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クローズアップ2010:日韓併合100年、首相談話 「歴史問題」に一歩

 日韓併合100年に当たって菅内閣が10日に閣議決定した首相談話は植民地支配の「過ち」を率直に認め、野党時代から「アジア重視」「戦後諸課題の解決」を主張してきた民主党政権として、歴史認識問題に一つの区切りを付ける意欲がにじむ内容となった。北朝鮮の核開発や中国の軍拡など不安定な東アジア情勢が続く中、日韓の連携が不可欠との認識は韓国政府も共有。双方の「反韓」「反日」世論に火が付かないよう慎重にタイミングと内容を調整したことがうかがわれた。

 ◇「鳩山-仙谷ライン」主導

 談話の検討は「東アジア共同体」構築を掲げ、歴史和解に思い入れのある鳩山由紀夫前首相の在任中から始まった。それを引き継ぎ主導したのが、弁護士として戦後補償の訴訟を手がけてきた仙谷由人官房長官と、アジア外交重視の岡田克也外相だ。鳩山氏は10日、「非常にいい談話だ」と高く評価し、植民地支配が「(韓国の人々の)意に反して行われた」との文言を談話に入れるよう仙谷氏に助言したことを記者団に明かした。

 東アジア共同体構想は侵略の記憶が残るアジア諸国、特に隣国の韓国との間で歴史認識問題のトゲを取り除くのが大前提となる。そう考える鳩山氏は首相在任中の1月10日夜、従軍慰安婦問題をめぐる米下院議会の対日謝罪要求決議を主導したマイク・ホンダ議員を非公式に首相公邸へ招き、戦後問題への取り組みを「順次やりたい」と語った。談話には朝鮮王朝時代の文化財「朝鮮王室儀軌(ぎき)」を韓国側に引き渡すことも盛り込まれ、鳩山氏は「勇気を持ってお返しすべきだと思っていた」と喜んだ。

 ただ、こうした「謝罪」姿勢が国内保守派の反発を招き、戦後補償問題の再燃を懸念する慎重論は与党内にもくすぶる。

 談話は95年の村山富市首相談話を踏襲する表現となっており、仙谷氏は補償問題について65年の日韓基本条約締結時に「決着済み」との立場を強調。事前に自民党の幹部や首相経験者にも説明し、同党幹部の一人は「自民党政権時代の内容を確認しただけなら差し支えない」と理解を示した。しかし、安倍晋三元首相は「禍根を残す。愚かで軽率な談話だ」と批判。谷垣禎一総裁も「未来志向の妨げになったのではないか」と記者団に語った。

 民主党内にも不満がくすぶり、9月の代表選へ向けた「火種」となりかねない状況だ。独自候補の擁立を模索する旧民社党系グループの田中慶秋衆院議員は「党と政府は一体というなら手続きをもっとしないといけない」と仙谷氏らが談話を主導した経緯に矛先を向ける。民主党の玄葉光一郎政調会長(公務員制度改革担当相兼務)は10日の閣僚懇談会で、党内の慎重論を念頭に「与党の中にはさまざまな意見がある。今回はサインするが、今後は早い段階で(党側に)相談を頂きたい」と注文を付けた。

 談話の発表に至るまで影の薄かった菅直人首相は記者会見で「アジア地域の安定が日韓米で形成される大きな意味がある。それも展望しながら談話を発表した」と説明したが、自身の思いを熱く語ることはなかった。【野口武則、取違剛】

 ◇韓国、内容を評価 北朝鮮は謝罪と賠償要求

 「今後、日本がこれをどのように実践するのかが重要だ」。韓国の李明博(イミョンバク)大統領は10日午前、菅首相が発表したばかりの談話の内容を直接伝えるためにかけてきた電話で、談話を評価した上でこう伝えた。大統領が「今後、両国間の懸案や協力について、誠実に賢くやっていこう」と呼びかけると、菅首相は大統領の早期訪日を要請したという。

 和やかな雰囲気での会話となったのには、談話の内容に加え、発表が絶妙のタイミングだったこともある。

 当初「発表は15日」との見方もあったが、韓国側はそれ以前を求めた。15日は日本の植民地支配を脱して65周年の「光復節」。李大統領の記念演説で菅首相談話を受け止めることで、100年前に日韓併合条約が締結された8月22日、公布・発効の29日とも、反日感情の盛り上がりを抑えることを目指した。

 韓国哨戒艦沈没事件を受けた対応で、日本は北朝鮮を非難する韓国の立場を強く支持した。南北関係が緊張状態に陥っている中で、日韓関係がギクシャクするのは、韓国も避ける必要があった。

 談話の内容について「併合条約は不法に締結され、無効だとする表現が盛り込まれていない」(姜万吉(カンマンギル)高麗大名誉教授)などの批判もあるが、ある韓国紙記者は「思ったより中身があり、談話自体は合格点」と評価した。

 一方、ラヂオプレス(RP)によると、北朝鮮の平壌放送は10日、日韓併合100年を迎えるにあたり「日本が働いた犯罪行為を絶対に忘れない。日本は謝罪、賠償しなければならない」と日本に謝罪と賠償を求める論説を伝えた。【ソウル西脇真一】

毎日新聞 2010年8月11日 東京朝刊

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