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[20767] ビカム架け橋(異世界ファンタジー)
Name: 零れい◆4c2f1bb4 ID:6dbf4857
Date: 2010/07/31 19:44
はじめまして、零れいといいますm(_ _)m
この作品は異世界ファンタジーで現代からの来訪になります。

感想&アドバイスなどを簡単なことでもいいので出来れば書いていって下さいお願いします。

一ページ目は業務連絡とかに使うつもりですのでスカスカです、すいませんm(_ _)m

では、本編は次から。よろしくお願いします。



[20767] プロローグ
Name: 零れい◆4c2f1bb4 ID:6dbf4857
Date: 2010/07/31 19:44
「は?」

 朝、目が覚めた勇斗の目の前に広がるのは見慣れた天井ではなく、まして天井ですらない青い空。

 勇斗は起き上がって周囲を見渡すと、見渡す限り草木ばかり。絶対に昨日はこんなところで寝ていないと言い切れた。

 ――どうなっているんだ?

 勇斗は混乱していた。勇斗は昨日いつも通り学校から帰ってから、夕食、風呂、勉強を済ませて就寝。それが目を覚ましたら見たことの無い森の中に居るのだ。これで混乱するなという方が無理だろう。

 とにかく状態を確かめようと持ち物を確認する。何故か服装はパジャマではなく、黒い学生服になっていた。ポケットには何も入っていない。つまり、勇斗は完全に手ぶらだった。携帯も無いのに自分の居場所が分かるような特殊能力はただの大学二年生、二十歳の常盤勇斗には備わっていない。故に此処が何処なのか皆目検討もつかない。

「ハハハ、意味わからねぇよ。はあ、動くか……」

 此処で呆けていても何も変わらないと考えた勇斗は、ため息をつきながらも立ち上がる。そして先ずはこの森を抜けるべく歩き始めようとして、ふと空を見上げ固まった。

「あれは……はあ?」

 勇斗の立つ丁度広場のようになっていた場所の上には、目を覚ました時と同じく青い空が広がっていた。冬用の学生服を着ているには少々どころではなく苦痛な温度の一因になっている太陽。青い空に絶妙なアクセントとなっている白い雲。これらは勇斗にも何の抵抗も無く受け入れられた。何せいつも見慣れたものであったし、無くてはむしろ驚いていただろう。

 しかし、あの青い球体は何だろうか。あの赤い球体は何だろうか。あの黄土色の球体は? 数々の疑問が勇斗の頭を渦巻く。まるでそこにあるのが当然とでもいうように色とりどりの八つの球体が空に貼付けられていた。

「ま、先ずは歩こう。あ、新手のプラネタリウムかな? ハハハハ……はあ」

 その太陽を入れた八つの天体を見て思考を停止していた勇斗だったが、たっぷり五分ほど掛けたものの動き出すことに成功する。

 直後。

 ガサガサと正面から草を掻き分けて何かが来る音が聞こえる。

 ――何だ? 此処を森と仮定すると……ヤベ、思いつかねぇ。熊とか? いやいや、ヤバ過ぎだろ!

 勇斗には武器となるものは無い。喧嘩なら割と慣れているが、人間が熊相手に素手で戦うのは無謀を通り越して自殺だろう。そして緊張が最高潮に達した勇斗の前に現れたのは、

「ブルルルルル」
「は?」

 声を出してしまった勇斗を誰が責められようか。現れたのは一メートル五十ほどの太い棒を手に持ち、身体は二メートルを少々越え、豚のような鼻、鋭い目、だらし無く涎を垂らした口、肌は明らかに人間のものでは無い緑色の生き物。勇斗の人生において間違いなく一度も見たことの無いものだった。

「け、喧嘩に勝てないのは確定的に明らか……。逃げるが勝ち!」

 一目で勝てないと悟った勇斗は緑色の生き物に背を向けて逃げだす。だが、一度大きく声を上げると緑色の生き物も勇斗に向かって走り出す。そして、巨体の上大きな棒を持つ緑色の生き物は動きは遅いだろう、という勇斗の推測と裏腹に距離はだんだんと縮まってくる。

 ――何で!?

 勇斗は悪い足場に慣れないが緑色の生き物は慣れている上、相手は大きな棒を持っているにも関わらず勇斗の予想よりも速い。故にこの命懸けのチェイスは勇斗には分が悪かった。

 暫くして距離を詰めた緑色の生き物は勢いよく両腕を振り上げ、棒を勇斗の頭上に振り下ろす。

 ――くそっ。

 背後に脅威が迫っていると感じた勇斗はずばやく左右に視線を走らせる。

 ――あそこ!

 そして木々の隙間を見つけると、そこに向けて身体を投げ出した。

 その直後、太い棒は激しく大地を揺らして地に叩きつけられる。そして、躱されたことを悟った緑色の生き物は勇斗の居る方向に向き直り、また棒を振り下ろすべく棒を持ち上げ始める。

 ――やっぱりただ逃げるだけってのは性に合わないな……。

 足場は悪い上、そもそも何処に逃げればいいのかも分からないのだ。だから勇斗は敵に損傷を与えるために思考を巡らせる。

 ――鼻かな。潰すべきは。

 緑色の生き物は形状からみるに多分鼻が発達していると予想した勇斗は鼻を潰すために思考する。緑色の生き物はかなり力が強い上、武器まで持っているので正面から向かうのは愚の骨頂だろう。先ず勇斗は学生服の上を脱ぎ学生服のズボンにワイシャツという姿になると学生服の上を手に持ち、もう片方の手を横の木に掛ける。

 そして漸く棒を持ち上げた緑色の生き物は太い棒を勇斗を目掛けて振り下ろす。

「はっ」

 それを勇斗は木に掛けた片手で木を押すと同時に、その方向に大きく横っ飛びして躱す。

 ――プレゼントだ……ぜ!?

 勇斗は学生服を緑色の生き物の顔に投げ付けようとして、その顔を驚愕に歪める。

 緑色の生き物は振り下ろした棒を勇斗に向けて力任せに横に振り払ったのだ。

 ――ぐ、この馬鹿力が。

 風を切りながら迫る正に必殺の一撃を、投擲のモーションに入っていた勇斗は躱しきれないと悟ると、責めてもの抵抗に片手を身体の横で盾にしようとする。

 直後。

 腕の前に出現した何やら光り輝く透明な盾が棒を遮る。

「何だ!?」

 衝撃までしっかり消し去った盾は棒の一撃で傷一つ付かない。緑色の生き物も困惑していて次の行動を起こさない。

 ――今!

 いち早く立ち直った勇斗は今をチャンスと見ると学生服を緑色の生き物の顔に投げつける。

「ブル?」

 狙い違わず学生服は緑色の生き物の顔面に掛かる。勇斗は視界が埋まって慌てる緑色の生き物に向かって駆け出し飛び上がる。

 その時ふと、自分の腕の横でいまだに輝く盾が目に入る。

 ――拳よりこっちの方が効くだろ。

「喰らえ! 豚ぁ!」

 学生服が掛かり前が見えない緑色の生き物の顔面に、光り輝く透明な盾をたたき付ける。すると、盾が一際強く輝きその巨体を大きく吹き飛ばす。

「ブヒィィィ」

 勇斗は大きな声を上げ幾本かの木を薙ぎ払いながら吹き飛ばされる緑色の生き物を見届けると、逆方向に走り出す。

「あばよ! 豚」


◆◆◆


「はあ、はあ」

 緑色の生き物から逃れて、ただ無心で走り続ける。すると、数十分程で小川につき、そこで息をつく。

 ――まったく、此処は何処なんだ? あんな生き物見たこと無いぞ。

 あの緑色の生き物は勇斗の二十年の人生で一度も見たことの無いものだった。更に光り輝く盾も同様だ。

 ――もしかして、自由に作り出せちゃったりするか?

「来い! 盾!」

 盾のことを思い出すと、右腕を前に出しさっきの盾をイメージして適当に盾を作り出そうとしてみる。

「マジか……」

 すると腕の前に現れる先程の盾。腕を動かせばそれに従って盾も動く。

 ――何だか楽しいぞ?

