【カイロ和田浩明】レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ師は9日、05年のハリリ元首相暗殺事件にイスラエルが関与したことを示す「証拠」だとする航空ビデオを公表した。同事件ではヒズボラ関係者が国連特別法廷に起訴されるとの観測が強まっており、ナスララ師の動きは対抗措置とみられる。イスラエル側は「ばかげた話」と完全否定している。
レバノンのヒズボラ系テレビ局アルマナル(電子版)などによると、公表されたビデオはハリリ氏が05年2月に爆殺されたレバノンの首都ベイルートの現場付近を、事件前にイスラエル無人偵察機が撮影したものとされる。イスラエル側に送信された映像を傍受したという。
ナスララ師は「こうした偵察は通常、(暗殺)作戦の第1段階で行われる」と述べ、特別法廷がイスラエル関与の可能性も調査するよう求めた。
ヒズボラはレバノン南部を長年占領したイスラエルを敵視、06年にも大規模な武力衝突を起こしている。
ナスララ師は7月、特別法廷にヒズボラ関係者が起訴されるとの見方を表明。一部イスラエル・メディアは実行犯がヒズボラのテロ作戦担当幹部だったと報じている。
国連特別法廷は昨年3月、オランダのハーグに設置されたが、4月に同事件のレバノン人容疑者4人すべてを「証拠不十分」で釈放するようレバノン当局に指示した。現在、誰も拘束されていない。
ヒズボラ関係者が起訴されれば、ハリリ氏の支持層だったイスラム教スンニ派などとヒズボラ支持のシーア派などの間で暴力的対立を引き起こすことが懸念されている。
7月下旬にヒズボラを支持するシリアのアサド大統領と、スンニ派の後ろ盾のサウジアラビア・アブドラ国王がレバノンを同時訪問。レバノン主要各派の政治指導者らと会談、緊張緩和に努めている。
毎日新聞 2010年8月11日 東京夕刊