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[19019] 屍人が目覚める世界で(転生オリ主)学園黙示録   原作編4話更新
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/08/11 17:39
ど~も初めまして、カニ侍でありんす。

学園黙示録のSSがあまりに少なかったので書いてみました。

最強モノには出来るだけしませんがゾンビ相手には時と場合により無双します、冴子さん並です、ちょっと人格が壊れています。
あと、原作にある矛盾もしてる部分を無くします。
矛盾を無くすことにより。原作よりゾンビが少し弱くなります。

それでも読むんだって方はどうぞ



[19019] 過去編 プロローグ
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/07/14 21:46
『はよ船に乗り込みぃ!!こんまま死んだら魂ごと消えてまうで!!
クルーは出港準備!!はよせぇ!!結界ブチ抜かれたら沈むぞ!!』

島に響くのは爆撃音と逃げまどう人々の悲鳴
そしてスピーカー越しの男の怒鳴り声がそれに負けじと響く
それを運良く聞きつけることが出来た人々は逃げるのを止め群がるように港に浮かぶ数隻の軍艦へと駆けだしてくる。

「クソッ!!何で今日に限ってこないに死者が多いねん!!現世で何があったゆーんや!!」

マイクを乱暴に切り大声で現状に対する不満をブチ撒けながら部下の報告待つ。
ふと窓から外をみればその眼下には争いあって船に乗り込む人々の姿が目に映った

「まるで地獄であった蜘蛛の糸の事変やなここはまだ入り口にすぎん三途の川やゆ~んに・・・。
イスラムやかキリストやか知らんが好き勝手やってくれよるのぉ・・・。」
怒りで殺気が肉付きの良い体からこぼれでる。
それは艦橋の温度が少し下がった気さえする程だった。

「艦長!!出港準備整いました!!」
窓から目を放し声がした方を見ると鬼火がゆらゆらと揺らめいている。

「ご苦労さん、すぐに出港する。結界破れる前に離脱すんで、対岸にもこの騒ぎは伝わっとるから、もうちょいしたら援軍がくるはずや。」

「まだ乗り込んでいない者達はいかがするのですか?艦長!!」

「捨て置く、結界強度が7割切った、このままここに停泊しとったら撃沈すんのが関の山や、なら三途の川の渡し守としての任務を果たすのが最上や。あと艦長言うな渡し守さん言え。」

「了解いたしました。ハッチを閉じます。出港準備完了、ご命令を渡し守殿。」

「出港!!全速でここを離れる!!」

巨大な船がゆっくりと動きだす。その周りにいた人々が口々に助けを求めるが無情にもその願いは叶わず船は止まらずに港を離れていった。

「明日の目覚めはわりぃな・・・こりゃ。で、本部からの通信はあったか?」

「強力なジャミングがこの島の付近一帯に掛けられております。しばらく通信は不能かと・・・。む?内部に侵入者です。数は・・・30、姿からして恐らくキリスト過激派の工作員かと・・・。」

「ちぃ!!確実に沈めに掛かってきとるな、まぁ、この船、迷宮みたいになっとるから迷ってくれるやろ。ナビゲートと操作宜しく船魂さん。舐めた真似晒してくれたやつらに鬼の怖ろしさ、味わって貰おうやないの。」

腰に掛かっている日本刀をポンポンと叩き船橋を後にする。

『敵勢力、5グループに分かれて散開・・・。!!?馬鹿な!?渡し守殿急いでください!!奴らこの船の重要地点に真っ直ぐ向かって来ています!!』
頭に直接響くように先ほどの鬼火の声が聞えてくる。

「場所は!?」

『動力部、船橋、船倉、防護結界発生装置、火薬庫。の五つの地点です。』

「こっちに来とる奴ら瞬殺してすぐに向かう!」
敵を殲滅すべく神速をもって駆け出す。

『対ショック態勢!!ミサイル着弾まで後3、2、1、今!!』

外でミサイル数発が防護結界に着弾して爆発する。その余波を受けて船体がグラリと揺れ動く。

「この程度の揺れなんぞ屁でもないわ!!奴らの場所は!?」

『現在停止中、目標、突き当たりのドアの向こうです。』

「一、二、三で開けろよ!!」
そう言って男はドアから少し離れたところで止まり鞘からいつでも日本刀を抜けるように構える。

『敵勢力行動を再開。』
足に力を入れいつでも駆け出せるように準備する。

「一、二、三!!」
合図と共にドアが豪快に開かれその向こうにいる一見ただの一般人に見える集団へと一足で間合いを詰める。

「撃・・・て?」
各自着ているスーツやコートの下から銃火器を出して構えるがそこにはすでにターゲットは居なかった。

「遅すぎやな~、あくびが出るわ、ほな急いでるんでさいなら。」

「「「「「!?」」」」」
後ろから聞えてきたその場に似合わない間延びした声に驚愕して身体を反転させて銃を構えようとするが・・・、動いたのは上半身だけで下半身はピクリとも思った通りに動くことはなく、膝を折って下半身だけが倒れていった。

「そこで死んどき。」
男は日本刀を血振るいして鞘に収め、その場を後にし次の場所へと向かう。

「此方・・・A班、作戦・・・失敗、これより・・・自爆する。」

「了解、神のご加護が有らん事を。」

閃光が通路を染めた。

爆音が鳴り響き船が悲鳴を上げるように軋む。

『グァッ!!』

「何があった!?」

『先ほど切った者達が突如として爆発・・・・船橋へ向かう一本道で火災が発生しております・・・ッグァ』

「止め刺しときゃよかった、クソ!!すまん、ワイの手落ちや。」

『謝る暇があるのでしたら・・・、私を壊す輩を殺してください・・・、私の渡し守さん・・・。』

「ッ!!りょ~かい!!」

口端を吊り上げ獰猛な笑いを浮かべて獲物の元へと駆ける。
狩りが始まった。

「コイツで最後か・・・、よぉ、手間掛けさせてくれたやないの、ん?」

そう言って倒れ伏している工作員のわき腹を蹴り上げて起こし頭を掴んで持ち上げる。

「ぐぅぁぁぁぁあぁ!!」

万力のごとく締め上げられる頭に奔る激痛に悲鳴を上げる工作員。

「ほれ?なんでワイの船沈めに来たんか吐けや、結局殺した奴は全員爆発しよったからの、ウチんとこの姫さんが怒り心頭になっとんねんよ。ちなみに生かさず殺さず苦しめるんはウチんとこが一番って知ってるやんな、このまま地獄に連れてかれんのと、ここでゲロッて楽になるか・・・どっちか選べや。」

「くっ、化け物めぐぁぁあああああぁぁあ!!」

「ほれほれ、その気になりゃぁお前の頭なんぞ卵割るより簡単に割れるんやから、無駄口叩かんとさっさと吐く吐く。」

足をじたばたさせて腹を蹴るが男はそれに全く堪えた様子もなくヘラヘラと笑いながら徐々に手に力を込めていく。

「ぐぅ・・・」

痛みに抗いきれずについに工作員は抵抗を止めて大人しくなる。

「お?なんや?よ~やくゲロるつもりになったんか?」

「まさか、・・・タイムリミットだ。クタバレ化け物。」

その言葉の直後に工作員の身体が爆発しその爆発に男も巻き込まれる。

「結構・・・やる・・やん、利き腕一本持ってかれたわ。」
爆発地点にど真ん中にいた男は流石に無傷とはいかず、右腕が肘から先が失われていた。

『ご無事・・・ではない様ですね。』

「あぁ、この程度じゃワイは死なんよ、安心し。」

『・・・どうやら奴らは本気であなたの首が欲しいようですよ?最強の鬼の酒呑童子さん』

「その名前は棄てたんや、呼ばんといて、ワイはただの三途の川の渡し守さんや。で?なんでそないなことがわかんのや?」

『私も年貢の納め時みたいですね、外に奴らの爆撃機、戦闘機が多数・・・すでにロックされてます。』

「一難去ってまた一難、しかも今度は回避不能ってか?こんな三途の川のど真ん中でやってられんわ。」

男は諦めたようにどっかりと壁を背にしてズルズルと通路へ座り込む。
爆撃が始まったのか外では爆音が鳴り止むことが無く、船が爆発で乱れた波により大きく揺れる。

「なぁ、姫さん、お前とはホンマ短いようで長い付き合いやったわ。楽しかったで。」

『あなたとは私が目覚めてからの付き合いですが、悪くなかったですよ。』

爆発音に混じって外で何かが罅割れるような音が聞えた気がした。

「なぁ、知っとる?船に運ばれてる途中で三途の川に落ちたら生まれ変われるっていう話、まぁ記憶無くなってさらに感情のどっかが壊れるらしいけど。まぁワイが生まれ変わったらそいつ苦労するやろなぁ、かなり好戦的な性格なんで、ワイも昔それで失敗したからなぁ。っと生まれ変わるんやったらコイツも持ってかんと。」
ベルトと半分焦げた制服で自分の手に自分の愛刀を縛り付ける死んでも放さないようにと。

『そうですね、暴れるだけ暴れて退治されたらしいですねあなた、でも本当だったらいいですねその話、そしたら現世で人に生まれ変わってあなたと・・・』

外で何かが砕け散った音がハッキリと聞え、爆撃の音が止んだ。

「ハハッ!!そりゃいいな、じゃぁ、もし生まれ変われることがあるんやったら。」

『生まれ変われたのならば・・・』

            (親愛なる私の相方)
「『また会いましょう、Dear  My  Pertner』」

直後、爆炎に呑まれどちらの意識も途絶えた。





どうも作者です

はて?学園黙示録を書くつもりだったんですが・・・、

新しい転生のしかたを考えたらあの世がハイカラになってた何を言ってるのか俺にもわからねぇ、(ry

まぁ、次話からは立派に学園黙示録の世界に突入するさぁ~

本編よりかなり昔からのスタートだけどね♪

まぁ、こんな作風ですが気に入ったら読んでやって下さい。



[19019] 1話目
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/07/23 22:07
「秀冶、早く起きないと学校に遅刻しますよ。」


「あ”~い、今起きるさ~。」


口ではそう言いつつさらに布団に潜りこんでスヤスヤと寝息を立て始める愚弟にため息をついてベッドへと近づいていく。


「昨日もそう言って寝てたでしょうに、毎朝あなたを起こしに来る私の苦労もわかりなさい。」


そう言って一気に布団を捲り上げようとするが・・・


「や”め”~い、意地でも放さんぞ~。」


中からガッシリと布団を掴んで放さない愚弟に阻止された。


「早く起きなさい!!遅刻しますよ!!私も仕事があるんですから!!」


「ZZZ」


こちらの言葉を一向に無視して眠り続ける愚弟対して軽く殺意が沸き思わずベットから蹴り落としてしまった。


「ぐぶぅ!!いっつ~が、顔面が・・・朝から何すんのじゃモヤシ兄!!」
どうやら盛大に床とお目覚めのキスを交わしてしまった愚弟が布団を蹴り飛ばして起き上がり文句を言う。


「モヤシと言うな愚弟!!あなたもこの家の一員ならそれなりの品位と誇りを持っててですね・・・。」


「ハッ!!この家に対してカケラも誇り持って無いくせによぉ言うわ、ま、ワイも持ってないがな、あんなクソ親父に対して敬意もクソもあらへんわ、
そ~やろコー兄。」


「ふぅ・・・、まぁそれには同意しますよ・・・、秀治、早く学校に行って来なさい、でないと本当に遅刻しますよ、朝ごはんはリビングに置いてますからね。あともみ消すのが大変なのでくれぐれも厄介ごとは起こさないように。それでは行ってきます。」


そう言ってスーツ姿のコー兄こと浩一は少し疲れたようなため息を吐きながら部屋を出て行った。

「お~う、いってら~、ワイも早いとこ準備せなな、ど~せ学校でやることなんざないがな・・・。フッ!!」


顔面を床にぶつけたとはいえ未だに重いまぶたを擦りつつ大きく伸びをする

「くぁ~ねむ!!あ~あなんや面ろいことはないやろかね~。そういや本戦が近かったけか?早いとこ開催せ~へんかな~剣道大会本戦・・・、予選にゃ雑魚しかおらんかったからのぉ~。」


独り言をブツブツと呟きながらクローゼットから適当に服を取り出して着ていく。


「そ~いや今何時や・・・ろ?」


机の上に置いてあった携帯を開いて時刻を確認してピシリと石のように全身が固まって動かなくなった。


「え?うそぉ、7時・・・半?ヤッベ!!マジ遅刻する!!はよ飯食って行かな!!」


携帯をGパンのポケットに滑り込ませて昨日の夜準備しておいた学校の用意を手に取りドアの前に立てかけてあったMy竹刀を入れた袋を背負ってリビングにダッシュで入り用意されていた朝食を掻き込むように腹に入れる。


「ヤバイってマジで!!ワイの中1から築いてきた無遅刻無欠勤の伝説が崩れてまう!!くっそ~!!あのモヤシめ~!!もし遅れたらアイツのせいや!!」
自分が悪いと思いつつも八つ当たりせずにはいられない。


この中学生活の目標の一つには3年連続皆勤賞を貰うというささやかな夢があるのだ、昨日の夜モンハンやってて寝坊したなどどいうくだらない理由でふいにすることなど許されることではない。


玄関を出て鍵を閉めたことを確認して自分の愛車(自転車)にまたがり母校である床主私立中学校へと全速力で突っ走る。


「うおぉぉぉぉぉお!!ワイは限界を超えるんやぁぁあ!!天・限・突・破ぁぁあああぁ!!」


後に自分の姿を見たら身悶えしそうなことを口走りつつ道路を突っ走る。
ご近所の奥さん方がそれを微笑ましそうな顔で見送っていたのことを秀治は知らない。




床主私立中学 駐輪場


「ぜ~・・・ぜ~・・・ゴホッ!!ゲホッ!!ン”ッン”-!!カーッペ!!よ・・・よし、後5分、駐輪場から教室まで3分やから、イケル!!イケルで!!」


全力で漕ぐこと25分、途中で2~3個信号を無視したが学校に遅れなければ問題はナッシングだ。
学校入り口へと飛び込み自分の靴箱でさっさと靴を履き替えて3階にある教室へと駆け上がる。
もはや心臓はありえない速度でビートを刻んでいる、朝礼が始まる頃には真っ白に燃え尽きた彼の姿が拝めるだろうことは想像に難くない。


「ふぉぉおおぉぉぉお!!ネェヴァーグィブワァーーーップ!!」


もはや息も絶え絶えになって教室の戸を空けようと手を伸ばす・・・が届く直前に中から開き中から出てきた人が秀治に気付き驚いて身を竦ませる。


「うぉぉお!!ビックリしたぁ~。よぉ紫藤、今日は遅かったな。」
出てきた人はそう言って肩を軽く叩いてトイレの方へ向かっていった。


「フ・・・、ワイに不可能なことなどあらへんのや・・・。」


ふらりふらりとしながらようやく自分の席にたどり着き死んだように突っ伏す。
まるでタイミングを見計らっていたかのごとく授業開始の鐘が鳴り担任教師が入ってきて点呼をとり始める。


そうしていつもとなんら変わらない平凡な日常が過ぎていく・・・と帰りまでそう思っていた。




学校も部活動も終わりすっかりと日が暮れて暗くなった夜道を愛車でノロノロと走る。その運転者の顔はこの世の不条理を嘆くがごとくくたびれている。


「あ~・・・やっぱりあかんわ~、部活の奴ら弱すぎやって・・・、相手にもならんわ、これやったら一年の頃にやった他校の不良グループ潰しのほうが遥かに有意義やったかもな~、
あれで腕怪我して去年の大会出られへんかったけど・・・、あっちの方が燃えたわ~、竹刀やったから遠慮なく打ち込めたしな~。」


当時のことを思い出して口端がグッと吊り上る、
一見すると弱そうに見える秀治は
不良に絡まれることが多々あったそれを全て手加減無しで返り討ちにするのが一年前の日課である。


ある日油断してナイフを投げられて腕に怪我を負ったのはご愛嬌だ。
無論投げた相手は全治数ヶ月の重傷を負わされていた。父と兄がその事件のもみ消しに走っていたのもご愛嬌だ。


それのせいか今はもう秀治の本性は近辺の学校の不良にことごとく広まっているので絡んでくる奴がいなくなった。残念なことである。


そんな栄光の日々に思いを馳せているとふと視界の端になにやらもめている二人が映った。


「ん~?、おお!!無理やりに路地に連れ込まれとる女子とゴミ(男)発見!!いや~今日はついとるわ~。」


先ほどの腑抜けた顔とは打って変わりもはや歌い出しそうなほどの上機嫌な顔をして自転車を女の連れ込まれた路地の脇へと止めて、竹刀袋からMy竹刀を取り出す。


そしていざ不良狩りへ!!
と活きこんで路地に入ろうとすると。


「ぐがぁ!!」


と悲鳴と共にぐしゃァと嫌な音が路地に響き渡った。


「何ごとや!?」


驚いて路地に飛びいるとそこには肩を抑えて蹲る男と、さらに木刀を振り下ろそうとしている女がいた。


「ちぃ!!」


女を止めるべく一足飛びで間合いを詰めて男に止めを刺すべく振り下ろされた木刀を竹刀で受ける。


(お・・・重ッ!!)


叩きつけられた木刀の予想外の重さで竹刀が軋む。
それを何とか捌ききって斜め下へと受け流す。


「!?」


いきなりの乱入者に木刀を持った女は驚いて後ろへと跳び間合いをとる。


「流石に殺しはあかんで嬢ちゃん、今のご時世、半殺しじゃなけりゃ色々とうるさいからのぉ。」


竹刀を下ろして友好的に相手に話しかける・・・が


「その男の仲間か?フ・・・、ちょうどいいお前も切り伏せてやろう。」
そう言って愉悦に満ちた顔で木刀をかまえる女


「う~わ・・・、人の話、全く聞いとらんし、まぁ、この状況じゃ勘違いしてもしゃ~ないわな、まぁええやろ、初めて強そう、いや強いと思った相手が目の前におんねやし、一戦やれへんかったら損っちゅうもんやな」


頬が吊り上るのが止まらない、きっと自分も目の前の女と同じほど愉悦に満ちた顔をしていることだろう。
此方も竹刀を構えなおして相手の出方を伺う。


少し思惑のすれ違いそれでいて噛みあっている決闘が夜の人気のない夜道で始まろうとしていた。



ども~作者です、いや~書いてる途中でプレビューと間違えて投稿したときは焦ったwwそれはそうと雑談掲示板で学園黙示録の情報を募集中です、どしどし意見を送ってきてください。



[19019] 2話目
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/05/25 21:13
暗い夜道で向かい合う男と女、そう言えば誰もがラブロマンスを思い浮かべるだろう。しかし今現在それはあてはならない。

なぜなら、かたや手に竹刀、かたや手に木刀を構え双方とも相手の隙を窺っているからだ。

お互いが間合いをジリジリと詰めてゆく。少しの動作も見逃すまいと目は双方共に相手をひたと見据え猛禽の如く鋭くなっている。

その場の空気が重く、限界まで伸ばされた糸の如くピンと張り詰め、まるで肌が痛いかのような錯覚さえおこる。

全身からジワリと汗が滲み出る、額から流れる汗が煩わしい・・・、しかしそれを拭おうと隙を見せた瞬間、先ほどから肩を押さえ呻いている男と同じ末路を辿るだろう。

考えなくともそれが解る、自分が今、死合っている相手がそれを躊躇なく実行するであろう事も理解していた。

しかしそれだからこそ、どうしても口端が吊り上ってしまうのが抑えられない。

今まで自分と肩を並べられるほど強い奴がいなかった。どんな相手が突っかかってこようとも楽にそれを叩き潰すことができた。

しかし今自分の目の前にいるこいつはそんな次元の存在ではない。

自分に近い、それか互角程度の腕前を持った剣士だ。油断などできない、できる訳が無い。

しかし自分以上の腕前と考えないのは慢心ではなくこれまでの経験と実力に裏打ちされた自信である。

同年代の人間には負けたことが無かった。目の前に立ちふさがるのならば目上の屈強な人間さえ叩き潰してきたのだ。

相手は服装と身長から見るに中学2年~高校1年それも女である。

自分の身体能力は周りの人間と比べずば抜けて高い、

身体のスペックで勝ち、経験で勝っている

技量は相手に負けているかもしれないが自分の技量が低いという話では無い、むしろ我流故自分の太刀筋は読みずらいであろう、

相手を上回る点がこれほどあるのだ一体どこに負ける要素があろうか?

未だ負けを知らぬ秀治がそう考えるのも無理の無い話であった。

しかしそれは慢心ではない、純然たる事実である。

「フッ!!」

その睨み合いに痺れを切らし先に攻勢に出たのは木刀を構えた女であった。

一気に間合いを詰め苛烈なほどの功撃を目の前の男にくわえ始める。

唐竹の一撃を受けられ竹刀と木刀が打ち合わされ乾いた音が夜道に鳴り響く、力を込めて押し切ろうとするが相手がスッと力を抜いて女の体勢を崩すそしてそこを修治が女の後頭部を狙い竹刀を横になぎ払うような一撃を見舞うが女は自分からさらに体勢を崩し地面に伏せることでそれを回避し、そこから相手に足払いをかけ修治の体勢を崩す。

「うおぁ!!」

足払いが見事に決まり修治が地面に倒れこむ、そこに止めと言わんが如く木刀が振り下ろされるがそれを身体を捻り腕のみで体重を支えて足で相手の腹を蹴る事によりなんとか斬撃の軌道を逸らす。

「グゥ!!」

腹を抑えて堪らず女は間合いをとる。その間に修治も体勢を立て直し竹刀を構えなおす。一瞬の攻防であったにも関わらず、どちらも共にすでに息が切れかけている。

「危なッ!!今のはやられるかと思たわ。」
身体中に冷や汗をかき、切れた息を整え荒々しく波打っている心臓の鼓動を治めつつ此方の一挙一動を見張る女に対して軽口を吐く。

「今のは確実に殺ったと思ったんだがな・・・、動きが奇妙すぎて読めん、軽業師か何かか貴様は。」
意外なことに女もその軽口に乗ってくる、しかし相手には隙の一分すら見せない。

「ハッ!!軽業師か、言ってくれるな、こりゃ我流剣術や、にしても強いなお前、俺とここまでやれる奴は初めてやで。名前は?」
乗ってきた事に対して驚きつつも相手の隙を誘き出すためにさらに話を続ける。

「か弱い少女に対して力ずくで言うことを聞かせようとすような輩に対して名前を名乗ると思うか?」
ニヤリと笑いを浮かべながら女はそう言い返してきた。

「ハッ!!それもそうやな、ならワイが勝ったら名乗るってことでどうや?」

「?、待て、私の身体が目的じゃ無いのか?」
男の提案が予想外だったのか女は訝しそうに眉根にシワを寄せそう問いかけてくる
それと同時に木刀が少し下がる

「いや~、後ろで蹲っとるオッサンとは見ず知らずの赤の他人やわ~、ただワイは嬢ちゃんが明らかやり過ぎやったから止めに入っただけやで~。」
下がった木刀に一瞬目をやりそれを相手に悟られる前に視線を戻しニカッっと笑い女の質問に答える。

「そ、そうだったのか・・・すまないっ、勘違いで襲い掛かってしまった。」
秀治の言葉に嘘が無いことを感じたのかさらに木刀の切っ先下げる女。先ほどまであった愉悦に満ちた顔は消えてなくなり、少し焦った顔をしている。

「いやいや、まだこっちも怪我も何もしてないし、気にしてないで~。」
相手の警戒心を完全に剥ぎ取り完全なる隙を作るためにあたかも自分は無害と主張するように砕けた口調で話しかけながら竹刀で自分の肩をトントンと叩く。

「そ、そうか、それはよかった。」
その様子を見てもはや完全にこちらに対しての疑心は解けたのか女は木刀をダラリと下げる。
それを見て薄く笑い、言う。

「でも・・・な。」
だんだん口端が吊り上っていく、それは止まらないし止めようとも思わない

「でも?・・・とは一体?」
女は不思議そうに小首をかしげ続きを促そうとするがその言葉は途中で遮られた

「勝負はまだ終わっとらんのじゃぁ!!」

顔に獰猛な笑いを張り付かせたまま一足、まさに刹那の速さで間合いを詰めて竹刀を振りかざす、女は完全に気を抜いていたのか呆気にとられた顔で一瞬で目と鼻の先に来た秀治の顔を見ている、が事態を把握した瞬間ギュっと目を瞑って来るべき衝撃に備える・・・が。

「え?・・・きゃ!!」
来るはずの衝撃が来ないことを不思議に思い恐る恐る目を開けると、ほぼ自分の頭に当たる直前で止められた竹刀をみて驚きの声を上げる。

「ワイの勝ちや。残念やったな嬢ちゃん。」
悪戯が成功した時の悪ガキのような笑みを浮かべて竹刀を引き話しかける。

「な!?、い、今のは卑怯だ!!いや、そうじゃない、もう私たちには戦う理由がないだろう!!。」
女はこちらの言葉が理解できたのか慌てて言い返してくる。

「甘い!!甘いで嬢ちゃん!!その考え方はシュークリームよりも甘い!!もしワイが後ろのオッサンとツルんどったらそのまま陵辱ルート直行やで!!こういうのは自分が勝って、決着つけてから聞かなあかん!!それにこれは試合やないんや、ルールも何もあらへんのや!!止め刺したもんが勝ちなんや!!」
先ほどから会話していて思った事を一気に叩きつける。相手もそれに一理あると思っているのか悔しげな顔をして俯いている。

「あ、ところで名前教えてくれへん?」

「む?何故だ?」

「いや、ワイ勝ったし・・・、それにいつまでも嬢ちゃんじゃ話しにくいからな~。」
タハハと竹刀を持っていないほうの手で頭をかく。

「クッ、本当に変わった方だな貴方は・・・。」
先ほどまで夜道に漂っていた殺伐とした空気は綺麗に消えうせ、代わりに一組の男女が笑いあうほのぼのとした空気が流れていた。

「で、名前は?」

「あぁ、すまない、私の名前は毒島冴子という、冴子と呼んでくれ。」

「うんうん毒島冴子はんね・・・、毒島?もっかしてあの有名な?」

「どの毒島かは知らないが、剣術家としての毒島ならそうだな。」

「ほぉ~、道理で強い訳や、娘さんやったんか。」
一人で納得したようにウンウンと頷く。

「貴方の名前は何と言うんだ?私も名乗ったんだ、まさか貴方は名乗らないということはあるまい。」

「おぉ!!忘れとったわ、ワイの名前は秀治、紫藤秀治や。」
そう言って修治は顎に手を当ててポーズをとり胸を張って自分の名前を名乗った。




ど~も作者です。戦闘パートは書くのが厳しいぜぃ。さぁ、出た出た原作キャラ、以後どんどん絡ませていきましょう。バトルジャンキーの主人公書くのはむずいもんですたい。

改訂
嬢ちゃんと主人公の名前の訂正 秀治が全部修治になってたorz


おまけ


「で、このオッサンど~するん?」

「ん?あぁ警察でも呼んでおけばいいだろう。」

「そやな~、ほんならオッサンごしゅーしょーさまー。」



[19019] 3話目
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/05/25 23:20


「いや~、マジで助かった!!口添えしてくれてホンマに助かった!!恩にきるわ~ありがと~。」

自転車を引きつつ助かった、助かったと隣に歩く先ほどめでたく友人となった毒島冴子さん(なんと同い年であった)、通称、冴子はん(毒島はんと呼んだら冴子と呼んでくれと言われてこれに落ち着いた)にお礼を言う、なぜお礼を言っているのか?