 勇斗は不思議現象で遊んびながら不意に空を見上げる。そこには太陽を含め、八つの球体が浮かんでいる。だが、その内黄土色のものだけ先程と変わって異様に輝いている。

「もしかしたら此処は……異世界かも」

 こんな魔法みたいなものが使える上にここまで空の様子が変わっているとなれば、勇斗はその可能性を考えざるを得ない。

「な~んて……いや、マジでありそうだな。さて、こんな森が有るんだ。川に従って下れば人里の一つや二つあるだろ」

 水を利用するために川沿いには必ず村が有ると考えた勇斗は川沿いに進んで行く。

 すると、予想通り木の塀に囲まれた村らしきものが見えて来る。更に門らしきものの前には人間が一人居る。

「ビンゴ!」

 予想が当たり村が在ったことに思わず勇斗の顔が綻ぶ。

「すいませ~ん!」

 村に駆け寄り大きな声を上げる。すると門の前の人間が勇斗を見る。

「ん? 旅人? ……にしては随分身軽だな」

 勇斗と同い年ぐらいの茶髪の男だった。身長は百七十の勇斗と同じぐらいだが、筋肉からかなり鍛えていることが分かる。肌も日本人に近い色。勇斗は多少親近感を抱いていた。

「いや、違くて。俺は気付いたら此処に倒れてたんです」

 奇異の目で見られることを考え、初めは嘘を言おうかとも考えた勇斗だったが、此処まで世界観が違うと話を合わせるのは不可能だと考え、正直に伝えることにした。

「気付いたら倒れていた? お前、来訪人か! 災難だったな」

 勇斗の境遇を一言で村人が看破出来たところを見ると、自分のような境遇は珍しくないのかもと考え勇斗はほっと息をつく。もし、珍しい存在ならそれこそ危険が待っている筈だからだ。

「来訪人って?」

 とにもかくにも、勇斗は自分の境遇を聞いてみることにした。

「まあ、待てよ。先ずは中に入ろう。話ながら周りを警戒するのは骨だしな」

 男はにこやかな表情で後ろの門を指差す。

「あ、はい」

 すると男は何やら上に向けて合図を出すと門が開き、中に勇斗を招き入れる。

 中は畑が広がり、左右には木造の家が並んでいた。

「ラーク、後ろのは誰だ?」

 畑を耕していたおじさんが前方の男に話掛ける。

 ――ラークっていうのか。

「何でも来訪人らしいですよ、ゼボットさん。だからこれから家に連れていくんですよ」
「おお、そうしてやれ。何も分からず見知らぬ土地に一人……く~、可哀相でならねぇ。よし、俺から村長には言っとくからよ! 色々説明してやれ」
「ええ、分かってますよ。それとありがとうございます!」

 にこやかに会話する二人を見て勇斗は唖然としていた。

 ――何だ? ……この善人共は。

 だが、一気に頭を動かして挨拶だけでも試みる。

「俺は常盤 勇斗って言います。よろしくお願いします!」

 自己紹介をして頭を下げる。

「名前の形式はドットレックやラインノートと同じか。俺はラーク=フェルグラントだ」
「俺はゼボット=アーガス。よろしくな」

 ラークとゼボットも自己紹介を終える。

 ――ラークにゼボットか。よし、覚えた。

「よし、ついて来い。コッチだ」

 ラークについて村を進む。村人と会う度に自己紹介と軽い会話をするので、かなりの時間を掛けてラークの家に到着する。

「此処が俺の家だ。コユキ!」
「お邪魔します」

 ラークが大声を上げながら家の中に入る。玄関の先は中央に机の置かれた大きな部屋になっていた。

「あ、お兄ちゃん!」

 すると柔らかい声と共に奥から短い茶髪の女の子が出て来る。

「あれ? その人は?」

 女の子は可愛らしく首を傾げ、疑問を口にする。

「来訪人のユウトだ。さっき此処に来たばかりらしい」
「常盤勇斗だ。よろしく」

 ラークに頭を叩かれながら紹介された勇斗は自分でも女の子に向けて紹介する。

「へ~ユウトさんか~。私はお兄ちゃんの二つ下でコユキ=フェルグラント。よろしくね」
「さてさて、まあ座れ。説明することが山ほど有るからな」

 ラークに促されるまま、勇斗は木彫りの椅子に座る。

「コユキ、地図を持ってきてくれよ」
「はいは~い」

 コユキが嬉しそうに奥へと入っていく。そしてラークは勇斗の座る対面に座ると突然悩み始める。

「何処から説明したものか……」
「じゃあ、質問していいですか?」

 勇斗としても聞きたいことは山ほどあるのだ。いち早くその謎を解きたくて仕方が無かった。

「おう、そうそう、敬語じゃなくても良いぞ? 階級も歳も変わらんだろうし」
「あ、そう? それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうぜ。で、最初の質問だけど来訪人ってのは?」

 先程ラークが言っていた言葉がずっと気にかかっていた勇斗は来訪人を最初の質問にした。

「来訪人ってのは、異世界から来た人間のことだ。何処に現れるか分からないもんだから大抵は誰かに会う前にモンスターに会って死ぬことになるんだ。だからユウト、お前は運が良かったな!」
「うへぇ……俺もさっきでっかい棒を持ったデカイ緑色の豚鼻に襲われたぞ!」

 先程の死闘を思い浮かべて勇斗は顔をしかめる。あんなことは二度としたく無いというのが勇斗の本音だった。もっとも、今ならあの盾を最初から使ってもっと上手く闘える自信は有ったが。

「おいおい、パワーゴブリンかよ。よく生きてたな」

 それを聞くとラークが呆れた顔をする。

「おうよ! 何だかピカーって透明な盾が出来てな。そうだ、これって何なんだ?」

 話しながら勇斗は手の平の前に盾を作り出しラークに見せる。

「知らん!」
「へ?」

 期待が簡単に斬って捨てられ、マヌケな表情を作ってしまう。

「おっと勘違いするな? どんな力があるか分からないだけで能力自体は分かる。そいつは『ギフト』って代物だ」
「『ギフト』?」

 聞いたことの無い名前に思わず聞き返してしまう。ギフトという名前はどうにも盾には繋がりにくい。

「お兄ちゃ~ん、ユウトさ~ん、紅茶と地図持ってきたよ~」

 奥から三個のカップと丸めた地図と四つの重りをお盆に乗せてコユキが現れる。

「おう、サンキュー」
「ありがとう」
「どう致しまして~」

 コロコロと笑うと紅茶をラークと勇斗の前に置き、間に地図を広げ四隅に重りを乗せて丸まらないようにする。そして自分も紅茶を持って椅子に座った。

「さて、『ギフト』についてだが……まあ、順を追って話していくか。コイツは後回しだ」

 紅茶を一口飲んでからラークは話す。

「わかった」

 勇斗としてもラークが話し易いようにしてもらった方がいい。

「来訪人に戻るが、来訪人ってのはな。何故来るのか原因はまだ分からないんだ。ゴメンな」

 百パーセントラークのせいではないにも関わらず、申し訳なさそうにするラーク。

「いいよ。ラークが謝ることでも無いだろ。ところで元の世界に帰る方法は有るのか?」

 来訪人という言葉を聞いてからずっと気になっていたことを聞く。

「……無い。いや、ゴメン。在るには在るんだ、いや、在った」
「在った?」

 意図的に使われた過去形に勇斗に嫌な予感が走る。

「ある一族、いや、ある能力者だけが次元を操る能力を持っていたんだ」
「ある能力者?」
「これを説明するにはこの世界の力を説明しないといけない。よーく聞けよ。この世界において一番大切なことだからな。ユウト、お前の居た世界に魔法ってあったか?」

 ――魔法。やはり来たか。

 勇斗は心臓が高鳴るのを感じていた。当然だ、魔法なんて勇斗にとってみれば夢のような存在なのだから。それが実在するとなれば興奮も仕方がないだろう。

「いや、無かった」
「そうか。この世界には魔法ってものが在るんだ。なあ、空を見たか?」
「ああ、あの星だろ?」

 空に浮かぶ八つの星。その中で黄土色のものだけが異様に輝いていたのを勇斗は思い出していた。

「あれらの星こそがこの世界の魔法の源だ。空には十一の星が浮かぶ。それぞれが全ての人間に魔力と加護を与えているのさ。火星、水星、木星、土星、地球、金星、海王星、天王星、冥王星、太陽、月。これらが魔法をもたらすんだ」

 淀みなくラークが説明する。

 ――おいおい、どれもこれも聞いたことあるな。

 その十一の星の名前が全て聞いたことのあることに勇斗は戸惑いを感じていた。

「その名前って……」
「聞いたことあるか? でも多分お前の知ってる物とは完全に別物だぞ? 色とか全然違うんじゃないか?」
「うーん、よく分からないが違うような気がする。でも何でそんな名前が?」

 いくらなんでも不自然だった。まるで関係ないものにそんな名前が付くことは有り得ない。一つならともかく十一個の星が全てとは、偶然では片付けられない。

「そりゃ来訪人が名前を付けたからな。初めて来た来訪人が名前を付けたらしいぜ。来訪人が沢山の発明や文化をこの世界にもたらしたんだ」
「へ~」

 このことから来訪人はかなり密接にこの世界に関わっていることが分かる。勇斗は排斥されることが無さそうなことに人知れず安堵した。

「さて、聞くぞ。お前はあの中でどれが異様に輝いていた? それとも何も輝いていなかったか?」

 ラークがこの言葉を発した瞬間、部屋の空気が止まったかのように勇斗は感じた。

 ――何だ? やっぱり大事なことなのか?

