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[21044] 荒廃した近未来→ファンタジー異世界
Name: booknote◆4ee8eb8d ID:605b3706
Date: 2010/08/11 05:28
深い森を抜け出た高台から僕は『敵』を見ていた。
湿度、風、環境には何一つして問題は無い。
視界を遮るモノは何一つとしてなかった。

「きた」

隣でエノンがつぶやく。エノンというのは僕が『この世界』に落ちた時助けてくれた妖精で銀色の髪と金色の眼が特徴的だ。

「4、5、6……まだくる、8人」

その声を聞いて僕は銃を構える。銃はソ連製のVSS。消音に特化した狙撃銃だ。
ターゲットは?
僕はそのターゲットを知らなかった。
僕は『依頼』されたに過ぎない。『あの世界』と同じように。

「真ん中にいる青い髪。……でも、だめ。風の魔法士がいる。」

僕はその声を無視しスコープを覗く。自信があった。
(要はターゲットと『魔法士とやら』を同時に撃ち抜けばいいんだろッ!)
できるし、やれると思った。
(まずはターゲットをぶち抜く。次に『魔法士』とやらをぶち抜く)
実際に今までやってきたことだった。
相手が5人いようが10人いようがこの銃で撃ち抜いてきた。
スコープの真ん中にターゲットの心臓を捉える。
あとは、『読む』
スコープを僅かに右にずらす。西南からの風。
そこから左にずらしていく。ターゲットの移動を予測。
そして、冷静に、引き金を引く。

カシャン

銃特有の発砲音はほぼ、ない。
薬莢の排出音だけが僕の耳に届く。

「……すごいっ」

まだ!
僕は自分にそう言い聞かせながら次の標的に照準を合わせる。
しかし、スコープの先に僕の望んだ光景は無かった。
血を撒き散らした男の横に立っていたのは、澄ました顔で風を纏う『魔法士』の姿だった。
(あれじゃ……中らない……!)
一瞬でこの攻撃の性質を読み取られていた。
その男は『異世界の武器』である銃の攻撃に対する対策を一瞬で理解していた。
圧巻だった。
長い間兵士として、戦士として、無法者として戦い続けてきたが、目の前で1人の人間が突然血を噴き出して冷静な奴などいなかった。
この男が強かったのか、狙撃手ヤマヒロ・ユウキの失策か。どちらかといえば、前者であろう。
ターゲットは死んでいる以上。この『依頼』はあくまで成功だ。

「……成功。この程度の音の波なら探知できないとキリフも言っていた。逃げよう」

エノンはなにも言わずに小さく頷いた。
任務は成功した。確かに。
だが、ユウキは内心、歯軋りしていた。
『魔法』、そんな訳の分からないものでっ!
奴らにとって銃が『異世界』の力であるのと同様に、魔法は、ユウキにとって『異世界』の力であった。
無論、この防御方法自体は考え付いていた。風の力で己の身を守られれば手は出せない。
ユウキの依頼主が風系の魔法士であることも相俟ってその事については解っていた。
(『魔法には、必ずしも陣が必要であり、通常熟練した魔法士でも展開には5~10秒を必要とする』。誰のセリフだったか)
魔術師はあくまで大砲。威力は脅威だが小回りの利かない代物。
そうユウキは認識していた。故に、倒せると踏んだのであり、倒すつもりがあった。
また、あらかじめ陣を展開しておく方法があるのも知っていた。
(『基本的に魔法は陣の上でしか作動しない。相手が魔法を発動するかどうかは相手の周りの魔法特有の光で判断しなさい』……これは、狙撃地点が悪かった。相手の足元が見えなかった)
とはいえ、ユウキは確認を怠ったわけでは無かった。可能な限り認識しようと努力したし、実際にその作業に落ち度は無かった。
しかし、相手の魔法士は『自分の足元にだけ』陣を展開していたのだ。
ユウキはもしその魔術師が護衛としてついてきているのであればターゲットの足元にこそ陣が展開されているべき――ターゲットの足元には、茂みが無く、完全に視認できる状態だった――として、陣は存在していないと判断した。
(どこの世界にでも狡賢い奴はいる。……消音狙撃なんてやってる僕の言えることじゃないけど)













