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[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら【単発】
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/07 13:57
それは突然に訪れる。
人間が知覚している以上に。






あの日、いつも通りの日常の中で、僕は覚えず世界の真実を垣間見た。
――代償は家族の命。何よりも大切で、僕の唯一の理解者であった人達が、死んだ。呆然とした、驚愕した、絶望した、慟哭した。
この世の全てを贖ったでも取り戻したいと願った。それでも、そんな事は叶わなかった。

その日から、僕は壊れた。元より、自分が正常であったとは言わない。初めから僕は異常で、異端で、異分子だった。
それでも、これが自分だと世間に胸を張れる程の『個』は持っていた。だけど、僕の自己は、個性は、自我とも言うべき人を人たらしめるモノが、崩れた。

友人は居なかった。親戚も居なかった。教えを請う先達さえ居なかった。僕の周りに、道を指し示し導く人など居る筈もなかった。
僕は余計に壊れた。拍車が加速した。雪玉が坂を転がり、更に大きくなるように、僕の中で『真理』は膨れ上がった。

だから、僕は生きていけた。真理を忘れず、犠牲を忘れず、孤独を忘れず、絶望を忘れずにいたから。
かつての僕では見えなかったモノが、人の醜い本性が、世界の汚い部分が、鮮明に正確に明確に目に映った。

だから余計に、家族との思い出は目映く輝いた。今の僕が直視出来ない程に。
――故に、僕の心は、頭は、魂は、記憶を消し去った。

思い出も無く、人としての情も無く、合理的に論理的に、非情に冷酷に、差し伸べられる手を払いのけて、僕は道を進んだ。
そうして、今の僕がここに居る。ある意味では、『真理』を知ったからこそ、僕は一人で生きてこれたと言える。

だから、これは感謝するべきなのだろう。今となっては、声すらも、顔さえも忘れてしまった家族に。ありがとう、と。聞こえている筈も無いのに――――。





不意に、目が覚めた。辺りは目映く光り、目にも眩しく輝いている。

「ここは……」

「――目が覚めたかな?」

倒れ伏す僕の頭上から、男性のような女性のような、子供のような老人のような、残酷でいながら慈愛を孕んだ、矛盾を体現した声が聞こえた。
そちらに目を向ければ、輝く金髪に金の瞳、神話に出てくる神様が来ているようなローブに身を包んだ、中性的な容姿の『存在』が立っていた。

「おやおや、起きて早々、私を存在呼ばわりとは。素直に神様と思っていてくれていいのに」

「……自分の目で見たモノ以外は信じない事にしてますし。すいません」

「いやいや、気にする程の事でも無い。実に的確に私を表したモノだ。それに敬意を払いこそすれ、君に怒りをぶつける必要など何処にも無い」

その『存在』――神様は朗らかに笑った。爽やかに、と形容してもいいだろう。
威厳の一つも感じられないけど、自分でそう言うなら神様なんだろう。そうでなければ、その時に考えればいい。
何より、僕に嘘を吐くメリットが無いのだから、どうでもいい事に変わりは無い。

「君はまたスマートな思考をしているね。自分に損が無いならどうでもいい……大多数の人間には忌避される、原初的な考えだ」

「……こんな考えしか出来ないモノですから」

「謝る事は無い。素晴らしい思考回路をしているのだから。私達にこそ近い物の考え方だ」

神様は笑って、僕に手を差し出してきた。
……本来なら無視して立ち上がるのだが、相手は神様。その手を取って体を起こす。

そんな殊勝な人間だったかと、思わず自分を嘲笑する。そんな非現実的なモノ、僕の人生に何の価値も有りはしない、と言っていたのは何処の誰だ。

「……さぁ、本題に入ろうか。君がここに居るのは理由が有る。君は、何故ここに居るのか、思い出せるかな?」

そう言われ、良いとは言えない事に定評のある記憶力で、なんとか目を覚ます前の事を思い出そうとする。……何か思い出せそうで思い出せない。今日も僕の記憶力は絶好調だ。

ふと見れば、こちらを呆れたように見ている神様が目に入った。笑い出したいのを堪えているようにも見える。
笑いたいのはコチラだ。

「君は、自分が死んだ事も憶えてないのかい? そうだとしたら、随分とまた、特殊な人間だよ」

そう言われ、頭に映像がフラッシュバックした。成程、これは確かに僕の記憶だ。微かに憶えが有る。


今にして思えば、それ程幸せな人生でなかったかもしれない。だけど、この生き方以外に知らないのだから、仕方ない。
勉強に勉強を重ね、他の人が遊んでいるような時間も、全て勉強に費やした。そうして入ったのが国立の超一流大学。
エリート街道と言うが、僕の目標は自分の会社を持つ事だった。金融企業に入社し、一定の地位まで上がったところで独立した。

苦労して建てた僕の会社は、ぐんぐんと業績を伸ばし、一流企業程度には成長した。
だけど、急に成り上がった会社は、他の伸び悩んでいた企業に恨みを買った。僕の強引な手法もそれを加速し、命を狙われるなんて日常茶飯事だった。

持ち前の悪運の強さで生き延びていたけど、あの時にそれも尽きた。
逃げ切ったと思い、油断した僕の失態だ。横道から現れた男に銃で撃たれて僕の人生は終わりを迎えた、と。


「思い出したかな?」

「気分が最悪なくらいにはっきりと」

「それは良かった」

何が良かったんだろう。皮肉が効いていないのだとしたら、なんだか僕が哀れだ。
なんとなくネガティブになりながら、神様の話に耳を傾ける。

「つまり、君はあそこで死んだ訳だが……輪廻転生は知ってるね?」

小さく頷く。大まかにしか知らないけど、多分大丈夫だろう。

「君の魂は輪廻の輪に組み込まれたんだけど……どうにも正常に巡らないのさ。そこで、ここに魂を呼んでみれば、またなんとも壊れ方が異常でね。一度、魂と繋がった形跡があるじゃないか。これでは修復のしようが無いから、君の肉体を復活させたんだよ」

よく分かった。つまりは、あの時の事を言っているんだろう。僕自身も正確に憶えていない、あの時の事を。

「心当たりは有るみたいだね。なら話は早い。君、そのまま転生してくれないかな?」

「……はい?」

思わず耳を疑った。ちょっと買い物に行ってきてくれないか、みたいな軽さで言われたばかりに、何度か聞いた内容を確かめてしまった。
茫然とし、混乱する僕に追い討ちを掛けるように言葉を連ねてくる。