それには天保山より低く、プールより浅い理由があった。それは・・・

(いや~、まさかワイらより早くに警察呼んだ人が居るとは思わんかったな~、普通やったら近所に住んでる人GJ!!っていうのに今回に限ったらワイまで冴子はん襲った男の一人として補導されるとこやったからなぁ。いや~やばかったやばかった、冴子はんが誤解とけへんかったらワイも警察署にGOやったわ。)

今でこそ余裕が感じられるが間違って補導されかかった時には秀治も冴子も驚愕して秀治は警官相手に「ワイは何もやっとらんわボケェ!!」と暴れ、冴子は事情を必死になって説明しようとして四苦八苦しちょっとしたカオスがその場に形成されたのだ。

ちなみに暴れた事により公務執行妨害で補導されかかったのはご愛嬌である。
冴子の嘘泣きが無ければ本当にアウトであった。しばらく秀治は冴子に対して頭が上がらないだろう。

「そんなに感謝されるようなことでもないだろう、私は当然のことをしたまでだ。」

「いや~、それでもやで、実はワイ警察から少し目ぇつけられとっての。」

カラカラと笑いながら言われた内容の重さに冴子は僅かに瞠目する。

「・・・何か目をつけられるようなことをしたのか?」

訝しげな顔をして声のトーンを低くしてそう聞いてくる。

「あ!!、その顔はワイのこと疑っとる顔やな!!、いやいや違うんやて、まぁ、そう思われてもしゃ~ないけどワイは何も悪ないて。」
直感でこれはマズイと感じ慌てて秀治は弁解を始める

「では何故警察に目をつけられているのだ?」

「あ~、いや、これはそのやで、うん・・・どうしても聞きたい?たいした事でもないんやけど・・・」

内心は誇れるような事ではないので聞いてくれるなと思いつつダメもとで足掻いてみる。

せっかく知り合った自分並に強くて美人な同い年の女性に出会って一時間弱で軽蔑されたくないというのが主な理由である。

何せやっていたことは不良の返り討ちだが実質弱いものイジメと変わりないのだ。

「大したことではないのだったらいいだろう。」

冴子は顔にニヤリと笑いを浮かべてこちらに身体ごと近づけ問い詰めてくる。

秀治はその事に気付く事無く、自分が逃げ道を用意したと思ったものが実は墓穴だったと気付き片手を顔に当てて小声でアチャーと言っている

「いや、マジで大したことやないんやけどな、うん、まぁ、冴子はんにやったら・・・、いやいや冴子はんやからこそ言うわけには・・・。」

片手で口を抑え俯いて独り言をブツブツと呟く様はハタ目からみてかなり怪しい。

そんな秀治の姿を見て冴子は秀治に気付かれないようにコッソリクスクスと笑っている。

何気にこれからの関係が見える気がする一瞬である。

未だにうんうんと唸っている秀治に悟られないようにこっそりと近づいて後ろから抱き付いて耳元で囁くように

「いいじゃないか、大した事ではないのならば。」

と言う、それに対して慌てたのは秀治である、いや慌てすぎてまるでゴルゴンに魅入られたかのように体が石のようにピシリと固まり動かなくなった。

それでも首をギギギギと音が鳴りそうなほどゆっくりと振り向いて後ろから抱き付いている冴子に話しかける。

「え・・・あ、な・・・、何事ですのん?いや・・・、そうやなくてな、うん、冴子はん一体、どういうつもりなん?」

思考が上手く回らない状況にて必死でその言葉を紡ぎだす。ハッキリ言って背中に色々と当たっているので性欲がスパーキングしそうなのをダンボール並の硬さを誇る理性で必死になって押し止めているのだ。

「先ほど剣を交えて紫藤が悪人ではない事は知っている。それに信頼も置けると私は思った。私は評価できる男には絶対の信頼を置く主義でな。」

そう言われて急速に決壊しそうになっていた性欲が萎んでいった。

「なるほどな、ここで手ぇ出したら冴子はんからの信頼を失ってまうわけか、いやいや、役得と思たらええんか生殺しやと思たらええんかようわからんわ。」

空に向かって息を長々と吐き出して心を落ち着かせる。ここは役得だと思っておいた方が色々とこれからも得するだろう、そう頭で考えながら。

「ほう、正直者でもあるみたいだな、それにこうするのにも理由があるのだ。」

「・・・例えば?」
あまりに真剣な声であったため思わず喉をゴクリと鳴らして続きを促す。すると・・・

「紫藤君、君はからかうと反応が面白いのだ♪。」

「なるほど!!そりゃぁ、しかたない・・・わきゃあるかぁぁぁあ!!」

がおーと叫んで色々と勿体ない気もするが、いや勿体ない気しかしないが抱きつかれているのを振りほどいて相手の頭にビシッと軽いチョップを入れる。
冴子はコロコロと本当に楽しそうに笑っている、それを見て毒気を抜かれてハァ・・・とため息をつく、決してやっぱり勿体なかったなぁとは思ってはいない、いないったらいないのである。

「ホンマに男相手にするには少し無防備すぎひんか?」

「いっただろう?評価できる男には絶対の信頼を置くと、裏を返せばできない男には決してこのような真似はしないさ。それにさっきの勝負に負けた趣向返しもあるのだ。慌てただろう?」
先ほど自分が彼女にしたように悪戯が成功した悪ガキのような顔で此方を見つめてくる。

片手を上げて参ったとジェスチャーを返す。
しばらくどちらとも無言ですっかり暗くなった星空を見上げながら進んでいると

「では私は家が此方にあるのでここでお別れだ、色々と楽かったぞ。」
と言って此方に片手を上げて去っていこうとしたが。

「おぉ!!ちょっと待った!!、なぁ冴子はん、あんたケータイもっとる?」
ポケットをゴソゴソと探りながらこちらに追いついてきた秀治に呼び止められた。

「あぁ、持ってはいるが・・・、なるほど番号の交換か。」

「そぅ!!それや、ここでもう会う事もないってのは寂しいからの。」

双方同時にポケットから出したケータイ同士で赤外線通信でアドレスの交換をする。

「ほな、気ぃつけてな!!また悪い男に襲われんようにな!!」

「なに、大丈夫だ。そちらも車には気をつけてな。」

「ハハ!!あんたはワイのおかんか!!それじゃ、また何時か会おうや。その時はもうちょいムードがあったらええな。」
そう言って秀治は自転車を反転させ行き過ぎた道を走って戻っていく

「フ・・・確かに、それではまた会おう。ではな」

「じゃあな~・・・・。」

「フゥ・・・・」
秀治が角を曲がり見えなくなったことを確認すると冴子は顔を何かを後悔するように歪め、憂鬱そうにため息をついた。




ふい~、作者です、毎日投稿するのがちょっと厳しくなってきたかもしれません。
ちょっとしたら更新そくどが落ちる可能性もあります。
すいません。




おま~け

「おぉ~・・・、これは酷い・・・。」
秀治が家に帰ると最初にした事はMy竹刀の確認である。ちなみに兄の浩一は今日は学校で泊まりである、なんでも色々とやることがあるらしい。

My竹刀で1~2太刀冴子の斬撃を受けただけだがエモノが木刀である。受けたときに乾いた音と共に嫌な音が鳴っていたのを秀治は聞き逃さなかった。
その結果が柄に近い部分に奔っている皹である。

「すげぇなこれ、竹刀砕きかけるとか冴子はんマジパネェ、ワイも木刀にエモノ代えるか・・・。」

竹刀に奔った皹をしげしげと眺めながらここ数年の相棒との別れを決意する。

「あっ、そういや結局冴子はんに言わんですんだな、あの事、いや、気ぃ使われたんか、だからあんな事してきたわけや、あ~、貸し一個やな、いや?警察から庇われたこと含めて2個・・・か。」
クックと軽く笑いながら鮮やかにやられたことを思い返す。

「いやはや、まっ、ええ人と友人になれたもんやで・・・、なんか冴子はんからは・・・ワイと同じ匂いがするからのぅ。」
戦っている時にみた顔を思い出し口端がグイと吊り上る。

「ふっふっふ・・・、ハッハハハハハハ!!」
今は一人しかいないやたらと広い家に秀治の狂気じみた笑い声が響いていた







[19019] 4話目
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/05/27 14:22

「ふぅぅぅ~・・・」

精神統一をするために大きく息を吐く。

面越しに相手の挙動の全てを凪いだ目で見つめる。

いつでも打ちかかれるようにと柄をしっかりと握り締める。

足は適度に開き力を込めていつでも相手の間合いに踏み込めるようにする。

油断はもうしない、目の前に立っている相手はこれまで一瞬で相手の間合いに踏み込み反応すらさせることもなく切捨てここまで勝ち抜いてきたのだ、そして先ほど自分から一本奪っていったのだから。

しかし、それ故に男が考えた攻略法は単純にして明快、踏み込まれる前に踏み込み手数にて封殺することだった。

敗北していった者たちもそれをしなかったわけではない、しかしそれ以外攻略法が見出せないのだ。

すでに一本は取られている、フェイントで相手を釣ろうとして生み出した故意的な隙、そこに跳んで来るものならカウンターを入れようと考えていた。

十分に間合いを取っていたはずであった、一歩でも踏み込んでくれば切る、その気概で挑んだはずであった。

しかし気がつけば相手は自分の間合いの内、逆に言えばは相手の間合いに入れられていた、その事実に驚愕しつつ竹刀を振り下ろした時にはすでに手遅れであり、見事としかいいようのないほど素早く胴を決められていた。

予想以上、いや、この場合相手が異常なのだ、自分の虚に影のようにスルリと入り込み行動の起こりすら見せずに神速の速さで踏み込み切り捨てる。

この目の前に立つ相手は本当に自分と同じ中学生なのだろうか?
通っている道場の師範にですらここまで畏怖の感情を感じたことはなかった。

有り得ない、そんな言葉が脳裏をよぎる、きっと今までに敗北してきた者達も同じ事を考えたに違いない。

映像で見ている時では確かに速いが反応できない程ではない、そう思っていた、しかし実物を目の前にした今ではそう考えていた自分を殴りたくなる。

動きの無駄が無い訳ではない、ただ自分と同年代、いや一つ下にしては無駄が少なすぎるのだ。

受けに回ると負ける、実際に相対し一本獲られた今ならその事がはっきりと理解できる。

攻められたら負けるのであれば攻めるしかないでは無いか。

きっと目の前の相手も自分が攻めてくると思って待っているのだろう、試合が始まってたった10秒、しかも受けに回って一合も打ち合わせられずに負けたのだ。

待っているとしか思えない、そうでなければすでに自分は2本獲られているだろう。つまり目の前の男は待っているのだ自分が打ちかかってくるのを、今度はお前の番だと言わんが如く。

舐められている、そう感じて思わず歯噛みする。

先ほどからさっきの趣向返しなのだろうかチラチラと隙を見せてくる。

いつ攻めてこようともお前など相手にならない、口にこそ出してこないがそう言っているのが露骨に聞えてくるようだ。

頭に渦巻く雑念を追い出すように軽く頭を振り萎縮してしまった精神に気合を入れ直す、勝てないだろう、それだけはハッキリと解る、ならばもうやることは一つ、
相手の望む通りに全力で打ち込むだけである。

こちらの心境の変化を感じ取ったのか相手の故意的に見せていた隙がスッと消えて無くなる。

精神の統一も終わった、なら後は攻めるだけである。

「フッ!!」

相手の間合いに一気に踏み込み面打ち、胴打ち、小手打ちと多種多様に攻め立てるがその全てが華麗に捌かれる。しかし打ち込みを止めることはしない、自分の息が続くまで、体力の限界がくるまで打ち込み続ける。

それでも光明は見えることもなく、疲れて攻撃が乱雑にそして単調になっていく前に面越しに此方に振り下ろされた竹刀を見た。

「面あり!!一本!!」

負けたか・・・、ここまで綺麗にまけたら悔しいとも思わずに逆に清清しく感じる。そして俺は相手に礼をして背を向けて去っていった。





「う~ん、アレやなやっぱり、言っちゃ悪いが弱いな。そっちはどうやった?相手なるやつおらんかったやろ?」

見事に全国中学校剣道大会男子個人戦にて優勝を果たし家に帰る途中の車の中で吐いた台詞である。

その手には携帯を持ち誰かと話をしていることがわかる。

「あん?思っててもそういうことは口に出したらあかん?まぁ、悪いとは思うけどさ、お前よりかなり弱いやつしかおらんかったしな~。」

「お前も女子の部で優勝してたな、会場でも言ったけどおめでとさん、そしてお疲れ様やな。」

「あれやな、大会とかそんなとこ行くよりお前とずっと試合してたほうが有意義かもしれんな。ん?今度は負けん?ハッ!!案外お前やったらできるかもな?ワイの不敗伝説を終わらせんの。」

「それよりさ、あれや今度の休みに二人でどっか遊びに行けへん?優勝祝いってことでさ、費用は奢るで?ん?OK!?でも奢らんでいい?まぁまぁ、男の甲斐性ってやつや、奢られてくれ。予定はこっちで決めてええか?うむ、暇にはさせへんことを誓うわ。うん。」

「ん、じゃまた明日、帰り道であお~や、じゃな~。」

Piっと携帯の電源を押してポケットにしまいこむ。

「誰と話してたんですか?秀治、女性の方のようですが。」
コー兄が車を運転しつつこちらをチラリと見て聞いてくる。

「ん~、こないだ知り合った毒島冴子って子やで~、女やのにワイ並みに強いっていうすごい奴や。」
座席を後ろに倒して腕を目に当てて横になる。

「ほう、あの毒島家の御息女ですか。」

「ん~?何でコー兄が知っとるん?」
顔から腕をどけて片目だけ開けてコー兄の顔を見る。

「父の仕事を軽く手伝っているときにちょっと小耳に挟みましてね。」

「あのクソ親父の仕事手伝うんも軽めにしとき、せやないと後戻りできんようなるで。」
スッと身に纏っていた雰囲気が変わり口調が真剣になる

「わかってますよ、父に逆らいこそ出来ませんがあんな男の為に悪事に手を染めるなんてバカらしいですからね。ちゃんと引き際は心得ていますとも。」
コー兄はそれに軽く笑って返した。

「あぁ、それはそうと、毒島家の御息女と付き合うのはいいですがそれを父に知られないように、無いとは思いますが、アレコレ命令されるかもしれませんから。」

「わ~っとるわ、そんくらい、ま、アイツはほとんど東京にすんでこっちに帰ってけ~へんからバレることもないやろ。」
手をヒラヒラと振りながら返答する。

「それよりもホンマに気~つけな、気がついたらやばい事させられてるかもしれんからな。」

「私はそんなヘマはしませんよ、それより貴方も頑張りなさい。」
ニヤニヤと笑いながらそう言い返してくる。

「何がや?」
心底不思議そうな反応を返すと軽くため息を吐かれ

「まぁ、色々ですよ。解ってないならあえて言いませんが・・・」
と呆れたように返された上さらにため息を吐かれた。一体何なんだ?





おまけ  ケータイでの会話 冴子Ver

「秀治君、思っていても口にしていいことと悪い事がある、確かに相手になる者がいなかったのは事実だとしてもだ。」

「私達の強さが異常なのだと思うぞ?これでも私は君に負けるまで同年代で負けたことはなかったんだ。」

「あぁ、有難う、君もおめでとうそしてお疲れ様。」

「クッ、意外とその通りかもしれないな、だが剣道の試合という形なら私は負けんぞ。今度こそは勝つ。」
クツクツと可笑しそうに笑いながら答える。

「ほう?ならいつかその期待に答えるとしよう。・・・む?次の休みに遊びに行こうだと?」
少し考えて次の休みに予定が入っていたかどうかを思い出す。

「ふむ、無いな・・・、いいだろう、その話に乗るよ、あぁ、別に奢らなくてもいいぞ、・・・む?男の甲斐性?むぅ・・・仕方ない、大人しく奢られておくよ。あぁ、予定は君が好きに決めて構わないさ、でも暇な一日にさせてくれるなよ?期待しているからな。」

「あぁ、それではまた明日、ではな。」

ブツリと向こうのケータイが切られた音を聞いて携帯をカバンに入れる。

「さて、何を着ていこうか?」

家に帰った後、母親にどんな服を着ていけばいいのか聞いたところ、毒島流服飾なるものを教わり、休みの日待ち合わせ場所に行った時待っていた秀治の度肝を抜くことになるのだがそれはまた別の話。

お父さんがそれに聞き耳を立てて秀治なる人物に色んな意味で興味を持つのはもっと違う話







作者です。最初に出てきた奴は誰かって?モブですよ。
原作始めるまで後3年半あたり、ゆるりと書いて行きましょうか。



[19019] 第5話 前編
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/05/28 23:27

「とぅ~とぅ~とぅ~とぅとぅ~♪」

アイポッドでお気に入りの曲を流しイヤホンを片耳だけつけて聞きながらそれを口ずさみつつケータイのゲームアプリ「ぽよぽよ」で遊んでいる。

これだけなら自室でやることだがここはショッピングモール「タイエー床主」の前である。

そう、今日は日曜日、冴子と優勝祝いという名の初デートをする日なのだ。

それなのに何故遊んでいるのか?

それは秀治が気合を入れすぎて集合の一時間も前についてしまったことが原因である。流石に何もせずに待つには長いから遊んで時間を潰している何とも解りやすい理由である。

もちろん姿もいつもとは違いよれた学生服ではなく私服である。髪型もいつもの適当に伸ばして下ろしているだけのものではなくオールバックで纏められている。
極めつけには兄から借りてきたサングラスを掛けている。

ハッキリ言って格好つけまくっている、しかし素が良いから似合っているので文句はつけれない。

いつも纏っているどこか気だるげな雰囲気も消し飛んでいる。
何気にクラスメイトが見ても「誰だテメェ」と言われるレベルで別人である。

紫藤秀治、馬子にも衣装を地で体現する男であった。

「よっしゃ!!6連鎖キタコレ!!」

その当人はよほど「ぽよぽよ」に熱中しているのか周りの人間がザワザワとし始めた事に一向に気付く様子がない。

「おい、あの子みろよ、スゲェぞ」 「何々?何かの罰ゲームかな?」
「ウハwwマジでwwパネェなあの子ww」  「ナニアレ?マジ有り得ないんですけどww」

あまりに周りがうるさくなってきたのでぽよぽよを止めてイヤホンを外し騒ぎの元は何だと周囲を見回して・・・

「ぶっふぉ!!?」

何も口に含んでいなかったのに噴いた、それはもう盛大に噴いた。それほどまで視線の先に映ったモノのインパクトが大きすぎた。過去これほど驚いたことがあっただろうか?いや無い!!

頭の中では「ナンダアレハ!!」という文字が列を成してパソコンのエラーの如くズラリと並んでひしめく。

目を点にし顎が外れんばかりに口を大きく開け広げる、しかしその視界に映るモノから目を離すことはしない。ケータイが手からスルリと抜け落ちて地面に落ちるが本人は全く気付いていない。

それほどまで秀治をして驚かせるモノとは一体何なのか?

一言で言えばそれは毒島冴子である。しかしただの毒島冴子と思う事なかれ。

髪を下ろしてただのストレートにしているのはいつものポニーテールとはまた違った魅力を感じとてもGoodだ。

母親に手伝ってもらったのであろうか?素を活かすように仕上げられた申し訳程度の化粧もその美貌を引き立てる一端を担っている。

しかし!!そこが問題なわけではない!!

何があってもあまり動じないことに定評がある秀治をもってここまで驚愕させたのはその衣装である!!

(ナニあの服?スゲェ・・・)

単純な感想だと言う事無かれ、秀治の頭は現在進行形で処理落ちでパニックだ。

その問題となっている毒島冴子当人は人が多い「タイエー床主」前でいつもの見慣れた顔の秀治を探してキョロキョロと少し困ったように周りを見渡している。
そして周りから注がれている視線にうっすらとほほを染めているその姿をみているとあ”あ”あ”ぁあぁあぁぁ!!くぁwsdrftgyふじこ・・・・

コホン、話を戻すが問題なのは冴子の服装なのである。

かなり短めのスカートでありながら存在する深く、それでいてギリギリのラインまではいっているスリット!!そしてそのスカートから艶かしい太ももに伸びるガーターベルト!!、そして服の上からでもわかるその存在を慎ましながらも主張し始めているふっくらとした双丘、ヘソや二の腕を丸出しにし、背中が大きく開いている魅力的であり扇情的なその姿は若干14歳とは思えない程の色香を振りまいていた。

そして極め付きには歩くたびにそのギリギリまで入ったスリットから見える生足と見えそうで見えない絶対領域がががががが。

そんな刺激的なものを見ていつもとのギャップの差で頭がビジーでフリーズな状態になった秀治は一分ほど何をするわけでもなく立ちほうけていた。

「ねぇねぇ、おにいちゃん、これおにいちゃんの?」

ズボンをクイクイ引っ張られる感覚にハッと我に返り視線を下げると小さな女の子(六歳くらいだろうか?)が自分がいつの間にか落としたケータイを首を少し傾げながらこちらに差し出していた。

「あ、・・・あぁ、ありがとなお嬢ちゃん、助かったわ。」

しゃがんで目線を合わせて頭をくしゃくしゃと撫でながらケータイを受け取る。
「えへへへへ♪ありすいい子だもん♪バイバイおにいちゃん。」

顔に無邪気な笑いを浮かべて元気よく両親のいる元へと走っていった。

そんな小さな子供特有の無邪気さに心が癒された気がした。

「うし!!とりあえずあれ、なんとかせんとな。」

(口調も声音も変えて話しかけてみよ)

ちょっとした出来心でそんなことを思いつく。

果たしてそれで自分と気付くかどうか少し楽しみにしながらついに顔が険しくなり始めた彼女の方へと歩いて向かっていく。




冴子サイド

約束の五分前になってもまだ秀治の姿が見当たらない。

その事に対して私は少し憤っていた。

(全く、自分から誘っておいて私より来るのが遅くてどうする。)

母から毒島流服飾術を教わりその中で自分の最も気に入った服を選び母に化粧まで手伝ってもらって来たのだ。

そこまで念を入れて来たというのに相手がまだ来ていないとなると多少の不快感も感じるというものである。

見慣れた顔を捜してキョロキョロろ周りを見渡すがそれで見えるのは此方を見つめる目、目、目、目、そのあまりの視線の多さに少し赤面する。

(う・・・、そんなに可笑しな格好なのか?私は気に入っているんだが・・・)

そう思いながら改めて自分の着ている服を見下ろす。

仮に人に「私の服は変か」と聞けば、10人中10人がいい笑顔をして「Yes!!」と答えるだろうそれもサムズアップ付きで。

今、自分の姿を改めて見下ろしている彼女も自分の格好が可笑しい事に気がつくであろう。

(ふむ、いざという時に動きやすいスカートに通気性が抜群に良い上着・・・、確かに多少は目立つが何ら可笑しくは無いと思うのだが・・・)

訂正、どうやら彼女はナカナカにぶっ飛んだ感性をしているようだ。

(それにしても後一分もないというのにまだ来ないとは彼は何をやっているんだ)

約束をすっぽかすような人物ではない、というよりこの話を持ちかけたのは彼である。遅れるにしても連絡の一つでもあるはずなのだ。

遅れたらどうしてやろうか・・・、と少し苛立ちながら考えていると。

「こんにちわ今日は冴子さん目立つ格好をしていますね。」

後ろからどこかで聞いたことのあるような声が聞えたのでサッと振り向くとそこには

「誰だ貴方は?」

知らない男がそこにいた。身長から察するに自分と同年代であろう。

そう言うとショックを受けたように2、3歩よろめいきながら後ろに退がり大げさに嘆き始めた。

まるでマンガの茶番を見ているようだ。

「そっそんな!!?私の顔を忘れるなんて・・・、いくらなんでもそれは余りに酷いですよ冴子さん。」

聞き覚えがあるような声(しかもよく)、そしてこのオーバーリアクション。

そこまで見てようやく冴子の頭に閃くものがあったが違いが少々ありすぎる。

「もしかすると・・・、秀治君・・・なのか?」

間違っていたら恥ずかしいのでおずおずと尋ねると、目の前の男は先ほどまでしていた泣き崩れる真似を止め

「ハッハッハ!!ようやく気付いたか!!ちょっと時間かかったの?」

と言ってニヤリと笑いかけてきた。

その顔に少し腹が立って腹に一発いいのを入れてしまったがそれは詮無きことであろう。







ど~も作者です。書いてて気付いて驚愕した!!
このSSの冴子さんまだ14歳のロリっ子だった!!ビックリだ!!
後、思い浮かべながら書いていたら地の文が暴走した、でも後悔はしていない。



[19019] 5話目 中編
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/05/31 05:03
「いや~、確かにからかったんは悪いとは思うけど出会い頭にボディブローってのはやりすぎや思うで?」

殴られた腹(鳩尾)をさすりつつ笑顔で言うがその目はあまり笑っていない、真面目に吐きかけたのだから仕方が無い。

「わ、わざと遅れた上に私をからかった君も悪いだろう!!」
流石に強く殴りすぎたと思っているのかちょっと声がどもっている。殴ったら咳き込みまくって地面に蹲って苦しみ始めたのを自分で介抱しなければならなかったのだ、それは反省もするだろう。

「いや~、痛かったなぁ、ホンマに朝食ったもんがリバースしてまうとこやったで。ボクシングやったら?その右手が世界を掴むかもよ?」

軽くジョークを含ませながらジトジトとした目でじっと顔を見つめる。

「うぅ・・・す、すまなかった。流石に私もやりすぎた。」

「なら良し!!、こっちもちょっとフザケが過ぎたわ、ゴメンな。あぁ、それと、理由は色々とあるけどまずは服買いに行こか。」

「何故だ?」

「何故もなんも、お前その格好でウロウロする気か?」

「何か可笑しいところがあるか?由緒正しき毒島流服飾術だ。」

ちょっと膨らみかけの胸をエッヘンとでも言いたげに張る。顔が自慢気であることから微塵も自分の格好が可笑しいとは思っていないのだろう。

「なんというか、毒島家恐るべし!!やな、いや~時と場合が揃ったらその服も全く可笑しく無いとは思うで?でも日中の町うろつくにはちょっと合わへんのとちゃうかな?」

「む?君までそう思っていたのかね。」

いきなり顎に手を当て思案顔になる。もしや自覚があったのか?

