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50を過ぎた頃から、わが身ばかりか同世代の健康が気になり始めた。個人差はあろうが、この年になると不調や心配の一つ二つは抱えているものだ。有名無名に関係なく、病は無遠慮に押しかける▼サザンオールスターズの桑田佳祐さん(54)が食道がんを手術した。幸い早めの発見で、術後も良好と聞く。一人の体でないのが大物のつらさ。新作アルバムの発売は延期され、全国ツアーは中止となった。ここは気長に、根治と再起を待ちたい▼ロックンロールにバラード、おちゃらけた歌まで、何を聴いてもつくづく天才だと思う。自在の楽曲と達者なステージに、どれだけ励まされたことだろう。サザン世代がかかわる雑誌やレコード店が、激励の企画を競うのもわかる▼デビューから32年という。桑田さんは2年前、アエラ誌上で「気づくと『人生、残り何試合かなあ』って考えるような癖はつきましたしね」と語っていた。まだまだ。いつまでもご自身の詞の通り、〈悪さしながら男なら/粋で優しい馬鹿でいろ〉の心意気でお願いしたい▼桑田さんの件で、内視鏡検査を思い立った人もいよう。それで命拾いするケースもあるはずだ。そして完全復帰への歩みが、さらに多くを勇気づける。著名人の闘病は、ご本人や周囲の苦楽にとどまらない▼己の持ち物ながら、意のままにならない内臓たちである。検査の数値でご機嫌をうかがい、たまに上から下から様子をのぞくしかない。知られた人の闘いに元気をもらい、せいぜい自分をいたわりたい。一試合でも多くやるために。