「あら、本当に成功したんだ? いままでゴマンと『彼』に挑んでは死んでいったっていうのに」

帰ってきて早々……。と思わずにはいられなかった。
彼女こそが僕の今回の依頼主であるキリフ・エーデル・フロイラ・セロン・ベンデラルなんちゃら嬢である。
細身の体に巨大な兵器(乳)。身長は僕と同じくらいだから165前後か。
なんでも『オク・オーバル・ベーヌ(簡単に言えば『何でも屋ギルド』という感じ。略称はベーヌ。オーバルは地名)』とかいう組織の長の娘で副長らしい。
仕事を求めてこの町に辿り着いた僕を拾ってくれた人の娘だ。拾ってくれなくてよかったのに。
ユウキは、彼とは誰のことを指しているのかを問う。

「? 標的の傍に居たはずよ? 風の魔導師」
「……『魔導師』?」
「そんな顔しないでよ。あなたが魔法の説明聞いた時点で『もういい、頭が痛くなる』って言ったんでしょ?」

キリフはわざわざ風の魔法で声を変えて言う。

「魔法じゃないわよ」

そこでキリフはピシャリと言い放った。
顔に出ていたのか、雰囲気に出ていたのか、とにかく僕の考えをキリフは読んだらしい。

「そうね、あなたが使える人間だって分かったし、キチンと説明してあげるわ。エノンは?」
「寝てる」

僕は自分の頭の上を指さす。この世界のこの地域『マモリア』の民族衣装の1つらしい羽毛の帽子の中で、エノンは眠っていた。どうやら2日の移動を往復した結果、流石の妖精でも疲れたらしい。

「……街のど真ん中でも通ったの?それ、『声』にあてられてるわよ」
「声?」
「そう、言わなかったの、その子。妖精ってのは『人間』に弱いのよ。思いを感じ取る力があるから」

そうなのか。と、頭の上にいるであろう妖精を見上げてしまう。もっとも羽が邪魔で見えないけど。

「やめなさい。それ以上見上げたら落ちちゃうから。……心配する必要はないわ。とくに悪影響があるわけではないし、一種の疲労だから」

ほんのりと優しさを感じさせる声でキリフは言った。
その事についてキリフに問うと、急に冷たい声になって話し始めた。

どうやらこの世界は『魔法』だけではないらしい。
大気に存在するマナやエーテルや精霊やらなんやかんやの力を陣を通して行使するのが魔法。
自身の体内に巡るオドとかいう魔力と自分の属性のなんちゃらかんちゃらによって発動する陣を必要としないのが魔術。
魔術と魔法の組み合わせであり体内のオドを核としてマナを集めカクカクシカジカで強力で素早いのが魔道。
で、それぞれを使える者には最後に『士』とか『師』をつける。
厳密に言えばあと100種類くらいあるらしいのだが、この3つ以外は特殊な条件が必要なので必要な時に説明する。
という体感時間3時間に及ぶ10分の講義を聞き終え(ってか早口)、僕が思ったことはもちろん、あの男は魔導師だったのか?、ということで、次に思ったのは、ちゃんと聞いておけばよかった、だった。

「とりあえず、今回の報酬を渡しておくわね。生活用品はこっちで用意しとくし、炊事洗濯に関しても任せてもらって構わないけど、嗜好品の類が欲しければ報酬で買ってね。あ、でも今日の宿は悪いけど外泊して。その分報酬は上乗せしてあるから。装備が必要な時は相談して。今までの仕事や評価にはよるけどこちらから出るから。え、『弾丸』?知らないわよそんなの。これを複製すればいいの? 火薬と、鉛? 分かった。組織の研究班に頼んどく。数は? ……え、そんなに? できれば部品の予備も? 馬鹿言わないで無理に決まってるでしょ。『弾丸』だけはなんとかするから使えなくなる前に別の戦闘方法を探しなさい。無理でもやりなさい。使えないようなら叩き出すから。他はもうない? ……じゃ、出てって。私結構忙しいから。……誰のせいとは言わないけど」

ユウキは へや から たたきだされた !

(まあ、言わなくてもガリフさんのせいだということは分かる)
ガリフ、とは彼女の父親の名前で、道端で飢えかけてた僕を拾ってここまで連れてきてくれた人だ。それはつまり、気まぐれで人1人の人生を背負っちゃう人というのだが。
ちなみに、僕の初任務が9段階で3番目に難しい任務だった原因もこの人である。
(とりあえず、宿を取ろう)
確か、ベーヌを出てすぐのところに……、と考えているとエノンが話しかけてきた。

「……ユウキ」
「起きたの、エノン?」
「うん。それより、これからどうするの?」

ユウキには妖精の心情を読み取ろうとしたが、基本的に感情を表に出さないこの妖精の感情を理解するには今しばらく時が必要だった。
だが、自分が心配されてるということだろう、とユウキはあたりをつけた。

