池田信夫 blog

Part 2

2010年08月08日 16:53
科学/文化

「空気」の病

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))日本人の幸福度は、アンケート調査では世界の平均程度だが、「不幸度」を自殺率ではかるとすると、主要国で群を抜いてトップである。この原因はよくわからないが、1998年の金融危機のとき35%も増えたことから考えると、失業と倒産が大きいことは明らかだ。しかし失業率と自殺率に高い相関があるのは日本の特徴で、手厚い失業給付のある北欧では両者にほとんど相関がない。

これは日本では、労働が単なる所得を得る手段ではなく、会社が人格の一部になっているためだろう。つまり1990年代後半に戦後の日本を満たしていた平和な「空気」が壊れ、失業者は単に所得を失うだけではなく、自分の存在そのものが否定されたと思い込んだのではないか。

本書は、こうした問題を論じたエッセイである。大戦末期に戦艦大和の特攻出撃を命じた軍令部次長の小沢治三郎中将が、戦後になっても「全般の空気よりして、当時も今日も特攻出撃は当然と思う」とのべたことは有名だ。日本軍では、攻撃によって何を達成するかという目標よりも、組織の中での空気の共有が重要だったのだ。

こうした問題は、最近は脳科学でも解明されるようになった。「アスペルガー症候群」というのは、広い意味では自閉症に含まれる人間関係の疾患で、いわば「空気の読めない」病だ。その原因は、前頭葉や扁桃体などによる社会脳の機能が低下していることにあると考えられている。

アスペルガー症候群が空気の読めない病だとすると、ほとんどの日本人は過剰に空気を読む病にかかっているのではないか。電子書籍を始めるときも、印刷業界や電機業界などを集めて「協議会」をつくり、役所におうかがいを立てて官民の「懇談会」をつくり、日本独自のフォーマットの「標準化」をする・・・というように業界の調整ばかりして、何も商品が出てこない。そしていったん走り出したら、戦艦大和のように玉砕するまで止まらない。小沢中将のように無責任な官僚や経営者も跡を絶たない。若者まで「KY」を村八分にする。

アスペルガー症候群の例としては、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズが有名だ。アインシュタインやヴィトゲンシュタインなどの天才にも、自閉的な症状が見られたという。世の中の空気を読まないで自分の思い込みを押し通すKYからしか、イノベーションは生まれないのである。

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トラックバック一覧

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  2. 2.

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  3. 3.

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コメント一覧

  1. 1.

    最近のテレビ局は空気を読み過ぎてつまらなくなったと田原さんが関西の番組で言ってた記憶がありますが、その通りだなと思いました。たぶん池田さんも出演していた番組だったと記憶があります。
    日本人は全体的に村社会的な発想なので、村が崩れると耐えられない人が多いという気がします。つい最近までは終身雇用という会社が一つの村を形成していましたが、通貨危機で景気が一気に悪化すると企業側も村を形成できなくなってしまったのでしょう。

    日本人は昔から自殺が多い国ではありますが、これに対する処方箋はないと思います。欧米のように宗教が自殺の歯止めを促していれば増えにくいとは思いますが、無宗教の日本では高齢化や核家族化が進めば、今後も増えていくものと思われます。
    どんなに金持ちでも死だけは平等に訪れます。その恐怖を埋めるのも宗教の役割だと思いますが、無宗教の日本では幸福度を引き上げるのは難しいかもしれません。村社会特有のへりくだることを善とする国民性や成功者の足を引っ張る国民性ではイノベーションも起きにくいでしょう。
    堀江さんや村上さんの逮捕で、どれだけベンチャー企業やベンチャー精神を持った若者が激減したかを思うと、日本の病巣は計り知れないものがあると思います。田原さんが朝まで生テレビで言ってたことですが、堀江さんが逮捕されたあと、起業家が激減したみたいなことを言っていた記憶があります。幸福度を上げるための一つの手段である「夢」を奪い取ったのも最悪の選択だった気がします。

