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アラフォー三銃士、代打を語る(3)〜広島・前田智徳「第二の野球人生は“代打道”」

スポルティーバ8月10日(火) 19時32分配信 / スポーツ - 野球
 9回、1死一、二塁。2点ビハインド。この好機で打席に立つのは4番の栗原健太。だが、1打席目の右手首に受けた死球の影響で、2打席目以降は精彩を欠いている。

 ベンチが動く。代打・前田智徳――。

 すると前田はロッテの守護神・小林宏之のチェンジアップを鋭く捉え、ライトフェンス直撃の同点二塁打。広島に勝利を呼び込む一打を放った。

 打撃コーチの浅井樹は、代打・前田智徳の打席で最も脳裏に焼き付いているシーンが、この6月10日のゲームだという。

「あの絶体絶命の場面で、ひと振りでゲームの流れを変えられるのは、前田しかいない」

 08年に、代打として43打数16安打、3割7分2厘と高打率をマークした実績もあるだけに、前田はチームに欠かせない存在だ。

 ただ、昨季は古傷である両足に加え、腰の不調もあって、プロ入り後初となる一軍未出場に終わった。その苦い経験からか、今年の前田に変化が現れたと浅井コーチは言う。

「代打としての役割というものを理解して準備していると感じます。ウォーミングアップからストレッチを入念にやっているし、ティーバッティングにも時間をかける。スタメン時代とは別の意識の高さが窺えます」

 ゲーム前の高い意識のみならず、打席でも変化が見られる。そう語るのは、代打として西武の黄金期を支えた大塚光二氏だ。

「レギュラーだったころは、相手ピッチャーの持ち球を全部投げさせて有利な展開を作っていましたけど、今年は初球から積極的に打ちに行っていますよね。それはきっと、前田自身が『自分の役割は代打なんだ』と理解している証拠だと思います」

 続けて大塚氏は、シーズン序盤に結果を残した前田を評価する。

「代打専門になった場合、シーズンが開幕した2、3試合が勝負。そこで結果を残せば、相手に嫌なイメージを与えられるし、首脳陣の信頼も勝ち取ることができる」

 今季初めての代打に立った3月28日の中日戦では守護神・岩瀬仁紀から勝ち越し犠飛を放ち、内田順三打撃統括コーチから「彼は広島のジョーカーだ」と信頼を得た。

 打撃だけではない。レギュラー時代の実績から、「ゲームを動かす存在感がある」と浅井コーチは言う。

「左の前田が代打に出ることで、相手チームは若い選手なら続投させる場面であっても、左の中継ぎエースを投入してくることが多いです。その時点で、相手の戦力をひとつ引き出させ、有利なゲーム運びができる」

 同期入団の浅井コーチは、代打道を歩み始めた前田について、「新しい野球人生のようなものですから」と粋な表現を用いてくれた。

 95年のアキレス腱断裂以降、度重なるケガから「前田智徳というバッターは死にました」と言った男が、今、代打として誇りを持って1打席に臨んでいる。

 前田智徳というバッターは、まだ死んでなどいないのだ。

田口元義●取材・文 text by Taguchi Genki

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  • 最終更新:8月10日(火) 19時32分
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