「大丈夫、当面の生活を確保したよ。……それと、ごめん。人ごみ、苦手だったんだね」
「ううん、気にしないで。私は感知能力を制御できるから」

そっか。と呟いて。ユウキは歩き出した。
『じゃあ、なんで疲労なんてしてるの?』
そう聞くには、絆が幾分か足りない気がした。














後書
最近のオリジナル板の新規投稿の嵐に便乗して。
内容的にではなく文章的にWEB小説にあまりみない形をとりたいと思っています。
導入部をいきなり変な入り方したのもトリップシーンから入ると王道設定もあいまって量産型俺TUEE小説になってしまうなと思ったからです。また、一人称「僕」もそういう意味合いで挑戦しています。一応文量びは気を付けているつもりですが、やはり地の分は少な目かもしれません。また、これから少なくなっていくかもしれません。「また手抜きしてんなコイツ」と思った時は一言頂けると嬉しいです。
長々と申し訳ありません



[21044] 2
Name: booknote◆4ee8eb8d ID:605b3706
Date: 2010/08/12 16:26
「……きて、ユウ……起きて、ユウキっ、起きてっ」

ん……んあ?
その朝、僕はエノンの声で起こされた。
その、と言っても割といつもの事なんだけど。
エノンは何故か起床時間に煩い。異世界人である僕には妖精なんて眠るのが仕事ぐらいのイメージなのだが。

「起きた?」
「起きたよ。でももう少し寝かせてよ」
「うん、わかった」

何故だか二度寝はいいらしい。発見だ。
っていうか、まだ寝ててもいいなら起こさないでよ。







その後ひと眠りしたら、もう太陽は頂点近くに達しようとしていた。
(にしても……暑い)
この世界はどうやら僕の世界よりもひとまわり気温が高い気がする。もしかしてあの世界より太陽がチョッピリだけ近いのかもしれない。
(まあ、僕が勝手に暑いって感じてるだけなんだろうけど)
人間って思ってるより凄いけど、感覚ってのは思ったより鈍感なんだよ。
昔の知人の言葉を思い返しつつ、ユウキは歩を進めていく。
銃の複製は不可能だと言われたから、銃に代わる新たな武器を探して『オーバル』の街を放浪しているのだ。
(銃以外の武器も現代兵器なら多少扱えるけど……)
幾つか武器屋は回ってみたものの、あるのは剣、槍、棍棒、弓その他……。どれもこれも現代兵器と呼ぶには無理のある代物ばかりだった。
この世界の文明レベルは、低い。
魔法とやらのせいなのか、発展途上なせいなのかは知らないが、とにかく、ユウキの今までの人生経験は殆ど役に立ちそうもない。
狙撃銃どころかボウガンが新兵器として扱われているレベルだ。
ナイフぐらいなら心得もあるが銃に代わる武器として使えるとは到底思えない。もっとも、生まれた時から使い続けてきた愛銃よりうまく扱える物がユウキにあるかどうかは、怪しいものだったが。

「ユウキ、困ってる?」

店に入っては出る入っては出るを繰り返したためか、エノンが話しかけてきた。
普段からこの妖精は人前で話しかけるということをしないので、ユウキはそれなりに驚きつつも、返事を返した。

「まあ、それなりに。VSSはただでさえ管理が難しいのにもうパーツを補充できないとなると、ちょっと辛いね」

もちろん、VSS、パーツといった単語は通じない。
しかし、エノンにはそれがユウキの武器の話だと察したらしく、その理由を尋ねた。
ユウキはそれに対して昨日のキリフとの話と新たな武器についてをエノンに聞かせると、何やら気後れした顔を見せた後、こう提案した。

「魔法は、だめなの?」
「僕に使えるのかな……」

ハリー・ポッターやその他大勢の魔法物語の例に漏れず、魔法とは『血筋』と『才能』によって使える者と使えない者が区別される、らしい。
だが、そんな不安感を打ち砕くようにエノンは満面の笑みでこう返した。

「ユウキならできるよ」
「理由は?」
「異世界人だから」

成程。確かにそもそも住む世界が違う人間なら人間自体の性質も異なって当然だ。
もしかして、前の世界の人間なら誰でも魔法を扱う素質があるのかもしれない。
その事について、エノンに問いてみた。

「ううん。違うよ。異世界人はこの世界の異世界人のこと」

どういうこと?と聞き返すと、エノンは自分の知識を披露できるのが嬉しいのか、嬉々として説明を始めた。

要約すると、なんでも異世界人はこの世界に『落ちる』時、世界の狭間で火あぶりになってしまうらしい。魔力による炎でその温度は8000度にも上るとのこと。しかし、魔力の素質を持つ者は抵抗することができるとのこと。大抵の人間は死んで落ちてくるので、生きて落ちてきた人間には魔力があるとのこと。

あれ?

