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[20958] 異常たる者の未来模様(めだかボックス二次創作)
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/12 00:42
あまり見たことがない『めだかボックス』の二次創作に挑戦です。
この作品は単行本がまだ5冊しか出てませんから少ないんでしょうが、非常に魅力的な作品ですよね。もうすぐ6冊目も出ますが。
私個人としてはとても大好きです。

こういったまだ話数が少ない作品というものの二次創作というものを書くのは初めてなのでチラシの裏に投稿させていただきます。
チラシの裏での評判が思いのほか良かったのと、今のところスラスラ書けそうなのでそのほか版に移動です。これからもよろしくお願いします。


1話1話は短くなることが多いでしょうが、頑張っていきたいと思います。

・二次創作のため、若干の設定に変更がある(今のところは女子校→普通の中学)。
・『原作』にありがちな『異常』な設定が出る。(『戻す』という説明不可能なものが出てる時点で科学的に説明できない気もしますが)
・オリキャラの主人公と原作キャラがくっつく。(メインヒロインじゃありません。念のため)
・原作が完結していない作品のため、だんだんとスローペースになります。


上記のことはありますがご了承ください。

感想がありましたらどしどし書いてください。ではでは。



[20958] 第零記憶目 「はじまり」
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/09 20:31
自らの異常性に気付いたのはいつの頃だったか。

物心がついてすぐだったか。
それとも、もっと前からか。

いや、私は全て覚えている。
漠然と、自分が物覚えがいいということは理解していた。
私がそれをはっきりと自覚したのは私が5歳の時の夏、8月7日の夜。
とある大学の教授をやっていた父の部屋になんとなく侵入して、その部屋にあった全ての本を『記憶』した。

自分の部屋に戻り、そして私は思いだした。
いや、思い出したのではない。意識しなかったの方が正しい。
自分が母親の胎内にいた時の事。
出生時、外の光を浴びた時の事。
毎日毎日何を食べてきたか。
毎日毎日何を見てきたのか。

何もかもを覚えている事に気がついた。

そして困惑しながら更に深く意識を沈め、もっと恐ろしい事に気付いた。
自分が見た事もない事を知っている。
知っていないはずの事を知っている。

『○月□日。私の目の前で誰かが死ぬ』

『□月△日。私は絶望する』

『×月□日。私は死ぬ』



まず感じたのは恐怖。
そしてその事を必死で忘れようとする。
それでも決して忘れられない恐怖だ。

意識すれば、わかってしまう。
今眺めている窓の外。
あと3秒で小鳥が飛び立つ。
あと5秒で車が通る。
あと8秒で人が通る。

どうしてかわかってしまう。



そして私は完全に自分が異常だと気がついた。

あらゆることを完全に記憶し、自分を観測点とする未来を完全に予知する。

そんな、『異常性』を自分が持っていると。




[20958] 第壱記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/08 04:35

『知る』に繋がる全ての事が、私にとっては無価値でしかない。
それでも知ることを止められないのが、私にとっての異常なのだろう。
『知る』ということは私にとっては無価値だが、私という存在にとっては『全て』だった。
だがしかし。私、天宮熾音の異常は、私に不幸を与え続けていた。

『全て』を覚えている事を自覚することはただただ不幸でしかないのだ。
こんなことならば気付かなければよかったと私が何度思った事か。
正確にはこの一年で1567回思ったんだったか。

そんなこんなで私は退屈な幼稚園生活を過ごし切って小学校に入った。

親との会話、難解な本の読解、そして元より優れた脳を持って日常を過ごしていた私は、精神と肉体の年齢が乖離し始めている事に気づいていた。
幼稚園になど通うことすらも億劫だった。
しかし、私はそこに行くことにしたのだ。
『もしかしたら』不幸を無くす存在がいるのかもしれないと。


『もしかしたら』という言葉を使うのは、私が未来を見ようとするのをやめたからだ。


きっと、やろうと思えば明日自分が誰に会うのかもわかるだろう。
将来自分が何の仕事をしているかもわかるだろう。
だが、そんな事を知っても不幸にしかならない。
だから私は何が起こるともわからない『未来』に希望を持てるのだ。


そう、未来。


本来不確定なものだが、私はそれの過程を見る事をすっ飛ばして終着点を見る事が出来る。
10秒先に何が起こるかも完全に先読みする事もできる。
それは実につまらない。
だから私は未来を見ることをやめたのだ。



現在小学一年生の私の脳の中には恐ろしい程の知識が収納されている。
小学校で使う教科書から大学で使う教科書まで、近くの図書館に何日も何にとも入り浸り、1ページに1秒も掛けずに暗記して全てを知り尽くしていった。
何の意味があるかなど関係ない。
ただ、私の存在が『知る』という事に飢えていた。
それだけのことなのだ。
本来知るべきではないという『未来』を知る事だけは、全力を持って回避する。
それさえも知ってしまえば、私は私の存在の理由である『知る』ということすらも失ってしまうから。

思えば、私が語る全ての事は矛盾している。
だが、それもしかたのないことだ。

全てを知ろうとする異常を持つ私には、初めから全てを知る術が備わっていた。
今から生きる人生のすべてを知れば、私の生きる意味はなくなる。
だがしかし『私』は生きる意味を無くす事の無意味さを知識として知っている。


つまるところ私は、とにかく生きていたいのだった。


だからこそ知ることを求め、だからこそ『未来』を知る事を忌避するのだ。





小学校。
私はただ淡々とそこに通う。
きっと周りにいる子供達とは仲良くなることはないのだろう。
彼らは一様に子供過ぎた。
それが『普通』だ。
私が『異常』なのだ。

私は授業の時間も休み時間も。
私は机に伏せて夢の中に入る。
そこはある意味私にとっての聖域だ。

何にも犯されることのない聖域。
何を想像しても許される世界だ。

頭の中の記憶で形成されるそこは雑多な図書館だ。

私は夢の中の事だって記憶できる。
だからこそ精一杯楽しませてもらう。

テストで満点さえ取っていれば誰も文句を言うことはない。

私は一人、誰にも関わられずに自由だった。



私はその時、それで満足していたのだろうか。




[20958] 第弐記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/08 04:36




それは小学三年生の時だった。
私は予知を再び使い始めるようになった。



私は面倒だったのだ。
小学生というものは、子供というものは残酷だ。
人の事を考えずに平気でひどい事をする事がある。
つまるところはいじめである。
それの対象に、孤立していた私が選ばれることは当然だった。

それ以前に、私の態度が原因だろう。
授業も真面目に受けず、学校に来てもずっと寝ているだけ。
目をつけられるのも当然の事だ。



二度目になるが、私は面倒くさかったのだ。
そして、私に陰湿な攻撃をしかける周りの者は殊更に鬱陶しかった。
だから私は奴らの行動のことごとく先を読んだ。
細かい事を一々抑制するのも面倒になっていたのだろう。

足を引っ掛けようとも通じない。
靴を隠す事など予防していれば問題も無し。
ハブられようとも私は何も感じはしない。
集団リンチもどこで待ち伏せされてるかわかっていれば問題なし。

ならば奴らはどういった行動を取るのか。

「自然、正面から挑むしかなくなるわけだ」

「何言ってやがる!」

「中学生が小学生を相手にするとは大人げなくはないのだろうか。実際に見てみるとこうも馬鹿らしいとは」

余程私の事が気に入らぬのか。
私を嫌うグループのリーダー格が兄を呼んできたのだ。
呼ぶ弟も阿呆だが呼ばれる兄も阿呆なのだな。

戦闘という手段を取っている時点で『私に勝利する』という目的は達成できんだろうに。



私は全てを記憶できる。
重ねて言えば、記憶したとおりに行動する事もできる。
この体のスペックは脳のみに比重を置いているわけではなく、身体能力も優れているからだ。
子供ではありえない程に動く自分の体を見れば簡単に気付けるものだ。



正直言えば少し年上の中学生程度、予知なんぞ無くても楽に勝てる。
多岐にわたる私の知識の中には戦闘技術も入っているのだから。
そして私の身体スペックは中学生程度のモノをとうに上回っているのだから。



結果、私を呼び出した者達全員は地面に這いつくばる事になった。





そしてその年の終わりに殊更大きな出来事があった。

「あの子は異常だ。絶対におかしい――」

「昨日も、私が何も言ってないのに――」

「俺達のやる事をやることなす事全部先読みして――」

「病院に、いやどこかの研究施設にでも連れて――」

自室から出てみれば聞こえてくる親の会話。
ことごとく予知したことが裏目に出たか。
それともこの『結果』を予知していれば変えられたのか。

いや、どうでもいい。
昔から、私が言葉を発した瞬間から私を疎んでいた奴らだ。
ここが潮時という奴だろう。


ここを離れれば『私の望む機会』があると予知できた。
一体どんなモノが待っているかは分からないが、この町を離れるとしよう。


金も戸籍も簡単だ。
それくらいの入手や偽造の知識くらい持っている。




年が明けた時、私はその街を去っていた。




[20958] 第参記憶目 幕間
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/08 07:59
あらゆる物事を記憶できる私にとって、『創造性』とは最も好きなものの一つである。

世界中にある本の全てを記憶し。
国のデータバンクに侵入して過去の遺物を記憶し。
今日起きた世界中の事件を記憶し。

気付けば、私の持つ知識の量は右肩上がりに増えていた。



街の仲をふらふら歩いている私。
未だ子供の体である私に目を向ける者はあまりいない。
きまぐれに本屋へと入った私は、気まぐれに一冊の本を手に取った。

人それぞれが持つ『創造性』
それを形に現した物が本である。
どれだけ人間がいようと、全く同じ内容の本を書く者はいないだろう。
私がいくら記憶しても、きっと『異なる本』が生まれてくる。

ならばそう、私は生きる意味を失うことはないだろう。
そう思えるような気がしたから、私は本が、人の持つ『創造性』が好きなのだ。

本だけではない。
論文も、哲学も、思考の一つ一つも、全てがそれぞれ違う。
それを知ることができるのならば、それはきっと楽しいのではないだろうか。
自分に欠けた一つ一つのパズルのピースを集めていくような感じで。



一人で生きるようになって数ヶ月。
私はとある家に住んでいた。
自分用の巨大なスパコンを設置し、世界中のありとあらゆる本を収集した家だ。
パソコンには世界中の様々な情報が自動で収集されるし、本は自分が読んだ端から地下図書館(倉庫の事だ)に溜まっていく。

戸籍も一応入手はできた。
だが、名前を変えることはない。
変えたとしても絶対に忘れることはできないからだ。
ならば、そのままでいても全く問題はない。
天宮熾音は……天宮シオンとなっただけだ。
裏でも名の通る様になった情報屋のシオンと。



このまま生きていれば、あるいは私は『人間らしさ』を失ったままであっただろう。
その時の私の生き方は、例えるなら情報を集めるだけの機械であった。

『未来』を知ることのできる私にとって『運命』とは理解しがたい言葉だ。
しかしだ。私は『運命』という言葉は嫌いだがあえて言おう。



ああ、中学一年生のその時。
気まぐれに通おうと思った中学校で。



私は運命の女(ヒト)に出会ったのだと。



[20958] 第肆記憶目 「出会い」
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/11 15:31
さて、私は中学一年生として春を迎えることになった。
その時はまだ私は私以外の異常を見つけることはなかった。
別にこちらが見つけようとせずとも、時はいずれ来るものだ。
だから私はいつもどおりに無気力でやる気のない人間を演じた。
……まぁ、なんとなく腹が立つのでテストでは満点を取っていたが。

無論、私がその中学校を選んだ理由はある。
別に何かがあると調べたわけでも予知でわかったわけでもない。



ただ、ランダムに引き当てた中学の名前を選んだだけだ。



『予知』通りに事が進むのなら、私が何もせずとも『私の望む機会』とやらはやってくる。
ならば私はそれを待つだけでいいのだ。
そしてそのまま一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎ、夏休みが終わって二学期になり……私は異常に気付いた。
いや、異常というのは私を囲む環境の事だ。

これだけの時間が経てば、私に対するいじめが多発している頃なのだが、それが全くない。
そういうこともあるのかもしれないが、それはどうなのだろう。

無駄な事を聞いても仕方ないと思って授業中は意識を全面カットしていたのだが、仕方なく情報を集める事にする。



そんなことを初めて数日が経った。
そして初めて私は知った。
どうやら、同じ学年に一人、私以上に『異常』な存在がいて、いじめられているらしい。



……どうなのだろう。
これが『予知』なのだろうか。
結局、私が痺れを切らして見つけたようなことになっているが、これが『予知』した機会なのだろう。
どうやら待つだけとは行かなかったが、『機会』はやってきたのだ。

私はその『異常』がいるというクラスへと向かう。
さて、どのような人物か。

私としては簡単に読めない人物が望ましい。
異常同士仲良くというわけでもないが、同レベルの話相手ができることは素直に嬉しい。
人間としての『異常』が強ければ強い程、楽しい話相手になるのだから。
だから私は足を進め、その『異常』がいるクラスの入り口に立った。

それは廊下にいた他の生徒にはどう見えたのか。
他の生徒に混じり、このクラスの『異常』に対してあまり『異常』に見えなかった私が、そのクラスの入り口に立っている姿は。
その私が、入り口を開いて中の『異常』を目を大きく開いて見つめているのその姿は。
そのような些細な事を全て無視して私はじっくりとその姿を記憶していた。



そこにあったのは『異常』といえば『異常』な光景だった。
休み時間だからか、教室の生徒は全て外に出ていた。
その『異常』である彼女を除いて。

私が辺りに示さなければその巨大すぎる『異常性』が知られないのと違い、彼女はその存在そのものが『異常性』を現していた。
そして彼女の目が教室に入ってきた私の目と合った時。


私は一瞬でその存在の虜となった。


======

あとがき

一番大きい原作との相違点が、『いじめられっ子のメインヒロインが通っていたのが女子校じゃなくなった事』って、ある意味珍しい気がする。



[20958] 第伍記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/08 07:58
私はその女(ヒト)を見て完全に動きを止めていた。
完全にその女(ヒト)に目を奪われていたのだ。

彼女は汚れていたし、彼女の周りも薄汚かった。。
だがしかし、その中で彼女が『異常』であることは一際大きく感じられた。
彼女が据わっているイスと机の周りはゴミで埋め尽くされていたが、意にも介さず彼女は本を読んでいた。
いや、それくらいなら私もするだろう。その場合、面倒だからとっとと出ていくだろうが。

ともかく、彼女の顔は袋をかぶっていたから見ることはできなかった。
しかしその目は見る事が出来た。だからと言って、目に惹かれたのかといえばそうではない。

『全て』だ。
私は彼女の『全て』に惹かれた。
未だ何も知らない相手を前にして何を、と思うかもしれない。
だが、とにかくそう感じたのだ。

私がそこに立ってから周りで様子をうかがう生徒達を見る。
彼らが彼女に対して感じているのは圧倒的な恐怖だ。
自分より優秀で、それでいて『異常』である彼女への恐怖。
『異常』としての存在感がありすぎる彼女への怯えだ。
私が待ち望んでいた物はこういったものなのだ。

とにかく私は彼女へと話しかけることにした。
まずは名前だ。名前が知りたい。
私は一直線に彼女の机に向かって歩いていった。

それに気付いた彼女が本に向けていた目をこちらに向ける。
何も見ていない目だ。俺に向けてはいるが意識はこちらに向けていない。
それは耐えられないな。私は見てもらいたいというのに。

「こんにちは」

「………」

ああ、さすがにこんな唐突に挨拶をしてはいけないらしい。
『予知』を使ってもいいが、なんとなく使いたくないのはなぜだろう。。

「私の名前は天宮シオンだ。名前を教えてくれ」

「……いや、つーかいきなりなんなんだよ」

そうだな。それは疑問だろう。
私も話しかけずにまずは情報を集めようと思っていたのだ。
名前も調べてからでもよかった。
だが、どうしてもまずは正面から話したくなったのだ。
だから私は正直に言う。

「どうしても話しかけたくなった。他に理由はない」

「自分勝手だなーおい」

「自分勝手……ふむ。そうか。確かに私は自分勝手なのかもしれないな」

「勝手に納得してんじゃねーよ。天宮だっけ?」

「そう。天宮シオンだ。君の名前が知りたい」

そう言って彼女の顔で唯一見える部分である目を見つめる。
こちらを探っているような眼だ。
それはそうだろう。確かに私は不審かもしれない。
だが、自身の中から溢れる何かを押さえられなかったのは初めてなのだ。
今回は、それに押し流されてしまいたかった。

「俺は名瀬夭歌だ。ったく自分以外の異常(アブノーマル)がいたとは気付かなかったぜ」

「見ただけで気付いてくれるものなのか。いや、私も名瀬を見てすぐにわかったか」

私の『異常性』は知られない限りわからないもので、目立たないとは思っていたのだが。

「お前、どっかで見た年食った坊さんみたいな目をしてるぜ」

「……目か。確かに色々と他の子供とは違う人生を送ったな。それが目に現れているというわけか。そして君はそれに気づくだけの能力を持っている人間というわけだ」

「というか喋り方まで年寄り臭いのはどうかと思うんだけどなー」

「善処すると答えさせてもらおう」

そんなつまらない事で話相手が減るというのも困るからな。
ともかく、その、あれだ。

「一つ、頼みがあるのだが」

「だっからさー。お前はいきなり話しかけてきといて今更遠慮するのかよ」

「そうだな。では言おう。私の話相手になってくれ」

「……はぁ? それだけかよ?」

「うむ。私はお前が一目で気に入った。だからこれからは共にいてもらいたい」

もしもこの名瀬夭歌という女が私に想像できない程に『異常』を抱えているのならば、私とずっと語り明かしても足りないだろう。
そしてきっと私が見たいモノを見せ続けてくれるに違いない。
ならばそう、共にいればそれはきっと幸福だ。少なくとも不幸ではないだろう。

「……お前はもう少し勉強しろや」

「? 私はなにかおかしなことを言ったのか?」

そもそも君も、私には勉強など必要ないということがわかると思ったのだが。
それとも勉強とは別の何か他の事を表すニュアンスか?

