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[20023] 【習作】Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/08/08 15:44
 皆さんはじめまして。

 人生負け組と申します。
 ゲームのマブラヴをプレイして、2次創作の作品を読んでいるうちに
 自分でも書きたくなってきました。
 というわけで書いてみましたが、やはり国語力が低いと下手な文章になりますね。


 とりあえず、チラシの裏からほそぼそと書き始めて生きたいと思いますので、拙い文章ですが、
 生暖かい目で見ていただけるとうれしいです。

 7月4日   プロローグ初投稿
 7月7日   第1話初投稿
 7月9日   第2話初投稿
 7月12日  第3話初投稿
 7月16日  第4話初投稿
 7月21日  第5話初投稿
 7月21日  第5話修正 ご指摘ありがとうございます。
 7月30日  全体を少し修正
 7月30日  第6話初投稿
 8月5日   第7話初投稿
 8月8日   第8話初投稿



[20023] Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~ プロローグ
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/07/30 13:14
 戦争が生み出すものは、破壊、憎悪、負の感情である。
 新たなる兵器の登場といった科学技術の進化である
 そして、人々を導く英雄と呼ばれる存在である。

 Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~

 プロローグ

 人類同士による二度目の世界規模の戦争が終わってまもなく、人類は宇宙に進出を始めた。
 1950年に始動した本格的な宇宙探査を目的としたダイダロス計画により、1958年人類は火星において、生命体と思われる姿を確認人類は地球外生命体との接触を図る。
 1966年、世界的巨大プロジェクトオルタネイティブ計画発動。
 翌1967年、火星に派遣された国際恒久月面基地「プラトー1」所属の隊員が火星にて発見された生命体と接触。以後消息を絶ち、この事件はサクロボスコ事件と命名。
 同年、第1次月面戦争勃発。人類史上初の地球外生命体との戦争、BETA戦争の勃発。
 1973年4月19日、中国新疆ウイグル自治区カシュガルにBETAの着陸ユニットが落下。
 同年、第1次月面戦争終結、プラトー1の放棄による人類の惨敗であった。
 1978年、NATO・ワルシャワ条約機構連合軍による東欧州大反攻作戦・パレオゴメス作戦発動。2ヶ月の激戦の末、ソビエト陸軍第43戦術機甲師団・ヴォールク連隊がミンスクハイヴ地下茎構造への突入に成功するも数時間後に全滅。
 1995年、国連、オルタネイティブ4に日本案の採用を決定、オルタネイティブ3を接収へ。
 1999年、前年に建設開始された横浜ハイブ攻略作戦・明星作戦発動。国連軍と大東亜連合によるアジア方面では最大、BETA大戦においてはパレオロゴス作戦に次ぐ大規模反攻作戦。横浜ハイヴの殲滅と本州島奪還が優先戦略目的。
 同年8月5日、米軍が2発のG弾を使用し、人類史上初のハイブの奪還に成功。
 2001年12月24日、国連軍第11方面軍司令部および、日本帝国軍参謀本部より、甲21号作戦発動。
 同年同月25日、G弾にいる佐渡島消滅を以って、佐渡島ハイブの破壊に成功。
 同年同月31日、人類のすべてをかけた桜花作戦発動。
 翌2002年1月1日、甲1号にてあ号標的の破壊に成功。


 このとき、人類はついにBETA大戦で反撃に打って出た。

 そして、1人の英雄が祭り上げられた。


 名を、白銀武。

 国連軍の衛士にして、画期的な新概念OS・XM3の提案者、そして桜花作戦の唯一の生き残りでもあった彼を人類は英雄と呼んだ。

 彼がいる戦場は必ず人類の勝利で終わる。

 彼は我々人類を導く存在なのだ。

 そして彼は、後の歴史にも名を刻み続ける。

 2003年、錬鉄作戦にて甲20号目標の破壊に成功。

 2004年、欧州奪還作戦にて一個連隊を率いて3つのハイブ攻略に成功。

 2010年、東南アジア大反抗作戦では、前線指揮官として5つのハイブ攻略に成功。

 2013年、地球上に残っているすべてのハイブ攻略を目的としたユーラシア奪還作戦にて、当時フェイズ5のハイブをわずか一個大隊で破壊するという神業を披露。

 翌2014年、これまでの功績により、かねてから計画されていたオルタネイティブ6通称ルビコン計画の最高責任者に就任。

 2020年、月面奪還成功により、火星攻略艦隊の総司令官として火星に派遣。

 2027年、7年間の激戦の末、フェイズ9のハイブ「マーズゼロ」他3つのハイブの攻略に成功。

 彼の生涯は勝利の連続であり、そして死に埋め尽くされていた。

 







  ***2027年 火星攻略艦隊旗艦「アレクサンダーⅢ」 医務室***

  部屋にいるのは二人だけ、一人はただ椅子に座りベットに横たわる男性を見つめている。
  もう一人の男性は、今にも死にそうな感じでベットに横たわっている。
  すると座っていた男性がベットに横たわっている男性に向けて話し始めた。


 「司令、あと6時間ほどで月面基地に到着いたします、みな司令のご到着をお待ちしておりますよ。」

  すると、起きていたのか横たわっていた男性が口を開いた。

 「そっか、んじゃあ補給と整備のほうは月の連中に任せて、桂木さんたちはみんなと酒でも飲んできなよ。」

 「そういうわけにはいきません。今回の火星攻略が成功したのは司令のおかげですので、司令が来ないのであればみな楽しむことができません。」

 「そうかい?みんなのことだから、俺がいなくても大丈夫だと思うけど。」

  ベッドに横たわる男性はそう言っているが、顔ではそう思ってないことがすぐ読み取れる。

 「それはないですよ。司令がいなくては、みな弄れる人がいなくてさびしがります。」

 「あっそ、俺はやっぱそういう役なんだ。」

 「ええ、そういう役です。」

  椅子に座る男性はそう言って立ち上がり、「彼女がそろそろ来そうですので。」と言い残し、部屋を後にした。




  しばらくすると、一人の女性が入ってきた。
  その女性は、黒い軍服の上に白衣を着て銀色の髪をひとつにまとめ上げていて、町で歩いていればすぐにでも声をかけられそうな美しい女性であった。

 「武さん、お体のほうはまだ大丈夫ですか?」

  優しそうな雰囲気で女性は語りだした。

 「まだ生きてるよ。ていうか霞、まだってどういう意味だよ。」

  武と呼ばれた男性もさっきまでとは少し違う雰囲気で話し始めた。

 「いえいえ、人類最強とまで呼ばれている武さんがここまで弱りきってしまうので、そろそろ終わりかと思いまして」

 「おい、その言葉は遠まわしに早く死んでくれって行っているのか?霞君?」

 「ほほほ、何のことやら?」

 「覚えてろよ。」と言って疲れたのか彼は、先ほどのベッドに横たわった状態で悔しがっていた。

 「武さん。」

 「ん?なんだい霞?」

  霞と呼ばれた女性は先ほどのような笑顔が今ではほとんど消えていた。

 「ここまで来たのに残念ですね。」

  彼女がそう言うと。

 「そうでもないかな。」

  不思議と彼はそうも残念そうでもない顔をしていた。
 「なぜ?」と彼女は聞いた。

 「だって、この世界にとってはハッピーエンドかもしれないけど、俺にとってはギリギリでハッピーエンドだからだよ。」

 「人類の未来は完全にとまではいかずとも、滅亡は回避できたこの世界がですか?」

 「ああ、だってこの世界にはみんないなくなっちゃたからね。」

 「それでも、ハッピーエンドですよね。だったらいいじゃないですか。」

 「霞はそれでいいかもしれないけどさ。俺、三回目がほしいんだよな。」

  すると、霞と呼ばれた女性は。

 「では、武さんに質問です。」

 「はい、なんでしょうか?霞さん?」

 「もしも三回目があるとしたら、武さんはどのようなことをしますか?」

  そう聞かれて彼は、「う~ん。」と迷い始めて。

 「確かに三回目があるのはいいけど、ただの三回目じゃ面白みにかけるかな~。」

  そう言って武は、霞に「もうちょっと、設定を捻ってくれない?」

  すると霞は、少しおでこに青くじらを立てながら武に言った。

 「では、欲張りな武さんはどのような設定がよろしいですか?」

 「え?そ、そ~だな~。」

  突然話を振られて武は困惑しながらも。

 「う~ん。やっぱ、わざわざ10月じゃなくて、敢えてそこは4月あたりってのもいいかもな。」

 「そうですか。武さんは欲張りですね。」

  ふふふ、と霞はそう言って。

 「そろそろ、仕事に戻りますので武さん、おとなしくしててくださいね。」

 「はいはい、おとなしく寝てますよ。」

  そして、霞は「では。」と言って部屋を出て行った。

  再び、部屋に静寂が走る。

 「もう一度か、ホント欲張りだよ俺は。」

  そう言って彼は、目を閉じた。




  2027年、オルタネイティブ6最高責任者白銀武、火星攻略帰還中に死亡。





[20023] Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~ 第1話
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/07/30 13:14
 ***2002年1月8日横浜基地 PX***