「魔力ってなに?『オド』とかいう奴の事?」

『魔法』は大気中のマナを使い、『魔術』は体内のオドとやらを消費する、という話だったはず。ならば、魔力という存在はどういう位置づけになるのだろうか。

「魔力は、魔法にも魔術にも必要な力。マナやオドはあくまで架空のエネルギーであって、この世界には存在しないの。そこで魔力で世界の法則を捻じ曲げて、そこに存在することにするの。簡単に言うと、マナやオドを作り出すために必要な力。でも、マナもオドも昔はこの世界にもあったはずなんだけどね」

へー、なんだかよくわからない。
でもよくわからないなりに理解するなら、全ての素になる力と考えておけばいいようだ。これからは全素とでも呼んでおけばいいかな。

「? 魔力で直接世界の法則を変えられるなら、マナやオドにする必要はないんじゃないの?」

ユウキは更に質問を重ねた。
先のエノンの説明の中で矛盾しているように聞こえたからだ。『世界を捻じ曲げるために必要な力を世界を捻じ曲げることで手に入れる』という話であったのだから当然と言えば当然の反応だった。

「詳しく言うと、魔力は『世界そのものに働きかける力』で、マナやオドは『世界の内側に働きかける力』で、逆の力は皆無だから。今私達がいる世界は内側だから魔力によって何らかの事象を引き起こすことは難しい」

不可能ではないけど。と、エノンは小さく付け足した。
追加で説明してもらったにも関わらず全くというほど理解できなかったが、とりあえず僕は魔法を使える可能性が高いということだけはわかったので、本当に使えるのか、あるいはどのような魔法を使えるのかを知るために、一度ベーヌへ向かうことにした。
だってエノンの説明じゃ、僕はきっと一生わからないと思う。







「魔法を使いたい、ねぇ……」
「だめか?」
「ダメとは言わないし、妖精のお墨付きともあれば、そりゃ素質はあるんだろうけど……」

ベーヌに到着した後、僕はキリフのところで魔法を自分の新たな戦闘方法として取り入れたい旨を話した。
しかし、思ったより歯切れが悪い。
魔術を扱うには特別な才能が必要だという話は聞いていたから、魔法のみを求めた。

「んー、もうしばらく待ちなさい。今空いてる講師の教員がいないのよ。私自らって手もなくは無いけど、私は風以外の魔法なんか全く知らないから。あんたが風系統の人間だったら教えてあげるけど」

どうなんだろか。
そもそもどうやって自分の属性とやらを調べるのかすらわからない。

「それだけなら簡単よ。えーっと、ちょっと待ってなさい」

そう言って部屋を飛び出すと、何やら白い玉を持って帰ってきた。
これは? 
と、ユウキは声に出さずに視線で尋ねた。

「『世界の理』よ。といっても非常に弱いものだけど。本来、外側へしか働かない魔力の種類をこの世界で確認するためには『世界』そのものを具現化したものが必要なわけ」

また、訳の分からないことを
ユウキはそう思いながらもキリフの指示に従い水晶に手をかざした。
すると、今まで乳白色だった水晶が…………何一つ変わらなかった。

「へー、あんた特別製なんだ。良かったじゃない」
「……『特別製』?」
「この水晶はあくまで人の作ったものだから、あまり知られてない属性には対応してないのよ。魔力が無い人間が触ったときは水晶は透明になるから、あんたには確かに、何かしらの力があるわ」

……それは、本当に『良い』ことなのか。
正直随分と悪い予感しかしない。
とにもかくにも、自分の属性を調べねばどうしようもないので、何か調べる方法は無いか、と尋ねた。

「魔力を使ってみなさい。そうすればいやでもわかるわ。あ、でもここではやらないでよ!? 前に特別製の奴が町1つぶっ壊した事例だってあるんだからっ! やるなら、どっか見知らぬ荒野で、一人でやること! いいわね!?」

ユウキは小さく頷きだけを返した。
なんにせよ時間はかかるようなので、それは横においておいて、住居についての話を聞いた。
今日の内にキリフが用意するという話だったはずだからだ。

