする。しかし一万の軍ともなれば話は別だ。大量の装備と糧食、あるいは兵器。そういったものが常に兵士達の負担になる。

「ど、どう思う?」
「ここを進軍ですか? 私は遠慮したいですねえ」

 道の調査についてきた副官に尋ねる。いずれ副官も有名な人が欲しいな、後で馬岱とかがなるみたいだけど。いやいや何を考えているんだ俺は。魏延の首をとるのは最後傍に控えていた馬岱じゃないか、むしろ遠ざかって遠ざかって一度も顔をあわせないでもいいくらいなのに。


「一万の軍で、そ、走破したあとの戦闘は可能だろうか」
「一万で、蜀の桟道を・・・ですか。調査はしますが、あまり期待しないほうがいいかもしれませんね」
 
 一応、この最短距離を通って進軍した前例が無い訳ではない。韓信がそうである。
 ただ走破した後に韓信は勝利したからいいものの、桟道の向こう側で負けてしまった場合は退路は無いも同然である。そういったギャンブル性の高さも孔明がこの道を嫌った原因だったのだろう。

 
「劉備様が呉を下せば、次はここを通って我々が魏を攻める可能性もおおいにありますからね。大将首をとって武功をあげてやりましょう」

 いきまく副官に、劉備の東進の結果を知っている俺は苦笑いで返す。と、そこでふと思い立った。
 そういえば魏延って劉備の東進、いわゆる夷陵の戦いに参軍していたんだろうか。うー、さすがにどの戦場にどの武将が参加していたかまでは覚えてないなあ。
 ・・・まあ戦争に行かなくていいならそれにこしたことはないか。東進に反対した趙雲も江州にいるらしいし俺があんまりにも反対したから今回は留守番でってことだろう、多分。


 あれ。もしかして歴史、変わった?



[20789]
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/02 03:21
 どうも魏延です。今蜀の都、成都に来てます。漢中が最前線と言ったって戦時中じゃないし、まあ前線指揮官がずっと任地に張り付きっぱなしでもあらぬ疑いをかけられることがあるんじゃないかっていう被害妄想にかられまして、都にご機嫌伺いに来ました。
 でもあれね。劉備様今呉に侵攻中だからゴマすりにきたって言っても主君は都にいない訳だわ。じゃあ何で都に来たのかって? それにはきっと海よりも深く、山よりも高い理由があるのです。こう、一般人には決して漏らすことの出来ない軍事機密的な。
 本当だよ? うっかりど忘れしていたなんてことじゃあ決してないのです。
 
 さて、本来の目的がいないんじゃあしょうがない。劉禅様にでも挨拶にいくとしますか。なんたって将来の主君ですから。あの孔明よりも偉いんですから。後で命助けてくれるかもしれないし! いや謀反する気なんてさらさらないんですけど。でもまあ頭下げといて悪いことはないだろう。実際の所この魏延の体、劉備の一族に対してすげー恩を感じてるみたいで劉備様とか劉禅様に頭下げるのに微塵も抵抗ない。それどころか喜びすら感じる。なんだろうね、一応階級社会なんかと無縁の暮らしをしてきたんだけど。俺実は隠れMだったんじゃないかって疑っちゃったのは内緒だ。

 ところで成都ってのは一国の首都だけあって栄えとります。しかもここ最近だと劉備様の戦勝報告ばっかりが届くものだから街中がなんか浮き足立ってるというかなんと言うか。大都市にしかない、あるいは都にしかない躍動感ってありますよね。去年東京に旅行したときもこんな感じでした。人がいっぱいいて、なおかつ皆生きてるって雰囲気の。わかりますかね。
 確かしばらくの間は蜀の快進撃が続くから、このお祭りじゃないのにお祭りみたいな街の情感もある程度楽しむことが出来るでしょう。
 その後に荊州で亀のように縮こまっていた陸遜が反撃に出て、その後、その・・・。
 まあいいか。
 そうそう、成都がすごいって話でしたね。
 俺のいる漢中も栄えてるっちゃ栄えてるんだけど、なんかこう鉄くさい。悪いことじゃないんだろうけどね、なんたって蜀の絶対防衛線兼最前線都市な訳だし。絶対防衛線と最前線の都市が同じって、どうかしてる。まあしょうがない、なんたって我らが蜀漢は弱小国家であるのです。
 その点成都はこう、花の香り。
 言っていて自分で照れた、訂正しよう。
 優雅な比喩表現、優雅な・・・華の香り。
 くっ。ろくな語彙がないなこの男は。

「おや、良い所に」

「げえ!」

 孔明!
 劉禅様に会うために向かっていた廊下でばったりあってしまったのは身の丈8尺ほどもある髭の男。この時代にしてはなかなかの偉丈夫だ。羽毛でこしらえた扇を片手にゆったりとした着物を身にまとった男の名は諸葛亮孔明。または臥龍、あるいは忠武侯。まあ平たく言うなら完璧超人。
 で、その男が挨拶も抜きにしてなにやらまくし立てている。 

「魏延、すぐに率いられる兵の数はどれほどですか」
「へ、兵ですか。ええ援軍にでもいくので」
「いや、護衛だ。集められるんだな、すぐに出発する」

 なんだろうこの完璧超人。いつもに比べて随分と冷静さに欠けているような気がする。
 げえ!発言が見逃されたのなら結果オーライだけど、しかし兵とな? この時期に孔明が動くような反乱でも---護衛?

「劉禅様を連れて永安までだ、道中の安全確保は将軍に一任する」

 孔明はその言葉が終わらないうちにさっさと歩きだしてしまっている。いつもの余裕はいっさいなく、必要なことだけ済まそうとしているようだ。なんだか格好が悪い。俺の中のイメージといったらいつも超然としていて、あるいはにこやかな微笑みを絶やさないようなそんな男だったのだが。

 しかしそんなことに構っているほどの余裕が俺にも無かった。この魏延文長の体が、俺の頭に浮かんだ光景を察してか否応もなく反応する。思い浮かべた瞬間から心臓がずっと早鐘を鳴らしている。
 永安、劉禅、孔明、それと夷陵。このキーワードで思い浮かべることなんて一つだけ。


 おかしい。早すぎる。



[20789]
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/02 18:27
 涙で前が見えません。どうも魏延です。
 漢泣きってやつですよこれ、大の大人が人前で泣くなんてちょっと恥ずかしいけれど、皆泣いてるから何の問題も無かったぜ。護衛で来てそのまま同席させてもらえてるんだけどあれだね、一代の傑物の死ってやつはここまで他人を感涙させることが出来るのね。ちょっと羨ましい。志半ばで死を遂げた英雄って多いけど畳の上で見取られて死んでいく英雄って結構珍しいんじゃないだろうか。それも周りを囲んでるやつが全員悲しんでるし。権力争い的には君主の死を歓迎するやつとかいてもおかしくなさそうだけど、まあ劉禅様はまだ幼いし、孔明いるしね。
 劉備の死で蜀が即滅びるって考えてるやつはいなさそうだ。


「・・・もし劉禅(人の呼び方について改名、成人などによって名前が変わることはあるが、この物語では全て統一で通す)に才があるならばよくそれを助けてやって欲しい。しかしその才がないようならば、君が君主となって蜀漢を守ってくれ」

 おおおおお名台詞キター!
 劉備が死の間際に孔明にむかって言ったという言葉、まさか生で聞ける日が来るとは・・・!というかこれ創作じゃなかったんだね、三顧の礼なんかも孔明が自分に箔をつけるための作り話だったなんて言う説があるけど。
 しかしこれを言われて奮い立たないやつは男じゃないね、言われてみたい。かっこいいなこの君臣はいやいや。 



