「きもちわるい……頭痛い……」
「セシリア、オメェすげぇな……魔術的要素のない教会でそこまでなるか?」
「そう言うナイルちゃん顔色悪いわよ?」
「僕も気持ち悪い……」
「大丈夫かエクセル?」
ナイル達、グリゴリが住むアパートを砲撃術式で攻撃してきた魔女を捕まえる。
そのために集められたメンバーは5人。グリゴリのリーダーである銀髪の魔女ナイル。グリゴリ内で唯一の既婚者であるリリー。小さな魔女エクセル。その相方である魔術師ジュリエット。そして最強の魔女セシリアである。セシリア以外はグリゴリのメンバーであるため今この場にいるのは不思議ではない。では危険は極力避けてきたセシリアがいる理由はなんなのだろうか?
「面白そうなんで!!」
と言っていた。しかしこれはどういうことなのだろうか? ナイルは気に留めていないし。他の人間にしても,最強の魔女の気まぐれ位にしか思っていない。だがもし、これを今までのセシリア、正確には学園都市に住み始めてからのセシリア。その魔術関連の事件,その際のセシリアの反応を見ていた東条歩(とうじょうあゆむ)、ならどう思っただろうか? イギリスに来ることが決まる前、何処に旅行に行くかという話ですら危険じゃない場所をセシリアは所望しているし,今までの事件とてけして『面白そう』などという理由で関わることはなかった。どちらかと言えば危険を避けている感じだったはずだ。セシリアの『何かがおかしい』もしくはセシリアが『何かを考えている』。と、東条歩なら思ったかもしれないだろう。
しかし今この場でその考えに至る者はいない。
彼女達が今いる場所は寂れた教会。埃が舞い、カビ臭く、穴の開いた天井からは昼の日差しが大きく差し込み、古びた木造の長椅子が規則正しく未だ並ぶこの場所で、イギリス清教の監視者と落ち合うことになっている。
魔女内のことは魔女内で処理をする。
ある意味化学サイドと魔術サイドにも似ているその暗黙の了解は魔女狩り以降のモノであり、ある程度守られている。しかしここはロンドン市内。イギリス清教とて黙って任せることはしない。最後まで見届ける。そのための監視者であり、その条件として今回の襲撃者の居場所を教えてくれるそうだ。
「もう……横になってもいいですか?」
「そうですね。セシリア様はそこの長椅子で横になってください」
気だるそうに話すセシリアを、グリゴリの証でもある黒のローブを羽織るリリーが,背中をさすりながら休むよう促す。さすがに既婚者で子持ちと言ったところか。見た目はギリギリ20代だが雰囲気がまるで母親のように暖かい。金色の長い髪が日に当たり神々しく光る姿は女神を連想させるが、彼女もまた魔女である。
リリーは長椅子に溜まる埃をハンカチで軽く払ってからセシリアを寝かせる。
セシリアがこれほどまでに気分が悪そうにしているのには、魔女だからこその理由がある。
悪魔の加護である。
魔女、正確には黒魔術を初めて行使し、『悪魔憑き』とならず成功させた者には悪魔の軍門に降ったという、魔女足り得る加護が付く。その加護は、その後の黒魔術発動の安定を約束されるものであり、魔術師との決定的な違いである。厳密に言えば、加護を得ても次に発動する黒魔術に使う悪魔名が違えば、危険は初めとなんら変わらないのだが……。それについてはいずれ。
神の家である教会は人々を悪魔から守る。
そのため特に魔術的要素が多い教会などには、悪魔の加護を持つ魔女は入ることが出来ない。セシリアの場合は『悪魔召喚』を成し遂げた魔女とあって、このような魔術的要素がなく古びた教会でもこの様だ。ナイルやエクセルといった高位の魔女も、セシリア程ではないが例外ではない。
「さすがセシリア。僕も気持ち悪いけどそこまではならないよ。大丈夫?」
小さな魔女エクセルが、その長い前髪で隠れた顔で、横たわるセシリアを覗き込みそう言う。
「なぁ、姐さん。こっちから仕掛けるなら姐さんはともかく、他は魔術師だけでいいんじゃないのか?」
「それは私も思ったけどそこの所はどうなの? ナイルちゃん」
魔術師ジュリエットは、眼鏡の奥からセシリアを心配そうにするエクセルを眺めながら、銀髪の魔女ナイルに質問を投げかけた。
その疑問はリリーにもあったようで続けて質問をする。
敵の潜伏場所に襲撃を仕掛け、捕らえるということはどうしても近接戦闘なりやすい、それは基本、魔女の苦手とするもののはずだからだ。
2人の質問にナイルが気だるそうな顔で答えてくる。
