この100年で4度目のインフルエンザ・パンデミック(世界的流行)に公式の終息宣言が出された。
一部で流行は続いているが、全体として「新型」は「季節性」に振る舞いを変えつつある、というのが世界保健機関(WHO)の見解だ。
この時期になったのは、冬の南半球などを監視していたためで、日本ではすでに関心が薄れている。しかし、これでさらに気が緩むようでは困る。
新型の特徴である「持病のない子どもや成人の中に重症化する人がいる」という傾向は、今後も続く可能性がある。子どものインフルエンザ脳症も要注意だ。地域によっては、通常の季節性より大きな流行が起きる恐れもある。
予測の難しい感染症だけに、適切な監視体制の維持は欠かせない。薬剤耐性のウイルスや、病原性の変化した変異ウイルスの出現にも注意を払いたい。
新型対策で広まった手洗いの励行なども忘れないようにしたい。ワクチンも感染拡大を防ぐひとつの手段だ。今季は、新型、A香港型、B型の3種類混合で、優先接種はない。
今回の新型ウイルスは恐れられた強毒ではなく、日本は死者数も少なかった。しかし、それは幸運だったと考えたほうがいい。
インフルエンザの性質を考えると人類は今後も必ずパンデミックに遭遇するだろう。強毒の鳥ウイルスが人型になる可能性は今も否定できない。豚からやってくるウイルスにも病原性の高いものはありうる。
だからこそ、今回の教訓を生かし将来に備えることが何より大事だ。その視点からみると国の検証は物足りない。厚生労働省が関係者から意見を聞き報告書をまとめたが、不十分な部分が見受けられる。
たとえば、発熱相談センターや発熱外来のように、見直しが必要としながら、具体的提言にいたっていないものがいろいろある。
余剰が問題になっているワクチンの輸入決定はどうなされたのか。その時点での新型のリスク分析や、企業との交渉が適切だったかといった点も議論が尽くされたとはいえない。
医療体制や情報の伝え方など、再検討や改善が必要と指摘された点が、実際に改善されているかどうか、点検を重ねていくことも必要だ。
パンデミック対策が国の危機管理の問題であることを思えば、官邸の対応について再検討し、今後に生かすことも重要だ。
パンデミック終息宣言は対策終了の合図ではない。流行が収まり、落ち着いている時こそ、将来に備え体制を整える機会としたい。
毎日新聞 2010年8月13日 2時30分