30・40代に広がる教養漫画ブーム
経済、歴史、芸術…大人向けの題材で相次ぎ登場
仕事帰りに市内の大型書店に立ち寄る会社員のユン・ミョンチェさん(30)は最近、気になる本を見つけた。1996年に韓国で翻訳出版された、フランスの作家ベルナール・ウェルベルの教養科学エッセー『相対的かつ絶対的知の百科事典』(以下、「相絶知百」)を漫画化した本だ。ユンさんは、「高校時代に読んでいた本が新たに漫画化され、本当にうれしい。活字で読むのとはまた違った味わいがある」と語った。
子どもや青少年向けの題材が中心だった学習漫画市場が、大人の読者を取り込むために新たな変化を遂げている。主に大人向けの領域である経済、歴史、芸術分野をテーマにした「教養漫画」が、このところ相次いで出版されている。
ウェルベルの「相絶知百」(全3巻を予定)について、出版社「開かれた本たち」のカン・ムソン主幹は、「原作が、著者の想像力を集大成した一種の『知識の箱』であるため、漫画化するにはうってつけの題材だと判断した。企画段階からフランス在住の著者と何度も協議を重ね、第2、第3巻には著者の新たな考えも盛り込む構想だ。14年前の原作とはまったく異なる内容になるだろう」と語る。漫画「相絶知百」のイラストは、大学で建築学を専攻し、漫画界で活躍するキム・スバク氏(36)が、細かく愛情あふれるタッチで描いた。
男性に人気が高い歴史関連の漫画では、これまでに40万部を売り上げたパク・シベク氏(46)の『朝鮮王朝実録』(ヒューマニスト)が代表的だ。5年前に小学校高学年を対象に企画されたが、大人の関心も高かったため、第5巻以降は完全に大人向けの内容に転換した。今年3月に第15巻(景宗・英祖実録)が発行され、2012年までには全20巻を出版するのが目標だ。パク氏は、「漫画は幅広い世代の人々に親しまれるジャンルだが、大人が対象であるだけに、より内容に深みが出るよう試行錯誤している」と話す。
06年から本紙(韓国語版)の経済面に週間連載されている「チョン・ガプヨン教授の漫画で読む経済学」は、単行本(21世紀ブックス)として出版され、経済、経営分野でロングセラーを記録している。延世大経済学科のチョン教授が文面を、時事漫画を主に手掛けるパク・チョルグォン氏(39)がイラストを担当した。時事経済を知る上で必須となる約60のキーワードを中心に構成されており、出版社は「経済活動の主軸を担う30代、40代が主なターゲット」と説明する。
韓国出版研究所のペク・ウォングン責任研究員は、大人向けの教養漫画ブームについて、「韓国でのみ形成されている特殊な市場」と分析する。伝統的な漫画大国の日本では、スポーツ漫画などが人気を集めているが、「教養漫画」という市場はないという。ペク研究員は、「昨年下期以降、出版業界が全体的に低迷している中、『ワンソース・マルチユース(一つの素材を複数のジャンルに展開して波及効果を狙うマーケティング戦略)』の傾向が高まっている。大人向けの漫画は潜在顧客が豊富なため、見通しは非常に明るい」と話している。
辛容寬(シン・ヨングァン)記者