「ん?もっかして自分でもちょっと可笑しいとでも思っとった?」

「いや、私はそう思ってないのだが、こう視線が、なんというか、私に注がれているのを感じたらちょっと、な。」

その姿でほほを赤らめて少し上目遣い(身長の関係上嫌でもそうなる紫藤家男子はひょろくて長いのだ・・・父以外)をしてこちらを見る様はそれだけでも今日誘ってよかったという気分になるが視線の話となると自分もあまり笑えない。

なぜなら冴子に注がれている視線に匹敵するほど多くの視線に秀治もさらされているからだ。

しかも好奇の視線が多分を占める冴子とは違いこちらはかなりたちが悪い。

もてない男から注がれるSHITの視線、その意訳は「なぜ彼女にこんな格好をさせて連れまわるような男にこんな美少女が!!」

彼女連れの男から注がれる、賞賛とSHITの視線、いわく「こいつ・・・、勇者だ!!それにしても俺の方がいい男なのになんであんな可愛い娘が!!」

当然なことに男がいれば女もいる。さっきから一番きついのがこの視線だ。ゴミを見るような目で秀治のことを見ている。いわく・・・「この変態が!!」

そんな視線に曝されている秀治は叫び出したかった「ワイが言ってやらせたわけやない!!こいつが天然なだけや!!」と、しかしそれをやったところで突然叫び出したおかしな人である。よってただただこの針のムシロのような視線に耐えるしかないのだ。なんともお気の毒な話である。

「いや、それは確かにこんなとこで着るような服やないってのもあるけど、それ以上に・・・、あれや、うん、お前が可愛いってのが大きいと思うで?その服もめっちゃ似合っとるし。」

ちょっと恥ずかしいと思いつつ賞賛の言葉を口にする。小学生の頃はとある理由で人間不信に陥り、中学一年は暴れまわって「狂犬」のあだ名を頂いた秀治である。まず女性の知り合いが全くいない、いるにはいるがその人は自分に付けられた「狂犬」のあだ名を知らない。(実際には自分の行っている学校の連中とここら一帯の不良たちにしかそのあだ名は使われていない)

「そうか、それは良かった。」

自分の気に入っている服が似合っていると言われて嬉しいのか顔を綻ばせてうんうんと頷いている。そしてその仕草で周りからの視線が増した。

「あ~、そこでワイの提案なわけや、お前は可愛い、それは自分でもわかってるな?そんな可愛い子がこんな目立つ服着て歩いとったらそりゃ視線も集まるモンや。だから服かってそれに着替えよ~や。服はプレゼントさせてもらうで。」

「似合っている服を着ているのが悪いことなのか?」

それを言う顔はとても不思議そうにしている、おそらくその裏に秘められている男の浅くて複雑な心にも何にも気付いていないのだろう。

「ぐ・・・、そう言ってるんやないんや。ただな、似合いすぎとるっていうか、その服は刺激が強すぎんねん、ワイにも、そこら辺におる有象無象の男どもにも・・・な。だからな、買いに行こうや服、この中で女性用の服売ってるところあったはずやし。」

手を繋いで引っ張るように「タイエー床主」へと連れて行く。手を繋いだときにSHITの視線の濃さが増大したが気にしたら負けだ。いちいち気にしていたら胃に穴が開いてしまう。

「それは・・・仕方ないことなのか?」

「それにや、ワイがお前のそんな格好を他の男どもに見せたくないっていう理由もあるからな。」

グイグイ手を引かれながら未だ思案顔で悩んでいるとスッと近寄られて耳元で囁かれた言葉に硬直して手の引かれるまま店の中へと連れ込まれる。

店に入ったところで我に返ってグイグイ引かれている手を離そうとするがその前に手を引いている男を見ると。耳が真っ赤である、これでもかというほど真っ赤である、おそらく顔もそれに負けず劣らず真っ赤であろう。気をつけなければ気付けなかったが自分を引っ張っている手も微かに震えている。

自分で先ほど言った言葉がよほど恥ずかしかったようである。こうやってグイグイと強引に引っ張っているのはその恥ずかしさをごまかすのと顔を見られないようにするためであろう。

その事に気付いた冴子はクスリと笑ってその手を引かれるままにしておく。
男にあれほどのことを言わせたのだから今は秀治の顔を立てるのもいいだろうと考えて。

「よ~し、ここや、早いとこ服選んで映画でも見に行こうぜ。」

「秀治君、それは無茶というものだよ。女性の買い物は長くかかるのを覚えておくといい。だが、まぁ今日は早めに済ませるとしよう。」

そう言って適当にそれでいてめぼしかった服を2~3着取って店の試着室へと向かっていった。









「アウト」

「む、これもダメか。」

「いや、なんで持ってくる服が全部へビィでメタイねん。」

先ほどから何度このやり取りを繰り返しただろうか?すでに1時間以上は経過している。冴子は困惑顔で秀治はすでに疲れきった顔をしている。

「あれやな、ちょっと店員さんに頼んで選んでもらおうや、本音を言えばワイが選びたいんやけど、ワイも服飾のセンスが無くての、持ってる服はお下がりか兄がコーディネートしたもんそして店頭にならんでる奴そんままとかいうのばっかやからな~。」

「人に言う割りに自分もセンスが無いのではないか。」

「いや、お前は服飾のセンスはあると思うよ?さっきから似合ってる服ばっか持ってきてるし、ただそれが日常で着る服やないだけでな。」

はぁ~、と心底疲れたようにため息を吐き出す、何故デートの前からこうも疲れなければならないのか?いや、これもデートに入るのか?

どちらにせよ女の買い物は時間がかかり疲れるものだという大事な教訓を得た秀治であった。

結局昼まで服選びに時間を費やしやっと少しは落ち着いた雰囲気の服になった。
この際ミニスカートなのは見逃そう。そうしなければやってられない。
何気に支払いの時に持ってきたへビィでメタイ服が何着か混じっていたが見なかったことにしよう、男の甲斐性ってのはそんなもんだと自分に言い聞かせながら馬鹿にできない額になった代金を震える手で財布から取り出す秀治であった。




「ま、気を取り直して映画でも見に行くとしよ~や。」

「うむ、そうだな。」

ちょっと元気が無くなっている秀治と対照的に冴子は気に入った服が手に入ってご満悦であった。満面の笑みだ、これだけでも払った価値はあると考えてしまうのは男の悲しい性だろう。

「で、何見よか?」

「何が上映されているのだ?」

「確か朝調べたところによると、バイオハザード3、崖の上のポチョ、アーマードコア4有澤の野望の3つやったけかな?。」

「バイオハザード3でいいんじゃないか?」

「ワイとしては有澤の野望も棄てがたいけど、まぁ冴子はん知らんやろうし、バイハ3見に行こか。その後ちょいとゲーセン行って飯食って帰ろや。」

「あぁ、そうしよう。」

そうして二人は町へとようやく繰り出して行った。長い前座である。









作者です。すいません今回は短いです。
後、映画の名前は完全なネタです。(ポチョムキンバスター!!)やってみたかっただけです、すいません。
でも思いつきで書いたが有澤の野望、見たいやも知れん(ゴクリ)



[19019] 5話目 後編
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/05/31 05:02

「いや~、結構面白かったな。」

「そうだな。」

談笑しながら歩いている二人は現在、近場にあるゲームセンターへと足を運んでいる。荷物を持っているのはもちろん秀治だ。

「なぁなぁ、もし世界がバイハみたいにゾンビだらけ~とかなったらどうするよ?」

「それは、生き残れるだけ生き残るしかないだろう。まぁ、私はゾンビになるぐらいなら自決するだろうな。」

「噛まれたり引掻かれただけでアウトってのはちょいと厳しいよな~、一対一やったらどんだけ来てもやれる自信はあるけど流石に一対五超えて来たらワイらのエモノやったら厳しいモンがあるな日本刀やったら一対七、八はいける自信はあるで。でも走ってくるゾンビは無理やな、やれたとしても2匹が限度ってとこやろ。弱い方でも囲まれとったら一対三ぐらいやろうな。」

有り得ないことを想像を膨らましてそれについて話す。

「基本この手の映画のゾンビは数で押し寄せてくるからな、しかし慢心している者ほど始まってすぐに噛まれるというのはよくあることだからな、気をつけろよ秀治君。」
冴子がニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。

「それはあれか?ワイが慢心してやられる言いたいんか?いや、流石に歩き程度の速さしか出されへん奴らに負けるこたぁ無いで。数で潰されんかぎり。」

「フフフ、どうだか。」

身振りを交えてそれを否定する秀治を冴子は微笑ましいものを見るような目で見る。

「っとと、そうこうしてる間にゲーセンついたわ。」

「ここがか。」

冴子は興味深そうにその建物全体を見上げてマジマジと見ている。

「おぉ?もっかしてゲーセンとか来るん初めてか?」

「あぁ、私にはあまり関わりあいのない場所だからな。話には聞いたことはあるが行ったことはないよ。」

「ほぅ!!なら楽しんだらえぇ、さっき映画見たところやしゲーム版のバイハやろうぜ。」

手をクイっと引っ張って先導する。
そうして二人は手を繋ぎながらゲームセンターの中へと入っていった。






「そっちの奴ら頼んだ!!」

「まかせろ!!」

画面に群がるように現れるゾンビ共に鉛玉をプレゼントする。後少しでラスボスの所までワンコインで辿りつけるあたりかなり上手いだろう。
有象無象を蹴散らしついに最終ステージの際奥、ラスボスの間に突入する。


「こいつがラスボスか。」

「フン、醜いな。」

相方に何かスイッチでも入ったのかかなりいい笑顔でそんな事をおっしゃってくれる。なにやらゾクッと来るものがあったが今はラスボスを倒すことに集中する。

「あともうちょい!!これで!!」

「終わりだな。」

後一発で倒せるというときに弾切れになり画面外へと銃を向けて再装填している間に冴子に止めを掻っ攫われた。

「いやすごいやん!!初めてであんなにできるやつおらんで。」

「コツさえ掴めばあとは簡単だったな。」

持ち前の運動神経と動体視力で出てくるゾンビに銃を向けて撃つ、これだけだった。

「次は何しよか~UFOキャッチャーでもする?」

「あれのことか?別に欲しいぬいぐるみは無いぞ。」

ゲームセンターの顔の一つなのだがにべもなく切り捨てられる。

「む~、初心者にゃむずいけど、AC烏達の狩場でもやる?」

「あれのことか?」

そう言って球体型の乗り込み式のゲームを指差す。

「そうあれ!!フロムが持ち前のCG技術をフルに使ってできた傑作品や。」

「具体的にはどんなゲームなんだ?」

「ロボットに乗り込んだ感覚で操縦して対戦相手を倒すゲームや、ミッション選んで出撃、相手のランクによって報酬が変わる。んで報酬が溜まったら好きなパーツと交換できるっちゅうわけや。いっぺんやってみ?操作も簡単やからおもろいで。データカードは貸したるわ。」

「ならやってみるか。」

財布から取り出されたデータカードをしげしげと見つめて球体に乗り込んでいく。








「流石にアレは慣れなければ無理だ。」

相手に一方的に蹂躙されて負けたからか少しむくれた顔をしている。

「一方的に蹂躙できるようになったら面白いねんけどなアレ。」

まぁ健闘したほうだと言うように肩をポンポンと叩く。

「で、時間もええ具合やけど飯どうする?」

「ふむ、どうするか、む?ちょっと待て電話が・・・」

そう言ってポケットからケータイを取り出して誰かと話し込む。

「え!?本気ですか?はい、解りました、彼にもそう伝えます。」

冴子はケータイを切ってポケットに入れた後に何を考えているんだと言いたげにフゥ、とため息を吐き出す。

「なんやったんや?」

「あ~、秀治君、落ち着いて聞いて欲しい。」

「なんやなんや?」

「どうも私の両親が君と会いたがっているようだ、夕飯に誘いなさいと言われてしまった。受けるか断るかは君次第だが、行っておいた方がいいだろうな・・・」

「うっそ、マジで?お前の父親ってあの毒島さんやったよな?」

「あぁ、そうだな。」

目を瞑り腕を組みながら冴子は首肯する。

「ワイ今日が命日やったんやろか?」

「まぁ、頑張るんだな、私からも取り成してやるからマズイことにはならないだろう。」

「そんなの無いわ~」とでも言いたげに頭を抱える秀治を慰めるように言う。




一体秀治の運命はどっちだ!!?







作者です。短くてスイマセン。さて、冴子の両親の名前どうしましょうか・・・、原作で出てきたら修正でいいか、うんそうしよう。秀治君選択誤ったら原作始まる前にジ・エンドしちゃうかもね。




[19019] 6話目 前編
Name: カニ侍◆92202ac9 ID:104368c8
Date: 2010/06/02 02:57


「・・・なぁ、お前の両親って厳しいんか?」

「・・・甘いと思うか?」

「・・・・・・いや、全く。」

無いだろうなぁ、と思いつつもダメ元で聞いてはみたもののその可能性はほぼゼロだと遠まわしに言われたのでズーンと音が聞こえてきそうなほど肩を落とし顔を俯け、まるでこの世の終わりだと言わんがごとくの長く憂鬱そうなため息を吐く。

「それほど気を落とすこともないだろう、確かに厳しい人ではあるが理性的な人だよ、私の父は。だが甘いという訳ではないから注意するんだな。」

その様子を苦笑しながら眺めてちょっとしたアドバイスを送る・・・が

「くぅ!!これがお嬢さんをお嫁にください!!って相手の親に言いにいく男の気持ちなんか!?くそっバッドなエンドしか見えへん!!」

「フフフ、まぁ頑張ることだ、母もおっとりしているように見えて一癖ある人だから気をつけるんだな、気がつけば墓穴を掘らされていたということになりかねんぞ?」

自分の両の手のひらを顔の前に並べてワナワナさせている秀治にちょっとした嗜虐心が疼きつい追い討ちの言葉を放ってしまう。

「な、なん・・・だと?」

呆然とした表情で此方を見つめてくる秀治にたまらず吹き出してしまう、それを見て先ほどまでの狼狽ぶりはどこへ行ったかニカッとでも擬音が聞こえてきそうなほどの笑みをうかべる。

「なんだ、意外と余裕そうじゃないか。」

「じょーだん、これでもワイ緊張のしすぎで体震えとんねんで?ホンマ、ボケてなかったらやってられんわ。」

手をヒラヒラと振ってその言葉を否定する

「そんなに怖いのか・・・」

やれやれと首を軽く振りながら秀治の肩に手を置いてみると、なるほど確かに微かだが震えている、今の振る舞いも空元気の一種か虚勢なのだろう。

「雲行きが怪しくなれば私からもできるだけ取り成してやるからそうオドオドするな、いつもの君らしくしていればいい。そんな態度では逆効果だぞ。」

肩に置いた手でそのまま背中をポンポンと叩いて元気付ける。
「ん!!、確かにそうやな、いつまでもウジウジしとっても何も始まらんか。よし!!やったるわ!!つーか、やるしかない!!」

深呼吸をし、顔を両手でパァーンと勢い良く叩いて気合を入れなおして心を落ち着かせる。

「あぁ、その意気だ、ここだ、覚悟はできたか?」

「おー!!」

握り締めた右手を空に向かって突き出し胸を張って冴子の後ろに並ぶ。

ギィと音をたてて冴子が門を開き此方を向いて笑みをうかべながら

「ようこそ、毒島家へ、私は君を歓迎するよ。」

と言って手を差し出した。秀治は少しの間呆気にとられていたが何をされたか理解するとニヤリと笑い返してその手をしっかと握り

「ありがとな、それじゃお邪魔させてもらうわ。」

と言った。





毒島家は予想通りとでも言うのだろうか?伝統を感じさせる大きな古い武家屋敷であった。
そしてその家の玄関をくぐる前に二人同時に

「ただ今帰りました。」   「お邪魔いたします。」

と言って家の中に入っていった。

「あらあら、いらっしゃい、今日は冴子がお世話になったようで・・・。」

家の奥から出てきて秀治達を迎えたのは冴子に良く似た和服を着た美人さんであった。

「いえ、こちらこそいつも冴子さんにはお世話になっております、ところで冴子さんの御姉妹の方でしょうか?」

目上の人に関西弁で話すと気分を悪くしてしまう恐れがあるので秀治は兄から徹底的に叩きこまれた対外用の言葉遣いを駆使する。横で冴子が奇妙な物を見るような目で此方を見ているがそれはそれだ。

「あらあらお上手、私は冴子の母の毒島美雲と申します。」

「私は紫藤一郎が息子、紫藤秀治と申します、冴子さんのお母様でしたか、いえすいませんあまりに若く見えてしまったものでつい御姉妹の方かと・・・。」

間違ったことは少し気恥ずかしく感じるがその間違いを利用して全力でよいしょする、女の人
は若く見えると言えば喜ぶものだと言っていた兄に感謝するとしよう、そういえば何故兄に彼女はいないのだろうか?フッとそんな疑問が思い浮かぶが今は関係ないことだと一瞬で頭の中から掻き消す。

「あらまぁ!?あの紫藤議員の・・・」

驚いたようにこちらを見つめてくる毒島母娘

「ん?なんでお前も一緒に驚いているんだ?もしかして言ってなかったか?」

一緒に驚いてこちらを見つめてくる冴子に不思議そうに尋ねる。

「あぁ、君はあまり家のことを話してくれなかったからな、聞くことがあっても君の兄の話だったよ。それにしてもあの紫藤だったのか・・・意外だ。」

心底驚いているのかまだ顔がすこし呆然としている。

それにしてもやはり父の名はこんな時に役に立つ、さすが総理も夢ではなかった衆議院議員、ネームバリューが伊達じゃない、あまり使いたくは無い手ではあるが・・・、外からいくら偉い人だと思われていても自分達兄弟の認識はただの腐った豚なのだ、誰が並べて見られたがるだろうか?

「やっと帰ってきたのか、君が・・・秀治君かい?話は冴子からよく聞いているよ、私の名前は毒島隼人、現毒島家当主だ、よろしく頼む。」

「初めまして、紫藤秀治と申します、こちらこそよろしくお願いします。」

スッと気配を感じさせずに現れたのは黒い着流しを着、背丈の高く筋肉質な体を持った顔の厳つい人だった。気配を感じなかったことに驚くがそれを悟られまいと笑顔で受け答えをする。

「隼人さん聞きました!?この子あの紫藤議員のご子息だそうですよ。」

多少興奮気味に美雲が夫である隼人に話しかける、どうやら思った以上に豚のネームバリューの効果は高かったらしい。


「ほぅ、あの紫藤議員の・・・」

隼人の秀治を見る目が少し変わったように思える、少し目を見張りこちらをマジマジと観察するように見てくる、その視線に多少の居心地の悪さを感じるがここは我慢するしかない。

「おっとすまない、ここで話をするのもなんだ、上がりなさい。夕飯も出来ている。」

「此度は夕飯にお招き頂き有難うございます、それでは改めてお邪魔いたします。」

頭を深々と下げ感謝の意を表して靴を脱いでちゃんと並べてから隼人の背中をついて行く。紫藤家は礼儀作法の教育は徹底しているのだ。親が自分の顔を潰されたくないが故に・・・。

「っとと、その前にこれを渡しておくよ、危うく持ったまま行くところだった。」

慌てて冴子に向かい買った服、そして着てきた服の入った袋を差し出す。

「あぁ、有難う、今日は中々に楽しい一日だったよ、次も楽しみにしている。」

袋を受け取り嬉しそうにそう言って隼人が行った所とは別の場所に向かって歩いていく、おそらく自室に行くのであろう、つい覗いてみたくなったがそれをすればもれなくジ・エンドであるので自重する。

「どうした秀治君?来ないのかい?」

奥から隼人の声が聞こえてくる。

「あっ、すいません今行きます。」

慌てて、それでいて走ることなく隼人が向かった方へと急いでいく。



毒島家の両親による娘についた悪い虫かどうかの判別は未だ始まったばかりである。




おまけ

「ねぇ、冴子、その服は一体どうしたの?」

朝着て行った服とは違うことに小首を傾げながら娘に問いかける。

「これですか?、これは秀治君が買ってくれたものですよ。あの服では自分にも他の男共にも刺激が強すぎるとか言って、そう言えば他の男に私のそのような格好は見せたくないともいってましたね。もぅ顔を真っ赤にして、あの時の秀治君は少し可愛かったですね。」

冴子はその時のことを思い出してクスクスと笑い始める。

「女の子をあの格好のまま連れまわすような人間ではない・・・と。」

それ故にボソリと呟かれたその言葉を聞き逃してしまったのは必然であった。

「今何か言いましたか?」

「あら?今私何か言ったかしら?」

全くの自然体で本当に不思議そうに小首を傾げて問い返してくる。

「そう・・・ですか。空耳かな?それではまた後で。」

そう言って自分の部屋へと入っていった。

「第一試験は合格かしら?あの買って貰った服の量からして秀治君は女の子に尽くすタイプかしらね。礼儀作法も合格、家柄も合格、後は隼人さんが人となりを見極めるだけかしら?悪い子には見えなかったからそれも合格かしら?それにしてもあの子、本当にあの服が可笑しく無いと思ってるのかしら?私の娘ながら服の趣味がわからないわ。」

ふぅ、と困ったように頭を抑えてため息をつきながら家の奥へと歩いて行った。おっとりしているようで見るところはキッチリ見ている一癖あるというより一筋縄ではいかない人であった。

ちなみに毒島流服飾術とはどうやら相手の男がどんな反応を返すかを試すために作られたものであったらしい、(冴子はそれを知らず本気で信じている)知らないところですでにテストされていた秀治に幸あれ。







ぬぅ、眠い・・・、親に隠れてパチパチとキーボード打たなきゃならんから投稿がこんな時間になってしまう。ちくせう、それはそうと半オリキャラの毒島家の両親が登場、書いてたら自然と腹黒っぽくなってたなぜだ?それはそうと私のIDはたまに変わる時があります。おそらくPSP、デスクトップ、ラップトップのいずれかのパスかトリップが違うのでしょうが、統一してるはずなのになんでだろ?



[19019] 6話目 中編
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:104368c8
Date: 2010/06/06 09:59
夕飯食べて談笑してたらいきなり試合うことになっていた、何を言っているのか(ry


6話目 中編



「全力で来なさい。」

そう言って目の前で竹刀を構えるのは毒島家現当主毒島隼人その人だ。

面越しでもその目が猛禽のように鋭くなりこちらの動きを完全に捉えているであろうことがわかる。

こちらがどう動いても勝てるビジョンが浮かばない、一合すら剣を合わせなくとも理解できるものはある。

つまり・・・、今の自分とは格が違うのだ。それも次元のレベルで、

これが本物の達人というものかと頭で感じずともすでに本能が察知している。

肌があわ立ち全身が微かに震えていることを今更ながら自覚する。

それは圧倒的強者を目の前にした怯えがそうさせているのか?はたまた自分よりも明らかに格上の者と戦えることに対しての武者震いか・・・。

それは今自分の顔に浮かんでいるであろう、歪んだ笑いと極上の機会を前にしてギラついた瞳を見れば明らかだろう。

今の段階では自分では勝つことができない、それは竹刀を目の前に構えられた時に悟った。

ルール無用の世界での勝負ならば万に一つでも勝ちを拾える可能性もあったであろう。

なぜなら自分の振るう剣は邪道、正道に慣れた者ほど不意をつける剣だ、尤もここまで実力差があるのであればその利点は潰れるのだが・・・。

以前、冴子が自分のことを軽業師と言っていたがあながち外れているわけでもない。正等な剣士であったならばあの動きは出来なかったであろう。

なぜならそんな動きは想定されていないからだ、どこに腕だけで体重支えて相手に蹴りを入れる事を教える所があろうか?ルールに反している事はまず教えられることはない。

正統派の坊ちゃん剣術ではなく不良相手とはいえ実戦で鍛え上げてきたのだ、手加減や油断をすればどうなるかわからない世界で・・・。

そんな中でルールだ何だと言えるだろうか?いや、言えない、言ったとしても聞き入れられることはあるまい。ルールに反した動きであろうとそれを取り入れて自分のものにしなければやられる世界。

それが今まで自分こと紫藤秀治が身を置いてきた世界なのだ。

故に振るう剣も正道ではなくどこか盗賊めいた土臭い匂いを感じさせる剣を身に着けるのも必然であったといえるだろう。秀治本人から言えば「自然と身についていた動き」というだけであろう。

初めて不良に襲われ実戦を経験した時には不完全ながらもすでにこの動きの雛形はあったのだ、それをさらに研磨した剣が今自分の振るう剣である。

しかしその動きは剣道の試合という形では全く機能することはない、理由は多々あるが代表的なものは「その動きをすれば反則をとられる」からだ。

自分からすればこれほど窮屈なものはない、自分の思うようにさえ動けないのだ窮屈と言わずしてなにがあろうか?

別に試合だから特別弱くなるわけではないそれは大会で優勝した実歴が語っている、多少実力を抑えられるだけなのだ。だからこその剣道大会での「弱い」という言葉にも繋がる。

本気を出すことさえ出来ない自分に手も足も出ないとは何事か、そんな意味を含めて吐いた台詞なのだ。

正式な試合という形でぶつかり会えば秀治は冴子といい勝負はするが勝てる割合は低いであろう。

今まで強者に導かれて強くなってきた者と日々喧嘩三昧で叩きあげで強くなったもの、その両者の差でもっとも顕著なものは技量の差である。

経験を積み、自分の体が元から知っていたかのような動きをなぞる秀治には剣の騙す技術がない、見破る技術はあれどもそれだけは試す相手がいなかったのだどうしようもない。

その差を埋めて余りあるのが自分の動きである、騙す技術が無いのであれば元から動きを悟らせず動けば騙す技術も必要が無い。それで今までやってきたのだ。自分の18番は別として試合で自分から動いて攻め立てないという理由もそこにある、相手を騙せないならばあえてこちらから動く必要もないのだ。

その動きが封じられた試合での勝負で冴子よりそして自分よりも明らかに強い隼人に勝てるという道理がどこにあろうか?

しかし・・・、だからといって初めから勝負を諦めるほど殊勝な心がけもしてはいない、そうしようとも思わない。

どれだけ不利な状況であれ一欠けら程度の勝機はどこかに転がっているのだ。たとえ無かったとしてもそれを探すのを諦めればそこで終わる。たとえ諦めるとしてもそれはのど元に刃を突きつけられてからだ。

溺れる者は藁をも掴むと言う、人からすればそれは無様だと言う人もいるだろう。しかし藁すら掴まない者はただそのまま沈んでいくだけなのだ、ならば足掻くことなど恥にはならない。

そうして思いついたかろうじて一矢報えそうな手段は一つ大会でも使っていた18番である。

大抵の人物ならば初見殺しになりうるこの技であればあわよくば一本奪えるかもしれない、最低でも相手を驚かせることはできるだろう。

そう考えて腰を軽く落とし、足に力を込め相手が自分の間合いに入るのを待つ。

その姿を見て隼人がピクリと眉を動かしたが面越しであるためにそれに秀治が気づくことは無かった。


ジリ・・・ジリ・・・・ジリ・・・・


ジワジワと両者の間合いが詰められていく、そしてある程度狭まった時、

弾丸のように秀治が相手に向かい真っ直ぐに飛び込み同時に竹刀を振るう。

「なっ!?」

読んでいたのか秀治が飛び込むと同時に隼人が後ろに跳び自分の竹刀が届かないギリギリのラインまで下がる。そしてそこは自分が届かないが隼人なら届く間合いの中。

飛び出したものは止められない、必中を胸に振るった竹刀もそのまま止まらずに振り切られるだろう。

つまり、今この瞬間に置いて秀治は相手の攻撃を避ける、又は受けることが出来ない状態それを狙われるのは必然であった。

「面ッ!!」

烈風もかくやというほどの勢いと気迫を持って竹刀が秀治に振り下ろされた。

バァアーン!!

