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ユニクロ 通販売上も過去最高、店舗と〝競合〟から〝協力〟へ

 「ユニクロ」のひとり勝ちが続いている。ファーストリテイリングの098月期決算は売上高、利益ともに過去最高。一方、通販も3割増収を達成、過去最高売上高となった。とは言え、通販の最高売上高更新は8年ぶり。毎年、高い伸びを見せてきた総売上高と比較すると通販は伸び悩んでいた。ここに来ての最高売上更新は通販開始以来、試行錯誤を繰り返してきた同社の通販戦略が軌道に乗り始めたということだろう。不況下でも売り上げを伸ばすユニクロの通販戦略とは。

 「ユニクロ」の通販事業の年商は直近決算である098月期で約188億円。伸長率は前年比で31.1%増とこの不況下にあって、高い伸びを遂げている。近年、同社を初めとする有店舗小売業者の通販参入が相次ぎ、既存の通販事業者の強力なライバルとして台頭しつつあるが、その中でもその規模や通販戦略を見る限り、「ユニクロ」は有店舗小売業の通販成功モデルの一例と言える。

 

 同社の通販事業を支える要因は無論、全社的な売り上げ好調という点も大きい。ただし、それだけではない。同社が時代や状況に合わせて、通販戦略を都度、変更してきたことが、現在の通販の成功を下支えしているわけだ。

 

 しかし、今でこそ、順調なユニクロの通販事業もここに至るまでには実に10年の歳月を要し、試行錯誤を繰り返してきたことはあまり知られていない。「ユニクロ」の現在の通販戦略を見ていく前に、まずは同社のこれまでの通販事業をついて振り返ってみる。

 

店舗ない地域補完で通販開始

 

 ユニクロが通販を開始したのは1999年の9月。当初は「カタログ」を主体としたものだった。当時、「ユニクロ店舗」は全国に368店舗(そのうちFCが11店)を展開しているに過ぎず、現在のように多くの地域に店舗を出店するには至っていない。そのため、店舗のないエリアの消費者にリーチすべく通販事業に踏み切った。

 

 この通販事業を短期間で確立するために老舗通販企業のシムリー(現・イマージュHD)と20006月に業務提携。リストセグメントの手法やカタログ制作ノウハウ、カタログオファーのノウハウといった通販業務に関わる各種ノウハウの提供を受けて、本格的に通販事業に着手。初年度の売上高15億円に対して、2年目の01年度の通販売上高は1553,300万円と急拡大を遂げ、通販業界の中でも注目を浴びることとなった。

 

カタログから撤退ネット主体に

 

 しかし、翌年の02年から状況は変り始める。当時、同社の急成長を支え、一大ブームとなっていた「フリース」の販売量が低迷。全社売上高と呼応して、好調だった通販業績も悪化。加えて、通販戦略のミスマッチも起こり始めていた。

 

 通販を開始した当時は前述のように実店舗数は限られていた。しかし、年々、店舗数は増加。そうなると、当初の通販戦略の基本だった「店舗のない地域の消費者へのリーチ」に無理が生じ始め、店舗のない空白商圏に依存する既存の通販戦略は先細る一方。

 

 また、カタログを主体に通販事業を行ってきたため、実店舗の価格面で差異が生じてきた。店舗では値引きを行なうが、カタログでは当然、当初の値段設定を変更することは難しい。そのためユニクロ全体としての価格整合性が採れず、レスポンス率も「ピーク時に比べると"がた落ち"」(当時の通販部長)。

 

 ここで、同社は通販戦略を大きく変更する一手を打った。カタログ通販からの撤退だ。049月の秋冬カタログをもって、カタログの発行を中止。そして、すでに台頭し始めていたインターネットを軸とした通販戦略に変更した。また、カタログでは難しかった価格設定もネットでなら、自由に変更でき店舗との価格の整合性も担保できる。

 

 「店舗の補完」から次にユニクロが目指した通販戦略とは、「店舗と食い合わない商品群の展開」。言わば、店舗をライバルと捉え、店舗にない商品を揃えることで売り上げを作ろうというものだ。

 

店舗商品ではない限定品で勝負

 

