直感を信じるとき、データに頼るとき
土壇場で頼れるのは人間か機械か
ビジネスで難しい決断を下さなくてはいけないとき、統計やデータと人の直感、どちらに頼るべきなのか。
アンドリュー・マッカーフィー=文 ディプロマット=翻訳
世の中には素晴らしい直感を持つ人がいる。ビジネスで難しい決断を下さなくてはいけないとき、統計やデータと人の直感、どちらに頼るべきなのか。
消防士や看護師の直感は驚くほど正確なことがある
人間の直感は仰天するほど正確なことがある。長年経験を積んだ人の場合はとくにそうだ。熟達したポーカー・プレーヤーは透視能力があるかのように相手のカードを見抜く。ベテラン消防士は、炎が建物の中をどのように広がっていくかを予想できる。また、新生児集中治療室の熟練看護師は、血液検査の結果が出る前に赤ちゃんが危険な感染症にかかっているかどうか見分けることができる。
この現象を説明するのは難しい。ポーカー・プレーヤーはピンとくるのであり、消防士は炎がどこに向かおうとしているのかを感じ、看護師は感染症のように思われるものを見分ける。彼らの直感は簡単には検証できないところから生まれるのだ。
このような実例は、直感は一般に信頼できるものであり、瞬間的に頭にひらめくことにもっと頼るべきだという印象をわれわれに与える。
だが、それはひどい心得違いだ。われわれは直感に頼るのを減らすべきであって増やすべきではないのである。
ダニエル・カーネマンとゲイリー・クラインの論文「Conditions for Intuitive Expertise:A Failure to Disagree」を含む数々の研究が、直感について多くのことを明らかにしている。
その一部を紹介しよう。
ポーカーにあって株式市場にないもの
――優れた直感を育てるには長い時間がかかる。たとえばチェスの選手が十分な数の盤面パターンを記憶に刻み込むためには10年にわたって勉強し、試合を重ねることが必要だ。
――直感は特定の環境、すなわち手がかりと迅速なフィードバックを与えてくれる環境においてのみ威力を発揮する。手がかりは次に何が起きるかを正確に知らせるヒントである。ポーカーや消火活動にはそれがあるが、株式市場にはない。
株のアナリストがどう思おうと、未来の市場の動きについて優れた直感を育てるのは不可能だ。公然と入手できる情報はどれ一つとして、今後の株価の動きについて役立つ手がかりを与えてはくれないからだ。新生児集中治療室にはそれがある。そこに入った赤ちゃんはしばらくとどまるからだ。だが、患者が治療環境から離れた後で示す症状については、フィードバックが得られないため、医学的直感を育てるのは難しい。
ある研究者グループが、臨床心理士がどのような基準を使って患者に診断を下したかを調べた後、それらの基準に基づいて単純なモデルを作成した。それから臨床心理士たちに新しい患者を診断させ、その一方でモデルを使って同じ患者について診断を下した。結果、新患の診断に関しては、モデルがプロよりよい結果を出した。
――お粗末な判断を迅速に下すのはたやすい。人間はたくさんの先入観を持っており、評価を下すにあたってそれらの先入観が判断を誤らせることがある。たとえば私があるグループに「ドイツ車の平均価格は10万ドルより上か下か」と質問し、それからドイツ車の平均価格はいくらぐらいだと思うかと尋ねたら、彼らはBMWなどの高級車を軸に考えるだろう。似通った別のグループに「ドイツ車の平均価格は3万ドルより上か下か」と質問し、それからドイツ車の平均価格を尋ねたら、彼らはフォルクスワーゲンを軸に考えて、先のグループよりはるかに低い価格を口にするだろう。どれくらい低いかというと、平均約3万5000ドル、すなわち2つの質問価格の差の半分だ。情報がどのように提示されるかが思考に影響を及ぼすのだ。
経験豊富な人でさえ、自然に生まれる考えが理にかなった直感によるものなのか、有害な先入観によるものなのか見分けることはできない。要するに、われわれはお粗末な直感しか持ち合わせていないのだ。
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