[Sona-Nyl previewstory 02]
「廃墟」
──ジョンが鳴いている
キィ。キィ。キィ
金属音
逃げろとでも言っているかのよう
言葉なんて
話すはずがないのにね
崩れかけたアパルトメントの玄関で
待機状態であるはずのジョンが微動する
廃墟の危険度を関知したの?
ええ、そうね
本当に優秀な自律行動回路
「……ええ。そうね」
ここを出
ないと
いつ崩れても不思議はない
訓練を受けたわけでもない
廃墟を進むために得た知識のすべては
せいぜい、本で得ただけ
崩れてしまえば──
わたしは、きっと死ぬのだろう
ここにいた人々と同じように?
わからない
わからない
それだけは、わからない
誰にもわからない
「誰かが……」
「誰かが、いたかどうかだって」
「わたしにはわからない」
誰もそれを知らない
誰もそれを記さない
合衆国の公文書館にさえ残されていない
ここにいたはずの人々は
今、どこにいるのか
5年前
《大消失》
この都市で何があったのか
少なくともニューヨークは崩壊した
無人の大廃墟と化した
わかっているのはそれだけ
ただ、それだけ
約300万もの人々は
どこに、消えてしまったの?
遺体も
その痕跡さえも
たとえば軍隊が処理した跡さえなくて
この部屋の影の中にも
何も、ない
アパルトメントの一室
崩れかけて
灰色雲越しの外の明かりが
大きく、深く、影を作る
その中にも
何も──
何も──
※プレビューストーリー次回更新は8/17を予定しております。
※更新しますと今回の内容は閲覧できなくなります。