「別にいいけどーちょっと実験に協力してもらうぜ?」

「私の体などいかようにしてくれても構わんよ。私が私として生きられるならばそれで結構だ」

「正直ってそーいうのには興味ね―けど、取引成立ってやつだな」

「うむ? 取引というものではない。これは友誼を結ぶ、もしくは絆の完成でいいのではないか?」

「お前マジでわかんねー。どんな生活してたんだよ」

そういうことはお互い様だと思うが。
しかしそうだな。そういうことはお互いに知る術があるだろう。
とにもかくにも……そうだな。
記憶しつくしたといっても興味のない分野は放っておいたのだ。
一度意識して見るのも面白いかもしれない。


私の気持ちはどういったものなのか。
そもそも心など理解できない私には把握しきれるものではないかもしれないが。
試して見るのも悪くないのではないだろうか。


======

あとがき

主人公は段々とおかしくなります(性的な意味で)。

幼稚園でも小学校でも『道徳』の授業とかをすっ飛ばしてたので仕方ないですね。

ちなみに、探究心旺盛、好奇心旺盛、知識欲旺盛で繋がってます。



ところで、私思うんですが名瀬夭歌(黒神くじら)って、家族愛すらも余分だと感じて家出した割に、普通に友達が大事なんだよね。友情あるし。
禁欲さが記憶と一緒に吹っ飛んだんですかね? 色々と謎が多いキャラです。

でもそれなら別にあれだ。
恋愛レベルまで徐々に底上げしていっても問題ないよな。




[20958] 第陸記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/08 14:23

恋愛とはなんぞや。
曰く、人間が他人に対して抱く情緒的で親密な関係を希求する感情である。
曰く、その感情に基づいた一連の恋慕に満ちた態度や行動を伴うものである。
曰く、耐えがたく抗い難い感情である。
曰く、抑えきれないものである。

「……はて。私は一体なぜこんなモノを調べようと思ったのか」

なぜ?
無から生まれた故に理由なし。
私はそう記憶している。
ただなんとなく調べようと思っただけである。

名瀬夭歌との邂逅は成功だった。
成功というか最高だった。
会えた事を、その機会を予知した自らの異常に初めて感謝した。

そうか、私の感じたモノと関連性のあるモノだからと私は恋について調べたのだ。

だがいまいちわからない。
数多の文学作品も読んだつもりだし、一目惚れというものがあると知ってもいる。
しかし、それは自らに起こりうる事なのか。
私には判断がつかない。


ならば聞いてみればよいのだろう。



そして翌日。

「そういうわけで来たのだが」

「どういうわけだか知らねーけど、俺に聞かなきゃならない事なのかよ」

「うむ。私はお前に一目惚れしたかもしれない。そういった事が私にも起こりうるのだろうか」

「……聞く相手を間違ってるだろ」

そうか?
私にとっては私以外の『異常』であり、私以上にモノを知っている可能性があるのは名瀬くらいだったのだが。

「お前の顔を見ていると動悸が激しくなる。これは恋をしたと思われる現象だ。思えば私はお前を見た瞬間からこの状態だった。これは一目惚れという現象ではないかと思い至ったわけだ」

「………」

「なんだ。そのような馬鹿を見るような眼をして。一応真剣に言っているのだが」

「いやいや、どう考えても馬鹿に見えるぜ」

馬鹿……私は頭が悪いと思われる行動や知識が少ないようなところは見せていないつもりだが……
この判断を名瀬に任せに来てしまった事が馬鹿なのだろうか。
確かに人に聞くということは知識が無いという事を現すのかもしれないが……

「わかった。判断は自分でつける事にする」

「……大丈夫かよ」



翌日

「昨日の判断は一目惚れということで決着した。私はお前に恋をしたらしい」

「頼むからいい加減にしてくれよ」

「何をだ?」

「教室でそんな事言うな」

そうだったのか?
確かに私の記憶にある文学作品中では周りに人がいたパターンは15しかないな。




[20958] 第柒記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/08 14:25
私が名瀬夭歌とあって数日後。
私は彼女を自分の家へと招いていた。


彼女との会話は実に楽しい。
彼女はほとんど自分から話そうとはしない。
だが、知的で独創的な彼女との会話をしている時、私は常に幸せだった。


その会話の中で私は彼女の情報を得た。
ついでに、下校する彼女をこっそりと見つめながらその後を尾行した。
どうやら廃墟のような場所に住んでいる。
戸籍や資金は、まぁ彼女ほど優秀ならば何の問題もないだろう。


これは会話の中で得た情報だが、彼女は理科生物学に置いて実に優れているようだ。
そういった分野の情報も記憶しつくしている私だからの感想だろうが、彼女の話す理論や独自の構想は今まであった既存のモノとは、それこそ規格が違っていた。
彼女の『異常』もおそらくそこに直結するのだろう。
そんな訳で色々と話しあいたいと思って家に招待したわけだ。

「やたらいい家に住んでるじゃねーか」

「そうか? 情報収集用の端末を集め、本を収納しておくにはこれくらいの家が必要だと判断したのだが……」

「それで親もいないってかー。俺と同じだなー」

宝くじの番号を『確実に』一等がとれるように選ぶ方法が私にはあるからな。
金を得るには簡単な事だったので、出来る限り必要なものに回した後は家の方に金を回したのだが。
それは間違いだったのだろうか?
なんにしても、親なんていう下らない事でも彼女と境遇が同じなのは実に嬉しい。

「私は家族に見切りをつけて家を出たが、そちらはどうなのだ?」

「何がだよ」

「実際、親がいければ子は生まれないからな。家を出たのか?」

「ああ、ただ自分の心を弄ってそういう記憶を消しただけ」

「ほう。それは興味深いな。まぁ、その事によって今の君があるのだとしたら私にとって幸福だが」

つまりは、その事が無ければ私は名瀬夭歌という存在に会えなかったのだからな。
そして記憶を失った事によって彼女の人格が形成されたのであれば、その全てがあるからこその彼女なのだと受け止めよう。

「それでー実験動物(サンプル)になってくれるんだろ?」

「うむ。私の身体能力は前も言ったように異常でな。ここのところはそれも顕著になってきている。私という標本がいれば、それは君の利益となるだろう。そして私は、君に何をされても自己を失わない限りは許容しよう」

「おいおい。言ってくれるじゃねーか」

「何度も言っただろう? 私の異常性は脳が、主に私という自己が中心だ。体に何が起きたところで、私が私として思考できるのなら、そこに何の問題はない。ましてやそれが君の役に立てるのならば当然だ。私は君が大好きだからな」

「……あぁもう、んな何度も言わなくてもいいっての。そこまで何度も言われてもお前をぶっ壊そうとは考えてないって」

「そうか、君がそう言うのならば安心だな」

私は地下にある研究室兼手術室に彼女をいざなった。
ここは、私が記憶の中の技術を模倣するために作ったものだ。
結果は『可能』ということで落ち着いたが、特に研究するような事もないし、興味もないので放置していたのだ。
思えば、『いつか役に立つ』とはこのことか。良かった良かった。

「さぁ! 私の体を隅々まで弄ってくれ!」

「お前……いや、面白いからいいか」

こうなる事は本望さ!
私は衣服を着替えて手術台の上に登る。
ありとあらゆる設備は整っている。さぁ、思う存分研究してくれ!

======

あとがき

ガンガン壊れる主人公。
最終的に、黒神真黒とか江迎怒江レベルの変態にまで育ち?ます。


ちなみに彼女の心情としてはこんな感じです。


名瀬夭歌→記憶がぶっ飛んだところに現れた謎過ぎる男に戸惑う。

名瀬夭歌→ストレートすぎるのかアホ過ぎるのかわからない告白を何度も受ける。

名瀬夭歌→まぁ面白いから付き合ってやるかと思う。




[20958] 第捌記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/08 15:28



「つまりだ。記憶が蓄積するごとに脳と体全体がバージョンアップすると?」

「脳ってのはコンピューターみたいなもんだしな。演算能力(ソフト)の機能上昇と記憶による内容量の増大に合わせて身体(ハード)の機能が上昇ってとこか」

「まぁ普通ならそう言う事自体も起きないんだろうな。だが、私も自分が異常だとは理解している。『そういうもの』なんだろう」

服を着替えて居間に戻って検査の結果を聞いた。
どうやら私はとことん異常であるようだ。
しかし私はそんな事よりもきになることがあった。

「それよりも、私は君の役に立てたのか?」

「生のデータってのは貴重だからなー。随分いいもんが取れたぜ?」

「そうか。ならばいいんだ。あぁ、一応後でそのデータを一目見せてくれ。記憶しておく」

「お前のデータなんだから許可取る必要はねーよ」

まぁ、そうかもしれないな。
しかしデータを取ったのは名瀬なのだから許可はいるのではなかろうか。
でも、彼女がいいと言っているのだからそれでいいか。
筋肉がどうとか神経がどうとか言ってるけど、そんな彼女も素晴らしい。

しかし、未だに彼女の素顔を見れないというのは辛い。
いや、別に見えないからといって嫌いになるわけなど勿論ないのだが、彼女の全てを知りたいと思ってしまうのは仕方ないだろう。
彼女が見せたくないと思っているのならば、私は見る気など全くないからだ。
……見せてもらうために努力と懇願は惜しまないつもりだが。

うむ、彼女の素顔を想像するのもいいかもしれない。
おそらく知性的な素晴らしい顔をしているのだろう。
まぁ、彼女の容姿がいかなるものであろうと愛し続ける自信が私にはあるが。
いつか自らの記憶の大部分を彼女で埋め尽くしてしまいたいものだ。

「おい、不気味な笑顔はやめてくれよ」

「ん? 私はそんな顔をしていたか?」

だとすればそれはまさに愛ゆえに……なぜ不気味?

名瀬に視線を向けるも、既に彼女は手元のデータに目を落としていた。
さっきは話しかけてくれたのに、また熱中してしまっている。



さて、彼女の素顔のことを考えていたのだったか。
彼女の素顔を見せてもらえるようになったら、私は彼女に言わねばならない事がある
私の異常である『完全記憶』は既に彼女に教えてある。
しかし『予知』の方はまだ教えていない。
彼女に言わねばならないのはそのことだ。

『未来』を知るということは、他者に恐れられる事だ。
無論、彼女に対してそれを使った事はない。
だが、私は彼女に恐れられる事が恐い。

彼女がその程度の事を気にするような人間ではないと信じてはいる。
だがそれでも恐いのだ。
だから、彼女が顔を見せてくれて、私を信頼するという感情を見せてくれた時、私の『最大の異常』を彼女に教えようと思う。
それならば、きっと恐がられる事などないのだから。

「やっぱり、私は君に会えてよかったよ」

「……なんだよいきなり」

「いや、なんでもないことだ。私の独り言だからな」

早く、彼女の素顔を見せてもらいたいものだな。


======

あとがき

書いていると、熾音君がすぐ暴走しちまうのは何故なんでしょう。

やっぱりあれですかね。愛ですかね。

ちなみに、もしもめだかが『完全』で『記憶能力』を複写した場合、過負荷として『知識欲求』がついてきます。
まぁ意志の力が強い彼女なら『知りたがり』レベルで収まるでしょうがね。

主人公である熾音君の異常性については今回でもう少し出てきました。

書いてたらチートすぎないかと思ったけど、『めだかだって十分チートすぎるからいいや』となった。



[20958] 第玖記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/08 16:47


私は名瀬の事をもっと深く知りたかった。
だから彼女と多くの事を話し、語り合った。
彼女の得意な理科生物学に置いても、私は十分な知識を持っていたので、彼女の助けとなる事が出来た。

彼女はだんだんとバイオテクノロジーの世界的権威として名を知られはじめた。
無論、それはまだまだ裏の世界での一部の話である。
世間一般で騒がれるような有名人となったわけではない。
彼女のいじめはなくなるわけではないのだ。

正直、私はそれを見ていると腹が立ったのだが、彼女がそれを無視している以上は私が気にしても仕方ないだろう。
どこかそれを肯定している雰囲気さえあったくらいだ。
ただそれでも、私には彼女が一人でいる事が耐えられなかった。
だからいつでもどこでも彼女を見れば必ず話しかけるのだ。

「名瀬! 会いたかったぞ! 8時間と15分36秒ぶりだな!」

「お前ここが教室だってこと考えろよなー」

「世間一般の常識なぞどうでもいい。私には君が全てなのだ」

「うーわ。駄目だこいつ」

教室であろうが他の生徒が見ていようが私までいじめられようが知った事ではない。
彼女が私のそばにいるのならそれだけで私は満足だ。



私は彼女の事を多く知るにつれて少し気付いた事がある。



日本屈指の名家である黒神家。
最近ではその企業グループの業績が『異常』に伸び始めているため、日本有数の企業グループから世界有数の企業グループへと変貌を遂げつつある。
まぁ企業グループの事についてはおいておこう
問題は、そう言った黒神家の情報のどんな細かい事でも私が記憶として収集しているという事だ。
有名であるということは、それだけ情報の量も膨大であるという事だ。

その長男である黒神真黒は現在私より一つ上の中学2年。
その妹の黒神めだかは私より一つ下で小学六年生。
彼らはその家の生まれである事もあってか非常に有名だ。

しかし、ほとんど知られていない事ではあるが、黒神家にはもう一人の子供がいるはずなのだ。
黒神くじらという『現在中学一年生』であるはずの長女が。
ほとんど知られていないのは、彼女の情報がほとんど外に出てこない事にある。
しかし、過去の情報を探ればその存在は明らかだ。

黒神家には確かに『黒神くじら』が生まれていることは確かなのだから。



そしてその『黒神くじら』という存在の情報は現在全く聞く事が無い。



さて、そこで私の頭に浮かんだのはは名瀬の事だ。
2年前から情報が途切れるようになった『黒神くじら』の情報。
元々情報が少ないモノがぷっつりと途絶える。それが何を示すのか。
そして情報を収集すればわかる黒神家の子供たちの異常性。
何故か素顔を見せようとしない名瀬。
名瀬と『黒神くじら』の年齢の一致。


これらの情報から推測すると、ある可能性が見え隠れする。


だが、考えるだけ無駄な事か。
そもそも私は彼女の事を知りたくて推測をしてみただけだ。
彼女の過去がどういったもので、彼女の正体が誰なのかわかろうがそれには意味が無い。
記憶を失った彼女には関係が無い事だろうし、私は今の彼女に惹かれたのだ。


推測は推測のままでおいておく事にしよう。

======

あとがき

主人公はとんでもない知りたがりなのでストーキングだって大得意です。

今まで記憶してきた事を劣化無しに覚えていられる主人公だからこその推測です。

彼にとってはそのような事はどうでもいい事だが。

原作見てて思ったが、拳銃一丁とナイフ一本持った宗像先輩が裸になったらクソ強いんじゃなかろうか。

超スピードで動いて銃撃ってナイフで突けばそれで人なんかそれで殺せると思うんだが。


というか、暗器をたくさん持って逆に戦闘力下がるならそんなもん教えてもしかたなかったんじゃ。



[20958] 第拾記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/08 16:47

私は名瀬夭歌の事が大好きだ。
それはもう大好きで大好きでしかたが無い。
顔を隠してようが皆に嫌われてようが好きなもんは好きである。

ということで本から得た知識をもとに、私はある計画を実行に移すことにした。

時期は冬。
年の終わりである大晦日。
家に名瀬を呼んで年越し蕎麦を食うのである。

どうしてこんな事を考えたかといえば、彼女と過ごす記憶を作りたかったからである。
ついでに、こう言った事を体験したことが無さそうな名瀬と共に私も年越しそばを初体験というわけだ。
なんとなく素晴らしいような気がする。ならば実行に移すのみである。

「で、俺を呼んだのは『一緒に年越しをしたかった』からだっつーのか?」

「ああそうだ! 名瀬も体験したこと無いだろう?」

呆れたような眼で炬燵に入ってこっちを見る名瀬。
そんな視線もイイ! もっと私を見てくれ名瀬!