 あー、いいものを見た。君主の死の感想としては非常に間違っている気がするが、とりあえずいいものを見た。そんな風に考えておかないと魏延の体に引っ張られて超ダウナーになっちゃいそうだから無理やりおちゃらけてみるぜ。だってほら、過去のその場に立ちあうなんて、歴史好き垂涎の体験じゃありませんか。
 しかしこれで蜀が荊州方面に進出する機会は終わったね、このあとは呉と同盟してひたすら北へ北へ。いや途中であれか、南蛮があるのか。でもあの戦いは蜀軍が窮地に陥るってことはあんまりなかったようだし大丈夫かね。そういやこの世界に関索っているのかしらん。

「魏延将軍」

 声をかけられて振り返ると小柄な男。
 ええと、り、り、そうだ李厳。元気そうだね。

「勿論です、悲しんでばかりもいられませんし、なにより勢いに乗った呉の陸遜ずれがここまで押し寄せてくるかもしれませんからな! いやいや安心してくだされ、この李厳がきっちり撃退してくれましょう」

 テンション高え。お前荊州にいたころ劉表が死んだとたんこの蜀に逃げ込んだじゃん。なんで今回はそんなに張り切ってんの。

「はっはっは! いつでもこい呉の軟弱者どもめ!」

 テンション高え。そうか李厳って確かこの後永安の太守になって呉の侵攻に備えるんだっけ。大仕事を任されて張り切ってるわけかー。

「その心配は無いでしょう、李厳将軍、魏延将軍」

 そういうお前は白眉毛。いきなり脇から出てくるのやめて。ちょっとびっくししたじゃん。

「何? どういうことです馬良殿」

 李厳がなんかちょっとすねてる。かわ・・・いやいや。

「確かに呉は我々を完膚なきまでに撃破してみせ、勢いにのってここ永安に押し寄せてくるかもしれません」

 あれ、そんなに一方的だったっけ夷陵の戦いって。最後は大敗だけど一応最初のうちは勝ってた時期があったのに。ってそうか、なんかえらく早く決着付いたんだったね。うーん魏延が参戦しなかった影響とかあるのかなー。

「そうとも馬良殿。だからこそこの李厳めが」
「しかしその心配はありません。万一の時のためにこの郊外には罠をしかけてありますし、そろそろ魏が動き出すころでしょう」

 あったねーそんなの。ギョなんとかってとこで陸遜が罠に迷い込んで進軍が止まるやつ。孔明のおじさんだかが助けるんだった。しかしそれ本当にあったのかよ、それこそ創作だと思ってた、もう何がなにやら。
 てか魏って動くのかい。呉が勢いにのって蜀に攻め込もうかって時に魏が呉に攻め入ってその進軍が中止になったってことだけど、史実と違って随分と早く蜀が負けちゃったし、魏が準備出来てないってこともあるんじゃないだろうか

「こんなこともあろうかと、蜀が敗れた時点で今回の呉の布陣、武将、糧食、我々が知りえた全ての情報を捕まえた魏の密偵の頭に植えつけて解放しましたから」

 なにそれこわい。



[20789]
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/06 02:11
 お茶でも飲んで仲良くなろうぜ。そんで味方いっぱい作っておこうぜ。ぜっぜっぜ。どうも魏延です。
 劉備様が死んで喪に服してますが、いつまでも永安にはいられないので成都に帰ってきました。この後すぐに劉禅様が蜀の皇帝となるみたいです。ところでもう劉禅様って17歳なのね。なんだかまだまだ小さいと思ってた。これも魏延が思ってたことに引っ張られてるのかなー。

 それはさておき、君主が代わるってことで文官達はてんやわんやな訳なので、宮中の一室を借りて彼らの息抜きを兼ねたお茶会を開いてみました。劉備様が死んだすぐあとで酒を飲んでいいかわからなかったんだけど、まあお茶ならいいかなと。お茶会って言ってもあれだけどね、手が空いてるなら茶でもいっぱいみたいな簡単なやつだけど。
 ところで蜀の文官には派閥があります。劉備様が入蜀する以前から劉備様に従っていた者たちと、劉璋にしたがっていたが劉備様に敗れ、劉璋の降伏とともに劉備に従った者たち。所謂荊州閥と益州閥です。劉備様が劉璋に勝ったことから、これは当然ながら荊州閥のほうが重要な役目についています。益州閥だと黄権あたりがかなり優遇されてたみたいだけど、夷陵の戦いの時に戦場で進退窮まって魏へと亡命してしまいましたから、益州閥はそれほど力を持ってません。
 どっちの派閥を招待したかって? そりゃああなた、荊州閥ですよ。力を持ってるほうになびくのは当然、長いものには巻かれろってね、荊州閥には孔明がいるっていうけど、あるいはここで仲良くなっちゃえばほら、ね。
 他にも蒋琬や費偉、馬兄弟とか知ってる名前がちらほら。いやっはっはっは、愉快愉快。将来中枢をになう彼らと仲良くなることで俺の未来も開けるってもんよ!

「はっはっは! 忙しい中で飲む茶というのもまた格別ですな魏延将軍」
「そそ、そうだな。これで蜀もまますます一丸となるというもの」
「まさしく! その通り!」

 お茶会の中でひときわ仲良くなった小太りの男と茶を酌み交わす。ううむ、酒じゃないのが残念だが周りには静かに茶を味わっている人達もいるのでなかなか騒ぎづらい。お茶飲むの似合う人多いねしかし。流石は文化人の多い荊州閥。
 そのなかでこの男だけはなかなか意気投合できたというかなんというか。ところであなた見ない顔だけど、これまではどこにおったの。

「私は関羽将軍に誘われてここに劉備様に仕えているんですが、同僚と喧嘩しましてなぁ・・・それ以来罷免されていたんので漢中の魏延将軍とはなかなか同席する機会は無かったのです」

 ほうほうそりゃ災難だったね。しかし罷免されてたのがどうしてまたここに。

「そこです。いや劉備様がお亡くなりになられたのも一つの機会であろうということで孔明様に拾っていただきまして、いやあ感謝の念に耐えません」

 ほほほほほう、これはいい、この男と仲良くなって孔明とも仲良くなって! いやあんまり仲良くは出来ないかもだが。なんか魏延の体が孔明を嫌ってるっぽいし。まあでもパイプを作っておくことにこしたことはないしね。

「勿論魏延将軍にも感謝しておりますぞ、職場復帰してすぐにこのような親睦の会とは私にとってはまさに渡りに船でしたからなぁ」

 なるほどなるほど、したら皆に声をかけてきたらどうなの。いっぱい文官と知り合っておけば損はないでしょ。

「おっしゃるとおりで。では少し失礼しますぞ」

 丁寧に謝辞を述べて小太りの男は席を立つ。いやあよかったよかった。まったく有意義なお茶会となったよ。
 あ、そうそう、あなた名前はなんていうんだっけ。

「これは申し送れました、私楊儀と申します。以後よしなに」




 ・・・・ぶふー。


「ヨ、ヨーダ」
「楊儀、ようぎ、であります将軍」
「ううううん、じゃあヨヨヨーダ君よろしくね」


 なんで! なんでよどうしてよ! 楊儀っていったらあれじゃん、魏延と滅茶苦茶仲悪くて孔明が死んだ後対立して魏延討ち取って出世するやつ! んでもって孔明の遺言かなんかで楊儀は狭量だとか書かれてたせいで蒋琬とかのほうが出世しちゃってそれを恨んでっていう・・・・。
 あれー、魏延と仲よくね。なんかめっちゃ爽やかだったよね今。


 あれー?



