藤田弓子さん(新田昌子役)

 今から30年以上も前に、この枠でかなり実験的な作品に主演したという藤田さん。今回も、最近は“昼ドラ=ドロドロ”というイメージが強い中、そうではない路線の作品に出演できたことがうれしい、と語ります。

――この枠の作品はずいぶん久しぶりだそうですね。
「もう本当に(笑)。今でも忘れられませんけど、『三日月情話』(‘74年)という作品に主演したことがあるんです。ミステリーロマンというか、日本人のルーツを探る話でしたが、撮影はとにかく過酷で (笑)。丹後半島や木曽山中など日本中でロケをして、いつも走っていた記憶があります。でもとてもやりがいのある作品だったんです。今回も脚本が素晴らしいので、充実感はありますよね」
――今回演じている昌子は、北山を応援する数少ない人物の一人です。
「昌子は太陽や春風のような存在でありたい、と思っています。問題を抱えている子供たちを立ち直らせようと頑張っている北山さんがいて、その背後からたんぽぽ農場のみんなを支えている昌子や夫の“じっちゃん”(新田)がいて。子供たちが悩みに埋没してしまいそうなとき、新田夫妻が大きな太陽のように光を注いだり、寒い季節の中、ふわ~と吹く春風のように温かく包みこんだり。こういう人たちの存在って、とても大切ですよね。きっとたんぽぽ農場の子供たちは、じっちゃんが亡くなったときそのことを実感したんじゃないでしょうか」
――子供たちが抱えている問題の数々は本当にリアルですよね。
「いじめに遭いました、親に虐げられてました、というように“過去”でなく、今“現在”、いろんな悩みや問題を抱える子供たちを正面から描いていることはすごいと思います。だから台本にすごい“力”がありますよ。それに現在の話だけでなく、北山さんにどんな過去があり、どうしたたんぽぽ農場を開くことになったのか、たんぽぽ農場で暮らす子供たちはどんな過去を背負いここに来たのか、そういう話が挿入される展開もとても上手で引き込まれますよね」
――たんぽぽ農場で暮らす子供たちを演じている皆さんとの共演の感想を聞かせてください。
「本番前、やっぱりみんなまだまだ子供だから元気に騒いでいるときもそりゃありますよ。ところがリハーサルからの、みんなの集中力は相当ですね。どういうドラマを作っているのか誰もがちゃんと理解していて、自分がすべきことを分かっているから、浮ついてないんですよ。それぞれが心に傷を抱えている役でしょ。実力がなきゃ選ばれないでしょうけど、今回はすごく良いキャスティングだと思います」
――ときにはみんなにアドバイスをすることはありますか?
「それぞれに演技の経験の差はあるとは言え、私は彼らを“子役”じゃなく“役者”だと思っています。感性の部分で私はみんなのことを信じてますから。願わくば、周りの大人たちが変にお膳立てすることなく、このまま素直に成長していって欲しいですね」
――藤田さんは伊豆にお住まいだそうですが、普段から農業をしているんでしょうか?
「まったくしていません (笑)。伊豆に住んでいると農業やガーデニングをしていると思われがちですけど、忙しくて手をかけられないので、全然。でも、じっちゃんを演じていた不破(万作)さんは東京にお住まいだそうですが、家庭菜園をやっているんですって。だからくわの使い方一つ取ってもお上手でしたよ。三浦海岸でロケに行ったとき、畑にきゅうりがなっていたんです。私はなんのきなしに見てましたけど、不破さんに『よく見ると、小枝につるが巻きついているでしょ』と言われたんです。そのきゅうりは、やっと実をつけた、とても小さなものだったんですけど、落ちないよう、守るよう細いつるがキュッキュッと巻きついていたんです。その姿がとても健気で。何ででしょうね。見ていると、涙が出るくらい感動しました」
――そのつるは、まるで子供たちを守る北山のようですね。
「農業ってきっと、やればやるだけの結果が出るものだと思うんです。途中で手を抜くことは絶対許されませんよね。そういう意味では子育ても同じだと思いますよ。ニュースなんか見ていると、家族の間での争いが連日のように伝えられますが、こういう作品を作ることで何か伝わればいいな、と願っています。私も自分のことを“大人”だなんて思ったこと、一度もないんですよ。いくつになっても人は完成しないし、達観なんてとても出来ないと思う。人は死ぬまで悩み成長していくものだから、『私はなんてダメな人間なんだろう』なんて思わなくていいんです。もし自分のことを“大人”だと思い自信を持てない方がいたら、ぜひこの作品を子供たちと同じ目の高さで観て欲しいですね。子供たちの心の痛みを自分のものとして感じてくれたら、きっと得るものがあるはずですよ」

このぺージの先頭に戻る