きょうの社説 2010年8月10日

◎企業の地方移転 検討に値する国づくり策
 コマツの坂根正弘会長が富山市内での講演で、コマツ小松工場跡地への本社機能移転論 議に触れながら、大企業の地方移転を促す国づくりを呼びかけた。同様の提言は今年5月、石川、福井県など11県の知事ネットワークからもなされている。企業の地方分散により大都市の過密と少子化を改善するため、本社機能・工場を地方に移す企業に対し、法人税減免などの誘導策を考えるべきという趣旨の政策提案は、これからの国づくりの在り方に一石を投じるものといえ、地方全体の政策要望として訴えていく価値があるのではないか。

 11県知事の提案に先立ち、2007年の金沢経済同友会創立50周年記念式典で、日 本の過密、過疎を本気になって解消するには、過疎地に法人税、所得税の「軽減課税」を導入して、企業や人を動かす発想が必要と提言され、私たちも賛意を示してきた。政府は、企業の地方移転を促進して社会構造を変えようという地方の声に、真剣に耳を傾けてもらいたい。

 「自立と分散で地方を変える」ことをめざす11県知事ネットワークによると、上場企 業約4千社のうち、約2千社は東京に立地しており、三大都市圏以外の上場企業は全体の16%強に過ぎない。

 こうした上場企業の大都市集中を是正して、地方が担うものづくり産業を強化する。生 活環境の悪化した大都市から、子育てをしやすい地域に企業を移せば、過密、過疎の解消、少子化防止につながり、企業の経営リスク分散の効果もある、というのが知事ネットワークの政策提言の第一である。

 本社機能の地方移転を促進するため、一定期間の法人税減免や新規投資に対する課税軽 減などを求める点は、基本的に金沢経済同友会の提言と同じであり、十分に理のある主張と言える。

 韓国はソウル一極集中を改めるため、首都圏の企業が地方に移転する場合、法人税減免 や補助金交付などの措置をとっている。東京一極集中の是正を長年の課題とする日本も、地方分権改革に並行して、税制の再構築による企業の地方移転について、真剣に検討してよいのではないか。

◎大卒就職率6割 雇用対策に本腰入れよ
 文部科学省が公表した学校基本調査の速報で、大卒の就職率が60・8%にとどまり、 下げ幅も過去最大を記録した。大学院などへの進学も就職もしなかった卒業生は、実数で8万7千人に上っており、就職氷河期の厳しい現実が浮き彫りになった。

 民主党は経団連との間で政権交代後初めての政策対話を開始し、近く自民党と経団連に よる政策対話も始まる。新卒者の雇用対策は主に離職者を対象とした緊急雇用対策のように一時的に予算措置を講じて手当てするのが難しい。大学生が3年に進学すると同時に就職活動に走り回らねばならない現状は、大学教育にとっても問題であり、社会に及ぼす影響も大きい。政策対話を通じて、政府と経済界が二人三脚で、新卒者の雇用対策に取り組んでほしい。

 企業業績が回復に向かう一方で、景気の先行きが不透明なことから、企業は新卒採用を 手控えている。民間の調査会社によると来春卒業予定の大学生・大学院生に対する民間企業の求人状況は、前年よりさらに2割減っており、改善の兆しが見えない。北陸は全国でも新卒者の就職率が高い地域だが、楽観できる状況ではない。

 政府は雇用対策を成長戦略の柱と位置付けながら有効な手を打てていない。今年6月、 政府と労働界、産業界が雇用政策を話し合う「雇用戦略対話」で、「800円の全国最低賃金を導入」「フリーター数を09年の178万人から20年までに124万人に減らす」などの目標を掲げたが、いずれも努力目標の域を出ない。鳩山前政権時代は米軍普天間飛行場移設問題をめぐる政権内の混乱、菅政権移行後は参院選の大敗の影響で、腰を据えた論議ができない状況に陥っている。

 本来なら民間企業に雇用拡大を要請しなければならない立場の政府は、国家公務員の新 規採用数の4割削減方針を打ち出し、自ら冷や水を浴びせた。民間に採用拡大を求めるなら、削減方針を撤回し、官民が一体となって雇用確保に努めてほしい。臨時やアルバイトではなく、あくまで正社員の雇用を増やす努力を求めたい。