「ただ単に談笑しながら蕎麦を食べて除夜の鐘を聞くという、一見無価値で無意味な行為だ。しかし、そういう事をやってみるのもたまにはいいんじゃないか? ちなみに私は名瀬が一緒にいてくれるなら何であろうと無問題だ」

「相変わらずお前もおっかしいよなー。俺なんかのどこがいいんだ?」

「当然『全て』だ! 記憶の中の言葉を使わせてもらうのならば……そう、『好きになるのに理由はいらない!』私は全くその通りだと思うね。いい言葉だと思わないか?」

「知らねーよ。というか興味ないっつーの」

……まぁそんな答えは予想してたが、いつしか彼女にも『好きだ』とかなんとか言わせて見たい。
そして私はそれを言われてみたい。
ふふふ。努力、努力だな。

「さて、蕎麦の準備ができたぞ。私の記憶の中の全ての料理知識を総動員して作った一品だ。存分に期待してくれ」

「おーう。便利でいいなー」

「ふふふ。名瀬に喜んでもらえるのなら頑張った甲斐があるというものだ」

私は笑顔を浮かべながら名瀬の正面になるように炬燵に入る。
ホントのところは『いただきます』も一緒にやってみたかったが、彼女は既に箸を手にとって食事を始めている。まぁそれは今度でいいか。いきなりたくさんの事を求めるのももったいないだろう。
……袋を被りながら蕎麦を食う彼女の姿はなんとなく可愛い。

「結構美味いな。こんな特技があるとは驚きだぜ」

「特技というかね。ただ単に失敗しないようにしたら自然とこうなるんだよ。名瀬が褒めてくれて本当に嬉しい」

「……すげー笑顔だな。俺が少し褒めたくらいでそんな顔すんのかよ」

「当然さ!」

私はどんな料理であろうと美味しく作る事が出来る自信がある。
ちなみにこの蕎麦は手打ちだ。
愛情を込めるために一から作ったのだ。
それを美味しいと言われて嬉しくないはずがない!

「ところでだ」

「なんだよ」

「私はいつになったら君に名前で呼んでもらえるのだろうか」

「はぁ?」

「だって私は名瀬と呼んでいるじゃないか。というか私は名前で呼ばれたい!」

「本音はそっちじゃねーか」

どっちだっていいだろう。
私は名瀬に名前を呼んでほしいのだ!
いつまでも『お前』では他人みたいな感じがするので嫌だ!

「駄目だろうか。いや、駄目だというのなら諦めるが……」

「あーもうめんどくせー。そんな顔してんじゃねーよ、いっつも笑ってる癖しやがってよ」

「……そんなにいつも笑っているか? 私は」

「うざったいくらいに笑顔だなー」

「そうか……」

「……ケッ! 呼んでやればいいんだろ! 熾音くん! これでいいかよ」

「愛してるよ名瀬ちゃん! 大好きだ!」

そんな、ちょっと仲良くなれたような気がする大晦日の夜だった。

======

あとがき

最後のあれは主人公の『天然泣き落とし戦法』です。

泣くまではいってなくとも、いつも笑顔の主人公の哀しげな顔にキュンと来たわけですね。



[20958] 第拾壱記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/09 06:09

今日の天気は晴れ。
私は鏡を見て身だしなみを整える。
長い黒髪をポニーテールにまとめ、中学校の制服に着替える。
……よし。準備はできた。

「名瀬ちゃん! 朝ご飯だよ!」

「朝から騒ぐのやめてくれよなー。まだ5時だぜ?」

「そいつはすまなかった! でも大丈夫だ! 愛情たっぷりのご飯とみそ汁が君を待っている!」

「眠いって言ってるだろーが」

でも名瀬ちゃん、炬燵で寝ると風邪をひくぞ。
いちいち研究室を利用するのに私の所に来るのが面倒だからって、私の家に泊まってくれるのは嬉しい。
でも、それで名瀬ちゃんが風邪をひいてしまったら本末転倒だ!
無論その場合はつきっきりで看病するけど。
……むしろ看病はしてみたいけど、それで彼女が風邪をひいてしまっては嫌だからな。

「ほら、できたてだから美味いぞ!」

「眠いって言ってるのによ……」

「そんな名瀬ちゃんも可愛いさ!」

「自分勝手だなー熾音くん。飯作ってくれるのはありがたいけど」

俺が名瀬ちゃんのために飯を作るのは当然だろ?
というか私はどんなものであろうと君に捧げる覚悟はできているさ。
自分勝手なのはまぁ、『異常』な人間はどこかしら自分勝手なんだと思うよ?

「いただきます!」

「いただきまーすっと」

そんなめんどくさそうに言わんでもいいだろうに……
だがそれでこそ名瀬ちゃん。気だるげな感じがなんともいいね。
ふふふ、朝から名瀬ちゃんの姿を見れて一緒にご飯を作れた。
今日も最高の一日だな。

「ところでよー」

「なんだ?」

「あれは何だよ? あれ」

名瀬ちゃんが指差した方向を見ればそこには棚。
……ついでに私の作である名瀬ちゃん人形が3つほど。

「何って……名瀬ちゃん人形だぞ?」

「昨日はなかったじゃねーか」

「昨日の晩に作り始めたらついつい熱中してしまってな。一気に三つも作ってしまったんだ」

「裁縫もできたのかよ」

「勿論だ。私の名瀬ちゃんへの愛情があれば記憶の中の技術をマスターするなど簡単な事!」

デフォルメされた名瀬ちゃん人形を3つ作ることなど、簡単な事だ!
名瀬ちゃんが炬燵に突っ伏して寝ている間、私はそれを見ながらずっと人形を作っていたんだからな。
ついでに下校する名瀬ちゃんを尾行した時の記憶や、初めて会った時の記憶を元にして人形を作っていたんだ。
作っているだけで天にも昇る幸福感だった。

ちなみに、棚に置いてある本は全て名瀬ちゃんのアルバムだ。
私は記憶すればそれで終わりなので、本などは一度読めば置いておく必要はない。
しかし、もうすぐ6冊目に入る名瀬ちゃんのアルバムは居間に置いてある。
記憶の中ではなく写真で直接楽しみたいからだ。
最新の超高性能カメラをネットでオーダーメイドしてもらった甲斐があったというものだ。

「ご飯は食べ終わったかい? それじゃあ一緒に学校に行こう」

「そんなに引っ張るんじゃねーよ」

「ああ、ごめん。でも名瀬ちゃんと学校に行くのは楽しいからね」

ついつい手を引っ張ってしまったので慌てて離す。
無理矢理に引っ張って嫌われたりしたら大変だ。

「俺も面白いからいいけどさー。ま、熾音くんも他人からの評価は気にしないみたいだしな」

「私は名瀬ちゃんからの評価が良好ならばそれでいい」

「……かっこいーこと言ってくれるぜ」

「私はいつだって真面目にかっこいい事を言ってみせるさ。ただし名瀬ちゃん限定でね」

さて、それじゃあ学校に行くか名瀬ちゃん。
私は名瀬ちゃんがいつもの調子に持ったのを見計らって、もう一度手を握るのだった。


======


あとがき


早いとこ名瀬ちゃんの素顔を見せてあげたいが……
どうやって納得できる展開にするかな。


熾音君にもしっかり弱点はあります。
そして未だ完成に至れない理由もあります。

ヒントは『たくさんの事を知り過ぎて答えは全てそこから探し出している事』


ちなみに古賀ちゃんの出番もしっかりありますよ。



>>PALUSさん

原作の方がそんなに進んでないからなるべく引き延ばしたいですね。
現在の過去編で原作のキャラに接触するかどうかですが……接触します。





[20958] 第拾弐記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/09 01:37

「それじゃあちょっとお出かけしてくるね名瀬ちゃん! ご飯は用意しといたから温めて食べてね!」

「熾音くんは俺のお母さんかよ」

「いや、それを言うならお父さんだろう? そして名瀬ちゃんはお母さんだ!」

「さっさと行くなら行けよ」

今日亜は私がちょっと遠出するから名瀬ちゃん成分を吸収してから出かけたいのに……
つれないな。名瀬ちゃんは。

「それじゃあ『行ってらっしゃい』くらいは言ってくれないか? 離れるのは非常につらいんだ」

「わあったよ。……いってらっしゃい」

「ありがとう名瀬ちゃん! しかたなく言う名瀬ちゃんも可愛いよ! いってきます!」



さて、時はすでに春半ば過ぎ。
私と名瀬ちゃんは中学二年生となった。
学校全体が名瀬ちゃんを嫌っているのは変わらないが、変わったのは私もそれに含まれるようになったことだろう。
四六時中名瀬ちゃんにひっついて、『愛ゆえになせる行動』を取り過ぎたせいだろう。
あとは名瀬ちゃんといつも一緒にいる事で、見えにくかった私の異常が見えやすくなったからだろう。


まぁそんなことはどうでもいい。


一日の半分以上を名瀬ちゃんに費やし、4分の1を知識の収集に費やすタイムスケジュールに変わってかなりの時間が経つ。
それ自体には何の不平不満も問題もないのだが。
そんな情報収集の時間の中で、とある情報に私は目を止めた。


『黒神めだか』の情報だ。
ジュグラ―定理を難なく解いて莫大な報奨金が贈られたとか。


そういった、過去にない新しい物や方法を作り出す才能は私には無いものだ。
名瀬ちゃんだって新しい独自の理論や人体改造の立案もこなしてしまえるが、そういった才能は私にはない。
せいぜい私にできる事は、既存の知識を組み合わせることくらいだろう。
そういった才能があれば私は名瀬ちゃんの役にもっとたつ事が出来る、そう思うとそういった才能を持つ人間が羨ましくなるな。

さて、『黒神めだか』の話に戻るか。
現在中学一年生であろう彼女の逸話は小学生のころからあるが、これでまた有名になったわけだ。
逸話を知れば知るほどに彼女が『異常』であることが窺える。
一時期、名瀬ちゃんの事でかなり意識していた黒神家の『異常』な子供の一人だ。
私は多少興味がわいたので調査を行うことにした。

本当は名瀬ちゃんの傍から離れてまでやる事ではない。
しかし相手が『異常』であるならば、私は実際に目で見た方がわかりやすいと思っている。
前に名瀬ちゃんも言っていた、『実際に取った生のデータ』の方が優れているわけだ。
……それにもしかしたら、名瀬ちゃんの過去に関係があって、『未来』で名瀬ちゃんと共に関わる存在となるかもしれない。
そうだとするのなら、その『異常』についてできるだけの事を知っておいた方がいだろう。
私の『予知』とて万能であるわけではないのだから。



そんなわけで少し遠出をしてみたわけだ。



まぁ、遠くから見るだけなのだがな。
一目でわかるのは確実に『異常』であるということか。
目にこもる力も、溢れる存在感も、常人とはかけ離れている。
無論、名瀬ちゃんほどに私を魅了することはなかったが。

異常である物が普通に過ごしている。
いや、異常を普通として感じながら過ごす事で異常が普通に見えるのか。
とにもかくにも、近くの建物から望遠鏡を使って盗撮するのはやめようか。
そろそろ飽きてきたし。
というかなんで私が名瀬ちゃん以外の女をじっくり観察しなきゃいけないんだ。
……自分で来たんだったか。

ともかく、『黒神めだか』は異常だ。
今日も見ているだけで何回も人助けをしている光景を見た。
そして結果的に『異常』であるにもかかわらず皆に好かれている。
私や名瀬ちゃんとは違う……な。


しかし、それもまた『黒神めだか』の生き方なんであろう。


私は私の生き方である名瀬ちゃん至上主義を貫くだけだ。
ま、もしかしたら正面から顔を合わす事があるのかもしれない。
その時の私の態度はお互いの立場によるであろう。


まぁ今はさっさと帰って名瀬ちゃんに会いたい。
できればハグしたい。抱きしめたい。
うむ、1日会えなかったという事で許してもらおう。





======


あとがき



黒神めだかと接触……と見せかけて本当に見てただけ~。
だって接触したら確実にややこしい事になりますからね。
ヘタすれば球磨川に目を付けられますよ。
そしたら主人公の場合、確実に球磨川を殺しにかかりますからね。『名瀬ちゃんに危険が迫る未来を排除する』的な感じで。
だから今回は見てただけ―です。


ある意味伏線です。
……ハグ的な意味で。




雲仙冥利とのバトルでめだかが乱神モードになったのは中学1年の夏休み以来。
つまり球磨川とのバトルはその時か、それより前かということになります。

そしてめだかが球磨川とバトル?したらしいときの彼女の髪型はポニーテール。
その後にはほどけてストレートにしています。
そんでジュグラー定理を解いたのがポニーテールの時。
そして阿久根にボコされてたのはツインテールの時。

時期順としては、ツイン→ポニテ→ストレートなのでしょう。
だから主人公が訪ねてきた時のめだかは、阿久根が会心した後、球磨川との対立前となります。



若干強引だけどいいんだよ!
深いところまで関わるつもりじゃないイベントなんだからさぁ!



そして今回わかった熾音の弱点は『想像力』『発想力』が極端に欠けている事。
モナ・リザをそのままそっくり書くことはできても、新しく何かを書けと言われたらできないのです(風景画とか人の絵とかは既存の技術使って書けますけどね)。
既存のハイパーな技術は使えても、アイディア商品は作れない。そういうわけです。


ちなみに、名瀬ちゃん人形は目の前にいる名瀬ちゃんを見ながら裁縫でアニメ調に作ったらできましたとさ。
まさしく愛の力としか言いようがないね。頭がイッちゃってたから作れたんでしょう。


>>アストラさん
  熾音が佐山・御言と被る。

新庄運切は古賀ちゃんですねわかります。


駄目だよ!だって熾音は最終的にマジモンの変態になるんだから!
被ってるとか言われたらもうすでにマジで変態じゃないか!