  先日、壊滅的な状態に陥った横浜基地であったが、PXには若干の賑わいを見せていた。
  それでも、昼を過ぎたころには仕事に戻ったりしているので、人影はほとんどなくなっていた。
  二人の男女を除いて。

 「なあ、霞。」

 「なんですか?」

  武が霞に呼びかけると、霞はあやとりを中断して武を見た。

 「いや、ちょっと質問があるんだけどいいかな?」

 「どうぞ。」

 「何で俺、この世界に残ったんだろう?」

  武はそう言うと霞のほうを向いたが。

  当の霞本人は、武を若干かわいそうな目で見ていた。

 「あの?霞さん?」

 「何でしょうか?白銀さん?」

  武はその場で直感した。

  そういえば、この話今日何回話したっけ?

 「確か記憶が正しがったら、4回目だったかな?」

 「5回目です。ちなみに、今までの分を合わせれば23回になります。後、思考が声に出てますよ。」

  そう言う霞の目はさっきよりもかわいそうな目で俺を見てきている。

 「そ、それよりさっきの質問に答えてくれよ。」

  すると霞は、「は~」と深いため息をついて言い始めた。

 「白銀さんがこの世界に残れた原因は不明です。ただ、考えられる可能性の中で一番有力なのが、白銀さんの存在がこの世界に必要だから、というのが一番有力です。」

 「俺が、必要とされたからか。」

 「あくまで可能性の域ですが。」

  そう言うと、霞はまたあやとりを再開して、武は何かを考えるように目を瞑った。



  Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~

  第1話「叶いし願い」

 ***?年?月?日???***

 「どこだ?ここ?」

  目を開けた瞬間に思ったことはそれだった。
  しかし、目が覚めてしばらくすると、思考が徐々にクリアになってきた。

 「俺の部屋?でも、俺の部屋に何で俺が?」

  まさか?
  頭にひとつの可能性が浮かんだ瞬間に、武は自分の部屋にあった制服に着替え、すぐさま玄関に向かった。

 「か、叶ったのか?」

  辺りを見回せば、あるのはただの廃墟ばかり。
  純夏の家には毎度のこと撃震が乗り捨ててあり、これらがすべてを物語っていた。

 「あは、あははははは。三回目だ。本当に三回目がきやがった。」

  廃墟の中で武は一人でただ笑っていた。
  叶わないと思っていた願いが叶ったのだ。
  彼の笑い声は、廃墟の中で響いていた。

 ***?年?月?日横浜基地 正門前***

  その日、基地の門兵の二人はいつも通りのように普通の日を送るはずだった。
  しかし、それは一人の来訪者によって簡単になくなった。

 「お、おい。誰か来るぞ。」

  相棒のその言葉を聞いて、見てみると訓練兵らしき奴がやって来た。

 「外出してた訓練兵がいたのか?」

 「ま、そういう奴がいたってことだ。」

  相棒にそう言われて「やれやれ」と言いながら、やってきた訓練兵に話しかける。

 「こんなところで何をしているんだ?」

 「外出していたのか?物好きな奴だな。どこまで行っても廃墟だけだろうに。」

 「隊に戻るんだろう?許可証と認識票を提示してくれ。」

  すると、訓練兵らしき奴は「ふぅ」と、一息ついてから急にへんなことを言い始めた。

 「訓練兵と同じ格好だからって無用心に近寄るだけで、本物が相手だったら確実に死んでるよ。」

  「何?」と、言おうとした瞬間に相棒が急に倒れて、振り向こうとしたとき。
  既に、門兵は地に伏せていた。

 「さ~て、横浜基地の実情とやらを確かめるとしますか。」

  そういう言葉が聞こえたかと思うと、彼らは意識を失った。

 ***?年?月?日横浜基地 司令室***

  この日、この横浜基地の副指令香月夕呼は基地司令室でいらだっていた。
  理由としては、今までやってきた研究がうまくいかなくなってきたことに加え、先ほど入ってきた連絡から、この横浜基地に侵入者が来たとのことだ。
  しかし、ただ侵入者が来たのであれば、基地の者だけでも充分に対処できると踏んでいたが、どうやらこの横浜基地の状態はそこまでひどいようであったようだ。
  その上で一番腹立たしいのが、先ほどの歩兵隊長との通信中に侵入者と思しき者が、急に会話に加わってきてあろうことかこう言い出した。

 「えっと、そろそろ俺も疲れてきたので終わりにしたいので、よろしければ、夕呼先生に伝えてくれませんか?
  あなたの今やっていることは恐らくほとんど無駄なことですので、正しい答えが知りたかったら、俺を会わせてください。」

  それを聞いた彼女は「そう。」と、言っていたが、顔は正面から直視できないほど、恐ろしい形相になっていて、それを伝えた通信兵は恐怖のあまりに動くことができなかった。

 「それで、どうしますか?博士?どうやら向こうは、博士にお会いしたいようですね。こちらの被害は、死者は今のところおりませんが、このまま続けても意味はないかと。」

  「そうですね。」と、言った後に彼女は少し考えた後、すぐに通信兵に侵入者を副司令室に連れて来るように言った。

 ***?年?月?日横浜基地 副司令室***

 「んで?教えてもらおうじゃない。アンタの言う答えとやらを。」

  副司令室に連れて来られた武は、入った早々、夕呼にそう言われて少し、驚いた。

 「あれ?俺が何者かって興味ないんですか?」

  予想していた初めの質問と違っていたので、少し武は戸惑っていた。

 「だったら、勝手に自己紹介でもすれば?」

  「怒ってらっしゃる。」と、心の中で思いながら武は自己紹介、そして、自分が別の世界から来たこと、自分が二度もループしていることを夕呼に話した。
  それを聞いている夕呼の顔は、初めは武の話を妄想話だと思っていたようであったが、話が後半になるにつれて徐々に話をまじめに聞き始め、話の終盤には、武の話に質問までしてきたのであった。

 「だいたいこんなんですけど、何か他にご質問はありますか?」

 「ひとつあるけどいいかしら?」

 「どうぞ。」

  すると、夕呼の目つきが少し鋭くなって。

 「じゃあ聞くけど、アンタが今までの世界に来たときは全部、2001年10月22日だったのよね。」

 「ええ、それがどうかしましたか?」

 「今日は、2001年4月22日よ。」

  「え?」と、武は心の中で疑問に思った。
  しかし、何故だか武の心の中では、答えが既にあった。
  「俺が望んだから?」そう思う武は、今までとは違うこの世界で必ずみんなを守りきるという決意が、既に心のうちにあった。
  



[20023] Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~ 第2話
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/07/30 13:13
  ***2002年1月13日横浜基地 副司令室***

   桜花作戦が成功に終わり、壊滅的な状態になった横浜基地も復旧作業が進み基地の機能の6割がた戻った。
   しかし、例え基地の機能が戻ったとしても命は戻ることはない。
   そして、なくなった者たちがいたものもいずれは消えてしまう。