「いやなに、勿論の事、そのまま行けと言っている訳じゃないよ。私も修復するくらいなら問題は無いからね。ただ、仕事が滞るんだよ。問題を起こすような人間だったらこんな事は言わないんだけど、その点に関しては、君ほどに安心出来る性格の人間は居ないからね。だから、君には加護を与えるくらいはしようと思う」

つまり、加護を与えるから記憶も人格もそのままで転生してくれ、と。それは、何処の小説に出てくるような展開ですか。もう魂を消し去れば良い話でしょう。

「そんな簡単な話じゃないんだよ。君の魂だって、数えきれない程の転生を繰り返してきたモノ。それをここで消すのは、記録の一部が欠ける事になってしまうからさ」

面倒な事だ。前世の因果で死ねないとは。それどころか、前なんて言葉を数えきれない程に連ねても足りないだろうけど。
まぁ、特に不満が有る訳でも無し。なら神様の言うとおりに転生しても構わないか。

「おぉ、言ってくれるかい? それは助かるよ。なら、君に私の加護を与えよう。どんな事でも言いたまえ。必ずや実現しよう」

なんとも太っ腹というか豪気というか、流石は神様といった発言だ。

だが、そこまで言うからには絶対に確実に正確に、僕の願いを聞いてくれるのだろう。
――それは、僕が人生で何度も思った事であり、秘書に薦められたゲームなどという娯楽作品に出てきたモノで、唯一惹かれた特殊な力。

そう、それは――

「――黄金律:Aをください」

「……ん?」

そう、この力は僕の理想を具現化した能力。
歩けば大金の詰まったアタッシュケースを拾い、宝くじを買えばキャリーオーバー中の一等を当て、デイトレードなどしようものなら問答無用で大暴騰だ。
そう、つまりは人が汗水垂らして稼ぐ金を歩くだけで手に入れる事が出来て、僕が苦労して建てた会社なんて一ヶ月も有れば即座に設立という訳だ。これ程に僕が望む力が他に有るだろうか。いや、有る筈が無い。これこそ、僕の理想の具現なのだから。
これさえ有れば、僕がかつて望んだ、世界を思い通りに操る支配者となり、酒池肉林の夢が叶うのだ。

神様、ありがとう。貴方が居なければこの夢は叶わなかったし、僕は死んだ事も分からずに消えていただろう。
さぁ、ここから、僕の理想と夢と希望を具現化した人生が始まるんだ!










始まらない。



[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら・二人目【単発】
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/07 14:20
何が起こるか分からない。
何が起きても分からない。







思えば、自分の人生はなんと楽しいものだったかと、俺は笑みを浮かべた。


生まれも育ちも日本で、極々一般的な家庭の両親の元に生まれた俺。……いや、我が敬愛する両親が一般的だ、などとは考えていないが。社会的に見れば、彼らに何の問題が有った訳でも無いから、確かに一般的な家庭と評して良いのだろう。

そんな両親だが、いささか、否、かなりぶっ飛んだ性格の持ち主だった。

朝、母の手から乱れ飛ぶ包丁を避ける事から始まり。食事は人数分無く、早い者勝ちで食べろとは言うものの、目を狙い的確に飛んでくる箸や爪楊枝を避けながらの事、まともに食べるのも一苦労だ。
歯を磨いていれば父に奇襲され、着替えようと服を脱げば母に襲われる。家を出る際には、いってらっしゃいの代わりの鉄拳乱れ撃ち。
学校が有る日こそ平穏だが、休日の日中は正しく戦場と化す。
掃除をすると言いながら、俺に掃除機を振り下ろすのは如何なものか、母よ。父は父で、家中にトラップを仕掛けて悦に入る変態。しかも、その全てが致命傷レベル。貴方は家族を殺す気ですか。

とまぁ、いささかぶっ飛んだ家庭で育ち、どこか可笑しい教育を受けた俺は、正常で居られる訳も無く、必然的に狂人となった。
元から能力には恵まれていた俺は、惜しみ無く娯楽に費やした。悪戯から始まり、詐欺、ハッキング、クラック、発明から破壊まで、ありとあらゆる事をした。

凶悪なまでのスペックを、全て俺の娯楽につぎ込んだらどうなるか。答えは簡単、世界は俺の遊技場と変わらなくなった。
こと破壊において、俺は誰の追随も許さなかった。壊して、壊して、壊したモノを更に壊して。いつからか変な名前で呼ばれるようになったんだが……忘れた。興味が無い事には記憶領域を割かない事にしているのだ。

数年が経ち、かつては俺に張り合っていた連中も、次第に諦め、ついには世界最高にして最悪のハッカーとして名を轟かせた。
だけど、それはとてもつまらなかった。誰かと争い、誰かを追い抜き、誰かと高めあう。そんな事を、多少なりとも望んでいた俺には、そんな称号は要らぬものでしかなかった。

だから、戦争を起こした。ある国の軍事システムにハッキングを仕掛け制圧。そこを足がかりに、世界中のデータベースに侵入、破壊を繰り返し、果てには大国のマザーコンピュータを掌握し、各国に向けて弾道間ミサイルを発射。世界は大パニックになった。
更には超巨大企業にハックし、機密データを全マスメディアに公開。中には、少しばかり非人道的なモノもあったが……面白そうだから許可した。

俺の腹いせから始まったこの大戦争は、世界を未曾有の危機に陥れ、人類の文明は少しばかりの停滞を見せた。……とニュースで言っていたが、様々な研究施設にハッキングしている俺には、その発言は間違いだと断ずる事が出来る。
俺のサイバーテロによって、科学技術は大いに進歩する事となった。つまりは、俺は二十一世紀最大の功労者って訳だ。気持ち悪い事だ、全くつまらない称号でしかない。

結局、俺はその後何年かに渡り破壊活動を繰り返していたが、最後まで俺の仕業だとばれる事は無かった。
マスコミ各社は、大規模な技術屋集団の仕業だと報道していた。確かに、あれだけ大規模な事をすれば、一人の犯行では無いと思うだろう。
何故か、そこで俺の名前が出ていなかったが、どうやら俺は一匹狼的な扱いを受けているらしい。
むしろ、頂点に君臨する竜だとか。なんだそりゃってのが正直な感想だ。

まぁ、その後も紆余曲折なんて言葉じゃ表せない程いろいろ有って、変遷の果てに、こうして人生の終わりを迎えている。
無論の事、誰かに殺された訳でも無い。自然に寿命を迎えたまでだ。

幾つかやり残した事が無いような気がしないでもないが、気にする程の事じゃない。
俺はこのまま大往生するのみ。……三十代で死ぬのが大往生と言えるかどうかは知らないが。







目を開ける。何も無い、真っ暗だ。まるで夜の闇に包まれたように……臭ぇな。
辺りを見回すが、光が無い以上、反射するモノが無いという訳で、目に何かが映る訳も無く。なんとなく開けた目を、また閉じた。

『なんだよ、捻くれた顔してんなぁ』

ふと、何度も聞いたような事を言われたので、目を開ける。
やたらと黒い服装で、それでいて髪は銀髪と来たもんだ。ギャップが激しすぎると思う。

あんたは誰だ、と聞こうとして、やめた。楽しくなさそうだったから。

『けっ、無視かい無視かい。折角、お前の望みを叶えてやろうと思ったのによ』

気になる言葉を聞き、思わず目を開ける。コイツ、本当に何なんだ?