[20789]
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/02 23:04
 ベトナム料理ってうまくね? こちらレポーターの魏延です。
 私は今中国は蜀漢、益州南部の料理を堪能しております。正確にはベトナムってわけじゃないんですけど、ここまで南に来ると食文化の流入、流出もあるみたいでいつもとは違った料理に舌鼓を打っているというわけです。いつも食べてるのってのはあれね、四川料理。もう字面だけでどんな料理か伝わったでしょ。俺は辛いの嫌いじゃないけど続くとちょっとねー。
 何でこんなところまで来たかって言うと、反乱の鎮圧のためなんです。今回は孔明が直々に指揮をとってるからいやあ楽で楽で。あいつ北伐成功させて長安とかいけねーかな。都に近いとこで飯食ってみたい。そろそろ南部四郡全部平定できるんで我ら魏延軍はゆったりとランチタイムでありますよ。
 なんか副官とかは早く漢中に戻って恋人の顔が見たいって言ってるんだけど残念、ここから蜀軍は泥沼の南部戦線こと異民族討伐戦に突入の予定です。まあ恋人ができたってところで何ヶ月も離れ離れになるんだからつらいのはわかるんだけどね。だからって死亡フラグは勘弁な、この戦争が終わったら結婚するなんて言い出したら俺が責任を持って張り倒す。

 南蛮平定戦ですけど、七縱七禽が有名なエピソードですね。南蛮の王孟獲を捕まえては放ち捕まえては放ち、七度目に放つところで孟獲が心から降参するというお話。話によってはそれが三度だけだったりもしますが、よく出来た、それでいてお約束にも適ったいいお話です。事実はさておき、中国、この場合は蜀ですが中国の国家が寛大さをしめし、反していた異民族が平伏することで物語が完結する。こういった物語は中国ではそれほど目新しいというものではありません。
 だからちょっと期待したんです。実際は孟獲はただの地方反乱の長で、あっさりやっつけて漢中に帰れるかなーって。でもね、いるわ孟獲。ちょっと気になって物見をもっと南まで伸ばしてたんだけどしっかりいやがるの。この体も魏延の能力だからちょっとやそっとのことじゃあ死ぬってことはないと思うんだけどあれじゃん、孟獲がいるってことは毒沼だったり間欠泉だったりあるんじゃないの。嫌だって俺、そんなとこ行ったら泣いちゃうもん。あー、孔明が孟獲に気が付かずに引き上げとかにならんかね。

「魏延将軍、孔明様より伝令です。我が軍はこれより南へと進軍するので先鋒を務めるようにと」

 ですよねー。


 そういえば楊儀ですけど、考えるのをやめました。だって知らないし、俺もあいつも何にも悪いことしてないしね今の所。明日出来ることを今日やるなっていい言葉だよねうん。案外例のお茶会でフラグがたって楊儀魏延のマブダチエンドみたいになったりするかも。
 漢中の要害があるんだから国内がまとまってたらそうそう攻められて落とされるみたいなことってないんじゃないかな、そりゃ技術とか金銭的な意味ではジリ貧になってくだろうけど俺が死ぬくらいまで平和ならそれでいいしね。劉禅様にも安全ですよって言えば北伐を積極的にしようって思わないんじゃないだろうか。

 ・・・おお。結構いいかも。でも孔明は北伐するだろうなー、魏延の体も劉備の遺志である漢朝再興のこと考えるとなんかテンションあがってるみたいだし。とりあえず根回しだけでもしてみようか、戦争はんたーい! なんて、まったく魏延のキャラじゃないね、あっはっは。

 あ、そうそう、遂に副将がつきました。張休君です。って言っても俺は名前を聞いても誰かわからなかったんだけどね。彼は雲南の人らしくて、道案内の助けになるだろうって孔明がつけてくれたらしいです。いいとこあるじゃん。それで思い出したんだけど、この人たしか呂凱のあとに雲南の太守になる人じゃなかったっけ、てことは功績たてるための足掛け人事かもわからんね、孔明はこれで負けるなんて思ってないだろうし、実際勝つし。
 どっちにしたって道案内には地元の人間が必須だから大歓迎です、後に太守になるくらいだから優秀だろうし、さんざんこき使ってぼろ雑巾のようにしてやるぜー。



 こんにちは、リポーターの魏延です。私は今、未開の大地こと南蛮に来ているんですが、ついてそうそうに地元の住民と接する機会がありました。
 ごらんください、多種多様な鎧を身にまとった住人達。どうやらこちらに敵意を持っているようです。
 緊張しますね・・・言葉は通じるんでしょうか。あ、今長らしき人物が前に出てきました。

 ・・・えっ、なにあれ。2メートル半くらいねえ? 孟獲ってタイ人とかベトナム人じゃなかったっけ。なんであんなでかいのよ。なんか叫んでるし。うわこっち来た。
 あれと戦うの? 俺が? 
 ・・・だから嫌だって言ったのに。



[20789]
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/05 18:52
「なんと、そのように恐ろしい場所があるのか南蛮には」
「ええ、他にも血を吸う芋虫のような生物や触っただけで腐る水など私の理解が及ばないことばかりでした」
「ううむ、孔明がそれほどまで恐れるとは。いや無事で帰ってこれて嬉しく思うぞ」
「ありがとうございます」

 南蛮の地でのたれ死ぬ可能性もあるんじゃねえかと思ってたけど、別にそんなことはなかったぜ。どうも魏延です。まああれだ、タネが知れてる手品ほどつまらないものは無いというか。知ってる人からすれば安全に通行できる所ばっかりでした。そりゃそうだよね、あそこにも住んでる人はいるわけだし。

「彼の地ではこの魏延将軍の知識が非常に役立ちました」
「そうなのか魏延、お主が南蛮の地に詳しいとは少々以外だったぞ」
「けけけ荊州の南にはな、南蛮からの書物もありますれば」

 そのせいでなんか孔明の目に止まったっぽいぜ! なんか劉禅様との会談の席に招かれちゃってなにこれ躍進フラグ? 蜀の誇る五虎大将軍も壊滅状態だしここらであたらしい将軍を抜擢しようってことなのかね、そういえば南蛮ではニューフェイスがいっぱいいたみたいだけど。あ、そうそう馬謖みたよ馬謖。心を攻めるのですようっふっふ、よくぞ言ったあっはっはみたいなやり取りしてた。結構イケメンだったから敵認定したよ。

「そうか魏延将軍は荊南に赴任しておいでしたな。私が隆中にいたころは専ら都や襄陽で手に入る書物にばかり目を通していたが、これを機にもっと手を伸ばしてみるか」

 ちなみに本で読んだってのはでまかせです。そんなのあったら史実でも魏延の手柄はもっとでかくなってるはずだよ。教えてよかったのかは迷ったけど、しょうがないね、死にたくないし。
 そうそう、魏延隊の手柄がかなりでかかったおかげで張休君が無事出世して雲南の太守に任命されました。そのおかげで呂凱は中央に栄転したみたい。よかったね、呂凱ってたしか異民族に殺されるはずだし他人のフラグは以外に簡単に折れるみたいだ。俺の死亡フラグも知らないうちに折れてたらいいな。
 そんで俺もちょっと出世したんだけど、それと同時にあたらしい副将軍をもらいました。句扶君です。知ってるかなー。どうかなー。といいつつ俺もそんなに印象にないんだけどね。たしか王平とかといっしょに北伐でがんばった人。つまりこの人事を訳すると「北伐でもがんばってね!」ってことになるんじゃないかな! はは、どんまい俺。
 そうだそうだ、ちょっと試しに漢中防衛論的なものを囁いてみようか。せっかくの機会だしね、この後漢中に帰っちゃうと劉禅様としゃべる機会なんてそうはないし。

「りゅ劉禅様から新しい役職を賜ったからには、わ私がこれからも漢中をまま守ってみせましょう、蜀漢の領土には魏を一歩もいれさせませぬぞ」
「ふむ頼もしい。頼むぞ魏延よ」

 お、なんか好感触じゃね? いけるかもこれ!