何かが弾けたような音が道場の内外に響きわたる。そしてその音の残滓が消えると同時に糸の切れた操り人形が如くグラリと体を傾がせ秀治が床へと沈み込んだ。

「め、面有り!!一本!!しゅ、秀治君!?」

審判を勤めていた冴子が倒れた秀治に駆け寄り介抱を始める。

「流石にやり過ぎじゃあないかしら?」

邪魔にならないように道場の入り口で観戦していた美雲が心配気に気絶した秀治を見やりながら少し咎めるように言う。

「やはりか、なるほど大会では誰も反応できないわけだ・・・。」

隼人が面を外しながらボソリと言う、どうやら美雲の言葉は聞こえていないらしい。

「どういうことかしら?」

その言葉の意味を図りかねて、何かを考えこんでいる顔をした隼人に問い返す。

「なに、面白いと感じただけだ、冴子の話では彼は我流、のはずなのだが・・・、ハッキリとした武の気配がある。それも長年研磨したかのような・・・な。」

「結局一合も剣を交わしてもいないのによくわかりますね。」

「あの飛び込みと太刀の速さを見ればわかる、あれはまだ未熟ながらも恐らく縮地とそして居合いだ、縮地からの居合いなるほどそれならば大会で反応できる者がいなかったのも頷ける。全く、あの若さで縮地の真似事とは恐れ入る。」

そう言って娘に上体を抱き起こされ気付けに顔をペシペシ叩かれている少年を面白気に見やる。

「それに見たところ動きの無駄が少ないし普段の移動時でも重心が安定している。やはり師となる人物が居るのだろうか?いや、あの子が嘘を言う必要も無い、となれば自力でか・・・・・・ふむ、欲しい・・・な。」

「はい?」

「師も持たずしてあの強さ・・・、うむやはり欲しいな、弟子に。育ててみれば面白そうだ。どんな成長をみせるのか楽しみでならん。」

クツクツと笑いながら介抱されている少年を見やるその目はもはや獲物を見るような目であった。

「え、いや、あの隼人さん?」

話に置いて行かれた美雲が困惑気に楽しそうな隼人の顔をみやる。

「心根は曲がってはいないと見た、剣に血の匂いがするのが気に入らんがまだ若い、矯正も効くだろう。それと、あれはそろそろ止めた方がいいかな?」

すこし額に汗を浮かべてもはやペシペシではなくバシバシといった勢いで顔を叩かれている少年を見る、娘のどこか楽しそうな顔は見なかったことにしよう。そう言ってみていると少年が目を覚ました。


「痛って!!オラァ!!いきなり何すんじゃコラァ!!」

「何って、気付けだ、分かるだろう?」

「分かるかぁ!!強く叩きすぎなんじゃ!!顔ジンジンするやんけお前どんだけ叩いとったんじゃ!!」

「君が気絶してから気づくまでずっと。」


喧嘩しているようでどちらともあれでなかなか楽しんでいるらしいギスギスとした雰囲気が無い。あるとすればコメディな雰囲気だろうか?

さぁ、秀治君の明日はドッチだ!?













作者です、更新遅れてすいません、ちょっと書くのに手間取ってましたちょいと難産です。



[19019] 6話目 後編
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:104368c8
Date: 2010/06/09 23:31
「さて、何から話そうか・・・。」

ここは毒島隼人の私室、あの後「個人的な話がある」と言われ連れてこられた場所である。
先ほどの道場とは違い今この場にいるのは隼人と秀治の二人だけである。

「君には師が居ないそうだが、それは本当の事かな?」

真剣な顔をしてそう聞いてくる。

「確かに、私には師に当たる人物は存在しておりません、しかし何故それを?言った覚えはありませんが・・・。」

「なに、冴子から聞いただけだよ、君の事を我流剣術という名の曲芸のような動きを見せる軽業師のような面白い奴だと言っていたよ。ふむ・・・、君が嘘を吐いているようには見えない・・・となると本当に師がいないのか、これは驚きだな。」

「え・・・と、何か御座いましたでしょうか?」

途中からボソボソと呟くように言われたので聞きとれることができず自分が何かしでかしたのかと多少不安になってつい居住まいを正してそう聞いてしまう。

「あぁ、こちらの話だ気にしなくていいよ、おっとそうだ、少し気になったことがあるんだがいいかな?それと、口調、元に戻しても構わないよ。冴子と喧嘩していたときのが君の素だろう?」

「あ、そんならお言葉に甘えて、ワイが言えることやったら何でも聞いてやって下さい。」

あまり好きではない外用の口調から解放されて肩の荷が降りたと言うように長く息を吐きながらそう言う。

「君の剣から感じる血の匂い・・・、あれは何だ?」

ヒュッと息を呑む音がやたらと大きく聞こえた、その言葉を放った本人は先ほどと変わらない表情をしているようで少し細められた目がこちらを探っている、目を合わせていると自分の全てが見透かされてしまいそうな気さえする。しかし目を逸らすことは礼儀に反するので出来るはずがない。

手が汗で湿ってしかたがない・・・・

「いつ・・・、それに気付きましたか?」

口調が緊張により対外用に戻る。

「君が剣を構えた時だ。人を切った事のある気配、そして血の匂いを感じた、それが気に入らなかったからつい本気で打ってしまった。その件についてはすまなかった。謝るよ。」

そう言って隼人は頭をこちらに下げてくる。

「頭なんて下げんといて下さい、ワイにもええ経験になりましたから。それと、血の匂いの理由ですか・・・、やっぱり言わなあきませんか?」

慌てて頭を上げるように言う、しかしそれで多少緊張が紛れてほんの少し、猫の額程度の余裕は持つ事ができて口調を元に戻すことに成功する。


「是非とも教えて貰いたい。娘と一緒にいる人間の人間性くらいは把握しておきたいと思うのが親の心と思わないかな?」


「確かに・・・、その通りですね。解りました、洗いざらい話します。それでも絶対に言われへんことは言えません。」


「君が自分で言える範囲で構わないよ、私もこれ以上無理やりにでも聞きだそうとは思ってはいないからね。」

安心さえるようにこちらに笑顔を見せてはいるが、目が全く笑っていない。本人が言っているように深いところまで聞いてくるつもりはないようだが、これはかなり深いところまで踏み込んで話す覚悟を決めなくてはならないだろう。それならばと思って口を開く。


「血の匂いがすんのは・・・多分ワイが修羅道みたいな道歩いてるからやと思います。」

小さくともハッキリと聞こえる程度の声の大きさの声が思ったよりも大きく聞こえるような気がして少し驚く。


「ほぅ?修羅道かね。近年そんな道を歩けるような世の中では無いと思っていたのだが・・・どうやって歩いてきた?」

多少興味を持ったように少しだけ眉を動かしたがそれだけだ、鋭くなった目はまだこちらを捉えて離そうとはしていなかった。


「始まりは、武術を始めた切欠は小3の時です。その時にワイのそれからの人生を一変させる事件が起きた・・・、そしてワイはもうそんな目に合うことのないように強くなろうと誓った・・・誰よりも、何よりも・・・ワイから何も奪わせも尊厳を踏みにじるような真似もさせへんと誓ったんや・・・。」

その当時を思い出してどうしても目が濁り、鬼気を纏い少し殺気立ってしまう。


「君が小学三年というと5年前か・・・、もしかしてあの事件かい?紫藤議員の御子息が攫われて身代金請求をされたっていう・・・。」

そんな自分を痛ましいものでも見るかのような目で見てくる、恐らく何がその事件であったかも覚えていたのだろう。自分としてはあまり歓迎できることではないがそれならば話は早いなにより自分で言わずにすんだのだ良しとするべきであろう。


「えぇ、その通り、その事件で相違ありませんよ。それが起こってから人間不信になりながらも必死で強くなる術を求めて色んな武術に手を出しました。そん中でシックリ来たのが剣術、そして合気道の二つでしたわ、道場の人に連絡して、そこの師範代に家来てもらって鍛えてもらったもんです。合気道の方はある技一点以外ほとんど会得出来ませんでしたわ。ワイが3年かけて唯一習得できたんが入り身やった。」


「なるほど、君のあの縮地の真似事はその入り身からの派生かい?もともとそれが出来るのを知っていたのとその動きが正直だったから反応できたものだが、いやしかし武術の質が違うのによくあそこまで剣術用に変化させることが出来たね。そしてやはり君に師はいたのか・・・。」

感嘆したように言ってから嘘を吐いていたのか?と咎めるような目をする。


「あぁ、今は師となる人物は居ませんよ。合気も剣道も辞めてます家の兄はまだ合気道続けてるみたいですけどね。才能あったんかもう素手やったら兄には敵いませんわ」

ククと笑い自分の兄の顔を思い浮かべる。


「っと話が逸れましたか、入り身のアレンジについては・・・、なんと言いますか元から知ってたような気がしないでもないんですよね。それはまた後で話すとして、続けましょうか。」

そう言って多少崩れてきていた居住まいをまた正す。正直そろそろ足が痺れ始めてきているがそれを顔に出すようなことはしない。

「そうですね・・・、どこまで話ましたか・・・、あぁ、確か事件が起きて鍛え始めたって所でしたか、それから時は一気に飛んで中1になりますか・・・、ほら、ワイの見た目ってひ弱に見えるやないですか、それが理由やったんか、かなり絡まれたんですよ。不良共に。初めてそれを撃退した時は喜びに打ち震えましたよ、昔のワイとは違う!!もうただ蹂躙されるだけの存在やないんや!!って」
その時の事を昨日のように思い出してまだ一年しか経っていないというのにかなり昔のように感じた自分を可笑しく思う。

「そして絡まれては撃退して逆恨みされてまた襲われる、これが続いて、高校生やヤクザの人とも相手することもザラにあるようになった。その時あたりですね入り身が縮地の真似事みたいに変化したんは。」

本当にあれが一年前の事なのかと思うほど懐かしく感じる、それは昔にあって今には無いモノ、そして自分の求めているものがそこにあるからだろう。


「そしてそれからしばらくして気付いてもうたんですよ・・・、ワイが、撃退できることを喜んでるんやなくて相手を好きなように殴れて倒せるから悦んでるんやと。そう気付いたら後は早かった、やってた武道をすぐに辞めましたよ、武の道を歩けるほど正常な人間や無いって気付いたから、それでも絡まれるのは収まるわけでもなかったから撃退はし続けてました。でもワイは・・・ワイは・・・」

そこから先は少し言う事に躊躇いを感じる、自分にとってのもはや払拭することが出来ない汚点となる場面なのだ。信じれる人物であるとはいえ、躊躇うのが当然である。
隼人はそれを察してか先ほどから目を瞑り何も言わず聞きに徹している。それをありがたく感じながらその先を言う覚悟を決める。

「ワイは・・・、それに溺れてもうたんですよ、戦って得られる快感に・・・、溺れてからは、自分から絡まれやすい場所に行って、喧嘩の毎日、それでもその喧嘩の毎日は突然終わることになった、それはある日ワイが不良の知り合いのヤクザの人とやりあった時、慢心が過ぎましてね、そいつが持ってたナイフ投げつけられたんですよ、そしてそれがワイの腕にちょいと刺さりましてね、そこから先はあんまり覚えてないんですわ。ぶち切れて、気がついたらそいつの持ってたナイフをそいつの足にかなり深く刺して、逃げられへんようになった相手を竹刀で生かさず殺さず嬲ってたらしいですわ。」

腕の服をまくって右腕に奔っている傷を見せる。

「らしいとはどういうことかな?」

それに全く動じることなく平静を保ち片目を開けて問いかけてくる。

「ワイも覚えてないんですよ、気がついたら軽い血の海ができてて、ワイはその中で蹲って泣き叫ぶ力も無くなった奴に竹刀振り上げてたんですわ。それで救急車呼んでその場を後にしたんです。その話しはその場におった奴に聞きましたよ。」

「警察ごとにはならなかったのかい?」

「ワイの父親が動いたらしく、そのヤクザの組自体に圧力かけたらしいですわ、詳しくはワイも知りません、兄に聞いた事ぐらいしかその後については知ってません。その噂が流れたんか不良もなんも絡んでこんようになったんです、そしてふと気がついてワイの周りを見渡してみたら誰もおらんようになってたんですよ・・・。もともと親友なんておりはしませんでしたが・・・、ちょっとショックやったもんです。それで腕だけは錆びひんようにと部活で竹刀振るつまらん毎日を過ごしてた。それが中1の終わりから最近まで続いてました。」

半ば自業自得とはいえ失ったものの大きさを思い出してギリッと歯噛みしそのことを後悔して言う。

「今は違うのかい?」

「今は違います、ほんの最近、冴子さんが暴漢に襲われとった日にそれは一変したんです。あの時ワイはいけ好かんゴミを掃除する程度の気持ちで助けに行った、けどそこで見たのは冴子さんが蹲る暴漢に木刀を振り上げてる姿、その姿がどうしても被ったんですよ、血に濡れて竹刀ヤクザに振り上げてた自分に、そんな後味悪い経験、女の子にさせるわけにはいかへんかったから止めに入って、勘違いされてワイごと切られそうになりましたが、まぁ、なんとか勝ってその場を納めれました。」

今でも鮮明に思い出すことができる、それだけ自分にとっては大事な出会いだったのだ。忘れるなどできるはずが無い。

「ワイにはさっき言った通り、友人と言える人物はいません、いても朝会ったら挨拶してくる奴らぐらいのもんです。そんな中、ワイと張り合えるほど強い女の子が友人になってくれたのは、めっちゃ嬉しかった、暗闇の中で何するわけでもなく燻ってたワイにとって光明みたいな存在やったんが冴子さんやった。それに、冴子さんからはどことなくワイと同じ臭いがしたんですよ、自分に近い存在と友人になれたと思ってその日家に帰ってから狂喜してました・・・。そんなこんなでまた毎日が楽しく過ごしていけるようになった。冴子さんにはお礼のしようもありません、燻って落ちぶれてたワイを再度発火させてくれたんですから。まぁ、ワイの歩いてきた人生はこんなもんです。」

夢中になって解らなかったがとても長く話していたらしい、喉が渇いてたまらない。
隼人は先ほどの話しを吟味しているのか眼を閉じたまま考え込んでいる。
・・・どうやら何か結論が出たらしい、静かな凪いだ眼でこちらを見つめくる、先ほどまで感じていた重圧感は消えている。

「君はもう武道の道を歩む気はないのかい?」

「いや、このままじゃいづれ冴子さんに勝てなくなるほど差が着けられるからまたどこかで鍛えなおそうかと思ってましたよ。どうやって鍛えるか困ってましたけど。」

これは偽りのない本心だ、武の道から外れたとはいえ今持っているモノを腐らせる理由にはならない、むしろ競争相手がいるのだ、実戦から離れ多少錆びていた腕をまた磨きなおす必要があったのは確かだった、

「なら、話しは早い、君、私の弟子になってみないか?私がこの家にいるときは手解きしてあげよう、いないときは冴子と打ち合っておけばいい。」

「は・・・?今なんと?」

言われたことが理解できずに、いや信じることができず問い返す。

「私の弟子にならないかと言った。」

言っている本人はさも当然といった表情でこちらを見ている。

「いや・・・、ワイの話し聞いてましたよね?」

何を言っているんだこの人はと思いつつ念のため確認する

「無論聞いていたとも。」

「正気ですか?正道から外れて力に溺れた人間ですよ?ワイは、それでも弟子にするって言うんですか?」

顔が思わず険しくなり相手を睨むようになってしまう。

「くどいな、それがどうしたというのだ?」

「なっ!?」

言われた言葉に驚愕し、後に出てきた怒りの感情で口が上手くまわらなくなる。

「君ぐらいの年齢でそれほど力を持っていれば酔いたくも溺れたくもなるまだ君は若いんだそれだけの才能に恵まれているのに捨ててどうする、安心するといい、君の進んでいる道は昔は剣の道と言われていた道の一つだ。修羅道?戦いが無くてなにが剣の道か。」

今まで自分自身が蔑んでいたことを肯定され、怒りは水泡のように消えうせ代わりに困惑と感動がこみ上げてくる。

「それでも・・・ワイは・・・ワイは・・・。」

頭が回らず、何を言いたいのか自分にも良くわからない。動揺を表すかのように眼が揺れ動いている。

「大体だ、君はその事を悔んでいるんだろう?なら大丈夫だ、君はまだ剣士を名乗れる。何も感じないのは鬼か悪魔ぐらいのものだ。」

「本当に・・・、ワイを弟子にしてくださるんですか?」

こみ上げる感情を何とか押さえ込み搾り出した声は擦れていた。
目頭が熱い、心が何かで満たされたような感じがする。

「勿論だとも、私は君がどこまで強くなるのかが見たい、生まれる時代を間違えたような君がこの時代でどこまで名を上げることができるのかが私は知りたい。たから、私は君に甘くは一切しない、潰れずについてくることだ。いつか私を超えるほど強くなるのかが楽しみだよ。」

「解り・・・ました、喜、んでついていかせて・・・貰います、師匠!!」

ついに我慢していた涙腺が決壊したのか眼から涙が出て止まらない。
それは蔑んでいた自分を認めて貰えたが故か?
それとも自分を必要としているといわれたが故か?
それは秀治本人にしかわかることであった。













どうも作者です。
過去語りなので会話がメインです。読みにくかったらごめんなさい。
まさか書くのに2晩かかるとは・・・、徹夜続きで眠くてしかたがない。この話し書く上で2,3度没ってるからやたらと時間がかかった。スタートまで残り3年そこらですがサクサク進めていくしかないね!!(具体的には一話につき2から3ヶ月飛ばしで)
早く藤美学園に入学させなければ!!




[19019] 第7話 前編
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:104368c8
Date: 2010/06/16 03:50


空はどんよりと曇り今にも雨がふりそうだ、そんな天気の中、少し沈んだ表情で浩一は車を走らせていた。隣には険しい顔をしてムッツリと黙り込んでいる秀治が腕を組んで座っている。


「最近変わりましたね、秀治。」

車の中にまで充満し始めたどんよりとした空気をなんとかしようとして、隣に座る秀治に話しかける。


「ん?いきなり何の話や?」

片目だけ開いて兄を見る。何の話か考えて無意識に眉間にしわが寄る。


「身に纏っている雰囲気がここ最近変わってますよ。主に毒島・・・冴子ちゃん?でしたっけ?その子と知り合ってからあたりでしょうか。」

「あー、まぁ前と比べたらそりゃぁ、なぁ・・・、変わっとるとは思うで、うん。」

得心がいったのか首を縦に何回か振ってその意見に同意を示す。


「前のあなたからはただ腐っていくだけで見るに堪えなかったですが、今はどこか芯が通ったように感じます。眼が昔のようにギラつき始めていたので心配していましたが・・・、どうやらその心配も杞憂に終わったみたいですし。」

「あー、やっぱりわかってたんか・・・。」

半ばそうじゃないかと予想していたので余り驚きもせずクツクツよ笑う。どちらかというと驚きよりも予想が当たって面白いという気持ちの方が強かった。


「昔も言いましたが・・・、あなたの面倒を昔から見てたのは私ですよ?そんな私の眼を誤魔化そうなんて百年早いっていうものです。しかし本当に変わりましたね、昔のあなたには無かった芯が出来るなんて。」

「いや・・・、まぁ、認めてもらったんよワイの人間性を・・・、それも他人からな。」

カラカラと照れ笑いしながら答えを言う。それを聞いた浩一は一瞬驚いた顔をしたがそれをすぐに引っ込めてまるで自分の事のように喜び始める。

「へぇ、認められたんですかあなたの人間性を・・・、で誰なんです?認めてくれたのは?冴子ちゃんですか?」


やたらと問い詰めてくるのは気になるからであろう。それもそうだ、秀治の本性を知ったそれか見た人間は大抵近寄ってこなくなる。基本的に一人ぼっちだった弟を救った人間が誰か気にならないはずが無い。それは家族である自分には出来なかったことなのだから・・・。


「フフン!!聞いて驚け!!なんとあの剣術家で有名な毒島隼人師匠や!!あの事を言ってもなんら動じることなくワイをそのまま受け入れて肯定してくれたんや。」

「それは良かったですねぇ、その人には感謝の念しか浮かびませんよ・・・。それで?冴子ちゃんには言ったんですか?というよりもどこまで関係進んだんですか?もはや向こうの親公認と同じ状態でしょう?」


何故だか知らないが兄はこの件に関してはかなりしつこく問い詰めてくる。そんなに気になる事なのだろうか?弟の事を気にする前に自分も彼女の一つや二つは・・・、二つ作ったらいけないか・・・・。

とりあえず彼女を作れと言わざる終えない。兄ほどの顔と経歴の持ち主ならばモテルだろうに・・・、何が「女性には興味が余り無いんです。」だ。

一時それで男色かと思ってかなり引いてたことがあるのは知っているだろうに、それ言った時は初めて兄と殴り合いの喧嘩になった事は忘れない。結局投げられまくって一方的に負けて


「見たか愚弟!!これが兄の力だ!!」


と言われたことは屈辱の記憶として色濃く残っている。

話しを戻したら早く彼女を作れ23歳独身男めが、頼むから弟の自分を安心させてくれ、売れ残ったとか言われたら笑うしか無いぞ・・・。


「いやー、冴子はんは唯の恩人やで?それはそうとコー兄も浮いた話は無いんかいな?」

こういうときはワザとボケた答えを返して切り返すに限る、どうせお決まりの台詞が帰ってくるだろうと解っていても弟の立場からしていわずにはいられない。


「何度も言ってるでしょう。私は男にも!!女の人にも余り興味がないんですよ。それにそんな話があったとしてもそんな話を私があなたにすると思っているんですか?弱みになりそうなことをワザワザ。」


男の部分にやたらと力が入っているのはその道の人だと勘違いされたのがかなり嫌だったからだろう。確かに自分がそれだと思われたらそう勘違いした奴を殺したくなるが。


「はいはい、思っとりませんよ。人に弱みを握らせるようなことはするな。それは家族にも同じことである。弱みを握られたらその者に逆らえなくなるのと同じだと思え・・・、やろ?その話は耳にタコできるほど聞いたっちゅうに・・・。」


昔から兄が自分に教え込んでいる教訓である。母が死んでからぐらいに言い始めたことだっただろうか?古い記憶で余り記憶にない、というより幼少時のことはあまり思い出さないようにしている。余計なことも思い出してしまうからだ。


「あなたはその自覚がまだ足りませんよ、足元を掬われてからでは遅いんですから。それにしても貴方を認めてくれた人は私を含めて二人目・・・。良かったですねぇ、秀治。増えたじゃないですか。」


本当に嬉しそうに笑ってくれる。そのことになにやら照れくさく感じることもあるがこの次の台詞が予想できる故に今回は余り何も感じない。


「で?冴子ちゃんには言わないんですか?それとも言うつもりが無いんですか?」

ほら来たとしか言いようが無い。

「んー、あいつにこの事を言うんはなぁ・・・。」

この事は現時点一番の悩みとも言える問題だ。思い切って告白するのかそれとも言わないでいるのか・・・。


「何か言えない理由でもあるんですか?嫌われたくないとか?」

「いや、そんな心配はしてへんよ?・・・ただあいつは・・・昔のワイとよう似とんのよ。上手い事自制してるみたいやけど・・・、ガチでやりあったワイには解る、あいつは血に飢えたところがある。」

「・・・、よくそこまではっきりと断言できますね。何か理由があるんですか?」

そこまで自信有りげに断言する弟を意外に思って問い返す。

「・・・、戦ってる時に見た顔がワイの哂い顔にそっくりやったんよ。まだ色々と理由はあるけど、まぁ似たようなもんや。だからこそあいつにはこの事は言いたくないんや。あいつは厳しくも優しくもある。特に自分に厳しい奴や・・・それは自制できてることから解る。ワイはできひんかったからな・・・、まぁ否定はされへんやろうけど・・・、傷の舐めあいみたいな関係になりそうで嫌なんよ、ワイは。」


そう言ってからまた目を閉じる。この話題は終了だと言わんが如く。その空気を察したのか兄はそれ以上踏み込んでこようとしてはこなかった。

「そいじゃ、ワイは寝るわ。着いたら起こして。」

そう言って背もたれを倒して仰向けの状態になってから腕を顔を隠すように乗せる。


「おや?眠るんですか?」

「あぁ、あっち着いたらずっと対外用の口調で話さないかんし、それにあいつに会うしな・・・。」


ずっと避けていた話題を振ってきたことを少し憎らしく思うがそれが弟なりの甘え方だと理解しているので憎みきることはない。
むしろ文句を言ってくるのは可愛いぐらいだろう。

弟は本気で嫌いな人には何も言わないのだから、愚痴や文句を平然と言ってくるあたり懐かれているんだろうと思う。


「父のことはあいつと言ってはいけませんよ。少なくとも本人の目の前では。」


自分も確かに好きな相手ではない、むしろ嫌いと言えるだろう。もはや父にはなんの期待もかけてはいない。

あの時弟を見捨てて自分の保身に走った父を見て理解した。もはや私達兄弟は父にとって要らないのだと。


「わかっとるよ、んなヘマはせーへん。けどあの糞親父には会いとー無いわ、何時まで経ってもな。母親の親族もや、あいつらワイらの事母親殺した親父の子としか見とれへん。ワイらも十分被害者やゆーねん。」

心底面白くないというように先ほどの上機嫌な口調は消えうせ、声のトーンが下がっている。


「それが解らないのでしょう、彼等には。何だかんだ言って自己中心的な人物しかいませんから紫藤家の血族には。母も父に裏切られた悔しさで貴方の育児を放り投げて酒に溺れて死にましたから・・・。」


いまだに何故あの父を見捨てなかったのか解らない。他に女も子供も作られても何故愛し続けたのかが解らない。そんなに魅力のある男には見えないのだから。

もしかすれば引き止めていたのは国会議員の妻という地位と良い暮らしだろうか?それとも母の女としてのプライドだろうか?

どれほど考えてもこれに関しては答えがでそうになかった。


「にしても何であの糞親父は来るんかねぇ?見捨てた女ちゃうんかいな?」

「表では上手く仮面被って生きてますからね、自分の風評悪くなることはかなり追い詰められた状態でしかしませんよ。裏ではバレない範囲で良くやってるみたいですけど。まぁ、元とはいえ妻だった人の七回忌に出席しないことはしないでしょう。狸ですからねあの人は・・・。信じるだけ馬鹿をみますよ。」

「ワイらは支えあってこーや。周りは敵だらけ、信じられる奴なんておらんねんから。」

「私が貴方を捨てることはありませんよ。あなたは弟でもあり息子のような存在でもあるんですから・・・。」


今まで自分の手で育ててきたのだ。父に指図されることも無くただ自分の意思で、グレた時もあったがそれでも見捨てることなく大事に育て続けてきた存在を今更捨てられるわけが無い。


「支えられっぱなしやの・・・、ワイは。いつか・・・返さなあかんなぁ・・・。」

眠くなってきているのかだんだんと声が小さくなってきている。

「眠りなさい。ちゃんと着いたら起こしてあげますから。」

そんな弟の様子を微笑ましそうに見ながら言う。

「あぁ・・・、ありがとな・・・、んじゃ、・・・おやすみ。」

「えぇ、お休みなさい。」


車のエンジン音と周りの車の音を抜けば弟の寝息ぐらいしか聞こえない。

少しして完全に寝たと確信できてから暖かい微笑を浮かべて秀治の顔を見る。そして・・・


「返さなければならないのはこちらの方もですよ・・・、あなたの存在で私がどれだけ救われているか・・・、あなたが居なければ私は父の操り人形のままだったかもしれないんですから・・・。」

とエンジン音にすらかき消されるほどの小さな声でそう呟いた。










作者です。とりあえず

更新遅れて本当にすいませんでした!!最近MAIN掲示板に常駐してたから書く暇がとれんかった!!

