きょうの社説 2010年8月15日

◎終戦記念日 事なかれ主義に陥らずに
 暑い夏とともに巡ってきた8月15日も、戦後65年の今年は、いつもと違った風景が 広がっている。民主党政権になり、全閣僚が靖国神社に参拝しない考えを示した。さらに、政府は日韓併合100年に合わせ、謝罪と反省を示す首相談話を表明し、近隣諸国への配慮をにじませた。

 これらの対応から、菅内閣が独自のカラーを印象づけたいという意図は伝わってくる。 これまで靖国参拝や歴史認識が政争の具となり、追悼の日にふさわしくない喧騒が繰り返されてきたのも確かである。大事なことは、首相談話にしても、それを日韓の成熟した関係につなげられるかである。

 日韓関係で言えば、先月末に予定されていた防衛白書の閣議了承が9月に延期された。 白書には竹島の領有権が明記されているが、今月29日の韓国併合条約発効100年を控え、政府が過剰に反応したとの批判が野党から相次いだ。そうした小手先の対応をみれば、国の根幹をなす外交や安全保障で、事なかれ主義に陥らないかという懸念もぬぐえない。

 衆院選を控えた昨年の終戦記念日は、政権交代が確実視されるなかで、戦後政治の転換 を期待する声が高まっていた。一方で、民主党の外交・安保政策がアキレス腱になることも早くから指摘されていた。普天間飛行場移設問題で鳩山政権が行き詰まり、この一年で不安は現実のものになった。

 敗戦から立ち直り、高度成長で目覚ましい復興を遂げた日本は、国内総生産(GDP) で中国に抜かれることが確実となっている。戦後日本の歩みを象徴的に示す「世界第2の経済大国」という看板も早晩、降ろさざるを得なくなる。それに代わる拠りどころを日本はどこに求め、国際社会で存在感を高めていくのか。

 外交や安保は国の針路そのものである。その羅針盤を欠いたままでは、いつまでたって も方向感覚は定まらないだろう。世界的な軍縮の動きや地域紛争の抑止でも日本が果たすべき役割は重みを増している。政権がまず外交・安保でしっかりとした基本軸を定め、日本の確かな未来像を描くことが戦没者への誓いとなる。それが内外から信を得る出発点でもある。

◎北前船のまちづくり 遺産生かす熱気広げたい
 能登で唯一の国の重要伝統的建造物群保存地区である輪島市門前町黒島地区で、北前船 の港として栄えた歴史的な街並みの保存整備が進んでいる。同地区は能登半島地震の被害を乗り越え、伝建地区選定を通じて震災復興に取り組むモデルケースとして注目を集める。貴重な歴史遺産を生かした能登振興につなげてもらいたい。

 同じ伝建地区の加賀市橋立地区など、北陸には北前船ゆかりの地が多い。栄華を極め、 数々のドラマを秘めた北前船は観光資源としても大きな魅力がある。黒島地区をはじめ、各地がそれぞれの歴史遺産に磨きをかけ、連携を強めて「北前船の北陸」をアピールしていきたい。

 約230世帯が住む黒島地区は能登半島地震で多くの被害を受けたが、「まちづくり協 議会」を中心に、復興に向けて伝統的な街並みを生かす取り組みを進めてきた。昨年6月に伝建地区に選定され、改修の際に支援を受けられるようになった。

 今年度スタートした保存整備事業を受け、8世帯が統一感のある街並みを形成する黒瓦 屋根や外壁の下見板張りに整える改修に乗り出している。地域の財産を今に生かし、後世に伝えようという地元の熱意と努力がまちづくりのエネルギーになっているといえる。

 伝建地区の選定後は「まち歩きマップ」の作成や案内板設置などの街並み整備に取り組 んでいる。来春の公開を目指して修復中の廻船(かいせん)問屋住宅の「角海家」や黒島天領祭など、町の活性化に結びつく有形、無形の文化財もそろっており、同様に文化財が多い能登の各地区にとっても黒島地区の取り組みは参考になろう。各地区の歴史や文化は能登の活性化、観光振興にもつながる大事な財産である。特色あるまちづくりを着実に進めてほしい。

 北陸の北前船ゆかりの地では、加賀市橋立地区や富山市岩瀬地区などで歴史的な街並み を中心にしたまちづくりが進んでいる。それぞれ身近な地区から交流を深め、北前船時代の歴史を刻む観光ルートを広げてもらいたい。