 具体的な施策としてはネットのみのサイズ展開。つまり、XXL、XS、キッズ用160センチなど大きめ、小さめのサイズ展開や、実店舗では一部の大型店のみとなっている特別商品を軸とした品ぞろえだ。

 

 このほか、高品質のシーツ類やタオル、バスマット、寝具などの販売を開始。これらの商品は商品サイズが比較的大きく、店頭ではスペースが取れないことや持ち帰るにはかさばるため、ネットおよびモバイルの通販チャネル限定商品として展開。店舗の品ぞろえとは明らかに異なる商品で勝負してきた。

 

 ユニクロのこの一手は一定の成功を収めることになった。「店舗では購入できない商品をネットで」というコンセプトは非常に明確で、消費者にとっても分かりやすく、同社にとっても実店舗と食い合う可能性は低い。カタログ撤退で大きく売り上げが減少した通販売上高も回復基調に転じ始めた。

 

 しかし、この戦略には重大な欠点も隠れていた。通販の本来的な役割は、店舗と同様、販売チャネルの一つで顧客は店舗に行かずとも、便利にネットで購入できること。「店舗にない商品」を追求するあまり、顧客にとって同社の通販サイトは「店舗にない商品を購入する手段」というポジションとなり、その分、通販事業の売上高は伸び悩み始めた。

 

 別表を見ても分かる通り、03年に底を打ち、次第に業績が回復。06年には01年当時の売上高を越えるまでの勢いを見せる総売上高に対して、通販売上高は01年の155億円の壁を長らく越えられない状況が続いていた。ネット販売がこれだけ一般化し、高い売上高を示すネット販売実施企業が出てくる中、こうした結果はユニクロにしてみれば、本意ではなかったはずだ。

 

店舗ノウハウを通販にも注入

 

 そして、これを踏まえて、08年、再び通販戦略を変更することになった。通販事業はこれまでの「店舗と競合」ではなく、店舗と協力・補完関係に改めることだ。要はネット限定商品が主体の通販戦略から脱皮。店舗と連携して全社的な売り上げを伸ばす役目へのシフトだ。

 

 具体的には実店舗を見てきた人材を通販事業のトップに登用して、ユニクロの店舗ノウハウを通販サイトに注入した。まずはネット限定商品も廃止。ネット限定商品は開発費用がかかるわりに、その限定性ゆえ大きな収益にならないことも要因だ。そうではなく、ユニクロが店舗で培ってきた商品動向を細かく見ること、在庫や販売管理の精度、スピードを持った調整能力の高さをネットでも実践。実店舗の店長や営業部本体では「当たり前にやっていること」を通販に注入した。

 

 「ユニクロの実店舗が最大のライバル」という競合意識があった通販部門の意識を一掃し、営業部との連携を深めた。ほぼ全ての商品をネットで先行販売し、その結果を実店舗が活かせるように、フィードバックするなど、通販単独ではなく全社の売り上げ拡大にも通販は寄与し始めた。

 

 「"ユニクロの基本"を徹底しただけ。特別なことはやっていない」とユニクロの通販事業を統括する片山敦詞グローバルWEB事業部長は話す。

 

 片山部長が話すように確かに現在の通販戦略はごくシンプルなもの。要は「ユニクロ」の実店舗で行なっている販売戦略を愚直にネット通販サイトに反映させているに過ぎない。片山部長の言葉を借りれば同社の通販サイトは「世界一品ぞろえのよいユニクロ店舗」となった。

 

 加えて今年三月には、別々だった情報サイトと通販サイトを統合(=写真)。全社的にCM発信したいメッセージを伝えつつ、商品販売への誘導も無理なく行えるようになった。さらにサイトのデザインを「女性向け」に変更。男性の固定客は維持したまま女性の新規顧客を獲得する戦略がネット販売の売上増に貢献している。

 

 失敗点を修正しつつ、時代に合わせて、通販戦略を変更、進化させることでユニクロの通販事業は前期についに01年の壁を越え過去最高売上高に達した。他の通販実施企業も次代の通販を探る上で、ユニクロの通販事業を研究してみる価値はありそうだ。

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