「ああー、それは、なんていうか、そのー、部屋の空きが出なかったから、しばらくは私の部屋を使ってくれない?家具は一式揃ってるし炊事洗濯は生活班に任せればいいし、私も時々は帰るけど、大抵は本部で寝泊まりだから」




[21044] 3
Name: booknote◆4ee8eb8d ID:605b3706
Date: 2010/08/14 00:31
とりあえず魔法やら新兵装などの話は置いといて、次の依頼を受ける事にした。
基本的にVSSは暗殺が戦闘方法なのでハイリスクな代わりにコストが低い。
まあ、金属の劣化などを考えても、あと、5,60発くらいは問題ないだろうというユウキの勝手な判断だった。
で、受けた依頼は『弓兵の排除』。中小レベルの盗賊組織の本拠地侵攻の際に少しでも敵の弓兵を減らしてほしいとのことだった。
自分の腕と銃の性能を考えて、このあたりが限度だろう。流石に突撃部隊には回るのはゴメンだし。
一応、スローイングナイフを買い込んできた。役に立つことが無ければいいが。

「でも時間が厳しいなあ、やっぱり」

作戦開始日まであと5日後の正午。周辺の町までは3日かかった。
ここから向こうにつくのは半日ほどかかるらしい。
慣れない道だということ、敵との遭遇も考えて動かなければならない事を考えると丸一日欲しいところだ。
となると昼過ぎの今出発したとして向こうに着いてから狙撃地点を探すために1日足らず。
相手は大きめの砦を作っているとの話だから、安全圏ギリギリの600M前後に狙撃地点を作りたい。できる事ならカモフラもしたい。

「見た感じ森が続いてるけど……」

このまま砦も森の中にあればいいのに。そしたら安全に狙撃できる、はず。
(とはいえ、魔法とやらのせいで油断できないんだけど)
キリフやエノンに聞く限り問題は無いように感じられたが(今回はエノンは置いてきた。妖精は探知系の結界に引っかかりやすいらしいので)、何も用心しすぎることはない。

そのまま、特に何事もなく、多少道に迷った程度で目的地までたどり着くことができた。

「オンボロだなあ……」

ユウキが見つけたその砦とは針葉樹を組合せバリケードを作っただけのただの大きい家だった。
バリケードの上には人が通れるほどの通路があり、正面側には石を積んで敵からの侵入に備えているようだ。
(でも後ろはガラ空き……)
まあ、余程の達人以外ではまっすぐ飛ばすことすら難しい弓を相手にするのであれば、その程度で十分なのだろうが、ユウキからみればあまりに拙い守りだった。
「……狙撃地点は決まりかな」

そこから、また約数時間の時がたった。
ユウキは、砦の裏側の山に陣取っていた。
この砦は典型的な守りの形をしており、後方左右に角度のある山に囲まれていて、正面からの敵襲に備える形になっている。
馬や牛どころか人ですら下るのは困難な程の角度だから多少防御が疎かになるのは仕方ないだろうが、これは空きすぎだった。
前面のバリケードが家本体よりも高いため(15~18mくらい)この後ろの山から撃てばスコープの反射光を見られることも偶然敵の魔法に巻き込まれることもない。
問題は見張りに勘付かれるかもしれないという懸念はあったが、明かりの無いこの時代の夜は闇だ。
山の中腹で緑系統の服を着ている人間を視認するのは不可能だろうと判断して、ユウキはそのあたりの草と葉と持参した網を使って毛布代わりにし、地面で寝た。





翌日、太陽が上り切る手前で目が覚めた。時間的には超ギリギリ、起きて空を見上げた瞬間は鳥肌ものだった。
腹は空いていたが、ここまで来て匂いで気づかれるのも嫌なので戦闘中に食べることにした。

ドォン

2,3時間程身を潜めていると、銅鑼の音がなった。先に気づいたのは盗賊側のようだ。
次に討伐軍側の銅鑼が鳴る。

ドォォォォン

盗賊側に比べて趣がある。材質の違いだろうか。
兎にも角にも戦闘が始まった以上、余計な事を考える必要はない。
干し肉と水を袋から取り出し口の中に放り込むとユウキはスコープを覗き始めた。