「黄土色のだけど」
「黄土色? 土星か! ……ふ~」
「は~緊張しちゃったよ~」

 ラークとコユキが一気に緊張を解き安堵の表情を作る。

「何だよ? 何だったんだ?」
「いや~来訪人っていうからさ、『この世界を救うために現れた何かに選ばれた勇者です。俺は世界を救う!』なんて可能性があるじゃん? そうだったら俺の責任重大だしさ。いや~土星で良かった! 金星とか天王星とかだったら俺緊張で死んでたぜ。おめでとう、これでお前も今日から凡人だ!」

 ラークはそう言い放つと無駄にいい顔でサムズアップする。

「私も~。ホント良かった~。ユウトさんはただの来訪人で」

 喜んでいいのか悲しんだ方がいいのか微妙な気分になった勇斗だったが、二人の緊張の様子から何やら真剣な空気を感じていたので、それから解放されて自身も緊張を解いていた。

「で、どういう意味?」

 勇斗としては自分が勇者になれるなどとは思ってないし、自分が特別などという考えは中学二年に捨てていたので完全に人事だった。

「ああ、あの星のどれが輝くかでそいつの魔法や加護が決まるんだ。因みに火星、水星、土星、木星、地球は別に珍しくは無い。なんせ人口の九十五パーセントは此処だ。それで残りの五パーセントが海王星と太陽と月と冥王星ってわけだ」
「だから土星で良かったってことだよ」

 ほとんどの人間、つまり凡人は火星、水星などで超天才達が太陽などということだろう。

「随分と偏った配分だな」

 率直な感想を勇斗が述べる。

「まあ、この星の能力者の割合に関してはこの世界の歴史が関わるからな。いつか自分で調べてくれ」

 一先ず割合については置いておくことにする。それにまだまだ勇斗の疑問は尽きない。

「おっとまだ星の説明は続くぜ? 星毎に性質があって当然それぞれが与える力もその性質に近くなる。例えば火星なら、その名の通り『火』の性質と『略奪』の特性を持っている。だから火星の能力者の魔法はその性質が使いやすく、その特性を持ちやすいってことだ。相手の持ち物を燃やす炎とかな」
「成る程。星毎に属性があり、魔法もそれに近くなるってことか」

 力をくれる星が違うということは、くれる力の種類も違うということだ。だとすれば魔法が変わるのも当然だろう。

「その通り、じゃ、全部の星を一応話しておくぜ。水星の性質は『水』、特性は『癒し』。木星の性質は『草木』、特性は『変化』。土星の性質『土』、特性は『守護』。地球の性質は『創造』、特性は『結束』。月の性質は『幻』、特性は『知覚』。海王星の性質は『大気』、特性は『自由』。冥王星の性質は『生死』、特性は『束縛』。太陽の性質は『加護』、特性は『浄化』だ。これぐらいは覚えておけよ。後は細かい区別もあるけどそれはおいおいな』
「俺は土星だから性質は『土』で特性は『守護』ね。だから盾なのか。というかさ……地球! 何で俺を選ばない! 地球の性質『創造』も特性『結束』も目茶苦茶カッコイイんだけど!」

 勇斗は話の途中で音を立てて立ち上がり、憤慨する。その姿にラークとコユキは苦笑する。

 勇斗は当然地球に住んでいたのだから全くの別物とはいえ、選ばれたかったというのが本音だったのだ。

「まあ、そう気にすんな。それと空を見た時気付いたか? 八つしか無かったろ?」
「ああ、それも聞こうと思ってた。まあ、それより聞きたいことも有るけど」

 先程からラークの説明は金星と天王星が抜けているのだ。それが何を意味するのか勇斗には分からなかったが、最後に聞けばいいと今は他の説明に集中していた。

「まあ、それは後でな。俺達は空の星から魔力や加護を得るわけだが、当然いつも空に星が有るわけじゃない。例えば太陽なら夜には魔力供給や加護が0になる。星によって時間帯で力が変わるんだ。火星、水星、土星、木星、地球、太陽は昼間。月、海王星、冥王星は夜に力を発揮する。もっともその時間以外にも魔法は使える。ただし、供給も減るし、加護も薄くなるから身体能力まで下がっちまうがな。つまり、体内に蓄積された魔力だけで魔法を使うんだ」
「は~成る程ね」

 空に自分を加護してくれる星が有る時こそ力を発揮できるということだ。勇斗は土星なので夜は魔力も加護も弱まるのだろう。

「そして次はさっきお前が使った盾のことだけどな」
「『ギフト』とか言ったっけ?」

 勇斗自身の命を救った物だ、忘れるはずが無かった。その上自分が今使える唯一の魔法だ、気にならないはずもない。

「魔法ってのは構成を考えたり、魔力を加工したりと普通簡単に使えるものじゃないんだよ。長い詠唱が必要なものも有るしさ。だが、『ギフト』は違う。生まれた時に自分を選んでくれた星が必ず一人に一つ与えてくれるのさ。だから、生まれながらに発動出来る。まあ、最初は練度は低いけどな。『ギフト』はそいつだけのものだ、絶対に同じ『ギフト』は同じ時代には存在しない。昔に同じ『ギフト』があったって話はよくあるけどな。だから、お前がこの世界に来た後土星がお前を選んで『ギフト』をくれたってことさ。良かったな! 戦闘で使えるもので!」
「まったくだ! 盾じゃなかったら今頃あの豚の餌になってたぜ」

 『ギフト』とは全員が持つその人固有の魔法。つまり、光り輝く盾は勇斗だけが持ち得る魔法ということだった。勇斗にしてみればこの『ギフト』はあの時において最高のものだったのだろう。

「あのさ、自分の『ギフト』については色々試してくしか無いのか?」

 自身の『ギフト』の能力を一々確認しなければいけないとなるとかなり時間がかかるのは避けられない。一早く詳細が知りたかった勇斗にしてみればそれは苦痛だ。

「いや、街の『静寂の星光』の教会に行けば自分の『ギフト』について調べてくれるぜ」
「宗教?」

 此処の世界観は中世といったところだろう。勇斗はその時代の宗教に対して良いイメージを持っていなかったので、自然表情もきつくなる。

「ああ、要約すると『私達のことは空から星々が見ています。だから誰も見ていないと思って悪いことをしても星がしっかり見てますよ』っていう宗教だな。テキトーにお星様ありがとうとでも言っておけば、にこやかに接してくれるさ」

 ハハハと笑いながらラークは勇斗を叩いて、暗に心配するなと言う。

「テキトーだな」
「テキトーだよ」
「ちょっと! お兄ちゃん? ちゃんと寄付してくれることも言っておいてよ。良いところも有るんだから」
「寄付?」

 お金が絡んだことでまた勇斗は緊張する。

「そう、教会は街から離れた村とかには時折寄付してくれるの」
「代わりにお星様ありがとうの刑だけどな」

 コユキの説明に対してラークが笑いながら口を挟む。

「あれはお兄ちゃんが『いつも感謝してます~お星様~』なんてふざけて言うからでしょ!」
「だって星に祈りをとか言うからさあ」
「ハハハ」

 その二人が笑い合う姿に勇斗は此処は平和なんだと思い安心していた。勇斗には高官や宗教はこういう時代では腐りきっているというイメージが強かったからだ。

「つーことでお前の『ギフト』はまた今度な。さて、次いくぜ! 星は空に浮かぶ間、加護と魔力をもたらすって言っただろ?」
「ああ、それが?」

 特にその部分では引っ掛かりが無かった勇斗は不思議そうに聞き返す。

「星っていうのは力をくれるけど、その力はその力を受ける人全てに分割されちまうんだよ」
「つまり、力を受ける人が少ないほど力も大きいってことか?」
「その通り! だから、火星、水星、土星、木星、地球よりも海王星、太陽、月、冥王星、の方が遥かに力が大きい」