>>rasetu

そう言われてみれば、原作を知らない人でも十分楽しめる作品になってますね。
主人公視点だからでしょうか。






[20958] 第拾参記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/09 06:26

「名瀬ちゃあああああああああああん!」

「いきなり抱きつくんじゃねえよ」

ドスッ

「首に注射器刺さってる! でも私の血液採取ならいつだってさせてあげるさ!」

「残念だけど睡眠薬だぜ? しばらく寝てな」

「眠い……でも腕の中の感触が素晴らしい……」

フフ……いい夢が見れそうだ……
名瀬ちゃん曰くめんどくさいから付けないノーブラの胸の感触だって大好きさ!
というわけでおやすみ。





「学校で抱きついたのは悪かったと思ってる。でも後悔はしていない。まさしく夢見心地だった」

「んなことはいいんだけどよ。どこいってたんだ?」

「なんだい? 私がどこに行っていたのかを気にしてくれるのかい? 嬉しいなぁ」

「……ちげーよ。言う気が無いなら言わなくていいっつーの」

「そうかい。ならば言わないでおくよ」

もしかしたら『黒神めだか』の観察に行っていたと知って嫉妬とかしてくれたら嬉しいけど。
いや、そんなことをする名瀬ちゃんは名瀬ちゃんじゃないね。
少なくとももっとラブラブになるまではそういう展開はないだろう。
もっとラブラブ……早くなりたいな。

「というわけでお弁当作ってみました!」

「中身はまともなんだろーな?」

「一応、ハートマークは自重しておいた」

「……ま、別に食えればいいけどよ」

食えればいいと言って前はバランス栄養食品ばっかり食ってたじゃないか!
私のお弁当はちゃんと栄養も見た目も味も全てが名瀬ちゃんのために考慮されているぞ。
脳の働きを促進するために噛みごたえのある物もあるし、ビタミンも十分に摂取できるようにな。
名瀬ちゃんの健康はこの私が守る!

現在、教室にいるのは私と名瀬ちゃんの二人だけだ。
中学二年になってもこの対応とは嫌われたものである。
無論私は名瀬ちゃんがいればそれでいいが、彼女自身はどう思っているのだろう。
だが、私くらいじゃ彼女の心の底など見極めることはできん。
まぁ美味しそうにお弁当を食べてくれているからそれで満足しておこう。

「さて、今日の実験はどうするんだい名瀬ちゃん? 私の体は調べつくしただろう?」

「あぁ。熾音くんのおかげで随分とはかどってるからな。動物実験でテストといこうぜ」

「そうか。それじゃあ適当に準備しておくよ。大型肉食獣あたりでいいかな?」

「準備できるのかよ」

「愛の力は偉大なのだよ」

実際は予知で当てた宝くじの資金が元手なんだけどね。
現在はもっぱら株で稼いでるし。
どれが上がるかわかってれば絶対に金が手に入る方法だよ。
違法輸入の動物でも仕入れればいいだろう。





名瀬ちゃんは最近ではだいたいこうやって動物での実験を行っている。
私の体から得たデータのおかげで、人間の『異常』な肉体スペックのデータが取れたらしいのだ。
人間での実験はまだ行えていないが、現在はそれを動物を使ってテストし続けているわけだ。
もちろん私はその実験台になろうとしたのだが、私の体は元から『異常』であるので、改造しても結果が出ないという事だ。
その時の役立たず宣告には正直落ち込んだ。

まぁ、私の体は名瀬ちゃんのデータ取りに大きく貢献している。
筋肉や骨組や神経、果ては内臓器官の至るところまでデータを提供済みだ。
それが名瀬ちゃんの研究に役に立っているのだから感激である。
実験台にはなれないが、データの提供で貢献したという事で落ち着こう。

さて、そんな事を考えていたら授業が終わって放課後だ。
私はすぐさま名瀬ちゃんの元へと向かった。

「名瀬ちゃん! 一緒に帰ろう!」

「そんなに急がなくてもわかってるっつーの」

私は彼女の手を握って、私たちの家へと帰る。
帰ったら研究室で彼女の助手役だ。


校舎を出て家へと向かう道すがら、私は興奮を抑えきれずに終始笑顔だった。


======


あとがき


だんだんと口調が人間臭くなってきてる主人公。
しかし、冷静モードでは未だに年寄り臭い口調ですよ。
あれです。名瀬ちゃんが近付くとカリスマブレイクするんです。


ところで、日之影空洞さんが一人で軍隊潰せるそうですね。
それでいて存在感が空気で認識させないようにできるって……
H×Hのメレオロンと、バキのオーガを合わせたようなもんですか?
日之影さんマジパネェっす。


>>あか

名瀬ちゃんはマジ可愛い。
異論は認めない。
正直めだかとかどうでもいいから名瀬ちゃんがもっと見たい。
だからこんな二次創作が生まれたのさ。



チラ裏で掲載始める必要がなかったんじゃと思うくらいに指がキーボード上を走るんだが。

古賀ちゃんが出始めるだろう拾伍記憶目~拾捌記憶目あたりか、原作はまだわからんので箱庭学園入学くらい(おそらく弐拾伍記憶目の前後)でその他版に移そうと思うんですがどう思いますか?

この作品、面白いですかね?




[20958] 第拾肆記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/09 20:55




そう、それは未来を知る術のある私にとっても、本当に唐突にやってきた幸せだった。
いくらか不本意な形になってしまったとはいえ、それは確かに幸せな事だ。
思えば、こうも長くの時を名瀬ちゃんと一緒に過ごしていれば、気付かれないという事の方が難しい。
だって名瀬ちゃんも私に負けず劣らずの『異常』であるのだ。
いつまでも気付かれないと思う方がどうかしていた。

いや、『予知』の一切を使わなければよかったのかもしれないが、私にとってそれはできない選択だった。
なぜなら私が名瀬ちゃんをサポートするに当たって、『予知』を使わずに、すなわち私の能力を全て出さずに手を抜いてサポートすることなどできないからだ。
私は彼女を助けるためなら常に全力全開だ。
彼女に恐れられる可能性のある『予知』であろうと、彼女をサポートするためならば惜しげもなく使おう。
そんな矛盾した考えも終わりの時が来たのだ。


私が言う前に、彼女が私の『異常』に気付いた。気付いてくれた。


そのような言い回しになるのは、私が彼女に隠し事をし続けるのが辛かったからか。
それとも全てをさらけ出せずにいたままで愛を叫ぶのが辛かったのか。
彼女と『秘密』を語り合う機会を与えてくれたからなのか。
おそらくそれらは全て正解なのだろう。






「熾音くんさー、なんか隠し事してるだろ?」

「っ! ……なんのことかな?」

「普段ならそこで笑って返すとこじゃねーか」

「そう……だったね」

それは居間でご飯を食べ終わった後の事だった。
珍しくも名瀬ちゃんの方から話しかけてきたのだ。
そしてそれは、私にとっての一番の問題となっているところだった。
なぜなら私にとって、彼女に隠している事などたった一つしかないのだから。

「それで、私が何を隠していると思ったのかな?」

「普段から俺に隠し事しないーつってる熾音くんだしな~。というか、細かい動作の一つ一つ見てればわかるんだよな」

「すると?」

「たま~に先読みしてるよな。熾音くん?」

先読み。そこまでなら問題ないが。
心を読むとでも思われたら余計に嫌だな。
というか、未来がわかるのと同じくらい恐怖されないだろうか、その場合。

「俺がビーカー落としたら急に振りかえって受け止めた事もあったろ?」

「………」

そういえばあったな。そんなこと。
思えば、その時私はデータ整理で書類をまとめていて背を向けてたんだから気付けるはずがない。

「まぁおんなじよーな事はまだたくさんあるんだけどよ」

「……名瀬ちゃんなら気付かれてもしかたないね。それだけ長く一緒にいたって事だし、名瀬ちゃんはすごいからね」

「そりゃあ一年以上も一緒にいるわけだしな~」

「まぁ、名瀬ちゃんの予想通りだと思うよ」

私がそう言うと名瀬ちゃんの目が細められた。
どんな顔をしているかまではわからないが、それは疑問だろうか。
それとも、私が恐れている感情を現しているのか。

「一応聞いとくけどさ~。なんで隠してた? 隠してたって言うより言わなかっただけかもしれね―けどさ」

「……いや、隠してたんだよ。できることなら名瀬ちゃんに知られたくなかったけど、もしかしたらその異常も含めた私の全てを知ってもらいたかったのかもしれないね」

「言ってる事おかしくねえか?」

「まぁいいじゃないか。私が名瀬ちゃんに隠してた理由だろう? それは名瀬ちゃんに嫌われるのが怖かったからさ」

「……確かに異常だけど、別に嫌ったりはしねーよ」

「本当かい?」

「そんなもん今更じゃねーか」

私の悩みとは名瀬ちゃんにとっては取るに足りないものであったか。
いや、私も初めはそんな気はしていただろう?
『予知』して嫌われる事がないとわかっていればすぐに教えてていたはずだ。
それでも『予知』を使わなかったのは、彼女を信じていたからで、それでも恐怖していたからだろう?
とどのつまり、私自身が臆病だっただけなのだろう。

「今更といえば今更だけどね。もっと感動的なセリフを言ってくれてもいいじゃないか。名瀬ちゃんには似合わないけど」

「そんなめんどくせーことできるかよ」

「まぁ名瀬ちゃんがいつも通りに私の事を想っていてくれる事がわかってよかったよ」

「漢字間違ってねえか?」

「合ってるよ。それじゃあ……私の以上について詳しい説明はいるかい?」

「『予知』みたいなもんだろ? 直観的なもんかマジな予知かは知らないけどよ」

「どっちでも変わりはしないと思うけどね」

それじゃあ勇気が出たところでお願いしてみる事にしよう。
私は名瀬ちゃんの方を向いてその目を見ながら言う。

「一つお願いをしてもいいかな?」

「黙ってろってことだろ? わかってるよ」

「ああ、それはそうなんだけど、名瀬ちゃんの素顔の事だよ」

「唐突だな。いきなりすぎるぜ」

「もう負い目はないからね。これで私も何でも言えるというわけだよ」

だからずっと見たかった名瀬ちゃんの素顔を見てみたいんだよ。
隠すことなんて何もないんだからね。

「名瀬ちゃんがその顔を隠す事にどういった意味があるのかは知らない。でも、私はきっと変わらぬ反応をし続けるよ。私にとって名瀬ちゃんは全てだ。顔を見せてくれたらとても嬉しい。だから私に君の顔を見せてくれ」

「強引だな~熾音くんは」

「たまには強引に頼み込むのもいいと思ったのさ。それに名瀬ちゃんだって私の全てを受け止めてくれたんだから不公平だろう?」

「……はぁ。わかったよ。見せればいいんだろ見せれば」

案外あっさり名瀬ちゃんはお願いを聞いてくれた。
それだけ私と名瀬ちゃんの仲が親密になっているということなのだろうか。
そうであるならば嬉しいな。

初めて見た彼女の顔はとても綺麗だった。
思わずほうと息が漏れてしまうくらいに。
そしてもう一度私は心の中で思った。彼女と一緒にいてよかったと。
顔の造形が綺麗だからそう思ったのではない。
彼女の全体像を見て、彼女の存在全てを感じて、そう思ったのだ。

「綺麗な顔だよ名瀬ちゃん。顔を見せてくれてありがとう。でもどうして隠してたんだい?」

「……この顔を見た連中、こぞって態度を変えやがるし、女を見る目で見てきやがる。それに、目立って目立って仕方ないんだよ」

「恥ずかしがり屋なんだね名瀬ちゃん」

「うっせえよ」

今日は記念日だ。
私はこの日を決して忘れることはないだろう。


他の数多の記憶の中でも、特に色濃く残るに違いない。


======


あとがき


シリアス(笑)。
(笑)はいりませんよね。きっと。

こうでもしないとバレることが無いと思いますしね。
というか実際、一年近くもサポートで使ってたら名瀬ちゃんじゃなくても優秀な人なら気付くと思いますし。

主人公にとっての大きな問題は名瀬ちゃんにとってはそんなに大きな問題ではないわけです。
だいたい、そんなもん知ってどうすんだ的な感じですかね。
主人公が口に出さなければ知らないのと同じなわけですし。

そして名瀬ちゃんの素顔。
隠す理由が微妙なんですよね。
本人は記憶がないわけだから、案外本当に照れ屋さんだったりしてな。
目立つのが嫌だから隠してたらしいし。




皆が名瀬ちゃんを好きになってくれて嬉しい。
だが! 名瀬ちゃんは私の嫁だ!





[20958] 第拾伍記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:0630978a
Date: 2010/08/09 23:26



「――私の異常はそんな『予知』だよ、不完全ではあるが、確実ではある」

「記憶能力からいっても知りたがりってわかってたけどさ、それにしてもすげーな」

「でも、未来を知るなんてつまらないからね。厄介事に巻き込まれた時と、名瀬ちゃんのために頑張る時以外は使ってないよ。私は名瀬ちゃんが『今』見せてくれる笑顔が見たいんだ。だから『予知』でそれがわかってたら嫌じゃないか」

「俺のことばっかだな~」

「名瀬ちゃん至上主義だからね」

私が名瀬ちゃんに『予知』のできること出来ない事を詳細に語った後。
現在は名瀬ちゃんは袋を顔にかぶっていない。
とりあえず今日だけは外しておいてくれと私が頼んだのだ。
……十分に記憶しておかなければ。写真も撮って、人形も作ろう。

そういえば現在夏休みだけど、近くでお祭りがあったっけな。
その近くで花火大会も同時開催だったな。よし。

「ねえ名瀬ちゃん」

「なんだ?」

「顔を隠せてれば袋じゃなくても問題ないよね?」

「……はぁ?」

お祭りでラブラブ大作戦……始動だ!



「祭りなんてきてもしょうがねえと思うんだけどな」

「こういうのは誰かと来るのが楽しいんだよ」

私にとってはその誰かは今のところ名瀬ちゃんしかいませんけどね!
名瀬ちゃんだけで十分ですけどね!

そんなこんなで名瀬ちゃんを説得し、やってきました夏祭り。

そしてお祭りならではの、顔を隠しても問題ないという手段が存在する!
それが……これだっ!

「ったく、お面なんかつけさせやがって」

「袋かぶってこんなところきたら注目の的だよ? それでもいいのかな? それに私の選んできた浴衣にもそっちの方がズバリ似合っている!」

「は。今日だけだからな」

「わかってるよ!」

段々と顔を隠す面積を少なくさせるのに慣れさせなきゃね。
ふふふ。そうして目立たない恰好になれば彼女と一緒にもっと色々なところに行ける。
淡い紫の生地に鮮やかな黄色い花が咲いている。
そして彼女自身が袋を被らずに狐だか犬だかの中間みたいな感じのお面をかぶっている。
なんて可愛らしい! もう死んでもいい。

しかし、一緒にいる私はそれにふさわしい姿をしているだろうか。
私は長い黒髪はいつも通りにポニーテールで後ろにまとめ、藍色の浴衣を着ている。
背は中学生男子の一般的な平均身長よりは高いはずだし、私自身の容姿は決して悪い方ではないはずだ。
もし名瀬ちゃんから見て悪いのならば、後で服飾店の店員に報復に行くとしよう。

「ほら、手を繋ごうよ」

「はいはい」

彼女と私はお願いすれば手を繋いでくれるレベルまでには仲がいい。
私は名瀬ちゃんの手を引いて、彼女に祭りを楽しんでもらうべくエスコートをするのだった。



彼女の知識は十分に多いが、娯楽というものに関してはそう多いものではない。
それは彼女がそれらをシャットアウトしてきたからなのだろうが、これからはそんなことはないように全力で名瀬ちゃんと付き合っていこうと思う。

「ほら、名瀬ちゃんはわたがしとかりんご飴とか食べたことないだろう? たくさんあるよ」

「どれが美味いのかとかわからないんだけど」

「私も祭りは初めてだから知らないけど、きっと美味しいよ」

「推測なのかよ」

ただ、問題は私自身も祭りなど初めてであるということか。
名瀬ちゃんに会うまではそういうものには興味なかったんだから仕方ない。
でも、事前に知識の収集をしておいたから大丈夫さ!