   副司令室にいるのはいつもの組み合わせの武と夕呼の二人。
   しかし、夕呼は普段の顔に若干の影が入っており、武の顔には、悔しさがにじみ出ていた。

  「それは、もう決定事項なんですか?」

   「ええ。」と、言いながら夕呼は武に書類を見せた。

   その書類には、こう書いてあった。

   2002年1月15日を以ってオルタネイティヴ計画第1戦術戦闘攻撃部隊の解散を命ずる。

  「A-01部隊を解散なんて、いいんですか?夕呼先生?」

   武は悔しかった。当然である。今まで、自分がいた部隊が突然の解散命令を出されれば、誰だって悔しいものである。
   しかし、軍において上層部が一度でも決まってしまった決定事項は覆ることはほぼありえないことは、武だって知っている。

  「それでも、何とかならないんですか?A-01部隊は、みんなの居場所でしょう?」

  「わかっているわよ。でもね、オルタネイティブ4が終わってあたしに与えられてる権限の多くはもうなくなったわ。今、アンタの前にいるのは、ただの横浜基地の副司令に過ぎないのよ。」

   「そんな。」と武は悔しがる。
   そんな武を見つめて夕呼は、机からもう一枚の書類を出した。

  「これは?」

  「辞令よ。」

  「辞令?」

   夕呼は「そうよ。」と、言いながら書類の説明を始めた。

  「桜花作戦の第一段階で、ユーラシア大陸の前線を押し上げてたのは覚えてるわよね。
   それで、アラスカにいたソビエトの連中が前線の押し上げどころか、領土奪還まで始めちゃってね。
   そしたら、なんと領土奪還に成功の兆しが見えてきたらしくてね。
   連中、今じゃ大騒ぎで東シベリアの奪還作戦の準備を始めてね。
   優秀な衛士が欲しいらしくてね、桜花作戦の生き残りの国連衛士をご指名してきたのよ、わが祖国奪還のためにお力添えしていただきたい。ですって。
   そういうわけで、国連本部の命令でアンタに辞令がおりたってわけ、わかった?」

   そう言って、夕呼は武の顔を見るが、武は複雑な心境を顔に表していた。

  「A-01解散とどういう関係があるかって知りたそうな顔ね。」

  「・・・・・・」

   武は何も答えずただ頷いた。

  「いい?確かにA-01部隊はもう解散命令が出てて、それはもう撤回できないわ。」

   「でもね。」と、夕呼は話を続けた

  「今回の東シベリア奪還作戦であんたが活躍すれば、自然にアンタの名は広まり、そしてアンタは上にいける筈よ。
   そうすることによってアンタは、それなりの権限ってもんが手に入る。
   そうすりゃ、A-01の復活だって可能よ。」

   そう言っている夕呼の目は真剣なまなざしだった。、
   そして、武は決めた。

  「やります。」

   夕呼にとってはその言葉だけで充分だった。

  「わかったわ。一週間後にアラスカのソビエト軍と合流、後に行われる東シベリア奪還作戦に参加しなさい。」

  「了解です。」

   そのときの武の顔は、何者おも恐れない決意が確かに見受けられた。



   Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~

   第2話「取引、そしてはじめまして」

 ***2001年4月22日横浜基地 副司令室***

   香月夕呼は、本日二度目のいらだちを覚えている。それは、先ほど司令室で感じたいらだちを大きく上回るものだった。

  「もう一度だけ聞くわよ。00ユニットを作るのに必要な数式を知ってるって言ったわよね。」

   その質問に対して、武は「はい。」と、答えた。
その姿は、明らかに目の前にいる女性に対して、おびえている姿だった。

  「じゃあ、何で私にその数式を教えようとしないのかしら?」

   夕呼が言葉を発する度に、武は自分の体が震えているのがわかった。
   それでも、伝えければならないことなので話し始める。

  「00ユニットの数式を今先生に教えたとしても意味はないからです。」

  「なんですって?」

   夕呼の目に殺意がこもるのを武は感じ取った。

  「そもそも、今純夏を00ユニットにしたところで、ODL浄化装置の問題があってBETAに情報が漏れてしまいますし、それに純夏の調律も必要ですからね。」

   武が述べる正論に夕呼の方も「確かにそうね。」と、頷く。

  「それに、オルタネイティブ4は2001年の12月24日に終わったんですよ。何の研究成果も挙げないままで、つまりこの世界でもそれは通用するはずです。歴史に余計な干渉を与えなければね。」

  「なるほどね、でも、既にこの世界にアンタというイレギュラーが発生しているわ。それはどうする?」

   武が述べる言葉の弱点をついて、夕呼も答えを知ろうとする。

   「やっぱり夕呼先生に簡単に勝てそうにない」そう思う武は、次の方法を使おうと考え始める。

  「じゃあ、取引と行きませんか?」

  「ん?取引?」

  「ええ、取引です。」

   武にとって、この手段はあまり使いたくはなかった。

  「いいわ、そっちの要求は?」

   意外とあっさりと通った。

   あれ?夕呼先生のことだから、取引なんてする気はないと思ったんだけどな。
   ま、別にいっか。

  「えっと、まずは俺を207訓練小隊への入隊とA-01の教導をやらせてください。お代は、さっきまでに俺が教えた情報で。」

   はっきり言うと、この要求もまず通ることはありえない。
   なぜなら、夕呼が欲しがっている情報は、00ユニットのことだけ、他のことなどどうでもいいはずだ。

  「いいわよ。」

  「ほら、やっぱり無理ですよね・・って、え?」

  「何よ?あんたの要求は通ったのよ、さっさと次を言いなさいよ。」

  「あ、はい。」

   妙だな?夕呼先生のことだから、無理だと思っていたけど、通ったってことはなんかあんのかな?

  「何よ?人がころっと態度を変えて驚いたの?」

  「ええ、とっても。」

  「当然よ。あんたの今の要求は、将来、あたしにとって大きなメリットにもなるし、断る理由もないしね。」

   「それで?次は?」と、武に催促をかけてきた夕呼の目は、さっきまでのような恐ろしい――武視点――のとは、違っていた。

  「XM3の開発をお願いします。XM3とは、前の世界で俺が夕呼先生に作るのを依頼した次世代OSのことです。」

  「んで?その対価は?」

  「XM3の使い道を夕子先生にお任せします。これは、今までの戦術機による戦闘の常識を一気に変えるものです。
   これを公開すれば、世界各国がのどから手が出るほど欲しがりますよ。」

   実際前の世界では、XM3を導入することによって、死者の数が激減して死の8分という言葉がほとんど意味を成さなくなってきてしまったのである。

  「わかったわ。それと、00ユニットについては今度聞くわ。」

  「え?どうしてですか?」

   意外すぎる言葉だった。
   さきほどまで、あれほど恐ろしい目――武視点――で答えを聞きたがっていた彼女が何故?

