A’s第4話(3)
なのはとフェイトの出現に、状況は一転する。
ダメージを負った俺は後ろでユーノの治療を受け、騎士クラウスと二人の少女は互いに距離をとりそれぞれの味方に合流した。
戦場の真ん中なのに、不思議な静寂が辺りを包む。
「建造物侵入及び破壊、傷害致死……、テロリズム等の現行犯だ……」
黒ずくめ達と対峙していたフェイトが、小さいけれどよく通る声でテロリスト達に告げる。
その声に反応したのは、テロリストの少女達だった。
「何者だ、貴様達は?」
「時空管理局嘱託魔導師……、フェイト・テスタロッサ」
「同じく時空管理局嘱託魔導師の高町なのは! 何でこんな事をしたのか、話して!」
フェイトとなのはの名乗りに、少女達が反応する。
「ほう、貴様があのフェイト……」
「それに、高町なのは……」
何だか知らないが、二人の反応はなのはとフェイトを知っているかのようだ。
まさか、また同類?
俺が少女達の言葉に違和感を感じている間にも、事態は進んでいく。
「フェイトに、高町なのは……」
「プレラ……」
「騎士さん……」
なのはとフェイトは、この場にいたプレラの顔を見て、驚きの声を上げる。
一方のプレラも、驚きながらもどこか納得したような表情をした。
「プレラ・アルファーノ。貴方はロストロギア不法収集及び管理外世界への大規模破壊攻撃等の重要参考人として広域指名手配されています。すぐに武器を捨てて投降しなさい」
「母の事を聞かないのか?」
表情を硬くして投降を呼びかけるフェイトに、プレラは静かに尋ねる。
その言葉に、フェイトは硬い声で答えた。
「貴方達を捕らえて居場所を吐いてもらう」
「私と来ればすぐにでも会えるかもしれないんだぞ?」
「断る。日の当たる世界で生きて欲しい……、それが母さんの願いだった」
フェイトがプレシアにどのような言葉をかけられたのか、俺は一切知らない。
ただ、彼女の言葉には力強い決意が篭っていた。
「そうか……、ならば敵同士になるな……」
「貴方が投降しないのなら、そうなる……」
「私は君の事は好きだったんだが」
「私は貴方が嫌いだった」
「そうか……」
フェイトにしては珍しい強い拒絶に、プレラは少しだけ悲しそうな表情をした。
だがそれも一瞬の事、プレラはすぐに真剣な表情に戻る。
「どうする、アトレー。どうやら時間をかけすぎたようだが?」
「くっ……、撤退するから時間を稼いで頂戴! 貴女達二人も協力しなさい!」
プレラの言葉に、アトレーとかいう男が苛立たしげに叫ぶ。
「逃がすかっ!」
その叫びに反応したのは騎士クラウスだった。槍を振りかぶると、アトレーに斬りかかる。
だが、素早く反応したプレラがその攻撃を受け止める。
「悪いがスポンサーのご命令だ」
「テロリスト風情がっ!」
互いにカートリッジシステムの積まれた槍と銃剣が火花を散らす。
二人の激突を機に、それぞれが動き出す。
「バルディッシュ、カートリッジロード」
『Load Cartridge』
フェイトの呟きに、バルディッシュが機械音を立てて稼働する。
内部のリボルバーが回転し、音を立ててカートリッジを叩く。バルディッシュからあふれんばかりの魔力が立ち上る。
……って、ベルカ式のカートリッジシステム? マリーさん、ついに改良型を実戦レベルで完成させたんだ。
って、よく見たらなのはのレイジングハートまでカートリッジシステムが搭載されているし……。
「なのはは結界を」
「うん!」
フェイトはなのはに一言呼びかけると、サイズモードになったバルディッシュを振りかぶり突進する。
狙いはリーダー格と思われるアトレーだ。プレラと騎士クラウスがぶつかり合うや否や逃げ出した男を追撃する。
だが、高速で動いた白い服の少女がフェイトの前に立ちふさがった。
「少し付き合ってもらうぞ。フェイトお嬢様」
金色と紫色の魔力光の軌跡を残し、バルディッシュと短剣型のアームドデバイスが何度もぶつかり合う。
ってか、速い。フェイトの動きについていっている!?
「いくよ、レイジングハート! カートリッジ、ロード!」
『Load Cartridge』
高速で動く二人を横に、なのははレイジングハートを砲撃モードに切り替える。使おうとしている魔法は……スターライトブレイカー?
