真夏の神宮が燃えた。右翼席で色とりどりの傘が揺れる。03年9月以来、7年ぶりの8連勝。ツバメ党に歓喜をもたらしたのは、苦しみ続けてきた飯原だった。
「チャンスをもらったので、打ってやろうと思っていた。狙い球を絞っていました」
同点の四回二死二塁。カウント0−1から、野間口の真ん中低めスライダーを狙い打ちした。左翼席に飛び込む勝ち越しの10号2ラン。ベンチは総立ちだ。一回にも先制の9号2ラン。自身2度目の1試合2発に三回の遊ゴロでの打点も加え、計5打点をマークした。
この試合まで、最近10試合は打率・214(28打数6安打)。打撃好調なチームにあって、8月4日の中日戦(神宮)以降は先発から外れる日々が続いた。それでも「自分に何ができるかを考えていた」。早出練習では伊勢巡回打撃コーチの徹底指導を受け、内角を意識して体が開く癖を矯正し、復調につなげた。
9日、宮本、福川らと毎年自主トレを行う愛媛・松山市の権現温泉・石丸直史(なおし)社長(享年60)が病死した。この日は“第2の父”の通夜。「お立ち台では涙が出そうになった」。絶対に打たなければいけなかった。
奇跡の足音が聞こえる。日替わりヒーローが誕生し、大逆転でのクライマックスシリーズ(CS)進出に手が届くところまできた。
チームは開幕から不振を極めたが、5月27日に小川監督代行が指揮を執って以降、34勝18敗1分け(勝率・654)。最大19だった借金は3。5月26日に最大11・5ゲーム差あった3位中日に3・5差と迫った。
「メークミルミル」。ここへきてミニブログ・ツイッター上でこんな言葉が躍っている。96年に同じく11・5ゲーム差を逆転して優勝した巨人の「メークドラマ」、そして流行語にもなったその後の「メークミラクル」に、今年復活したヤクルト本社製品「ミルミル」をかけたものだ。
右翼席からの小川コールに両手をあげてこたえた指揮官は「飯原に尽きますね。最初は目標設定が難しかったけど、今はまずは5割(復帰)と言っていい」。地獄を見た男たちの復活=メークミルミル。いま、セ界の主役はヤクルトだ。 (長崎右)