『そうそう、それで良いんだよ。おぉっと、自己紹介がまだだったな。俺様は……名前は特にねぇな。好きに呼べ』

なんという適当な神様だろうか。自己紹介と言っておきながら、名前も無いとは。
これは、俺が自己紹介する必要も無いんじゃ?

『そうだな、平等に行こう。平等は良い言葉だ。良い言葉は決して無くならない』

なんか、何処かで聞いたようなセリフを言う。
記憶違いかもしれないので、その辺は気にしない。

『賢明な判断だ。んで、お話に入るとしようか』

二ヤリ、と不敵に笑う。思わず襟を正し、真面目な顔をする。
珍しくも、本当に珍しく、俺が話を真面目に聞こうとしてるんだ。つまらない話だったら無視していいよな?

『けけっ、安心しな。これは、お前にとって最高のチャンスだ。心の奥底で望んでいた事を叶えられる時さ』

俺が、心の奥底で望んでいた事……。

『そう、自分で分かってんだろ? 楽しい事がしたいと一生を駆け抜け、世界を滅茶苦茶に蹂躙して尚、まだ足りぬ衝動に駆られ続けて……そんなお前が、本当に望んでいたモノ』

俺は答えない。

『それはつまり、好敵手の存在さ。己の能力の限りを尽くしても、圧倒するに至らぬ実力の拮抗した人間。お前はつまらなかったのさ。自分と張り合える人間が居ない事に失望して、八つ当たりに世界を壊そうとして、それによって誰か現れないかと望みながら、叶わなかったお前の望み。お前自身が一番よく分かってる筈だ。なぁ、《人類最悪》?』

顔を上げた。そういえば、そんな名前で呼ばれていたような気もする。
そして、コイツの言う事は全て当たっている。いや、間違う筈も無いのか。心を読めるんだから。

確かに、俺の望みはいつだって楽しい事だった。自分が楽しけりゃそれで良いし、周りがどうなろうと知った事じゃない。
だけど、一人で暴れまわって、壊し続けていると、時たま空しくなる。

――俺は一人で、こんな事をして本当に楽しいのか?

つまらない戯言だと、即座に打ち消す正真正銘の戯言だ。
だけど、本当は分かっていたのかもしれない。俺は狂人だけど、狂人は狂人なりに何かを望むものだ。俺はそれが『好敵手』だった。それだけの事。

『さて、そこでお前に聞きたい。――もう一度、生きてみる気はないか?』

思わず耳を疑った。が、すぐに納得する。
俺の死後に関わってくるんだから、神にでも近い存在なんだろう。なら、人一人生き返らせる事、造作も無いに違いない。

あんたがそう問うなら、俺の答えは一つ……断る。

『却下だ。理由は聞かねぇぞ。俺の言った事は絶対だからな』

なんという横暴。流石は神様だ、そんな姿を信者が見たら崇拝なんてモノは消えて無くなるな。
まぁ……神様なんて理不尽なモノだろう。ギリシャ神話然り、日本神話然りだ。

『そういう事だ。まぁ、問答無用で転生させる訳じゃない。何か一つ、願いを叶えてやる』

特に願いが有る訳でも無し、どうでもいい事に変わりは無いんだが、あえて言うなら、俺の心の奥底で願っていた望みとやらだろう。

俺は、俺の能力を以てしても尚圧倒できぬ、理不尽なまでに凶悪で、不平等なまでに天才で、果てしなくぶっ飛んだ化け物が居る世界に生まれたい。

『よし、その願い、叶えてやる。行って来い、非人類の人外め』

そういえばそんな事も言われてた気がする。この俺を捕まえて化け物とは、なんとも的外れな事をほざくモノだと思っていたが……。

しかし、俺はもう一度生き返って、どうしようというんだ? 俺を俺たらしめたのは、あのかっ飛んだ思考回路の両親が居たからだ。
次の生で、そんな親の元に生まれる可能性は零に等しい。つまりは零だ。

まぁ、今からあれこれ気にしても仕方が無いか。俺は楽しければ良い。それだけ。
俺と本当に張り合える人間が居るなら、それはどんなに楽しい事だろう。きっと、俺の欲望を満たしてくれる事だろう。

――俺は破壊屋、人類最悪のハッカー。壊して壊して壊して、壊したモノを更に壊した。
世界を壊し、人を壊し、秩序を壊し、法則を壊し、あらゆるモノを壊した。それだけが俺の生き甲斐、それだけが俺の存在意義。



――究極の快楽主義者は、己が好敵手を見つけんと欲し、一度壊した世界をもう一度壊さんと誓う。そして、彼が好敵手を見つけたその時にこそ、人類にとっての地獄は、始まるのではないだろうか…………。









やっぱり始まらない。



[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら・三人目【単発】
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/08 16:26
悲しい事は何も無い。
嬉しい事も何も無い。








僕は、いつも一人だった。
僕は、常に上から見下ろしていた。
僕は、人と競えなかった。
僕は、僕は、僕は――――



振り返ってみれば、僕の人生の何と恵まれた事か。

容姿は人並み外れ、アイドルすら霞みハリウッドスター顔負けの美貌。
日本人離れした長身に、スラリと伸びた長い脚。胴短く足長い、正しく理想の体。
歌を歌えば歌手を閉口させ、演技などさせようものなら俳優は軒並み揃って脇役だ。
誇張なんて欠片も無い、正真正銘徹頭徹尾の真実だからこそ、僕は恵まれていると自信を持って言える。

しいて言うなら、勉強が少しばかり苦手で、運動の方も得意と言えない事が欠点か。
だけど、僕にとってそれはハンデにならないし、人より優れているからこその、この短所だと思ってる。世界はバランスを取る事で、均衡を保ってるのだから。

家族は居なかった。いや、正確に言えば居なくなった、の方が正しいのか。
物心ついた時には孤児院に居たから。院長に聞けば、赤ん坊の僕が扉の前に籠に入って捨てられていたらしい。一緒に置かれていた紙には、経済的に余裕が無いとか何とか。
またなんとも、良く有りそうな話だと納得したのを、今でも覚えている。