「劉禅様、確かに漢中を守ることも大事ですが、魏延将軍をそれだけに使うのは勿体のうございます」

 誰だ! 邪魔しやがって。てか白眉毛いたのかよ、さっきまでなんもしゃべってなかったじゃないか。まあ劉禅様と孔明の会話に割り込むのもあれだし黙ってたのかね、でも俺の時はしゃべるとか。勿体ないとか無いから、俺こそは漢中を守るためだけに生まれてきた男、ミスターカンチュウと呼んでくれたまえ!

「魏延将軍ほどの武勇は漢中だけにとどまらず、北は関中にまで鳴り響くべきかと存じます」

 カンチュウ違いきたー。やめてやめて、そんなうまいこと言ったみたいな顔しないで、うおお、突っ込みたい。そうだ孔明、君はやく弟子のドヤ顔やめさせてよ、あああだめだ団扇的な羽毛のあれ揺らして微笑んでる、止める気配が微塵も感じられない。なんか劉禅様もほうとか言ってるしうわああああ。




 あ、ありのままにさっき起こったことを話すぜ。
 俺は漢中に篭って亀作戦しようぜって遠まわしに言っていたはずなのに、なぜか漢中で北の情勢を探っといてみたいな命令を受けてしまった。八門金鎖とか連環とかそんなチャチなもんじゃねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・。

・・・どうしてこうなった。



[20789]
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/04 02:10
 ゆーずーれーないー、ねーがーいがひとつー♪ どうも魏延です。
 南蛮平定以降の蜀は平和です。まあ孔明が出師の表っていうかち込み宣言書を出すまでのつかの間の平和なんですけどね、とりあえず漢中は平和です。漢中ってあれなの、魏からこの土地を奪ったときに住人が北に移住しちゃってるせいで人口がそれほど多くない。人口イコール兵力みたいなところがあるからどこの国も人口を増やそうって政策はやってるんだけどね。漢中では特に何もやってません。やってないというか、文官さんに丸投げしてます。政治政策とか知らないよ、魏延もそんなに詳しくなかったしこういうのは専門家にお任せが一番だよ。
 素人が口出しするくらいならいっそ孫権みたいに他国に人攫いにでもいったほうがてっとりばやいんじゃないの。しないけどね。
 まあそれはいいのよ、俺漢中好きだし、平和になってここで暮らしてるのも中々居心地いいしね。都の料理とかもなんとか食べられる、ほら、距離的に近いからさ。それはいいんだけど。
 眉毛君なんでここにいんの?

「はい?」

 振り返る白眉毛。なんだか突然漢中を尋ねてきて北進の下見とか言ってやんの。孔明直属みたいなことやってるらしい。まあお気に入りだもんね馬兄弟。最初馬良が関羽の元で重用されてこないだの南蛮で馬謖を見出して・・・あれ、そういえばさ。

「なんで生きてんの?」
「はぁ・・・それはつまり、喧嘩を売ってらっしゃると」

 いやいやいやそうじゃなくてさ、馬良ってたしか夷陵の時にそうとうピンチだったって聞いたもんだから。ていうか戦死したって聞いてたもんだからさ! いやあでも生きてるよねピンピンしてるね! 誤報かぁ、いやあよかったよかった。

「なるほど、確かに私は当時敵に囲まれ死に瀕していました。しかし野に伏せ山に潜み、命からがら永安まで辿り着いたのです。とはいえ、魏延将軍のおっしゃるとおり、劉備様を見捨てて一人命を永らえさせた罪は償わなければならないかもしれません」

 だから違うって、そんなんじゃないって。頭のいいやつは理論が発展しすぎなんだよたまには言葉通りとらえてみんさいな。ね、死んでると思ってたけど生きてて良かった。はい、表も裏もありませんよー。

「はっは、馬良殿もそう魏延将軍をいじめなくてもいいでしょう。将軍は言葉に裏の意味を持たせることなどなさいませんぞ」

 おお楊儀、君も孔明直属なのか。しかしナイスフォローだ、俺は素直でいい子だからね、文官達みたいに嫌味の応酬なんてしたことありませんから。ところで馬鹿って言われたわけじゃないよね今の。

 そんなこと話ながら北進への道を探る我々一行であります。しゃべってて思ったんだけどやっぱ楊儀いいやつっぽい。魏延の体も嫌がってないみたいだしなんだかおかしいな、孔明と話してる時は魏延の体嫌がるんだけど。なんでだろうね。


 巡り巡って北進調査隊も最後のルートです。例の最短ルートね。馬良はその断崖絶壁を見てふむとか言ってるんだけど、副官に任せた調査結果が届きました。行けそうだけど行きたくない、だそうです。はは、給料さっぴいてやろうかしら。
 そういえば馬良も楊儀も荊州の人だったからかなんだか珍しげに崖によったり下を覗き込んだりしてます。うむうむ、童心に帰るのも時にはいいことよな。なんて余裕かましてますけど俺も初めて見たときは同じようなことしたので決して彼らを笑えません。笑うけど。
 はっはっは、蜀の誇る文官の二人ともあろうものが跪いて名所見物ですかー、危ないですよー、はっはっは。
 なんか睨まれました。怖いです。


 

 時に、最近お客さんが多いです。今回の馬良と楊儀みたいなのは仕事できてるからちょっと別だけど、呉壱とか張翼、あと呂凱や杜瓊なんかもね、お酒とか持ってきてくれたよ。これってあれかな。俺が出世したもんだから仲良くなっておこうみたいなあれかな。うむうむ苦しゅうない、苦しゅうないぞよ。次の戦地になりそうな所の下見にきただけだったとかいうオチが付きそうだけど、とりあえずお酒おいしい。

 そんな訳で俺は漢中で元気にやってます。え、なによ楊儀。
 孔明がなんか発表するから成都まで一緒にどうかって。あ、そうなの。短かったね平和。もう二、三年だらだらしたかったんだけど。いやいや乗るって。置いてくのは無しじゃないの友達なくすよそれ。

 それじゃ死なないように頑張ります。



[20789]
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/04 07:48
 注意 この話は三国志、三国志演技、その他諸々の創作を参考にしたフィクションであり、特定の一説を参考にしたために他の一説をないがしろにするということが起こりえます。この作品内において登場した全ての説、設定は全て現実のものというわけではなく、作者が考え出した創作が多分に含まれることをご了承ください。
 そのうちに前書きにも記載しますが、今回特に問題となるような部分があるために特別にお断りさせていただきます。どうぞ気を楽にしてお楽しみいただけたら幸いと思います。



 出師の表。
 名文として名高い諸葛亮孔明の北伐宣言文である。劉備の恩を受け、劉備の遺志を継ぐという内容であるが、諸葛亮孔明はこれを読み上げつつも、ある一人の男について思いを馳せた。