「敵は大した奴じゃないだろうしな、問題はない。私としては適当に声掛けやすい奴を連れてきただけだなんだよ~……」
要するに今回に関しては、あまり深くは考えずにメンバーを決めたということだ。この辺はいくらジラの元、組織化しているといっても、身勝手な魔女の集まりだということが窺える。なぜならグリゴリのリーダーすらこれなのだ。むしろナイルが、グリゴリ内では比較的まともな人間の部類に入るのだから、魔女という人種の異様さがどれほどのものか分かるだろう。
「さすが姐さん。考えてるようで行き当たりばったり!!」
「ナイルちゃんはもう少し、その杜撰(ずさん)なところを直したら完璧なのにね……誰に似たのか……」
「アァ? 似てねぇよ……」
ナイルは少しだけ横になるセシリアに視線を向けてから反論をした。
「待たせたね。 『必要悪の教会(ネセサリウス)』から来た監視者のステイル・マグヌスだ」
「同じく『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔女。スマートヴェリーって呼んでね」
「やっと来やがったか~……ん? 男の方……テメェは学園都市で一度会ったな~女の方は……現代魔女か」
教会の入り口から現れたのは、赤い髪に咥えタバコ、目の下にあるバーコードが目立つ長身の若い神父。
もう1人は絵本で見るような『魔女の帽子』を深々と被り、顔がよく見えない。ナイル達グリゴリのように黒のローブを羽織っており、1番の特徴は手に持つ箒だ。どう見てもハロウィンで見る魔女のコスプレにしか見えない。
ナイルはスマートヴェリーと名乗ったその女を見て『現代魔女』だと一瞬で判断できた。それはリリーやエクセルも同じだ。
『現代魔女』
彼女らは自分達を魔女が発展したものだと語る。かつて魔女の弱点や危険性である、近接戦闘の不得意や『悪魔憑き』の危険性、はたまた生贄集めの危険性、不合理性。などと言った、ナイル達からすれば魔女を根本から否定するような魔女達が作り上げた形態である。
黒魔術の知識を基にした悪魔信仰系の応用魔術。生贄は今でも残っているらしいが人間などではなく動物や、虫の類のみ。
彼女らは『悪魔の加護』がない。実質的に魔術師とはあまり魔術形態として変わりがないため近接戦闘も得意である。
ナイル達のような魔女から言わせれば、魔女という形を使った魔術師だという。
「現代魔女だし……」
エクセルが呟く。
「それは貴方達が勝手につけた名よ。私は魔女以外の何者でもないけど?」
「何処が魔女なんだか……僕から言わせれば欲望がない時点で魔女じゃないよ」
「私は私なりの目標があるからいいのよ」
「そのヘンにしておいてくれ。僕達はそんな論議をしにきたわけじゃないんだ」
エクセルとスマートヴェリーの会話に割ってはいるの神父ステイル。
彼はこの教会にいる人物を確認するためあたりを見回し、ある者に気付く。そして見るからに嫌そうな顔で言う。
「魔女セシリア……君は学園都市にいるはずなんじゃないのかい? ……なぜこんな所に……」
長椅子に横たわっているセシリアが返事をする。
「ステイルのアニキ……ただの旅行ですよ~……」
「旅行か……さすがに君くらいになると教会は辛いらしいね……いい勉強になったよ」
「アニキ……最後に言っておきます」
「最後? どうかしたのかい?」
「はい……ナイルさんが一目惚れしたそうなんで付き合ってあげてください」
「また君はおかしなことを……すまないが遠慮するよ」
とそこで件の銀髪の魔女ナイルが叫んだ。
「うぉぉぉおおおおおおい!!! 何勝手に告白してんだよ!! でなんか勝手に振られてんじゃねぇか!! つうか一目惚れなんかしてねぇよ!!」
「ナイルちゃん……なんかその勢いで言ったら本当に一目惚れしてるように聞こえるわ」
「してねぇぇええええええええ!!!」」
現代魔女スマートヴェリーがその様子に呟く。
「ねぇステイル。いつもこんな感じなの? 魔女セシリアとは面識あるんでしょ?」
ステイルは頭を抱え。
「ああ……嫌になるくらいにね……」
そう言った後仕切りなおすように音量を上げた声で
「まず、対象の居場所だが――」
そしてセシリア達が来たのは地下道。地下道といっても見た目はトンネルのようなもので、やたらに広い。一直線に伸びる道は左右の壁に設置してある松明のみ、薄暗く照らされている。