「とりあえず食べてみようよ。ね?」

「熾音くんは言っても聞かないだろーしな。奢ってくれるんだろ?」

「もちろん! 女の子に奢るのは……いや、名瀬ちゃんに奢るのは私にとっては当然の事さ!」

「じゃありんご飴でも食べるか。熾音くんも一緒にな」

名瀬ちゃんが一緒にって言ってくれるなんて!
すごく報われた気分だ……よし。

「おじさん! りんご飴二つくださいな!」

「はいよ!」

私は満開の笑顔でりんご飴を注文した。
その注文を受けたおじさんがちょっとたじろいでたのは気にしない事にしよう。


======


あとがき




ていうか俺さ。
今頃になって気付いたんだけど……主な登場人物って全員血液型がAB型なんだよな。
ある意味不気味だ。いやまぁ、AB型には天才タイプが多いとは聞くけどさ。やりすぎだろ。
学園長から生徒会全員から何から何までAB型だぞ。
おかしいだろ。
まさかAB型の生徒だけを全国から集めたとかないよな?



ところで、次回の更新あたりでその他版に移そうと思います。
次の次あたり、一気に飛んでそろそろ古賀ちゃんの出番ですよ。



>>huntfieldさん

そうか・・・オーガじゃなくてガイアかってどうでもいいわ!
古賀ちゃんとは親友ポジションですかね。






[20958] 第拾陸記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/10 06:18


「どうだい名瀬ちゃん。お祭りだって楽しいだろう? というか美味しいだろう?」

「熾音くんの飯の方が美味いな」

「それは嬉しい……けど、そこは素直に楽しいって言ってくれよ」

「でも、食ってばっかりじゃねーか」

「いや、名瀬ちゃんが食べたがってたよね?」

祭りに来てしばらく。
名瀬ちゃんは思いのほか楽しんでいた。
というか、物珍しさでキョロキョロといろんなモノを見ていたのだが。
そんな、いつもは見せない雰囲気の名瀬ちゃんは本当に可愛かった。

「次は射的でもやろうか。名瀬ちゃんもやる?」

「熾音くん。俺の運動神経が全くないってことわかって言ってるだろ?」

「私だって射的なんて初めてさ。それに、知識や運動神経があっても成功するわけじゃないだろ?」

「……はぁ。わかったよ」

後で気付いたんだけど、お面かぶりながら射的ってやりにくくないかな。
でも、普段袋から片目だけ出して生活してる名瀬ちゃんなら慣れてるよね?



「結局二人とも全部はずすなんて……私達の射撃のセンスが0だったなんて……」

「俺はこうなるって思ってたけどな」

「私は男としてカッコイイ所を見せられなかったから非常に悲しいんだけどね!」

「……気にしてないから顔を上げろよ」

射的をかなり不満な結果で終わらせた後。
現在は河原で花火大会の見物準備。
片手にかき氷なんかもって土手に座っているわけである。
近くのビルの屋上とかに侵入してもよかったんだけど、時間をかけたらかき氷が解けるしね。

「かき氷美味しい?」

「おう」

「私のはイチゴ味で名瀬ちゃんのはメロン味だ」

「だからなんだよ」

「食べさせっこしよう」

そう言って私は名瀬ちゃんの方へとスプーンを差し出す。
名瀬ちゃんと違う味のかき氷を購入してから、ずっと私はこれを狙っていた。
違う味だからこそできる食べさせ合い。1か月前に読んだ本の登場人物のような失敗を私はしない。
なぜならば、その失敗を完全に記憶して気をつけておくことができるからな。

「はい、あ~ん」

「……熾音くん、狙ってやってるだろ」

「何の事かわからないよ名瀬ちゃん。さあ、お面を少し上にずらして口を開けるんだ」

私がニコニコと笑顔で言うと、名瀬ちゃんはため息をつきながらお面を少し上にずらした。
ちょうど口が見えるくらいまでずらして、その口を開いた。

「あ~んっと」

「むぐ」

お面を上にずらしているので視界が遮られているようなので、ちゃんと声に出して合図をおく手あげた。
それに合わせてしっかりと名瀬ちゃんは口を閉じる。
関節キスか。いいなこれ。何か感激する。
よし、ならば次は私の番だな。

「はい、次は名瀬ちゃんのを食べさせてくれる番だよ」

「……めんどくせ~」

「私は名瀬ちゃんに一口あげたよ?」

「そりゃ熾音くんが勝手にやったんだろう」

「駄目かな……?」

「……ったく。しゃあねーな。口あけろよ」

名瀬ちゃんは案外ジッと見つめると弱い。
それは一年以上も密接な付き合いをしてきた私だからこそわかる事だ。
名瀬ちゃんが大人しくなってスプーンを差し出してきたのでこちらも口を開ける。

「ん」

「あ~んとか言ってくれないのかグボッ!?」

喉に! 喉にスプーンが突きだされた! むしろ刺さった!

「自業自得だろ。バーカ」

「ゲッホゲホッ! 無理言ってごめん名瀬ちゃん。でもやってみたかったんだよ」

「……また今度な」

くっ……今の私にはまだ難易度が高かったのか。
だが来年こそは。来年こそはっ!

ヒュ~~~~~ドーン!

「お?」

「ん?」

花火が打ち上げはじめられたようだ。
直接には初めて見るが、綺麗なものなのだな。
美しく空で咲く花火を見ながら、私は名瀬ちゃんへと話しかける。

「なぁ名瀬ちゃん」

「なんだよ」

「来年も来よう。絶対」

「……あぁ」

私は名瀬ちゃんと一緒にかき氷を食べながら、その花火の打ち上げが終わるまで、その場で空を眺め続けた。




======


あとがき


熾音くんは名瀬ちゃんのためなら才能の無駄遣いもかなりします。
それは一概に『愛による暴走』なのです。



その他版に移ってきましたが、これからもがんばりたいです。
めだかボックスはまだまだ話数が少ないので、だんだんと更新速度は遅くなると思いますが、まだまだ大丈夫です。

ただ、伏線とかがな~

次回、ついに仮面ライダー少女の古賀ちゃんが登場!




[20958] 第拾柒記憶目 「ともだち」
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/10 14:28

迎えた中学三年性の春。
相も変わらず名瀬ちゃんは迫害されていて、相も変わらずそれを気にしようともしなかった。
そして勿論私は、それら全てを無視し続ける彼女のために愛を叫び続けている。
今年もそんな感じで一年が過ぎゆくだろうと、私は『予知』を使わなくともそう確信していた。
そしてそんな確信は簡単に打ち砕かれる。


彼女は突然やってきた。


取るに足りない一般生徒その一であり、それに捕捉で転校生と付けるだけで済むはずの彼女。
『異常』など欠片も見当たらないはずの、『古賀いたみ』という名の彼女。
休み時間、私が名瀬ちゃんの隣の席で、本を読む名瀬ちゃんをじっと見つめている時に彼女は突然やってきた。



私と名瀬ちゃんしかいない教室の入り口。
普段からそこには数人の生徒がいて私達を見ているのだが、今日はそれとは違う状況だった。
本に没頭している名瀬ちゃんは気付いていないが、一人の女子生徒が教室の中に入って、まっすぐにこちらへ向かって歩いてくる。
一体何の用なのだろうかと思う。
入口の方ではその女子生徒の友達らしい生徒が止めようと手を伸ばしているが……さて?

その女子生徒はそのまま教室を進んできて、名瀬ちゃんの席の前に立った。
そして名瀬ちゃんの机に手をついて、名瀬ちゃんも本に向けていた視線をその女子生徒へと移す。
そのまま女子生徒は名瀬ちゃんに言った。

「お願い。私を実験動物(めちゃくちゃ)にして」

その女子生徒が名瀬ちゃんを見て何を感じたのかは分からない。
でもきっと、名瀬ちゃんが『異常』だという事はわかったのだろう。だが、それは名瀬ちゃんをいじめている生徒達全員が知っている事だ。その『異常』があるからこそいじめるのだから。
それに、名瀬ちゃんに対して実験動物にしてという発言ができる理由がわからない。
彼女の『異常』が『人体改造』にあることなんて、普通の生徒が知るはずがない。
だとすれば、この女子生徒の発言はまさしく直感というものなのだろう。
だから私はそんな彼女に声をかける事にした。

「実験動物になるって、意味がわかって言っているのか?」

「……え~っと天宮熾音君だよね?」

「おや、もしかして私は有名かな?」

「学校一の変た……じゃなくて変人だって噂に聞きました」

名瀬ちゃんと一緒にいるから苛められるんだと思ってたら私にもそんな噂があったのか。
まぁ他人からの評価なんて欠片も気にしちゃいないけどね。

「まぁいいや、実験動物になるのを希望なんだろう? 意味を理解して……いや、私としてはそんなことを言った理由が効きたいね。名瀬ちゃんもそう思わないか?」

「……俺はどっちでもいいけどよ」

「だそうだよ。だから理由を頼む」

名瀬ちゃんがいつもと少し調子がおかしいのは戸惑っているからだろう。
私が初めて話しかけた時と同じだ。
彼女に対して敵意を持たずに話しかけられる人間は本当に少ない。
それも、同年代の子供達には私以外いないと言っていいだろう。
そして今この女子生徒が、理由はどうあれ敵意を持たずに話しかけてくるということ。
それは名瀬ちゃんにとっていい事なんだと私は思う。

「じゃあ、言います」

「どうぞ」

「世界には普通の事しか起こらないって思ってた。そんな中に『異常』な貴方達が現れて、そんな私の普通の世界を壊しちゃった。だから貴方達なら、私を『普通』じゃなくしてくれる気がしたの」

「『普通』よりも『異常』がお好みってやつだね。名瀬ちゃん、お誂え向きじゃないか?」

「そうだなー。そろそろ人間相手にしないと」

「へ?」

女子生徒の言葉を軽く受け流して名瀬ちゃんに声をかける。
どうやら名瀬ちゃんも賛成のようだ。
そしてその女子生徒は呆気にとられた顔をしている。

「え~っと……?」

「とりあえず名前を教えてくれないか?」

「あ、古賀、古賀いたみだよ!」

「じゃあ古賀ちゃんか。名瀬ちゃんもいい加減本を置いてあげなよ」

「はいはい。じゃあ古賀ちゃん、これからよろしく」

「あ……うん、よろしく!」

古賀ちゃん……彼女が名瀬ちゃんと友達になれるといいな。
やっぱり、名瀬ちゃんは人とのかかわりが少なすぎるからね。
そうすれば自然に顔を出しても大丈夫になってくれるかもしれないし。
私は名瀬ちゃんの恋人で古賀ちゃんは名瀬ちゃんの親友。
うむ、最高の未来予想図だ。

「天宮君はさっきから何で笑ってるの?」

「あ、それは気にしねー方がいいぞ」

「へ~。そうなんだ~」

とりあえず今日は家で名瀬ちゃんの研究の補助だな。
これから忙しくなるぞー。


======


あとがき


古賀ちゃん登場!
そしてあっさり流す主人公!
主人公は名瀬ちゃん至上主義だし、名瀬ちゃんは名瀬ちゃんであんまりしゃべらない。
しばらく経たないと古賀ちゃんもこのノリについていけないでしょう。

次回からは改造計画です。





[20958] 第拾捌記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/10 19:48



「古賀ちゃん改造計画の発足です。被験者の古賀ちゃんは何か意見ある?」

「そーいうのはわかんないんだけど……」

「おいおい熾音くん、『普通』な古賀ちゃんに言っても仕方ねえよ」

「……そうだね。まぁ名瀬ちゃんに任せておけば安心だよ古賀ちゃん。名瀬ちゃんは本当にすごいんだ。君の『普通』だって『異常』にしてくれるよ」

「うん、お願いね!」

「それじゃーそこの台にでも座ってくれ」

名瀬ちゃんが指示を出し、古賀ちゃんを手術台の上に腰かけさせる。
私はといえば、名瀬ちゃんの後ろで器材の準備中だ。
今日は電気信号の転換ではなく肉体の方の改造から行うらしい。
体の『普通』な電気信号を『異常』に換える前に、素体(ベース)となる肉体の方を改造するのだとか。

いくら知識を持っている私でも、名瀬ちゃんの独自の改造理論は『異常』なので専門外だ。
名瀬ちゃんの言うとおりにサポートに徹しよう。

「じゃあ熾音くん、これ」

「? なんで目隠し?」

いやまぁ予知を使えば名瀬ちゃんが言う前に器具を準備して渡せるし、眼なんか見えなくても器具の場所は記憶してるから名瀬ちゃんに渡すくらいはできるけど。

「古賀ちゃんの服を脱がせるからに決まってるだろーが」

「あ」

「……うぅ」

思えば、制服着たままの古賀ちゃんを連れてここまで来たんだから、そのままの格好で改造手術ができるわけがない。
こんな失敗をするとは……不覚だ。
名瀬ちゃんはいつも通りの雰囲気でこっちを見ているが、古賀ちゃんは何やら涙目でこっち見てるしって私が悪いのか!?

「くっ! 違うぞ名瀬ちゃん! 私がみたいのは古賀ちゃんの裸よりも名瀬ちゃんの裸だ! もしも古賀ちゃんの裸を見たとしても私の名瀬ちゃんへの愛は絶対に変わらない!」

「なんでもいいから早く目隠ししてよー!」

「熾音くん」

「わかりました!」

こんなところで嫌われるわけにはいかない。
それに、名瀬ちゃんの新しい『友達』兼『実験動物』になるであろう古賀ちゃんとも仲良くしたい。
大人しく目隠ししよう。
うん、どうせ直接的に作業するわけじゃないんだから。
私が大人しく目隠しをしたところで名瀬ちゃんが古賀ちゃんに声をかける。

「これでいいだろ。服を脱いで横になってくれ」

「う、うん。わかった」

何か言われたら嫌だし黙っておこう。
古賀ちゃんが服を脱ぐ衣擦れの音がして、名瀬ちゃんが手元の器具をカチャカチャと動かす音がする。
どこに何があるかは記憶してあるので、目隠し状態の私の助手役の準備も完了だ。
これより古賀いたみの改造手術を開始する。



先に運動神経などを強化してしまえば、内臓器官の能力が足りずに不全を起こすだろう。
逆に内臓器官を先に強化すれば、パワーが有り余り過ぎるだろう。
そして神経を強化しなければ、体は追いついてこないだろう。
骨格を強化しなければ、過度の運動に耐えられないだろう。
ならば、それらの不全を防ぐためには一度の改造で全てを同時に強化していく必要がある。

一度に強化する割合は少なくなるだろうが、何度も繰り返せばいいだけだ。
そしてその何度も繰り返す間にも、名瀬ちゃんは自らの技術をアップデートして、更なる改造を古賀ちゃんに施すだろう。
私にできる事は本当に補助程度だ。
データバンクや補助、あとはありとあらゆる知識からの情報提供をする事。
直接的に名瀬ちゃんの改造をはかどらせてあげたり、古賀ちゃんを『異常』にしてあげたりすることはできない。
それだけ関われていれば十分だと思うべきなのか、もっと関わりたいと欲を出すべきなのか、正直わからないな。






「それで、手術は成功したんだよね?」

「まーな。まだまだ改造し足りないけど」

「時間はいくらでもあるよ、名瀬ちゃん」

「……そうだな」

改造手術が終わった後。
眠りについている古賀ちゃんをベッドまで運んで(勿論私が)居間に来た私と名瀬ちゃん。
お茶を入れてから名瀬ちゃんに手術の結果を聞いた。
成功したようだけど物足りなさそうだ。
おそらく、試したい事とかやりたい事とか色々あるんだろう。

「私としては名瀬ちゃんに新しい友達ができそうな事が嬉しいけどね」

「どういう意味だよ」

「そのままだよ。女の子同士の友達だって欲しいだろう?」

「………」

(ああ、シャイな名瀬ちゃんすごく可愛い)

あ、名瀬ちゃんのコップが空になってる。
お茶のお代わりを持ってきてあげよう。


======


あとがき


良く考えたら、古賀ちゃんの両親(母親は知らんけど父親は)健在なんだよな。
……どうやって説得とかしたんだろう。
古賀ちゃんにとっては『普通』から『異常』にしてくれた名瀬ちゃんの方が大事だったってことなんだろうか。

まぁ原作では何とも言ってないから全く分からんけどね。







[20958] 第拾玖記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/12 00:28


「何も変わった気がしないんだけど……」

改造手術の翌日。
皆分の朝食を作ってあげた後。
いただきますと言うところで古賀ちゃんがそんな事を言った。

「実感がわかないのか。名瀬ちゃん、まだ電気信号を変えたりしてないからかな?」

「そりゃーあれだな。実験してないからだろ。記憶とかには手を加えてないんだし」

「それなら……はい古賀ちゃん」

私は古賀ちゃんにあるものを手渡した。
後で皮をむいて皆で食べようと思っていた物だ。

「りんご?」

「それを片手で握ってみればわかると思うよ」

「……やってみるね」

たぶん、片手でつかんでちょっと力を入れれば簡単に……

バキャッ!