 魏延という男について。
 私はかつて魏延には反骨の相があるので召抱えぬほうがよい、と劉備様に進言したことがある。そしてその言は正しかったように思う。荊州で魏延を将軍として遇し、劉備様のつけた役職は今は亡き劉封の副将であったが、魏延は劉封の権威を権威を笠に着ているようなところがあった。
 劉封というのは劉備様の養子で、劉備様がその才に惚れ込んで養子として迎えたと言うだけあって、なかなかの人物として通っていた。当時の劉備軍といえば関羽、張飛などが武官として有名であり、またその実力も抜きん出ていたことから他の武将、特に中堅以下の武将はなかなか働き場所に困ることもあったのだが、それでも将来は一廉の将軍になるのではないかと期待されるに十分であった。
 その劉封である。前述した通り彼は劉備様の養子であるから、あるいは劉備の後継者となる可能性と、資格があった。劉備様には嫡男に劉禅というお子がいたがまだ幼かったため、気の多い輩の想像力を刺激することは難しくなかったはずである。劉備様が劉封を養子にもらったときに関羽にお家騒動の元となるのでよろしくない、と苦言を呈されたと聞くが、その想像はまさに現実のものとなりかけたのだ。
 劉封の副将となった魏延は、蜀へと侵攻するときにもこれをよく補佐し、武勲を重ねた。なるほど、立派な将軍であった。魏延の将としての才は、疑うべきものは無かった。劉封もまたよく副将を頼り、時には自らの決断をもってして采配をふるった。この姿を劉備様は目を細めてみていたように思う、あるいは、自分の眼力を誇っていたのかも知れぬ。

 話が、それた。

 魏延の反骨の相については、入蜀してからもそれが完全に隠れるということは無かった。益州の知恵者に法正という男がいたが、一時期魏延は彼とよく密会を重ねていたようである。魏延と法正が、劉封を担いでなにやらたくらんでいるらしい、というのは侍女たちの噂のような下世話な話であったが、私はこれを否定する材料をついぞ持ち得なかった。
 結局この話は劉封と法正の二名の死によって立ち消えとなるのだが、そもそも劉封の死はこの派閥争いともいえる権力闘争と無関係ではない。
 劉封は刑死である。荊州にあって孤軍奮闘する関羽に援軍を送らなかった罪、というのがその理由だが、劉備様がこの判断を迷っていたとき、私をはじめその場に居合わせた文官の誰もがこれを止めようとしなかったのだ。援軍を送らなかった武将が死を賜る、ということに関して言えば、あの時の我々の態度は些か軽率だったのかもしれない。しかし、劉封が死ぬことによって得られるメリットが私達の頭を一瞬でもよぎらなかったかといえば、これは当然否であった。
 劉封が劉備軍の単なる一武将にすぎなければ、それでなくとも、劉禅という子がいなければ、もしくは過去の宮中に流れる小さな噂さえなければ、私はこの出師の表に劉封という名をいれる未来があったのではないかと思う。

 魏延である。彼の武勇は頼もしい。五虎大将軍が本来の形を崩した後、武官として筆頭にくるのが魏延であることは、誰しもが認めるところであろう。私は彼の反骨を怪しんでいたが、ある時期を境にそれは鳴りを潜めていた。劉封の死によってかとも思ったが、どうも時期がずれる。どうやら、漢中へと赴任してからのようである。近年の彼の行動は人が変わったと評しても疑われないほど協調を求め、私の知らぬ一面をみせる。茶会の主である彼がそうであるし、南蛮知識の深さを持った読書家としての彼がそうである。彼が対立していたであろう劉禅様と直に会わせてみても、なんら気負うことなくかしずいて見せた。
 私は判断に迷っている。はっきり言うのであれば、魏延という人物を持て余してすらいる。
 この北伐を通してもっとも心強い味方になるのではないかという期待もあれば、後ろから刺されるのではという不安もある。


 ・・・出師の表が終わる。

 一つだけ誓おう。
 誰がどう動こうとも、私はこの北伐を成し遂げてみせる。それが私の使命である。



[20789] 10
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/05 19:26
 ふぃー、顔固まっちゃうかと思ったよ。どうもー、なんとか舟をこがずにすんだ魏延です。
 あーつまんなかった。俺がそもそも出師の表の内容知ってるっていうのもあるんだけど、つまりあれって孔明の過去バナっしょ。私が隆中の田を耕してたとこに劉備様がきて恩をもらったので返しましょう、そのために南蛮くんだりまで行ってきたんだしね、そうそう、俺がいない間相談するなら誰誰がいいよ。こんな感じ。
 劉禅様が頼りないからちょいとパフォーマンス打って気を引き締めてもらいましょうってことなんじゃないかな実際。あんまり興味ない。いや無くはないんだけどさ、ほら実際俺の心臓の賞味期限が迫ってきてるからどうしたってそっちのほうが重要だよね。あと北伐五回分。何年かかったっけね。
 そんで俺の採るべき選択肢はふたつです。攻めるか、守るか。
 もうガンガン攻めちゃって長安とか落として、どんどん進軍しちゃう。やれればカッコいいんだけど中々難しいんだろうね、前も言った気がするけど、国力差はんぱないから。
 んでもう一個がなんとか漢中を死守しながら皆と仲良くして、寿命を目指そうぜ的なあれです。これ結構いいと思うのよ。楊儀とかと仲いいし、なんか史実よりちょっと出世してるし。

 でもまあ俺も三国志演技で育った世代だから、ちょっと見てみたいんだよね。主人公国家蜀が魏をばったばったと打ち倒していく所。第一回は馬謖がぽかしなければ勝てたかもみたいに書いてあったし、一番惜しい所までいったのが最初だったらしいからちょっと本気だして、駄目だったら守りに変更って感じでいきましょう。よーし魏延がんばっちゃうぞー。
 




「最短距離いかね?」

 おおう、みなさんの冷たい目線がビシバシと。いやほら、俺は普通に孔明がやったら失敗するのしってるから別の方法のほうがいいんじゃねって言っただけで、それが成功するとかの確信はないんだけどさ、でも漢中の北部探っておけって命令でてた以上言わないと職務怠慢になっちゃうかなーとか思ったり思わなかったり。
 みんな大好き最短ルート。ハイリスクハイリターンのギャンブル戦術なのでありました。
 あと誤解のないように言っておくと、こんなこと提案しておいてあれだけど最短ルートとか行きたくないです。だって失敗したら逃げられないでしょこれ。馬謖のフォローにまわって立ち回るか、そもそも馬謖を行かせないようにするほうがきっと楽。迂回ルートやってれば第五次まで生きていられるのが確定なのにまさかまさか。合言葉は一つだけ。はい、死にたくなーい。死にたくなーい。

「魏延将軍は漢中を守護して以来この地の地理には明るいと思うが・・・やはり危険すぎるだろう。今回の戦は巨大な魏に立ち向かう大事な一戦であるから、初戦はなんとしても勝たねば将兵の士気に関わる」

 だよね、信頼してたぜ孔明。君なら却下してくれると思った。てか巨大な敵には初戦で勝たないと士気に関わるって確かに聞いたことあるね。やっぱ駄目じゃんみたいな。んで後方がおびえ始めて撤退ルートですね、わかります。なんか日露戦争みたい。あれは士気って言うより金の問題もでかいんだけどまあ似たようなものっしょ。

