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国際コンテナ戦略港:阪神、京浜を選定 バラマキ脱却図る

コンテナが並ぶ横浜港の本牧ふ頭=本社ヘリから長谷川直亮撮影
コンテナが並ぶ横浜港の本牧ふ頭=本社ヘリから長谷川直亮撮影

 前原誠司国土交通相は6日、国際的なハブ(拠点)港を目指して予算を重点配分する「国際コンテナ戦略港湾」に、京浜港(東京、川崎、横浜港)と阪神港(大阪、神戸港)を選定したと発表した。厳しい財政状況下で進める公共事業の「選択と集中」の一環で、自民党政権下の総花的な港湾整備からの転換を図る。ただ、荷物取扱量ではアジアの新興港湾に大きく引き離されており、効果を疑問視する声があるほか、選定から漏れた自治体からは「恨み節」も聞こえる。【三沢耕平、太田圭介】

 コンテナ戦略港湾の公募に対して、阪神港、京浜港、伊勢湾(名古屋、四日市港)、北部九州港湾(博多、北九州港)の4港湾が応募していた。国交省内に設置した検討委員会が、各港から提出された改革案を1000点満点で採点。阪神港が769点、京浜港が729点とそれぞれ高い評価を受け、伊勢湾は553点、北部九州港湾は277点だった。その評価をもとに、同省の政務三役会議が最終的に2港を選定した。

 「海洋国家日本を復権させる」。前原氏は6日の会見で、アジア主要港としての復活に意欲を見せた。

アジア主要港湾のコンテナ取扱個数と世界での順位
アジア主要港湾のコンテナ取扱個数と世界での順位

 世界の港湾のコンテナ取扱量を見ると、1位はシンガポール。以下上海、香港、深セン(しんせん)(ともに中国)、釜山(韓国)と、中韓が独占している。日本勢は1980年に神戸が4位だったが、08年は44位。京浜と阪神の取扱量を合計してもシンガポールの半分に満たず、「周回遅れどころか2周回遅れ」(前原氏)の状態にある。

 背景には、港湾整備に対する政府の考え方の違いがある。日本は高度成長期以降も「国土の均衡ある発展」を旗印に「バラマキ」型の整備を続けてきた。一方、中国や韓国はアジア市場の拡大を見据えて集中投資で特定港湾の整備を進めた。国交省は04年、予算を重点配分する「スーパー中枢港湾」に東京、神戸港など6港を指定。バラマキ型からの転換を目指したが差は縮まらず、さらなる絞り込みを迫られた。

 政府は来年の通常国会に京浜、阪神両港の支援措置を盛り込んだ関連法案を提出。大型船舶が着岸可能なターミナルの整備や海外に比べて割高とされる入港料の見直しなどを進める。「2020年をめどに国際ハブを目指す」(長安豊国交政務官)が、3年ごとの検証で効果が薄いと判断した場合は、伊勢湾との差し替えも検討する。

 国交省は、3日に103の重要港湾から優先的に予算配分する43港湾を「重点港湾」に選定。原材料などのバラ積み貨物(バルク)を扱う港湾についても、年末をめどに「国際バルク戦略港湾」を選定する。日本海側の港湾から1~2港を拠点港に選定する計画も浮上しており、前原氏は5日の参院予算委員会で「今までのような総花的な整備では(港湾の)すべてが沈んでいく」と改革の意義を強調した。

 ◇アジアと差、厳しい将来 落選自治体は恨み節

 「名古屋の産業界は痛手をこうむる。最低でも(阪神、京浜両港と)同等に支援すべきで、政府の産業政策が問われる」。伊勢湾の選定に向けて政府への働きかけを強めていた河村たかし名古屋市長は6日夜、記者団の問いかけにこう悔しさをにじませた。

 選定された港湾の将来も明るいわけではない。港湾整備事業費(10年度予算)は前年度比24.6%減の1654億円。このうち、阪神に290億円、京浜に216億円が充てられているが、財務省幹部は「港湾予算自体が厳しい中で、いくら重点化しても両港の予算額が大きく増えることは考えにくい」と指摘する。東海大学の松尾俊彦教授(物流システム)は「新興国の港湾との差が大きいことを考えると、アジアの主要港になることはもはや不可能ではないか」と疑問を示す。

 選定過程には政治的な思惑も見え隠れする。当初、6月をめどに選定する予定だったが、結局8月にずれ込んだ。このため、「7月の参院選前に決めると、落選港湾に近い選挙区に影響を与えることを心配したのでは」と見る関係者もいる。また、最終的に選定した国交省の政務三役会議のメンバー6人のうち、前原氏(衆院・京都2区)や馬淵澄夫副国交相(衆院・奈良1区)ら4人が関西圏選出で、阪神港に有利に働いたとの見方もある。名古屋港の関係者は「国家戦略である戦略港湾は、最終的には官邸で決めるべきだ」と不満を漏らす。

 港湾整備は雇用や物流面などで経済効果が大きいため、重点港湾の選定を巡っては、自治体首長らが激しい陳情合戦を展開した。与党内からは自民党政権下と同様の陳情合戦が選定に影響しなかったか懸念する声がある。

 【ことば】国際コンテナ戦略港湾 

 輸出入品輸送の9割を占めるコンテナを取り扱う国内約65の港湾の中から、政府が予算を重点配分して整備する港湾。海上輸送の拠点となる「ハブ港」化を目指す。ハブとは車輪のスポークの中心のことで、港湾の場合、さまざまな方面との航路がある拠点港を意味する。船舶会社などは、荷物ごとに航路を設けて運ばなくても、ハブ港まで運んで目的地行きの大型船に荷物を積み替えればいいため、効率的に輸送できるメリットがある。整備する側は、利用コストを安くしたり、超大型船が着岸できるようにする必要がある。

毎日新聞 2010年8月6日 23時48分(最終更新 8月7日 0時43分)

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