  「なんでって、あんたが教えたくないんでしょ。
   他の事は簡単に教えるのにそれだけ教えないなんて、あんたがしゃべりたくないならいいわ。
   あんたの言うとおりなら、まだ時間はあるんだし気長に待っているわ。」

  「ありがとうございます。夕呼先生。」

  「礼を言う暇があんならさっさと行きなさい。まりもには、あたしのほうから伝えておくわ。」

   もう一度礼を言ってから、武は部屋を出た。

   さて、ひと段落着いたし、後はXM3の完成を待って207の件とか、A-01の教導について考えるとしますか。

   あ、その前に霞に挨拶しておかないとな。

 ***2001年4月22日横浜基地 シリンダー室***

  「おじゃましま~す。社霞さん、いますか~?」

   部屋からは返事がない。

  「あれ~?いないのかな~?」

   いないと思って部屋を出ようと思ったときに、後ろから急に声をかけられた。

  「なんでしょう?」

  「うお?」

   急に後ろから声をかけられたので、武は姿勢を崩して倒れてしまった。

  「あが~。」

  「だいじょうぶですか?」

  「え?あ、大丈夫、大丈夫。元気がとりえですから。」

   倒れた体を起こして霞のほうを向く。

  「はじめまして。俺の名前は、白銀武。君の名前は?」

  「知っているのではないですか?」

  「確かに君の名前は知ってるけど、この世界では君と俺は初対面だからね。ちゃんと自己紹介したいんだ。」

   そう言って霞を見れば、霞は少し考えているような顔をしてから。

  「社霞です。はじめまして。」

  「うん。あ、記念に握手しようぜ。」

  「何の記念ですか?」

  「俺と初めて会った記念でいいと思うぞ。」

   霞は、「はぁ。」と、言いつつも手を出してきて武はその手を握って、握手した。

  「これで俺たちは友達だ。よろしくな、霞。」

  「はい、よろしくお願いします。白銀さん。」

  「それじゃ、またな霞。」

  「ばいばい。」

  「またな。」

  「ばいばい。」

  「またな。」

  「・・・・・」

  「またな。」

  「またね。」

   それから、白銀は部屋を後にした。

   万遍の笑顔とともに。





[20023] Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~ 第3話
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/07/30 13:13
  ***2002年1月18日横浜基地 正門前***

   かつて、法を守ることが正義だと言った者がいた。
   しかし、それが本当に正しいのだとしたら、彼女は悪だろうか。
   いや、彼女が自ら選んだ道である。
   それくらい、彼女が知らないわけがない。

   雪が降り出した。
   とても寒そうであった。
   それでも、二人の男女は何も感じないようであった。

  「裁判の結果はどうでした?」

   武はつぶやくように言った。

  「殿下の温情で死刑だけは免れたが、斯衛軍から除籍、少尉から一兵卒としてやり直せとのことだ。」

   武は「そうですか。」と答えて、両者の間に沈黙が流れる。

  「そういえば、大尉昇進おめでとうございます。」

  「え?あ、ありがとうございます。」

   突然の賛辞に戸惑いを隠せない武であったが、それを見た月詠は「ふふふ。」と、笑いながら話し始めた。

  「東シベリア奪還作戦ですか。大尉のご活躍をこの日本で聞かせていただきます。」

   そう言う月詠を武はしばらく見ていたが、ふいに口を開いて言い出した。

  「あの、月詠さん。」

  「何でしょうか?大尉?」

   そう言いながら、武の方を見る月詠だったが、武は月詠を怪訝そうな顔で見つめていた。

  「あの?大尉?」

  「月詠さん。」

  「何でしょうか?」

  「敬語、やめてください。」

  「は?」

   そう言う武は、やっと言いたかったことを言えて「はあ~」と、深いため息をついた。

  「階級が変わったくらいで口調を変えるのはやめてください。」

   そう言われて、月詠は待ってたかのような態度で話を続けた。

  「わかったわかった。白銀、東シベリアでの活躍はこの国で聞いていよう。絶対に死ぬなよ。」

  「わかってますよ。」

   「それではな。」と、言って月詠は立ち去ろうとしたが、武が呼び止めた。

  「月詠中尉!」

  「何だ?私はもう中尉ではないぞ。」

   そう言って武のほうを向いたが、武の顔は真剣なまなざしで月詠を見ていた。

  「冥夜は、最後まで立派でした。あいつのおかげで、今俺は生きています。」

   その言葉は月詠の心に深く突き刺さった。

  「その言葉、伝えてくれて感謝する。」

   そう言って月詠は歩き出した。

   武は、その姿を見えなくなるまで、見続けていた。



   Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~

   第3話「こんにちわ、未来の戦乙女たち」

  ***2001年4月22日横浜基地***

  「香月博士に話は聞いている、今まで徴兵免除を受けていたのだから他に遅れをとるかも知れんが、博士の紹介なのだから期待しているぞ。」

  「はっ、光栄であります。」

   わかった、と言って話し始めるまりもを見て武は、少し涙腺がゆるむのを感じたが、何とか耐えた。

   前の世界では、あんな終わり方を迎えちゃったけど、今回は途中退場なんて絶対にさせませんよまりもちゃん。

  「それと白銀、貴様が入る207訓練小隊だが、A,B二つの分隊に分かれているが、貴様が入るのB分隊だ。」

   ん?A,B二つ?あ、そっか、まだ総合戦闘技術評価演習が行われてないから、まだ二つだっけ。
   そういうことなら、あいつらの確執をなくして一回目で合格させてあげますか。

  「白銀?どうかしたのか?」

   おっと、考えが口に出る癖は直ったけど、考えるのがちょっと長くなっちゃったかな。

  「は、了解であります。」

  「うむ。今日の訓練は中止になっている。
   副司令の言うところ、今日はどうやら抜き打ちの基地の大規模訓練があったらしい。
   どうやら、この横浜基地はとても警備状況がずさんだったらしい。」

   やべ、俺のことだ。
   後で、門兵の二人とかみんなに謝っておかないと。
   手加減はしたはずだから死んではいないと思うけど。
   それより、抜き打ちって学校じゃあるま・・・ここ、俺の世界じゃ学校だったな。

  「そう言うわけで、訓練は明日からだ。それと今の時間なら、全員PXで食事だと思う会いに行ってみるか?」

   まりもちゃんの言葉に二つ返事で答えた白銀は、まりもと友にPXに向かった。

  ***2001年4月22日横浜基地 PX***

   さすがに夕食時の時間となれば、PXは人でごった返していた。   
   PXの一画で食事をしていた207の連中がこちらの姿に気づいた。

  「あ!敬礼!」

   一番初めに気づいた委員長が敬礼と言い、他のやつもそれに続く。

   くそ、やっぱり本人たちを見ると涙が出ちまいそうだな。
   でも、ここで流す涙はこいつらに対してじゃないから流すわけにはいかないのが、ちょっと心苦しいな。

   俺に対するまりもちゃんの説明が終わって、俺が自己紹介することになった。

  「はじめまして、白銀武です。よろしくお願いします。」

  「見ての通り男だ。ある理由で徴兵免除を受けていたが、本日から207Bに編入された仲良くやれよ。
   それと、榊、A分隊のほうはどうした?」

  「はい、後で来るとのことです。」

   まりもは「そうか。」と、言い残してPXを出た。


  「えっと、とりあえずよろしく。」

   まりもが出たのを確認すると、少しくだけた感じで話しかけた。

  「白銀だったわね。そんなところに立ってないでさっさとこっちに来たら?」

   そういえば、まだ何も食べてないな。

  「じゃあ、お邪魔させてもらうぜ。」

  「僕がご飯持ってくるよ。」

  「あ、あたしも行きます。」

   美琴とタマが俺も分の食事を持ってきてくれる間、空いている席に座る。
   その間に、二人が俺の分を持ってきてくれた。

  「えっと、白銀よね。私は、榊 千鶴。B分隊の分隊長をしているわ。よろしく。」

  「御剣 冥夜だ。よろしく頼む」

  「彩峰 彗……よろしく」

  「珠瀬 壬姫です。よろしくお願いします。」
  
  「僕は、鎧衣 美琴。よろしく。」

  「ああ、これからよろしく。」

   さて、自己紹介もすんだし、飯を食べるとしますか。
   あれ?誰か忘れてるような?

