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【編集局デスク】

無縁社会の地獄

2010年8月7日

 二〇〇五年の国勢調査によると、男性の生涯未婚率は15・96%だという。つまり、男性の七人に一人以上が一生独身を貫くというのである。女性は7・25%だから男性の半分くらいか。

 余計なお世話かもしれないが、こういう人たちの老後の面倒はだれがみるのだろう。亡くなれば、無縁仏となるのだろうか。そんなことを思わせる出来事、事件が相次いでいる。

 所在が不明の百歳以上の高齢者の数が増え続けている。すでに全国で五十人を突破した。一方で、マンションなどで「ひとり誰にもみとられず」孤独死するお年寄りも激増した。これは、コインの裏表だろう。

 いったい、この国で何が起きているのか。地域のコミュニティーが崩壊し、人間関係が希薄化した。いわゆる無縁社会が出現したといってもいい。

 大阪市西区で遺体で見つかった幼い姉弟が不憫(ふびん)でならない。死体遺棄容疑で逮捕された母親(23)はこう供述しているという。「ご飯も水も与えなければ小さな子どもが生きていけないのはわかっていた」

 おなかをすかして待っている子どものことを考えたら放っておくことなんてできないはずではないか。少なくとも知り合いなり、親せきなりに頼んで預かってもらうこともできたはずだ。それともそんな人はいなかったか。大阪府警は、母親を殺人容疑で再逮捕する方針だという。

 所在不明の長寿者については行政側の取り組みのまずさも一因という。過度な個人情報保護という風潮が生存確認を難しくしているとの指摘もある。

 だけど、どんなに世の中が変わっても、変わらないこと、変えてはいけないことがある。例えば、社会全体のお年寄りに対する敬愛と親の子どもに対する情愛である。

 もう二度と、無縁社会の地獄は見たくない。

 (名古屋本社編集局長・志村 清一)

 

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