そんな境遇だったから、僕の理解者は誰ひとり居なかった。院長も、基本的に子供に関わらない不干渉の放任主義者だった。
僕の周りに人が居た時なんて、生まれてから一度でもあっただろうか。いや、そんな事はありえなかった。常に独り、輪を外れて見ていただけ。

今思えば、この顔がいけなかったのかもしれない。優れすぎていたが故に、忌避されて、嫉妬を受け、それは反感へと変わった。
そういえば、よく年長組に虐められていた記憶が有る。年少組は無視を決め込んでいたので、必然的に僕への虐めはエスカレートした。
最終的には院長がスタンスを崩して、年長組を傍から見て思わず同情するくらいに叱り飛ばして決着した。
でも、僕と彼らの溝は埋まらなかった。当然だ。僕が近寄ろうとしなかったのだから。

高校に上がってやっと、僕はバイトを許される年齢になった。当然と言えば当然の如く、僕は自分の容姿を生かした職種に着いた。
そうすれば持て囃されるのは当然で、でも僕はそんな事どうでもよかった。芸能界に入る事を望んでいた訳じゃないし、特別な仕事に着こうとも思ってなかった。

普通の大学に進学して、普通の会社に就職して、普通の奥さんを貰い、普通の家庭を築いて、普通の人生を送る。そう、そんな幻想を抱いていた。いや、妄想と呼んで良いかもしれない。十分な程に黒歴史だ。

こんな顔をして生まれた以上、普通なんて絶対にあり得ない。
つまり、実現しようも無い夢を真面目に考えていたのだから、今思い返せば思わず転げ回りたくなる。

高校三年バイトに明け暮れ、大学四年バイトに明け暮れ。これから社会人だというところで、病に罹った。
病名はガン。気付いた時には手遅れで、進行を遅らせる事しか出来なくなっていた。
初期段階で気付けば助かるとは言うが、そんな予兆も感じ取れなかった以上、助かる可能性など初めから皆無だったのだ。

僕の人生に悔むべきところが有れば、それは友人を作れなかった事だろう。
仕事先では最低限しか喋らなかったし、基本的には僕は人見知りで、内気な臆病者だ。

あぁ、それなら、やはり僕は恵まれていた訳じゃないのかもしれない。そこは訂正しよう。
人より優れている者が、あらゆる面で恵まれてる訳では無いように。僕は、人に恵まれなかった、それだけ。

本当に、ただそれだけの事……。



肌寒さを覚え、走らせていたペンを止めた。左に目を向ければ、風ではためくカーテンが目に入る。カーテンがはためくという事は、そこに風が吹き込んでいるからで、つまり僕の感じた肌寒さは、その風が僕に当たっているからである。

そんな回りくどい事を考えながら、ベッドを下りて窓を閉める。
足から力が抜け、ともすれば崩れ落ちそうな危うい足取りで、僕はかろうじてベッドへ戻り、再びペンを執る。

目には400字詰めの原稿用紙が数枚、真っ白な机の上に広がった様が映っている。
その内の何枚かは、手もつけていない白紙だ。何分、小説を書いたことなど無いから、スラスラとペンが進む訳も無い。

パソコンでは無いのか? という疑問も尤もだと思う。だけど、目に映る形で何か残しておきたかったから、僕は紙に書くことを選んだ。

舞台は高校、三年生の夏、三人の女の子と二人の男の子の恋の行方を描いた、甘酸っぱい青春小説……くくっ、どんな皮肉だ、それは。
僕に無かった事の全てを詰め込んだような、最高に気分の悪くなる内容だ。笑えない冗談は嫌いだというのに。

僕の人生の終わりには相応しい、最低に最悪な矛盾した小説だ。それでこそ、僕であろうというもの。

少しばかりの眠気を覚え、手を止める。そういえば、何時から書いていただろうか。
食事を3回挟んでいるから、少なくとも15時間以上か。笑えるくらいに集中していたな。

布団に潜り込み、目を閉じる。途端、一気に疲労が襲ってくる。
だが、程良い疲労だ。このまま、死んでしまいたくなるような眠さでもある。

数分後には睡魔に負け、意識を手放した。
本当、このまま死んでしまいたいくらいだ……。



光がまぶたを貫き、眩しさのあまりに目を開ける。もう朝だろうかと、辺りを見回して首を傾げる。どうにも見覚えの無い場所だ。

向こうの地平線まで続くような花畑。どこまでも澄み渡った小川。
……まるで、あの世みたいな風景だ。いや、これが本当にあの世だという訳ではなく、こんな表現をよく見かけるからそう考えただけだが。

『汝、何を望む?』

不意に、背後から声が掛けられた。ゆっくりと振り向くと、ローブを着て杖を持った、なにやら魔法使いのような格好の怪しげな老人が立っていた。
言っていることもよく分からないが、この人の格好もよく分からない。もう分からない事尽くしで、僕の頭は混乱寸前だ。

『汝、何を望む?』

二度目の問いかけにも、僕は答えない。いや、答えられないと言った方が正確か。
こんな如何にもな格好した老人、相手にしないのが一番である。僕には珍しい、なかなかの正論だ。

『汝、次の生にて何を望む?』

老人は、これまた理解しがたい言葉を紡ぐ。
これはまた、なんとも難しい事を聞いてくる。次の生など、僕の記憶が有る訳でも無し、願いが叶ったところで意味も無いのに。

まぁ……しいて言うなら、友達が欲しいといったところか。
くくっ、完全無欠に究極絶無な戯言だな。

『その願い、叶えよう』

「――うぁ?」

反転、僕の意識は堕ち沈んでいった。
目を覚ました時には、なにやらよく分からぬ夢を見た、と思っただけだった。




その年の冬、一人の少年が無くなった。享年22歳。あまりにも若すぎる死だった。
家族も居ない彼の遺体は、孤児院の院長が引き取り、ひっそりと葬儀がとり行われた。参列者は皆無、悲しすぎる葬式となった。




――暗闇の中で、僕は目を覚ました。なんだか、懐かしい感覚だ。
周りを見ても、何一つ無い真っ暗闇。目に映るモノは無い。

ふと、あの不思議な夢を思い出す。次の生で何を望む、などと言っていたけど……もしかして、本当にあるんだろうか。第二の人生が。

半信半疑で暗闇を漂っていた僕の目に、目映い光が映った。思わず目を閉じる。
あれが……次の生への入り口か? なんとも、希望に溢れることだな。
まぁ、今生より幸せである事を望んで、行ってみるとしますかね。

