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日韓併合100年:「心からおわび」首相談話を閣議決定

閣議に臨む菅直人首相=首相官邸で2010年8月10日、藤井太郎撮影
閣議に臨む菅直人首相=首相官邸で2010年8月10日、藤井太郎撮影

 政府は10日午前の閣議で、日韓併合100年に当たっての首相談話を閣議決定し、発表した。アジア諸国への植民地支配と侵略を謝罪した95年の村山富市首相談話を踏襲し、「植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛」を認め「痛切な反省と心からのおわびの気持ち」を改めて表明。「これからの100年を見据え、未来志向の日韓関係を構築」することをうたい、植民地支配時代に日本へ流出した「朝鮮王室(王朝)儀軌(ぎき)」などの文化財を近く「お渡ししたい」との方針を示した。

 菅直人首相は閣議後、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領に電話し、談話の内容を説明。李大統領は「両国がより強い協力関係を築くことができる」と謝意を表明し、両首脳は「北東アジアの安定に向け日韓関係が不可欠」との認識で一致した。談話の発表には「謝罪外交」を嫌う国内保守派の反発や、戦後補償問題の再燃を懸念する声も与野党にあったが、仙谷由人官房長官は閣議後の記者会見で「これからの100年の日韓関係強化の礎とするため、適切だと判断した」と述べた。

 日韓併合条約は1910年8月22日に締結、29日に公布された。韓国側は併合条約の「違法性」を主張しているが、談話では条約締結によって植民地支配が始まったと違法性は認めず、そのうえで「韓国の人々は、その意に反して行われた植民地支配によって、国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられた」と明記。「私は、歴史に対して誠実に向き合いたい」と菅首相が思いを語る形で「痛みを与えた側は忘れやすく、与えられた側はそれを容易に忘れることはできない」と植民地支配の「過ち」を率直に認め、反省とおわびを表明した。

 韓国国民個人の補償請求権や文化財返還については1965年の日韓基本条約締結時に解決済みという日本政府の立場は崩さず、戦後補償につながる記述は避けた。朝鮮王室儀軌などの「朝鮮半島由来の貴重な図書」を引き渡す方針も「返還」ではなく「譲渡」を意味する表現となった。未来志向の関係構築へ向け、サハリン残留韓国人への支援や朝鮮半島出身者の遺骨返還など「人道的な協力」に引き続き取り組むことも盛り込んだ。

 談話では日韓関係を「最も重要で緊密な隣国同士」とし、民主党政権の掲げる「東アジア共同体の構築」も念頭に「地域と世界の平和と繁栄のために協力してリーダーシップを発揮するパートナーの関係」と強調した。韓国では植民地支配からの解放を祝う「光復節」の8月15日に李大統領が演説をする。【野口武則】

 ◇首相談話の全文

 本年は、日韓関係にとって大きな節目の年です。ちょうど100年前の8月、日韓併合条約が締結され、以後36年に及ぶ植民地支配が始まりました。3・1独立運動などの激しい抵抗にも示されたとおり、政治的・軍事的背景の下、当時の韓国の人々は、その意に反して行われた植民地支配によって、国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられました。

 私は、歴史に対して誠実に向き合いたいと思います。歴史の事実を直視する勇気とそれを受け止める謙虚さを持ち、自らの過ちを省みることに率直でありたいと思います。痛みを与えた側は忘れやすく、与えられた側はそれを容易に忘れることはできないものです。この植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、ここに改めて痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明いたします。

 このような認識の下、これからの100年を見据え、未来志向の日韓関係を構築していきます。また、これまで行ってきたいわゆる在サハリン韓国人支援、朝鮮半島出身者の遺骨返還支援といった人道的な協力を今後とも誠実に実施していきます。さらに、日本が統治していた期間に朝鮮総督府を経由してもたらされ、日本政府が保管している朝鮮王朝儀軌(ぎき)等の朝鮮半島由来の貴重な図書について、韓国の人々の期待に応えて近くこれらをお渡ししたいと思います。

 日本と韓国は、二千年来の活発な文化の交流や人の往来を通じ、世界に誇る素晴らしい文化と伝統を深く共有しています。さらに、今日の両国の交流は極めて重層的かつ広範多岐にわたり、両国の国民が互いに抱く親近感と友情はかつてないほど強くなっております。また、両国の経済関係や人的交流の規模は国交正常化以来飛躍的に拡大し、互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら、その結び付きは極めて強固なものとなっています。

 日韓両国は、今この21世紀において、民主主義や自由、市場経済といった価値を共有する最も重要で緊密な隣国同士となっています。それは、2国間関係にとどまらず、将来の東アジア共同体の構築をも念頭に置いたこの地域の平和と安定、世界経済の成長と発展、そして、核軍縮や気候変動、貧困や平和構築といった地球規模の課題まで、幅広く地域と世界の平和と繁栄のために協力してリーダーシップを発揮するパートナーの関係です。

 私は、この大きな歴史の節目に、日韓両国のきずながより深く、より固いものとなることを強く希求するとともに、両国間の未来をひらくために不断の努力を惜しまない決意を表明いたします。

毎日新聞 2010年8月10日 10時52分(最終更新 8月10日 12時20分)

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