きょうの社説 2010年8月13日

◎増える「心の病」 啓発活動、復職支援が急務
 県内の公立学校で昨年度、うつ病などの精神疾患で休職した教員が最多となった。全国 的に増える「心の病」に対応して、県教委は教員の心身の健康管理に力を入れる一方、病状の回復した教員の復職を後押しするため「職場復帰支援プログラム」も導入している。県の知事部局も長期病気休職者の多くが精神疾患であるため、今年度から定期面談などによる職員のメンタルヘルス対策の強化に乗り出したが、こうした精神疾患の対応策は、民間の中小企業では遅れがちである。

 日本精神神経学会など4学会は今年5月、うつ病はがんに次いで重大な社会的損失をも たらす「国民病」と指摘し、国家的な対策を求める共同宣言を出した。国挙げての対応を迫る学会提言を真剣に受け止め、官民でうつ病などの認識を深める啓発活動と職場のメンタルヘルスに本腰を入れたい。

 全国の精神科の受診者は約300万人に上ると言われる。うつ病は正しい知識が普及し ていないため、発見・治療が遅れる傾向にあり、年間3万人を超える自殺者の主な原因にもなっている。

 このため、自殺・うつ病対策に関する厚生労働省のプロジェクトチームは先にまとめた 報告書で、職場におけるメンタルヘルス対策として、社員の定期健康診断にうつ病などの検査項目を盛り込むことや、長時間労働の抑制、うつ病休職者の職場復帰支援などを提言した。企業がこうした取り組みを積極的に行うことで、社会的評価も高まると指摘している。

 また、精神神経学会なども、精神科の診療報酬体系の見直しによる精神療法の充実や、 職場復帰支援プログラムの普及などを強く訴えている。

 県教委が導入している職場復帰支援プログラムは、徐々に段階を踏んで授業を行えるよ うにする方法で、教育現場に限らず、精神疾患で長期休職を余儀なくされた人の円滑な復職を促す上で重要である。こうした仕組みを取り入れる余裕のない中小企業が多いが、職場のメンタルヘルス支援を行う石川産業保健推進センターなどとの連携も強めて、従業員の心のケアに努めてもらいたい。

◎「死者の年金」 不正受給できぬ仕組みを
 全国的に広がる高齢者の所在不明問題で、見逃せないのは「死者の年金」を家族が不正 受給していた事例である。約4000万人に上る年金受給者のうち、年金記録と住民票の住所が違う人は約163万人に上るという。年1回行われる生存確認で、死亡届が出ていなければ生存扱いとなる現行制度では、不正のまん延を止められないのではないか。

 各自治体は100歳以上の安否確認を急いでおり、厚生労働省も110歳以上の年金受 給者すべてに面会して所在を確かめる。かなりの手間がかかっても、調査の網を徐々に広げ、100歳未満についても実態を調べるべきだろう。併せて年金を不正受給できないような合理的な仕組みを考え、改革に移す必要がある。

 高齢者の所在不明問題には、主に三つのパターンがみられる。地元自治体が以前から居 住実態がないことを把握していながら、住民票を抹消する「職権消除」をしていなかったケース。親が行方不明になったが、さまざまな思いから家族が住民票の削除を申し立てなかったケース。そして家族が死亡した事実を隠し、年金を詐取していたケースである。

 急速に進む高齢化や家族・地域社会のきずなの希薄化など、根深い問題が背景にあると はいえ、年金詐取は明確な犯罪である。所在不明問題の端緒となった東京・足立区の男性の場合、1969年8月以降、複数の年金が本人名義の口座に振り込まれ、家族によって一部が引き下ろされていた。また、親の行方が分らなくなり、住民票の削除を申し出なかったケースでも、家族が親の年金を受け取っていた事例があった。

 介護や医療保険の利用実態から本人の生存状況を推定することは可能だが、所在確認の ための利用は個人情報保護条例の「目的外利用」にあたるという理由で、これらの情報を利用しない自治体もある。安否確認を家族が拒否するケースへの対応も含めて、有効な対処方法を考えたい。また、政府が法案づくりを進めている「社会保障と税制に関する共通番号制度」の導入を急ぐ必要もある。