 全体の九十五パーセントも擁する五星よりたった五パーセントの四星の方が遥かに大きい力を使えるのだろう。

「さっきから所々俺が飛ばしている星、分かるか?」
「ああ。天王星と金星だろ?」

 勇斗がずっと気になっていた星だ。ラークの説明では最初の名前の説明以降全く出ていなかった。

「この二つはな、朝、昼、夜、場所関係なく空にいつでも浮かび続けるんだ。だから、その与える力は他の九つの星を遥かに凌駕する」
「な!? 二十四時間ずっと? 単純に二倍か……」

 その力は正に他の星とは比べるべくも無いだろう。

「もっとも、九十五+五は百だ。つまり、この二つの星の能力者はもう存在しない」
「何でだ?」
「この世界の歴史だからなぁ。説明すると長いから別にいいだろ」

勇斗はラークの言葉が気になったものの、従わざる得ない。

「で、天王星だけがお前を元の世界に戻せるかもしれなかったんだが……」
「もう居ないってワケか」
「ああ」

ラークの結論に少なからず勇斗は気を落とした。帰る希望が無いと言われると急に恋しくなるものだ。

「後は、この地図を見ろ」

 ラークは机に広げられた地図を指差す。そこには六つの大陸が描かれていた。真ん中の北の大陸は一際大きく、真ん中の南の大陸はかなり小さかった。

「今いるのは此処。北西の大陸、ペンタルトスだ。そしてその中でも此処は南に位置するローラルの村だ」

 ラークが指差す場所には確かにローラルと書かれている。文字を見た時勇斗の中にまた一つ疑問が出来た。

「そういえば何で言葉が通じるんだ?」
「あん? そりゃ星の加護の一つだろ。安心しろよ。一度加護を受ければ脳がそれを記憶して加護が弱まったり解けたりしても分からなくなることは無いからよ」
「うわ~便利だな~」
「何か分からないことがあれば星のせいだとおもっとけ! 大体合ってるから」
「テキトーだな」
「テキトーだよ」

 勇斗にとって言葉を覚えずに文字の読み書き、会話が出来るというのはありがたいことだった。新たに勉強する時間が減るのだから。

「そうだ、お前行く場所なんて無いだろ?」
「そりゃ当然」

 此処で問題なのは住む場所も何も無いということ。一度大きな街で働き口を探すことになるだろうが、失敗すればあっという間に飢え死に。その姿の自分がやけにリアルに思い浮かべられ、勇斗は身震いした。

「まあ、今日は泊まって行け。明日街まで送ってやるから。この世界を知るためにも街に出ることは必要だ」
「何から何まですまないな、ありがとう、ラーク」

 此処に定住したいという思いが勇斗の脳裏をよぎるが、それにしても先ずは金が必要だ。街で何らかの職を探さなくてはいけない。

「じゃあ、ついてきてユウトさん。ちょっと汚れてるけど空き部屋があるから」
「ありがとう、コユキ」
「どう致しまして~」

 ラークの言葉を聞くとコユキが笑顔で勇斗を引っ張って部屋に案内する。

「ユウト~、部屋についたら考えでもまとめとけ~寝ても良いしよ」

 ラークの声を背中越しに聞きながら階段を上り、空き部屋を目指す。

「此処だよ」
「へ~綺麗なもんだ」

 部屋はベッドに机と本棚が並び、汚いと言っていたわりにはゴミも目立たず勇斗としては全く問題無かった。

 ――流石にどんなに汚かったとしても文句は言えないけどな。

「そういえばさ、コユキは何星?」
「私? 私は水星だよ。お兄ちゃんも同じ」
「へ~。水と癒しだっけ?」

 さっきの説明中必死で記憶した中から、水星の性質と特性の情報を勇斗は何とか引っ張り出す。

「うん、よく覚えてたね。でも、それは大まかなだけで他にも色々あるから気をつけてね。じゃあ、ゆっくりしてて」

 コユキは手を振りながら階段を降りて行った。

 勇斗はそれを見届けるとドアを閉めてベッドに横たわり、今まであったことと情報を頭の中でまとめてみる。

「あ! モンスターについて聞くの忘れた……まあ、いいか」

 初めに襲われて学生服の上をプレゼントすることになったパワーゴブリンを思い浮かべて、少しの後悔に苛まれるが後で聞けばいいと結論をつけると少し頭と体を休めるべく目を閉じた。

それと同時に緊張と頭を使って疲れていたのか簡単に眠りについた。






[20767] 魔法解釈
Name: 零れい◆0d1c4ac7 ID:6dbf4857
Date: 2010/08/11 16:26

 黄土色の星の輝きと、たき火だけを光源とした真っ暗な岩場に勇斗は倒れていた。

「あれ? 此処は? 昨日はベッドで寝た筈なんだけど」

 またも見覚えも無い場所で目を覚ましたことに勇斗は戸惑いを覚える。

「起きたか」

 いきなり掛けられた声の方を向くと、たき火の隣に二メートルを超える大男が座っていた。

「あんたは? 此処は何処だ?」

 ひどく混乱した様子で勇斗は質問を投げかける。

「此処は夢の中だ。我は土星の意思、コロヌス」
「土星の意思? そんなのが何の用だ?」
「選んだ奴が成長したら、一度はこうして話す決まりだからな」

 コロヌスは詰まらなそうに手に持った薪をたき火に焼べる。

「へ~そんな話は聞いてないけど、あんたが俺を選んだのか?」

 相手に悪意が見えないことから勇斗もある程度緊張を解く。

「ああ。月がお前を気に入ったようだったが、我がぶん取った」
「は? 何で?」

 コロヌスは今だ詰まらなそうにたき火を見つめている。

「気まぐれだ」
「……。あのさ、星の意思ってのはみんな男なのか?」

 呆れながらも勇斗の気まぐれにした質問に対してコロヌスはゆっくりとした動作で首を横に振る。

「我等は元々強大な力を持っていた生物だ。故に人間でない者の方が多い。我もまた人間ではない」
「じゃあ、今人間の姿なのは魔法か?」
「一種のな。因みに月は吸血鬼だ」

 ニヤリと意地悪く笑う。

「まさか……女か?」
「女だな」
「……お前殺してぇ」

 勇斗は親の仇でも見るかのように睨む。

「ククク、気にするな」

 コロヌスはその男特有の理不尽な殺気を笑って受け流す。このことに実は勇斗は内心ホッとしていた。

 ――あっぶね! コイツお偉いさんだよな。つい言っちまったけど「不敬だ! 死ね!」とか言われなくて良かった~。タメ口オッケーみたいだし、助かった……。

「くそ、月ならこんなむさい空間に居なくてよかったのに」

 開き直って勇斗は心底悔しそうに嘆息する。

 そして、暫く二人とも黙って弱まっていくたき火の揺れる炎を眺めていた。このまま終わるかな? と勇斗が考えていると、

「まあ、気をつけることだ」

 コロヌスが沈黙を破った。

「どういうことだ?」
「これから時代は大きく動く」
「は? 何で?」
「それだけの要因が揃ったのだ」
「俺もその要因の一つなのか?」

 勇斗は恐る恐るといった様子でコロヌスに問う。

「さあな」

 コロヌスは短く言い捨てる

「なんだよ、それ」

 勇斗が不満げに口を尖らせるとたき火が急速に弱くなっていく。

「さて、時間だ」
「何かくれたりとかしないのか?」
「魔力に加護、『ギフト』まで貰っていながらまだ欲しいのか?」
「強欲なものでね」
「ふむ、なら言葉を贈ろうか」

 コロヌスはゆっくりと立ち上がり、たき火に息を吹き掛ける。すると、大した強さでもないのに火が弱まっていく。それに合わせて勇斗の瞼が下がり、身体が眠気に揺れる。

「我が力は『守護』。だが、その力を剣とするか鎧とするか、それとも盾とするかは貴様次第。気付くがいい、貴様はこの世界に来たことで培ってきた強さを失い、弱くなってしまったということを。忘れるな、魔法も加護も『ギフト』もお前に強さを与えるものでは無いということを」

