2010年7月12日 2時24分 更新:7月12日 12時5分
参院選で民主党など与党が非改選議席と合わせて過半数を大きく割り込む敗北を喫し、衆参で多数派が異なる「ねじれ状態」となったことで、菅政権は「袋小路」に陥った。菅直人首相(民主党代表)は敗因と認めた消費税増税問題をいったん仕切り直し、躍進したみんなの党などとの連携を念頭に「ねじれ回避」への多数派工作に自信を見せたが、マニフェスト(政権公約)を維持したままでの政策協議は難航必至で、菅首相の主導権がしばられるのは確実だ。民主党内では9月の代表選をにらみ、非主流派の小沢系グループの巻き返しも予想される。活路を見いだせないまま不安定な政権運営を強いられるのは避けられず、政局は流動化含みの展開となりそうだ。【中村篤志】
首相は12日未明の記者会見で、新たな連携について「やれるところから政策的に共同作業を進めていく」と述べ、連立ではなく、政策ごとの部分連合を目指す意向を表明した。消費税増税を含む税制改革を巡る超党派協議に関しても「改めて私の方からも呼びかけをしたい」と語り、今後ともあきらめない考えを強調した。
仙谷由人官房長官は会見に先立ち首相に選挙の敗因などへの発言を避けるよう助言した。しかし、首相は財政再建に向けた問題提起で「国民の認識が深まった」と強気の姿勢を崩さなかった。首相批判が高まる中、「いったん態度を後退させたら、今後の政権運営で指導力を失いかねない」(閣僚の一人)との危機感ものぞく。
表向き強気の姿勢で中央突破を図る首相の思惑とは裏腹に、政権を取り巻く状況は厳しい。首相は11日午前に党幹部に「消費税の取り扱いは慎重にしたい」と伝えており、党内の世論形成すらこれからだ。
首相が参院選で「消費税率10%」を持ち出し、年金制度改革で超党派協議を呼び掛け、議員定数削減に意欲を示したのは、これらの政策協議に前向きな自民党を想定した「大連立」につながる構想があったとみられる。
首相はなお消費税をテコに連携を模索する構えを崩さないが、自民党の谷垣禎一総裁は11日、「バラマキ政策へのざんげ」を条件に消費税協議に応じる姿勢を示すが、連立は拒否し、大連立の実現性は低い。
一方、首相サイドが秋波を送るのはみんなの党だ。首相周辺は「連立とか部分連合とは言わず、公務員改革で一緒にやろう、と呼び掛ける」と指摘。連立維持の方針の国民新党にみんなの党を加えれば「安定政権を築ける」(周辺)との読みが開票前にはあった。
しかし、開票結果は与党にみんなの党を加えても過半数に届かず、さらなる連携相手が必要だ。同党の渡辺喜美代表は公務員制度改革に限った連携の可能性に言及したが、公明党との連携は「長年公明党を批判してきてだれがパイプ役になれるのか」(閣僚経験者)というのが現状。政権運営は八方ふさがりで、政局混迷に拍車がかかる危険性もある。
菅首相が目標とした「54議席」に届かなかったことで、菅執行部への批判が強まるのは確実だ。小沢氏系の議員グループからは、内閣改造・党執行部人事の断行を迫る声が強まっている。
小沢氏に近い議員には「日本の政治を劣化させる」(細野豪志幹事長代理)と首相退陣論は出ていないが、高嶋良充参院幹事長は11日夜、「責任を明らかにしていく必要がある」と言及。小沢氏に近いグループでは、選挙を仕切った枝野幸男幹事長や安住淳選対委員長らの責任論が浮上している。これに対し、首相が枝野氏ら執行部を続投させる考えを表明したのは、非小沢系の代表格の枝野氏だけに責任をとらせる形で辞任させれば、小沢氏との距離を保つ政権の構造が変わりかねないためだ。
枝野氏が引責辞任した場合、後任人事で小沢氏側が影響下にある人材の登用を迫る可能性がある。後任人事で枝野氏よりも「非小沢色」が後退すれば、党内で小沢氏の存在感が相対的に高まり、9月の党代表選にむけた党内情勢に影響する。小沢氏の側近は、「1人区で敗れたのは自公協力を復活させたのが原因」と、9月代表選に照準をあてる考えだ。
ただ、小沢氏側には有力な候補がおらず、小沢氏自身の出馬を求める声がある。ただ、小沢氏は資金管理団体による土地取引を巡る政治資金規正法違反事件での検察審査会の2回目の議決待ちの状態。再び「起訴相当」となれば、離党問題などが浮上し、一気に求心力が低下するのは避けられない。
参院選の勝敗を左右する改選数1の「1人区」(29選挙区)は、自民党が21勝したのに対し、民主党は8勝にとどまり、与党過半数割れの主要因となった。民主は27選挙区に公認候補を擁立したが、栃木の簗瀬進前参院国対委員長など秋田、栃木、群馬、長崎の計4選挙区で現職候補が落選し、8勝19敗の大敗。公認候補を立てた21選挙区で17勝4敗だった07年参院選と対照的な結果に終わった。一方、大勝した自民は現職候補11人が全員当選した。
民主は今回、29の1人区のうち無所属候補を推薦した香川、公認・推薦を断念した沖縄以外の27選挙区で公認を擁立。自民党は全選挙区で公認候補を立て、両党激突の主戦場となった。
もともと自民の牙城とされてきた1人区で、自民は01年に小泉ブームもあって25勝2敗と圧勝。しかし、04年は14勝13敗(2選挙区は推薦する無所属候補が敗北)、定数是正で1人区が29に増えた07年には6勝23敗と退潮が顕著となり、昨年の政権交代に結びついた。
しかし、自民が01年に勝った25選挙区でみると、今回は6連勝してきた福井、3連勝してきた和歌山、山口、鹿児島の「金城湯池」の4選挙区で議席を確保。07年に民主、国民新党に議席を奪われた石川、島根など8選挙区すべてで議席を奪還した。さらに、04、07年と民主が2連勝した6選挙区のうち青森、長崎の2選挙区で久々の勝利をおさめた。伝統的に強い九州、中国、四国の計15の1人区で負けたのは岡山、高知、大分だけだった。
2人区では、自民が1人の擁立に絞ったのに対し、民主は新潟、福岡を除く10選挙区で2人の公認候補を擁立したが、いずれも1人は落選した。このうち9選挙区では、小沢一郎前幹事長の方針で地元県連の反発を抑えて現職に加えて新人を擁立したが、岐阜を除く8選挙区で小沢氏が支援する新人が落選し、党内での影響力拡大につなげる小沢氏の狙いは果たされなかった。
5ある3人区では、民主が埼玉、神奈川、大阪で、それぞれ擁立した2人の公認候補が3位を争った。07年参院選では、候補者を1人に絞った大阪以外の4選挙区で2人の公認候補が当選し、3人区全体で9人が当選した。しかし、今回はその都市部でも苦戦し、愛知を除く4選挙区で1人だけの当選となり、計6人の当選にとどまった。
民主は選挙区で、現職の大物議員らの落選や苦戦が相次いだ。参院民主を束ねる山梨の輿石東参院議員会長は自民新人に肉薄され、辛勝。一方、1人区の簗瀬氏らのほか、複数区でも神奈川の千葉景子法相や岐阜の山下八洲夫参院副会長らが落選。1人区と複数区を合わせて民主は現職を29人擁立したが、うち7人が議席を失った。これに対し、自民は現職で立候補した20人のうち、議席を失ったのは千葉の椎名一保氏だけだった。【仙石恭】