そうして、僕は、第二の人生の一歩を踏み出した。







カリスマ:Aならこんな感じ。
でも始まらない。



[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら・世界編【単発】
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/08 17:48
終わりの始まりなど無い。
始まりこそが、終わりでしかないのだ。








その日、ある世界に、三人の異端児が生まれた。同じ日、同じ時、同じ国で、彼らはこの世に生を享けた。
恐ろしいまでに一致した、何かの前触れかと思わせるような誕生だった。


更に異常な事が有った。彼らは、三人が三人まで、生まれたと同時に自我が芽生えたのだ。異常も異常、生物学上有り得ないようなことだった。
何よりおかしいのは、三人とも前世の記憶を持っている事だった。
確かに、前世の記憶が何かの拍子に蘇ったり、初めから有る人も居る。しかし、それはあくまで断片的なものに過ぎない。前世の自身の名前や生まれ、何処で何をして育ったか。その全てを覚えているなど、異常などという言葉でも表わしきれない異端だった。


人が知れば、化け物とでも言うような彼らは、それを分かっているように、その事実の断片も漏らさぬ徹底さで常人を装っていた。
だがしかし、いつまでも彼らが常人を装える筈も無い。そもそも、元の人格が異常者なのだ。常人がどんなものか、知りもせずに演技を出来る訳も無い。三人とも、早い段階で両親にばれた。


そこから、三人の運命は分かれた。それは、必然と言って良い程にはっきりとしていた。


一人は、親に異常だ、異端だと疎まれ、5歳の夏に捨てられた。
――それが、彼の異常性を加速させる事も知らずに。


一人は、親からして異常だった故に、そのまま気にせずに育てられた。
――それが彼を、衝動を抑える必要が無い、と喜ばせる事になった。


一人は、全てを包み込む優しさで、変わらぬ愛情を注がれた。
――家族の温かさを知り、彼は一気に普通人へと戻っていくことになる。


余りにもはっきりと道は分かたれた。残酷と言っていいまでに、ばらばらに。
そこから先の運命は、最早決してしまったのかもしれない。


親に疎まれ捨てられた少年は、一人孤独に暗い所を彷徨う事になり。
親の異常性に抱かれた少年は、更なる破壊を求めて知識を蓄える。
変わらぬ愛で育まれた少年は、人に歩み寄る事を知った。


もしも生まれる所が違えば、彼らの運命はまた違うモノになっていたかもしれない。
だが、『もしも』の話になんの価値が有るだろうか。
根本的に絶対的に徹底的に、三人の進む道は分かたれていたのだから。運命もまた、決められてしまったに等しい。


――そこは、次元世界の中の一つの世界。


名称を、第97管理外世界『地球』。彼らが前世で育った、美しき蒼の星。


この星の、世界の行く先は、誰にも知る事は出来ない…………。









嘘予告です。
この三人を突っ込む理想的な作品は、僕の貧弱な頭では『リリなの』しか思いつきませんでした。
もしかしたら、続くかもです。まぁ、まるっきりのオリジナル展開になる可能性が無きにしも有らずですが……。



[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら・リリなの世界編 その一
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/09 17:20
ナポレオンの辞書に敗北の二文字が無いように。
僕の辞書に信用の二文字は無い。









目を開ける。真っ暗な部屋だ。暗くて見えないが、寂れた家具が数個、無造作に置かれただけの殺風景な部屋。
布団に寝ころんでいた体を起こし、側に置いてある時計を見る。補足するならば、針が蛍光性なので暗闇でも見れる、優れ物である。

時刻を確認する。6時だ。起きて支度をしなければ、朝食の時間に間に合わない。
料理当番は僕である。遅れたら、どんな罰が待っているか、想像も出来ない。いや、したくないと言った方が正確か。

扉を開け、部屋を出る。二階に寝ている二人を起こさぬように、そっと階段下の物置から出た。
既に夏場だというのに、廊下は朝方の涼しさに包まれていた。思わず身震いする。薄着であることを考えれば、至極当然の生理現象である。

薄暗い廊下を歩き、リビングに出る。カーテンの隙間から漏れた陽の光が目に眩しく、自然と手で目を覆っていた。
しかしそれも、すぐに治まる。光に慣れた目は、太陽の光をただ輝かしいモノと捉えていた。そう、まるで、僕の事を嘲るかの如き輝かしさだ。

自嘲の笑みを浮かべ、カーテンを一気に開く。光が目に射し込む。眩しい。
だけれど、それ以上に陰鬱とした気分を晴れやかなものにしてくれた。太陽は嫌いだが、爽やかな光を放つ事だけは認めてもいい。

体中で朝の光を堪能していたが、ふと見た時計の時刻に気付き我に返る。
既に起きてから10分も経っていた。これでは遅れてしまう。あの二人は食後のコーヒーを楽しむ人だから、余裕を持って行動しないといけないのに。

キッチンに立ち、包丁やフライパンなど、様々な調理器具を出していく。
エプロンなどという高尚な物は無いので、そのままの服装で料理を始めた。



それがいつも通りの日常。決められた通りに動き、言われた事には従う。そんな、まるで人形のような、人間らしさなんて何処にも無い、最低な日々。
抜け出したいと思っていた。打破したいと思っていた。だけど、僕はいまだ世間一般の子供が親の保護を受ける年齢。
そんな事は、現実的に言って不可能だった。

思わずあの事を思い出す。
僕が望んだ力。理想を叶える為の、絶対的な能力。

家から一歩も出ない日々。そんな力、有ったところで何の意味も無い。
懸賞にでも応募すれば、一等が当たるんだろうが、そんな事は許されていない。ならば、僕がどんな能力を持っていても、意味は無いに等しいのではないか。

きっと、これは絶対不変の、決して変わらない日常。
僕に許されるのは、ただ絶望的な日々にこの身を沈めていくだけ……。



――そう、愚かしくも信じていた。



料理を終え、テーブルに並べて一息つく。
毎日やっている事だが、料理にはいつまで経っても慣れない。
前世でも、どんなに繰り返そうとも、目に見えて上達することは無かった。自分の才能の無さには、ほとほと呆れるばかりだ。

少し休もうと思い、ソファに向かったところで――


――後頭部に、強烈な衝撃を受けた。


ミシッという音は、鈍器の割れる音か、頭蓋骨の軋む音か。どちらにしても、そんな些細な事はどうでもいいだろう。
思わず前方にバランスを崩し、ソファに倒れこむ。倒れる時、僅かに体を捻り、後ろを振り返る。微かに見えた、二つの顔。

