FRBがFF金利を1%に下げ、さらに「追加利下げ」を示唆している。FRBはすでに激しく「量的緩和」を行ない、バランスシートを1ヶ月で倍にふくらませた。NYタイムズは、ゼロ金利も近いと予想している。まるで10年前の日本の悪夢がよみがえったようだ。
しかしEconomistも指摘するように、金融緩和の効果は限定的だ。経済が収縮して通貨需要のない状態でいくら供給を増やしても、「銀行はFRBに通貨を置いたままにする」から、FRBは市中に流通するマネーストック(M2)をコントロールできない。余った通貨は国債などの安全資産に向かうだろう。これも日本と同じだ。
今回の金融危機は日本の90年代と性格が違うが、その後のdebt overhangはよく似ており、おそらくその原因は30年代とも共通だ。企業のdeleveragingによって純投資が負になり、物価を安定させる自然利子率が負になっているのだ。これを簡単な図で示すと、自然利子率はIS曲線と均衡所得水準Y*の交点で決まる。投資意欲が極度に減退するとIS曲線が図の破線のように内側にシフトし、自然利子率i'が負になる。現実の実質金利が正であるかぎりi'より高くなり、デフレが起こる。
インフレになっていれば、実質金利(名目金利-物価上昇率)を負にして自然利子率と一致させることは可能だが、9月のアメリカのCPIは0%で、現在はデフレになっている可能性が強い。このような状況では、名目金利の非負制約があるかぎり、実質金利を負にすることはできない。通常の(期待を含む)マクロモデルでは、何らかの方法で中央銀行がインフレ期待を作り出すことができれば望ましいという点でほぼ一致しているが、デフレ状況では期待を操作するcredible commitmentは不可能だという点でも一致している(e.g. Eggertsson-Woodford)。
これはインフレ目標が望ましいかどうかという論争とは別の問題である。かりにインフレ目標が望ましいとしても、デフレ状況ではそれを達成する手段が中央銀行にはないのだ。その原因は、人々の期待に経路依存性があり、forward-lookingな最適水準で決まらないからだ(決まるなら最初からデフレにならない)。これをなんとか操作しようと日銀が試みたのが「時間軸」政策で、これは一定の成果を収めたというのが白川総裁の自己評価だが、劇的な効果があったとはいいがたい。
この問題はきわめて困難で、しかも国際的に共通点が多いので、日銀はFRBに助言できるだろう。まずいえることは、バーナンキの持論だった(最近はいわなくなった)インフレ目標や「非正統的な金融政策」は無意味だということだ。消費や投資が萎縮し、通貨が供給過剰になっている状況で、いくら通貨を追加供給しても人々の心理を変えることはできない。
さらに本質的な問題は、かりにマイナス金利が可能だとしても、それは投資需要が負の状態で物価を安定させるだけで、金融政策だけで不況を脱却することはできないということだ。根本的な解決策は、早く不良債権を清算してdeleveragingを終わらせ、前向きの投資を始める(IS曲線を外側に動かす)ことしかない。金融政策は、その短期的な補助手段にすぎないのである。
しかしEconomistも指摘するように、金融緩和の効果は限定的だ。経済が収縮して通貨需要のない状態でいくら供給を増やしても、「銀行はFRBに通貨を置いたままにする」から、FRBは市中に流通するマネーストック(M2)をコントロールできない。余った通貨は国債などの安全資産に向かうだろう。これも日本と同じだ。
インフレになっていれば、実質金利(名目金利-物価上昇率)を負にして自然利子率と一致させることは可能だが、9月のアメリカのCPIは0%で、現在はデフレになっている可能性が強い。このような状況では、名目金利の非負制約があるかぎり、実質金利を負にすることはできない。通常の(期待を含む)マクロモデルでは、何らかの方法で中央銀行がインフレ期待を作り出すことができれば望ましいという点でほぼ一致しているが、デフレ状況では期待を操作するcredible commitmentは不可能だという点でも一致している(e.g. Eggertsson-Woodford)。
これはインフレ目標が望ましいかどうかという論争とは別の問題である。かりにインフレ目標が望ましいとしても、デフレ状況ではそれを達成する手段が中央銀行にはないのだ。その原因は、人々の期待に経路依存性があり、forward-lookingな最適水準で決まらないからだ(決まるなら最初からデフレにならない)。これをなんとか操作しようと日銀が試みたのが「時間軸」政策で、これは一定の成果を収めたというのが白川総裁の自己評価だが、劇的な効果があったとはいいがたい。
