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医療ナビ:出産一時金の新制度 妊婦退院1~2カ月後、施設に直接振り込み。

 ◆出産一時金の新制度 妊婦退院1~2カ月後、施設に直接振り込み。

 ◇「経営悪化」病院、変更求め 「既にシステム完成」健保組合は継続要望

 出産育児一時金の支払い方法が議論を呼んでいる。妊婦が退院時に窓口で出産費用を支払い、その後健康保険などから一時金が支給されていた従来の制度に代わり、昨年10月から、退院の1~2カ月後に産科施設に一時金が直接振り込まれる「直接支払制度」が始まった。妊婦は窓口で高額の現金を用意する必要がなくなったが、従来より入金が遅れることで資金繰りの悪化を懸念する産科施設側が反発。全医療機関を対象にした全面導入は2度延期された。来年度からどのような制度にするのか、模索が続く。

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 「新制度が始まってから、毎月自転車操業になってしまった」。年間50件以上のお産を扱う川崎市中原区のウパウパハウス岡本助産院の岡本登美子院長はため息をつく。昨年10月に直接支払制度を取り入れてから2カ月間連続して現金収入が大きく減った。それでも、納税やスタッフの給料の支払いは続く。貯蓄で対応してきたが、今年の春の納税を済ませてから、厳しい経営状態が続いているという。

 厚生労働省は4月から、これまで最大56日間認められていた退院から医療機関への支払いの期間を、最大46日間に短縮し、支払いを月2回とした。岡本院長は「月2回になったのはうれしいが、それでも支払いまで1カ月半かかる。せめて2週間程度まで短縮してほしい」と訴える。

 影響が出ているのは助産院だけではない。準備が間に合わない産科施設は導入の猶予が認められているが、開業医で作る「産科中小施設研究会」の池下久弥さんによると、制度を取り入れていない施設は妊婦に避けられる傾向にあり、お産の取扱数が半減して経営危機に直面している施設もあるという。

 「直接支払制度」は一時金の4万円の値上げ(現行42万円)とともに、来年3月末までの暫定措置とされている。その後の支払い方法はどうするのか。先月14日に行われた社会保障審議会の医療保険部会では、産科施設側の代表者から早期支払いや制度そのものの廃止を求める声が相次いだ。

 日本助産師会の毛利多恵子副会長は全国のお産を扱う助産所425カ所に対して今年2月に行ったアンケート結果を公表(249カ所が回答)。42・2%が「現金収入が2カ月なく困る」と回答、7・6%が運転資金がなくなり親族や銀行から融資を受けていた。さらに、困った点として半数以上の助産所が事務手続きの複雑さを挙げた。毛利副会長は「ただでさえお産の件数は減少している。経営に配慮してほしい」と訴えた。

 また、勤務医や開業医らで作る日本産婦人科医会の寺尾俊彦会長も「2カ月の無収入が尾を引いて、現在まで借金に悩む産科施設は多い。経営が困難になって産科施設が減少すれば、結果的に妊婦の負担になることを認識すべきだ」と、制度の抜本的な改正を求めた。

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 一方、部会に出席した健康保険組合などの代表からは、直接支払制度の継続を望む声が相次いだ。全国1459の健保組合で構成される健康保険組合連合会(健保連)の白川修二専務理事は「すべての組合で直接支払制度のシステムが完成しており、制度変更は現場が混乱するのでやめてほしい」と訴えた。

 白川理事によると、各組合は制度導入のため、全体の会計システムを変更したり、加入者へ手続きを告知するなど、大変な手間と経費をかけたという。「もともとは妊婦さんの利便性と、お産費用の未払いに悩む産科施設に協力しようとやむなく始めた。それを今さら施設の都合で廃止しろとは」と語気を強める。

 妊婦側は直接支払制度をどう受け止めているのか。先月20日に男児を出産した横浜市都筑区の今井愛さん(23)は「制度に助けられた」と話す。「貯蓄がなくて、高額の出産費用に本当に困っていた。今回は一時金のほか10万円くらい用意しただけで済んだ」と笑顔を見せる。また同23日に女児を出産した東京都国分寺市の村木良子さん(29)も「前もって大きなお金を用意しておく必要がなく楽でした」と話した。

 厚労省によると、部会は9月中旬までにもう一度開催され、年末までに来年度以降の制度について方針を決める予定だという。【斎藤広子】

毎日新聞 2010年8月11日 東京朝刊

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