  2. 2.
    • qingmutong
    • 2010年08月08日 18:30

    >大戦末期に戦艦大和の特攻出撃を命じた連合艦隊軍令部次長の小沢治三郎中将が、

    些事ですが小沢治三郎は大和出撃当時軍令部次長、その後連合艦隊司令長官。軍令部は作戦の中枢、連合艦隊は実戦部隊で軍令部が上部組織です。

  3. 3.
    • disequilibrium
    • 2010年08月08日 19:11

    ホリエモンがKYだったのは事実でしょうけど、ライブドア事件が起業家を減少させる要因だということが、証明されているわけではありません。
    たまたま、そのタイミングだったのかもしれないし、ライブドア事件とマネックスショックは、ただのきっかけに過ぎないのかもしれない。IPOバブルが健全だとも思えませんし。
    検察にとって、そういう因果関係があるかもしれないという「空気」はとても重要なことなんでしょうけど。空気を読む裁判もまだ終わっていませんしね。

  4. 4.

    日本人は失業=社会の底辺であり最後は餓死 という考え方を持っているのも自殺率の高い原因かと思います。
    負の所得税やベーシックインカムがあればこの点に対しては軽減されるかと思われますが、それで全てが解決される訳ではなく・・・。

  5. 5.

    合理的な理由がなく人を批判するときに「空気が読めない」という表現を使います。これがいちばん問題で、冷静になって考えれば「空気が読めない」人の提案こそが最も合理的だったりするわけです。その「空気」を醸成するものが、だいたいにおいて「それまでの経緯」と言うシロモノで、経済学で言うところのサンクコストなんですよね。「サンクコスト」と定義されるほどですから、日本だけでなくどの社会でもこうした傾向はあるんだと思いますが・・・。

    「空気の研究」「「あたりまえ」の研究」は私の愛読書です。若い頃から「空気が読めない」と言われ続けた私を勇気づけてくれた書でもありました。

    「空気」を醸成する人達は根回し・談合を繰り返して既成事実を積み上げます。日本人は子供の頃からこの能力を育成する「みんな仲良く」「みんなで決める」「仲間を裏切らない」と言う教育方針で育てられています。どこからこの問題を解決できるのかと言われると、ちょっと途方に暮れます。

  6. 6.
    • hiratayukai
    • 2010年08月08日 22:43

    「空気」というのは日本人のご都合主義的「言い訳」だと思いますね。
    雪山遭難を例にとれば、遭難者全員が遭難の責任転嫁を誰かにして満足しているのが日本人だからです。
    欧米人なら誰かが率先してリーダーになり、ヒエラルキーが勝手に生まれるのですが、日本人はお互いに憎みあって、裏切りあって、自分の首を締め、見事に生還率を0%にします(笑)

    要するに自分の決断をあたかも「誰かからそう仕向けられました」と言いたい、後で「みんながそう思っていた」といわんがために「空気」などという曖昧模糊な言葉を使ってるに過ぎないでしょう。この卑怯さと姑息さは見事です。

    自殺率が高いのも、この「責任転嫁」精神から明らかです。
    自分にとっての「不都合な真実」をすべて外の世界に責任をなすりつけようとしますが、現実はそんな虫のいい話はありません。
    その結果、「ヤケクソ」の「思考停止」状態になって自殺という「パフォーマンス」に走るのです。

    まさに、大日本帝国が辿った末路と同じ思考回路だと思いませんか?
    物量において負け、戦略レベル、戦術レベルにおいて劣勢の挽回不可能たるや、「玉砕」「特攻」という「ヤケクソ」「思考停止」に走り、民間人までも盾にするキチガイっぷりは、戦後65年を経ても全く治療されていないことがよくわかります(笑)

    日本人自体が「発達障害」なのです。
    マッカーサーが言ったように、平均して12歳レベルの思考回路しかないのでしょう。

  7. 7.
    • 池田信夫
    • 2010年08月08日 22:56

    > >大戦末期に戦艦大和の特攻出撃を命じた連合艦隊軍令部次長の小沢治三郎中将が、
    >
    > 些事ですが小沢治三郎は大和出撃当時軍令部次長、その後連合艦隊司令長官。軍令部は作戦の中枢、連合艦隊は実戦部隊で軍令部が上部組織です。

    ありがとう。訂正しました。

  8. 8.
    • pdx51
    • 2010年08月09日 00:19

    アスペルガー症候群についてアマゾンのリンクの本を参考にされたのかもしれません。Bill GatesもSteve jobsもAsperger syndromeでしょうか。その幻冬舎の本の著者を鵜呑みにされないでください。