この問題はきわめて困難で、しかも国際的に共通点が多いので、日銀はFRBに助言できるだろう。まずいえることは、バーナンキの持論だった(最近はいわなくなった)インフレ目標や「非正統的な金融政策」は無意味だということだ。消費や投資が萎縮し、通貨が供給過剰になっている状況で、いくら通貨を追加供給しても人々の心理を変えることはできない。
さらに本質的な問題は、かりにマイナス金利が可能だとしても、それは投資需要が負の状態で物価を安定させるだけで、金融政策だけで不況を脱却することはできないということだ。根本的な解決策は、早く不良債権を清算してdeleveragingを終わらせ、前向きの投資を始める(IS曲線を外側に動かす)ことしかない。金融政策は、その短期的な補助手段にすぎないのである。
コメント一覧
59兆円の住宅ローン保証制度
アメリカが根本的な解決策の施策のひとつとして考えているのが、この住宅ローン保証制度ではないでしょうか。
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-34621820081030
貸し手に融資の条件変更を促すということなので、貸し手にローン金利の引き下げや返済期間の延長などをさせ、それによって貸し手が被る損失は国が補填するということだと思います。そうであれば借り手である住宅保有者のローン返済は軽減されるので、住宅価格の下落に歯止めがかかることが期待できます。
住宅価格の下落が底を打てば、CDOとかCDSとか「有毒」な証券に対しても買い手が現れ、取引価格が決まるので市場が正常化していくのではないでしょうか。
ヘリコプターマネーの出番?
麻生首相の定額給付金2兆円は、いわゆるヘリコプター・マネーではないと思います。
それを言うなら日銀が輪転機で印刷したものを、給付金として各戸に配った時でしょう。
スティグリッツが以前来日時に、推奨したという記事があったと思います。
{M2+CD}の額を正確には知りませんが、吉川著「マクロ経済学」第二版P68では629兆円とあります。仮に2兆円が0.3%の増加とすれば、通貨数量説で素人考えすると、それほどのインフレになるとも思えない。
国民はこっそり通貨発行益としてインフレ税を納めさせられる愚民政策。
これは西南戦争の西郷札発行のように、よほど恐ろしい政策のようで、口の端に乗らないように思っているのですが。
恐らく財政赤字を抱えて、低利子率維持が譲れないことなのだろうと想像しているのですが。
マイナス金利
日本の現在の普通預金って実質的に「マイナス金利」じゃないかと思ったりしています。
CDで出し入れの多い人は手数料を取られて預けた金よりも少ないですよね。銀行は預金という名の借金をマイナス金利で増やしている状態かもしれません。^^; (まぁ実際には意味は全然違うのですが・・・)
与太話はこの辺で・・・。^^;
日本の状況を見ていると金利は下げれば良いという話でもないと思うのです。財団法人等は金利を原資として活動を行うと思うのですが此処まで低金利だと金利も殆ど付かずに活動も殆ど停止し、その辺の悪影響も出ているのではと思われて成りません。
経済学的に最低金利の下限を研究したものは無いのでしょうか。
金利引き下げ?
いままさに日銀が金利決定の会議をしているようです。
これに関して新聞記事で気になる記述を見つけました。
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200810310182.html
「会合では、日銀が金融機関から無利子で受け入れている準備預金に金利を付ける制度の導入を決める見通し。安全性が最も高い日銀の準備預金の利子を下回る金利で資金を貸す金融機関はないため、市場金利が過度に下がらない状態で資金の大量供給が可能になる。」中国新聞
同様のことが昨日の産経新聞にも確か出ていた記憶があります。
「実質金利マイナス」を解消するためにこれは前に話題になっていた「預金課税」と同じことを日銀がやろうとしている、ということですかね。
中小企業の経営者としては融資が受けやすくなるのは歓迎ですが、その前に「個人保証」前提の融資慣行を何とか見直して欲しいですね。いくら投資意欲があっても、家族を路頭に迷わすイメージが頭に浮かぶと、結構尻込みします。