センターはこの通報をもとにマンションを訪問。しかし、母親の下村早苗容疑者の部屋のインターホンを押しても応答はなく、姉弟に直接会うなど安否確認をしないまま調査を終えた。緊急性が高いケースではないと判断し、府警に協力も要請しなかった。担当者は反省を交えて語る。「複数の住民から同じ情報が寄せられれば、それだけ緊急性が高いと判断する根拠になった」
児童虐待防止法では、虐待が疑われるケースを見つけた場合、速やかに児童相談所などに通報しなければならない、と定めている。
「通報に抵抗を感じる気持ちは分かる。匿名でも構わないので、気がかりなことがあればまず相談して」。NPO法人「児童虐待防止協会」(大阪市)の相談員はこう話す。協会の「子どもの虐待ホットライン」に寄せられる近隣住民からの相談は年間約200件。「どの部屋か分からない」「世帯主の名前が分からない」というあいまいな内容もあるが、「虐待かどうかの判断は専門家がする。間違っていても通報者が責任を感じる必要はない」と話す。
児相や支援団体の連絡先が分からなければ、どうしたらいいのか。北海道大学の松本伊智朗教授(児童福祉論)は「自治体に通報すればいい。子どもの泣き声が切迫している時は110番。警察官は少なくとも確認に来てくれる」と助言する。「幼稚園や保育園に通っていない幼児の場合、近所の人が察知して通報することが端緒になる」と、その大切さを訴える。
大阪市立大学の山縣文治教授(社会福祉論)は「マンションの管理組合や管理会社になら、情報を寄せられる住民もいる。管理組合などは積極的に児相などに通報してほしい」と話す。
花園大学の津崎哲郎・特任教授(児童福祉論)は行政にも注文を付ける。「虐待を防ぐには、待ちの姿勢ではいけない。地域へ出向く形の子育て支援策を充実させるとともに、虐待防止に向けて住民を啓発するべきだ」