 コロヌスが言い終えると勇斗は眠気に負けたのか、小さく音をたてて倒れる。それと同時にこの世界の光源は夜空に輝く星ただ一つになった。

「精々足掻け。時代の荒波に力無き個人の想いはゴミ屑のように飲まれるだろう。その中で強くなれ! その果ては荒波を切り裂く刃か、臆せず進む鎧か、その場に留まり遮る盾か、貴様はどんな強さを掴むのだろうな。もっとも……闘いから逃れることは出来ないがな」

 聞き手無き助言は暗闇に空しく響く。

「全てが要因だ。これからの動乱のな。無関係なものなど何一つ……ありはしない」

 最後の言葉は誰に向けられた言葉だったのか、知るものは居ない。


◆◆◆


「起きろ! ユウト」

 腹に凄まじい衝撃を受けた勇斗は一気に目を覚ます。ラークはそんな勇斗を見下ろしながら、ニヤニヤ笑っていた。

「あ~、そうか。此処俺の家じゃねぇんだ」

 覚醒に少し遅れて記憶が戻り、勇斗は自分の状況を思い出す。

「よし、なら早く下に来い。飯だ」

 ラークの言葉に従い勇斗はノソノソと下りていく。ふと自分の姿、シワだらけのワイシャツに学生服のズボンを見下ろして違和感を覚える。

 ――な~んか見落としていることがある気が……何だろ?

 一階には既にパンと野菜スープと紅茶が並んでおり、コユキがスプーンを並べていた。それを見て勇斗は思考を止める。

「おはよう、コユキ」
「おはようございます、ユウトさん。さ、ご飯だから座ってください」

 コユキと挨拶を交わし、促されるままに椅子に座る。

「おい! 何でコユキにだけ挨拶して俺にしない?」
「だってお前男じゃん」

 ラークの抗議に勇斗は自分の中での真理を答える。

「くそ、納得出来る自分が恨めしい!」
「はいはい、じゃあ食べよう。せーのっ」
「星々に感謝を」
「星々に感謝を」
「いただきます」

 コユキの合図に合わせてそれぞれ挨拶をする。

「ん? それなのか? 食前の挨拶は」

 勇斗はとりあえず文化の違いについて確かめるべくラークに質問を投げかける。

「そうだな。いただきますってのはお前のところのか。まあ、別に変える必要も無いぞ? 教会ですら気にしないからな。必要なのは形式じゃなくて心だ」
「まあ、そうだな」

 ラークは俺良いこと言ったとでも言うように誇らしげな顔でご飯を消費していく。

「そうそう、衛生面に関するものとか食事とかは殆ど来訪人がもたらしたんだぜ?
「へ~、道理で……」
「最初は向こうには無い菌とかで大変だったらしいけどな。五十年ぐらい前と比べると最早別世界だってよ」

 ――グッジョブ! 他の来訪人。

 食事や衛生面などの革命は現代日本に慣れきった勇斗にはかなり嬉しいものだった。この世界はそれに魔法や加護も合わさりかなりの健康率をほこっていた。もっとも、怪我に関しては比べるべくも無いだろうが。

食事を終えるとラークが二つのリュックを持って立ち上がる。

「さて、ユウト。街に行くぞ」
「おう、悪いな」

 勇斗はラークに従って立ち上がるとリュックを一つ受け取る。

「何だ? これ」
「街まで多少掛かるからな。そのための持ち物だ」
「どれくらい掛かるんだ?」
「だいたい一日くらいかな」

一日歩くということに勇斗は顔をしかめる。

「ユウトさん、何時でも歓迎するよ~元気でね~」

コユキの笑顔で簡単に見送られ二人で街を出る。

 朝、静かな街を抜け、前抜けた門とは逆側の門を開ける。

 そして開いた先はまた森。木々が生い茂り、多くの恵みをもたらすが、その分モンスターも多いのだろう。

「なあ、ラーク。今朝さ、土星の意思とかいうやつと会う夢を見たんだけど、知ってるか?」

 二人で森を歩いている間、ふと気になったことを勇斗は聞いてみた。

「もう見たのか! 来訪人はその日に見るんかな……。まあ、選んでくれた星の意思が夢で一度だけ会いに来るらしいぜ」

ラークは僅かに驚いた様子を見せるが直ぐに気を取り直して説明する。

「ラーク、お前は水星だろ? どんなのだった? 土星が大男だったけど」
「水星は肌まで青い女だったな」
「何だと!? おかしくね? 意外に女多いじゃんかよ。もしかして土星ってハズレ中のハズレじゃね? 意味分からないんですけど~。俺ってそんな冴えないかな? 冴えないよな。女友達は目茶苦茶居るのに恋人はいないもんな~。いや、デートとかしたことはあるよ? でもさ、向こうが『最近好きな人ができたんだよ。コクって平気かな? 〇〇君何だけど成功の目あると思う?』とか聞いてくるんだぜ? 有り得なくね。どいつもこいつも『勇斗とは良い友達になれそう!』とか言いやがって! どーせ俺は友達止まりですよ! チクショー! みんな俺を恋愛対象には見ないし、男女合わせて何回恋愛相談されたと思ってんだよ! 二十人は軽いぞ! それに登校拒否になりそうだった女の子を立ち直らせるために一週間奔走した時なんて、最後にバスケ部のイケメンが出て来て美味しいとこ掻っ攫っていったさ。そいつ結局その子と付き合うしさ、みんなそいつを『スゲエ』って讃えるし。俺にはその娘からありがとうの一言もねぇよ! でもあん時めっちゃ満足してたな、俺。……これは別にいいや、満足したし。他には……四人の不良に女の子が絡まれてるのを友達と二人で助けに入った時もさ、あの野郎は女の子を逃がして俺は四対一だよ! 別によかったけどね! 女の子は無事だったし? あいつは目茶苦茶感謝されてその娘と付き合ったみたいだけどさ……。俺はその……不良達と仲良くなっちゃったもんね! 悔しくなんてねぇし……グス。というか、別に見返りなんて俺は求めてねぇし! 周りが貰い過ぎなんだよ! バカヤロー! つーか許せねぇのはあのデカブツだよ! なんで月からぶん取ってんだよ! ふざけんな~」
「ど、どうしたんだ?」