それに今回の話しは今後に左右してくる話しなだけに手がぬけんかった。反省はしている。

次回の更新もいつかはわかりません7日間以内っていうのが一応の期限にはしているんですが・・・、MAIN掲示板で気になるスレがいくつもあって・・・、それに第7話は今後に紫藤浩一のスタンスに関わることですから完全に全力で取り組まないと後で後悔するんです!!(主に私が)
なので少し更新が遅くなるかもしれませんがご了承ください。
あと、少し改行のしかたを変えました、前より読みやすくなりましたかね?



[19019] 7話 中編
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:104368c8
Date: 2010/06/18 01:44


「起きなさい秀治、着きましたよ。」

体が揺すぶられる感覚に合わせて声が聞こえてくる。

「ん・・・、あぁ・・・、もう着いたんか・・・。」

まだ重いマブタをどうにか開いて眼を擦りながら背もたれごと体を起こして多少狭いながらも車内で体をグッと伸ばす、



「くぅぁー・・・、ん!!よう寝た気ぃする。体が凝り固まってしゃーないの。」


体のあちこちの骨からゴキゴキという音が聞こえてくる。あまり無茶な体勢で寝た覚えは無いので純粋に寝心地の悪い椅子で寝たのが原因だろう。



「えぇ、とても良く眠っていましたよ、後10分で式が始まりますから早く行きますよ。」

そう言うが早いかさっさと車から降りて傘を差して行ってしまった。



「はぁ!?後10分!!?ってマジや!!えっ!?ていうか後1,2時間あたり余裕持できるように来たよな!?寝てる間になにあってんや!??」

慌てて腕時計を確認して嘘でないことが解りさらに慌てることになってしまったが、ワタワタとしつつも寝ている間に着崩れた衣服をすぐに整えてから持ってきていた傘を引っ掴んで車を降りるあたりにまだ余裕が見える。



「ちょ!!まってやコー兄!!」

扉を勢いよく閉めて少し転びそうになりながらも先にいく兄の後を追うように着いて行く。
後ろの車から聞こえてきた電子音はおそらく兄が遠隔操作でカギを掛けたのだろう。
しかし何故こうも時間が飛んでいるのか?新手のスタンド使いが襲来でもしたか?など馬鹿なことを考えているうちに式場に到着した。




「遅かったな浩一、あと少しで始まる、連いてこい。」

よくよく聞き覚えのある声がしたので意味の無い思考を止めて嫌々ながら声のした方を見てみると、我等が父である紫藤一郎がそこにいた。
あいかわらず老けている、30後半にはすでに頭が禿げて、腹も膨れてそこらのおっさんのような外見になっていたというのは紫藤家の不思議の一つだ。


これでも昔の写真は誰?と言えるほどにはカッコいいのだから始末に終えない。母親似の我等兄弟ではあるがそれが遺伝してないかどうか戦々恐々しているのは兄弟の秘密だ。


実は、最近兄が頭の生え際を気にするようになってきたからもう駄目かもしれないと思ってるのは秀治だけの秘密だ。言ったらまた殴り合いの喧嘩になるのが眼に見える。


そしてあの時自分を見捨てた許してはならない存在である。息子の身柄と自分の地位を秤にかけて地位を選んだのだから絶対に許してはならない。
少しでもこちらへの気遣いがあればあの事だけは回避できたかもしれないのだから。


父は一議員として犯罪者どもに屈するわけにはいかなかったと言っているが、確かにそれは理解できる。父は社会ではかなり権力、そして影響力を持った人間だ。

右翼の大臣候補者・・・確かに屈するわけにはいかないだろう・・・、しかし自分の息子を人質にとられていた状態で挑発するような事を言い、あまつさえ出来た息子だから覚悟はできているというような事をカメラの前で言うのはどうだろうか?

自分を攫った人間が違ったならばあんな結果にはならなかっただろう・・・最悪殺されていたかもしれないが・・・いやそちらの方が当時の自分にとって良かったのかもしれない、そして父が挑発しなけれ何ら事が起こることもなく何も知らず普通の状態で帰れただろう・・・。

運が悪かったとしか言えないのかもしれない、一つでも何か違う要因があれば変わったのかもしれないのだから・・・、それでもあの時の自分は父が助けてくれると信じて・・・裏切られた・・・。それだけは当時も今も自分にとっては覆しようのない事実なのだから。

結局、全て事が終わった後に警察が飛び込んできて犯人は逮捕されたのだが・・・、それが原因で人間不信になり誰も信じなくなったのも無理も無い話だ。


「父さん、お久しぶりですね。」

兄が愛想笑いを浮かべて父と握手を交わす。

「あぁ、久しぶりだな。積もる話しもあるだろうが、今は見ての通り時間がない。後にするぞ。」

そう言ってこちらには眼もくれずにさっさと奥へと進んでいった。

正直そちらのほうが自分としても有難い、あまり話していたいとは思わないからだ。それは向こうとて同じ事だろう、負い目のある人間とは話していたくないものだ。


「さぁ、秀治、そこで惚けてないで、私達も行きますよ、今回は時間が押しているので親族への挨拶巡りは私がしておきますからさっさといきなさい。」

兄もそう言って踵を返して奥へと向かって行った。何か引っかかるモノを感じつつも遅れたら何と言われるか分かったものではないので慌てて着いていく。

そして兄の姿が奥の部屋に消えて初めて何か引っかかっているモノが分かった。


「もっかして・・・・、これだけ時間押してるのってワイに親戚回りさせんために遅らせたんか?」

そうだとしたらかなり兄に気を使わせたことになる。しかし何時もは連れていくのに今回に限り連れていかない理由が無い。
別に自分がいるのといないのとで時間が長くかかるわけでもないのだから。


そして寝る前に話していたことと関連づけて考えると、ワザとギリギリにここに到着した理由にもなる。もしかしたら着いていたが起こさなかったのかもしれないが。

どちらにせよそうであればしばらく兄に頭が上がらない、聞いても確実にはぐらかされるか誤魔化されるだろうことは車の時の態度から察するに間違い無い。


「・・・はぁ、ホンマに支えられてばっかやなぁ、今も昔も・・・。それに比べてワイは何もしてやれんなぁ、何時か返せたらええけど・・・。」

はてこれは親孝行ならぬ兄孝行か?と栓も無いことを考えながら続いて兄と父が入っていった部屋に入っていった。









どうも作者です。

今回は短めです。ちなみに7回忌の場面は全面カットさせて頂くことをここに記しておきます。
何故書かないのか?純粋に書けないからですよ。行った事無いですからどんなのかもわかりませんし。

あとこれで終わるのも何なので・・・、私が推測したキャラクターの年齢関係をば書いておきます。ちなみに現時点は9月あたりです。




我がSSで何気に一番変わっている人

紫藤浩一

現時点23歳 藤美学園の歴史担当教師(公式設定) 原作スタート時には27歳になる予定。
誕生日は2,3月にある。
弟が生まれたときは9歳の頃

もともとの絵から推測して20台後半と断定、22歳で大学を卒業してすぐに藤美学園で教師として働いている。今は勤めて一年目。
17の時に母親が死ぬ。
原作とは違い父に進められた大学に行かないで地元の有名大学に入学。(当時弟が情緒不安定のため)


我等が主人公

紫藤秀治

現時点14歳の中学2年生 原作スタート時には17歳の予定。
誕生日は6月。
8歳の時母親が死に、9歳の時に通称‘あの事’が起きる。


このSSのメインヒロイン(サブはいません)

毒島冴子

現時点14歳の中学2年 原作スタート時には18歳(公式設定)
この事から誕生日は4月上旬にあると予測される。
原作と違う点は強姦しようとした相手に止めを刺していないことか・・・、それでも重傷を負わせたことには変わり無し。
服飾センスがおかしな娘。




未だ私のSSにも本編にも登場していませんが次で出てくるので・・・

紫藤和也

現時点18歳高校3年 浩一と同じ大学に入る予定。原作スタートの時には21歳
誕生日は8月

設定当時20にしようとしたが・・・、そうすると余りに紫藤一郎が浮気した時点が早いので急遽2年遅らせた(それでも十分に早い)



人でなしなのか?紫藤家のTOPのこの方

紫藤一郎

現時点48歳
妻が死んだのは42歳の時
‘あの事’が起こったのは43歳
紫藤浩一が生まれた時には25歳
浮気相手に子供生ませたのが30歳
秀治が生まれたのが34歳

老いてもなお盛んなお方



[19019] 第7話 後編
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:104368c8
Date: 2010/06/23 04:27


何事も無く無事に母の七回忌も終了したその後解散し、途中で食事をして帰っているのだが、来た時とは決定的な違いがそこにはあった。


「昔に比べたら随分と運転が上手くなったものじゃないか。」

「え・・・、えぇ、有難うございます。」

我等が父の紫藤一朗の存在である。さしものの兄も居心地が悪いのか返答の歯切れが悪い。

食事の際に何故ここにいるのか?と問えば


「電車とタクシーで来たから帰るのには時間がかかる、元から家に帰るつもりだったからな、それにお前達に大事な話がある。東京にとんぼ返りするわけにもいかんよ。」

とのこと、明日の仕事はいいのか?と問えば


「明日は特に用事を入れていない。強いて言えば憂国一心会本部に顔を出すとアポをとったぐらいか、何、地盤を更に固めておこうと思っただけだ。」

と返ってきた。それならそうと一報入れて貰いたいものだった。サプライズゲストが父だなんてどんな罰ゲームだろうか?

と不満に思いながら後部座席で眼を瞑っていると、


「そういえば秀治、お前、数ヶ月前に顔を合わせた時とは雰囲気が変わっているが・・・、何かあったのか?。」


瞑っていた眼が驚愕で見開かれる。父親の前では今も昔もできるだけ感情を外に出さないで無表情を貫いてきたつもりだったのだが・・・、そんなに解りやすいものなのだろうか?


「何をそんなに驚いた顔をしている?お前程度の腹芸が見抜けなくて政界で幅を利かせられるわけがなかろう?相手の雰囲気の違いなぞすぐに見抜けるわ。」


見た目はただのおっさんだがこれ以上ないほど有能だということを失念していた、目の前にいる父は狸なのだ。嫌いだからと言って侮っていい相手ではなかった。

・・・後、今後気をつけるからバックミラー越しであきれた顔でこっちを見るのを辞めてくれコー兄


「お前は私とは話したくないだろうから言わんでもいいがな。厄介ごとを起こさなければそれでよい。」


元からそれほど興味が無かったのかそれともこちらを気遣ったのかさっさと前を向いてケータイを弄くりはじめる。
興味が無いなら何故話を振ってきたのだろうか?もしかしたらお前の考える事などお見通しだという警告だろうか?


「ところで父さん、私達に大事な話があるとのことでしたが・・・。一体何の話なんですか?」

ハンドルを回して角を曲がりながら兄が父に尋ねた。

「ん・・・、あぁ・・・、それは家に帰ってから言おう。ここで話すような話ではないのでな。」

とはぐらかすような答えが返ってくるばかりであった。嫌な予感こそするが父がそう言っている以上これ以上とやかく言えども口を割ることはないだろう。


ポツポツとお互いの他愛の無い日常の話を交わしつつ、ついに我が家へと帰ってきた。


「・・・・・・すぐに私の部屋に来るように。」

そう言って父は車から降りて家の中へと消えていった。


「話っていうとったけど・・・、コー兄なんか解る?」

後部座席から身を乗り出して運転席に座る兄に話しかける。兄は顎に手をあて少しばかり考えてから

「恐らく・・・、ですが家のことではないでしょうか?いつもの裏の仕事の手伝いなら電話でもできますし、まず貴方を巻き込むわけが無い、何も出来ませんし。私と貴方の両方に関係のある重要な話と言うとこれが妥当かと思います。」

と結論を出した。

「家のことねぇ・・・、ワイにゃ元から関係の無い話やなぁ、ワイ何も期待されとらんからなぁ、アイツに・・・。」

「あの人は貴方が自分を憎んでいることを知ってますからね、そんな相手に家を継がせるほど馬鹿ではありませんよ。・・・、しかし今更何の話でしょうかね?」

兄が顎に手をあてながら首を傾げる。


「まぁ、ここでアレコレ悩んでも答えはでんわな、んじゃ!!さっさと行くとしよか!!せやないとアイツ何言ってくるか解らんし。」

これ以上話し合っても結論は出ないと踏んで乗り出していた身を戻して車から降りて兄を待つ。

「・・・・・・、確かにそうですね。では、行きましょうか。」

兄もそれに同感だったのか、車から降りてカギを閉めて待っていた弟を促して家へと入っていった。













いつもは訪ねる事の無い父の部屋、兄は仕事の手伝いをする時に訪ねたり、掃除したりしているようだが、秀治とは全く縁の無い場所であった。

兄が中で待っているはずの父に来た事を告げるためにドアをノックする。

「ただ今参りました。」

「入れ。」

中から短い返答が返って来たので二人並んで入室する。


「私達に話し・・・とは?」

早速兄が口火を切って話を促す、自分では父の相手をするには経験不足にも程があるので兄に任せるのは妥当な判断といえる。


「ふむ・・・、家の事についてだ。」

「それは紫藤家についてのことと解釈してよろしいでしょうか?」

「その通り、紫藤家の家督を誰が継ぐかと言うことだ・・・。」


その言葉に兄がピクリと体を反応させるが、幸い後ろを向いている父はその事に気がついていないようだった。


「家督・・・、というと誰にこの床主の地盤を継がせるか・・・ですか?」

平静を装ってはいるが長年一緒に暮らしてきた自分なら解る。兄の声が多少緊張している。

「鋭いな、まさにその話だ。」

「それで・・・、誰に継がせるのですか?。」

恐らく兄だろう、長男で実力も申し分無い。とそう秀治は信じて疑わなかった。しかし父の口から出た答えは違った・・・。


「地盤は東京の和也に任せる、お前達は和也のサポートに徹しろ。」

とありえるはずのない答えだった。その言葉に兄弟揃って眼を見開いてから片や肩を落とし方や憤慨で体を震わし、顔を真っ赤にさせ一朗に喰いかかった。


「ちょっと待ってください!!何故・・・、何故家を継ぐのが浩一兄さんでは無いのです!!」

あまりにショックだったのか肩を落として呆けている兄に代わり待ったをかける。冗談にしては質が悪すぎる。自分も怒りで頭が上手く回っていない自覚はあるがこのまま何も言わずに流されるよりははるかにましだった。

「こいつより和也の方が才能がある。ただそれだけの話だ。お前に関しては最初から期待すらしていないから安心していいぞ。」


「私のことはどうでもいい!!長男は浩一兄さんのはずだ!!たったそれだけの理由でアイツに家督を譲るだと!?納得できるわけがないだろう!!」

「くどいぞ、秀治、それに何を勘違いをしているか知らないが、私はお前達にお願いしに来たのではない、命令しに来たのだ。」

「――――ッ!お前はどこまでッ!!「秀治ぃ!!」ガッ!?」

余りの言い草に堪忍袋の緒が切れて父に殴りかかろうとした腕を横から跳んで来た兄に捕られて投げられる、受身こそ何とかとったものの不意の事で衝撃を逃しきれず呼吸が一瞬止まる。

「に、兄さん何を!?「いいんですよ、これで・・・。」・・・・え?」

背中に奔る痛みを無視してすぐさま飛び起きて兄に叫ぶが、自分の言葉に重ねられるようにして言われた兄の言葉が理解できずに怒りが急速に勢いを無くしていく。

「いいんですよ、これで・・・、前々からこうなるんじゃないかとは薄々感じていました・・・。私にとっては今更な話なんですよ。まぁ、こうもスッパリと言われるとは思っていませんでしたが。」

兄が達観したような表情でそう語るのを見てそれが完全に本心からの言葉であると悟り父子とも絶句する。片や自分の考える事を前々から先読みされていたことに対して、片やよもや兄がそのようなことを考えていた事に驚愕して。


「それに・・・、昔は憧れていましたが・・、でも今は国政に携わることに何ら魅力を感じないのですよ。私は今の教師の仕事で満足しています。人に物事を教え導くこの職業に誇りを持っているんです。だから私は父に感謝しているんですよ。この職を私に与えてくれた父さんに・・・。」

とても晴れやかな顔をしてそう語った兄を見て、もしかしたら家督を継がなければならないという可能性は逆に兄を苦しめていたのではないかと・・・ふとそう思った。

「ほぅ・・・、誇りを持ってか・・・、ハッハ!!手の内に居ると思っていたが、何時の間にやら手から離れていたというわけか・・・。よく私の目を誤魔化してこれたものだ。」

調子を取り戻したのか父は面白いモノを聞いたとでもいうようにカラカラと哂っている。

「操り糸は切れました、私はもう父さんの人形ではありません。私は紫藤浩一という一人の人間です。貴方が昔から一人の人間だったように、私も一人の人間なんです。何時までも思い通りに動く都合の良い人形だと思わないでください。」

多大な決意を眼に宿して父を見据えキッパリと言い切る。そのような眼で見据えられても何ら動じない父も流石と言えよう。


「その糸・・・、いつ切れた?」

未だに含み笑いをしつつ面白げな表情をして問いかけるがその眼だけはカケラ程度の笑いも含んではいなかった。
何か物を観察するような眼、そんな眼で自分の息子である浩一を見ていた。


「完全に切れたのは今でしょね・・・、秀治の件以来少しずつ緩んではいましたが、今回の話で吹っ切れさせて頂きました。これで私を縛るものは何も無い・・・。」

「それは私の言う事はもう聞かないということか?」

その問いに浩一はただ微笑をもって答えた。


「ふん・・・、分かっているならそれでいい、どちらにせよお前は私には逆らうことなぞできんのだからな。これで話は終わりだ、ご苦労だったな帰っていいぞ。」

兄への興味が完全に失せたのか父は此方に背を向けて退室を促した。


「解りました。行きますよ秀治、何時まで呆けているつもりですか?」

先程から話に置いていかれて手持ち無沙汰な様子で立っていた秀治に声をかけて部屋から出て行った、それに追従しようとすると父が思い出したかのように此方を向き声をかけた。


「まだあの件で私の事を恨んでいるのか?。」


「・・・・・・、逆の立場に置かれたら貴方は私を許しますか?」

その言葉に先程まで胸に滾っていた激情が再び首をもたげかけるがそれを何とか押し殺して顔から表情を消してそう言った。


「ふ・・・、愚問だったか、許せ。」

「・・・・・・それでは失礼しました。」

退室する前に一礼をしてから部屋から出ていった。
兄はすでに部屋に帰ったのか廊下には誰もいない、そんな人気の無い廊下を歩いて部屋に帰りつつ明日は道場の方に泊めてもらおうとそう決意した。








作者です。
ようやく書けました、原作イベント・・・。
ここまで来るのにも長くかかったものです。紫藤家の一大イベントの一つこれで完了です。



[19019] 第8話  こらえ性が無い自分に絶望したorz PS 祝アニメ放送!!
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/07/14 21:45
ブラックコーヒーか塩を片手にご覧賞下さい。































甘さ加減を間違えたかもしれませんが覚悟はいいですか?(作者は書いてる途中胸焼けしかけました)
ではお楽しみください。








































いつもと同じようで何かが違う帰り道、別に冴子がまたあの格好をしているわけではなく、秀治が「アクロバティック走法!!」と言って曲芸染みた動きをしているわけではない。


普段と余り変わりないような表情をしていてどこかピリピリとしたイラついているような空気を発しながら自分の自転車を押している秀治


何かを迷うような素振りを見せてはチラチラと隣で自転車を押しつつ自分の歩幅と合わせて歩いてくれている秀治に目をやりその度顔を朱に染めて俯く冴子。
時折なぜ秀治がイラついている雰囲気を纏っているのか不思議に思って首を捻っていたりもしている。


そんな今日はバレンタインデー、もてない男の嘆きが自室に響く日であり、恋多き乙女が好きな友人にチョコを送る日である。
もてる男はチョコを貰って自分の人気の高さを改めて自覚させられる日でもある。


そんな状況が続く中そろそろいつも別れる2又の道が近くなってきたのを見て冴子は意を決したのか迷いを捨て去るように2、3度頭を左右に振ってから
秀治の自転車の後ろの荷台に載せてあった自分の鞄を手にとって中を探り始める。


秀治はさっきから何をやっているのかと多少の呆れともしかしたらという期待の視線を送っているがそれもしかたないことだろう。誰だって隣に歩いている見知った人間が
いきなり頭をブンブンと振り始めればそれが気にならない訳がない。そして今日はバレンタインデーなのだ自分が好意を持っている女子が鞄を探り始めれば期待せざるおえない。


昔から親にさえチョコを貰えなかった秀治にとってこの日はちょっとしたコンプレックスなのだ、兄から貰っている分はあるがそれは男からなのでノーカウントである。
そしてようやく目当てのものが見つかったのか冴子は鞄の中から何かの袋を取り出していた。それを横目で見ていた秀治の目が期待で光った。


「秀治・・・、ちょっと、止まってくれないか?」


恥ずかしそうに目を左右に泳がせながら少し震えた声でそう冴子は言った。


「なんや?」


はやる気持ちを抑えて気だるそうに答えて自転車を停めて冴子と向き合うようにして立つ。
・・・・・・気が付けばイラついていた心中が嘘のように治まっていた。それはそうだろうもしかしたら初めて女の子から、
それも好きな子からチョコレートを貰えるかもしれないのだ。この日自体が嫌いな秀治にとってこれほど良いことはない。


自分がそう思っていることを気取られまいと表情も普段どおりにしておく。
これ自体はさっきからやっていた事なので簡単だった。イラついた雰囲気は気取られてしまっていたがそれは秀治がまだまだ修行不足なだけの話だ。
師である兄はちょっとやそっとのことでは感情のブレを全く見せない、俳優になっても食っていけるだろうと思えるほどの芸達者だ。
洒落ではすまないことであれば取り乱すのだがその姿を秀治は見たことがなかった。


「あの・・・、何だ、秀治・・・これを・・・」


顔を真っ赤に染めながら冴子が秀治に差し出したのは一つの小さな箱だった。
それを無言で受け取って蓋を外して中身を確認する。期待で胸が高鳴っていく。


中に入っていたのは装飾はまだまだ拙いものの手作りだとわかるチョコレートが数個入っていた。


「これを・・・ワイにか?」


「あぁ、もちろん。」


ちょっとした感動で声が震えそうになるがなんとか表に出さずにすんだ。
それを聞いた冴子は満面の笑みでコクリと頷いた。


「それでは・・・、頂きます。」


箱に入っていた中でも装飾のないトリュフチョコを摘んで口に入れる。
思っていたより容易く口の中で溶けて甘味が広がる。


「生チョコ・・・?」


「あぁ、初めてだったから少々梃子摺ったが、母に教えてもらって何とかなった。どうだ・・・美味いか?」


「あぁ・・・、甘いものは好きやからな。美味いよ。ん、今度ワイの手作りのケーキ作ったるわ。これでも菓子つくんのは得意やねんで?」


「フフフ、それは作った甲斐があったと言うものだ、楽しみにして待っているとするよ。」


「にしても初めてやなぁ、こうして女の子からチョコレート貰うんは。」


はぁ~、と万感を込めたため息を吐いて箱に蓋をして自分の鞄の入っている前かごにそっと置く。気が付いたら口端が吊り上っていてだらしのない笑みが顔に浮かんでいた。
冴子はその言葉を聞いて怪訝そうに眉をよせて小首を傾げていた。


「どしたん?んな不思議そうな顔して。」


「いや・・・、君はチョコレートは沢山貰っているだろうと思っていたのだがな・・・、その・・・、あれだ君は、もてるだろう?」


「・・・・・・、貰ってへんよ、それにもててもあらへん。」


「顔もまぁまぁ良ければ運動も出来て頭も悪いわけではない、性格もいたって温厚な君がもてない?ふむ・・・、女子相手に何かやったんじゃないだろうな?」


不思議そうだった顔が疑いの表情に変わったのを見て何かおかしな嫌疑をかけられかけているのを確信してまだ言っていなかった過去話を暴露することにした。


「怖がられとるんよ、これでもワイはここら一帯には狂犬で名が知れ渡っとる不良やってな、一年のころ暴れすぎたせいで誰も寄ってけぇへんようになってもうたんや。
挨拶ぐらいのもんやなまともにしてくるもんは、まぁそれも挨拶せんと無視してたら因縁つけられるやもせんと思ってのことやろうけどな・・・。」


案の定かなり驚いた表情をしてこちらを見ている。自分の見知った人がかなりの悪だったと聞かされたのだ驚いて当然だろう。
そして少しの間何かを思案するような顔をして


「君が・・・不良か・・・、なんと言えばいいか・・・、そうだな似合わない、うむこれだな、私からすれば君が不良なのは余りに不似合いすぎる。
推測になるが、どうせ絡んできた不良を返り討ちにし続けていたら不良の部類にいれられたんだろう?君は自分から理由なく手を出す人間じゃないからな。」


と核心にとても近くて遠い答えを返してきた。どうやら自分から絡まれにいっていたことは流石にわからなかったようだがそれを抜きにしてもそれは秀治の意表を突くには十分すぎた。


「・・・・・・、なんでそこまでワイを信用するかねぇ・・・。」


「半年もこうして付き合ってきたんだ、人となりぐらいは私でもわかるさ。初めて出会った頃と比べればかなり丸くなってる気もするがな、
あの時の君は本当に飢えた獣のような目をしていたからなぁ。」


頭をガシガシと掻いて苦笑を顔に浮かべながらぼやく様に言うとクスクスと口に手を当てて可笑しそうに笑いながらそう言った。


「あの時つ~とあれか?お前がワイに勘違いして襲い掛かってきてガチで戦いあった時のことか?」


「確かにその時の話だが・・・、その言い方はないだろう?私の体目当てで襲った男を庇ったんだ、誤解しないわけがないだろう。」


ムッと脹れた顔をして好きで襲ったわけじゃないと否定してくる。


「まぁ、状況的にそれほど間違っちゃないやろ?」


「ムゥ・・・。」


カラカラと笑ってからかうようにいうとついに黙りこくってしまった。ちょっとからかいすぎたかと思って話題を少しだけ変えることにする。


「あ~、まぁ、それは置いといてや、そんなこと思ってる奴によぉあん時ケータイの番号なんぞ教えたの?」


「あれは君が悪人ではないと確信したのと話していて面白い人だったからな、それに私が止めを刺してしまうのを止めてくれただろう、
恩には報いなければ駄目だろう?だからだよ、それで問いを返すようで悪いが、君こそどうしてあの時私のケータイ番号を聞いてきたんだ?」


その意図を察したのか未だにムッとした顔をしているがこちらの話に乗ってきてくれた。目を閉じてその時のことを思い出す。


「ん~?そりゃなぁ、うんお前が思ってた飢えた獣っていう表現はあながち間違っちゃないねんな。あん時のワイは自分と対等に戦えるような奴がおらんことに不満感じとったからなぁ。
不良狩りでも始めるか・・・、とでも思っとったところでお前と会ってんや。
ワイと同等の戦いが出来てしかもめっちゃ可愛いっていうより美人やなお前の場合そんな女の子が現れてみ?そんまま逃がす訳ないやろ?」


鮮明に思い出したところでクックッと笑いながら目を開けて目の前の彼女を見ると顔を赤くして目をそらしている冴子がいた。どうやら先ほどのセリフに照れているようだ。
本当に大人びているのに一々反応が可愛い奴だと思う。とりあへずはこんな時はさらに弄くって遊んだほうが楽しいのであえて気がついていないフリをして追撃することにする。


「どしたん?そんな顔赤くして?」


「・・・・ぃ、いや、なんでも、なぃ・・・。」


今にも消え入りそうな声でそう言ってくる。顔も真っ赤にしたままだ。すこし悪戯心が悪乗りしてしまい俯いていてしまった彼女との間をスッと詰める。
こちらが動いた気配を感じたのか顔を上げて確認しようとするがもう遅い、もともとそんなに離れてはいないのだ、そうして一足一刀よりさらに近いお互いの体が触れ合ってしまいそうな程近づいて彼女の顔に自分の顔を近づける。


冴子はパニックに陥っているのか顔を先ほどより赤く、湯気でもでそうなほど赤くして目をすごい速さで泳がせている。
そんな彼女の後頭部に手をやって此方に引き寄せるとビクリと体を一瞬硬直させた後、目をゆっくりと閉じた。手を当てている所から彼女の体が震えていることがわかる。


本来はほんの悪戯で額同士をくっつけて熱を測る真似事をしてからかうつもりだったが、すでにそんな余裕は秀治には存在していなかった。
顔を朱に染めて目を閉じてこちらに首を上げて見上げている姿を間近に見てしまいその場に流れる空気に喰われたのだ。


意識し始めると今度はこちらの顔にも血が上って顔が赤くなっているのが知覚できた。おそらく冴子に負けず劣らず赤くなっていることだろう。


胸の鼓動が煩いほど高鳴る。彼女の唇から目が離せない。はたして彼女は触れている手から自分も震えていることがわかっているだろうか?


