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BP事故が変える世界のエネルギー事情 (2/2)

フォーサイト7月20日(火) 16時40分配信 / 海外 - 海外総合
 数少ない生存者の中にはプラットフォーム上にある水面80メートルの高さのヘリコプター発着場から海に飛び込み、助かった人もいた。爆噴に対する備えが整っていなかっただけでなく、プラットフォームに火災などがあった場合、技術者、作業者たちをどう脱出させるかという避難策すらなかった。事故後、海洋プラットフォームの周辺では常時、脱出用の避難艇を待機させることが義務づけられた。

■急成長するニューフロンティア

 ではなぜ、これほど技術的な困難と手間のかかる海洋油田の開発が世界各地で次々に進むのか?
 米エクソンモービル、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなど、かつて「セブンシスターズ」と呼ばれた世界の大手石油会社や準大手、中堅の石油会社は70年代以降、油田開発で厳しい局面に立たされてきた。中東産油国は73年の第1次石油危機後、油田の大部分を国有化し、新規の油田権益を外国企業に与えるケースは激減した。サウジアラムコなど産油国の国営石油会社全盛の時代がやってきた。最近ではイラク、リビアが鉱区を外国企業に開放、国際入札にかけたが、条件は厳しく、収益性で二の足を踏む石油会社が多かった。
 一方、外資が参加できるロシアや中央アジアの案件は北極圏など気象条件がきわめて厳しいか、輸出するために長距離のパイプラインを敷設しなければならないものが大半。技術的に難しいか、政治的なリスクを負わざるを得ない。
 「海洋油田は開発の自由度が高く、石油開発のニューフロンティア」。石油開発業界の関係者はこう指摘する。海洋油田は産油国の国営石油会社単独では開発が難しいため、外資の参入チャンスが大きいうえに、海上の油井周辺に貯蔵用のタンカーを配置し、係留設備を用意すれば、洋上からそのまま原油を出荷することもできる。海上であれば、アフリカなどに多い部族紛争やテロにも巻き込まれずに済むメリットもある。
 アンゴラ、ガボン、ナイジェリアなど西アフリカの産油国は沖合の油田が大半で、今はガーナなどにも海洋油田の開発が広がっている。メジャーや日本の商社などが出資する案件が目白押しだ。
 一方、今や産油量が日量200万バレルを超え、ベネズエラと並ぶ南米有数の産油国になったブラジルは海洋油田の成功で原油輸出国に転じた。国営石油会社のペトロブラスは70年代から沖合大陸棚で油田開発に取り組み、世界トップクラスの海洋石油開発の技術を蓄積した。今では、沖合200キロの水深5000メートル超の海底にある岩塩層の下に眠る油層「プレサル層」の開発を進めようとしている。

■今後、起きうる3つのシナリオ

 こうした海洋油田への流れは原油価格の上昇と並行している。海洋油田の開発、生産コストは高く、1バレルが50ドル以上でなければ採算が合わないものが大半だからだ。ブラジル沖合のプレサル層は70ドル超が目安との説もある。原油が暴落すれば、世界の海洋油田の開発計画は頓挫しかねないリスクをはらんでいる。そうしたなかで今回のBPの事故によって、安全対策の強化などが求められるようになれば、コストはさらに上昇せざるを得ない。世界の民間石油会社はフロンティアを失いかねない瀬戸際に立たされているのだ。
 今後、起きる可能性のあるシナリオは3つある。第1に、中東産油国への回帰だ。中東産油国の国営石油会社がますます力を高め、世界の石油会社はそこからの調達量を増やすしかなくなる。
 第2は、オイルサンドやオリノコタール(超重質油)など非在来型の石油やDMEのような天然ガスからつくる液体燃料の使用拡大だ。環境負荷やコストが高いが海洋油田のリスクと比較してメリットがあれば、メジャーなどは非在来型にシフトする可能性がある。
 第3に、石油業界のメガ再編の再来だ。今、BPは巨額賠償の懸念から株価が急落、資金不安からアブダビなど中東産油国に支援を求める一方、油田資産を売却し、キャッシュづくりに動いている。これがうまく行かなければ、他のメジャーがBP合併を狙う可能性もある。すでにエクソンモービルの名前などがあがっている。あるいはBPが分割され数社に吸収されると予測する関係者もいる。
 また、石油供給の別の環境リスクが注目されたことで、今後、液体燃料で石油からバイオエタノールなどへのシフトが進む可能性がある。電気自動車にも追い風となるだろう。
 いずれにせよ、BPのメキシコ湾の事故は単なる海洋油田の事故ではなく、世界の石油開発のあり方、業界構造を変える導火線になりつつある。


筆者/ジャーナリスト・新田賢吾

フォーサイト・ウェブサイトより

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  • 最終更新:7月20日(火) 16時40分
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