「いや、孔明様。少々お待ちください」

 えっ。

「私も孔明様の命のもと、漢中北部に足を運びましたが、魏延将軍の提案は見るべきところが大であります」

 えっ。

「一気呵成に潼関、長安をつけば、関中はことごとく我らの手に落ちましょう」

 えっ。

「ふむ、馬良は私の案には反対か」
「いいえそうではありません、魏延将軍の案に賛成なのです」

 えっ。

「ううむ、現地を知るもの二人が賛成ならばもはや是非もあるまい。別働隊の編成を許可する、大将に魏延、副将句扶、参謀として馬良をつける。今日の軍議は以上だ」



 ・・・えっ。



[20789] 11
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/06 12:50
 命は尊い。この血を血で洗う戦乱の世のなんと嘆かわしいことであるか。ああ、かつて主はおっしゃいました。他人が死んでも自分が生き残ればそれでいいんじゃないの。どうも、魏延です。
 孔明たち蜀の主力が西へと消えてからしばらく、我々は別働隊の編成に忙殺されました。別働隊っていったって結構な人数ですからね、新しく江州の守備兵もちょっと引っ張ってきてます。後方補給を手伝ってもらって漢中の兵力はなるべく編成出来るようにしました。
 別働隊もそろそろ国境に辿り着くころでしょうかね、連絡手段の未熟なこの時代の軍では、別働隊というものはすっごくリスク高いです。別働隊がいると思って進軍してきてもついてみたら全滅してたなんて事態は簡単に想像つきますし、それでなくても単純に戦力の分散という意味での危険もありますから。
 で、今回魏延軍は最短ルートを通って長安を目指すわけですが、これがあまりにも早く着きすぎると勝利したのにもかかわらず敵中で孤立なんてことになっちゃうんです。逆にあまりに遅くなると、今度は別働隊を出したメリットがない。最短ルートでリスクを背負ってでも買いたかったのは電撃的な速度ですから。
 まして、道中にどれだけ時間がかかるかわからない蜀の桟道です。時間読みこそ今回の肝と言えるでしょう。ああ、無線が欲しい。


 さて、頃合をみて漢中を発し、蜀の桟道をえっちらおっちらと進んでいる我が軍です。いきなりですが。この前を行く背中を押したい衝動に駆られています。やっちゃいけないことをやるというのはなんとも甘美な誘惑でしょう。それがにっくき相手ならなおさらです。
 この背中のせいでっ・・・! 俺はっ・・・! 死んでしまうかもしれないっ・・・!
 悪魔の誘惑っ・・・! 蠱惑的でっ・・・! 衝動、圧倒的衝動・・・!
 がっ・・!
 押さないっ・・・! 俺はっ・・! 押さないんだっ・・・! 人間だからっ・・・!

「なにやら背後から邪気を感じたのですが」
「ききき気のせいだろう、そろそろっろろ標高も高い。風が強くなってきた」

 白眉毛君はなかなか鋭いです。でもわりと押したい。なぜってそりゃあこいつが変なこと言い出さなければ俺は危険を冒さなくてもすんだのですから。
 ところで桟道ですが、前に調査を命じられた時からこつこつを舗装しておきました。念のためってやつですが、役に立つことがないほうがよかったかもしれません。なんか複雑です。

 それでも、時々前後から叫び声が聞こえます。なんだか屈強な兵士達の断末魔みたいな声です。こう、高い所から転がり落ちていくときにあげる声みたいです。勿論そんなことはありません。山と山の間を風が吹き抜けることによって生まれる自然の音ですから、恐れることはありません。恐れることはありません。

「しかし、ふふっ。魏延将軍もお人が悪い。漢中を守ってはどうかなどといっておきながらこのように進軍路をしっかりと確保なされる。まさに万難に備える構えですな」

 なんか褒められたけど嬉しくない。というか馬良ってこんなに好戦的なのおかしくないの、早死にしちゃったからなかなか印象にないけどどっちかって言うと事務屋とか外交官のイメージなんだけどなー。武陵蛮とか唆したのこいつじゃなかったか。

「わかっております。今回のことで手柄面するつもりはありません、私はただ蜀漢のために魏を撃破し、長安、洛陽、と落として中原を駆け、さらに失った荊州を取り戻す手助けをしたいだけなのですよ」

 そんなこといってねえよ! 手柄面っていうか、これで俺が死んだら戦犯おまえな。あの世でラーメンおごれよラーメン。油ぎっとぎとのやつ食いたいし。
 いやまて。なんかお前さっきから・・・

「おおお、あれに見えるはついに関中の地ではありませんか、桟道の終わり、いやあ厳しい山道も終わりますな」

 まあいいさな、句扶君、句扶君。ちょっと先行って陣列整えられる場所確保しておいて。仮の荷物発着場と陣屋と、その辺は君のほうが慣れてるし任せちゃっていいかな。うん、そうだね。
 部下に丸投げできるのが上司の特権です。めんどくさいところは下っ端がやればよろしい。我こそは蜀の大将軍なるぞ、がっはっは。なんてね。

 糧秣は今回の別働隊が三ヶ月動けるかどうかというあたりしか輸送していません。それ以上送ると動きが鈍るし、少ないとこちらで活動できませんよね、でも桟道を通るあたりでなぜか荷物と人が消えてしまうことがあるので三ヶ月というのもあまり信用できませんが。

 桟道を抜けたら隊列をくんで、途中の集落とかにはわきめも振らず一路長安へと向かうつもりであります。じっくりいくなら周辺豪族とかも凋落していくほうがベターだろうけど、今回は作戦からしてギャンブルですから。トータルでプラスにする必要なんてないんです。ここぞという時に1の目に全財産張るような勝負度胸こそが求められると思うのですよ。

 長安が落とせなければこちらは孤立、ほぼ全滅、しかし落とせれば要害を立てに東からの攻撃を食い止めることができるでしょう。そのうちに西からくる味方を待てばよろしい。まさにハイリスクハイリターン!




 そうこうしてるうちに先行してた句扶君と合流できました。物見を放ってるのでそれが帰ってきしだい進軍、撃滅、大勝利と行きたいところだねー。
 なにどったの、そんなに慌ててさ。あ、物見帰ってきたのね、じゃあそろそろ行ってみようか。みんなー、長安に行きたいかー。

「申し上げます! 長安の城門より数万の軍勢が出陣、旗印は夏候であります!」

 血相を変える句扶君、君君落ち着きたまえよ、なぜなら私は昼間に星が見えるほど落ち着いているからさ。空を見たまえよ句扶君。この大自然の中、我々の命なんてちっぽけな存在だと思わないかい?
 ああ・・・星が見える。ハハ大きい…彗星かな?
 違う、違うな…彗星はもっと、バアーッて動くもんな…。



[20789] 12
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/07 00:58
えー、みなさんにー、えー、これからー、魔法の言葉を教えようとおもいますー、えー、これを唱えるだけでみんなにはー、えー、力が沸いてきますー。ぱわあという名前の力で、これさえあればなんでもできます、えー、みなさん御一緒に、はい、
「「「ウラー!」」」
 声が大きいです。みつかっちゃうじゃないですか。えー、小声で叫んでください。さんはい、
「「「ゥらァ!」」」
 いいよいいよーその調子その調子。あ、どうも魏延です。

 長安から出てきた夏侯楙の軍勢は何やら周回運動を始めました。索敵なのか訓練なのかわかりませんが、とりあえずまだみつかってないみたいです。
 この夏侯楙という男、どうやら尊敬すべき好敵手と言って不足ないようです。家柄の良さが幸いして財に困ることはなく、長安守備という要職について社会的地位を持ち、ひたすら女色と酒に浸るというまさにパーフェクトニート。どうせならあいつになりたかった。いや、せめて魏の人物になれたらどんなに幸せだったことか。