「……割れちゃった」

「まぁそれくらいは簡単だろーな」

唖然とする古賀ちゃんに、当然だという風に朝ごはんの焼き魚に箸を伸ばす名瀬ちゃん。
たぶん、唖然としてるのはほとんど力を入れてないのに簡単に割れちゃったからだろう。
今は力が制御できないから危険かも知れないけど、まだまだ私の方が身体能力は高いし、すぐに名瀬ちゃんの手術で『異常』の電気信号を取りつけるから、その危険も取り払えるだろう。

「それじゃあ古賀ちゃんも『異常』を実感できたことだし、いただきます」

「あ……うん。いただきます」

「もういただいてるぜ」

名瀬ちゃん、言わなくてもわかってるよ。
空気を読まない名瀬ちゃん……それが基本だよな。ふふふ。



その後、コップを持って罅が入った事に古賀ちゃんが慌てたり、古賀ちゃんが箸を持って何度か折ってしまったりもしてたけど、概ね無事に三人での朝食が終了した。

「どうだい? 料理の腕には自信があるんだけど」

「うん、美味しかったよ。今度お料理教えてくれる?」

「もちろん。古賀ちゃんが名瀬ちゃんとも仲良くしてくれるんならね。まぁそこは心配してないけど」

「名瀬ちゃんは私のお願いを聞いてくれた人だもん。当然だよ」

古賀ちゃんはとてもいい人間のようで話しやすいし。
良く喋る性格のようなのできっと名瀬ちゃんとも仲良くなれるだろう。

「というわけで名瀬ちゃん」

「なんだよ」

「古賀ちゃんの電気信号関連の改造手術が終わったら、今度みんなで遊びに行こうね」

「……理由を教えろよ」

「そんな理由が必要な事でもないと思うよ。皆で仲良くなりたいじゃないか」

私は笑顔で名瀬ちゃんに言う。
私は古賀ちゃんとも仲良くしたい。古賀ちゃんだってきっと私達と仲良くなりたいと思っているだろう。それが私たちが『異常』だからなのか、理由なく友達になりたいのかは古賀ちゃんしか知らないけど。
そして名瀬ちゃんだってシャイだから言わないだけで仲良くしたいと思ってくれているはずだ。
唐突に関わってきた私や古賀ちゃんという他人を、なんだかんだで受け入れてくれているのだから。

「そして名瀬ちゃんと私が恋人に。古賀ちゃんとは共通の親友としてさらに親密に……」



「古賀ちゃん」

「え、何?」

「熾音くんを思いっきり殴っていいぞ」

「駄目だよ! さすがに怪我しちゃうと思うよ?」

「それくらいじゃ死なねえよ」

「わ……わかった」



「そうそう。しばらくすればまた夏祭りがあるからその時には皆で浴衣でも買って――」

「えいっ!」

ドゴッ! バキッ!

「おぶはっ!?」

「すごい音した……でも、私こんなに強くなったんだ……」

私は古賀ちゃんに殴られて思い切り吹き飛んで机にめり込んだ。
人を殴っておいて全く平気な顔をするなんて……古賀ちゃんも『異常』になってきたじゃないか。
ふふふ……駄目だ。気絶しよう。


======


あとがき


名瀬ちゃんを愛でる会
会長:『天宮熾音(作者)』
副会長:『古賀いたみ』

実際に本編中で作ってしまいそうで怖い。

そして執筆中。
『古賀いたみ』と『弓塚さつき』が被るなぁとなんども思った件について。

作者「怪力キャラ……いや、なんでもない」

なんか陽気な性格のさっちんみたいな気がしてしょうがない。
声優さんは同じ人がいいなぁ。しまじろうの人だっけ?



とあるをパロって作った名台詞。


名瀬「地獄の底まで付いてきてくれるか?」

天宮「もちろん。地獄だろうがどこだろうが、名瀬ちゃんのいる場所が私の居場所だ」

古賀「名瀬ちゃんも天宮君も私を忘れないでよねー! 私もどこだってついてくよ!」

もしも名瀬ちゃんがインなんとかさんみたいな台詞を言ったら確実にこうなります。
感想をどうぞ。





[20958] 第弐拾記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/12 00:29


「にゃはは~すごいすご~い! 体が軽いよ~!」

「……人間変われば変わるもんだなぁ」

「俺は熾音くんが一番変わったと思うけどな。初めて会った時と比べて」

「そんなことないさ。私はいつだって名瀬ちゃんラブだよ」

「ほらほら~見て二人とも~」

古賀ちゃんが声をかけてみたのでそちらを見る。
ちょうど古賀ちゃんが16ポンドのボーリングの玉を両手で押しつぶしたところだった。
……私だって頑張ればできるさ。やらなかっただけで。

「とりあえず実験は終了だね。力加減もできるみたいだし」

「そーだな。あとはアップデートを繰り返せばいいか」

「もっと反応してよ~」

頬を膨らませて言う古賀ちゃん。
さっきまでぴょんぴょん跳びはねて喜んでただろうに。感情の起伏が激しいね。興奮してるからだろうけど。
今は電気信号の変換のための改造も済んで、古賀ちゃんがそれを確かめるための実験をしていた所だ。
結果は良好。古賀ちゃんも自分の『異常』をコントロールできているようだ。
今も、天井に両手を使ってぶら下がっている。
最終的には足だけでぶら下がれるようになるって名瀬ちゃんが言ってたけど、どんな原理なんだろうね。さすがの私にも知識がない。あとで改造予定のデータを見せてもらわないと。
……あ、ついでに確認しておくか。

「古賀ちゃーん」

「何~? 天宮く~ん!」

「名瀬ちゃん可愛いよね~!」

「可愛い名瀬ちゃん最高だよ~!」

よし。

「熾音くん、古賀ちゃんに何言ったんだ?」

「いや、特に何も言ってないよ?」

ちょっと名瀬ちゃんがデータまとめてる間にお話ししただけだよ。
私の溢れる愛を語ってアルバムを見せただけだよ。
特にお祭りの時の奴を。

「まぁいいや。熾音くん、飯の準備してくれ」

「はいはい。今から準備するね。古賀ちゃんも手伝ってくれるかい?」

「やるやる~」

それじゃあ今日は中華料理メインで行きましょうか。
恋は情熱。情熱は中華ですよ。本場中国の知識をもって最高級の料理を再現して見せよう。
名瀬ちゃんに美味しい食べ物を用意するのが私の役目なのだ。
古賀ちゃんという助手もいるからどんどん作るぞー!



「あれ、古賀ちゃん。熾音くんの手伝いはどうしたんだ?」

「天宮君は一人で燃えあがってるよ~。お料理の腕は完全に負けちゃったな~。名瀬ちゃんは何してるの? ……DVD?」

「熾音くんが持ってきてくれたんだけど、結構面白いなーこれ」

「仮面ライダー? 私も見た事あるよ~」



私が厨房で料理を終えて出てくると、二人が仲良くテレビを見ていた。
仮面ライダー。昔からある特撮番組で有名だったし、改造人間が出てくるからという理由で全シリーズ揃えてみたんだが、お気に召したようでなによりだ。
古賀ちゃんがやたらと目を輝かせてるのが気になるけど。

「準備できたぞ。古賀ちゃん、お皿用意してくれるかい?」

「は~い!」

ソファに名瀬ちゃんと並んで座っていた古賀ちゃんが、ひとっ飛びでこちらまでやってくる。
運動神経やらなにやらアップしたおかげで、本当に軽快な動きをするようになったな。
『普通』から『異常』に変われた高揚感みたいなものもあるんだろうけど。

「はい古賀ちゃん、こぼさないようにね」

「大丈夫だよ~ん。私に任しといてよ!」

料理をよそった皿を一度に大量に渡しても、両手どころか片足にまで皿を乗せて運んでいく。
さすがのバランス感覚。これからどんどんすごくなるんだろうな。
ところで、名瀬ちゃんと古賀ちゃんの女の子二人と私という男一人しかいないのに大量の料理を作ったのには理由がある。
それは古賀ちゃんの燃費の悪さが原因だ。
元々が『普通』であるためか、全力で『異常性』を発揮できる時間が非常に短いのだ。
まぁ、巨大なパワーがある分だけ使うエネルギーも巨大だと言う事だ。
そのエネルギーを得るための薬も名瀬ちゃんが作ってあるのだが、普段からそんな物を利用する必要はない。
食事を大量にとる事で代替が可能なのだ。


そのおかげで太る事もないだろうから古賀ちゃんには結構好評であった。
『異常』が制限されるはずなのに、寛容で助かったというところだ。


ちなみに名瀬ちゃんは、私が美味しい食事をとることの良さを教えてあげたおかげか、一般の女の子並には食事をとる。
ただ、未だに食事の時に顔を隠したままなのは悩みどころだ。
もう顔は見せてくれたのだから家の中でくらいは袋を取ってほしい。

古賀ちゃんだってきっと大絶賛するだろうにな……

とりあえず、今は皆で食事をとれることの素晴らしさを喜ぼう。

「名瀬ちゃん、準備も終わったからこっちにおいでよ!」



======



あとがき


古賀ちゃん洗脳される、の巻。
という事はありません。


「13組の13人」についてはしっかり考えてますので大丈夫です。

一話一話が短い事については、原作に入っていないという事でお見逃しを……
オリジナルの話を作らなきゃいけないとなると、こういった短いものを連続で作った方がやりやすいんです。

というか、早いところ原作、『箱庭学園』まで進めたいんです。
でも100行以上は書くようにしてますので……


実はこの主人公、誰とからませても面白い結果が望めそうだから困る。

風紀委員相手にも一悶着起こしそうだし。
97代生徒会長さんの存在を「記憶」しておけるし。
その『異常』があるからには、データバンクとして学園長に利用されるだろうし、その過程で不知火とも知り合いになりそう。

一番の山場は真黒お兄さんでしょうけどね。
どちらの愛が大きいのか的な意味で。





[20958] 第弐拾壱記憶目 「忘れない」
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/11 19:39

名瀬ちゃんは『異常』だ。
そんなことはわかりきったことである。
だから私は彼女が『異常』であることも含めてすべてを受け止めるのだ。

「私で実験……か? もうそれは済んだんじゃなかったかな?」

「古賀ちゃんの事があったから後回しにしてたんだよ」

そういえば最近はそっちばっかりだったしね。調整とか何やらで。
まだまだアップデートの余地があるとかで自室にこもりっぱなしだったし。

「それで、何の実験だい?」

「熾音くんの『異常』の根源は脳だろ? そこのデータを取る」

「別に根源ってわけでもないと思うけどね」

「拒否とかはしねーんだな。頭を開くって言ってんのに」

「名瀬ちゃんがする事なら、私は何でも肯定するさ」

だから私の体が研究の役に立つのなら、いくらでも弄ってくれて構わない。

「それじゃあもう一つの方もやってくれるよな?」

「なにかな?」

「記憶の制御薬の実験台だ」

名瀬ちゃんはそう言って液体の入った注射器を差し出してくる。
……なるほど。

「つまり、『完全記憶能力』がある私が『記憶制御薬』を飲んだらどうなるかというデータかい?」

「わかってるじゃねえか。ついでに、俺が使った時と同じ薬だ。どれくらい効果があるのか、どうすればもっとヤバい効果の薬を作れるかのデータも取れる」

「ああ、一石何鳥にもなるわけだ」

「その通り。ほら、早くそれを射ってくれよ」

「ああ、もちろんだ」

名瀬ちゃんが促してきたのですぐに腕へと注射器を指して薬を注入する。
……袋から見える名瀬ちゃんの目が初めて話しかけた時のような眼に変わっている。驚き混じりの冷たい目。

思えばおかしな話だ。色々なものを切り捨てた名瀬ちゃんが私を近くに置く理由。
名瀬ちゃんが望むのはデータバンクで、それ以上ではなかった。だが、私はそれでは満足できない。
古賀ちゃんは自らを犠牲にして『実験動物』と『親友』の立場を得る権利を得た。
ならば私も犠牲を払わなければならない。
名瀬ちゃんの近くに身を置くのなら、名瀬ちゃんが単純な利益の面でも必要とする立場も得なければならない。そうでなければ、名瀬ちゃんは自分で自分を許さないだろう。

激しい頭痛が私を襲うが、意識を失うほどではない。
薬の効果は……ちょっと記憶が霞むといったところか。虫食いの本を読んでいる気分だ。
だが、おそらくはそのうち思い出すだろう。存在が希薄になっただけで完全には消えていないのだから。

「……私の記憶はほとんど消えていないね。改良が必要なようだよ。名瀬ちゃん」

「あ、あぁ……そうかよ」

いつも通りの笑顔で話しかけると、名瀬ちゃんが目に困惑を浮かべている。。
名瀬ちゃんがこういった目に見える動揺を見せてくれるのは初めてだ。

「名瀬ちゃんはどう思ってるのかは知らないけどね」

「なんだよいきなり」

「いいから聞いてよ。私はどんなことがあっても名瀬ちゃんを忘れないし、名瀬ちゃんを好きだってことも忘れない。それは忘れないで記憶していられる『異常』とは関係ない。私が『異常』を失っても、名瀬ちゃんがそこにいてくれるなら、たとえ地獄へだってついていく。それが今の私なんだ」

「だからなんだってんだよ」

「薬なんかで忘れるような甘い覚悟を持ったつもりはないってことだよ。名瀬ちゃんは私をいくら利用してくれてもいい。私を不幸に突き落としてしまってもいい。たとえそれでも、私が名瀬ちゃんを好きだってことは変わらないのさ」

「………」

私の記憶のうちにある百万言の愛の言葉を費やしても、私の名瀬ちゃんへの思いは表現することはできないだろう。
でもそれでも、私が私である限り、変わることなく確かにある思いだ。
だから決して忘れない。どんな事が起ころうとも。

「だから、これからもよろしく」

「……この手はなんだよ?」

「握手ってやつだよ名瀬ちゃん。今更だけどね」

「さんざん抱きついてきやがったりしてる癖にな」

「これからも抱きつくよ。目に見える愛だって大事だろう?」

「知らねえよ」

そう言って名瀬ちゃんが手を差し出してくる。
わかってるさ。シャイな名瀬ちゃんだからね。ここまで本心をさらけ出さないと、手を差し出すくらいの事もしてくれないのさ。

「……ま、よろしくな」

「うん。よろしく」

私はその手を優しく握り返した。



====



あとがき


まさかのシリアス。
ここでいきなりシリアスにしたのには理由があるのです。
彼……主人公の天宮熾音の立ち位置を完全なものにしないといけなかったのともうひとつ。
私の観点からすれば、こうまでしないと名瀬ちゃんも完全には心を開かないだろうし、納得できないからだと言う事です。

正直、このタイミングでこのアイディアが出てくるとは思わなかった……

いくら『記憶』を消しても、『異常』を消したわけではないので『記憶』が蘇ったという設定です。
もしも原作のめだかのように『ノーマライズリキッド』で『異常』まで消した場合、一体どうなるのか。
『異常』が消えても、『異常』によって強化された脳と体はそのままなので、超巨大なスポンジみたいなもんですかね。吸収力がヤバイ的な意味で。記憶能力は『普通』にまで下がるだろうけど。

フアハハハアアアア! さあ、次回からは素晴らしき友情or愛情空間のお時間だ!
ときめいて死ね!