  「あ、茜たちだ。」

   委員長がそう言うと、みんな振り向いたので俺も振り向いた。

  「茜ちゃ~ん、お腹すいたよ~。」

  「ほんとだよ~、今日の訓練中止だったのに~。」

  「いくらなんでも、自主トレをあそこまでやるのは、さすがに。」

  「以下同文。」

  「わ、悪かったわよ。でも、みんなやることないから参加したんでしょ。」

   そう言いながら、A分隊の連中がやってきた。

   あれ?茜に柏木はいいとして、他の三人だれだっけ?
   え~と、あ、そういえば、前の世界で茜が写真で見せてくれたっけ。
   えっと、サイドポニーの奴が築地で、ロングヘアーが高原で、ショートヘアで無口そうなのが麻倉だったな。

  「あれ?千鶴、そこにいるのは?」

   俺のことか?まぁ、俺以外ないと思うが。

  「ああ、白銀武。今日からB分隊に編入されることなったのよ。」

  「ふ~ん。あ、あたしは、涼宮 茜。A分隊の分隊長をしてるのよろしく。」

  「柏木 晴子。よろしくね~。」

  「ああああたしは、つつ築地 たたた多恵でででです。」

  「高原 瑞希です。よろしくお願いします。」

  「麻倉 由香です。よろしく。」

   みなの紹介を受けて、武も自己紹介しようと立ち上がる。

  「白銀 武だ。よろしく。」

  「うん。よろしく。白銀は・・・「茜ちゃ~ん、おなかすいたよ~、早く食べようよ~。」・・・ごめん、話は今度。」

   「ちょっと、多恵!」とか言いながら、A分隊の連中がいるところに向かう茜を見ながら、武は前の世界での茜のことを思い出そうとしたが、やめた。

   ま、結構癖のあるメンバーだけど、これからこいつらが未来のヴァルキリーになるのを楽しみにしますか。


  ***2001年4月22日横浜基地 グラウンド***

   夜、静まり返ったグラウンドで冥夜は普段の日課で自主トレをしていた。
 
  「は、は、は、はぁ、ふぅー、どうしたのだ?白銀?」

   そう呼ぶと、校舎の陰から武が出てきた。

  「あちゃー、バレてしまいましたか。」

  「そなたは、気配を絶つのが得意なのか?わたしもはじめは気づかなかったぞ。」

  「そうか?ってことは、ああいう感じが気配を消すって奴か。」

  「そなた、無意識にやっていたのか?」

   途端、冥夜の目つきが鋭くなる。

  「え?な、何好戦的な感じになってんだよ。こ、これは、昔からの癖でこうなんだよ。」

   見苦しい言い訳を言い出し始める武を見て、「はぁ~。」とため息をつく。

   わからない。この男が何を考えているのか。
   初めは、自分の身の上を知って近づいたのかと思ったが、今のこの態度を見てその可能性は捨てた。

  「そなたは、何者だ?」

   疑惑から生まれた言葉を無意識に発してしまい、しまったという顔をする冥夜を見て武は「くくく。」と、笑いながら話し始める。

  「俺が何者だって以前に、お前たちがそれを知ったところで何も変わらないだろ。」

  「何?」

   そう言う冥夜は武の言ってる意味がわかっていないようだった。

  「夕食のときも、A分隊の連中と違って、こっちは少しぎこちない感じがあったぞ。
   まるで、自分にあまり関わるなって感じがあってさ。
   そう思っただけ。」

   冥夜のいるところから、ハッキリと息を飲む感じがした。

  「今のままじゃ、お前らは次の総合戦闘技術評価演習で確実に不合格だろうさ。
   ただ自分たちのことを気づいて欲しがっているのに、プライドとかそんなので行き違いが起こるなんてくだらないってこと。」

   そう言って冥夜のほうを見てみると、彼女はただ黙って武の言った言葉の意味を考えていた。

  「だとしても、今からではもう遅いのではないか?総合戦闘技術評価演習はもう来月にはあるんだぞ。」

  「遅くなんてねぇよ、今からでもきちんと始められりゃ上出来さ。」

   冥夜はそう言う武のほうを見ると、少し顔を赤らめて話した。

  「そ、その、何だ、わ、私は、そういうのがよく分からんのでな、よ、よかったら、お、教えてくれないか?」

  「簡単、簡単、お互いのことを名字じゃなくて名前で呼び合えばいいんだよ。
   俺の名前は武だ。御剣のこと、冥夜って呼んでいいか?」

   武がそう言うと、冥夜はさっきまでよりさらに顔を赤らめて話した。

  「う、うむ、め、冥夜だ。これからよろしく頼む。武。」

   顔を赤らめながらも、武と握手をする冥夜の姿を見て武は「何恥ずかしがってるんだろう?」などと思いながら、長い一日は終わりを告げた。



[20023] Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~ 第4話
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/07/30 13:12
  ***2002年2月5日租借地 アラスカ州 Б-01基地***

   先の桜花作戦によって、ユーラシア前線の押し上げに成功し、東シベリア奪還の兆しが見えてきたソ連軍であった。
   しかし、いくら古くからの対BETA戦の経験があると言っても、領土奪還という戦いならば話は変わる。
   今までの多くの兵士や訓練兵は、戦いにおいて常に守勢に立たされていたのである。
   これがいきなり攻勢に変わるというのは、なかなか難しいものなのだ。

  「それにしても、この寒さは何とかならないのかよ。」

   悪態をつく武であったが、周りにいる部下は全員、この寒さに慣れっこの様子であった。

  「大尉のいた日本の冬は、結構あったかいのですか?この寒さは、普通なほうですけど。」

   隣で運転しているアレクセイ・バイルシュタインはそう言うが、現在の気温は-25℃、温帯である日本に住んでいる武にとっては、普通どころの騒ぎではない。
   半月近く前にこのБ-01基地に来た武であったが、到着した早々思ったことは、アラスカの寒さをなめていたことである。

   まったく、夕呼先生も夕呼先生だ。
   こんなに寒いなんて聞いてねぇよ。これじゃBETA以前に、この寒さにやられちまうよ。

   ここにはいない夕呼のに悪口を言いながら―――無論、心の中で―――基地に向かう途中に考えていた。

  「大尉。」

  「ん?」

   隣のアレクセイが話しかけてきた。
   彼は、この基地に着いたときから色々と武の面倒を見てくれて、先日から武の副官として、ここにいる。

  「いよいよ来月下旬から、作戦が始まります。この長い冬がようやく終わりを迎えるんですね。」

  「まだ決まったわけじゃないだろ。作戦が成功するかどうかは、俺たちによって決まるんだからな。」

   「そうでしたね。」と、笑いながら話す彼の姿は、やはり少し浮ついている。

  「長い冬が終わると、春がやって来ますね。
日本で春といえば、桜でしたね。大尉は桜を見たことありますか?」

  「一応な、けど、今はちょっと嫌いになっちまった。」

   「そーですか。」と言って、アレクセイは運転に集中するため前を向いた。

  「桜、か。」

   そう呟いた武は、あのときの事が一瞬脳裏に蘇ろうとしていたが、すぐにそれを脳の片隅に追いやり、隊の者に指示を出そうと通信機を手に取った。


   Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~


   第4話「英雄と呼ばれた者の手腕」

  ***2001年4月23日横浜基地***

   長い一日が終わり、今日から訓練に励むと言うわけなのだけれども、武の心の中にはだるいの一言しかなかった。

   しかし、いくらだるくてもそこは我慢しないとな。
   あ~、確か午前中は座学だっけ、俺に眠れと言ってるようなものじゃねえか。

   と言うわけで始まった座学なのだが、あまりの退屈さに武は10分ほどでK.Oされてしまい、熟睡を始めた。
   しかし、前の世界でも武は、軍の高官たちとの会議でも寝ていても気がつかれないように寝る術を手に入れていたので、見つからないはずだった。
   はずだった。

   同じ教室で寝ていて、まりもちゃんに叩き起こされて、罰として出された問題が解らず、寝ていた俺を偶然発見して、まりもちゃんにチクッた築地多恵という存在さえなければ。

  「では、訓練開始初日から寝ていた白銀からすれば、こんな問題なんて10秒もあれば解るだろう?」

   顔が笑っていても、目がぜんぜん笑っていませんよ。まりもちゃん。
   まぁ、訓練兵に出される問題程度なら楽勝なんだけどな。

   そう思いながら、スラスラと答えを言ってのける武を見て、教室にいたみんなは驚きの表情を隠せなかった。


  ***2001年4月23日横浜基地 グラウンド***

  「御剣さ~ん、がんばって~。」

  「ファイト~。」

  「負けたら・・・負け犬・・フフフ・・・。」

  「御剣さん、そんな奴に負けちゃだめよ。」

   などと、A・B両分隊の連中に応援されて冥夜は長刀―――もちろん、模擬刀―――を構えて、俺と向かい合う。
   てか、みなさん?俺のこと嫌いなんですか?
   俺のほうは、応援がまったくないんですが。

