新成長戦略:4分野で500万人雇用創出 20年度までに

2010年6月18日 11時39分 更新:6月18日 12時17分

 政府は18日、今後10年間の経済運営の指針となる新成長戦略を閣議決定した。「環境・エネルギー」「健康」「アジア経済」「観光」の主要4分野で123兆円の市場と500万人の雇用を創出。企業の競争力強化のため法人税の実効税率を現在の約40%から主要国並み(25%)に引き下げることをめざす。11年度中に消費者物価上昇率をプラスへと転換させ、安定的な物価上昇によるデフレ終結も目標に掲げた。民主党政権が策定した初の成長戦略で、菅直人首相が打ち出した「強い経済」実現に向けた具体策となる。

 戦略は、主要4分野に「雇用・人材」「科学・技術」「金融」を加えた7分野について330の施策を提示。これらの実現を通じて、20年度までの平均で名目3%、実質2%の経済成長と、失業率を3%台へ低下させるとした。

 330の施策のうち、法人税率の引き下げなど重要な21施策を「国家戦略プロジェクト」と位置づけた。同プロジェクトの施策については、10、11、13、20の各年度に分けて実現に向けたスケジュール(工程表)を作成。「期限とゴールを設定し、退路を断つ」(経済産業省幹部)ことで確実な目標達成を図る。

 さらに同プロジェクトでは、日本の「アジア拠点化」のため、外国企業の誘致に向けて11年度から優遇税制などを実施し、20年までに雇用を倍増させる。また、首相がトップの「国家戦略プロジェクト委員会」(仮称)を設置し、アジアを中心に原子力発電や新幹線、水などのインフラ輸出を官民が連携して推進。20年までに19兆7000億円の市場獲得を目指す。

 日本の高度医療の受診を希望する外国人患者には「医療滞在ビザ」を発給し、20年には医療分野でアジアトップの地域を狙う。17年までに待機児童を解消するため、幼稚園と保育園は「こども園」に一体化して整備する。

 金融分野では、13年度までに証券、金融、商品の各取引所の垣根を取り払った総合的な取引所を創設し、アジアの一大金融センターとして「新金融立国」となる目標も示した。

 一方、「デフレの終結を最重要課題にし、日本銀行と一体となって強力で総合的な政策努力を行う」とも明記し、日銀に最大限の努力をするよう要請。過度の円高を回避するよう為替についても言及した。【立山清也】

 ◆新成長戦略の骨子

・20年度までの平均で名目3%、実質2%を上回る経済成長

・失業率を早期に3%台に低下

・環境・エネルギー、健康、アジア経済、観光の4分野で計500万人の雇用と123兆円の需要創造

・デフレ終結で日銀に最大限の努力を期待。11年度中に消費者物価上昇率をプラスにし、速やかにデフレ終結

・過度の円高は回避

・7分野21政策を国家戦略プロジェクトに

 ◇解説 問われる実行力

 政府が18日まとめた新成長戦略は、菅直人首相が「第三の道」として掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」の根幹に位置づけられる。目標に掲げた「名目3%成長」が達成できなければ、財政再建や社会保障の充実も共倒れする恐れがあり、戦略をいかに実行に移すかが菅政権に問われる。

 菅首相は環境、医療・介護など、新規雇用や需要創出を期待できる分野に政策を総動員し、長年にわたる経済の閉塞(へいそく)状況を打破するシナリオを描く。「強い経済」を実現すれば税収が増えて財政も好転し、社会保障を充実させられるとの発想だ。

 だが、自民・公明両党の連立政権時代も、政府は数多くの成長戦略を打ち出してきたが、十分な成果は上げられなかった。財源不足が著しい中、菅政権は成長に必要な資金を増税などで賄う姿勢だが、雇用拡大をはじめとした成果が伴わなければ、国民の生活は厳しくなるだけ。税収増による財政再建や社会保障サービスの提供もままならなくなる。「弱い経済、財政、社会保障」に陥り、第三の道による国家運営は行き詰まることになる。

 今回の成長戦略は、いつまでにどのような取り組みをするかを「工程表」で示し、確実な実現への意欲をアピールした。だが、法人税率を巡って引き下げを求める経済産業省と税収減を懸念する財務省とが対立するなど、実現に向けたハードルは残っている。菅首相が過去の成長戦略で欠如していたと指摘する「政治的リーダーシップ」の発揮が、成長実現のカギを握りそうだ。【谷川貴史】

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