とりあえず魔法やら新兵装などの話は置いといて、次の依頼を受ける事にした。
基本的にVSSは暗殺が戦闘方法なのでハイリスクな代わりにコストが低い。
まあ、金属の劣化などを考えても、あと、5,60発くらいは問題ないだろうというユウキの勝手な判断だった。
で、受けた依頼は『弓兵の排除』。中小レベルの盗賊組織の本拠地侵攻の際に少しでも敵の弓兵を減らしてほしいとのことだった。
自分の腕と銃の性能を考えて、このあたりが限度だろう。流石に突撃部隊には回るのはゴメンだし。
一応、スローイングナイフを買い込んできた。役に立つことが無ければいいが。
「でも時間が厳しいなあ、やっぱり」
作戦開始日まであと5日後の正午。周辺の町までは3日かかった。
ここから向こうにつくのは半日ほどかかるらしい。
慣れない道だということ、敵との遭遇も考えて動かなければならない事を考えると丸一日欲しいところだ。
となると昼過ぎの今出発したとして向こうに着いてから狙撃地点を探すために1日足らず。
相手は大きめの砦を作っているとの話だから、安全圏ギリギリの600M前後に狙撃地点を作りたい。できる事ならカモフラもしたい。
「見た感じ森が続いてるけど……」
このまま砦も森の中にあればいいのに。そしたら安全に狙撃できる、はず。
(とはいえ、魔法とやらのせいで油断できないんだけど)
キリフやエノンに聞く限り問題は無いように感じられたが(今回はエノンは置いてきた。妖精は探知系の結界に引っかかりやすいらしいので)、何も用心しすぎることはない。
そのまま、特に何事もなく、多少道に迷った程度で目的地までたどり着くことができた。
「オンボロだなあ……」
ユウキが見つけたその砦とは針葉樹を組合せバリケードを作っただけのただの大きい家だった。
バリケードの上には人が通れるほどの通路があり、正面側には石を積んで敵からの侵入に備えているようだ。
(でも後ろはガラ空き……)
まあ、余程の達人以外ではまっすぐ飛ばすことすら難しい弓を相手にするのであれば、その程度で十分なのだろうが、ユウキからみればあまりに拙い守りだった。
「……狙撃地点は決まりかな」
そこから、また約数時間の時がたった。
ユウキは、砦の裏側の山に陣取っていた。
この砦は典型的な守りの形をしており、後方左右に角度のある山に囲まれていて、正面からの敵襲に備える形になっている。
馬や牛どころか人ですら下るのは困難な程の角度だから多少防御が疎かになるのは仕方ないだろうが、これは空きすぎだった。
前面のバリケードが家本体よりも高いため(15~18mくらい)この後ろの山から撃てばスコープの反射光を見られることも偶然敵の魔法に巻き込まれることもない。
問題は見張りに勘付かれるかもしれないという懸念はあったが、明かりの無いこの時代の夜は闇だ。
山の中腹で緑系統の服を着ている人間を視認するのは不可能だろうと判断して、ユウキはそのあたりの草と葉と持参した網を使って毛布代わりにし、地面で寝た。
翌日、太陽が上り切る手前で目が覚めた。時間的には超ギリギリ、起きて空を見上げた瞬間は鳥肌ものだった。
腹は空いていたが、ここまで来て匂いで気づかれるのも嫌なので戦闘中に食べることにした。
ドォン
2,3時間程身を潜めていると、銅鑼の音がなった。先に気づいたのは盗賊側のようだ。
次に討伐軍側の銅鑼が鳴る。
ドォォォォン
盗賊側に比べて趣がある。材質の違いだろうか。
兎にも角にも戦闘が始まった以上、余計な事を考える必要はない。
干し肉と水を袋から取り出し口の中に放り込むとユウキはスコープを覗き始めた。
「……登ってきた登ってきた」
バリケードの横にある梯子から弓を持った盗賊たちが登りだした。
「まだ……まだ……」
ユウキは発砲するタイミングは人が登り切ってからと決めていた。何故なら銃という『異世界の武器』による攻撃でパニックが起きる事を狙っていたからだ。
上に登ろうとする人間を片っ端から撃っていれば弾がいくらあっても足りないし銃身の消耗も激しくなる。しかし、混乱した人間があの狭い足場から落っこちてくれれば、かなりの弾薬を節約できる。