ところで、無性に速さにこだわる奴を出したくなった。
くそ……スクライドで兄貴を見過ぎたせいだ。他の作品でやるかな。
この作品でやるとしたら、原作を追い越してオリジナルルートに入ったら出すんでしょうね。

まぁ、追い越す前にペースを落とすんでしょうけど。




[20958] 第弐拾弐記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/12 05:41



記憶制御薬の注射を行ってからしばらく経った。
その間は頭の中の知識に靄がかかったようになっていたのだが、その靄もだんだんと消えてきた頃。
私達は三人で夏祭りに来ていた。
一年前の約束を果たしにきたわけである。
今度は古賀ちゃんも入れて三人なので、きっともっと楽しいだろう。

古賀ちゃんは淡い桃色の浴衣を着用し、名瀬ちゃんは去年に着たものとよく似た浴衣を着用している。
そして名瀬ちゃんは去年のようにお面をかぶっている。
古賀ちゃんはそんな名瀬ちゃんを見た時、大きな声でこう言った。

「可愛いよ名瀬ちゃん! 似合ってるよ!」

「ありがとよ」

名瀬ちゃんも古賀ちゃんに褒められてまんざらでもないようだ。
もちろん、私は既に何度も言って抱きついたさ。

「ところで天宮君はなんでそんな恰好してるの?」

「似合うと言われたので買ったのだが……変か?」

「ううん、似合ってるけど(お祭りで着るはどうなんだろう……)」

呉服屋の店員に勧められた、鮮やかなの銀の刺繍が施された藍色の陣羽織。
私はさらにその下には浴衣ではなく着物を着ている。
去年は地味だったかもしれないと思って、名瀬ちゃんに気にいってもらおうと思ったんだが。
古賀ちゃんも似合っていると言っているし、大丈夫だろう。

「どう、名瀬ちゃん。似合ってるかな?」

「お~、似合ってるぞ(昨日古賀ちゃんと見た時代劇で見たな)」





三人で並んで、お好み焼きや焼き鳥や焼そばを買い込んでいく。
主に食べるのは古賀ちゃんだ。名瀬ちゃんも、食べた事ないものを興味を持ってたまに食べる。
古賀ちゃんはこういう夏祭りには何回も来た事があるんだとか。
それも当然か。
古賀ちゃんは私達に会う前は普通の日常を送っていたのだから。

「遊ぶんなら金魚すくいとか射的とか~。後は美味しいものならたこ焼きとかりんご飴とかー。とにかくいろんなお店があるよ~」

「古賀ちゃん、ちなみにおすすめは?」

「りんご飴? 名瀬ちゃんも食べてくれるよね?」

「珍しそうな顔で食べるに違いない」

お祭りの楽しみ方なら、私よりも古賀ちゃんの方が詳しそうだな。
そこは任せるとしよう。
名瀬ちゃんにも楽しんでもらわないといけないしな。

「それじゃあ行こう名瀬ちゃん。古賀ちゃんがおすすめの屋台に案内してくれるってさ」

「ふっふっふ。お祭りならこの私にお任せだよ名瀬ちゃん!」

「あ、ああ。頼むぜ」

いい感じに古賀ちゃんもハイテンションだ。
名瀬ちゃんもまだ古賀ちゃんの初対面の時との変わりっぷりに慣れていないので良引いてるけど、そのうち慣れるだろう。
私はもちろん、古賀ちゃんだって名瀬ちゃんの事が大好きなんだから。
……一番名瀬ちゃんを愛しているのは私だ。そこは誰にも譲らない。
射的にリベンジでもしてみるかな。
古賀ちゃんが百発百中で景品ゲットしているのを見ていたらやりたくなってきた。
よし。去年の汚名を返上してやる。



「やっぱ射撃にはセンスがなかった。名瀬ちゃん、その部分だけ改造できないか? 名瀬ちゃんにかっこいい所を見せたかったのだが、さすがにこのままだと……」

「初めから期待してねえよ」

「そんな……」

「いちいち落ち込むなよ。熾音くんは他の事でがんばりゃいいだろーが」

名瀬ちゃんが慰めてくれるなんて珍しい。
それだけでパワーが溢れてくるよ。

「で、古賀ちゃん」

「何?」

「それ全部景品?」

「にゃはは~。ついついやりすぎちゃった」

大きな袋を片手で持っている古賀ちゃん。
祭りを回って景品を取りまくってきたらしい。
その店にとっては不幸なことだろう。古賀ちゃんが笑顔だから私としてはどうでもいいが。

「花火ももうすぐ打ち上げ始めるみたいだよ~」

「そうか。じゃあかき氷でも買って河原にでも行くか」

「去年のとこか?」

「そう! 思い出の場所さ!」

「私もいるんだから二人の世界に入んないでよ~!」

「いや、入ったつもりないけどな」

「とにかく行こうよ二人とも」

私は二人の手をひいて、まずかき氷の屋台へと向かって歩き始めた。



私達は無事にかき氷を買って河原へ到着した。
そして三人並んで土手に座る。名瀬ちゃんを古賀ちゃんと私で挟む形だ。
かき氷を食べながら話していると、花火の打ち上げが始まった。

「綺麗だね~」

「ああ、綺麗だな」

「……そうだな」

古賀ちゃんが感想を言い、それに私と名瀬ちゃんが続く。
夜空に色とりどりの花火が咲き誇る様は、素直に綺麗と評価するだけはあるだろう。
それも、好きな人と親友が一緒なら当然だ。

と、そこで古賀ちゃんが口を開いた。



「ねえ。名瀬ちゃん、天宮君。私達、これからもずっと一緒だよね?」

「もちろん。私達はこれからもずっと一緒だ。強い絆で結ばれてる友達だ。そうだろ? 名瀬ちゃん」

「……ああ。俺の友達は、古賀ちゃんと熾音くんだけだからな」

「うん! 私達親友だもんね!」

「私の事は恋人って言ってくれよ、名瀬ちゃん?」

「……さぁな」


やっぱり、夏祭りに来て正解だった。
お互いに知り合って、もっと親しくなれた気がする。名瀬ちゃんが少し感情を表に現してくれた気がする。
これからもこんな幸せな関係を続けていられたますように。
たまたま見えた流れ星には、そんな事を願うとしよう。



======



あとがき


お祭り編。
一個にまとめてみました。
主人公の格好が変なのは仕様です。気合いを入れると変な方向に行く子だからです。

主人公の普段の格好もなんとか特殊性を持たせたいんですけどね……
古賀ちゃんのエロい格好しかり。
名瀬ちゃんの全身タイツしかり。
主人公は……どうしようかな。いっその事、裸コートとか、お侍さん姿とか、全身真っ黒コートとか、上半身がYシャツ一枚ではだけてるとか。

ご意見をどうかお願いします。

ところで、いい加減バトル入れろ~って意見はありますか?
原作がバトルものになってるから違和感を持たれている方がいるかも……どうですか?





[20958] 第弐拾参記憶目
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/12 19:27

「箱庭学園? 天宮君はわかる?」

「当然だよ古賀ちゃん、そういう知識なら私はごまんと持ってるさ。箱庭学園は創立百年を誇る高校でね。全国から大量の生徒を集めた、いわゆるマンモス校というやつだよ。優れた人間や特別な人間……そして、『異常』な人間が集まるところさ」

「へ~。それで名瀬ちゃん、それがどうかしたの?」

「俺達はそこへ行くぞ」

おやおや、唐突に箱庭学園の名前を出したかと思えばいきなりだなぁ名瀬ちゃんは。
まぁそれでも、私と古賀ちゃんの答えは決まり切っているだろうけどね。

「私は名瀬ちゃんが行きたいところにならどこへでも行くさ」

「当然! 私もだよ~!」

私達がそう言うと、名瀬ちゃんは軽く首を頷かせる。
古賀ちゃんとも知り合ってもう半年以上だからね。
もう最近では私達が当然することには軽い返事しか返さなくなった。
信頼されてるのがわかるけど、名瀬ちゃんの声が聞けないのは辛いな。

「それで、名瀬ちゃん?」

「なんだ?」

「箱庭学園に入る理由は、他の『異常』を持つ者が目的だろう?」

「まぁな」

「うぅ……名瀬ちゃんが他の男に興味持ったらどうしよう」

「大丈夫だよ天宮君! 私も応援してるから!」

「ありがとう古賀ちゃん!」

すこしショック状態だったけど古賀ちゃんのおかげで立ち直った。
さすが我が親友だ。そのまま応援しててくれ。

「あとは『異常』じゃなくて、『特別(スペシャル)』の方も見ときたいんだよ」

「それって『普通』に毛が生えたくらいじゃないの~?」

「違うよ古賀ちゃん、『特別』っていうのは大抵が努力をしてそこまで上がったものなんだ。それ故に、その過程で身に付く技術も多い。箱庭学園には全国の『特別』な生徒が集まるんだ。そこの体育科の生徒のデータでも集めれば、古賀ちゃんのアップデートにもつながるはずだよ」

「熾音くんの言うとおりだな。古賀ちゃんの『異常』ももさらに上がる見込みがあるぜ」

「本当? わ~、すごい楽しみ!」

そう言って古賀ちゃんが鼻歌を歌い始める。
まぁ、入学してすぐにデータを集め終わるわけがないから、相当先の事になるんだろうけど。
古賀ちゃんが楽しそうだから言わないでおこう。

「私の役目は名瀬ちゃんのデータバンクで恋人だからね。あっちにいったら名瀬ちゃんのために箱庭学園の研究資料を全部記憶できるように努めるよ」

「………」

「おや、否定しないってことは恋人認定かい?」

「誰もそんな事言ってねえよ」

「それは残念だ」

まぁ、愛を囁いても簡単に首を縦に振ってくれないのが名瀬ちゃんだし、それも魅力だ。
箱庭学園に行ったら私も頑張らなきゃいけないな。名瀬ちゃんから褒めてもらうためにも。

箱庭学園はその創立100年にも昇る歴史と、『特別』や『異常』の数多く集まる場所であるがために、かなりのデータが保存されている。実際に生徒になってしまえば、そこにある蔵書を記憶しつくす事も、一般生徒には公開されていないデータの記憶も可能のはずだ。
その資料はきっと名瀬ちゃんの役に立つ。
私のやるべきことはまずそれだろう。

「まぁ、これでこの居心地の悪い中学校ともお別れだね。思えば色々と思い出があった……」

「そうなの? 天宮君」

「そりゃそうさ。名瀬ちゃんと会ったのもここでだし、古賀ちゃんともここで会えただろう? 私は名瀬ちゃんという運命の女(ヒト)に会う事が出来たし、古賀ちゃんのおかげで中学三年になってからは皆で色々と遊べただろう?」

「ま、俺も熾音くんや古賀ちゃんと会えたのは大きかったしな」

「にゃはは。どういたしまして~」

「古賀ちゃんだって『普通』から『異常』へ変わることができたのはこの学校に来たからだろ?」

「そうだね~」

「そういう意味では、本当に色々な思い出があるってことさ」

私にとっては、欠けていた人間性ってやつを二人が与えてくれたようなものだしね。
今思えば、それまでの私は本当につまらない生活を送っていたと思う。
既に遠い昔の事だが。

「あ、それと一つ言っておく事があるんけどな」

「何~?」

「なんだい?」

「俺はお前らと違うクラスになるぞ」

……なんだと!?

「それどーいうことなの名瀬ちゃん!」

「どういうことだ名瀬ちゃん! 理由があるんだろう!?」

「いや、落ち着けよ二人とも」

名瀬ちゃんが抑えるようにと言い、しかたなく声を出すのをやめる。
そうだ。名瀬ちゃんが何の意味もなくそんな決断をするわけないよな。

「俺は箱庭学園の11組……特別体育科に入るんだよ。データ集めのためにな」

「……それはまぁ予想してたが、私達がそこに入れない理由は?」

「わかってんだろ熾音くん? さすがに古賀ちゃんや熾音くんの身体能力がヤバ過ぎて目立ちまくりだって―のがよ」

「うぅ……確かに『普通』な奴らなんかとは比べ物になんないけど~」

「ま、一年の間だけだから我慢してくれよ」

「……仕方ない、か」

私達は名瀬ちゃんの指示には従うからな。
おそらく私と古賀ちゃんは箱庭学園の13組に入るのだろう。
あそこは13組生にはかなりの自由が与えられて、登校する義務すらも免除されていたはずだ(私はデータ集めもやらなきゃいけないから登校するつもりがだが)。名瀬ちゃんも1年生の間は11組にいるだろうが、2年生になったら確実に時間がたくさんとれる13組へ移るだろう。それまでの我慢だ。
名瀬ちゃんの運動神経は一般人レベルでしかないが、そこは名瀬ちゃんの事だ。上手に交渉して11組に入れるように交渉したのだろうな。
だいたい、名瀬ちゃんも私や古賀ちゃんが一緒にいたら目立ってしまってデータ集めもできないだろう。
……袋かぶったままでも十分目立つと思うけど。

「古賀ちゃん、いいこと思いついたんだけど……ヒソヒソ」

「え? ……うんうん。高校デビューってやつだね」

それはちょっと違うかもしれないけど。
おおむね間違ってはいないかな。

「「名瀬ちゃん」」

「なんだよ二人揃って」

「「やっぱり袋を被ったままじゃ、いくら私達がいなくなっても目立つと思うんだ~」」

「……言いたいことはわかるけどよ」

「もうちょっといいものに代えようね。せめて口を出すようにしなきゃ」

「私も天宮君も一緒に恰好を代えるから!」

「おい、離せよ」

古賀ちゃんと私とで腕を掴んで奥の部屋へとひっぱて行く。
いつか名瀬ちゃんがオープンになる様に古賀ちゃんと話し合って、千差万別な服を買ってため込んでおいたのさ。
さすがに顔を見る隙を与えてくれなかったが、もっと顔を見せるよう、せめて口を出すようにきつく言ってから着替えさせ……
そして決定。

「名瀬ちゃん、口を出すようになったからってなんで全身タイツなの?」

「悪いのかよ」

「そんなことないよ! 似合ってるよ名瀬ちゃん!」

全身黒タイツの上から制服を着て、腕を組んだ名瀬ちゃん。
顔を包帯でぐるぐる巻きにして隠して、何故かナイフで止めている。
腕をノーブラの胸の下で組んでなにやら不満そうな顔だ。

「おら、俺が代えたんだからお前らも代えろよ」

「わかってるよ~ん」

古賀ちゃんはニット帽にホットパンツ、ついでに上半身もやたらと露出した格好に着替えて出てきた。
私も下はジーパンに上は裸の上から青のロングコートという格好に着替える。
これは名瀬ちゃんにもっと露出してもらおうかなと思ってした格好だ。
私達のような名瀬ちゃんに親しい者が、名瀬ちゃんと正反対に露出を高めにしてしまえば、名瀬ちゃんだってシャイな性格が少しは治せるだろう。

でも、今の格好の名瀬ちゃんを見る限りじゃまだまだ道は遠いな。
箱庭学園は生徒の自主性を重んじる学校だ。この恰好のままで過ごしていることもできるだろうから、少しずつでも名瀬ちゃんの露出を増やしていこう。



======

あとがき

そろそろ原作キャラが登場してきます。
箱庭学園に入学しますからね。ハジケますよ。
風紀委員ではあっても委員長ではない雲仙冥利とか、クラスメイトですからね。
前回のあとがきに書いた、熾音の服装。それ次第によって風紀委員に嫌われますからね。

13組に入って2年に移ればフラスコ計画からお呼びがかかるぞ……
早くそこまで行きたいなぁ……真黒さんが退学するから1年の途中で名瀬ちゃんが入るんだよな……複雑だ。
原作の最後、球磨川が改心して副会長になりそうで怖い。
……さすがに無いよな?


