政局LIVEアナリティクス 上久保誠人
【第54回】 2010年7月27日
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上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授]

予算編成システムが大混乱の菅内閣は、
国家戦略局構想をあきらめてはいけない

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財政再建には、
既存事業の優先順位づけが必要

 最後に、予算編成のポイントを示したい。まず、シーリング(概算要求基準)を明確に決めること。次に、マニフェストの予算化に徹底的にこだわることだ。財源論でマニフェストを安易に断念するのは愚の骨頂であり、まずマニフェストに財源を付けるのだ。逆説的だが、これが厳しい予算規律実現の第一歩となる。各省庁がシーリングを守るために既存事業の合理化に手を付けざるを得なくなるからだ。

 そして、誰もが必要だと認める既存事業の間に優先順位を決めることだ。「事業仕分け」などで削減できる無駄な事業はそれほどの規模にならない。必要な事業の優先順位付けこそ財政健全化の鍵だ。

 自民党政権期には、内閣府などの省庁横断型の審議会で有識者の意見を「権威」として、さまざまな既存事業の間の優先順位を決めることができた。

 財務省主計局は予算編成の際に、例えば科学技術政策なら「総合科学技術会議」、社会保障政策ならば「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」などの決定事項を「権威」として利用しながら、各省庁との交渉を行った。

 一方、鳩山内閣の予算編成は、経済財政諮問会議の廃止やその他の審議会の議論が停止したことで混乱した。財務省主計局が「権威」を盾に各省庁の予算要求を抑えられなかったからだ。

 現在も、各審議会の議論は活発ではなく、各省の「政務三役会議」や「各省政策会議」も、事務方が挙げてきた政策をただ承認しているだけのようだ。政務三役が過重労働すぎて、限られた財源の中で政策の優先順位を戦略的に決めるような議論をする余裕がないのだ。

 財政健全化のために、既存事業の優先順位を明確に決めるためには、民主党議員以外の幅広い人材を排除せず、幅広い議論を行う場を作り、その決定に「権威」を与えることだ。端的に言えば、菅政権は「国家戦略局」構想をあきらめるべきではない。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文 タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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「大物政治家に話を聞いた」「消息通に話を聞いた」といった大手マスコミ政治部の取材手法とは異なり、一般に公開された情報のみを用いて、気鋭の研究者が国内・国際政局を分析する。

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