「あんたの相手はあたしだっ!」
だが、そうは問屋が卸さない。黒いドレス型バリアジャケットを纏った少女の大砲型デバイスから橙色の魔力が吐き出される。
なのははそれを空に飛び上がって避けると、魔法弾を少女に叩き込んだ。
「邪魔をしないで! アクセルシュート!!」
なのはの周囲に発生した12発の魔法弾が、複雑な軌道を描きながら少女に迫る。
「うわわわっ! そんなに操れるのっ!?」
バックステップを踏み次々に迫る魔法弾を少女は避ける。
寸前で目標を見失った魔法弾は地面に叩きつけられ力を失う……かに見えた。
「なんてでたらめ!?」
だが、地面にぶつかるに見えた魔法弾は寸前で停止すると、勢いを殺さずに進路を変え少女に迫る。
ってか、あんなタイミングで進路変更できるのかよ!? どんな誘導訓練したんだんだ、なのはは!?
空を飛ぶ事が出来ないのか、人間離れしたバネで魔法弾を避ける少女だが、こうなるとあの大型デバイスは不利だ。
あのサイズでは取り回しが悪いし、なにより砲撃はチャージに時間がかかる。
もっとも、それは使用者である少女自身よく分かっているのだろう。大きくジャンプをすると、大きく間合いを取った。
そんな少女に魔法弾が迫る。
「……発射!」
しかし、溜め時間0で放った散弾式の砲撃に相殺され、12発の魔法弾は空中で爆発をする。
確かにあの取り回しの悪い大砲で精密な誘導弾を撃墜するなら、距離を開けて散弾で薙ぎ払うのが一番効率がいいだろう。
でもね……、なのは相手に距離を取るのは悪手なんだよ。
「そ、そんなぁ!!」
一息つく間もなく、少女が悲鳴を上げる。
そりゃそうだ、誘導弾を処理したと思ったら、既に砲撃魔法のチャージを終えたなのはがレイジングハートを構えていたのだから。
『Count nine, eight, seven, six, five, four, three, two, one, zero』
カウントを終えたレイジングハートの先端に、爆発しそうなほど巨大な魔力球が発生する。
その暴力的な魔力を前に、少女の顔が恐怖に引きつった。
「こ、このっ!」
「させないよ!!」
苦し紛れに短時間チャージで砲撃を放つが、前に出てきたアルフのシールドに弾かれる。
「ひっ! あ、あい……」
「いくよ、全力全開!!」
『Starlight Breaker』
少女が何か魔法を使おうとするが、それよりも早くなのははレイジングハートのトリガーを引く。
レイジングハートより放たれた光の奔流が、少女を飲み込まんと襲い掛かった。
その頃、フェイトは苦戦を強いられていた。
フェイトの戦闘スタイルは俺と同じく機動性を生かして戦うというもの。
あの白い服の少女の速度は、僅かだがフェイトより速い。
何合かの打ち合いを制したのは、白い服の少女だった。
バルディッシュの柄を二本の短剣でがっしりと挟み込む。
「早い……」
「その程度か!」
少女が、フェイトに向かって回し蹴りをきめる。
躱し切れなかったフェイトが、後ろに吹っ飛ぶ。
とはいえ、フェイトだってただ吹っ飛ばされるほどヤワじゃない。体制を即座に立て直すと、射撃魔法を展開した。
『Photon Lancer』
解き放たれた雷の矢が少女に迫る。
だが、少女は余裕を持って、短剣でその雷を切り払う。
そしてその勢いのまま、フェイトに斬りかかった。
「もらった!」
……でも、勝負はフェイトの勝ちだ。
少女がアームドデバイスを構えた瞬間、音を立てて砕け散る。
「な、なにっ!?」
あの少女はスピードは速かったが、デバイスに魔力が乗っていなかった。
魔力が乗っていないデバイスなど、ただの金属の棒に等しい。
まして、カードリッジで強化されたフェイトの魔力だ。いくらアームドデバイスといえどもひとたまりも無かったのだろう。
「これでっ!」
破壊されたデバイスに少女は驚きの表情を浮かべる。フェイトは間髪いれず斬りかかった。
その時、俺は思わず叫ぶ。別の場所で戦っていたプレラが、フェイトに向かって魔法弾を放っていたのだ。
「フェイト! 危ない!」
ほとんど条件反射で反応したフェイトは、寸前のところで飛んできた魔法弾を避ける。
その隙に、少女はフェイトとの距離をひらいた。