あぁ、そうか……やっぱり、人なんてものは…………。




大きな揺れを感じ、僕は意識を覚醒させた。目隠しをされている。状況が分からない。
落ち着け、冷静になれ。周りの音で判断するんだ。

不規則な感覚での細かい上下運動。縛られた手足を伸ばして丁度端に当たる広さのスペース。そして、駆動するエンジン音。
聞きなれた音だ。これは、そう。僕の親である、あの二人の車の……。

何を今更。そんな分かり切ったこと、もう一度確認するまでもない。下らない思考を止め、なんとか手足を縛った縄を解けないか、健闘してみるものの、無意味だった。

「なんだ、起きたのか。気分はどうだ、化け物」

若い男の声がした。多分に嘲弄と軽蔑が含まれている。それは、幼い子供にかけるような声色では決してない。
この声は、父だ。戸籍上、そうなっている人物。

「起きないままで、十分よかったのにねぇ」

同じような声色の声が聞こえた。恐怖も少し感じ取れる。まるで、異常なモノに対して怯えているような恐怖が。
この声が、母である。生物学上、僕を生んだ人間であるから。

「状況は、分かってるな? お前はガキなんかじゃなく、化け物なんだから」

「どうしてもっと早く、この方法を取らなかったのかしら。アナタから逃げれる、最高の手段だっていうのに」

楽しげな、それでいて話したくもないといった嫌悪感。矛盾した声が降りかかる。

この二人も、随分と苦悩した事だろう。
待望の赤ん坊を出産したと思ったら、僕のような前世の記憶を持った異常者。
恐れ、畏れ、怖れ、惧れ、懼れ……。どれだけ悩んだことか。

理解できないからこそ、化け物と蔑み、異常だと自分から遠ざけた。
それは人間である以上、最も自然な行動。脅威、異常、不確定分子を忌避する。


――所詮、その程度の存在。


人間が僕の事を受け入れるなど、そんな有り得ないような事を少しでも考えた自分を殴りたい。
いや、それこそ殺してしまいたいくらいに、自分が嫌になる。

車が止まった。二人がドアを開け、車から降りる音が聞こえる。
ついで、僕の乗せられた後部座席のドアが開く。乱暴に引っ張り出された。

目隠しを外された。目がひりひりする。薄く開けた目で見れば、辺りは既に暗く、遠くの空が紫に染まっていた。夕暮れ時だろうか。

無言で手足を縛られていた縄を解き、僕は自由の身になった。
手足を伸ばし、呑気にここは何処だろう、などと考えてみる。目の前の二人は完全に無視。話す事など無いだろう。

「これで、お前ともオサラバだ。じゃあな、化け物」

「もっと普通な子として生まれてきてほしかったわ……」

言いたい事だけ言って、さっさと車に乗って走り去っていった。
とりあえず、僕の貴重な記憶領域をいつまでもあんな二人に割いていられない。早々に忘れることにしよう。

さて、先ずは状況の確認か。
ここは何処か。辺りには木々しか見えず、真っ暗なけもの道の先を窺ってみるが、ただ黒洞々たる暗闇が広がっているだけだった。
今の時間は。深い青の空に、綺麗な満月が浮かんでいた。まるで、僕の旅立ちを祝福するかのように。

そうだ、これは旅立ちなんだ。下らない人間に囚われず、自由に生き、いつかは僕の理想を実現する為の。
僕には、一人で生きていけるだけの力が有る。この能力さえあれば、人の助けなど借りずとも十分に生活する事が出来る。

あぁ、ホームレスになるのも面白いかもしれない。
汚らしい格好の浮浪者。その実、大会社のトップで、とてつもないお金持ち。
くくっ、どこぞの小説にありそうな展開だ。いや、小説は読まないから、無いかもしれないけど。

なんの実りにもならない思考を中断し、車が走って行った方向を見る。
なにか見える訳でも無い。町までどれだけ距離が有るのか、まったくと言っていい程に不明だ。

だが、こんなところで死んでやる訳にもいかない。
この僕が、あんな下らない人間の為に死ぬなど、有ってはならない事だ。大願成就のため、邁進せねばならないというのに。

けもの道を見る。真っ暗だ。まるで僕の行き先を暗示しているような、先の見えない暗闇。
車の走り去った方を見る。そちらも何も無い。しいて言うならば、こちらに行けば、確実に人の居る場所へ辿り着くという事だけは分かっている。

どちらへ進むか? 愚問だ。僕の行く先は決まっている。


――さぁ、進もう、前へ。何も見えない闇へ。異常者に相応しい、最低に最悪な旅路へ……!。




親に捨てられた少年は、その異常性を深めた。彼が人を信じることなど、最早有り得ない事でしかなくなったのかもしれない。
だが、その道に人の居ない事は無い。彼が己の理想を掲げ進む限り、その周りには常に人が居るであろう。

――そして、彼が理想を叶えた時、この世界がどうなっているのかなど、誰にも知りえない。それは無論、神でさえも……。







一人目、理想を夢見て旅立つ! 彼の人生に幸あれ。
次に彼が出てくるのは、はたして無印かA`sか空白期か……いや、stsかもしれない。



[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら・リリなの世界編 その二
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/10 21:04
道徳だの仁愛だのって。
楽しけりゃ良いじゃねえか。








「うおぉぉぉー!! なんだこりゃー!?」

下から騒がしい声が聞こえてきて、思わず画面から目を離す。しかし、その間も目の端に微かに映る文字を見て操作を続ける。マルチタスク、とか言うんだったか。

それにしても、我が父はトラップに掛かっただけで大袈裟な。少しばかりいつもより危険度が増しているだけで、せいぜい骨折レベルだろうに。
自分の仕掛けているトラップの危険性を理解していないのだろうか。あれ、下手したら死人が出るレベルなんだが。

絶叫から数秒後、扉が開いた。そこから、服がボロボロになった、満身創痍の父がふらふらと部屋に入ってきた。
なんというか、お疲れ様です。

「お前は……実の父親を殺す気かっ!」

「逆に聞くけど、あんたは家族を殺す気かよ」

「それはそれ、これはこれだ!!」

なんという暴論。いや、理屈にもなってないから、暴論でも無いのか。
我が父ながら、その清々しいまでの馬鹿っぷりは尊敬する。せざるを得ない。

「で、なんか用かい?」

「うむ。母さんが引っ越しを認めてな。お前、前々から言ってただろう? どこだったか……そう、海鳴市か。あそこに引っ越したいとか」

そうか、とうとう許可が下りたか。



何度かハッキングを繰り返す中で、俺は気になる情報を手に入れた。
警察機関に協力する超能力者。古来より伝わる陰陽術系統の剣術の後継者。様々な企業で名前の出てくる、《夜の一族》……。