  「白銀く~ん、がんばれ~。」

  「白銀・・・ファイト。」

  「タケルもがんばれー。」

  「白銀さーん。がんばってくださーい。」

   おお、柏木に彩峰に美琴にタマ、お前らはなんて優しい奴らだ。
   今日一日、お前らは心の友だ。

   それ以前に、何故こんな状況に陥っているかといえば、昼食時のPXにさかのぼる。


  ***回想中***

   きっかけは、タマのこの一言だった。

  「白銀さんってすごいんですね~。」

  「んぐ?」

   口の中に入っていた食べ物を飲み込んで、タマの話に耳を貸す。

  「だって、白銀さんさっきの座学で、眠ってたのに答えられるなんてすごいですよ。」

   どうやら、さっきの座学での一件のことを言ってるようだ。

  「築地さんは、眠っていたから答えられなかったですけど、白銀さんは、眠っていたのに答えられましたから。」

   ふと、築地のほうを見てみれば、バツが悪そうに昼食をとっていた。
   その隣では、麻倉が何かぶつぶつ言っているのが聞こえる。

  「・・築地・・・無能。」

   うん。俺は何も聞いてない。
   彼女はきっといい子だよ。

  「あの~、白銀さ~ん?聞いてますか?」

   いかんいかん、タマの話をちゃんと聞いてやらんと。

  「えっと、なんの話だっけ?」

  「だから、白銀君がすごいって話よ。人の話はちゃんと聞きなさい。」

   委員長がそう言ってくるが、白銀君、違和感ありまくりだな。
   俺は早いうちに呼び方を変えたほうがいいと感じた。

  「午後は、格闘訓練であったな。タケル、私とやってみるか?」

   そう言うと、207訓練小隊の数名の目が光った。

  「「「タケル、ねぇ~。」」」

   言わずとも、真っ先に俺は逃げた。

   後ろから、「ま、待て、タケル、こ、こっちで、皆にきちんと説明をせんか。」
   そんな声が聞こえなくもない。気がする。


  ***現在***

   てな感じで、今に至るわけだが、ぶっちゃけ、冥夜の視線が怖いです。
   こ、これは、何か話題を見つけなければ、俺の命が危ない。

  「な、なぁ、冥夜。」

   まずはコンタクトを取らなくては。

  「何だ?白銀?」

   怖いです。逃げていいですか?
   く、だが、ここで逃げるわけには行かない。

  「か、賭けでもしないか?」

  「賭け?」

   うう、目が怖いです。

  「そ、そうだ。負けた奴が、勝った奴の言う事を聞くってどうだ?」

   こ、これなら、何とか機嫌も良くなる筈。
   だが、何故だが嫌な予感がする。
   例えるなら、BETAに勝ったと思ったら、生き残った敵に殺される寸前のような感覚だ。

  「そうか、そなたは、私に何をやらせる気だ?」

  「え?」

   俺は、自分の耳を疑った。
   よく考えてみれば、これって逆効果じゃないか?

  「あ、安心しろ。へ、変なことはしないから。」

   マズイ、非常にマズイ。
   どうやら俺は、火にガソリンを注いだようだ。

  「変なことはしないって?嘘はいけないよ~。」

  「・・・鬼畜。」

  「・・・ゴミだね。」

   柏木に彩峰、麻倉、お前ら覚えてろよ。

  「ふむ、私が勝ったら、何を頼もうかのう。」

   冥夜は冥夜で既に勝った後のことを考えているし、ほかの連中は、・・・・・やめよう。

  「何を遊んでいる?さっさと始めろ。」

   まりもちゃんの声でようやく構え始める俺たち。

   ここらで、戦力分析といこうか
   まず、俺のは我流の剣に対して、冥夜のは長く続く流派の剣、正直勝敗は既に見えている。
   正々堂々の勝負ならば。

  「柏木、短刀貸してくれ。」

  「オッケー。」

   確かに勝てないさ、でもな、戦争ではどうかな。

  「ゆくぞ。」

   そう言って、冥夜は俺めがけて来た。

   冥夜の攻撃を丁寧にかわし、柏木から受け取った短刀を冥夜に向けて投げる、しかし、あっさりと避けられ地面に刺さった。
   冥夜はなおも俺に対して攻撃を放つが、俺はそれをかわし続ける。

  「そなた、逃げてばかりでなく戦わんか。軟弱者。」

   俺は挑発をすべて無視して、冥夜がある場所に来るのを待った。

  「戦え、って言われてもね、俺のやり方は、こういう戦い方なんで。ねっ。」

   そう言い切った瞬間、地面に刺しておいた短刀を冥夜に目がけて蹴り上げる。

  「な、卑怯な。ッ!」

   よけた瞬間を狙って、俺は冥夜のふとところに体当たりして、地面に倒れたとところで首に短刀を突き立てた。

  「そこまで。」

   まりもちゃんの終了の言葉とともに、俺は構えを解く。

   瞬間、オオオォォ、周りから歓声が上がった。

  「かっこいいー。」

  「タケルやるー。」

  「チッ、死ななかったか。」

  「あちゃ~、これでおかず1品消えたよ~、何で勝っちゃうのかな?」

   後半、俺は何も聞いていない。

  「っと、大丈夫か?冥夜?」

   倒れたままの状態の冥夜に手を差し伸べる。

  「ん?ああ、大丈夫だ。
   それにしても、してやられてしまった、全てそなたの手の上で踊っていたのだな。」

  「いやいやそれほどでも。」

   冥夜に褒められて少し増長している俺に、彩峰の悪魔の囁きがくる。

  「それで、・・・・・・何を・・・させるの?」

   場の空気が、凍りついた。

  「そ、その、タケル、そんなにひどいことはするでないぞ。」

   冥夜の目が少し涙ぐんで見える。
   外野では、ひそひそと話しこんでる連中の姿が見える。
   「やっぱり、変態だったんだ。」だの、「これは、・・・・明日が楽しみ。」とか、「あ、茜ちゃん、白銀君に近づいちゃだめだよ。大変なことになっちゃうから。」だって、俺、泣いてもいいよね。

  「見事だったぞ、白銀。」

   まりもちゃん、あなたは今、俺の女神です。

  「ホント、かっこよかったよタケル。」

  「かっこよかったですー。」

   美琴にタマ、お前らホントいい奴らだよ。

  「さて、他の者たちもさっさと訓練に戻れ。」

   まりもちゃんの号令で、それぞれ訓練に戻って、その場はお開きになった。


  ***2001年4月23日横浜基地 副司令室***

  「なかなか、派手にやったそうじゃない。」

  「いくら他人事だからって。そんなに笑わないでください。」

   部屋にいる夕呼は、夜に武を副司令室に呼び出した。

  「それで?XM3のほうはどうです?」

   話題を変えなければ、ずっとこの調子が続くだと悟った武は、用件のほうに話を変えた。

  「明日には完成するわ。完成したら、A-01の教導のほうお願いね~。」

   「分かってますよ。」と言って、部屋を出ようとする武を夕呼は呼び止めた。

  「なんですか?」

  「会ったときから聞きたかった質問があるけど、今いいかしら?」

   そう言う夕呼の目は少し、怖かった。

  「白銀、貴方は、00ユニットを作る数式を知っているのよね?」

  「ええ、そうですけど。」

  「ならここからが本題、貴方、なんで私に00ユニットの数式を教えることに対して怯えているのかしら?」

   そういった瞬間に、武の顔から笑顔が消えた。

  「何が言いたいんですか?」

  「質問を質問で返さないで、この質問に答えなければ、明日からアンタは存在しなくなるわよ。」

  「・・・・・はぁ。敵いませんね。先生には。」

  「そう思うなら答えなさい。」

   夕呼は答えを促すが、おおよその答えは予想できる。
   まがりなりにも、前の世界で火星にまで行って、BETAと戦おうとする姿勢。
   そこから推測される答えは唯一つ。