  9. 9.
    • advanced_future
    • 2010年08月09日 09:49

    たしか、本Blogでも前に取り上げていたと思いますが、「空気」は「目的」が明確である時には、コミュニケーション・コストを低減させるのに圧倒的に優れています。だから日本はキャッチアップするフェーズでは相当に強いです。
    ただ、プラットフォーム競争の時代になってしまったので、これまで強かった日本の強みが生かせなくなったというに過ぎないのではないかと思います。「空気」は悪いことばかりではなく、「空気」を読めない人々にとっては相当高度な、それこそテレパシーのようなコミュニケーション・スキルです。

    そういう流れで時代を読めば、より大きな目的の下での「空気」の熟成が日本に必要になっているのだと思います。逆にここで時代の流れに迎合して「空気」を追い出そうとすると、デメリットを消すためにメリットも消すという事態が起きそうです。ここにもトレードオフです。そういう問題意識も重要ではないかと思います。
    私のコメントもいつも無内容ですけれど。

  10. 10.
    • katrina1015
    • 2010年08月09日 10:21

    http://www.tokyo-eiken.go.jp/SAGE/SAGE99/sage.html

    えっと、50~70代が自殺の多い年代でそこを団塊世代が通過するわけだから。。。
    失業率と自殺率の因果関係???
    よくわかりませんが。
    http://www004.upp.so-net.ne.jp/kuhiwo/dazai/index.html

    確かに、世界のKY=日本ですが、グローバル圧力は
    日本包囲網です。しょうがないっちゃしょうがないwAIGの幹部に日本みたく死んでお詫びをしろというくらい、どうも有名らしいw日本に核を持たせると
    世界が灰になるwwwなんてゆう研究もあるかもです。実際1942からかなり日本研究が進んでいて、おかげで暗号も筒抜けだったとか~で
    「社長、少しはKY!」
    ん~日本のリーダーはKYがおおいw

  11. 11.
    • zodiaclifesystem
    • 2010年08月09日 21:25

    リスクやリーダーシップを取ることが評価されない国ですからね。
    「責任は取りたくない、でもうまい汁は啜りたい」それだけなんですが、
    その「空気という名の集団暴力」に一体どれだけの才能が潰されて来たのか。

    ただ、一部の若手ベンチャーや意識の高い大手企業など
    組織的にそこから脱却している存在もありますので、そういった流れには期待したいものです。

    もっとも、ゲイツやジョブスの様に個で突き抜けた存在というのは中々出て来ない。
    KYな才能と社会性の両立を求められるという点で、相当ヘヴィでしょうし。

  12. 12.
    • takarayui
    • 2010年08月10日 06:29

    空気を読むことと、空気に従うことは別だと思います。

    会社でも「KYなヤツ」と言われる人がいるけど、実はきちんと空気が読めたうえで、
    「その結論はおかしいのではないか」と指摘している場合があります。
    特に頭のいい人は途中の説明を省略するので、なぜその結論になるのか、最初よくわかりません。
    よく話を聞いてみると「なるほど、たしかにそうだ」ということがあります。

    天才と言われる人や商売上手と言われる人は、我々凡人が読めない空気まで読んでいるのではないでしょうか。
    「時代の空気」ってヤツを。

  13. 13.
    • poiu07
    • 2010年08月10日 17:28

    私はあんまり関係ないとおもいますけどね。
    各国の自殺率の推移をここ100年ほどみてみますと、一番低いのは1940年前半です、特に日本はこの時期が圧倒的に低い。
    出兵と徴用があり、爆弾が空から降ってくる時代が最も低いという。生活水準よりも国民の目的意識の問題ではないかと。
    戦時中は戦争に勝つこと、戦後は復興、で豊かになったあとは目的を失ったのではないかなと。後は社会全体が右肩下がりで、未来に希望を持てなくなったからではないかなとおもいますよ。
    失業よりも再就職ができない環境に問題があるんじゃないかなと。

    地域的にみれば旧共産圏が今では高く、北欧は基本的にいつでも高い。気候とかも関係あるのかもしれませんね。

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