そんな出来心で起こした行動は思惑とは違う結果を呼びそれはもう止まれないところまで来てしまっていた。


頭に当てていた手を彼女の顔を撫でるように移動させアゴをクッと上げる。頭に血が昇りすぎてクラクラする。


そしてそのまま彼女に顔を近づけて、その唇を奪った。それはただの軽く触れるようなキス、唇が離れたのがわかると冴子は閉じていた目をゆっくりと開いた。


上気して朱に染まった頬も上目づかいでこちらを見る潤んだ瞳も何もかもが自分を魅了してやまない。


ゴクリ・・・、と自分の喉から音がなる。どうやら無意識に唾を飲み込んでしまっていたらしい。しかし今はそんなことはどうだっていい。


冴子がこちらを潤んだ瞳で見上げる目と自分の視線が絡み合う。
そして今度はどちらともなく顔を近づけてゆき、


唇が触れた瞬間自分は荒々しく冴子を抱きすくめて覆いかぶさるような体勢でキスをしていた。冴子が驚いて腕の中で身を捩じらせるが逃がさないと言う代わりにさらに力強く抱きしめる。


今度は触れるだけではなくしたを入れたディープキス、初めは目をキョドつかせて動揺を顕わにしていた冴子だったが、舌が絡めとられ唇が吸われるにつれ脳が熱病に犯されたかのごとくボンヤリとしてくる。
気がつけば自分から秀治の首に抱きつくように手をまわしていた。


その状態でいったい何秒いや、何十秒たっただろうか?
秀治は狂ったように律動を刻む自分の心臓を煩いと思いつつ彼女の口の中を蹂躙する。時に激しく時に優しく、時に彼女のたどたどしい舌使いにまかせながら。


未だに残っている理性をかき集めて、胸からフツフツと湧き出す黒い欲望を抑え込み続ける。


脳裏から自分の声で喰らってしまえ、犯してしまえと聞こえてくる。もちろんそんなことができるはずがない。自分にとって彼女はただの女ではないのだから。


その考えに行き着いた瞬間脳に氷柱を直接ぶち込まれたかのごとく急激に冷えて頭と言わず全身から血の気が引いていく。


今・・・、何を考えた?特別だから犯さない?なんだそれは・・・、特別じゃなかったら犯していると言っているみたいではないか。自分はあの下衆と同類だったのか?


今まで夢中で絡めあっていた舌の動きが止まり今まで彼女の口の中に伸ばしていた舌が引っ込んでいく。唇が離れて彼女との間に銀の橋が架かるがそれを気にしている余裕なんてなかった。


冴子は唇が離れて少ししてから秀治の首にまわしていた手を離して今度は抱きつくように彼の背中に回して胸板に頭を預けて耳を澄ませる。
早鐘のように高鳴っている自分と彼の心音が今は心地が良かった。


彼にしてはあまりに強引だったとは思うが満更でもない、むしろ本懐であった。
今更ながら自分の足に力が全く入らないことに気づく、どうやら先ほどのキスで腰が抜けていたらしい。今立っていられるのは秀治が確りと抱きしめていてくれるからだろう。
そのことにちょっとした充足感を感じながら今度は彼の厚いとは言えない胸板に顔を埋める。


服から微かに漂う洗剤の香りと今日の部活で掻いたものだろうちょっとした汗の臭い、これが男の子の香りというものだろうか?
そこでふと気がつく、・・・・・・彼は何故ここまでキスが上手いのだろうか?と
やはり先ほどの女の子にモテないというのは嘘では無いのだろうか?・・・と


一度疑念を抱けばそれはさらに加速し歯止めが効かなくなっていく。普段の彼女であれば一笑に伏していただろうが、今は先ほどの余韻で頭がまだ上手く回っていなかった。
秀治のキスが上手い理由はただサクランボの緒を軽く結べるほど器用であっただけである・・・がそんな事は知らない彼女の妄想は悪い方向へと突き進んでいく。
それはあたかも無人の野を行くがごとくの速さであった。


女であれど悪いと言われている者に全員が興味を持たない訳ではない、むしろ肝試しとして近づく女はいるんじゃないか?そんな女と付き合っているからキスが上手いんじゃないか?


これは一度問いたださねばなるまいと胸板に顔を押し付けながら心に決める。
冴子の独占欲は人より少し強い程度であるが、好きな男を知らずと誰かと共有しているなど考えられることではなかった。


背中にまわしていた手にギュっとちからを込めて毅然とした表情で彼の顔を見るがその瞳は不安に揺れていた、
それはもしこの想像が本当だったならば私はどうすればいいという不安の表れでもあった。


しかし、その心配は彼の顔を見て吹き飛ぶことになった。
顔を蒼白にして目が一所に留まらず不安げに、何かを振り払うようにあちこちへと揺らしている彼の顔があったからだ。


「秀・・・次?」


いつもは見ない彼の余裕の全く感じられない表情、何かに追い詰められているような顔を見て不安げなそしてか細い声で彼を呼びかける。しかし彼はそれに気づいた様子はない。


彼の背中にまわしていた手の片方を放して彼の顔に手を当てる。
手を当てられた秀治はビクリと身を震わせて今気がついたかのように自分を不安げに見上げていた冴子に目を合わせる。


冴子にはそのときの彼の顔が前に鑑でみた自分の顔と重なって見えた。
何か認めたくないことがあるが認めるしかない、しかしそれを認めてしまえば何かが壊れる、そんな迷いが現れている顔だった。


「一体どうしたんだ・・・?秀治、いきなり、その・・・、キ・・・キスしたかと思えば今度はそんな顔して、君にはそんな顔はして欲しくない、
・・・だからいつものようにどこか余裕を持ったふてぶてしい顔をしておいてくれ。」


秀治は自分の顔に当てられた手から伝わる心地よい暖かさが染み渡って体中から一時的に失われていた熱が戻ってきているような気がした。
彼女にまた気を使わせてしまったなと反省して無理やりいつも通りの表情を顔に貼り付けるてさらに誤魔化すように笑みをうかべる。


「あ、あぁ、ごめんな、いやぁ、急にキスしてもうたから嫌われたんやないかとおも「嘘だな。」!!?。」


「なぁ秀治・・・、さっきも言ったが私たちは付き合い始めてもう半年だ。何かを君が私に隠しているのは知っている、君が言うまで待つつもりだがな。
しかし君が何を抱え込んでいようと私が君を好いているというのは変わらんよ。
・・・・・・だから頼ってくれ、今君が何を悩んでいるのかも言ってくれなければ私には解らない。それとも私はそんなに頼りないように見えるか?」


「まさか、ただこれは自分でケリつけなあかん問題やからな。まぁ、自分自身の問題やねんから何とかしてみせるわ。心配してくれてありがとな。」


その顔には先ほどの動揺はもう見られなかった。
もし自分と同じような葛藤であれば確かに他人が関与できる問題ではないので素直に手を退くことにする。安心したところで先程の疑問がまたかま首をもたげてくる。

「そうか、なら私はもう何も言うまい。ところで・・・だ、先程のキスでどうやら腰が抜けてしまったようでな?一人で立ってられないんだ家まで送ってくれればありがたいんだが。」


「ん?あぁ、それくらいならまかせとけや。」


そう答えると彼女は満面の笑みを浮かべてこちらを見た。綺麗だなと思うが背中に奔るこの悪寒は何だろうか?
顔に当てられていた手が撫でるように動いて頬に添えられる。自分と同じく剣道をやっているが自分とは違い女の子らしい柔らかな指の感触がなかなかに心地よい。
やはり先程から背筋がゾクゾクする、風邪でも引いたのだろうか?


「それと・・・だ、なんであんなにキスが上手い!!理由いかんによってはただじゃおかんぞ!!」


多少涙目で訴えてくるすがたはとてもいじらしくて魅力的だがそれどころではなかった、なぜなら頬に感じていた心地よさが激痛へと変わったからだ。
どうやら手を頬に移動させたのはこのためだったらしい。


「いっ!?いふぁい!?ひゃんのはなひや!!ぐぁ!?」


冴子の腰と頭にまわしていた手を驚いて放してしまい、体が崩れ落ちそうになった彼女は咄嗟に手にグッと力を入れて倒れまいとするそしてそれを見た秀治は慌てて腕の力だけで立っている彼女を掬い上げるように抱きかかえなおす。腰が抜けた云々は本当のことだったらしい。
しかし慌てて抱きかかえなおした体勢は自分の両手を塞いでしまうものだった。
人それをお姫様だっこという。


「さっきのモテないって話は嘘じゃないだろうな!?本当はモテていて女の子をとっかえひっかえしてるなんてことないよな!!」


ギリギリと頬を抓る力が強くなっていく。冴子はすでに涙目で声も裏返りかけているがこっちだって泣きそうだった、主に頬の痛さとそんな人間に見られた心の痛さで。


「ふっ!!ふそひゃなひ!!ふそひゃないひゃらぁ!!」


「そういえば初めてのデートの時もやたらと落ち着いていたな!!やはり手馴れているのか!?どうなんだ秀治ぃ!!」


聞いちゃいねぇ、そんな言葉が秀治の脳裏によぎった。
その言葉に合わせるように今まで背中を掴んでいた左手が右頬に伸びてそれを引っ張る。みょーんと音がしそうなほど左右に頬が引かれて伸びる。


「いふぁい!!いふぁい!!ひょ!!マヒひゃめ!!モヘヘまへんひゃらぁ!!ひゃれほほふひあっへまふぇんふぁらぁ!!」


身に全く覚えの無い嫌疑だったがこの嫌疑だけは何が何でも晴らしておかなければならない。父のような人間と同じようにみられているなんて不本意であり不名誉極まりない。
それも自分が愛しいと思っている相手であればなお更だ。


「本当だな!?嘘じゃないな!?信じていいんだな!!・・・・・・それにしてもよく伸びるな。」


頬がミョーンミョーンと引っ張っては戻され引っ張っては戻されと忙しい。


「ひひょはにひまんのもひははへはほふんやなひ!!はっ、ほら!!なひへにはへはへよほよほまへんな!!ひょひゅーはらはほんへふやほほはえ!!」


グニグニと頬を弄くられては上手く喋れたものではない。
ようやくまともにこちらの話を聞く気になったのか最後に一際両側に引っ張られてから解放された。


ちなみに先程から二人の顔はとても近い位置にある秀治が冴子をお姫様抱っこしている状態であるからそれは当然のことだ。
つまりはさっきから冴子の手から出来るだけ体を反らして逃げていたのを元に戻して向かい合えばどうなるか、
それは強制的に「もうあなたしかみえない」という状態になるということだった。


「うっ・・・あ・・・。」


「ーーーーっ!!」


それは互いの吐息が顔にかかってしまうほど近い距離
図らずも先程の激しいキスが双方の脳裏にフラッシュバックし、二人とも顔を茹でたタコの如く赤くする。
さっきは二人とも雰囲気に流されていてその場の空気に酔っていた気がある、しかし互いに素面に戻っている今は余り耐えられるものではなかった。


「で・・・、どうなんだ?」


「・・・・・・・何が?」


「さっきの話だ、本当に彼女はいないんだな?」


「彼女どころか友達すらおらんって返しとこか。」


顔と目を合わせない会話、いや詳しく言えば冴子は真っ直ぐに秀治を見つめているが秀治が前を向いて顔を合わせようとしないだけであった。


「・・・・・・、嘘だったら後で酷いぞ?」


「意外とシツコイやっちゃな、小学校前半はいじめっ子、後半は人間不信、中1ん頃は荒くれ者で今は不良も避けて通る危険人物、もう女といわず男もよってこんわ。クラスでもちょいとした腫れ物扱いやしな。」


今思い返してみても碌な人生を歩いていないなと実感して目を瞑って諦めたようにため息を吐いて顔を2、3度左右に振る。


「・・・、そうか疑ってすまなかったな。」


頭も冷えてきた所で先程の自分はどうかしていたと思い謝る。抓っていた頬を今度は優しく撫でる。


「はっきり言うてな、ワイがお前に内緒で他の女に手ぇだすことはまずないわ、ワイがここまで変われたんは兄さんのお蔭でもあるけど、大半はな冴子お前と出会えたからや。
あん時お前と出会ってなかったら中1の頃と同じになってたやもしれんかったからなそれ程あん時のワイは不安定やったんや。
それを変えてくれたお前のことを感謝してるし大事にも思ってる。だから裏切るような真似は絶対にせぇへんよ。」


無意識に手に力が入る。その事に気づいた冴子が少し顔を顰めて身を捩るが力は強くなっていくばかりだった。


「ん、秀治」


「だから・・・、なんや?」


「ちょっと痛い。」


自分の掴まれている胴の部分に目をやって軽く非難するように言う。


「おっとすまんな無意識で力入れとったわ。」


慌てて手から力を抜く、痣になってなければいいのだが・・・。


「ところで、だ先程の私の言葉を覚えているか?」


ようやくこちらを向いた顔を両の手で固定してさらに身をよせる。
互いの鼻先が触れ合いそうな程の距離10センチも離れていないだろう。


「あ・・・あぁ、頼りにしろ云々か?そりゃ覚えとるけどさ。それがどうしたよ?」


いきなりのことで驚いたのか目をキョドつかせて怯んだように言う。それでも視線がチラチラと唇に行っている辺り男の子なのだなぁと感じる。


「まだ君の返事を聞いていない。」


「へ?」


なんとも間の抜けた声で返してくれるものだった。何のことか本気でわかっていないのだろう。キョドつかせていた目をピタリと止めてじっとこちらを見つめている。


「私は君のことが好きだと言った。それについてのはっきりとした答えを私は聞いていない。」


答えはわかりきっていても自分は告白したのに相手がそれに答えていないというのは気に入らない。すこし拗ねたような口調になってしまったが仕方ない。本当に不満なのだから。


それを聞いた秀治は得心がいったのか「あ~。」と言って首をコクコクと振った後ニヤリと悪戯小僧のような笑みを浮かべてスッと顔をこちらに寄せて啄ばむようなキスをした。


「これが返事ってことで。」


顔を赤くして明後日の方向を向いてそう言って来るが私はこみ上げてくる可笑しさに耐えるのに必死だった。


「ククッ、似合ってないなぁ秀治、気障なセリフと行動は君に全く似合わない。」


「一度やってみたかったことやったんや。似合ってへんのは自覚しと~よ。」


拗ねた口調で鼻をフンと鳴らしている。まだまだ子供っぽいところがあって弄くりがいもあれば可愛がりがいもある奴だなと思う。


基本こいつは素直なのだ。いい意味でも悪い意味でも、昔から人付き合いが余りなかったせいか変に擦れていない。故にこちらが信頼すれば信頼で返してくれる鑑のような奴だ。


なるほどこいつの兄にあたる人は本当に育てがいがあっただろう。兄の話をしているときのこいつの顔をみればどれほど懐いているか解るというものだ。本当に大事に育ててきたんだろう。
大きな子犬・・・、惚気た補正もあるかもしれないが例えるならそんな奴だった。
狂犬とは上手い名前をつけたものだと顔もしらない者に感嘆する。


「どしたん?急に黙り込んで?」


首をコテンと倒して不思議そうにこちらを覗き込んでくる。さっきの例えと相まって頭に生えた犬耳がピコピコと動いているのが見えるようだ。


「いやいや何でもないよ。それにしても全て君からというのもなんだな。」


「なに?・・・むぅっ!?」


いきなり顔を近づけてきたことに驚いた秀治が顔を反らそうとするがそれを許さじと両手でまた頭を固定する。そして驚いて目を見開いている彼に私はキスをした。
それは最初に交わされた触れるだけのキス。そして唇を離してもなお呆然としている彼に


「責任は・・・、とってくれるよね?」


と微笑みながら言うと、彼は口端を歪めた不敵な笑みを浮かべて


「もちろん喜んでとらせてもらう。」


と確約した。









それから何かが急激に変わったということはない。ただいつも一緒に歩く帰り道での二人の幅が無くなったただそれだけの話。










あとがき

私が耐え切れずに書いちまったよ・・・、うん、どうも受験まで我慢するのは無理らしい、更新亀でも不定期で投稿することにするよ。
そして誰か、私に塩をくれ。



[19019] 9話 前編
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/08/08 11:14



神聖な空気の流れる道場の中、いつもそこでは門下生や師範代が切磋琢磨し腕を磨きあっているのだが今日は剣道着を身に纏った男女が向かい合って座っているだけであった。


「私以外誰もいない日に家に呼べとは・・・、また大胆な頼みごとをしたものだな、誤解されてもしかたがないぞ?」


「お前だけにしか話せんことがあってな、誰にも聞かれたくなかったんよ、変な頼みごとしてすまんかったな。」


「私と君の仲だろう?これくらいはどうとでもないさ、それで?話したいこととはなんだ?重要なことなんだろう?」


「そやな・・・、まずあん時以降かなり進んでもうたワイ等の関係や、もっと段階踏んで進めるつもりやったからなぁ、っと、勘違いすんなよ?別にあん時言ったことを反故するっていうわけやない。」


ピクリと眉を動かした冴子を見て誤解しないように言い含める


「それで・・・、それがどうしたというんだ?」


「お前に言ってない事、全部言おうと思ってな、関係進めるならこれだけは言っとかなあかんとは思っとったんや。」


長い息を吐きながら軽く上を見上げて言う。二人きりになりたかったのはこれが理由だ、いずれ話してその上で受け入れられたのなら付き合うつもりだった。
しかしそれが崩れてしまった今、言わないという選択はない、それは彼女に対する裏切りにもなる。自分自身そんな卑怯な真似はしたくなかった。


「ほぅ・・・?ようやく言ってくれる気になったのか。」


「まぁ・・・な、ワイと付き合う以上、言わへんわけにはいかんもんや、失望したなら振ってくれてもえぇよ。」


緊張で喉が渇いてきているのを感じ来る途中の自販機で買ったミネラルウォーターでソレを潤す。


「ワイが昔、狂犬って名前の不良やったことは言ったな?あん時お前にいってたことは・・・、まぁ、ある意味正しい・・・でもな、それには続き・・・、いやまだ足りひん部分があってな・・・。」


「・・・・・・、君が不良を返り討ちにしていた云々か?」


その時のことを思い出すように冴子は顎に手を当てて少し考えた後そう言った。


「それや、確かに返り討ちしかしてへんかった・・・、でもな、それはワイから襲われに行ってたっていう点が抜けとんねん。
あん時のワイは他人と本気でやりあう楽しみにドップリと浸かっててもうてな、返り討ちにした奴が連れてくる助っ人共々叩き潰しとったわ・・・。」


天井を見上げ、ため息と共に思い出されるのは昔、自分が栄光の日々と言っていた、今となっては随分と色褪せてしまった懐かしい記憶、
二年もたってないのに懐かしいと感じる自分を可笑しく感じて湧き上がる笑いの波を噛み殺しながら視線を下に落として目の前の彼女を見れば眉を上げて驚きこそ露わにしていたが何も言わずに黙って耳を傾けていた。


「そんな日々も・・・、まぁ終わりは来るもんや、ある日、返り討ちにした不良の一人がヤクザ連れてきよってな・・・、気ぃ抜いたつもりはなかったんやけど、
投げられたナイフ避けたつもりが・・・、避け損ねて二の腕スッパリいかれてこのザマや。」


袖をめくり上げて今でも残っている傷跡を見せる、切られた箇所の肉が醜く赤く腫れ上がっている。ソレを見た冴子は僅かに目を細めたが何も言わずただ聞きに徹している。


「んで・・・、それでブチキレテ正気戻ったらそいつのナイフで太腿刺して動けんようにして、返り血あびるほど一方的に蹂躙した後やった・・・、ここまでは師匠・・・、まぁお前の父親にも言ってることや。」


乾いてきた唇を湿らせるようと舌で舐めるが、口内もいつの間にかカラカラになっていたことに気がつき水を呷るようにして飲んだ。


「師匠は、ソレの罪意識でワイが剣道習うんやめたと思っとるようやけど・・・、それは違うんやな。」


一息ついて真っ直ぐ冴子の目を見つめる、ここが山場だ、今まで兄にしか明かしたことのない自分の秘密だ。果たして彼女がこれを聞いても受け入れてくれるだろうかという一抹の不安はある。


しかしそれ以上にきっと大丈夫だという自信の方が強かった・・・、彼女と自分は根底で似ているのだから否定すれば自己否定にも繋がる、果たして自分に厳しい彼女がそうするだろうか?


こんな浅ましいことを考えながら告白する自分に嫌気が差すがこうでも思っていなければ怖くて言えない、言うことができない。


「ワイはな、そん時の血まみれのソイツ見て・・・哂ってたんよ無意識で楽しそうに声上げてな、そう、ワイは楽しく感じとったんよその行為自体を、
まだ正気には戻ってなかったのやもせん、だけどなそん時に紫藤秀治は他者を踏み躙ることに愉しみを感じる人間やと自覚した。ハッ!!自分自身は親父の事も言えんド外道やったっちゅうわけや!!」


自嘲の笑みを浮かべながら両手を広げ万感を込めて叫んだ。あの時落ちぶれていた自分を兄が認め、救ったからこそ、それ以上堕ちずにすんだ。
外の世界では冷遇されようとも小さな自分の世界で自分の全てを認め、飲み干し、愛してくれた存在がいたからこそ、それ以上堕ちることなく上がってくることができた。そのことを思い出すだけでも涙が出そうになる。
現に今話している最中でも感極まって泣いてしまいそうだった。


「まぁ、その話が広まってから誰もワイに近づかんようになった、当たり前やなこんな危ない奴に近づく阿呆はおらんわ。兄さんが必死にワイを支えてくれて二年なる頃には前より人間らしくなったよ、
それでも・・・、人間は一度覚えた快楽の味は忘れへんもんや、お前と会う頃には今度は自分から狩りにいこうかって考えるほど不安定になっとった。部活連中は相手にならん上まず寄ってこない、大会予選でも弱い奴しかおらんかった・・・。
自分が遠慮なく力振るっても壊れへん存在が欲しかった・・・。」


「そんな中、私に会った・・・か。」


再度水を飲もうと手を伸ばしたが冴子がそのペットボトルを掴み取り中身を少し飲んでから袖で口を拭き自分の言葉に続けるようにそういった。そのことに多少驚きながらも返されたソレを飲み唇を濡らす。


「まぁ・・・、そやな。あん時はホンマに嬉しかった・・・、昔から求めとったもんが転がり込んできた気がしてた。飢えた獣・・・、言ったもんやわ・・・、
ワイはな冴子・・・、あん時お前を極上のエモノとしか見てなかった・・・。」


冴子は黙したまま何も語らずただ話に耳を傾けているだけだ、その表情からは何も読み取れるものはなかった。


「そう、ようやく自分と同じ奴と巡り合えた思った・・・、あん時止めさすんをワイが止めたんは、お前に落ちぶれてほしくなかったからや、一度ワイが沈んでたみたいに・・・、
会ってそうそう、そいつが沈んだら面白くもなんともないやろ?」


「あの時私に言ってくれた言葉は嘘だったということか?」


キスの時に言っていたことだろう、しかしそれはあの時の自分にとって別段重要なことではなかった。


「いや、判断基準の一つではあったよ・・・、でもあん時は兄と同様とまではいわんが、女にあんまり興味なかってな。欲情もできるいい女やったら抱きたいとも思う、だけどそれだけや・・・、
それ以上思うことは何も無い、己の欲を満たすだけの存在程度にしか思ってなかった。昔攫われた時に色々あってな、女は嫌いやったんよ。
普通に接することはできる、付き合うこともできたやろう、でも心から思うことはまず無かったやろな。」


今までの話を聞いてもっと騒ぎ立ててもいいはずなのに静かに話を聞いてくれている彼女に感謝の念を込めて真っ直ぐ眼を見つめる。


「ご機嫌とりにと思って行った初デートの時でも本気で楽しかった!!初めはただのエモノとしか思ってなかったってのに、
お前はワイを戦わんでも満たし続けてくれとった、初めての経験やったよお前と過ごしてた時の全てが新鮮やった・・・、気がついたら本気でお前のことが好きになっとった・・・大事やと思えとった・・・。」


今にも胸がつまりそうなほど熱い感情が膨れ上がってきている、昔の自分が持ってなかった物、彼女が自分に与えてくれたものだ。感謝してもしたりない。


「だからこそ!!今こうして全て晒して正面からお前に紫藤秀治という存在を叩きつけとる!!お前の前では自分を偽りたくないから・・・、嘘は吐きたくないから・・・。
話はこれで終わりや・・・、返答を・・・聞かせてくれ。」


居住まいを正して彼女の眼をまっすぐに見つめる、胸のうちに秘めていたモノはほとんど吐き出した。後は、彼女がどう答えを出すか・・・だ。
静かに聞いていた彼女はペットボトルから水を飲みソレを自分の脇に置いたあと厳しい表情でこちらを見据えた。


「一つ聞きたい・・・。」


「なんや・・・?」


「君が今言ったこと全て、嘘偽りは無いな?」


「無い。」


「そうか・・・それなら私から言うことは無い、よく言ってくれたな・・・。」


正直罵倒されるものだと思っていた分意外すぎて唖然とした表情で彼女の顔を見つめてしまう。果たして彼女は本当に自分の話を聞いていたのだろうかという疑念さえわいてくる。


「なんという顔をしているのだ君は、私は内容がどうあれ、君が今まで隠していたことを教えてくれて嬉しかったよ・・・、確かに気軽に言えるような内容でもないこともわかった。しかし言ってくれなければ、私はいずれ君を失望していただろう、私がそんなに信用ならないか・・・とな。」