この場を一番観察できていたのは、怪我で後方に下がっていた俺と、意外にもプレラだった。
味方の少女達が敗北寸前になる寸前に、奴は素早く行動をおこす。
「くっ……このままでは」
小さく歯噛みすると、プレラは無詠唱で魔力を放出する。
以前の事件でよく使っていた全方向攻撃に近いが、あれよりも威力がはるかに小さく、魔力をただ噴出しているだけに近い。
だがプレラはなのはをも上回る魔力量の持ち主であり、これだけでも十分に攻撃となった。
「うわっ!?」
突如吹き荒れた魔力風に、騎士クラウスが数歩後退する。
ダメージを受けるほどの威力は無いが、あれをまともに受けてはバランスを崩す。そのまま本命の一撃を受ければ、さすがの騎士クラウスでも一撃で落とされるだろう。
騎士クラウスが一歩下がって生まれた隙に、プレラはフェイトに向かい魔法弾を放つ。
更にその反動を利用して飛び立つと、今まさにスターライトブレイカーに飲み込まれようとしていた少女の前に立った。
「プレラ?」
「喋るな……カートリッジ、連続ロード! 防壁展開!」
少女が呆然とする中、プレラの張った防御壁とスターライトブレイカーが衝突する。
プレラは全身から魔力を放出し、カートリッジシステムまで併用して、なんとか耐えようと踏ん張る。
だが、そんな攻防は1秒も持たなかった。
薄紙を破るように、プレラの張った防御壁は蹴散らされる。
桜色の魔力光はそのまま直進し、空中にあるナニカ……おそらくは病院を囲っていた結界にぶつかり、それもあっさりと破壊した。
「やったの!?」
その光景に、ユーノが思わず叫ぶ。
だが、なのはは厳しい表情を崩さずに答えた。
「ごめん、逃げられちゃった!」
「ええっ!?」
ユーノが驚きの声を上げたのは無理も無い。どう見ても直撃のタイミングであった。
あの動きが見えたのは、高速移動を得意とする俺とフェイトぐらいだろう。
なのはにしても見えたわけではなく、手ごたえが無い事に気がついただけのようだ。騎士クラウスも気がついてはいたようだが、目で動きを追う事は出来なかったらしい。
別の場所……というか、こちらを驚き半分で見ている。
白い服の少女が、プレラ達が砲撃に飲み込まれる寸前に高速移動で飛びこむと、二人を抱えてどこかに飛び去ってしまったのだ。
フェイトと戦っていた時は、どうやら三味線を弾いていたらしい。先ほどのスピードは俺やフェイトの速度を大きく上回っていた。俺のフラッシュムーブで直線移動をする時に出る最高速に匹敵する早さだ。
「白い服の女の子が連れて行ったよ。プレラは無事じゃなかったみたいだけど……」
飛び立つ一瞬に見えたプレラは、バリアジャケットが半壊していた。俺とユーノの劣化スターライトブレイカーでも一撃で撃墜できたのだから、元祖スターライトブレイカーを喰らった以上は無事ではあるまい。
俺は肩を押さえながら立ち上がる。
ユーノがかけてくれた治療魔法のおかげで、立ち上がれるくらいには回復していた。
「ヴァン、大丈夫!?」
「ああ、なんとか……、ありがとうな、ユーノ」
よく見ると、こちらに突入してくる武装隊や陸士隊が見える。
こうなれば鎮圧は時間の問題だろう。だが、プレラや謎の少女達、さらにはアトレーとかいう男も逃がしてしまった。
この事が後にどう影響するのか、そう考えると喜んでばかりもいられない。
「それと……」
俺はちらりとなのはとフェイトを見る。
フェイトがくるのは、ある意味予想していた。海の連中はなんというか、使えるものは何でも使えという主義の提督が多い。彼女が嘱託魔導師を希望していた以上、試験と講習が終わるや否や顔見知りのアースラチームに派遣してくる事は容易に想像できる。
「ありがとう、フェイトに、アルフ」
俺のお礼の言葉に、フェイトが微笑し、アルフが力強く微笑む。
そう、この二人が来たのはまだわかるのだが、なのはがここにいるのは予想外どころの騒ぎじゃない。
というか、地球にいるんじゃないのか? 学校はどうしたんだ?
俺は若干混乱しながらも、俺は彼女にも礼を言う。
「ありがとう、なのは。それと……えっと、久しぶり、なのは」
「うん、久しぶり、ヴァンくん」
俺の言葉になのはは満面の笑みを浮かべる。
その裏表の無い笑みに、俺は柄にも無く赤面してしまった。