 ラークの返事に余程ショックを受けたのか、ブツブツ呟き始める勇斗。その姿にラークは多少なりともひいていた。

「で、何て言われたんだ?」

 ラークは勇斗のあまりの様子に話題変換を計った。

「ん? なんか『時代は動く』とか『力』がどうこう言ってたぜ」

 ラークの言葉に現実に戻された勇斗はコロヌスが告げた言葉を思い出してみる。

「時代が動く? どうこうことだ?」
「さあねぇ。はっきりしなかったからな」

 勇斗の言葉を聞き、何やらラークは考え込んでいる。

「どうしたんだよ?」
「星の意思の言うことはだいたい当たると思っとけ」

 ラークの言葉に勇斗も目を見開く。

「だから、殆ど碌なこと言わないらしいけどな。コユキは明日晴れるよとか言われたらしいし」

 この発言に勇斗も考え込む。

「ま、俺達ごときに分かることじゃねぇよ」
「ま、そうだな」

 スケールの大きな話は偉い人にやって貰えばいいのだ。二人はそう考え、無理矢理思考を切る。

「ラークは何か言われたのか?」

 勇斗は気になったことを言ってみる。

「あ? いや、まあ、普通だよ」
「ん?」

 勇斗の質問にラークがいいよどむと同時に、前方から物音がする。

「な、何だ?」

 勇斗が声を上げた直後、二人の前方に昨日勇斗を襲ったパワーオークが現れる。勇斗は明確な傷を負わせたわけでは無いので同じ個体かの判別は不可能だが。

「パワーオーク!?」
「ヤバ!」
「ブヒィ!」

 二人に向けてパワーオークは突撃を開始する。

「ちっ、ユウト、下がってろ!」

 ラークもパワーオークに向かって駆け出す。そして、ラークの言葉に反して勇斗も前に出る。

「おい!?」

 勇斗が前に出たことにラークは慌てて声をあげる。

「行くぜ! ラーク、二人なら倒せんだろ!」

 ラークは言葉とは裏腹に強張った勇斗の表情を見て小さく笑う。

「お前は……馬鹿が。俺一人で余裕だよ! お前は見てろ。これが魔法だ!」

 ラークは一気に加速すると、叫ぶ。

「ヘルメス」

 その声と同時にラークの右腕が発光する。

「貫け、ランサー!」
「ブヒャァ」

 二言目と同時にラークの前から人の胴体並の太さを持つ氷の槍が伸び、パワーオークを貫く。

 たった二言。

 それだけでパワーオークはその命を絶たれた。

「な!? スゲエ、これが魔法か」

 一撃でパワーオークを倒した魔法に勇斗は感心する。

「今のはヘルメスランサーって名前の魔法なのか?」
「そうとも言えるし、違うとも言えるな。説明は歩きながらな」

 二人でオークの死体を置いて歩いていく。オークの死体に戸惑いは無いとは言えないが、それほど大きくもない。

「生き物の死には慣れてるのか? 意外に平然としてるな」
「ん? 人間か世話した生き物でも無い限りな。と言うかあれ相手じゃあな」

 ――獰猛な動物相手だと安堵しか無いっての。しかもあれだけ敵意があって、醜かったら尚更だよ。

 ほうと息を吐くと勇斗は全身の緊張を解く。ラークも緊張を解くためか両手をブラブラと振った後、歩きながら口を開く。

「魔法ってのはな三種類あるが、その内の二つは十一の星全てで使える。一つはコモンマジック。これは星も関係無いし、習得も他の二つと比べれば簡単だ。どの星でも同じ効果が出る。それとビークルマジック。これはさっきのヘルメスランサーが当てはまるな。この二つはどの星でも使うことが出来る」
「じゃあ、今のヘルメスランサーは俺も使えるのか?」

 歩きながら勇斗はラークから魔法の講義を受ける。こんな簡単な話でも勇斗は胸を高鳴らせていた。

「使えると言えば使えるが、同じじゃない。ビークルマジックは十一の星それぞれに始動キーがあるんだ。魔法の前にその始動キーを付けることでその星の魔力をその魔法に込めることが出来る。水星の始動キーはヘルメス、だから、さっきはランサーって魔法を水星の魔力で使ったから氷の槍になったんだ」
「なるほど……じゃあ土星の始動キーは?」

 ラークの説明に勇斗は今までで一番目を輝かせる。これに自分が魔法が使えるか否かが懸かっているのだ。

「確か……サトゥルヌスだったかな。だが」
「サトゥルヌスランサー」

 ラークから始動キーを聞くやいなや、勇斗は手を横に掲げて高らかに叫んだ。

「あれ?」

 しかし、そこには何の変化もなく空しく声が響くだけだった。

「人の話を聞け!」
「あた!?」

 ラークにどつかれたことと魔法の失敗に勇斗の興奮は冷めていく。

「魔法ってのはな。習得がかなり難しいんだ。だから、かなりの修業が必要なわけだ。特にビークルマジックにはな。つまり今のお前が使えてたまるか!」
「ハハハ……ゴメン」

 ラークは自らの修業の日々を思い出してか、やや強めに怒鳴る。簡単に使えないことに勇斗はため息をつく。

 ――現実は非情であるってワケか……。

「そうそう、説明の途中だったな。最後の魔法はスターダスト。これはビークルマジックよりもさらに難しい。これが唯一の星固有の魔法でな。威力も効果も桁違いだ。ま、使い手なんてほとんど居ないけどな」

 そこまで話したところでラークはフーと息を吐く。

「ま、スターダストは置いておいて。ビークルマジックとコモンマジックだな。魔法ってのはさ、解りやすくいうと自分に魔力っていう新しい腕や脚が生えて、それを規定通りに動かすようなモノだ。つまり、魔法を発動するには新しい脚の薬指を動かすとかそういうもんだ。それを直ぐに使えるようにするとなると意外に辛いんだよ。まず、感覚が掴めないしな。だからけっこー『ギフト』しか使えない奴は多いだぜ」
「へ~じゃ、此処は引き下がっておくぜ!」

 かなりの努力が必要なことを知ると『ギフト』以外の魔法を勇斗は後回しにすることにした。『ギフト』だけでも始めは平気だろうし、魔法より生きる方が先決だからだ。

「無駄に偉そうだな……ま、時間がある時にやっとけよ」

 お互いに周囲を警戒しながら歩いていく。そして魔法の説明も終わり、沈黙が訪れると勇斗が口を開く。

「馬車とかさ、乗り物って無いのか?」
「金払え」
「ゴメン」

 簡潔に言い放たれた一撃に勇斗は黙る。そして、また二人は黙々と歩くのだった。




一日の野宿を終え、何のトラブルも無く昼まで歩くことで遂に二人はバレンシナに着く。

 バレンシナは勇斗が居る大陸、ペンタルトス一番の街であり、ペンタルトスがモンスターがあまり活発でなく、気候も安定していることからこの世界でも五指に入るほどの大都市だ。

 大きな塀と門が備わり、門からは真っ直ぐな大きな道が延びている。そしてその脇には民家ではなく沢山の店が並び、商人と思われる人があちこちで呼び声を上げている。更に道には流石に東京の街とは比べるべくも無いが、多くの人間が歩いていた。

「おお! 活気が有るな!」

 勇斗は街に興奮した様子でラークに話し掛ける。

「まあな、ペンタルトス一番の街だからな。よし、先ずは教会へ行くぞ」
「あ? ああ」

 ラークに引きずられるようにして勇斗は教会に向かう。教会は門に近い所に配置されており、幸いあまり時間も掛からずに到着した。

 教会は勇斗が知る教会に近く、周りと比べて大きな建物であり、白を基調としたもので庭も広く作られていた。

「これが教会だ」

 ラークに先導するまま大きな扉を潜る。

 中は赤い絨毯が奥に続いており、両側には沢山の椅子が配置されている。

 だが、勇斗が目を奪われたのはそんな前の世界と大きな違いの無い内装ではなく、奥に立って勇斗とラークを見る女性だった。

 ピンク色の長髪。身長は百六十前後といったところだろうか。歳は二十歳前後だろう。顔立ちも整い、もの静かな雰囲気を持つ女性だった。間違いなく美人であり、あまりにも広い勇斗のストライクゾーンに余裕で入る人物だった。

 ――ピンクだ……。

 だが、勇斗が目を釘付けにされたのは美人であることではなく、そのピンクの長髪。ラークとコユキは茶色だったし、ローラルの村人も多少そういう人が居たとはいえ、まじまじと前の世界では有り得ない髪の毛を見ることになるのはこれが初めてだった。

「あれ? 司祭様は?」

 その女性を見てラークも一瞬戸惑ったようだが、暫くして持ち直すと疑問の声を上げる。

「レイゼル様なら三日前に此処からヘクサンドラートのアルカフォードに移ることになりました」

 よく通る声で女性が答える。

「ヘクサンドラート? アルカフォード?」

 地名と思われる単語に勇斗はラークに向けて単語を復唱して暗に説明を求める。

「あ~、前見せた地図にあった中央の大きい大陸だ。アルカフォードはそこで二番目に大きな街だ」
「な~る~」

 つまり、そのレイゼルと呼ばれる人は栄転したということだ。

「申し遅れました。私はエスフィナ=クローヴィナと申します。レイゼル様の異動に伴いこちらに着任しました。以後よろしくお願いします」

 こちらにゆっくりと歩いてきたエスフィナはこれまたゆっくりとお辞儀する。

「こちらこそ。俺はローラルの『ガード』を勤めるラーク=フェルグラントといいます」
「俺は常盤 勇斗です。えーと……来訪人で、昨日来たばかりです。こちらこそよろしくお願いします、クローヴィナさん」

