百年前、日本は韓国を併合し植民地にした。菅直人首相は歴史を謝罪し、未来志向の関係を呼び掛ける談話を発表した。歴史の重みを胸に刻み、隣人との新たな協力関係を築きたい。
日本と韓国は一九一〇年八月二十九日、「韓国併合条約」を公布した。植民地時代は四五年の日本の敗戦まで続いた。
菅首相は談話を通じ「植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、あらためて痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明する」と述べた。
村山富市元首相が九五年、戦前、戦中の歴史について「痛切な反省」と「心からのおわび」を表明し、アジア諸国の多くは評価している。菅首相談話は「村山談話」を踏まえたものだ。
菅首相はさらに「韓国の人々は国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷つけられた」と表現した。
併合により五百年続いた王朝は滅びた。植民地時代末期には学校で日本語だけを教え、名前も日本式に変える創氏改名を強要した。同化政策が韓国人には最も屈辱的なことだった。首相談話はその心情を考慮したといえよう。
民主党内にも菅首相の新たな謝罪表明に反対論も出た。補償問題を蒸し返すという危惧(きぐ)もある。だが、閣議決定を経た以上、少なくとも閣僚は首相談話の内容から外れる言動を自制すべきだ。
国交が正常化した六五年の「日韓基本条約」では、両国は韓国国民に対する植民地時代の個人補償も含めた請求権は決着したと確認した。菅首相も会見でこの点を強調した。
ただ、条約締結後に詳細が分かった在サハリン韓国人の帰国や、日本各地に残る朝鮮半島出身者の遺骨返還など人道的協力は続けると説明した。
請求権問題を見直すのではなく、日韓双方が未解決だと判断した場合にだけ限定的に取り組むべきだ。宮内庁が保管する李朝の儀典書「朝鮮王室儀軌」という文化財の譲渡もその一例だ。
韓国の李明博大統領は菅首相との電話会談で「真心がこもった談話だ」と評価し、日本の今後の対応に期待を示した。
歴史認識をめぐる日韓の論争は今後も続くだろうが、菅首相は「反省と謝罪」を明確にした。両国では年間五百万人が往来するほど交流が深まっている。韓国国民が併合百年の談話を「歴史のひと区切り」と受け止めてくれるよう、切に願う。
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