コメント返し

>>松さん
>>凡さん
>>静駆さん
>>たわしさん

みんな安心してくれ。文章の長さはたびたび書いてるように箱庭学園に行くと長くなる。
理由か? その方が面白いからに決まってるじゃないか! 正直言ってみんなも思うだろう? 過去編だらだら書いてないで原作に行け、と。私もそういうタイプの人間だ。
ちなみに、あとがきの長さがパネェのは『仕様』です。
バトルは必要な時に適度に入れようと思います。

「貴様たちもかつては長文ばかりに騙されない純粋な読書少年であったに決まっている。悪しき習慣にとらわれて長文ばかりを読み、そのように短編集の良さを忘れてしまったとしか考えられん」以上、黒神めだかさんより。

あ、あとは凡さん、オリ主が原作キャラの性格を若干変えることはSSではよくある事ですよ。
もっとも! このSSでは名瀬ちゃんと古賀ちゃんに恋人&親友ポジションのオリ主が増えただけなので対して性格が変わりませんがね!
静駆さん、量より質、いい言葉だ。そんなあなたには「ギャグマンガ日和」をお薦めします。アニメでも原作でもクソ面白いですよ。1話から2話が一回分として載ったり、一つの話が前後編となる場合もありますからね。


さぁ、皆さんの感想チカラを頂いて、ますます張り切っていこうと思い……風邪ひいた!
大丈夫……大丈夫だ……

ところで、読解の異常って何かいいですね。
って私が対象ですか!? それはあれか? 私が幼稚園で皆が絵本を読んでる時に『吾輩は猫である』という神作品を読んでいたからか!? どうなんだおーい!
※『吾輩は猫である』は普通にいい作品です、ラノベばっかり読んでないでああいった作品もたまには読みましょう。




[20958] えくすとらな記憶その壱
Name: ウルフガイ◆c9ed3bb2 ID:d3737cc5
Date: 2010/08/13 19:05
これはふっと思いついたある作品とのクロスオーバーです。






みなさんこんにちは。
今日は不思議な事が起こったので報告したいと思います。

目を覚ますと僕はあたり一面が黒いラクガキで埋め尽くされた部屋の中にいました。

全く持ってわけがわかりません。
僕は確か昨日の夜、『殺すしたら死ぬか確かめたくなったから』人間を殺してから家を出たはずなのに。

その後の記憶はすっかりないけど、どうしてここにいるんだろう。

周りを見る限り、黒いラクガキがある事を除けば普通の病室のようだ。
僕は怪我をしたんだろうか。

そう考えていると、横から人の声がしたのでそちらを振り返ってみます。

「はじめまして。遠野 志貴くん。回復おめでとう」

そこには眼鏡をかけた白衣の医者に、笑顔の看護師の女の人がいた。
その二人は親しげに笑顔を浮かべて僕に話しかけてくる。

二人とも体に黒いラクガキがある。

でもどうしてだろう。
僕はそのラクガキが異常に気になった。


ああ、どうしてこんなにも簡単に殺せそうに見えるのだろう。


ああ、なんでこんなにも簡単に死んでしまいそうなか弱くはかない生き物なんだろう。


頭を砕く必要も、首を絞める必要も、胸を刺す必要も、腹を抉る必要もない。

人間なんて、ただその線をなぞっただけで簡単に死んでしまうだろう生き物だ。

なんだこれ?

こんなの、殺さないでいる方がずっと難しいよ。

「君は、道を歩いている時に自動車の交通事故に巻き込まれたんだ。その時に胸にガラスの破片が突き刺さってね。下手をすれば助からないような傷を負ったんだよ」

へぇ。そうなのか。

それはよかったね。

一応礼を言っておくよ。

「ありがとうございました」

「いや、気にしなくていいよ。医者はそれが仕事だからね」

なら礼はいらなかったかな。

そんなことよりも僕の目の前からいなくなってくれると助かるのにな。

さっきからラクガキが見ていると、簡単に死んでしまいそうで、殺したくて殺したくてたまらなくなるんだ。

「一つずつでいいから答えてくれるかい?」

「かまわないですよ」

それで僕の目の前から消えてくれるんならね。

「君の名前は?」

「僕の名前は――」



……何だっけ?





問診の結果、僕は記憶喪失だと言う事で落ち着いたのだとか。
たしかに、自分の名前が思い出せない僕は記憶喪失だろう。

無性に人を殺したくて殺してくてしかたないのは元からの僕の性質なんだろうけど。

名前は遠野 志貴。9歳の子供なんだそうだ。

最近は病室で過ごす事になって退屈だけど、新しい暇つぶしを見つけた。
気付いたら、僕は人だけじゃなくて物だって殺せるようになっていた。
だから、部屋の中にあるいらないものをかたっぱしから殺していくことで暇を潰している。

たまに来る看護師の人を見ても殺さずに済むのはそのおかげかもしれない。

本能としては人を殺したくて仕方ないけど、僕はそこまで人を殺したいわけじゃない。
だから部屋の中を見て僕を怖がって避ける人がいるのはとてもいいことだ。

ラクガキのことは誰にも言っていない。


今のところ人を殺すための最高の手段であるそれを人に教える利点はないし、教えても仕方ないとは思っているからだ。


ただそのラクガキを見ていると無性に殺してたくて殺したくて仕方が無くなるので、僕はたまに病院を抜け出してラクガキが見えないところに行くのです。

そこはとある丘でした。

周りにあまり木々は無く、背の低い草が生えているだけの丘。

それでもそこに横たわって空を見ていれば、ラクガキが見える事もない。

「ふぅ。到着」

子供の体でその場所に来るまでには多少疲れてしまったが、ここでは横たわって休憩するだけだから大丈夫だろう。

僕の体は人を簡単に殺せるけど、同時に僕も簡単に死ぬ体らしい。疲れてしまうのも無理はない。

黒いラクガキが見えない空。

ここにいれば、僕は何も殺さなくて済む。

殺したくて殺したくて仕方ないという程ではなく、我慢できるレベルまでその衝動を抑え込む事が出来る。

それに、綺麗な空を見ながら涼しい風に吹かれるのはどこか気分がいい。


「君、そんな所に寝転がってると危ないわよ」


不意にそんな声が聞こえてきた。

簡単に死んでしまう人間の声だ。ここなら殺そうという気持ちが強くならないと思ったのにな。

周りに誰もいないから、我慢できなくなったら大変だ。

「僕に何か用ですか?」

「用があるわけじゃないわよ。君がただでさえちっこいのに寝転がってるから、危うく蹴り飛ばしちゃうところだったんだから」

寝転がったままそちらを見上げる。
TシャツにGパンというラフな格好の赤い髪の女の人がいた。
……気のせいか、ラクガキが少ないような気がする。

「まぁいっか。君、私の話相手になってくれない? 何かの縁って事で。私は蒼崎青子っていうんだけど、君の名前は?」

そう言ってその女の人は手を差し伸べてくる。

ラクガキが薄いのは簡単に死なないってことだろう。

なら、少しくらいは話相手になっても大丈夫だろう。僕がこの人を殺してしまおうという気持ちが我慢できなくならなければ。


その女の人の話は面白かった。

僕は記憶が無いのでとくに話す事もないし、覚えている事といったら人を殺すことばっかりだ。

だからその女の人が話してくれる事は娯楽となった。

僕は病院では恐れられるようになっていたから、僕を恐れない人は新鮮だった。


「あぁ、もうこんな時間。悪いわね、志貴。私ちょっと用事があるから、お話はここまでにしましょう。」

女の人は立ち去っていく。

またあの簡単に殺せる人がたくさんいる場所に戻ると思うと少し気分が陰った。

「それじゃ、また明日ここで待っているからね。君も大人しく病室へ帰って、医者の言いつけを守るんだよ。」

「……わかった」

女の人はそれが当たり前のように立ち去っていった。
また明日、話ができるようだ。
それがとても嬉しく感じられて、初めて『ヒトゴロシ』ではなく『ニンゲン』らしい感情を手に入れた気分だった。


その博識と、僕が殺せない人間であることから、僕はその女の人を『先生』と呼ぶことにした。


そんな先生と会ってからしばらくが経ち、友達ができたと思った僕は、ラクガキの事を教えることにした。
たくさんのことを言っている先生ならなんとか出来ると思ったのかもしれない。

「ほら、見てよ先生。これのおかげで僕は簡単に何でも殺せるんだ」

病院から持ち出した果物ナイフで、草原に生えている樹を根元からラクガキをなぞってあっさりと殺した。

「これは僕にしかできないんだよ。ラクガキが見えて、それをなぞると何でも殺す事が出来るんだ。だから簡単に殺せてしまう人間を見ていると――」

「志貴……!」

ぱん、と頬を叩かれた。

「……先生?」

「……君は今、とても軽率な事をしたわ」

先生はとても真面目な顔で僕を見つめている。

軽率、そうかもしれない。でも、抑えることなんか難しいよ。

どうしたことだろう。意識はしっかりしているのに、視界がぼやけてくる。

「何であろうと、こんなに簡単に死んでしまうんじゃ、殺さずにいる方が大変だよ。先生」

「……いけない事なのはわかってるんでしょ? それは、志貴が悪いわけじゃないわ」

どうなんだろう。
僕は、こんなにも人を殺したくなってしまうのに、悪くないなんてことありえるのかな?

僕が考えていると、先生が僕を抱きしめてくれた。

「志貴、あなたは悪くない。でも、今あなたをしかっておかないと、きっと取り返しのつかない事になる。だから私は謝らないわ。だから志貴、あなたは私を嫌ってもいいわ」

いいえ先生。

僕はあなたを嫌いにはなりません。

いとも簡単に散ってしまう人間の命。自分の事だけを考えて生きるのもつらいのに、僕の話相手になってくれた先生を嫌うはずがありません。





僕から答えを聞いて、先生はラクガキについて詳しく聞いてきた。
僕がラクガキについて詳しく話すと、先生はいっそう強く抱き締める腕に力を込めた。

「…志貴、君が見ているモノは、本来見えてはいけないモノなの。モノにはね、壊れやすい部分があるのよ。私達はいつか壊れるから、完全じゃない。君はそう言ったモノの末路。言い換えればモノの未来が見えているのよ。」

「……未来? だから簡単に死んでしまいそうに見えるの?」

「そうよ。貴方の眼にはモノの壊れる『死』が視えている。……今はそれ以上の事は知る必要はないわ」

「よく、わからないな。僕には」

「えぇ、まだわかっちゃダメ。ただ、一つ知っていて欲しいのは、決してその線をいたずらに切っちゃダメよ。君はモノの『命』を軽くしすぎてしまう。」

ただでさえ軽い命が、僕によってもっと簡単に失われるものに変わってしまうのか。

「…わかった、先生が言うならしないよ。それに、僕もなんだか胸が痛いんだ。」

「…よかった。志貴、今の気持ちを絶対に忘れないで。」

そうして、先生は僕から離れた。



「…どうやら私がここに来た理由が分かったわ。志貴、明日はとっておきのプレゼントを用意してあげるわ。」






次の日。
先生に会って七日目の野原で、先生は大きなトランクを片手にさげてやってきた。

「はい。とりあえずこれをかければラクガキは見えなくなるわよ。」

先生はメガネを取り出して、強引に僕にかけさせた。

途端。

僕の視界の中から全てのラクガキが消え去った。

「……すごい。ラクガキが全く見えなくなった」

「あったりまえよ。わざわざ姉貴の所の魔眼殺しを奪ってまで作った蒼崎青子渾身の逸品なんだから。粗末に扱ったらたたじゃおかないからね」

「……うん。大事にする。まるで魔法みたいだ」

これがあれば、僕はいたずらに殺し尽くすことを、人を殺したくなる衝動を、抑え込む事が出来るかもしれない。



「それも当然。だって私魔法使いだもん」

先生はニンマリと笑って、地面にトランクを置いた。

「でもね、その線は消えたわけじゃないの。ただ見えなくしただけ。こればっかりはどうしようもないわ。君はなんとかその目と折り合いをつけて生活しなきゃいけないの」

「…嫌だ。こんな目はいらない。また線が見えたら先生との約束を破って僕はきっと……」

「あぁ、約束って二度としないっていうやつか。あんなの簡単に破っちゃってもいいわよ」

「…でも、あれはやってはいけない事なんでしょ?」


「えぇ、いけない事よ。でもそれは君の力なの。その力を君がどんな風に使っても、君以外の誰も君を責める事はできないわ。君は個人が保有する能力の中でも、ひどく特別な能力を保有してしまった。けど、その力が君に有るという事は、未来の君になにかしら必要な意味があると思うの。神様は何の意味もなく力を分けない。君の未来にその力が必要な時が来るから、君に直死の魔眼があるとも言える。だから、志貴の全てを否定する訳にはいかないわ。」

先生はしゃがんで僕に目をあわせてそう言った。

このような眼が僕にあっても、ただ人を殺すのに役立つだけじゃないか。

最高の武器を手に入れて嬉しい? そうかもしれないけど違う。僕が簡単に人を殺してしまえるようになっただけだ


「でも、忘れないで。君はとってもまっすぐな心をしている。その心がある限り、君の目は決して間違った結果を生まないでしょう。聖人になんて言わないわ。いけないっていう事を素直に受け止められて、ごめんなさいと言える君なら、十年後には素敵な子になっているわ」


先生はそう言って、トランクを持って立ち上がった。

「でも、よっぽどの事がない限り、その目を使っちゃダメだからね。特別な力は特別な力を呼ぶわ。志貴自身が、よく考えてその目を使いなさい。その力自身は決して悪いものじゃない。結果をいいものにするか悪いものにするかは君自身なんだから。あくまで志貴、君の判断次第よ」

――先生は何も言わないが、ここでお別れなのだと僕は気付いていた。

「無理だよ先生。僕は人殺しにしかなれない。こんな力を手に入れたんなら尚更だよ。こんなメガネがあっても、僕の本質が変わるわけないじゃないか……!」

「志貴、心にもない事は言わない事。自分自身も騙せない嘘は、聞いている方を不快にさせるわ」

先生は眉を八の字に曲げて、ボクの額をピンと指で弾いた。

「わかってるはずよ。あなたはたしかに『殺す事』に異常になのかもしれない。でも、貴方の本質は違うはずよ。だから、そんなつまらない事を言って、折角掴んだ自分を手放してはいけないわ」

そう言って先生はくるりと背を向ける。

「それじゃあお別れね。志貴、人生っていうのは落とし穴だらけなのよ。君は人よりそれをなんとかできる力があるんだからもっとシャンとしなさい」

先生は行ってしまう。
とても寂しく感じるけれど、先生は僕の友達だ。
だからシャンとして見送ろう。

「――――うん。さよなら、先生」

「よし、上出来よ志貴。その意気でいつまでも元気でね。いい? ピンチの時はまず落ち着いて、その後によくものを考えるコト。大丈夫、君なら一人でもちゃんとやっていけるわ」

先生は嬉しそうに笑う。
ざあ、と風が吹いた。
草むらが一斉に揺らいだ後先生の姿はもうなかった。



もうあの人には会えないんだろう、とは思う。

だが、それでも問題ないだろう。

僕は殺したがりではあるが、楔となる物を打ち込んでもらった気がする。

だから大丈夫だ。

僕の退院はそれからすぐだった。
退院したあと、僕は遠野という肉親のもとではなく、親戚の家に預けられることになった。
けど、大丈夫。
僕は、ちゃんとやっていける。
新しい生活を、新しい家族と過ごす。
決して、全てを殺してなかった事になどしない。
衝動を我慢してでも、まともな日常をすごすのだ。


僕の九歳の不思議な夏はこうしておわりました。
僕はこの時、本当の意味で変わったのだと思う。






続くと思っているのか?


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あとがき


短編集として執筆した者の一つをご紹介。

誰が中に入ったのかは言わずもがなですね。

『めだかボックス』の作品の中におまけとして出す時点で限られてますもんね。

インストールしたのは子供時代のあの人ですけど。

あの人なら本能で『眼』の使い道を理解しそうですからこうなりました。

狂気レベルが若干低いのは、子供だからなのと先生補正です。


続きが読みたい方は『宗像さんマジパネエッス』などの宗像さんを称える言葉をコメントしてください。



コメント返し

>>リゼルグさん
確かに戦闘面ではかなり有利です。
ただ、一応弱点……というか、他の奴らが熾音くんと渡り合える理由が存在しますので。
験体名は……一応決めてあります。安直過ぎるネームですので訂正を考えてますけどね。


>>bearさん
『知られざる英雄』を意識できるか……それについての話も書く予定です。
入学した時に、ちゃんと生徒会長の選挙をやってるはずですからね。
まぁ皆はそれで誰が『生徒会長』になったのかを忘れちゃったわけですけど。



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