そう言って残りも少なくなっていた水を全て飲み干して空になったそれを元の場所に戻した。


「本性を隠していたことが悪いとは言わないさ、それを言ってしまえば私とて同じことだ。先ほどの話を聞いて思ったがなるほど君と私は根本の部分で似ているのだろう、
私も君と出会った夜は愉しんでいた・・・、自分の力を惜しみなく振るえる明確な敵を得られたことに・・・、
それを自覚したときには悔やんだよ、君に止められなければ殺めてしまっていたかもしれない、そう思うと怖くてな・・・。」


「私は君を受け入れよう、君がとうに私の本性をかぎとって受け入れていたようにな。」


「そっか・・・それは「その上でまた一つ聞きたいことがある。」・・・なんや?」


秀治が何かを言おうとするのを手で制して冴子は言葉を続けた。


「これはどうすれば治る?理由無く力に酔ってしまう本質をどうすれば変えられる!!最近あの夜のような事がないか期待してしまっている自分がいる!!私はどうすればいいのだ!!
教えてくれ・・・秀治・・・、私は、どうすれば変わることができる?」


彼女の慟哭が二人以外誰もいないガランとした道場に響く、最後は泣きそうな声になりながらこちらをすがるように見つめてきている。それを聞いて秀治は自分を悔いた、何故気がつかなかったのかと、


自分に厳しい彼女がそのことを気に病んでいないはずがなかったのだ。自分でさえ認めたくなかったのだから彼女がソレを認めるのにどれほど心を痛めただろうか?
彼女は自分とは違う繊細な14歳の少女なのだ、自分のような何も知ろうとしなかいガキではないのだ。


「・・・・・・すまんけど、その答えはもってないわ。」


「・・・・・・何故だ?君は・・・変われたのではないのか?」


「これに関しては耐えてるだけ、お前と似たようなもんや。」


「それでもいい、教えてくれ。私は・・・、もうそれすらもままならなくなってきてしまっている。どうすればいいか・・・、自分ではわからないのだ・・・。」


「・・・・・・、ワイが耐えられとるのは死合いたい対象が変わることなくお前やからや。昔と違って分別はできるようになったからな・・・、お前に嫌われたくもなかったし。
それに一度ドップリ漬かってもうたモンから言わせてもらったら、これは治らん。不治の病に似たようなもんや、自覚してもうたが最後、どっかで出さんと精神を蝕む毒になってそれは気ぃつかんうちに肥大する。
ワイが兄さんの言葉すら破ろうかと思ってもうてたぐらいや、我慢するのは厳しくなってくる、結局上手く付き合ってくしかないんや。」


「そう・・・か。」


そう答えると彼女は絶望したように俯き何も言わなくなってしまった。しかしこう言うしかない、これとは長い付き合いだからこそ分かる。
コレは欠陥に近いものなのだ、治すことができないもの、漬かりすぎればはみ出し者になり、我慢していればいつかは手に負えなくなる、そういうモノだ。


俯いている彼女を見てもしかしたら何とかなるかもしれないと思った。昔から、こいつと出会った時から願い続けていた事。
毒をもって毒を制すという言葉がある、毒が彼女を蝕むのならば・・・、自分がそれを制する毒になればいい、正直自分もいつかは我慢できなくなると思っていたから好都合だ。
彼女の手に負えなくなる前に自分にソレを吐き出させればいい、そう思って彼女にこう言葉をかけた。


「なぁ、冴子・・・、お前、ワイを敵と思えるか?」












あとがき

ど~も作者です、夏休みだよ、休みないけど、でもパソコン30分弄くれる権利を得たよ!!全部作品打つのに3時間くらいかかるから6日近くかかったけどね、いつもは目を盗んで10分ぐらいしかとれないからね。

それにしても最近の学黙のアニメの主人公勢が化け物すぎるww家の主人公が素で負けそうです。



[19019] 原作編 1話目    不意打ち上等で原作突入!!
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/07/14 21:44



「まだ5限目終わってへんのにお前がここに来るなんて珍しいやんけ。何かあったんか?」


剣道着姿の秀治が部室の壁にもたれて座り電子辞書を弄りながら今部室に入ってきた者に声をかける。隣に彼の木刀が2本立てかけられている所を見ると稽古をした後だろうか?


「・・・、いや私も偶には息抜きをしたいと思って来ただけだよ。君がいるとは思っていなかったよ。
教室からバッグごと消えていたから寄宿舎に帰ったかまた屋上でサボっているのかと思っていたが・・・精が出るな。」


そう声をかけられた者、毒島冴子は関心したように言って感嘆の息をもらしながら秀治の肩に頭を預ける。やはり稽古後なのだろうから彼の肩から感じる体温が高い。少し息も切らしているようだ。


「部室で二人っきりつ~か、静かな場所で二人になるなんて久しぶりやな、ちょうど休憩挟んでテレビでも見よかと思とった所やねん、一緒に見よ~ぜ?」


そう言って自分と冴子ともちょうど真ん中に電子辞書を移動させる。


「まだ平日の昼間だぞ?大した番組はやってない気がするが・・・、まぁいいだろう本当に久しぶりだからな二人きりというのは、君の意向に従おうじゃないか。」


そう言ってチャンネルを回し始めるが・・・・・・


「全て臨時ニュースだと?どうなってる?」


「何やでかいことがあったんかね?」


そう言って二人して大人しく流れているニュースを聞き続けるが、そのあまりと言えばあんまりな内容に二人とも表情が険しくなっていく。


「暴動?日本全国で?それも被害者が急増中だと?秀治これをどう思う?どの局も同じことを言っているみたいだが・・・。」


冴子はチャンネルを回して他に情報は無いのかと探し続けるながら秀治の意見を聞く


「すごく・・・不自然です・・・。じゃなくて、待て、こういう時はネットが早い。」


咄嗟にネタで返してしまい、冴子が「は?」と言って手を止めてこちらを怪訝そうな顔をして見たので慌てて持参した小さなショルダーバッグからiPhonを取り出してインターネットに接続する。


「どうやって調べるつもりだ?見たところ情報が抑えられているらしいが。」


「人の口には戸は立てられへんってなぁ、2ちゃんやったら何か情報の一つでも転がってるやろ。」


「あ~、あの偶に犯行予告ののるあれか・・・。」


呆れたようにこちらを見てそう言う、目が本当に調べられるのか?と如実に語っていた。


「まぁ、見てみっ!!と・・・、なんやこれ?」


「「ゾンビ?」」


二人揃ってズラリと並んでいるゾンビという単語に首を傾げる。


「かっし~な・・・、間違って知らんうちにオカルト板にでも踏み込んでも~たか?」


はて?と首を傾げながら一番伸びていたスレッドを取り合えず開き目を通していく、横で冴子がやっぱりといった目でこちらを見ている。


「死体が歩いて人を喰らう?<<奴等>>が外にうじゃうじゃいて外に出られない?何の話だ?」


「所詮暇人の戯れ言だろう?ニュースでは暴動と言っているが流石にゾンビは無いだろう。」


「・・・・・・、いや、あながち嘘でもないやもしれん、これ見てみ。」


鼻で笑うように冴子はそう言い放ったが、秀治は張られていたリンク先にあった動画を見ると顔をしかめて冴子にiPhonを手渡す。


「・・・・・・、なんだ?これは、これこそ映画か何かだろう。そんなに気にすることでもあるまい。」


手渡されたモノを見た冴子も顔をしかめてそれを突返す。その画面には血で赤く染まった子供の腹に顔を突っ込んで喰らうように動かしている片腕が千切れ、背中から臓物が見える男を上から撮った画像だった。


「・・・・・・、まぁ確かにな、外でこんなんが起こってんねんやったらここが無事ってのもおかし・・ぃ」


その言葉を遮るように備え付けられている校内放送のスピーカーからガガッっと音が鳴り響く


『全校生徒・職員に通達します!!全校生徒・職員に通達します!!現在校内で暴力事件が発生中です、生徒は職員の誘導に従って直ちに避難してください!!繰り返します現在校内で暴力事件が発生中で・・・』


ブッ!!


キィィィ・・・ン


ガキン・・・!!


『ギャアアアアアアッ!!あっ!!助けてくれっ止めてくれ!!たすけっ、ひぃっ!!痛い痛い痛い痛い!!助けてっ!!死ぬ!!ぐわぁぁぁあ!!』


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


沈黙がその場を支配する、遠くから悲鳴が聞こえるのは今の放送を聴いた生徒、職員全員がパニックになっているからだろう。そして二人同時に顔を見合わせて喰らいつくように再びiPhonの画面を見る。


画面の中では先ほどハラワタを喰われていた子供と喰らっていた男が次はお前だとでも言うようにこちらを見上げていた。そこで動画がブツリと切れて終わる。
ネット接続を終了して元の待ちうけ画面に戻して再度彼女と顔を見合わせる。


「どうやらマジやもしれんなぁ・・・。」


「ここまでタイミングがいいとドッキリという看板を探してしまいそうだよ・・・。」


お互いに引き攣った笑みを顔に張り付かせて現実逃避するように話し合う。


そんな彼らを現実に引き戻したのは無機質な電話の着信音だった。


思いもよらない所からの音に二人の肩がビクッと跳ねる。恐る恐る画面を覗いてみるとコー兄と電話をかけて来た者の名前が表示されていた。
二人して力なく笑いあってから電話にでる。


「おっす、どしたんコー兄。」


「どうしたもこうしたもありませんよ。さっきの放送聞いていましたか?まだ無事なんですよね?どこにいるんです。」


矢継ぎ早に質問が飛んでくる、兄なりに少し取り乱しているらしい。


「そんなに一編に言うなって、聞いとったよ。ワイ等は無事や、場所は剣道部の部室、冴子はんと一緒におるよ。」


「・・・・・・、何か如何わしいことでもいていたのではないでしょうね?」


「まさか、二十になるまではんなことせんよ。その場の空気に呑まれたらその限りでもないやろうけどな。それより外で可笑しなことが起こってるみたいや、気ぃつけたほうがええぞ・・・。」


大げさに肩をすくめてため息を吐きながら言った後声のトーンを下げて真剣な声で言う。


「・・・・・・、その様子だと何があったか知ってるみたいですね、で一体何があったんです?」


電話越しの声からもふざけていた調子が消えて真剣味を帯びる。


「信じられへん話やけどネットでは死体が動き回って人を襲ってるっちゅう話が飛びかっとるよ。テレビは情報統制されて暴動って言われてるけどな。」


「・・・・・・、秀治ふざけている場合ではありませんよ?あなたの頭はいつの間にかそこまで悪くなっていたとは、気がつきませんでした・・・。」


少し間をおいてから心底呆れたという声がiPhonから聞こえてきた。馬鹿にしたような響きが多分に含まれている。


「とりあえずマジや、様子がおかしい奴には寄らん方がええ、多分そいつ死んでるから。後、取っ組み合いはすんなよ、
噛まれたり引っかかれたりしたら終わりやもせんからな。それと万一戦うんやったら頭潰すか首の骨折ることや。」


疑われても仕方の無い内容だがあまりの言い草に少しだけ腹が立って少し早口で言いたいことを言い切ってしまう。


「・・・・・・、疑って悪かったですね秀治、どうやら本当のことみたいですよ、今部室にいるんですよね?なら私の分の木刀を持ってきてもらいたいのですが・・・。」


先ほどまであった声の余裕が消えている


「・・・・・・、何かあったんか?」


「窓の外を見れば誰だってわかりますよ。後ろから踏み潰されるかもしれないので教室に待機していて正解でした。
・・・まるでB級のホラー映画を見ている気分ですよ。」


電話越しの声は吐き捨てるようにそういい捨てた。


「わかった、コー兄の分の木刀も持ってたらええねんな?ワイの予備でもええか?つ~かコー兄って木刀使えたっけ?」


「止めを刺すのに要るんですよ。「紫藤先生早く逃げましょうよ!!」わかっています!!もう少しだけ黙っていてください。
・・・とすいませんね話が途切れました。職員室で集合しましょう。車のキーもそこにありますから。」


おそらくは生徒の声だろう。どうやらパニックになる前に押し止めたらしい。


「職員室やな?わかった今からそこに向かうわ、死ぬんやないで?」


「えぇ、そちらこそ私より先に死なないように・・・、あっ!!ちょっと待ってください!!」


「・・・・・・なんや?」


せっかく映画のように格好良く締めれると思ったのをぶち壊されて多少不機嫌そうに返す。言外に空気読めといっているのがわかるだろうか?


「あ~・・・、そのですね、できればまだ保健室で逃げそびれてる筈の鞠川先生を拾って欲しいんですよ。
手間もかかれば危険なのもわかっていますが・・・、お願いしていいですか?」


兄の声の後ろから生徒達の絶叫が聞こえる。それもそうだろう今自分も意外すぎて叫びそうになってしまった。


「別にえぇけど・・・、そっか、コー兄にもついに春が来てたんか・・・。にしてもコー兄が巨乳好きだとはおもってなかったわ。うん一本とられたわ。」


「別にそういう訳ではありませんよ。あなたとはまた違う意味で放っておけない人種なんですよ。それに彼女の親友から面倒を頼むと頼まれていますから。」


「はいはい、そういうことにしとくわ。じゃ、また職員室で。」


「ちょっと、ま!!」


何かを言いかけているが最後まで聞かずに強制的に電話を切る。



「いや~あの女には興味が無いと公言しとったコー兄についに春かぁ・・・、フッフッフ、弟めは応援しますぞぉ~・・・こっちがやられたんと同じぐらい。」


グフフと下卑た笑いを浮かべて自分がやられた数々のことを思い出して哂いながらiPhonをバックに入れる


「冴子!!はよ行くで!!まずは保健室に行ってから鞠川先生拾って職員室や。」


そう言ってニュースを見続けていた彼女に声をかけて竹刀を一緒に立てかけてあった自分の前使っていた白樫製の鍔つき木刀を腰に差して部室に戻る。


「職員室ではないのか?」


ニュースを聞いていてもこちらの話には耳を澄ませていたのか首を軽く傾げて問いかけてくる。


「兄さんが鞠川先生助けて欲しいんやと、くぅ~・・・コー兄に彼女よ出来よと願い続けて早3年、ついに芽が出たんか・・・、長かった!!実に長かった!!
もうこのまま魔法使いなるんちゃうか思って心配しとったんや。」


「あぁ~よかったよかった。」と口を動かしながらも勿論手は止めていない電子辞書もバッグに放りこみ置いてあった自分の今の愛刀である黒檀製の鍔付の大刀と小刀を手に取る。


冴子もすでに木刀袋を秀治のバッグに放りこんで木刀を試すように振っている。


「そうか・・・、あの浩一さんがか、君のお兄さんには世話になっているからな。そういう理由ならば嫌とは言わんよ。」


「ん!!じゃぁ行くか!!ゾンビか何か知らんがワイ等の前に敵はおらへん!!」


意気揚々とバッグを担いで部室から出て行く。両手には右に大刀、左に小刀を持っている。


「・・・・・・、この状況でよくそこまで余裕を持っていられるものだな・・・、なぁそれが君の長所だったか。」


やたらとハイテンションな秀治を見て呆れたようにため息を吐いてその後ろに付いていく冴子であった。








剣道着+袴

秀治が走れねぇといった理由で改造を施した一品、裾のたくしあげ無しで走れるようにしたもの。高2の時に父親にせびって買わせたオーダーメイドの特注品。





黒檀製の木刀(大刀・小刀)

推定重量は大刀が900g~1kg小刀が400~500g長さは1mと55センチ高1の頃冴子に完全に追い抜かれて自分の身体能力にさらに磨きをかけて習得した二刀流剣術
裏では血のにじむほど技量の上達に精を出している。
「刀一本でいつか絶対に勝つ!!」とは秀治の言
ちなみにお値段6万以上
「父は財布」とは浩一の言




iPhon

教師である兄に頼み込んで秘密裏に持ち込んだ物、今年のお年玉で買った。ただし成績が下がると没収される。



[19019] 2話目
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/07/17 00:11




二人とも無言で保健室を目指して走る。空いた窓から下の階からは絶えず悲鳴と怒号が聞こえてきている。この階にも錯乱して逃げ惑う者や下の階から逃げてきたのか血を流しながら床に座り込んで荒い息を吐いているもの。
この機に乗じて女を犯している輩もいたがそれは秀治が通り抜けざまに後頭部に一撃入れて気絶させていた。


現在地は教室棟の3階、そして保健室は一番危険と思われる一階に存在していた。下の階の声の様子から察するに確実にゾンビと思われるものがいるようだが、
3階にはまだ来ていないのか遭遇はしていない。


「・・・・・・酷いありさまだな。」


「まるで映画ん中に迷い込んだ気分やな。」


今まで走ってきた道の惨状を見て言葉少なに話を交わす。


「3階ですでにこれやと2階や1階はどうなってるか考えたくないなぁ。」


「それを言うな、気が滅入って「ストップ!!」!?」


もうすぐで階段という所で女の人影がフラフラとよろめく様にして出てくる。
しかしその姿はさっきまでの道にいた生徒とは明らかに違っていた。


破かれたのか申し訳程度にのこっている制服もそうであれば、元は緑であったスカートを赤黒く染めあげて本来腹であった部分から臓物が飛び出し腸を引きずるようにして歩いていたのだ。


それを見た下に降りようと階段に向かっていた人たちが悲鳴を上げて今来た道を走って逃げていく。
それを聞きつけたのかそれともエモノの気配を察したのか・・・、


ズル・・・ズル・・・


と石造りの床に紅色の線を描きながら、あたかも救いを求めるように腕を突き出し目から赤い血の涙を流してこちらへとゆっくりと歩いてくる。


「これが・・・!?」


「ゾンビ!?」


冴子の言葉を引き継ぐように秀治が叫ぶ。その言葉には隠しようの無い生理的嫌悪感が滲み出していた。
その間にも「ゾンビ」はゆっくりとだが着実にこちらへと足を進めてきている。


それを見た秀治は無言で冴子の前に出て二本の木刀を構える。


「何の真似だ?」


「いや~、こんな時に好きな女を前に立たせるほど男捨てた覚えはないで?ここはワイに任しとき。」


極めて明るくまるで犬の散歩をしてくるといっているが如くそれが当たり前かのように笑ってそう言い切る。


「下にはアレがひしめいているだろうに、どちらがやっても変わりないと思うが。」


「そのセリフ吐くんは心落ち着かせてからにせぃ。顔、軽くやけど引き攣ってんで。」


そう指摘された冴子はハッとして顔を手で抑える。


「・・・・・・君は大丈夫なのか?」


何が?とは言わない、それは分かりきっていることだ。それに「アレ」はもうすぐそこまで来ている。


「安心せぇ・・・、心押し殺すんと・・・、表情偽るんは紫藤家男子の18番や。」


そう言って遂に間合いに入ってきた「アレ」に襲い掛かるように上段から木刀を振り下ろした。


手に肉を叩き骨を砕く懐かしい感触が木刀越しに伝わってくる。頭を砕かれ脳髄を撒き散らし、目を飛び出させた「アレ」が糸の切れた人形のように地面へと倒れこむ。


ゾクゾクとした感覚が腕から背中、背中から全身へと駆け巡る。久々に味わった、いや味わえた感触に全身の細胞が沸き立つような感じがする。そう、昔の自分はこの感触に病みつきになり堕ちたのだ。


人型の、いや元は人であったモノを壊してしまっても後悔は無かった。「アレ」は「人」という自己暗示が思ったより効いているのだろうか?


血振りをして木刀に付いてしまった血を払い落とす。
そして少しだけ吊りあがった口端を元に戻してから背後にいる冴子に振り返る、そして彼女のすぐ後ろにいつの間にか立っていた人影を目に映すが早いか、


「あぶねぇ!!」


「なっ!!」


小刀を手放し彼女の手を取って自分の背後へと放り投げるように引きずり倒した。


「くっそ!?」


「秀治!?」


後ろにいたモノ、先ほど床に座り込んでいたゾンビとなってしまった少年に振ろうとしていた木刀を掴まれて止められる。右手に力を入れてそれを振り払おうとするが、信じられない程の力で抑えつけられていてビクともしない。


その事に驚愕して少しだけ隙ができた瞬間、左肩を掴まれて上から抑え込まれるようにして床に押し倒された。


「ぐっ!!おおぉぉおおおお!!」


掴まれた左肩が万力のような力で締め上げられて動かすことができない。
死ぬ、そのイメージが脳内を駆け巡った、気がつけば木刀から手を放し、すでに眼前にあった少年の顔を離そうとゾンビとなった少年の首を右手で掴み、
渾身の力を振り絞ってそれ以上の接近を拒むんでいたが・・・、
それは接近する速さを緩める程度の効果しかならなかった。力負けして徐々に顔と顔の距離が縮まっていく。
ガチガチと目の前でかち鳴らされる歯から濃密な死の気配が漂ってくる。


すでに顔からはいつもの余裕は消え去り、表情は怯えの色で染まっていた。


「兄さ「はああぁぁああああ!!」!?」


死を覚悟した瞬間に冴子の怒号が廊下に響き渡り顔スレスレの所を木刀が過ぎ去っていく。
それは目の前の少年の頭を砕き眼前にある顔を弾き飛ばした。飛び散った血が頬に多少付着する。


くたりと少年の体から力が抜けて左手から木刀が滑り落ちる。それを震える腕で何とか横に投げ飛ばし床に手をついて起き上がる。


心臓が恐怖で縮こまっていたのが息を吹き返したかのようにドッドッドと勢いよく脈を打ち鳴らし始める。今更ながら全身から冷や汗が滝のように噴出してくる。
全身の筋肉が震えが止まらない。


「た・・・、助かった・・・、すまんな冴子・・・、って何やっとるん?」


廊下の壁にもたれて乱れた息を整えながら礼を言うといつの間にか目の前に座り込んでいた彼女がペタペタと顔に触ってくる。


「どこも噛まれていないな?」


「あぁ、あと一秒遅かったら噛まれとったやろうけど、大丈夫や。ホンマに助かった、ありがとな。」


「いや、礼を言うのは私の方だ、私が後ろに注意を払っていればこんなことにはならなかった、目の前のことに気を取られて背後が疎かになるなど・・・、私の未熟のせいで君を失ったとなれば悔いても悔やみきれない。」


「こっちにも責任はあるやろ~よ。来た道におらんかったら安全と思い込んでもうて注意するようにも言ってなかったからな。
まっ、どっちもまだまだ未熟ってことや。オレらは恋人であって相棒でもあんねんから背中合わせてやってこ。」


「・・・・・・『お互いの辛いことは背負いあったらいい、楽しいことは分け合えばいい、一人で歩けないなら支えあって行けばいい』だったか。」


「そ~や、これからの教訓としてこのことを活かせばえぇ、まだどっちも生きてんねんからどうとでもなる。今回はワイがお前を助けてお前がワイを助けた。それだけの話や。そう悔いる話でもないやろ?
うっし!!足の震えも止まったしちゃっちゃと保健室行こ~ぜ。頼りにしてるで?相棒さんよ?」


「・・・・・・、そうだな、私も頼りにしているよパートナーさん。」


冴子の差し出した手をとって立ち上がり落ちている二本の木刀を拾い上げて腰に差す。


「さてこっから1階に降りて保健室直行や、アレがうようよしとるやろうけど・・・、覚悟はえぇか?足引っ張んなよ?」


「君こそな。」


お互いに軽口を叩きあい階段まで行って下を見れば、下からさらに4~5匹がこちらに上がってきていた。
秀治は首と指の骨を鳴らしてから腰から自分の木刀を引き抜き、冴子は体をグッと伸ばして緊張していた筋肉を解して準備を整える。


「それじゃあ。」     


「では・・・・、」


「「行こうか!!」」



そう言って二人は同時に階段を飛び降りて下へと向かっていった。

















作者後書き

永エンドになりかけた主人公、オリ主には常に付き纏う永エンドの恐ろしさ。
書いててゾンビの力を強くしすぎた気がする。まぁ実際こんなもんだろう。



永エンドとは


好きな子を庇って助けが間に合わず自分がゾンビに噛まれてしまい、自決する死に方、この後原作主人公による精神的な介護で寝取られエンドに繋がる最低の終わり方。



[19019] 3話目
Name: カニ侍◆b5d29cda ID:084b6d0b
Date: 2010/07/23 22:04




「そろそろ保健室のはずやけど!!っとぉ」


「あぁ、こう多くてはキリが無いなっ!!」


行く道の先々でうろついているゾンビ共を蹴散らして保健室へと二人は向かっていた。


「そこの角曲がればって、多!?」

保健室の前ではかなりの数のゾンビがひしめいていた。中から男と女の声がするのを聞く限りまだ無事なのだろうと思っていた矢先、ゾンビにドアが破られて先頭にいた数匹が保健室へと入っていく。


「―――ッ!!やっば!?外はワイが抑える!!お前は中に入った奴を!!」


「わかった!!」


群れに飛び込んで二本の木刀を振るって奴らを吹き飛ばし保健室への道を切り開く。
二人が保健室の壊れた扉の前に辿り着いた瞬間、保健室から男のやるせなさを含んだ悲鳴が響き渡る。


冴子は部屋へと飛び込み秀治はそこで立ち止まり後続のゾンビを迎え撃つ。
近くにいるゾンビは残り8匹、部屋に入ったのは6~7匹だろうか?