もう、俺の好奇心がビンビンに掻きたてられる情報ばかりだ。
これらの情報から総合すると、明らかに人外魔境の地だろう、海鳴市は。考えただけでワクワクしてくる。

これを知った時に、即座に両親に頭を下げていた。引っ越しさせてください、と。

思えば、俺は二人に迷惑ばかりかけてる気がする。
まずは俺が生まれたこと。こんな狂人が生まれてすいませんって感じだ。しかし、俺の周りには変態しか集まらないようで、両親もまたおかしい人達だった。

前世の両親のぶっ飛び具合には及ばないが、それでも変態と言って良い程におかしな性格をした人達だった。家にトラップを仕掛けていたりする辺り、なんか関係性を感じるのは俺の気のせいでは無い筈。

それはさておき、俺が普通の子供を装ってたのに、普通じゃない事を見抜いて追及してくるし。妙に勘が鋭いのも共通点だな。
まぁ、俺もそんなに長い間騙せるなんて思ってなかったしな。普通の子供なんて見た事も無いのに、演技なんて出来る訳も無い。演技自体苦手だから、どうしようもなかった。

家を出ていく決意もして打ち明けたのに、『こまけぇこたぁいいんだよ!!』と流され、何事も無かったように夕食へ。俺の決意は……?

その後にも、パソコンが欲しいと言ったら異様なスペックを誇るスパコン持ってきたり、俺がハッキングしてても何も言わなかったり。ゴメン、あんたら何者よ。
スパコンは丁重にお断りし、一室占拠する程度の物に落ち着いた。将来的に、もっと大きな物も欲しいが、自分の家を買うまで自重する。

暇つぶしにテレビを分解したり、冷蔵庫を分解したり、真冬なのに電気ストーブとエアコンを分解したりエトセトラエトセトラ。
本当に迷惑しか掛けてない気がするが、それでも許してくれたのは、本当に有難い。自分でも衝動を抑えきれない時があるから、普通の家庭だったら虐待とか育児放棄とか夜逃げとか、問題だらけだっただろう。

その点では、これ以上ない程に恵まれているのだろう。それだけは断言できる。
だがしかし、両親が変態だという事も断言できる。これは間違いない。



少しばかり脱線したか。しょうがない。思考回路が迷宮入りしてるからな。
それしても、あの母がよく許可したものだ。面倒なことは嫌いな自由人の筈なんだが。

「明日出発だから、すぐに荷造りしろよ!」

「は? いやいやいや、この機材を一日で纏めるのか? 無理ムリ、常識的に現実的に人手的に体力的に無理だからな?」

「気合でなんとかなる!!」

駄目だこいつ、早くなんとかしないと……。

「それよりも、母さんがよく許可したな?」

「あぁ、なんかスイーツが有名な店が有るとか……なんて名前だったか」

父の呟きに、思わず深く頷く。あの人は、異常なまでの甘党だからな。
一時期キッチンが父さんの悪戯で半壊した時には、三食ケーキだった時も有ったくらいだ。あれはもう、病気の域に踏み込んでいると思う。

納得したところで、時計を見る。夜の八時だった。
おいおい、どんなに急いでも徹夜が確定してるじゃないか。まぁ、『72時間働けますか』を実践してた時期も有るからな。たかだか一日寝ない程度、なんの問題にもなりはしない。

「成程納得。じゃ、出てけ。後、その辺の配線踏むなよ」

実の父親になんて口遣いだ、とかなんとか言って出て行った父を背に、画面に目を戻す。
先程から手が止まっていたからな。作業を進めなくては。

キーボードの上で指が踊る。ウインドウが現れては消え、俺の意識も電脳世界に沈んでいく。目には数字とアルファベットの羅列だけが映る。

――見つけた。

目的の場所へ辿りついた。ここが、この地域一帯に電力を配給してる発電所の最深部か。
カタカタっと何度かキーボードに指を走らせる。簡単にシステムを掌握、全権を握った。

外を見る。こんな都心から外れた街とは言っても、明かりの絶えることは無い。
……そう、普通なら。

「暇つぶしには最高だな。んじゃ、俺の誕生日を祝って――」

――エンターキーを、押した。

その瞬間、この街は暗闇に包まれた。光一つ無い。この家だって例外ではない。
俺のパソコンだけは、自家発電のために無問題だが。

用意してあったケーキを出し、蝋燭を六本立てる。ライターで火を点け、パソコンに布団をかけて光を遮断。真っ暗な部屋に、蝋燭の儚げな明るさが映える。

「ハッピーバスデートゥーユー♪……以下略」

あんまりと言えばあんまりなバースデーソング。しかし、そこまで形式主義ではないので省いたところで問題は無いだろう。

息を吹きかけ、蝋燭の火を消す。部屋が闇に染まる。
布団をはぎとりパソコンの前に座る。もう一度キーボードに指を走らせ、全権を元のコンピューターに戻し、接続ログを消去する。

先程とほとんど同じ作業を済ませ、俺がこの停電を起こした証拠を全て消す。

「ふぅ……うん、良いもんだな。来年もやるか」

さてさて、海鳴か……一体どんな楽しい事が待ってるんだろう。
あぁ、今からワクワクしてきた。最高に面白い事が有るのを望んでるよ。

――壊し甲斐の有りそうな人達も居るみたいだしな……。








うーん、前話に引き続き、なんか微妙。やっぱり、引き籠ってないと陰鬱展開が書けませんね。
とりあえず、二人目は海鳴へ。まぁ、聖祥に在籍するだけで、原作キャラとは接点を持たないでしょうが。
三人目、頑張ってオリ主してくれ、本当に……。




[20906] 【ネタ】こんな人間が転生したら・リリなの世界編 その三
Name: UNI◆571f25cd ID:3c10c679
Date: 2010/08/15 13:59
悲しいのは嫌じゃない。
寂しいのは嫌だ。








あの日、僕は新しい人間として生まれ変わった。
それは比喩表現などでは無く、文字通り『生まれ変わった』のだ。

目が覚めたら両親が居た。優しい言葉をかけてきた。慈愛のこもった瞳で見つめてきた。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。常に僕を見てくれていた。
――そのどれもが、かつて僕が望み、叶わなかった夢の欠片。