  「俺は・・・・戦争中毒に・・・・なってしまったんですよ。」

   戦争中毒

   その病は、戦争に行った者に多く見受けられる。
   戦争のスリルが忘れられない。
   この時点で、とてつもない異常者だ。

  「それを、・・・・・00ユニットを通じて、皆に知られるのが怖いのかしら?」

  「そうですよ。純夏にリーディングなんかされたら、俺の人生はお先真っ暗、大好きな戦争もやりにくいったらありゃしませんから。」

   そう言う武の顔は、明らかにさっきまでとは違っていた。

   これが、コイツの素顔か。

   そう思いながら、夕呼は話を続けた。

  「アンタが今朝、社を通じて渡してくれたこのレポートの話だけど。」

   机から一冊のノートを出して武のほうを見据える。

  「正直、脅威ね。未来情報から見たら、今の対BETA戦術なんて、赤子の喧嘩ね。」

  「まぁ、俺はそう言うのが好きでしたけど。」

   そう言う武の顔は、既にさっきまでの笑顔に戻っていた。

  「あっそ、とりあえず、このノートだけでもあれば、オルタネイティブ4は完遂できるわよ。
   それで、アンタが要求してきた例の件は、さすがに難しいわ。
   できるとしたら、帝国のほうに直談判するしかないわね。」

  「そうですか。」

   そう言うが、武の顔には微塵も残念がっていなかった。

  「何よ、その顔は?」

  「え?い、嫌、なんでもないですよ。」

   嘘だ。そんな顔すれば何か隠していると明言しているようなものだ。

  「まったく、あんたまだなんか隠してるんじゃないでしょうね?」

  「め、滅相もない、ゆ、夕呼先生に隠し事なんて。」

   はぁ~、コイツ、この状況を楽しんでるわね。そんなことを思いながら、話を終わらせる。

  「もういいわ、あんたもさっさと部屋に帰りなさい。」

  「分かりました。」

   そう言って、武は部屋を後にした。

  「戦争中毒の英雄か、ふん、面白いじゃない。」

   魔女は一人、自分以外誰もいない部屋で愚痴る。




[20023] Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~ 第5話
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/07/30 13:12
  ***2002年5月9日H.26エヴェンスクハイヴ北東3キロ地点 ソ連陸軍臨時駐屯地***

   戦争で失われるものそれは何だ?そう聞かれれば小学生でも答えられる。
   命、ただこの一言に尽きる。
   では、戦争で勝った者に与えられるものは何だ?
   答えられるものは少ない、答えられたとしてもせいぜい、地位や名誉程度である。
   しかしそれは、一部の者にのみ与えられるもの、皆には届かない。
   答えは、勝利の美酒である。

   冬が終わりを告げた。
   ただの冬ではない。
   BETAとの戦いという冬に、いち早くソビエトに春が訪れようとしていたのだ。

  「はっはっは、大尉~ちゃんと飲んでますか~」

  「飲んでるから、俺のグラスに酒をドバドバ入れないでくれ。」

   俺の肝臓持つかな?などと考えながら、今回の作戦のことを考えている。

   2ヶ月前に始まった、東シベリア奪還作戦。
   第1段階、エヴェンスクハイブ攻略のためさまざま障害をなくす為に俺たちの部隊も各地でBETAと戦い領土奪還に勤しんだ。
   第2段階、エヴェンスクハイブの周辺に展開した部隊による、エヴェンスクハイブ攻略作戦。

   作戦が俺の部隊に伝えられたのは、3週間も前の話だった。

   しかし、作戦が発動したのは、3日前であった。
   その理由としては、やはり、国連や米国からの横槍があったようで、それに対応するため、ソ連上層部は対応に追われていた。

   結局、今回はソ連側の単独で作戦を行うということで、作戦は発動した。

   ちなみに、全て夕呼先生からの情報で知ったことある。

   作戦は発動したが、俺の部隊は地上での支援ということだったので、戦果はなかった。
   ただ、支援という名目で、孤立していた部隊の多くを救えたのはとても良かった。

   そんなこんなで、作戦のほうは反応炉破壊によって成功。
   作戦終了後は、各部隊それぞれ臨時に創設された駐屯地にて休めとのお達者だった。

   しかし、この駐屯地には、本来俺たちの隊を含めた2個連隊が駐屯する予定だったはずだ。
   なのに、なんでこの駐屯地には、その軽く2倍の数の人がいるんだ?

  「きっと、大尉のことを耳にして、見に来たのではないですか?」

  「いつも言ってるけど、俺の考えをリーディングするなよ、ザイツェフ中尉。」

   後ろを向くと、今話しかけてきたザイツェフ中尉が手に酒のビンを持って歩いてきた。

   レイア・ザイツェフ中尉

   オルタネイティヴ3によって生み出された、ESP能力者。
   武がアラスカに来たときにアレクセイと一緒に面倒を見てくれていたが、自分が上層部からの監視役だと本人の口から教えてくれた。そして、万が一の場合は殺しても構わない、と言ってたときは肝が冷えた。

  「嫌だな~、してませんって、そんなこと~、あっはっはっは。」

   完全に酔ってるな。てか、彼女が持ってる酒ってウォッカだよな。空になってるけど、大丈夫なのか?
   などと考えていると、向こうのほうから何か騒ぎが聞こえる。

  「た、大尉!こ、こっちに来て下さい。」

  「どうした?」

  「い、いいから、早く来て下さい。」

   とてつもなく思いつめた様子だったので、武は急いで、自分を呼びに来た兵士について行った。


  「こ、こっちです。な、何とかしてください。」

   そう促されるままに前に出されたが、そこいた男を見た瞬間、武は蛇ににらまれた、いや、虎ににらまれた感覚に襲われた。

  「貴様が、シロガネタケル大尉か?」

   瞬間、目の前にいる男が、自分より上の存在だと分かった。

  「は、自分が、第137戦術機甲遊撃中隊中隊長白銀武大尉であります。」

   目の前にいた男は、「そうか、貴様が。」と言って、武を値踏みするような目で武を見ていた。

  「では大尉、この基地にいる兵士の数が予定より遥かにオーバーしている。これは、どういうことだ?」

   後ろのほうから「ギクッ」といった効果音が聞こえなくもないような気がする。

   しかし、ホントに許可とってなかったんだな。
   まぁ、とれるわけもないか。
   やれやれ、ホント損な役回りだよ。

  「失礼しました。彼らがどうしてもと仰っていまして、独断で許可を出しました。」

  「独断?貴様は、今の状況を知って言っているのか?ハイヴ攻略は成功したものの、いつBETAが来るかも分からんのだぞ。
   その状況で、独断で許可を出したことの重大さが分かっているのか?」

   辺りが静寂に包まれる。皆が、武を見守っているのが感じられる。

  「だとしても、俺は、ここにいる皆が今こうして笑っていられる場所を、勝利の美酒ってヤツを楽しむことのできる場所を作ることが大事立だと思います。」

   後ろから、「俺、一生大尉について行きます。」とか、「大尉、俺の命、貴方にお預けします。」だの、「俺は今、モーレツに感動している」など、いろんな声が聞こえる。

  「・・・・・・・・」

   一方で目の前のお方といえば、さっきから黙りっぱなしだ。

  「あの、どうかしましたか?」

  「いや、それと自己紹介が遅れたな。私は、ジェラード・ヴォルコフ。
   貴官のその言葉を聞けて、良かったと思う。
   この基地の件は本部には伝えておくが、あまりハメをはずしすぎるなよ。」

