宮崎県を揺るがした家畜伝染病、
県はすべての家畜の移動制限を外し、非常事態宣言も解除した。県内で飼育していた牛や豚の約2割に相当する29万頭を殺処分するという多大な犠牲を払い、ひとまず危機を脱した。 初動のまずさや制度の不備などが次々と露呈した3か月間でもあった。国と自治体は、こうした教訓を生かし、畜産の実態に即した防疫体制を構築すべきである。 感染拡大の要因は、まず初期対応が不十分だったことだ。県は口蹄疫の症状を見逃し、最初の事例を発表した時点で、すでに10農場以上に感染が広がっていた。その後も検査や消毒を徹底しなかったことが最後までたたった。 口蹄疫が発生した際、即座に人員や資材を大量に投入できるような体制の整備が急務である。 60年前に制定された家畜伝染病予防法が、大規模な畜産経営が主流となった現状にそぐわないという問題も浮き彫りになった。 例えば、家畜の殺処分と埋却を農家に義務付けているが、大規模な養豚農家が埋却地を確保できず、殺処分が遅れた。ウイルス放出量が牛の1000倍に達する豚の埋却に手間取ることは、口蹄疫対策では致命的である。 こうした問題に対処するには、飼育する頭数などに応じ、自治体が埋却の候補地を事前に決めておくことが必要ではないか。 国の権限を強化することも重要だろう。口蹄疫は県境を越えて発生する可能性が高く、国全体で危機管理すべき対象だからだ。 だが、現行法では殺処分の命令など重要な権限は都道府県にある。自治体は地元の利益を優先しがちで、国益を考えた防疫体制が機能しなくなる危険性がある。 今回、種牛の殺処分を求めた国に対し、県が特例的な延命を主張して混乱を招いた。こうした事態を繰り返してはならない。 感染が終息しても、被害農家の経営再建はこれからだ。殺処分で家畜がいなくなった農家は数年間、大幅な収入減を余儀なくされる。心身ともに打撃を受け、畜産から撤退する農家もある。精神面での支援も必要だろう。 菅首相は27日の口蹄疫対策本部会合で「農家が再び安心して畜産を営める支援が重要だ」と強調した。殺処分を柱とする防疫制度を講じていくうえでも、農家が協力しやすくなるような家畜の補償や経営支援の充実が求められる。 (エディタ(Editor):admin) |