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[21122] 【ネタ】主人公補正の裏側
Name: 中の人◆fb9d4b16 ID:dfbc6fc1
Date: 2010/08/14 04:33
「……わんもあ、ぷりーず?」
「お前は既に死んでいる」
 無垢を通り越して、虚無的なまでに白い何も無い空間に会話の声が響く。
「ええっと、俺は確かインスタントラーメンを食って、寝て……」
「夕食代わりのカップ麺を食べて就寝中に死亡。死因は一酸化中毒。隣が火事になったのが運のつきだったな」
「変わった夢だな、うん」
「現実逃避はかまわないが、人生をやり直すチャンスは欲しくないか? 今なら、特典付き」
「……意味が分からん。これはアレか、テンプレ的な神様が転生させてあげるよ、ついでにチートもおまけするぜなアレか?」
 こんな夢を見るほどに安っぽい厨二願望が強かったのかと愕然としている青年に、人型をしているとしか認識できない何かが頷く。
「いかにも、私は神だ。それも、デウス・エクス・マキナ――字義による機械神でなく、原義のご都合主義だな。あるいは、舞台装置」
「……自分でご都合主義っていう神様は初めてだ。ええと、ほらキリストとかじゃなくて?」
「キリストが絡むのは、キリスト教徒の前だけだ。そもそもだ、人間の死後は生前に信じていた宗教による。死後の担当は、生前に信じていた神によるな。つまりは、信じる者は救われる。そういう事だ」
「何の宗教にも入っていた覚えは無いんだが」
「日本人の大半はそうだろうな。信仰しているといえるほどに、何かの神を崇めてることは無い。だが、運を天に預けるような時に祈るだろう? 都合が悪い時に助けてって、祈るだろう? 神様って。いわゆる神頼みだ。そしてその神は、具体的な神ではない。ただ、自分の都合を良くしてくれてと虫のいい話を求められるだけの対象だ」
 そこまで言われればわかる。
 自分の事をご都合主義と言った、この良く分からない存在はつまりそういう存在だ。
「そう、つまり私は神を崇めぬ人間が求める神だ。人間に都合のいい、ただ救いを与えるだけのご都合主義が具象化した存在だ」
「だから、俺に特典付きで転生をさせてくれると?」
 問いかけに、どんな顔かも認識できないのに口元を吊り上げてにやりと神が笑うのが認識できた。
「なぁ、ラブコメの主人公の周りには美少女ばかりだと思う? エロゲの主人公はハーレムを築けると思う? なぜ、物語の主人公は才能に恵まれていたり、人間関係に恵まれていたりすると思う? 主人公のなすことは、最終的な成功が約束されていると思う?」
「……主人公補正ってヤツか?」
「正解だ。そして、その主人公補正のひとつとして選ばれたってわけだ」
「……はい?」
「だから、物語の主人公として転生したヤツは既にいるんだよ。あとは、その周囲を飾る登場人物だとかを選んでいるところだな」
「え、なに……つまり、俺って脇役?」
「今回、具象化した私は神格が低くてな。因果律補正がほとんどできないから、周囲をその分飾ることで対応しようと思ってな」
 テンプレ転生物の主人公かと思ったら、いきなり脇役宣言されたでござると急展開についていけず、ぽかんとあっけに取られた表情が青年の顔に浮かぶ。
「転生先は文明崩壊クラスの騒ぎが起こるから頑張って生きろ。目標はイベント開始後から30日間の主人公生存。達成できたら、次回は主人公で転生させてやろう」
 神が手を振る仕草にあわせて、トランプのようなカードが4枚セットで4列空中に並ぶ。
 「精神」「肉体」「社会」「特殊」と書かれたカードが、4枚セットで4組16枚。青年の手元へと宙を滑り、バラけてテーブルに並べられたように広がる。
「特典は、そのカードの組み合わせで選べ。選べるのは4枚。精神を選べば、諦めない不屈の心とか、高い知性とか精神的なスキルが身に付く。肉体を選べば、常人より恵まれた身体能力だとかが身に付く。社会を選べば、生まれを選べる。権力者の子と生まれるのも、金持ちの子として生まれることもできる。特殊を選べば、超能力を身に着けたり、人間をやめたりできるな。組み合わせもできるぞ。例えば、社会と特殊を組み合わせて、魔術を伝える家の子に生まれたり、肉体と特殊を組み合わせて人狼とかな。サービスとして、容姿は美形をデフォルトにしてやろう」
「……同じジャンルを重ねるとどうなるんだ?」
「才能の幅が広がったり、レベルが上がったりだな。全部を社会に重ねれば、それだけ金持ちの家に生まれたり、特殊を重ねて強力な力をゲットしたり、複数の力をゲットしたりな」
「で、文明崩壊するような災害に襲われる世界で、主人公を生き延びせるために頑張れと」
「そういうことだ。なに、転生先は生前とほとんど変わらん科学が幅をきかせている地球の日本だ」
「さっきの説明を聞いていると、裏ではオカルトが普通にありそうなんだが」
 魔術を伝える家だとか言っていたしと、ぶつぶつと呟きながら並ぶカードに目を落とす。
「ひとつ聞くが、社会を選ばないと貧乏人に生まれるとかするのか?」
「いや、それはない。裕福でもないが、貧困でもない平凡な家庭に生まれるだけだ。つけくわえるなら、近親者も凡人だな」
「なら、社会はいらないか」
「おや、金持ちや権力者に生まれたほうが生き延びる確率高いとは思わないのか」
「文明崩壊級の災害に襲われるんだろう? だったら、直接的な生存スキルが欲しい」
 そう言葉を返し腕を組んで、黙り込んで考え込んでしまった青年はやがてカードを見つめたまま神に目を向ける事無く訊ねる。
「訊く事がみっつある。災害が起きるのは、転生後のいつなのか? 俺以外に同様の転生をする者はいるのか? そして、転生して前世の記憶を引き継ぐのはやはりカードが必要なのか?」
 最後の質問とともにじろりと向けられた視線に、神はにんまりと笑う。
 できのいい生徒を褒めるように、機嫌よく問いかけに答えていく。
「転生後のいつにイベントが起きるかは、予定では10代後半。高校生ごろだな。君以外にも同様の話しを持ちかけた者はいる。最後の質問に対する回答はイエス。前世の記憶を持っているなんてありえない設定は「特殊」に決まっている」
「選んでいないとどうなる?」
「そりゃ、ヒロインにでもなってもらったさ。ほら、よくある話だろう? 主人公に一目惚れするってのは。運命の赤い糸を結ぶくらいはできるさ」
「惚れた相手のためには命を賭けもするってか……」
 嫌そうに表情を歪めて、溜息をつき。
「災害の内容は訊いたら教えてくれるのか?」
「それは、起きてからのお楽しみ」
「そうか……。それじゃ、俺は――」
 そして青年はカードを選び、輪廻の輪をくぐる。


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ちょいスランプ。
気分転換に書いた。


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