 と言うわけで吶喊します。

 嫉妬ではありません。もとからそういう作戦でしたから敵が外に出ているこの機会は、考えようによっては千載一遇の好機と言えるからです。
 はーいみんな並んでねー。あいつらがこっちに間抜けな背中を向けたら突っ込むよー。静かに整然と、それでいて果敢に突っ込むよー。すっげえ近づいたら逆に騒いでね、喉とかどうでもいいから。命のほうが大事。
 まだよまだよまだよー、はい行きましょう。
「ゥらァー」
「「「ゥらァー」」

 


 はっはっは! 敵がゴミのようだ!
 どうした夏侯のおぼっちゃんめ、俺の竹やりで軍のケツをぶっさしてやったからってひぃひぃ喘ぎやがって、逃げ惑う姿が板につきすぎて笑っちまうぜ。
 脇にそれるやつは捨て置け、このままケツに引っ付いて長安に雪崩れ込むぞ。
 ああ、なんという快感。圧倒的強者であるという愉悦、まさにこれこそバトルジャンキーへの第一歩ということか、駄目だこれは、癖になってしまう。

「伝令、敵右翼が瓦解、散り散りになって遁走を開始しました」
 
 放っておいて追撃、いいぞその調子だ。

「伝令、敵左翼が中軍より離脱しました」

 ああ、自軍の倍する敵を追うことのなんたることか。

 もう結構な損害を与えてるし、このまま城に雪崩れ込んで占領すれば結構いけるかな。なんたって城だから、こっちは万に満たない数しかいないけど場内の食料使って、兵は付近から徴兵していけばなんとか。孔明がくるまで城を保持できれば関中は治められるかもしれない。あとは敵がいつごろどれくらいくるかによるけど。
 頼むぞー、左のくるぶしいたいいたい病にでもかかって援軍の出陣が遅れてくれよー。





「伝令、東よりこちらに向かってくる敵部隊あり、旗印は曹。曹真のものかと思われます。兵数は不明、続々と姿を見せています」

 はい撤退。もうすぐ撤退よすぐ。逃げるよみんなー。
 あわわわわ、震えが止まらん、なんでなんでなんでどして。はやいっておかしい、絶対おかしい。やばいって曹真って言えば魏の大将軍よ、演義じゃ孔明のかませ犬的存在だったけどそんな人がそこまで出世できるわけないんだから。
 何、句扶君。急に撤退すると被害が大きいって、そりゃああなた、全滅よりましでしょうよ、別働隊の根本は奇襲なんだからそれが失われた時点で撤退しかありません、おい皆、方向転換だ、夏侯の旗は捨てろ、これより西へと全力で高度に軍事的前進を行う、左向け左、いっちに。
 装備とか全部捨てていいぞ、糧秣とかも全部道に打ち捨てろ、それを拾う敵が一人いればその分一人助かるぞ。物を惜しむなよ。
 何、しんがりの歩兵が曹真の騎馬隊に必ず追いつかれるからその守備に行かせてくれって、そりゃああんた、えっと、がんばってくれ、許可する、許可許可きょかー。いや待って、ええい俺が行く。このまま友軍目がけて突っ走れ、とにかく西だ西、先頭は任せたかんな、絶対だぞ。あと無事に帰ったら一杯飲みにいこう。俺のおごりだ、そら走れ。
 おい白眉、しっかりしろよ、夷陵でも逃げ切ったんだろ、ラッキーボーイ的存在がこういう戦いだと大事ってよく言うじゃないか、はやく行けって。

 後方の兵士諸君、追いつかれてもう駄目だと思ったら迷わず投降しろよ、刺し違えようとかやめろな。
 なんか感謝されたけど当たり前ですよ。だって殺すより捕まえるほうが時間かかるしね。時間稼ぎは大事。そのまま殺されちゃうかもしれないけど。でも正直遠いよね、長安から友軍のとこまで何里あるのよ。渭水の流れを遡って遡って、ああもう。
 とりあえず頑張ります。次生きてたら優しくしてね。



[20789] 13
Name: 魏延◆b2465055 ID:e4a201e7
Date: 2010/08/08 08:52
 魏延は小人であった。元の魏延文長がどうであったかは露と知れぬが、ともあれ、魏延は小人であった。
 魏延の慎重な――臆病ともいえる――小人特有の行動には良くも悪くも結果が伴い、それが重なって歴史の改編という前代未聞の大事をなしているのであるから、事を成すのには、すべからく天佑を必要とするという言葉に信憑感が増すというものであろう。
 その小人が漢中においてなしたことといえば、これは魏への侵攻準備に他ならない。彼は持ち前の慎重さ、責任感、神経質さを持ってして、魏の情報を執拗に集め、その経路を整えた。情報収集という点においてはまずまず及第点の結果を残したし、経路の整備という点を見れば満点といってもいいほどの成果を見せたのである。

 多くの間者を使った魏延は、長安の守将が夏侯楙という軍事的才能の欠如した人物であることを確認した後、その兵站、糧食の補給、士気という勝敗に密接な関係を持つ事柄に粘着した。これについて魏延は妥協を許さず、より正確な数字を求め続けた。
 過剰なまでに小さな数字を気にする魏延に部下達は辟易としていたが、上司が真剣に命令を繰り返す様を見て何か重大な作戦に関わるのではと緊張感を取り戻した。実際のところそんなことはなく、手を広げたくらいの大きさってなんだよ! ちくしょう、麦のわらは定軍山のごとくだと、詩人かお前は! などと一人奇声を上げていただけなのだが。
 ともあれ、魏延が南蛮からの帰途に着いた一年間で、それらの情報はことごとく魏延の手の中に落ちていた。これを持って情報収集は良とする。

 魏延が真にその才を発揮したのは長安への経路、すなわち蜀の桟道の整備においてである。これまで軍馬の通行をはばみ、漢中を天嶮たらしめていたその要因を粉砕するに魏延は少なからず骨を折った。 
 土木などに携わったことのない魏延は労働力としては無能であったが、監督としては有能であった。作業員を漢中の工兵だけに限らず、近隣諸郡からあらゆる優秀な技術屋をかき集め、自らに任された軍事予算を勢いよく注ぎ込みはじめたのである。金が金を呼び、人が人を呼んだ。
 作業員が集まりだしたころ、魏延は一日の担当区域をもっとも早く、頑丈に作り上げた班には給金を倍だすとの布告を出した。おぺれえしょんすのまた! などと更に奇声をあげる上司を句扶は見て見ぬふりをしたが、驚異的な速度で完成していく桟道を見て目を見張り、おぺれえしょんすのまた、というのは読書家の上司が調べた奇術か呪文の類だろうと納得した。
 後日、すのまたすのまたと唱えながら墨をする句扶を家人達は気味悪がり、魏延に報告している。
 
 当時にあって中国史史上もっとも金のかかったこの桟道建設は、そこで命を落とすものの数を半減させるほどの効果を得たのである。
 長安漢中間の交流を容易にし、技術格差を埋める一つの要因ともなった。国を体とたとえるならば道とは血管であるから、蜀の地に血流を送り込んだといっても過言ではないだろう。
 ところでこの桟道、山と山の間に入っていくということと掛けたのか、魏延が現場で呟いていたのが漏れたのかはわからぬが、俗に“素の股”などと、なんだかもうどうしようもない名称がついてしまうのだが、それを知るよしもない魏延は大満足であった。