 二人ともそれぞれ挨拶する。

「はい。時にトキワさん? 『ガード』の説明はいります?」

 笑顔で問う。来訪人ということで『ガード』という専門用語をに確認してくれているのだろう。

「いえ、わかりませんけど、多分名前から察するに街とか村を守る職業ということですか?」

 その気配りに感動しつつ、勇斗は推測を答える。

「はい、大体そのように考えて貰えばいいかと」
「わりぃ、説明忘れてた」

 エスフィナの発言と同時に勇斗の横でラークが手を合わせる。

「今日はどのような御用件で? 交流を深めに来たというわけでもないでしょう?」
「コイツ、来訪人なんで『ギフト』を調べて貰いたいんですけど……」

 そして本題に。

「『ギフト』ですか畏まりました。では奥について来て下さい」
「あ、はい!」

 エスフィナに従い奥へと向かう。自然と心臓も高鳴る。ラークはその後ろに続き、暇そうに辺りを見渡していた。

 奥には三つの魔法陣があり、赤、青、緑の光を発している。

「赤の魔法陣が解析。つまり『ギフト』を調べたり、物の解析を行うものです。何か力が宿っている物や不思議な物を見つけたら持ってきて下されば解析することが可能です」

 親切に説明してくれるエスフィナに勇斗は頭が下がるばかりだった。

「え~と、それは教会の独占技術なんですか?」
「いえ、どの魔法陣も所有している所は沢山あります。ただ、一般に解放しているのが教会だけという状態です。何分高価ですし、維持も大変ですので」
「で、青の魔法陣は離れた相手と通信出来る。ま、流石にこれには教会も金を取るし、予約も必要だけどな。下準備も要るし。緑は治癒。こっちは予約は要らないが使われている可能性があるからな。大怪我なら病院行け」

 ラークが補足する。さりげなく教会で言いづらいところを引き受けた辺りに人間性が滲み出ている。

「はい、その通りです」
「クローヴィナさんありがとうございます。ラークもサンキュー」

 二人の親切に勇斗は礼を言う。

「では、赤の魔法陣にのって下さい」
「はい!」

 赤の魔法陣に勇斗が乗ると光が一段と強くなる。

「動かないで下さいね」

 エスフィナは一枚の紙を勇斗の頭の上に乗せる。

 ――頭に乗せんの!?

 戸惑いつつも終わるのを静かに待つ。

「はい、もういいですよ」
「あ、そうですか」

 直ぐに強くなった光はあっという間に弱まると、エスフィナは勇斗の頭から紙を手に取る。すると、その紙と難しい顔でにらめっこし始めてしまった。

「む~」
「どれどれ」

 その様子に首だけ横から出してラークも覗き見る。

 ――めっちゃ気になる!

 自分のことなのに自分だけ仲間外れの状態。気にならないはずが無い。

「あの~どうしたんですか?」

 勇斗は恐る恐るといった様子で問い掛ける。

「あ!? はい! 大丈夫ですよ!」

 長い髪の毛を伴って跳ね上がるエスフィナに何が大丈夫なのだろうか、推測も難しいが勇斗はとりあえず納得することにした。

 ――なんだ? というかなんか可愛いな。

「トキワさんの『ギフト』ですが、『シンクロシールド』というものです」
「『シンクロシールド』?」

 それが光の盾を作り出す『ギフト』の正式名称なのだろう。

「よかったですね! とても強力な『ギフト』ですよ! ……大成すれば」
「ユウト良かったな! 枠はしかも十個もあるぜ! コイツは最強の能力の一つだな! ……理論上は」
「あれぇ? なんで二人とも語尾が弱いんだ?」

 勇斗の言葉に二人とも視線をそらす。

「じゃあ、ラーク。枠って?」
「……お前の『シンクロシールド』みたいなシンクロ能力は他人の能力を得ることが出来るんだ。その枠が十ってことだな。……だから理論上最強」

 また語尾が弱くなるラーク。

「なんだ? 何かあんのかよ?」

 これだけ聞けばかなり二人の前半の言葉通り強力な能力だろう。

「ですが……その……え~と」

 エスフィナがいいよどむ。

「俺が言いますよ。その相手の能力の手に入れ方なんだけどな……条件が二つある」
「条件? なんか嫌な予感しかしないな……」

 エスフィナのいいよどむ姿とラークの様子に落とし穴を感じ取る。

「一つ、相手は親しい者でなければならない。どれぐらいかっていうと親友とか恋人とか家族ぐらい」
「その時点で十人は辛いな……」

 家族が居ない勇斗には辛い条件だ。もっとも十個の枠全てを使う必要は無いだろう。

「もう一つは相手が自分より大きく弱くないということだ」
「なんか曖昧だな」
「ま、相手の戦闘能力が自分より強いか同じぐらいなら大丈夫と考えとけ。つまり、弱い相手に強要は無駄ってことだな」

 この二つを同時に満たすとなるとかなり対象は少なそうだ。

「そして、その手に入れ方なんだけどな……。あれだ、うん」

 かなり言いづらそうにラークは言葉を選ぶ。

「何なんだよ?」
「二つあってな。一つは条件に見合う相手が渡したいって願うことだ」
「案外普通じゃんか」

 勇斗の予想と大差無い渡し方だ。ビンチの状況で仲間から力を受け取り共に戦う姿が頭に思い浮かぶ。当然相手の顔は描かれていない。

 ――まさに友情……。いや、愛情も有り得る!

「ただし、相手は魔力と『ギフト』を失うけどな」
「マジで!?」

 共に戦うヴィジョンが崩れ去る。無くなること承知で自分の力を渡すなど普通はしないだろう。

「もう一つはな……」

 ラークが真剣な顔つきになる。

「二つの条件を満たす人物を……殺すことだ」
「へ~」
「あれ?」
「へ?」

 予想外の勇斗の反応にエスフィナとラークは間抜けな声を上げる。

「じゃあ、相手が魔法失うの覚悟で渡してくれるしか同調する方法は無いってことか」

 ――望み薄だな……。だから、理論上なのか。

 同調するのがほぼ絶望的だと分かると勇斗は肩を落とす。これでほぼただ光る盾として使っていくしか無くなった。

「せっかく溜めたのに……もっと衝撃受けると思ったぜ」
「いや、こんなもん保険金みたいなもんだろ? 金のために人殺すのと変わんねぇじゃん」
「保険金……来訪人用語ですか」

 現代日本倫理に染まりきった勇斗には力のために人を殺すという選択は選べないものだった。まして今は平時である。

「しかし、トキワさん。この『ギフト』には色々と苦労させられると思いますよ? なにせ貴方がこの『ギフト』を持っていると知ったら誰も親友とか恋人にはなりたがりませんから」

 悲しそうな表情でエスフィナが勇斗に言う。

「あ……そういうこともありますね。でも黙っとけば平気かな? でもなんか違うよな~。親友とか恋人ってその上でも信頼してくれるような関係だよな」

 自らの理想というか、前の世界に残してきた友人達の顔を思い浮かべる。その中には親友の顔もある。

 ――親友と言えば、拓二と魅捺、どうしてっかな~。

「ほ~」

 勇斗の言葉に感心したようにエスフィナが小さく声を上げる。

「ま、俺はお前の『ギフト』なんか気にしないけどな」

 ホームシックにかかっていた勇斗はラークの言葉に現実に戻される。

「ラーク……お前……」

 さらにラークの言葉に感動を覚え、

「だからお前とはずっと友達でいようと思う。友達止まりな」

 見事に裏切られた。

「上げて……落とすなよ」
「トキワさん、私はそんなこと気にしませんよ」

 沈む勇斗にエスフィナがまるで天使のように慈愛を込めた表情で救いを与える。

「ああ……クローヴィナさん……貴方は天使だ……」

 感極まり手を伸ばす。

「だから、友達以上親友未満でいましょうね」

 ニコッと微笑まれて勇斗の救いは消え去った。ドサッと音を立てて勇斗は崩れ落ちる。

「な……仲、良いですね」
「気にするなよ、ユウト。《友達として》手を貸すからさ」
「トキワさん、元気を出してください。私で良ければ《友達として》力になりますよ?」
「な、仲良いな! イジメはカッコ悪いぞ!」

