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注目記事

若者に「経験の大切さ」を教えたい

 クール・ジャパンを絶やさないためのもう一つの要素が、「クリエイター」の育成です。先に日本は企画が生まれやすい土壌であることに触れましたが、技術の進歩、とくにインターネットの発達によって、クリエイターが生まれにくい状況になっていることは否めません。とくに若い人間と接していると、彼らの多くは意識が世界に向いていない、と感じます。たとえば、世界を旅行したいという若者が明らかに減っているのです。

 人は、知らないからこそ新しい場所に行きたいという気持ちが高まります。たとえば、ベネチアという街が「水の都」であると聞き、写真がほんのわずかしか手に入らなければ、「どんな街だろう」「もっとみたい」と好奇心がかきたてられ、そこから「行きたい」という気持ちが生まれるわけです。

 実際、インターネットがこれほど普及する前は、少しでもチャンスがあれば行動に移さないと、情報を手に入れることはできませんでした。手に入れた情報も、ストックする場所は自分の中しかなかったのです。

 ところがいまは、ほしい情報はすぐ「そこ」にあり、何でも知っているという「錯覚」に陥りがちです。いわば外付けハードディスクがたくさんある状態で、あえて自分のなかに情報をストックする必要もありません。これは世界を狭くするだけでなく、企画力や発想力を弱めることにもなります。

 企画やアイデアを生み出すためには、「自分のなか」に多くのストックをもつことが不可欠です。新しい発想というのは化学反応と同じで、自分のなかのストックと、新たに自分のなかに取り込んだ何かが出合い、それが融合して生まれるからです。

 自分のなかに何もなければ、閃きは生まれません。閃いたつもりでも、たいていそれは、ほかの誰かがすでに考えたものです。

 クリエイターを育成するために、いま若者に必要なのは、経験することの尊さ、楽しさを知ることです。たとえばおいしいものを食べると、幸せな気分になる。この幸せな気分は、一度味わったらやみつきになるでしょう。新しいアイデアが閃いたときも同じであって、そうした経験をたくさん積ませることが大切です。そうすれば自分のなかにストックをもつことが大事であって、いつも何かを考える習慣がどれだけ大事であるかもわかります。私は現在、東北芸術工科大学で企画構想学科長を務めていますが、ここでも学生たちにそうした経験を積んでもらうことが、主たるミッションです。

 いま世界が、コンテンツの宝庫として日本に注目しています。日本のクリエイターにとって、さらに大きなチャンスが到来しているのです。インターネットが若者の企画力を弱めているといいましたが、インターネットの発達によって、自分の作品を自由に発表できる場が増えていることも事実であり、場合によっては、日本人の優秀なクリエイターを、日本よりも海外メディアが先に評価することもある。

 資源のない日本にとって、ソフトと、ソフトをつくる才能は非常に大きな資源であることを認識し、クール・ジャパンという追い風があるいまこそ、これをどう発展・持続させていくかを、みんなで考えるべき時期なのではないでしょうか。

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