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2010年8月10日(火)付

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廃絶への道―核依存症から抜け出そう

65年目の夏、広島、長崎で平和祈念式典が開かれた。菅直人首相は長崎で、「核のない世界」に向けて具体的措置を提案し、国際社会での合意形成に貢献する決意を示した。どう成果に結びつけるかが、今後の[記事全文]

ハブ港湾―釜山港への遅すぎる挑戦

アジアのハブ(拠点)をめぐる競争が激しさを増している。空港に続いて港湾も、態勢をどう立て直すかが重要な課題になってきた。世界のコンテナ取扱量トップ10にはシンガポールや[記事全文]

廃絶への道―核依存症から抜け出そう

 65年目の夏、広島、長崎で平和祈念式典が開かれた。菅直人首相は長崎で、「核のない世界」に向けて具体的措置を提案し、国際社会での合意形成に貢献する決意を示した。どう成果に結びつけるかが、今後の課題だ。

 とりわけ重要なのは、安全保障政策における核兵器の役割を縮小させる外交である。冷戦思考を引きずり、核抑止への依存が強いままでは、核廃絶へ近づきようがない。

 広島市長は平和宣言で、「核の傘」からの離脱を促した。直後の記者会見でこの点を問われた首相は、日本にとって核抑止力は引き続き必要との考えを示した。すぐに「核の傘」から離脱することは現実には困難である。その意味では首相の言う通りだ。

 だが、核依存を続けるばかりでは、「核の傘に入ったまま核廃絶を言う日本は矛盾している」との指摘への反論さえ、むずかしい。日本、そして世界の核依存を減らしていく外交を積極的に展開してこそ、非核日本の道理を強く世界にアピールできる。

 着手すべきことはいくつもある。

 通常戦力や生物・化学兵器への報復には核を使わず、相手の核使用抑止に限定する方針の表明を「唯一の目的」宣言という。米国は4月に発表した核戦略見直し(NPR)で、この宣言への条件を整備していく考えを示した。

 その議論を深めていく格好の舞台となる非核国家グループが、日本の音頭取りで、9月に始動する。新たな核軍縮・不拡散政策を前進させるための有志連合だ。日豪独など米国の同盟国も入っている。

 その際、軍備管理を安全保障政策の柱にすることが大事だ。核兵器の役割低下が通常戦力の軍拡競争を招いては困る。核依存症から抜け出すとともに軍備管理を進める。そんな構想と具体策の推進が外交の鍵となるだろう。

 核実験した北朝鮮は大きな懸念材料だが、追い詰められた体制が、核による脅しだけで戦争を思いとどまるかどうか。不透明な部分が残る。「核の傘」をはずせないにしても、外交と通常戦力による対応をうまく組み合わせる努力が欠かせない。

 米国はNPRで、核不拡散条約(NPT)を順守する非核国に対して核攻撃しないと明言した。いわゆる、「消極的安全保証」だ。これを核保有国の間で広めていくことも、核依存を減らす方法である。

 中国は核の先制不使用を表明しているが、軍備増強を続けていることもあって、信頼を得ていない。ここは米中が協力して、「消極的安全保証」について共同声明を出すなり、国連安保理決議を検討するなりしてはどうか。

 日本からそうした動きを促すのも、首相の言葉が国際的な信頼を得ていく力になるだろう。

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ハブ港湾―釜山港への遅すぎる挑戦

 アジアのハブ(拠点)をめぐる競争が激しさを増している。空港に続いて港湾も、態勢をどう立て直すかが重要な課題になってきた。

 世界のコンテナ取扱量トップ10にはシンガポールや中国の上海、深セン(センは土へんに川)、香港、韓国の釜山などアジアの港が並ぶ。1980年代にトップ10入りしたこともある日本の港は、国内首位の東京港でも26位にすぎない。

 そこで政府は今後5〜10年でアジアのハブ港湾にふさわしい港を整備する方針を打ち出した。選ばれたのは京浜(東京、川崎、横浜)、阪神(神戸、大阪)の2地域だ。

 国際物流の世界は、規格化された「巨大な箱」コンテナの普及で輸送スピードが格段に向上し、コストが劇的に下がった。これがグローバル化とあいまって世界の物流量を飛躍的に増やす起爆剤になった。最も恩恵を受けたのがアジアである。

 日本の港はこの波に乗り遅れた。日本の観光客が韓国の空港を国際ハブ空港として利用するように、最近では日本の荷主が地方港からのコンテナを釜山港で国際航路に積み替えるケースも増えてきた。

 なにしろ釜山港の荷役料などは日本より3〜4割安い。低料金を背景に、運営会社が日本の自治体や荷主に売り込んできている。

 日本の港がこのまま地盤沈下すれば、日本経済や雇用にとっての悪影響が心配される。電機メーカーなどはアジア各国の拠点との間で部品や半製品を大量に融通しあっており、物流コストや在庫期間は競争力を左右する。港が高コストで使いにくければ、生産を海外に移す要因ともなる。

 産業の空洞化を防ぐためにも、日本の港も運営会社の民営化や統合、効率化を進め、荷役料の引き下げや24時間運用などのサービス向上に早く取りかからなければならない。

 ハブ港湾を二つに絞ったことで、限られた公共事業財源を集中できる。港湾のような基盤工事の予算は地方自治体や地元国会議員などに配慮して、多くの港にばらまかれてきた。今後は超大型コンテナ船が横付けできる岸壁整備を京浜、阪神で進めるなど、メリハリがつくだろう。

 それでもハブ港湾を一つに絞りきれなかった戦略は、まだ甘いとも言える。釜山港に追いつくのに、2地域への分散投資でいいのかどうか。

 国土交通省は全国の重要港湾103カ所のうち、国直轄で護岸工事などの新規予算をつけられる港を43カ所に絞った。なお多すぎないだろうか。

 空港や港湾の乱立は財政の膨張を招いただけでなく、どれも整備が中途半端となってアジアとの競争に負けている。遅きに失した感はあるが、今からでも大胆に改めなければならない。

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