ただ嬉しかった。
多分、浮かれていたんだと思う。嬉しさの余りに、人の感情を読み取ることをせず、周りの気配を察することもせず。盲目的に、日常を謳歌していた。

だから、それは当然訪れるべきことが訪れただけのこと。
何も問題は無い、気にする程のことでは無い……筈だった。

今までの僕なら、人の感情に心を閉ざし、自分の殻に引き籠って、他人に目を向けなかったから、なんの影響も無かった。
だけど、僕は人の愛を知った。無条件に寄せられる無償の愛を知ってしまった。

僕は変わった。それが良いか悪いかに関係無く、僕は変わってしまった。
これが普通の人間なのだろう。これこそが、どこにでも居るような人間の感情なのだろう。

二度目の人生で気付くとはなんとも愚かなことだが、前世の僕は人に目を向けなかったから仕方が無い。不可抗力である。
そう、環境が悪かったのだ。僕を捨てた両親、お恨み申し上げます。

脱線した。

つまり、僕は真人間になったということだ。まともな感性を手に入れ、感情を表に出せるように。
だから、新たな両親に、僕が前世の記憶が有るとばれた時、僕の心臓は早鐘を打つように鳴っていた。

怖い、嫌だ、逃げたい、死にたい、消えたい……助けて――。
訳の分からぬ思考が頭を駆け巡る。正と負が入り乱れて、混沌となり、矛盾する。

これが当然なんだ。こんな事は嫌だ。
恐れる事なんて無い。こんなこと望んでない。
受け入れろ。誰か助けて……。

ぐるぐるぐるぐる、思考回路が巡り異常に回る回る回るマワル――。

『あなたがなんであれ、私達の子供であることに変わりはないわ』とは、母の言葉。
恐怖と絶望と不安と一縷の望み。混ざり混ざった感情が心を埋め尽くしていた僕に、一筋の光明を見せた希望の言葉。

父もまた寛大で、慈愛に満ち溢れた人格の持ち主。
何一つ口を挟む事無く、母の言葉に頷いて、僕に優しい笑顔を向けていた。

僕の悩みはなんだったのかと思わせる程に、二人は変わりなく僕に愛情を注いでくれた。
前世の記憶が有るということはつまり、二人の子供には決してなり得ないということだと言うのに。

だけど、だからこそ、僕は今こうして笑っていられる。
かつて望んだ幸せな日々が、温かく優しい家族が、僕の空虚を満たす。曇った感情が、二人の愛で澄み渡る。

だから、使ったことも無いような、この言葉を贈りたい。
『ありがとう』――まだ恥ずかしくて、面と向かっては言えないけど、いつか、心から伝えられる時が来たら……そのときは、きっと――。






「――ん、――くん、行くわよ」

微かに聞こえた母さんの声で、深く沈んでいた意識を浮上させる。
これはまた、恐ろしく長い思考に浸っていたようだ。僕らしくもない。もっと淡白で、割り切ったキャラこそ、僕だというのに。

「うん、母さん」

返事をしないのもどうかと思ったので、またも思考の波に呑まれかけていた意識を引き戻し、返事をして母さんの後について外に出る。

晴々しい陽気だ。爽やかな風が吹き、暖かな陽の光が体に降り注ぐ。
しかしまぁ、無駄に暖かいことだ。もう少し涼しい方が、僕の寒々しい心には丁度良いんだが。

それにしても、家を出たは良いが、この辺りの地理はほとんど把握してないんだ。もしも母さんとはぐれたら、迷子になって人に道を尋ねる自分の姿が目に浮かぶ。
でも人と話すのは基本的に苦手なので、そうはならないかもしれない。うん、自分で自分が分からない。まるで人格が安定しない。

理由は分かっている。異常から正常へ、異端から正統へ変わろうとする心の拒否反応だ。
22年間付き合ってきた自分の性格、人格が、たかだか3年の経験で簡単に変わる訳が無い。なにより、僕自身がそれを望んでいない。

確かに、僕が夢見ていた穏やかで暖かな日常は手に入れたが、だからといって、僕の個性を無くす気は無い。
今まで通り、他人には基本的に不干渉。友人はまぁ欲しいけど……僕のスタンスを崩してまで作ろうとは思わない。

興味の無い人間に付き合ってられる程、僕は心は広くない。両親とは違うんだ。寛大な心? 無償の親切? 優しい言葉? そんなものを僕に期待しないでくれ。
無論、気に入った人間にはとことん付き合おう。そんな人間、僕が小さい内は居ないだろうけど。

「あら? あの子、一人で居るみたいだけど……」

母さんの呟きに、思考を停止させて視線の向く先を見る。
僕がいつも母さんに連れられて来ている公園だ。砂場が異常に大きく、その割には遊具が少ない、妙な特徴を持った公園である。

その砂場に、一人の女の子がしゃがみ込んでいた。
茶髪のツインテール、僕と同い年くらいの背格好。悲しさと寂しさの入り混じった、沈み込んだ表情で独り居る。

――まるで、孤児院時代の僕みたいだ。

一瞬くだらない思考が脳裏を掠めたが、即座に首を振り打ち消す。この僕が、あんなどこにでも居そうな子と似ているだなんて、そんな訳が無いだろう。
本当に僕は、何を考えているんだ。

「一人で遊んでるのも寂しいわよね……うん、ちょっとあの子の所に行ってきて遊んであげなさい」

何故か僕に振られた。
自分で行けばいいじゃん、僕はあんな子に興味無いよ……と言えたら良いんだが、基本的に母さんの言葉には逆らえない。それは父さえも例外ではない。我が家の暗黙の了解にして、絶対厳守のルールだ。

「……分かった」

少し気の抜けた返事になったのは許してほしい。
自分の意にそぐわない事をするのは、どうにもやる気が出ないのだ。それが例え、偉大なる母上の言葉でも。

砂場に歩いていき、女の子に近づく。こちらにはまだ気付いていないようだ。もうそのまま気付かなければ良いのに。
そんなことを考えたが、母さんの視線を感じて、しょうがなく歩を進める。

少女がこちらを向いた。
明らかに、僕が誰かと不思議がっている顔だ。あぁ、これは自己紹介をしなきゃいけないのか。

仕方ない。不本意ではあるが、一緒に遊ぶためには名前を教えなきゃダメだろう。

「やぁ、一緒に遊ばないかい? 僕の名前は――――」



それが僕と、彼女の出会い。
これから先、ずっと付き合っていくことになる人との、ファーストコンタクト。







三人称視点での語りは無し。そんな気力は無い。
ちまちまと大会の合間に書き上げました。クオリティーの低さは、まぁ元からですので気にせずに。
三人目は主人公組へ。だけど一つ言いたい。どうしてこうなった!
彼、本当だったらもっと社交的で明るい優しげなオリ主になる予定だったのに!!……僕が悪いんじゃない。この指が悪いんだ。


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