(『人間』相手だとこういうやり方が使えるからいいんだよな)
そろそろ、梯子を登る人間のペースが落ち始めたというところでユウキは、第一射を放った。
カシャン
聞きなれた排出音が耳に響く。
(あとは――)
「――頼むから、気づかないでよ……」
魔法、魔術、といった言葉が出てきませんように、と祈りつつユウキは第二射を放った。
結果から言えば、気づかれることは無かったし、ユウキの目論見以上の幸運のお蔭で討伐隊の被害も恐らくは最小限に収まっていた。
目論見以上の幸運とは、パニックになった向こうの兵士がバリケード上で暴れまわりその影響でバリケードが倒壊した、というものだった。
その流れに討伐軍が乗り僅か1時間足らずで砦を制圧した。
「……と、まあこんな所だよ、面白くもなんともないだろうけど」
「ううん、そんなことないよ。ユウキはすごいよ」
ユウキは女々しくも宿屋に置いてきた小人の妖精に、自分の武勇伝を語っていた。一応せがまれたからと言えばそうなのだが、自慢げな顔で語るその顔は、エノンから称賛されるのが嬉しくてたまらないという風であった。
その後一泊をその宿で過ごし、ユウキはオーバルへと足を向けた。
その途中で、エノンが周りを見渡した後ユウキに提案した。
「ユウキ」
「ん? なに」
「ここで、魔力放出やってしまおうよ」
キリフに、無人の荒野で1人で死ね(意訳)と言われた魔力属性の確認をここで済ませてしまおうという提案であった。
ユウキとしても、是非この提案に乗りたかったが、やり方がわからない、と答えるしかなかった。
すると、
「大丈夫。私の眼を見て」
エノンは、ユウキの帽子からするりと抜けだすと持ち前の浮遊術で、ユウキの正面に浮かんでいた。
それから見つめ合うこと5秒。
「うん。もう大丈夫」
エノンが目を離すと、ユウキには『魔力放出の感覚が解っていた』。
ユウキにしても奇妙な感覚だが、確かに、出来るようになっていた。
「あれ? 魔力放出って、『世界の理』が無いと意味ないんじゃ」
「ううん、大丈夫。今『渡した』のは『魔力を放出して魔法にするまで全部』だから。魔術の方はオドを掴む感覚は一人ひとり違うから意味がないんだけど、マナを掴む事と操る事の感覚は、皆一緒だから」
成程、相変わらず訳の分からない説明だ。俺には掴む事と操る事の違いが判らない。
だがしかし、できるようになったというなら、やってみせよう。
『魔法』確かに、今の俺ならできる気がする。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ユ、ユウキ……?そんなに声、出さなくても、魔法はそんなに難しくないから……」
僕はこの時非常にテンションが上がっていた。なんたって魔法だ。例のアイツみたいに視認できるくらい強い風魔法(魔術かもしれないけど)とか、キリフみたいに岩を切り崩す様な風魔法(まあ魔術かもしれないんだけど)とか、僕も使えるっていうなら使いたい! 夜布団の中でボロボロになった昔の小説を読んでいたころの思い出が溢れんばかりだった。
でも、僕は『特別製』とやらなんだから当然、そんなファンタジー要素に満ちた属性になるわけなく、というか目に見える範囲では大凡なにも起こらなかった。
なにも起こらなかった。
目に見える範囲では。
「え?」
「わ、ユウキすごいよっ。『解析』の属性なんて。これからは鑑定士にでもなれば一生安泰だよっ」
そう言ったエノンの方を見ると僕の眼にはあらゆる情報が写っていた。それはまるで、軍の司令部に置いてあるパーソナル・コンピュータのような表示で。
名称 エノン/enon
分類 生物
種族 妖精
レア度 S
売却額(アベレージ) 500,000,000Dc
そして一番下に詳細(ステータス)と詳細(主なデータ)、検索、という文字と空欄。
Dcというのはこの世界の通貨単位だが、200万Dcもあれば人1人一年は暮らせる金額だと聞いた。
『視る』だけで相手のあらゆる情報が解る。これがもし僕の『魔法』だというなら、これはかなり優秀な部類であることは間違いない。だが、この売却額という数字は……。