望 〜都の空から
東京の魅力や四季の彩り、さらに課題も空撮で紹介します
【放送芸能】『戦争で死ぬ』ではなく『戦争で殺された』 TBS終戦ドラマSP『歸國』 演出・鴨下信一さん2010年8月11日 朝刊 “昭和85年”の8月14日、TBSで終戦ドラマスペシャル「歸國(きこく)」(午後9時)が放送される。脚本は倉本聰さん、演出は鴨下信一さん(TBSテレビ相談役)で、ともに昭和10年生まれ。「僕らが、戦争が分かる最後の世代」という鴨下さんに、話を聞いた。 (宮崎美紀子) 「帰国って言葉自身がね、今の人と僕らではイメージが多分違う」 倉本さんが、こだわりの旧字体でつけた題名「歸國」について、鴨下さんはまずこう切り出した。 終戦直後の「帰国」とは、「復員」「引き揚げ」。「外地から戦争に敗れて帰ってくるというイメージなのね。今の人は分かっていないけど、兵隊さんたちは一様に『申し訳ない』って肩身狭くして帰ってきたの。帰国とはどういう言葉なのか、僕らの年代は知っている」 このドラマは、終戦から十年後に書かれた棟田博さんの「サイパンから来た列車」を基に、倉本さんが温めてきた企画。鴨下さんは、原作を雑誌の掲載時に読んだ。復員列車に乗って英霊が帰ってくる−。それだけで胸を打たれたという。 テーマはシリアスだが倉本さんの脚本は重層的にさまざまな生と死が描かれ、同世代しか分からない“いたずら”もたくさんあるという。例えばビートたけし演じる「大宮上等兵」は勝新太郎さんの映画「兵隊やくざ」の役名。ARATA演じる役者崩れの伍長が諳(そら)んじる「シラノ・ド・ベルジュラック」のせりふは、昔の演劇青年なら誰もが暗記していた。さらに、首をつって自殺した設定になっている伍長のため、ゴーリキーの戯曲「どん底」に出てくる「役者が首をくくったぞ」というせりふを書き足した。小池栄子演じるダンサーの衣装、音楽もこだわりぬいた。 「見てもらえば分かるけど全くのエンターテインメントですよ。僕はシリアステーマはシリアスにやらない」 それも「オールスターでやることに意味がある」。「戦争はシリアスだからノースターでいこうというのは誤解。演劇はそれでいいけど、テレビは違う。暗くて汚いのがシリアスだってのは僕は好きじゃない。そして、スターには、こういうものを演じる義務がある。発信力が強いんだから」 一番悪いのは戦争を「観念的」に描くことだという。 「戦争は悪いもの、戦争中は暗いものと観念で単純に割り切るから、芝居が煮詰まっちゃう。でも日本は戦争に関して非常に観念的な記憶しか残さなかった。実際の戦い、実際の銃後、実際の戦後の実感がないんだ。実感がある世代は僕らが最後。僕らより下は、戦争を描いても、やっぱり方向性がちょっと違うんだよね」 「戦争で死ぬ」という表現も大嫌いだという。「戦争で殺された」のだ。今回は、俳優の腹や首筋に醜い傷を付けた。「一瞬ドキッとするけど、そういうことを徹底しないと、『殺された』ことが伝わらない」 英霊たちは今の日本に何を思うのか。それは最後の秋吉部隊長の言葉を聞いてもらえばいいが、鴨下さん自身は「あまり現代への絶望にしたくない」という。 「霊は悲憤慷慨(こうがい)しない。だって、兵隊さんたちは『申し訳ない』って帰ってきたんだもん。僕がやりたいことは単純なんだよ。僕らの周りには霊がいっぱいいる。常に霊に見られているという自覚があれば、もう少し品格が正しくなると思うんだ。霊は怒らないけど、免罪符にはならない。もっと繊細な神経で霊たちの考えを受け止めてやる必要がある、それが僕の考え方ね」 ◆「歸國」あらすじ八月十五日午前一時十六分、東京駅に秋吉部隊長(長渕剛)率いる「英霊」たちを乗せた軍用列車が停車。六十五年間、南の海に漂っていた彼らは、夜明けまでの数時間、思いを残してきた場所、人を訪ねる。 チェロ弾きの音大生(小栗旬)と画学生(向井理)は芸大がある上野へ向かい、元六大学のエース(塚本高史)は神宮球場へ。そんな彼らを英霊になれず亡霊となってさまよっていた報道官(生瀬勝久)が案内する。 大宮上等兵(ビートたけし)は坂本上等兵(温水洋一)を伴って浅草へ。彼は生前、浅草でバナナのたたき売りをしており、妹(小池栄子)は人気ダンサーだった。 靖国神社では、検閲の仕事で精神を病み、自殺した役者崩れの志村伍長(ARATA)が夜な夜な手紙を朗読している。それぞれの目に映った日本の平和と繁栄とは−。 他の出演は堀北真希、遠藤雄弥、八千草薫、石坂浩二ら。
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