 結局、魏延は現代的な精密さを持って情報収集と桟道の整備という二つの事柄を成し遂げた。しかし現代的平和人として育った故の間違いをもここで犯している。
 最短ルートを通り長安を“急襲”するというのが、別働隊作戦そもそもの前提であるからして、これを相手に察せられてはならない。奇襲は油断しているところを叩くから奇襲であって、準備万端で襲い掛かるなどということはありえないのである。
 だから桟道の整備を大掛かりに行ってしまえば、これは最早奇襲ではなくなってしまうのだ。


 ところが、この桟道工事はなんと秘密裏に終了する。長安の夏侯楙は、その圧倒的な軍事能力を持って漢中方面の警戒を緩め、この桟道建設を見逃したのだ。山が深かったことも幸いした。もし魏延がこの時点で動きを潜め、じっと時を待てば長安は簡単に落城したかもしれなかった。
 しかし、夏侯楙が類まれな逸材であると同時に、魏延もまた武将としては逸材とも言えるほどの小者である。持ち前のチキンハートを持って北伐の機を待った魏延は、孔明達と漢中で合流するという時になって突如として不安にかられ、密偵や物見の手を関中の処々まで伸ばしてしまったのだ。これを見逃す曹真ではなかった。
 
 曹真は当時、異民族を慰撫するために関中の西部にいたので、この魏延の奇襲が成功してしまうと敵中に取り残されることとなってしまう。蜀の北進まで時間的余裕が無いことを悟った曹真は、大慌てで軍を長安に返し、なんとか危機を脱した。
 しかし、漢中から最短距離で長安を突くということがわかっていても、それはそれで難しい事態であった。仮に曹真が長安に合流し、警戒を強めたら魏延は漢中から出てこないかもしれない、それはつまり、常に脇腹を気にしながら戦わなければいけないということであり、西からやってくるであろう蜀の本体を迎撃に出ることすら出来なくなってしまう。
 そこで曹真は一計を案じた。ならば、長安に食いつかせて後ろから叩けばいいのである。夏侯楙という長安の奇才を最大限に有効活用する妙案だと、この時曹真は小躍りして自分の頭の冴えを誇ったらしい。
 長安の東に軍を伏せると、夏侯楙にさっそく書簡を出した。
 その中で曹真は、たまには軍を動かしてみたらいいんじゃないかな、ダイエット的な意味で。君みたいな地方豪族がちょっと前にも長安にいたらしいよ、などと夏侯楙を煽りに煽り、遂には城から出撃させることに成功したのだった。

 その後は前述した通りである。逃げ惑う魏延軍を追撃した曹真は、魏延の魏という姓に目をつけ、魏の武人に成りきれない半端物、まさしく夏侯楙だなどと散々に扱き下ろした。これには魏延も閉口したらしいが、最早なす術はなく、日が落ちて曹真が追撃をやめた時、まとまって行動している魏延軍はまったくいなくなってしまっていた。










 やあやあ肝っ玉将軍いい所にいてくれた。本体に合流、うんそりゃあいい、はやくあったかい飯が食いたいね、けどその前に。

「べ、別にやつを倒してしまっても構わんのだろう?」





[20789] 14
Name: 魏延◆b2465055 ID:6669e471
Date: 2010/08/14 19:44
 倒すも何も、単独行動しちゃだめだろだって。畜生、正論ばっかりいいやがって! どうも魏延です。
 あ、嘘々、嘘だってばちょっとおじいちゃんこっち睨まないで。はやく本体と合流しようよ、ね、ほらほら。


 うおおおおおおおおおおおおお本隊と合流したんだが、うおおおおおおおおお街亭はとっくに通過していたぜ! そうだよね、西にいたはずの曹真がこっちに来てたんだから西は無人の野みたいなもんだよね、そのくせちゃっかり姜維とかは連れてきてるあたりしっかりしてるわ。
 なんかね、聞いたところによると結構東進をいそいだみたい。別働隊が成功しても合流できなきゃ意味ないからって。流石です。おかげでわりと早く合流できましたね! 今長安にはニートとかませの二人しかいませんからやっちゃってくだせえよ兄貴、へっへっへ、何をしやしょうかね。別働隊作戦を失敗したこの無能めになにか仕事くだせえ、閑職とかいいっすよ、食糧輸送? 後方警備? なんでも完璧にこなしてみせますぜ。


「関中の敵兵を一手に引き寄せて本隊の進軍を助けるばかりか、戦の終盤にあって副将と参謀を逃がして殿をつとめ、自らも生き残って帰参するとは見事であった。負け戦で将の質を証明するとはまさに蜀の大将にふさわしい働きよ」

 日本語で、いや中国語で、やっぱり日本語でお願いします。

 なんと別働隊とは決死隊であったか。そのような役目を自ら引き受けるとは真に天晴れよ。流石は漢中を長年守護しただけはある。先帝も喜んでおられよう。

 周りの声がおかしい。いやお前ら無理すんな、無理やり褒めなくていいって。いやわかるよ、最初が負け戦は駄目だって言ったばっかりだもんね。
 でーもー、あんしんーのーぎーえーんちゃーん。だって俺にはもうー、率いるへいたいさんがーいないからー。だからもうー。みーてーるーだーけー。

「それにしても将軍は優れた副将をお持ちだ。ちりぢりになった軍の残兵をこの短期間で掻き集めてなんとか軍の様相を整えてしまった。句扶といったか、あれもなかなか得がたい人材のようだな」

 ソウデスネ、ユウシュウナフクショウをツケテクレタリュウゼンサマにカンシャします。

 戦線離脱の要素が次々となくなっていくのはなんでなんだぜ。いやもういい、どうせ最初から今回の北伐は全力を尽くすって決めてたんだ。さあ、さあ。行きましょういざ長安。

 あ、なんか俺が句扶君を自慢したからか麒麟児自慢スイッチはいっちゃった。いやそれはいいから、はやく作戦をおくれ。麒麟児って。あーその麒麟あなたが死んだ後はあんま役に立たないらしいっすよ。国力的な意味で。




 なんやかんやあって我が軍は後方勤務になりました。なんと言っても敗残兵の集まりなのは事実だししょうがないね、一回負けた兵達を前線でまた使うのも気が引けるしってことだろう。句扶君と二人で後ろから兵站支援に駆け回ります。馬良? ああ、なんか彼は孔明直属に復帰して最前線です。辛酸を舐めさせられた仮は万倍にして返すとか言ってましたが、なーんかやっぱりおかしいよね彼。そんなアグレッシブな人物だったイメージがとんと沸いてこないんだけど。あー、でも今回登山家こと弟君も出るみたいだし兄貴としてはがんばらにゃいかんとか思ってんのかね。

「ああ、兄貴には軍事的才能は欠片もありませんなぁ、家督は俺に譲ったらどうでしょう」
 
 なんて、某将軍家の五男坊みたいにイヤミを言われたらたまったもんじゃないしね、あれも史実か怪しいけど。

 とにかく、魏の主力が来る前に長安は落としておきたいみたいなんでみんなで総攻撃をかけます。長安は巨城ですけど、この城の性質上東からの防御に集中しているせいか西からの攻撃には比較的弱いです。馬超なんかも落としてたしね、城攻めが苦手なんて評判もあった孔明ですけど、まあなんとかやるでしょう。お手並み拝見でございますよ。

 おや伝令君じゃない、なになにもっとちこうよりたまえ。え、なに。

「李厳様より火急の知らせとのことで、なにやら呉に不審な動きあり、とのことです」

 あはは、君出番間違えた? それ第一次じゃないよ、もう数年したら出ておいで。うんうん、わかったよ俺から孔明には伝えておくから。あ、お茶でも出してあげようね、ほら座ってぐいっと。






 は?


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