 両腕を振り上げて抗議する。

「さて……遊びはこれくらいにして。職探しだな」

 ラークが途端に冷めた表情で話題を変える。

「はい! 出来れば『ギフト』を有効活用出来るような仕事がいいです!」

 それに対し勇斗も切り替え挙手しながら提案する。

「トキワさんのは戦闘用ですからね。でも来訪人は研究職や起業する人が多いですが……」
「無理だな」
「ですね」
「悔しいがそれは否定出来ない」

 文系大学生の勇斗に研究職は辛いものがある。起業については勇斗のスペックが低いがアイデア次第だろう。

「うん、無理」

 アイデア次第だったが、サッサと勇斗は諦めた。イメージはあるが具体的にどうすればいいか分からないのだ。結果しか頭に浮かばない。難しいことを考えるのは苦手なのだ。

「他に何か無いのか?」
「じゃ、魔王を倒すための勇者なんてどうだ?」

 やけにいい笑顔でラークがサムズアップする。十中八九魔王なんて居ないのだろう。

「一応聞いてやる。魔王なんているのか?」
「居ない! と言いたいが言い切れるもんでもないな」
「え!? マジで!?」

 予想外の答えに勇斗はうろたえる。

「魔王とは何か、という定義にも因りますがね。今はいくらでも魔王となる可能性を持つものが居るということです」

 悲しいことです、とエスフィナが続ける。

「具体的にはヘクサンドラートの王とかドットレックの自称神の子とか五剣帝とかな。トライラットにはそれこそ無数に居そうだし。どいつもこいつも一歩間違えれば魔王って言っていいんじゃねぇか?」
「ゴメン……何一つ分からない」
「いきなり全てを知る必要はありません。この世界の文化や人と触れ合う中でそういったことも徐々にしれば良いのです」

 エスフィナが呆気にとられる勇斗の肩を優しく叩く。

 ――確かに。現状でも俺の頭パンク気味だし。ま、ゆっくり知ってけばいいか。

「で、脱線したけど何の仕事がオススメ?」

 気を取り直して就職を考える。全く分からない場所を足で探すより、聞いた方が遥かに効率がいいだろう。勇斗は直ぐに人に頼る困ったちゃんだった。

「やはり『マーセナリー』か『ユーティリティー』ですかね」
「世界を知るのにも丁度良いしな」
「その二つは?」

 言葉から勇斗には推測すら出来なかった。

「二つとも同系列の仕事ですがね。『ユーティリティー』はお金を払えば大抵のことはやってくれる仕事で『マーセナリー』は戦闘が仕事ですね」
「へ~」
「どうだ? 俺もこの二択だと思うぜ? ある程度自由だから旅とかも出来るし、この世界を経験するのにはもってこいだろ。今のお前はガキにも劣る経験値だからな」

 ――戦闘に何でも屋か……。

「二つともやるって出来ないのか?」
「バッカ! まずは『ユーティリティー』にしろ。パワーゴブリン相手でもキツイだろ? お前」

 「先ずは」と言うことは後で『マーセナリー』になることも可能なのだろう。確かに最初は手伝いみたいなもので経験を積んだ方がいい。

「じゃ、『ユーティリティー』で。よし、早速登録? 試験か? をしてこよう!」
「だな、行くか。因みに来訪人なら試験は無いぞ」
「へ~。来訪人に優しい世界だな~」

 と二人は出口に向けて歩き出す。

「クローヴィナさん! ありがとうございました! じゃ、また」
「では、またいずれ。エスフィナさん」
「はい。あ! コレを渡しておきます」

 二人が別れを告げるとエスフィナは思い出したように勇斗にカードを差し出す。ピンク色のカードで中央には五本の線によって星が、隅にはエスフィナと書かれている。金属で出来ているのかかなり固く、光沢もある。

「これは『アストラルカード』と呼ばれるもので、魔法を簡易的に発動させる物です。使用回数は五回。使い切ったら私の所に来て貰えれば魔力を込めてあげますよ。その名前が刻まれた人だけしか魔力を込めることが出来ませんから」
「げ! そんな高価な物を……」

 ニコニコとエスフィナが差し出したカードを見てラークが驚く。

「そ、そんな高価なのか?」
「ああ、俺の家と交換出来るぐらいな……」
「……マジ?」
「まじ」

 カチコチに固まった勇斗はぎこちなくエスフィナの顔を窺う。

「『ユーティリティー』とはいえ、戦闘は有り得ますからね。貴方の『ギフト』は攻撃力が低いですし。武器はあった方が良いでしょう?」
「相手には人も居るんですよね……」

 武器という言葉に相手が人である場合も思い浮かび、一瞬戸惑いを浮かべる。

「ユウト……」

 悩む勇斗の肩をラークが叩く。

「この世界に生きる以上、そういう闘いは避けられないぜ? 村で畑耕しててもモンスターが……人だって襲って来る」

 諭すように続ける。『ガード』として村を護ってきたラークが言うのだ。実際にあったことなのだろう。

「だからな。これだけは覚えておけ! 刃を振らないということと刃を振れないということは違う。この世界にはな、無力な者を無条件に護ってくれる存在なんて居ないんだぜ?」
「難しいなあ……」

 勇斗は天井を見上げる。シャンデリアのバラバラの光がそれぞれ周りに負けないように輝いていた。

「『ユーティリティー』と『マーセナリー』はこの世界で最も自由な戦力です。無力な者を無条件に護る……そんな存在があるとしたらもしかするとこの二つから生まれるのかもしれませんね」
「てっきり、宗教的なこと言うと思いましたよ」

 勇斗がエスフィナの言葉に顔を上げてエスフィナの目を見る。

「確かに星は全ての人を等しく護ります。ですが、それは加害者をも護るということ。私達にはまだまだ星の意思が解りません」
「ふ~。ありがとうございます! 大切に使わせて貰います」

 カードを受けとって深々とエスフィナにお辞儀する。くれると言う物に受け取らないという選択は勇斗の中に最初から無かったが、今回は武器という言葉に手が自然と止まってしまっただけだ。遠慮なんてしない。今勇斗は文無しなのだ。その瞬間、カードの右上隅にユウトと刻まれる。

「いえ……武器ですから大切に使う必要は無いですけどね……。乱暴でいいですよ。あと、今使用者が刻まれましたから、トキワさん以外使えませんよ。そのカードに込められた魔法は四つ。一つは雷の矢。二つ目は雷の刃。三つ目は何かに触れることでそれに帯電させる魔法。四つ目は周囲に雷を放電させます。四つ目だけは二回分の消費になりますから気をつけて下さい。使用は強くイメージすることです」
「は~なんか凄い便利そうですね……。いや、ホントありがとうございます!」
「雷……?」

 そのかなりの能力に勇斗は感心してしまう。まるで『ギフト』のような力だ。少なくとも勇斗の『ギフト』より汎用性が高そうだった。ラークもその能力に驚いている。

「では、また今度。頑張って下さいね」

 笑顔でエスフィナが手を振る。それに二人は答えながら教会の扉をくぐる。

「いや~、新しい友達も出来ちゃったな~。これは幸先いいな~」

 勇斗はポケットにアストラルカードをしまいながら嬉しそうに言う。

「……」
「どした?」

 勇斗はラークが反応を示さないことに気づく。

「何でもねぇよ! 二つの職業を束ねる場所、『ユニオン』へ行くぞ!」
「おう!」

 こういう時、ごまかした相手に追求しない。勇斗の人との付き合い方の一つだった。悩みは相手が話すまで待つものだ。話してくれないということはまだ自分は頼られる存在では無いということなのだから。

 それぞれの思いを秘め二人はまた大通りの方に歩いていった。


◆◆◆

 エスフィナは二人が出ていった扉を見つめていた。

 新しい仕事場では周りの人とある程度仲良くしようとは思っていたが、あそこまで馴れ合えるとは思っていなかった。

「言っちゃった……大丈夫……ですよね?」

 《「だから、友達以上親友未満でいましょうね」》とか《「トキワさん、元気を出してください。私で良ければ『友達として』力になりますよ?」》なんて戸惑い無く言えた自分にエスフィナは驚いていた。

 何か特別なふるまいを相手がしていたわけでも無いのに、自然に振る舞えたのだ。親しみ易い雰囲気とでもいうのだろうか。理由はなんであれそれは堪らなくエスフィナには嬉しかった。

「あれ自然でしたよね? 別に変じゃ無かったですよね?」

 教会で一人さっきまでのことを考えてソワソワする。

 ――これで友達……なんですかね? いや、まだ知り合い……でしょうか?

 悩みながら奥から一冊の本を取り出す。その本のカバーは水星の加護と魔法と書かれていたが、中身は別物だった。中身は「友達を誰でも百人は無理でも十人は作る方法」という物。エスフィナはその十という現実的な数字を信じて真剣な顔で読み耽っていた。

「ひ、百倍しても届きませんね……。責めて十分の一ぐらいいけないかなぁ……うぅ」

 一人きりの教会でまだ年若い女性は本当の意味での独り身に涙を流していた。



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