「来いやぁ、死に損ない共がぁ!!全員纏めてあの世に送ったるわぁ!!」


まだ部屋に入ろうとしていた奴の首の骨を叩き折り、注意がこちらに向くように大声で怒鳴りつける。それが功を奏したのか、生気の無い顔がギョロリとこちらを向きうめきながらフラフラとこちらへと寄ってくる。


「ハッハァ!!」


あと7匹が纏まっている場所に自ら飛び込んで先頭に立っていたモノの頭を近寄るが早いか潰す、大刀では十分な威力が乗らない程近くに寄って来ていたモノには小刀による一撃を首に叩き込み骨を砕いて沈黙させる。バックステップと同時に木刀を切り払うように動かして3匹目の頭を横殴りに叩き砕く。


残りの4匹が飛び下がる前にいた場所に殺到するように倒れこむ、あと一秒遅ければまた組み付かれて命は無かっただろう。


予想以上のスリルに背筋がゾクゾクと粟立つが楽しい遊びもここまでのようだった。
後は起き上がろうともがいている奴らに止めを刺すだけなのだから。


「冴子~、そっちは上手いこといったか~?」


全てに止めを刺し終えた後、挨拶でもするかのような気軽さで保健室に入り中を確認する。失敗したなんていう可能性は考えてもいない。そしてそこで見たのは、


木刀を振りかぶって噛まれて血を吐いている少年に止めを刺した冴子の姿だった。


「介錯か・・・。覚悟は決めてやってんやろうけど、潰されんなよ?」


「潰されそうになったら君が支えてくれるだろう?なら私はどこまでも進んでいけるさ。」


気遣うように秀治がそう言うと冴子は血振りをして木刀に付いた血を振り落としながらそう返した。


「いくらでも支えたるよ、だから余り気に負うなよ?ん、じゃ鞠川先生も保護したことやし予定通り職員室にいこや。」


「あぁ、有り難う、それでは鞠川先生。準備はいいですか?」


「早くせんと奴らがまた来よるから準備も手早く頼みますわ、ワイ等二人やったら突破できても先生おったら突破できるかわからへんし。」


「ふぇ!?ちょ、ちょっと待って!!今薬を持てるだけ入れるから!!」


そう言ってワタワタと慌しく動いて薬のある棚から色々な薬を持ち出して彼女の救急バッグの中にいれた。


「んしょっと・・・、これでいいわ。ところでなんで職員室なの?」


「車のキィがあるから。」


「それもそうね、それじゃ行きましょうか。」


疑問も晴れたのか冴子の後ろに続いて保健室を出る。冴子と秀治はすでに保健室から出て廊下の様子を伺ってゾンビが来ないか警戒をしていた。
鞠川先生が来たことを確認してから元来た道を戻るようにして移動する。そうしたほうがゾンビに出くわさずに済むからだ。全て殲滅してきたから頭の潰れた死体だけは数多に転がってはいるが・・・


「君は・・・確か紫藤先生の弟さんの秀治君よね?一時期保健室に入り浸っては湿布根こそぎ持っていってたあの・・・。」


何で今その話を持ち出すのだろうか?冴子はそんな時もあったな、といった呆れを含んだ顔で遠い目をしている。あの時は連日連夜の筋トレで筋肉痛が酷かったのだからしかたないではないか。


「え、えぇそうですよ、その秀治です。っと、こっからはアレが出てくるんで気ぃつけてくださいよ?」


目の前にあるのは階段、つまりこれから行くのは降りるときに無視をして通った2階である。そこから職員室に行けばいいのだがこの階段からだとまだ遠いのだ。


かと言って1階を通ることはできない。3階も今はどうなっているかわからない、すでに浩一の一行が職員室に着いている可能性のある今は遠回りすることはできない。


携帯も今は何故か圏外と表示されている状態だ、やはりHardbankだったせいだろうか?こんなことならitumoにすればよかったと半ば後悔する。


「あれって、ゾンビのこと?」


「それ以外ないですやん。」


元から黒くてわかりにくいが所々血に濡れた木刀で肩をトントンと叩きながら階段を見上げてそう言う。


「冴子、教室からいきなり出てくる奴には注意しろよ?後バランス崩すのは頼んだ。」


「角を曲がるときもな、1階よりは少ないとは思うが、気を抜けば死ぬぞ?」


「わ~っとるよ、そいじゃ、行くで?」


そう言って2階に上がり1階よりは格段に少ない数しかいないことに安堵のため息を洩らす、これなら天井から降ってこないかぎりやられることはないだろう。
移動速度こそ鞠川先生に合わせて早足ほどの速さだが、何度も死線を走り抜けた1階よりは格段にましだ。


「秀治、いくぞ。」


「アイアイ。」


冴子が崩してその後ろから着いてきている秀治が殺す。ベルとコンベヤに近い流れ作業だ。


「秀治君や冴子さんほど強かったらさっきみたいに一人で相手取れるんじゃないの?」


その光景を見て少し不思議に思ったのか鞠川先生が前を行く二人にそう質問を投げかける。


「確かに一人でもやれんことはない、でもや、今より危険やからな、まぁ、この学園脱出するってのにこんな所で体力使うんも馬鹿らしいやろ?
それにあれにもし組み付かれたらワイやったら何とかなっても冴子はんや鞠川先生やったらまず命は無い。
頭のリミッター外れてんのか知らんけど、とんでもない力やからな。ワイが片手で押さえ込もうとして力負けしたからの。」


「先生秀治君がどれだけ力が強いのか知らないんだけど・・・。」


「ん?あぁ、そういやそやな、まぁ、ダンベル100キロクラスの人間が負ける程度の認識でえぇよ。」


話しているうちに職員棟に繋がる端の前のドアに着いた。冴子が身を屈めて橋の上の様子を覗っている。


「はぁ~、すごいのねぇ・・・。」


そう言って感心していた鞠川先生が床に敷いてあった足拭きマットに足を取られてその場でこける。それを見た冴子が呆れたようにため息を吐いて近づいていく。


「いたたたたた・・・、もぉ~なんなの~?」


「走るのに向かないファッションだからだ。」


それを言うが早いか鞠川先生の履いているロングスカートに手を伸ばし、それを縦に引き裂いた。鞠川先生の悲鳴と秀治の歓声がその場に響く。裂け目から見える生足が素晴らしい。
しかしいつまでも見ているとゾンビではなく自分に木刀が飛んできそうなので自重しておくことにする。


「あぁ~、これブランド物なのに~。」


「服か命か・・・どっちが大切だ?」


「うぅぅぅぅうぅ~・・・どっちも!!」


本当に兄と同じ27歳なのだろうか?余りにも子供っぽさが残っている人だと見ている目に多少の呆れが入る。
それでもこの状況でその台詞が飛び出してくるあたりかなり肝も据わってるのかもしれない。


なるほど、これはあの何かと世話焼きな兄が放っておけないと言うわけだ。目を放していたらどこへ行くかわからないから危なっかしいのだろう。そう思っていたら職員室の方向から何かの発砲音が聞こえてきた。
どうやらゾンビ以外に誰かがいるらしい。


「職員室か?」


「みたい・・・やな。」


橋にはどうやらゾンビの影は見当たらない、未だに座り込んでいる鞠川先生を助け起こして。その場に早足で向かっているとこんどは少女の悲鳴がその方向から聞こえてきた。


「冴子!!」


「わかっている!!」


二人同時に走り出してT字路に出ると反対側からも二人の男女が現れた。こちらを見るなり厳しい視線を投げかけてきた女子には見覚えが無いが男子の方には見覚えがあった。
よく授業をサボって屋上で寝ている奴だ・・・、確か小室孝といったか?


職員室を見れば銃?のようなモノを持った男子と迫りくるゾンビの頭に悲鳴を上げながらドリルを突き刺してそれ以上の接近を防いでいた。
しかしドリルの音が大きい、あれでは他のゾンビを呼び寄せるいい餌にしかならない。


その場にいる他の4匹がその音に誘われるかのごとくフラフラと歩み寄っていく。


「私達は右!!君たちは左を頼む!!」


「あいよ!!」


「わかったわ!!」


冴子はその場にいた者に号令を出して突撃する。それに続くように他の3人もそれぞれ言われた通りに左右へと分かれて手近なゾンビへと踊りかかった。


一番右を冴子が、その近くにいたモノを秀治が一瞬で近づき頭を潰す。


左ではモップを武器に女子生徒が素早く連激を入れてバランスを崩し止めにノドに一撃を入れて止めを刺している。その一連の淀みない動きに秀治、冴子共に感嘆の息をもらす。


一番奥、つまり一番女の子に近づいていたゾンビを金属バットを大上段に振りおろして頭蓋を砕き吹き飛ばした。


更にゾンビが来ないことを確認してようやくあたりに安堵の空気がながれた。


「よぅ!!生きとってんな小室、いつも通りに屋上でサボっとって喰われたと思っとったぞ?」


「サボろうとはしたんですけど、そのおかげでこの騒ぎにいち早く気づけてなんとか・・・、紫藤先輩もいつも通り授業サボって鍛錬ですか?」


こちらの軽口にアハハと苦笑いで返してから秀治の服装を見てそう言ってきた。


「ま~な、部室で鍛錬した後、一息ついとったらこの騒ぎや、ところで家の兄さんしらんか?生徒連れてこっちに向かってるはずやねんけど・・・。」


「紫藤先生ですか?すいません僕達も屋上から逃げてきたばかりなんで何も・・・。」


「そっか・・・、うん、すまんな、ありがと、あとどっちも紫藤やからワイのことは秀治でえぇよ?めんどいやろ?」


「知り合いか・・・?」


2年の後輩と仲が良さげに話し合っている秀治に冴子が首を傾げてそう言う。


「ん~?こないだお前こいつと会ったやろ?部室来んと屋上で木刀振ってるワイ捕まえに来た時に、そ~いやあん時おった今村と森田はど~した?・・・やっぱ喰われたか?」


「・・・・・・、はい、今村は知りませんけど森田は、奴らになってました。」


「・・・・・・、そっか、あいつも死んだか・・・、ところで奴らってのはこれのことか?」


そう言って木刀で転がっている死体の一つをつつく。

「え?、あぁ、奴らっていうのは死んでも動いている奴らのことです。ゲームじゃないんだからゾンビっていうのはどうかって永が・・・。」


そこまで言って顔を悲痛そうに歪めて押し黙る、今この場にいないことを見ればどうなったのかは大体予想はつく。


「・・・・・・、死んだか?」


「・・・・・・、はい。」


手が白くなるほど拳を握り緊めて顔を俯かせる。会話を聞いていたモップの子も顔を俯けている、仲がよかった奴だったのだろう。


「すまんな・・・、突っ込んだこと聞いてもうて。」


「いえ・・・。」


「ん!!この話はもう終わりにしよか、ところでさっきから話に入ろうとしてるこいつの事は知っとるな?お前らでいう奇跡の人、剣道部主将の毒島冴子はんや。ほらほらお前も自己紹介して。」


背中をぽんぽんと労わるように叩いて他の話へと促す。


「あっ・・・、2年B組の小室孝です。よろしくお願いします。」

そう言って孝は頭をペコリと下げて手を差し出した。冴子はその手を握って握手したまま


「先ほど勝手に紹介されてしまったが、3年A組の毒島冴子だ、よろしく頼む。」


と華やかな笑みを浮かべてそう言った。


「は・・・、はい、こ・・・、こちらこそ。」


「おぉ~・・・・・。」


藤美学園一の大和撫子と名高い日本美人の笑顔というのはそれだけでも十分凶器たりうる。
それを離れてみていた先ほど銃を撃っていた男子も見とれているというのに至近でそれを見てしまった孝の衝撃はいかほどのものであろうか?先ほどまで暗かった顔が一変して赤くなり目を泳がせている。


これを入学以来何度も繰り返してしまった故に付き合っている男がいるにも関わらず告白者が続出し、ファンクラブが設立されたのは秀治の苦い思い出である。
なにせこのファンクラブの掲げる命題が「冴子さんには優しく、憎き紫藤には死あるのみ」なのだ。


かなり迷惑だったのはいうまでもない。大半が男子剣道部員で稽古の最中に本気でノドに突きを入れられそうになった経験は数知れなかった。


「私、槍術部の宮本麗っていいます!!全国大会2連覇の毒島先輩と紫藤先輩ですよね!?」


いきなり大声を上げて慌ててその間に入っていったのはモップの子だった。その子と入れ替わるように開放された孝がフラフラとこちらに歩み寄ってくる。


「前に秀治先輩が言ってたこと・・・、本当だったんですね。」


「な?そうやろ?あいつはド天然の男殺しやねん・・・、惚れんなよ?お前にゃあの娘がおるやろ?」


冴子がこちらを向いていない隙に釘を刺しておくことは忘れない、孝の両肩をグッと力を入れて掴み声のトーンを低くして言う。
そうしているうちに今度は銃を持った男子、平野耕太を落としかけている。


これで本人が無自覚というのは笑える話だ、高校に来て友達100人の代わりに恋敵100人できたのは全国でも自分だけだろう・・・非常に認めたくはないが。


「何よ・・・、みんなデレデレしちゃって・・・。」


ゆらりと先ほど悲鳴を上げていた女の子が立ち上がりながらおどろおどろしい声でそう呟いた。
そうだと声高に同意したい、この状況で新たな恋敵の出現は勘弁だ。まさか誰もつきあった女がニコポナデポスキルを持ち合わせていたなど思いもしないだろう。


「おい、何言ってるんだよ高城。」


それを聞いた孝が自分の幼馴染の一人である高城を宥めるが、


「うるさいわね!!私は天才なのよ!!その気になれば誰にも負けないんだから!!。」


と水に油を注いだかのようにヒステリックに叫び始めた、そうでもしないと自分を保てないとでもいうように。


「それは頼もしい、ですができるなら声はもう少し小さめでお願いします屍人たちが寄ってきかねませんから。」


突然上の階からそんな彼女を諌めるようにそんな言葉が降ってきた。


「誰かいるのか!?」


高城の近くに行っていた孝が上階にそう声をかける、が秀治はその声の持ち主のことをとても良く知っていた。よく聞き馴染みのある声だったからだ。


「小室君、君はもう二年生なんだから私の声ぐらい覚えておきなさい。やぁ、秀治、それに冴子さん無事だったようですね。ご苦労様でした。それに鞠川先生も無事でなにより。」


そう言って上から足音を立てずに下りてきたのはスーツとネクタイを外し、所々に血の付いたカッターシャツを着た紫藤浩一その人だった。










あとがき


これから更新はさらに遅くなる。これから一ヶ月はないものと思ってもらってもかまわない。
それはそうと自分で一話から見直したけど文章がひどいな・・・、これはプラウザバックが多そうだ。






[19019] 4話目
Name: カニ侍◆e02dd557 ID:8eab1a02
Date: 2010/08/11 17:38







「はい、それをそっちに運んで、そうそう・・・、あとはこれをこうしてっ!!と、皆さんお疲れ様でした、バリケードはこのぐらいでいいでしょう、さぁ休憩にしましょう。」


紫藤浩一の監修の下で男子たちがバリケード作りに駆り出されソレがついに完成する。それに対して女子たちはそれをみていた者、
ショックを受けているのか呆然と座り込む者、浩一の依頼で男子たちの為に水を用意している者等様々だ


「ふ~、全く、人使いの荒い兄さんだことで・・・、と、ありがと。」


差し出された水が並々と注がれた紙コップと受け取り軽く手を上げて礼を言う、コップを渡した女子は「どういたしまして」と微笑み次の人へと水を渡しに行った。
それを一気に飲み干してゴミ箱へと投げ込むが空気抵抗が思いのほか強かったらしく途中で失速し床に転がった。


それを見て軽く舌打ちし入らなかったコップを拾い改めてゴミ箱に入れる、ふと気になり冴子の方を見ればどうやら少し疲れているらしく椅子に座って自分の肩を揉んでいる。
それを見てニタリと笑いながらスススと気配を殺して音を立てずに背後へと忍び寄り彼女のうなじにふぅと息を吹きかけた。


「ひゃん!!」


身体をビクリと跳ね上げ可愛い叫び声を上げた後、手加減のまるで感じられない裏拳が顔めがけて飛んできたが予測していた行動の一つだったのでそれを軽く避けて彼女の肩を掴んでマッサージを始める。


「今の裏拳、ワイやなかったら直撃しとったぞ、もちっと手加減ってもんをやなぁ・・・、それにしてもお前、結構肩凝ってんな。」


「君ぐらいしか私にこんなことしてこないだろう、仮に君でなくとも手加減の必要は無い気がするがな、ん・・・、もうちょっと右、
最近胸が重くなってきてな、肩こりがキツクなってきたんだよ、アッ・・・、そこ・・・」


「あ~、先生それよくわかるなぁ、先生も胸が重くて重くて・・・、偶に紫藤先生に頼んでマッサージしてもらってるんだけど、すぐに凝っちゃうのよねぇ、というわけで秀治くん次お願い~。」


秀治が凝っている場所をウリウリと攻め立てていると今まで隣で突っ伏していた鞠川先生が急に話に参加してきた。それもとても興味深い話を引っさげて・・・だ。


「あ~、家の兄さんマッサージめちゃ上手いねんな、意外も意外やけど・・・、昔はよう揉んでもらってたわ、それはそうと先生?家の兄さんとはぶっちゃけどうなんです?」


椅子を回して冴子を机に突っ伏させ隣で顔だけ上げてこちらの話に参加している彼女に声を潜めてたずねる。その間にも肩を揉んでいる指は休むことなく動き続けさらに凝り固まった場所を解し「あっ!!そこっ、そこぉ・・・。」と冴子を喘がせている。


周りの男子の何名かが腰を引いた体勢になっていたがそれは無視した。それ以外の男子と目を輝かせ始めた女子は紫藤浩一の恋バナというべきとても珍しい話題を聞きつけてきた人間だ。


「えぇ?どんなって、どういうこと~?」


「いや、家の兄さんを恋愛対象としてどうかって話ですやん。弟のワイが言っちゃなんですが、家柄良し、人柄良し、掃除洗濯炊事、何でもござれのパーフェクト超人やで、
先生と同い年やったはずですし結婚相手としてどうです?ワイも歓迎しますよ?先生が姉さんになるんやったら。」


本気でボケている彼女に少し毒気を抜かれながらも人好きするような笑みを浮かべてしつこく喰らいつく。


「えぇ~!!先生いきなりそんなこと言われても・・・、ほらこんなのは相手の気持ちも大事だし・・・。」


「兄さんのことなら大丈夫、絶対に好意は持ってるはずやから!!あの過保護な兄さんがワイと冴子を危険に晒すのにも関わらず先生助けるようにワイ等に頼んでんで、
これで何も思ってないってことはまずない!!」


絶対の自信を抱いて断言する。もしかしたらあの過保護な兄のこと手のかかる妹のような存在として保護者気分で付き合ってるのかもしれないが昔と比べれば大いなる前進には変わりはない。


秀治はこの振って湧いたチャンスを逃す気はサラサラなかった。ちなみに冴子にしているマッサージはすでに背中全体が終わり腕等の部位に移っており、
なすがままに揉まれている彼女はずっと前から蕩けていたりする。


周りにいた人間がもっと良く聞こうとしてジリジリと間を詰めてきている。話題の中心である紫藤浩一は高城となにやら話しこんでいてこちらには全く注意を払っていない。


「え~、でも・・・、でも・・・。」


反論しようとして今までのことを思い返し、逆に肯定できる内容ばかりが思い浮かんできて彼女はだんだんと顔を赤くしてゆき慌て始めた。どこからかもう少し、後一歩という声が秀治には聞こえた気がした。


「鞠川先生!!そこにキィは有りますか!?」


そんな弟の企みを崩したのはこの話の中心人物であり秀治の兄の浩一だった。声がかかった瞬間、周りにいた人間はビクリと体を跳ねさせた後、ほぼ全員が明後日の方向を向いて素知らぬ振りをし始めた。


「え!?あっ、はい!!今探します!!」


声をかけられた彼女はというと顔を赤くしたままこれ幸いと話から逃げ出して自分のバッグを開いて車のキィを探し始めるがそこにすぐさま浩一の声が飛んだ。


「あなたのコペンのキィではありません、部活で使うマイクロバスのキィです、こちらからではあなたたちが邪魔で見えないんですよ。」


「えっと、えっと・・・、あっ!!あります!!ちゃんとかかってます!!」


アワアワとバッグから手を離して壁に目を走らせキィがかかっていることを確認するとそれを浩一に報告した。そんな彼女を見てまんまと逃げられたと秀治は口惜しげに舌打ちをする。


「そうですか・・・、では皆さんに・・・、「なによ・・・、これ・・・。」どうかいたしましたか?宮本さん・・・これは・・・。」


浩一が目を向けた先では宮本がテレビに目が釘付けになっていた。それを見てテレビに目を向けた彼の顔が険しくなってゆきリモコンを手にとって何も言わずテレビの音量をあげていく。



テレビに映っていたモノそれは先ほど秀治達も見ていたニュースの放送だった。


「民さん、静かにしてこれをみてください。」


浩一が未だに雑談を続けている生徒を静めて注意をニュースへと向けさせた。


放送されているのは街の映像、ニュースキャスターの女性が現地の様子を伝えている途中にいきなり銃の発砲音が連続で鳴り響ったが問題はそこではない、
その女性の後ろに映っていた中身の入っている死体袋、それが一人でに起き上がったのだ。銃で撃たれたらしくすぐに力を無くし再び横になった、


それをみた彼女はパニックを起こし悲鳴を上げてそれでも尚現場の状況を掴もうとしているのが声で判断できる。
カメラマンが逃げたのかカメラが突然倒され彼女の悲鳴が遠くなっていく、どうやら逃げ出したらしい、・・・原因はわかる倒されたカメラに映っている足の持ち主達だろう、奴等が出たのだ。


そこで映像は途切れ、再びカメラはテレビ局に戻った。しかしニュースの発表ではこれはただの全国各地で起こっている暴動だから家の外に極力出ないようにという注意のみだ、奴等のことには全く触れていない。


「これが暴動!?馬鹿じゃねぇのか!!」


「こんなのが全国で起こってるっていうの!?私たちは一体どこへ逃げればいいのよ!!。」


等と各自が思い思いに騒ぎ立て始める、それも無理は無い、今その状況に置かれている者からすれば文句の一つでも言いたくはなる。


「静かに!!奴等は音を聞きつけてやって来るそうです!!また襲われたくなければ黙って!!」


浩一が手を打ち鳴らして周りの注意を喚起し静かにするように警告する、しだいに喧騒もおさまってゆき、またテレビの音声のみしか聞こえない状態へともどる。
いつの間にかチャンネルを変えていたのか今放送されているのは諸外国の様子だった、各国も酷い有様のようだ。


「先生・・・、元に戻るんですよね!!また元の日常を過ごせるんですよね!!」


「できるわけないし~・・・。」


女子の一人が浩一に縋り付きそう叫ぶように言ったが、それに浩一が答えるより早く高城が呆れ返り冷めたような口調でそう返した。


「高城!!そんな言い方は!!」


「パンデミックなのよ!!勝手になんとかなるわけないじゃない!!」


孝がその答え方を咎めたが彼女は止まらない、いや、さらに火がついたかのように話し始めた。


鳥インフルエンザにスペイン風邪、黒死病等、歴史に残る数々の完全爆発の例を上げていく、
そんな中鞠川先生が肉だから一ヶ月ぐらい後には腐っているかもしれないと言って生徒達に希望を与える
しかし高城がその意見を腐るかどうかわからないと一刀両断し一刻も早くここから逃げ出すべきだと言って未だに事を軽く見ている者達に現実を叩きつけた。


これは元々生徒である彼女よりも先生という立場にいる浩一が言った方が問題は少なく済む筈だが彼女はそれをさせなかった。


なぜか?


今この状態で彼にその事を言わせてしまえば下手をすれば彼の、紫藤浩一という存在が持っている求心力が下がるか失うかをするかもしれない。
そうなればこの集団はバラバラとなり機能しなくなる。それだけは避けなければならない、纏まりの無くなった集団というのがどれだけ恐ろしいモノかを知っているからだ。


逆に今自分が問題を起こし、彼がそれを上手く納めれば求心力は上がる、集団は纏まり一致団結して事に挑むことができる。
元より彼が動かないことは有り得ないと断じての行動だ。自分が勉強できるだけの頭でっかちの天才ではないと行動で示し彼に宣言しているのだ。


彼女は紫藤浩一と言う人間を認めている、最初のアレに動じることなく生徒を纏め上げその上でここまで来たのだ、そんな人間が無能である筈が無い、
その認識は自分の家とよく関わりのある人物、紫藤一朗の息子であることも後押ししていた。


「んだよテメェ!!もう少し明るく先を考えられねぇのかよ!!さっきから気が悪くなることばっか言いやがって!!大体外に逃げるだと!?ここで救助を待てばいいじゃねぇか!!」


「そうよ!!わざわざ奴等がうようよしてる外に逃げようだなんて馬鹿げてるわ!!」


こうして突っかかってくる輩がいることも計算内だむしろいなければ困る。彼女は眼鏡の位置を中指で直し腕を組んで真正面からそんな輩達と向かい合おうとするが、
そんな彼女の前に彼女を庇うかのように眼光を鋭くし杭打ち機を構えた平野が背中を向けて立ちふさがった。
それを見て大またでこちらに向かってきていた柄の悪い男子が怯んだように一瞬足を止めたが相手が平野だとわかると見下したような笑みを浮かべて平野と睨み合う。部屋に殺伐として空気が流れ始めるがその時


「静まりなさい!!」


浩一がそう怒声を発し拳を机に思い切り叩きつけた。轟音が部屋に鳴り響き騒いでいた生徒もそうでない生徒も身を竦ませて彼を窺った。


「今私達が争いあって何になると言うのです!!いつも貴方達に言っている通り心に余裕を持ちなさい!!今こそそれを実行する時なのです!!
心に余裕を失った人間がこの先の化け物だらけの世界で生き残っていけると思っているのですか!?」


「心に余裕を持ち、常に冷静な判断を下して動けば私達がこの程度の苦難を乗り越えられない筈がありません!!今こそ真に心を一つにし結束を固める時です!!逃げるのではなく立ち上がって現状に抗うこと、これを忘れてはいけません!!」


こつこつと足音をたてて先ほど作り上げたバリケードの前へと移動する。


「今自分にできることは何か?やらなければならない事とは何か?常にそれを頭の中で考えるのです。逃げていては何も掴めるモノも得られるモノもありませんただ失っていくのみです。
どんな絶望的な状況に置かれようとも抗うことを忘れた者に栄光が訪れることは無い、それは歴史が証明しています。だからこそ抗え!!今自分に出来るベストを尽くせ!!立ち向かうときは今なのです!!誇り高い藤美学園の生徒達よ!!」


身振り手振りを交え覇気を伴った力強い声で演説を聞かせる。浩一の持つ人を扇動させる才能と昔、父親に教わった政治家になるための英才教育を活かしたモノだ。
最後に彼が大きく両腕を広げ語りきった時、あたかもそれを待っていたかのように誰かが拍手をし始めそれは次第に周りを巻き込み喝采となる。


初めに手を叩き始めたのは彼の弟である紫藤秀治、彼もまた自分の兄から同じ教育は受けている、ならばこそのこの行動である、初めて拍手をした者となり周りを巻き込んでサクラとなり兄を補佐した。


極限状態に追い込まれている生徒はそれに気がつくことはない、気がついたとしても高城ぐらいのものであったが彼女は何も言うことはない、これが自分の望んだ結果だからだ。
思った以上の結果を彼は引きずり出してきたが別に文句は無い、自分の仲間というべき者達はそれに呑まれてはいないからだ。


自分を責め立てていた生徒達は皆バツの悪そうな顔をして反省しているようだ。彼女は争いになる前に事が済んだことに安堵の息を吐いた、思っていたより介入が遅かったのだ。


「デブオタ。」


「はい、なんでしょう?高城さん。」


「庇ってくれてありがと、助かったわ。」


本心を言えばなぜ小室ではなくコイツなのかという不満はあったが危険を冒してまで助けに入ってくれたものに礼を言わない程彼女は礼儀知らずでは無い、尤も争いが始まってしまえば口汚く罵っていたのではあろうが、それはまた別の話だ。
彼はまさか礼を言われるとは思ってもいなかったのか目をパチクリとまたたいた後


「はい!!」


と満面の笑みを浮かべて大きく肯いた。


「きゃあ!!」


「な・・・、何だ!?」


「や・・・、奴等だ!!あいつ等ここを嗅ぎ付けやがったんだ!!」


不意にバリケードを張ったドアに何かがぶつかる音が聞こえ浩一の後ろを覗いた生徒は一様に混乱し始める、なぜならドアのスリガラスに映っているモノ、
それは奴等の一匹がガラスに顔を擦り付けて中に入ろうとしているという考えたくも無いものだったからだ。混乱が感染しさらに騒ぐ声が大きくなっていく。


「選びなさい!!私と共に奴等に立ち向かってこの学園から脱出するのか!!それともこの学園に残り奴等に怯えて隠れ逃げる道を選ぶのかを!!」


そんな中、戸を叩く音を背に浩一は両腕を広げ生徒達全員に聞こえるように声を大きく張り上げてそう問いかけた。






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