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2010年8月11日(水)付

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併合100年談話―新しい日韓協働の礎に

他国によって国を奪われ、母国語を自由に話せなくなり、戦地や工場に動員される――。そんな屈辱的で悲痛な体験を朝鮮の人たちに強いた日本による「韓国併合」から今月で100年である。[記事全文]

臓器提供―可能な限りの透明性を

脳死状態になった人の意思がわからない場合であっても、家族が承諾すれば臓器を提供できる。そんな改正臓器移植法が先月半ばに全面施行されてから初めて、家族の同意によって臓器提供が行われた。[記事全文]

併合100年談話―新しい日韓協働の礎に

 他国によって国を奪われ、母国語を自由に話せなくなり、戦地や工場に動員される――。そんな屈辱的で悲痛な体験を朝鮮の人たちに強いた日本による「韓国併合」から今月で100年である。

 菅直人首相はきのう発表した談話で「痛切な反省と心からのお詫(わ)びの気持ち」を表明した。

 首相談話として初めて、植民地支配について「政治的・軍事的背景の下、当時の韓国の人々の意に反して行われた」と位置づけた。「民族の誇りを深く傷付けられた」とも述べ、韓国民の心情に思いを寄せた。

 共感できる認識だ。私たちも重く受け止めたい。

 植民地支配を正面から取り上げて「深く陳謝したい」と語った1993年の細川護熙首相発言に始まり、戦後50年の村山富市首相、同じく60年の小泉純一郎首相の両談話と続いた流れに沿った内容ではある。それでも、併合100年という節目に焦点を当て、国家指導者が歴史認識を語り、将来に向けた期待と方針をあらためて示したことには大きな意味がある。和解と信頼獲得にもつながってほしい。

 だが、自民党など野党だけでなく与党民主党内にも、談話発表に反対や慎重論があった。「決着済みの補償問題を蒸し返す」などという批判だ。保守系の議員グループは「国民や歴史に対する重大な背信だ」とする声明まで出していた。浅く、また見当違いの見方ではないか。

 これまで、首相談話を出しても、自民党や閣僚の中から、それを否定するような発言が出て、日本の真意はどちらかと、外から不信のまなざしを向けられることが繰り返された。もう、そんなことに終止符を打つべきだ。

 談話にある通り、勇気と謙虚さを持って歴史に向き合い、過ちを率直に省みることが必要だ。深い思慮に基づく冷静な言動を心がけてこそ、未来志向の関係を構築できる。

 そのためには、談話だけでなく、誠実な行動を積み重ねることが大切になる。その点で今回、日本政府が保管する朝鮮王朝の文書を韓国に渡すようにしたのは良いことだ。

 アジアにおいて日本と韓国は、最も手を取り合うべき間柄にある。中国の台頭、温暖化やエネルギーといった地球規模の課題を前に、その連携をさらに強めていかねばならない。

 談話に北朝鮮問題についての言及はなかったが、不安定な北朝鮮情勢に対応し打開していくためにも、日韓の協調がさらに求められる。

 両国は歴史や領土問題をめぐって、わだかまりをまだ抱えている。そんな問題をうまく管理し、和解と協働の新たな100年へ、この首相談話を礎石にしたい。

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臓器提供―可能な限りの透明性を

 脳死状態になった人の意思がわからない場合であっても、家族が承諾すれば臓器を提供できる。そんな改正臓器移植法が先月半ばに全面施行されてから初めて、家族の同意によって臓器提供が行われた。

 提供したのは、交通事故で脳死状態になった20代の男性で、心臓、肺、肝臓などが摘出され、それぞれ待機していた患者に移植された。

 旧法では、提供するという本人の意思が書面で残されていることが必要だった。改正法では、本人が拒絶していない限り、家族の判断に託される。

 日本臓器移植ネットワークによれば、この男性は家族で一緒に臓器移植に関するテレビ番組を見ていたときに、提供したいと話していたという。家族は、そうした本人の意思を考えて、提供を決めたようだ。

 移植を待つ患者にはありがたいことでも、本人の意思を示す書面がない状態での決断は、家族にとってとくに重いものだったと思われる。

 そんな家族の気持ちを大切に受けとめ、しっかり支援していくことが求められる。同時に、今回の貴重な経験も生かして、よりよい移植医療の実現をめざしたい。

 今回は臓器移植に関して会話が交わされていたことから、本人の意思を判断しやすかっただろうが、そうでない例も今後は出てくるに違いない。

 今後の参考にするためにも、厚生労働省は、しっかり検証し情報をできるだけ開示する必要がある。

 改正法の下では、脳死状態になったら、家族に対し、臓器提供という選択肢があることが、医師から示されることになっている。どの時点でどんなふうに家族に告げられたのか。

 そして、家族が決断するまでの経過はどうだったか。

 信頼される移植医療のシステムを築くには、密室に閉じこめることなく、透明性を保つことが欠かせない。そっとしておいてほしいという家族の気持ちやプライバシーに配慮しつつ、可能な限り、具体的に何が起きたのか、明らかにしてほしい。

 一方、今回の例を契機に、家族に託された責任の重さを改めて感じた人も多かったのではないか。臓器を提供するかどうか。本人の意思に沿う道は何か。悲しみにくれる中で、推し量ってでも決断しなければならない場合もありうるからだ。

 本人の意思がはっきりしていれば、家族の精神的負担はより少なくなる。そのためには、日頃からよく話し合い、できるだけ書面で残しておくのがよいかもしれない。

 お盆休みでさまざまに家族が集うこの時期である。家族の範囲には祖父母も含まれる。万一の時にどうするか、話し合ってみてはどうだろう。

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