司法修習生のための即独マニュアル
自分は7年前に即独しました。上から目線で恐縮ですが,即独する人への若干のアドバイスします。
1 同期の他の弁護士のことを嫉(ねた)まない
自分は,開業後しばらくして,ある大手渉外事務所と,ある事件を共同受任した。そして,なぜか,彼らと海外出張に一緒に行くことになった。しかし,待ち合わせの時間になっても,彼らは空港の出発ロビーに現れない。搭乗直前になって,ビジネスクラスラウンジから出てきた彼らが,「高橋先生,こんなとこにいたんですか,ラウンジでずっと待っていたのに全然来ないんだからっ」て。自分はとっさに,エコノミークラス搭乗券を隠したが,もう二度と卑屈にならないって誓ったね。
2 節約節約
自分は大阪出張はいつも高速バスだった。それも,青春ドリーム号の補助席。開業早々って,そんなもの。いびきの大合唱が始まる前に,酒かっくらって寝るのが正解。そういう苦労って,大切だと思う。いまでも,うちのイソ弁にはときどき高速バス乗せている。有楽町から東京地裁へは当然歩きだよね。地下鉄のったら料金とられるでしょ。
3 事務所
即独の君には事務所は必要ない。自分は自宅開業だったよ。お客様との打ち合わせは,法人顧客ならその会社の事務所に伺うし,個人顧客なら弁護士会の会議室を無料で利用できる。何のために高い会費払っているんだい。開業早々は固定費が悩み。事務所なんて年収500万以下の分際で贅沢品だと思うべきだね。
4 秘書
即独の君には秘書は贅沢だ。年収1000万円を超えてから考えたらどうだい。即独のとき,自分は1万数千円出して,電話秘書サービスを使っていた。普段は自分の携帯電話に転送しておく。そして,移動中とか法廷のときは,秘書サービスに転送する。「○○さんから電話,折り返し○○に電話してください」っていうメールが来る。秘書を雇うときには,顔で選んでだめだ。健康かどうか,事務所経験はあるかどうか。テレビCMで有名な過払い債務整理専業事務所の事務員経験者は優先的に採用すべきだ。最初の秘書は同性がいい。君が男だったら秘書は男,君が女だったら秘書も女を雇うべきだね。異性だといろいろと難しい。
5 ライフワークバランス
残念ながら,君の辞書にはその言葉はない。ライフワークバランスは開業してから10年後に考えたらいい。昼は営業,夜は仕事,余暇なんか楽しむヒマはないはずだ。同期の弁護士は営業してないかもしれない。でも,即独は営業が必要だ。3年も経ったら,同期の彼/彼女と比べて,十倍も二十倍も大きくなった君がそこにいる。だから今はじっと我慢だ。自分は開業してから7年経つけど,まだ一日たりとも休んだことはない。正月もお盆もね。ライフワークバランスなんて言葉は今すぐ忘れよう。
6 法人営業と提案型営業
あまり声を大にいえないのだけど,個人顧客よりも法人顧客を優先すべきだ。個人顧客はリピーターになってくれないが,法人は気に入ってくれさえすればリピーターになってくれる。営業の仕方?それを聞いている時点で終わっていると思うけど,いちおう話しておく。まず,異業種交流会には毎晩出席だ。名刺は一日十枚以上配らないと。税理士,社労士,司法書士,弁理士,行政書士などの士には友人を沢山もつこと。名刺もらったら,その日のうちに挨拶メールを出すこと。そして,3日以内にその会社に訪問すること。これって常識だ。あと,同窓会の名簿には挨拶状を全部だしたよね。そして,1社1社訪問だ。会社訪問は一日5社が目標。起案なんて夜やるべきだ。勉強会だとか研修会もできるだけ出席だ。目的は勉強じゃない。名刺を配ることだ。名刺は最低月300枚配ることが大切。突撃営業だったやるべきだ。あと,会社設立は法務局の登記データベースみてればわかる。設立した会社には誰よりも早くご挨拶にいかなきゃ。営業していると,潜在的顧客が何を望んでいるのかが少しずつ分かっている。そこで,顧客が望んでいることが分かったら,「是非,私を使ってみてください!」って頼んでみよう。仕事もらえるのは10件に1件だろう。でも,100回頼んだら,10件も仕事が来るんだ。何事もポジティブにね。簡単なことだ,そのお客様がいま使っている弁護士よりも少しいいクオリティの仕事を,その人の半額でやればいいんだ。そうすると確実にリピーターになってくれる。他の弁護士から仕事を奪うことになって失礼ではないかって?「都会それは荒野,ここは非情の掟」。他の弁護士は食うか食われるかの関係で,仕事出すのはお客様だ。なにも遠慮することはない。
7 法律事務所営業
既存の法律事務所にご挨拶に上がって,是非,下請け起案で結構ですから,うちに仕事回してくださいって頼んでみよう。まともな弁護士なら,それなりに報酬出してくれるはずだ。10事務所回ったら3事務所くらいから仕事もらえるよ,きっと。
8 報酬の考えた
法人クライアントが君に出すはじめての仕事はトライアルなんだから,報酬をもらえると思ったら大間違いだ。Gmailだってはじめはタダ,ディスク容量増量すれば有料になる。法人相手の1回目の仕事はタダでやるべきだ。そして,気に入ってもらえたら,リピーターになってもらう。一年もしたら,リピーターが増えるだろう。開業早々の時につきあってくれたクライアント様は一生の宝物だ。
9 隣接業務
これは積極的にやるべきだね。他にやること無いんだからやるべきだろう。確定申告書の作成,有価証券報告書の作成,特許出願,商標出願,法人登記,各種行政関係書類の作成,血吐くぐらい勉強してやるべきだ。「租税法は選択してません」なんて口が裂けても言っちゃいけない。
10 即独は勝ち組である
即独は就職できなかった負け組だなんて思ってないか?そんなことはない。就職組の甘チャン弁護士と違って,茨の道を進める幸せをかみしめるべきだ。就職組だって,数年したら事務所を追い出される。即独の君は,その経験を人より早くできるんだ。飛び級みたいなものだ。収入だって,はじめはキツイかもしれないが,数年したら同期の就職組の何倍も何十倍も稼いでいるはずだ。
以上,上から目線で失礼しました。時間のあるときにまた補充しますが,批判が多ければ削除します。