2010年6月15日 1時13分 更新:6月15日 2時30分
○日本1-0カメルーン●(14日、E組)
サッカー日本代表の岡田武史監督は14日、自身2度目となるW杯の初戦に臨んだ。理想と現実--。その両者を追い求めてきた指揮官は大会を前に、今回も後者にかじを切り、勝利をたぐり寄せた。
日本がW杯に初出場した12年前、岡田監督は大会直前に守備的な布陣に切り替えた。準備期間が短い中で現実的なやり方に徹したが、結果は3戦全敗。そして今回、2年以上も攻撃的なサッカーを志向してきたが、再び本番直前に守備重視を選択した。揺らいだのか。歴史は繰り返すのか。結果でしか答えは示せなかった。
メンタルトレーニングの専門家で、岡田監督と親交のある福島大の白石豊教授は「ぶれていない。今できる、ベストの選択をしている」と話す。大黒柱として信頼する中村俊輔を先発から外したことについても、「情を絡める人じゃない」(白石教授)という岡田監督の決断は、チームを最優先していたとみる。
その指揮官の思いは、選手に浸透していなければ戦えない。だが、心配には及ばなかった。中心選手の遠藤保仁が「やり方の違い? まったく問題ない」と言うように、これまで岡田監督の下で徹底してきた球際の厳しさを発揮し、集中した守備を見せた。
前半、先制点を挙げた本田圭佑がベンチに駆け寄り、控え選手の輪に飛び込んだ場面が象徴的だ。岡田監督がチーム全体を同じ方向に導くことができた証しだろう。粘り強く守って相手をジリジリと追い詰める。「世界を驚かせる」と宣言して目指した形とは違うかもしれないが、「今」に徹し続けた。
もちろん、戦い方の決定時期が遅きに失した感はある。だが、時計の針を戻すことはできない。今は前に進むだけだ。「ピッチの上で、選手たちが持てる力すべてを出し切れるようにさせてやりたい」と話した岡田監督。くしくも98年、日本代表がフランスでW杯の初戦を迎えた時と同じ「6月14日」に、新たな一歩を踏み出した。【江連能弘】