ピクサー、東映、ジブリ――アニメ産業、若手育成とヒットの関係(上)東洋経済オンライン8月11日(水) 11時 2分配信 / 経済 - 経済総合
最近のピクサーの勢いはすさまじい。2006年以降は毎年1本のペースで作品を世に出し、すべてが大ヒット。これに対し、日本を代表するアニメ制作会社、スタジオジブリが作品を仕上げるのは2〜3年に一度。なぜ、ピクサーは安定したペースでヒット映画を作れるのか。 ■ピクサーを活気づける 世代交代とチーム力 ピクサーを語るうえで外せないのが、天才、ジョン・ラセターの存在。もともとディズニーの手描きアニメーターだが、CGアニメの可能性に早くから着目。ディズニーを飛び出し、ピクサーに入社した。 1995年に長編映画第1作『トイ・ストーリー』を大ヒットに導き、その後もヒット作を連発。映画監督としての地位を不動のものとした。 ラセターのすごさは、ここで監督業から退き、製作総指揮という映画製作全体を見るポジションに専念したことだ。通常、映画監督は自らメガホンを取ることにこだわるものだが、そこをあえてこらえ、同僚や後進に道を譲った。 結果として多くの人材に監督の機会が与えられることになり、毎年継続して作品を生み出す体制ができ上がったのだ。 ラセターは「監督業も製作総指揮も両方好き」と言う。 「監督はすべてのプロセスに詳細にかかわっていくが、製作総指揮では監督やスタッフに細かいことまでは指示しない。でも僕がその人のところへ次に行ったときには、僕がイメージしていたものよりいいものができている。僕の周りには才能あふれる人がたくさんいるからね」。 ピクサーでは、1本の映画が企画されてから完成するまでに4年かかるという。つまり、年1本公開するためには、最低でも4チームが必要。その各チームがお互いに協力し合うこともある。 「4カ月ごとに各チームの監督・プロデューサーが全員集まって、1〜2日かけてその時点ででき上がっているストーリーをすべて見て、厳しい目で評価し合う。どこかのチームに問題があったら、自分がやっている作業をいったん中断してでも、必ず解決する」(『トイ・ストーリー3』のプロデューサー、ダーラ・K・アンダーソン)。 彼女自身、仕事の合間を縫って、『カールじいさんの空飛ぶ家』制作に協力した。「この映画のプロデューサー、ジョナス・リベラは私の教え子。いろいろアドバイスしたわ」。 こうした会議が実を結び、でき上がる作品には魅力的なアイデアが満載だ。たとえば『トイ・ストーリー3』には、バービー人形の彼氏、ケンが登場するが、これが軽薄な衣装持ちという、ニヤリとさせられる設定。スタッフ全員が面白がって作っていることが作品を見ているとよくわかる。 さて、アンダーソンの“教え子”リベラだが、95年にピクサーに入社して最初の仕事はアシスタント職だった。「それこそ床掃除のような仕事」と、リベラは振り返る。 「でも社内では、つねに企画を募集していて、チャンスがそこら中に転がっている。やる気さえあればどんどん上に行けるんだ」。 ■スタッフの個性を抑制 育成の概念欠くジブリ 就職先としてのピクサーは超難関。昨年、インターンシップ2人を募集したところ、1万7000人の応募があった。『トイ・ストーリー3』を監督したリー・アンクリッチは、「今、ピクサーの入社試験を受けても入れないよ」と笑う。 そこまで優秀な人材をそろえても、必要なら外部からの人材招聘もいとわない。『トイ・ストーリー3』では、『ロボッツ』のコンセプトデザインを手掛けた堤大介が、アートディレクターとして招かれた。 監督のイメージをビジュアル化するのがアートディレクターの仕事。堤は言う。「僕のように他社から来て、しかも日本人なのに、僕がやろうとすることをうまく引き出し、受け入れてくれた。普通の会社だったらそこまでやらせてくれない」。 ラセター1人体制から発展して、よいと判断すれば社内外を問わず、さまざまな人のアイデアを取り入れる。この柔軟さこそが、ピクサー映画の魅力といえるだろう。 一方で、日本を代表するアニメ制作会社・スタジオジブリでは、どのように作品を制作しているのか。 過去の劇場用長編映画15本のうち、宮崎駿・高畑勲監督以外の作品はわずか3本。ジブリ自身、「当社は宮崎駿と高畑勲の映画を作るスタジオ」(広報部)と認める。 宮崎監督をよく知るアニメ監督の押井守氏は、「宮さん(宮崎監督)は、自分が5人いれば最高だと思っている」と評する。 [(下)に続く] 【関連記事】 ・ 大ヒット連発!ピクサー映画の秘密、経営者よりも現場力が成功のカギ ・ 09年夏の北米興行ランキングから見えてくる“ドル箱映画の方程式”《ハリウッド・フィルムスクール研修記6》 ・ 映画の出来を決めるのは原作よりもチーム力だ――森田芳光・映画監督 ・ 映画業界に明日はない、ヒット量産方程式の落とし穴 ・ 『トイ・ストーリー3』――忘れがちな“無常”の概念、時間の大切さを実感して生きる《宿輪純一のシネマ経済学》
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