あらすじ 「実は――お前の乳首が見たいんだ……杏子(きょうこ)……」  中学二年生の今本(いまもと)寛(かん)太(た)は、ある日いきなり心神を喪失し、本人を目の前に爆弾発言をしてしまう。居合わせた大坪(おおつぼ)雄(ゆう)平(へい)ら友人一同は絶句。狂気の原因はアガペーウイルスというウイルスだった。アガペーウイルスは感情を司る神経細胞に寄生し、好意を抱く対象に直接的な愛情表現を示すようになるという。その晩、父の剛三(ごうぞう)、母、初枝(はつえ)、妹のことみもそれぞれ寛太のような痴態を犯していたことが判明する。一方、幼馴染の小林(こばやし)小枝子(さえこ)は蔓延するアガペーウイルスに乗じて以前から好いている寛太に告白できたら、と考えていた。しかし将来の丈夫さから罹患できずにいた。  そんな中、寛太が再び心神喪失。ゲイである藤本(ふじもと)敏(とし)行(ゆき)との交際を宣言する一方で自分に思いを寄せる小枝子に対して何故か暴言を吐いてしまう。放課後、正気を取り戻した寛太に小枝子が殺されそうだという電話がかかってきた。小枝子の生家、小林豆腐店で一家心中事件が起きていたのである。犯人は小枝子の父小林(こばやし)哲郎(てつろう)。豆腐店経営の首が回らなくなったことが原因だった。寛太はウイルス入りの喀痰(かくたん)を武器に小林豆腐店に潜入。哲郎の心神を喪失させ小枝子を救出する。だが同時に感染した小枝子から暴行を受け病院送りになる。  入院した寛太の元へ友人たちがお見舞いに来る。ほのぼのとした空気が流れ出したところで、雄平が病室をそっと抜け出し病院のロビーへ向かう。そこには大坪の祖父にして大学教授でもある大坪(おおつぼ)豊(ゆたか)の姿があった。豊は、現代日本を覆う倦怠と徒労を払拭するためにアガペーウイルスを作製し、雄平はその陰謀に加担していたのだった。そして、世界は個体解放主義の時代を迎えることになった。