「いま財政再建」は正しいか?
若田部昌澄 (早稲田大学教授)
(VOICE 2010年7月13日掲載) 2010年7月18日(日)配信
このときは連立政権内部の政治問題に発展し、結局取りやめることとなった。細川首相は痛恨の言葉を次のように残している。
「なによりもコメと政治改革に忙殺されて、私自身が本問題につきてとりまとめる余裕をもたず、党に丸投げしおりしこと(即ち大蔵の意向が通りやすき状況)がかかる結果を招きたる原因なり」
しかし、増税はやってきた。1997年4月、橋本龍太郎内閣は、消費税率を5%に上げるなど、総額9兆円に及ぶ負担増を行なう。
残念なことに当事者である橋本元首相は回顧録を残すことなくこの世を去った。その代わりになるものとして軽部謙介&西野智彦著『検証経済失政』(岩波書店)がある。これはいまでこそ再読すべき本だ。当時の人びとはまことに真剣に財政再建に取り組んでいた。96年の総選挙では橋本氏は財政再建を掲げ、そして選挙で勝っている。
「負担増の影響はある。しかし、いま財政や医療保険の改革をやらないと、将来たいへんなことになる」
これが当時の合言葉だった。
もちろん、当時の大蔵省がすべてを仕切っていたわけではなかった。むしろ政界からマスコミまでが財政構造改革という名前のもとに、財政再建に前のめりになっていった。
橋本元首相は、自ら財政再建の目標年度を前倒しした。当時のマスコミの社説は財政構造改革賛成で塗りつぶされている。具体的な数字は最後まで首相は知らなかった。総額9兆円の負担増という数字に驚いたのは、なによりも首相本人だったという。
結局、97年の秋に三洋証券、山一證券、北海道拓殖銀行が相次いで破綻する金融危機が勃発した影響もあり、日本経済はもっとも厳しいときを迎える。その後、必要な情報を上げてこなかった旧大蔵省に、橋本氏は不信感を抱きつづけた。
現在はどうだろうか。あのときとは違う、というかもしれない。あのときとは違って日本の金融システムは安定している。あのときとは違って今回の財政再建は時間をかけて行なう。あのときとは違って、政府支出も同時に増やす。
だが、安心できるのだろうか。
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