「……登ってきた登ってきた」

バリケードの横にある梯子から弓を持った盗賊たちが登りだした。

「まだ……まだ……」

ユウキは発砲するタイミングは人が登り切ってからと決めていた。何故なら銃という『異世界の武器』による攻撃でパニックが起きる事を狙っていたからだ。
上に登ろうとする人間を片っ端から撃っていれば弾がいくらあっても足りないし銃身の消耗も激しくなる。しかし、混乱した人間があの狭い足場から落っこちてくれれば、かなりの弾薬を節約できる。
(『人間』相手だとこういうやり方が使えるからいいんだよな)
そろそろ、梯子を登る人間のペースが落ち始めたというところでユウキは、第一射を放った。

カシャン

聞きなれた排出音が耳に響く。
(あとは――)

「――頼むから、気づかないでよ……」

魔法、魔術、といった言葉が出てきませんように、と祈りつつユウキは第二射を放った。






結果から言えば、気づかれることは無かったし、ユウキの目論見以上の幸運のお蔭で討伐隊の被害も恐らくは最小限に収まっていた。
目論見以上の幸運とは、パニックになった向こうの兵士がバリケード上で暴れまわりその影響でバリケードが倒壊した、というものだった。
その流れに討伐軍が乗り僅か1時間足らずで砦を制圧した。

「……と、まあこんな所だよ、面白くもなんともないだろうけど」
「ううん、そんなことないよ。ユウキはすごいよ」

ユウキは女々しくも宿屋に置いてきた小人の妖精に、自分の武勇伝を語っていた。一応せがまれたからと言えばそうなのだが、自慢げな顔で語るその顔は、エノンから称賛されるのが嬉しくてたまらないという風であった。
その後一泊をその宿で過ごし、ユウキはオーバルへと足を向けた。
その途中で、エノンが周りを見渡した後ユウキに提案した。

「ユウキ」
「ん? なに」
「ここで、魔力放出やってしまおうよ」

キリフに、無人の荒野で1人で死ね(意訳)と言われた魔力属性の確認をここで済ませてしまおうという提案であった。
ユウキとしても、是非この提案に乗りたかったが、やり方がわからない、と答えるしかなかった。
すると、

「大丈夫。私の眼を見て」

エノンは、ユウキの帽子からするりと抜けだすと持ち前の浮遊術で、ユウキの正面に浮かんでいた。
それから見つめ合うこと5秒。

「うん。もう大丈夫」

エノンが目を離すと、ユウキには『魔力放出の感覚が解っていた』。
ユウキにしても奇妙な感覚だが、確かに、出来るようになっていた。

「あれ? 魔力放出って、『世界の理』が無いと意味ないんじゃ」
「ううん、大丈夫。今『渡した』のは『魔力を放出して魔法にするまで全部』だから。魔術の方はオドを掴む感覚は一人ひとり違うから意味がないんだけど、マナを掴む事と操る事の感覚は、皆一緒だから」

成程、相変わらず訳の分からない説明だ。俺には掴む事と操る事の違いが判らない。
だがしかし、できるようになったというなら、やってみせよう。
『魔法』確かに、今の俺ならできる気がする。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ユ、ユウキ……?そんなに声、出さなくても、魔法はそんなに難しくないから……」

僕はこの時非常にテンションが上がっていた。なんたって魔法だ。例のアイツみたいに視認できるくらい強い風魔法(魔術かもしれないけど)とか、キリフみたいに岩を切り崩す様な風魔法(まあ魔術かもしれないんだけど)とか、僕も使えるっていうなら使いたい! 夜布団の中でボロボロになった昔の小説を読んでいたころの思い出が溢れんばかりだった。
でも、僕は『特別製』とやらなんだから当然、そんなファンタジー要素に満ちた属性になるわけなく、というか目に見える範囲では大凡なにも起こらなかった。
なにも起こらなかった。
目に見える範囲では。

「え?」
「わ、ユウキすごいよっ。『解析』の属性なんて。これからは鑑定士にでもなれば一生安泰だよっ」

そう言ったエノンの方を見ると僕の眼にはあらゆる情報が写っていた。それはまるで、軍の司令部に置いてあるパーソナル・コンピュータのような表示で。


名称 エノン/enon
分類 生物
種族 妖精
レア度 S
売却額(アベレージ) 500,000,000Dc

そして一番下に詳細(ステータス)と詳細(主なデータ)、検索、という文字と空欄。
Dcというのはこの世界の通貨単位だが、200万Dcもあれば人1人一年は暮らせる金額だと聞いた。
『視る』だけで相手のあらゆる情報が解る。これがもし僕の『魔法』だというなら、これはかなり優秀な部類であることは間違いない。だが、この売却額という数字は……。


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