「10年程前に魔女の過激派が作った地下儀式場への通路だ。イギリス清教が取り押さえたんだが……このような物はロンドンどころかイギリス中に山程あってね。全部を管理することも出来ないので放っておいたところをいつの間にか奪い返されていたというところだ」
「あぁ? そりゃオメェらの失態じゃないか~?」
「じゃないか~?」
「じゃないか~?」
「秘密基地いいな!!」
「オメェらは黙ってろ!!」
「その心労は察するよ」
「分かってくれるか……」
現在この場にいるのは監視者のステイル、ナイルにセシリアあとはエクセルとジュリエットのコンビだ。
儀式場への道はもう1つあるらしくそちらへは既婚者の魔女リリーが1人で行くと言ったのでナイルが行かせたのだが、そちらも監視をしないといけないという理由でスマートヴェリーが同行している。
ナイルがリリーを1人で行かせたのには訳がある。それはリリーが1人で行きたいといったからだ。
魔女は魔術師よりも秘匿主義だ。リリーが何かしら見られたくないことをする気なのだろうとナイルは思ったのだ。しかしスマートヴェリーが付いて行っては元も子もないのだが……
ナイルを筆頭に5人は歩く。薄暗く湿気が多いそこは幽霊が出てもよさそうな雰囲気がある。
「ちっ……なんかでて来やがったぞ!!!」
「うわぁ!! ゾンビ?」
「使い捨ての死霊術式じゃないかな?」
「エクセル!!」
「僕は監視者だ自身の身は守るが手助けはしないよ」
5人の前からやってくるのはうつろな目をした人間達。手には剣やナイフのなどを持っている。ゾンビと言うよりは操られた一般人という感じだが、嫌な腐敗臭が漂うところをみると死体なのだろう。
数は50はいそうだ。通路を埋め尽くすようにいるそれは、戦略的には数で圧倒する気でいるのだろう。
ナイルがその光景を見ながら言う。
「予想していたレベルと違うな~……砲撃を仕掛けたのは下っ端か? まぁいいか」
とそこで小さな魔女エクセルがナイルのローブの端を引っ張りながら言う。
「僕達はこいつらの相手するから先行ってていいよ」
「あぁ? 悪いな」
ナイルは返事をしたかと思うとセシリアの襟首を掴む。
「へ?」
セシリアがそんな声を上げた瞬間、ナイルがセシリアを投げ飛ばす。
綺麗な放物線を描くように敵集団の頭上を越え真後ろへと向かうようにだ。
「ぎぁぁぁああああああああ!!!!!」
セシリアは飛びながら叫ぶ。それはそうだ。いくらこれで敵集団を飛び越えたところで着地が問題なのだ。どう考えてもただで済む気がしない。
段々と地面が近づいてくる。
というか現在セシリアの1番地面に近い部位は顔だ。
(あぁ……やばいですね……)
やはりただで済む気がしない。
しかし
ボスッ
とセシリアは誰かにキャッチされる。
「ビビッたか~?」
ナイルだ。
ナイルは『イブリス』という術式の予備効果プラス、『グリゴリ』という偶像崇拝の理論により十字軍の騎士数人と渡り合える程の身体能力を有している。
セシリアが少し涙目で敵集団のほうをナイルの腕の中から首を捻らせて見てみると一直線に敵がなぎ倒され、誰かが通った後があった。
とその空いている空間に真っ赤な炎が飛び交う。そこを走り抜けてきたのはステイルだった。彼はナイルとセシリアの元まで行くと、少し息を切らしながら話す。
「はぁ……僕は監視者だ対象の確保は見ないといけないんだよ……」
「そうかぁ~……じゃあ息切らしてるとこ悪いけど走るぞ!! 行けるか?」
「魔女が僕を心配なんかしてるんじゃないよ。僕は君たちが悪さをすればこの場で全て狩り取るつもりだ……」
「はぁァ? やってもらおうじゃねぇかよ~」
そうしてナイルはセシリアを降ろし、ステイルを連れ通路を前へと向かい走り出す。
敵集団を正面に、残された魔女エクセルと魔術師ジュリエットは戦闘の準備へと入る。
「敵は姐さん達は追わないみたいだな、エクセル……私達前もこんな役回りじゃなかったか?」
「いいんだよ。誰かに術式を見せるなんて事は僕はしたくないんだよ」
2人は言葉を交わす。と何処からか声が聞こえる。
『3人逃がした』
『別にいいだろう私達の仕事は妨害ではないく、誰かと戦うことだ』
『でも、できるだけ多くを相手にしろといわれている』
『気にするな。こちらも2人来た』
その声が聞こえているのか聞こえていないのか、エクセルは笑う。
「久しぶりにこう気分爽快にパァーっと行かないと」
ジュリエットはローブから細身の短剣2本を両手で引き抜く。眼鏡はいつの間にか外されており、その目は細められ獲物を待ち構える。
「……I、R、O、Y、O、H、G、H、O、H、H、I、I、L、G」
彼女は何かを口ずさむ。
一方他の通路を歩いていたリリーとスマートヴェリーもゾンビのような集団と出くわしていた。
「スマートヴェリーさん。私は準備しますんで時間稼いでください」
「私は監視者なんだけど……まぁこの状況だと協力はしかたないかな」
リリーはポケットからチョークを取り出し、幾何学的な魔法陣を地面に描いていく。随分と大きな魔法陣を描くようだ。
スマートヴェリーはそれを見て呟く。
「私がいなかったらどうしてたのよ?」
スマートヴェリーが箒を敵に向ける。
「古いやり方の魔女。その実力見せてもらおうか!!」
箒の先には青白い炎が球体となって現れる。
セシリア達の向かう儀式場。その広い空間の中央にある祭壇。
更にその中央にある丸い水晶。それに手をかざす小さな修道服姿の魔女エレン。見た目は12~14歳ほどでしかない彼女は震えている。
必死に恐怖を堪えている。
その瞳は少しだけ潤んでいる。
「うぅ……敵が来たですよ……逃げる準備は万端……絶対大丈夫です……でも……あの銀髪の女……めちゃくちゃ強そうじゃないですかい…
…もし逃げられなかったら……考えるなっすよ……」
エレンは思う。こんなことならローマ正教に居たときのほうがまだましだったのではないかと……。
「誰か助けてくれねぇすかね……アンジェレネのオススメスイーツまた食べてぇですね……」
少女は呟く。そして首を横に振る。しょうがないとかそういうことではない。これは自分で決めたことではなかったのか?
自分の望みの為に黒魔術に手を出したのだ。今更後悔など遅い。
そのころ上条当麻はシスターアニェーゼを助けるため『アドリア海の女王』という名の氷で出来た戦艦のにいた。
そして助けられる側であるアニェーゼは上条よりも一足早く助けに来たオルソラに守られていた。
2人の前にはローマ正教の司教ビアーオ。十字架の本来もつ意味を解き放つという術式を使う強敵である。
アニェーゼはまだ15にも満たない女の子だ。しかしその実力、精神力共に大人以上のものを持つ。
そして自分を助けに来たオルソラに告げる。
「……横にどいて、ください。どの道、貴方にビアージオは止められません。抵抗さえしなければ、きっと貴方は死なずにすみます」
嫌な言葉だとアニェーゼは思う。
伝承にある聖人が死ぬ前に、大抵異教の神官はこう言って十字教を捨てるように誘惑する。
「そんな事が、できるわけないでしょう!!」
まるで神話に登場する聖女そのままにオルソラは跳ね除けた。
アニェーゼはオルソラに恨まれることをした。『法の書』を巡って、ワザワザオルソラを日本まで追いかけ、捕まえグチャグチャに蹴り飛ばした。そんな人間見捨てて当然だというのに。しかも聞けばせっかく自分が犠牲になってまで助けた部下達まで助けに来ているという。
なぜそんなことを? 自分を餌にして助けたただそれだけのことじゃないか。皆が助かるハッピーエンド。そんな都合のいいことなどありはしないのだから。
しかしオルソラは言った。
『なぜ助けるかの答えなんて修行中の身である私には分かりません。しかし、少なくとも貴方の部下である、ルチアさんやアンジェレネさんはあなたを助けたいと断言しました。あなたは2人の言葉に文句がありますか? たとえ絶望的な状況だろうと、それでも、もう一度皆と笑いたいと告げた彼女達の言葉に、まだ足りないと思っているのでございますか?』
アニェーゼは立ち上がりオルソラの持つ杖を奪い取り、床に唾を吐く。
「シスターアニェーゼ!! 何の真似だ!!」
武器を向けられたことではなく自分に逆らおうという、その意思にビアージオは叫ぶ。
「ハッ、貴方の疑問通りですよ」
アニェーゼは激昂するビアージオに吐き捨てるように告げた。
「間違ってんでしょうね。こんな私が、まだシスタールチアやアンジェレネ、それに他のシスター達の面倒を見たいなんて思っちまうのは!! 貴方のクソみてえな命令で戦わされている彼女達を想って憤ったりすんのも!!」
ビアージオは胸元の十字架を毟り取る。
「舐めた口……きいてんじゃねえぞ罪人がァああッ!!」
その様子にアニェーゼは小悪魔のように笑みを浮かべる。
あとがき
気付いた人が少ないかもしれませんがスマートヴェリーさんは原作キャラです。
これから読み進める方は何処に出ているのか探すのも面白いかもしれませんね。