   そう言って彼は、去ろうとしたが、何かを思い出したように武の方を向いた。

  「ああそれと、一つ言っておきたかった。貴官が救出した部隊には、私の親友がいてな。貴官に感謝の言葉を渡してくれと頼まれていた。ありがとう。」

  「どういたしまして。」


   シベリアに春が訪れたある日の出来事であった。


   Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~


   第5話「英雄様の特別授業」

  ***2001年4月24日横浜基地 ブリーフィングルーム***

   夜、伊隅らA-01の各面々は横浜基地の副司令香月夕呼の命令でミーティングルームに集められていた。

  「大尉~なんで私たちここにいるんでしたっけ?」

  「おや、速瀬中尉はもうど忘れがおきたんですか?それはやはり年のせいでは?」

  「む~な~か~た~、アンタ、いい度胸してるわね。」

  「って、整備班の者が言ってました。」

  「わかったわ。後で全員シメル。」

  「水月~、それはさすがに。」

   宗像が速瀬を茶化す。それを涼宮がいさめる。
   A-01にとって、いつもの光景だ。

  「あの~、伊隅大尉。何故集められたかについてなんですけど。」

   風間が皆を代表して、隊長である伊隅に聞く。

  「わからん。ただ、副司令にここに集まるように言われていただけだ。」

   隊長である伊隅大尉も知らないようであったので、皆がまた黙り始める。
   すると、不意に部屋のドアが開いて、この基地の副司令である香月夕呼がやってきた。

  「あら、全員そろっているわね。」

  「博士、何の御用でしょうか?」

   伊隅が立ち上がって、先ほどからあった疑問をぶつける。

  「ちょっとね、あたしの研究の途中で生み出した新OSの実験に立ち会ってもらいたいのよ。」

  「新OS・・・ですか?」

   涼宮が、聞きなれない言葉に反応する。

  「そ、新OS。XM3って名前なんだけど、なんか開発者の奴が凄腕の衛士に教えたいらしくてね。アンタ達がちょうどいたわけ。」

   凄腕という言葉に、速瀬が若干顔をゆるませたが、伊隅大尉が一瞥すると、すぐに顔を引き締めた。

  「では、今日からその・・・XM3を使った訓練ができるのですか?」

  「悪いけど、今日は無理よ。今日はXM3がどんな効果をもたらすか、開発者自身がシュミレーターで教えてくれるそうだから。」

  「開発者とは・・・・まさか、衛士なのですか?」

   夕呼はその質問に答えず、ただ「ほら、さっさと行くわよ。」と言って、シュミレーションルームに向かった。


  ***2001年4月24日横浜基地 シュミレーションデッキ***

   この部屋に来て皆がひとつの画面を見ていた。
   初めは、誰もがどんなものかと興味を持ってみていただけだが、自然と、画面に映し出される自分たちが見たこともないような光景に皆が心奪われているのが感じられる。
   OSを変える、それだけでこれほど変わるものなのか、そして、あの見たこともない機動を生み出すあの衛士、いったい何者なのか?その場にいたものが皆そう感じていた。
   ただ一人を除いて。

  「あの、博士・・・・これが・・・新・・OSですか?」

   「そうよ。」夕呼はそう言っていたが、本人自身、内心では驚愕していた。

  「す、すご過ぎですよ。」

   感想を漏らした速瀬だったが、興奮が抜けきっていないのが見受けられる。
   他の者たちも、皆それぞれの感想を言い出し始める。

  「は、博士、これほどの機動を可能にする衛士に今お会いすることはできませんか?」

   伊隅が夕呼に頼み込むのが見える。この願いは、誰もが持っていることだ。

  「悪いけど、本人がそれを望んでなくてね。顔を見せるのは今度にして欲しいそうよ。
   けど安心しなさい。明日から、アイツにみっちり教えてもらえるから。」

   そう言う夕呼の顔からは、うれしいという表情が見受けられた。
   そして、その場はそのまま解散という形に至った。


  ***2001年4月24日横浜基地 副司令室***

  「何をそんなに悔しそうな顔しているんですか?夕呼先生?」

   コイツ、知っていていってるのよね。殺してもいいかしら?

   などと考えていた夕呼であったが、次第に落ち着きを取り戻した。

  「それにしても驚いたわ。あそこまでやるとはね。」

  「そうですか?ヴォールクデータって、確かに今では重用されてますけど、前の世界じゃ訓練兵用に使われる様になっちゃいましたけどね。」

   前の世界で訓練兵に使われる。それはもはや、時代について行けなくなってしまったと言う事か。

  「でも、少し腕が落ちてましたね。」

   そう言う武を見て夕呼は、「化け物ね。」などと思っていた。

  「まぁ、第三世代の不知火なんて、月を攻略する前にほとんどが消えましたけどね。」

   武がいた前の世界、そこでは既に第三世代の機体が消え、第四、第五世代の機体が数多くあった。。

  「第五世代は無理でも第四世代の機体を造ることは・・・無理よねぇ。」

  「できますけど。」

  「・・・・・ハァ?」

   夕呼は耳を疑った。

   コイツ、今なんて言った?第四世代の機体をを造ることができる?

  「第四世代の機体の大半は、造り方が単純ですから。」

  「なら、教えなさい。」

  「お断りします。」

   コイツ、やっぱ殺そうかしら?

  「なんでかしら?」

  「大事な取引材料ですから。」

  「誰との取引?」

  「お答えできません。」

   コイツ、殺しましょう。
   伊隅たちには悪いけど、コイツには消えてもら―――

  「でも、一つだけ教えてあげますよ。」

   巧みな交渉術ね。
   下げてから上げるとは。

  「それで?何を教えてくれるのかしら?」

   いかんいかん、私が優位に立たないでどうするのよ。

  「第四世代の始めの機体の多くは、ある物質を応用して装甲を強化、それだけですから。」

   なるほど、つまりは、第四世代の始めの機体の多くは第三世代の後継機から始まっているってわけか。
   だけど、ある物質って何?

  「ある物質については教えられませんので。」

   コイツ、リーディング能力でもあるのかしら?っていうか、教えない?コイツほんとに世界救う気あんのかしら?

  「天才である夕呼先生なら楽勝だと思うんですけど?」

   わかったわ。コイツ、あたしにケンカ売ってるのね。上等じゃない。
   今すぐ消してや―――

  「あ、じゃあ俺はこの辺で、おやすみなさ~い。」

  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

   耐えるのよ、耐えるのよ夕呼。
   あのガキを殺すのを難しくはないわ。
   問題は、どうやって苦しませるかよ。

  「フ、フフフ、フフフフフフ―――――――」

   不気味な笑いを浮かべながら、魔女の夜は更ける。


  ***2001年4月24日横浜基地 副司令室前***

   先ほどのことを思い出し、「弄りすぎたかな?」などと思う武の前に、霞がいた。

  「お、霞、どうした?子供はもう寝る時間だぞ。」

   そう言って霞のほうを見たが、なぜだか霞は、何かを言いにくそうな感じだ。
   それでも意を決して、話し始めた。

  「白銀さん。どうして、泣いていたのですか?」

  「は?俺が・・・泣く?」

   「いつ?」と聞くと、先ほどのシュミレーターのときの話らしい。

  「あは、はははは。おいおい霞、さっきのヤツで俺が泣いてた?冗談はやめてくれよ。確かにつまんなかったけど、泣くはないと思うぞ。」

  「いえ、白銀さんは、泣いていました。」

   自分の言ってる事に確信があるらしい。
   それでも、武は「ないない、そんなの。」と言って、真剣に聞く気はなかった。

  「誰かと間違えたんじゃないのか?悪いけど、明日も早いから、またな霞、おやすみ~。」

  「はい、・・・・おやすみなさい。」

   そう言って二人は別れた。


  ***2001年4月24日横浜基地 廊下***

  「泣いていた・・・・か。」

   フン、と言って、武は部屋に向かった。
  






[20023] Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~ 第6話
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/07/30 15:25
  ***2002年6月24日H.25ヴェルホヤンスクハイヴ***

   戦場
   そこは唯一、誰もが平等に扱われる場所でもある。
   仲間も、友も、そして、想い人も。

   シベリア奪還作戦
   その最後は、ここヴェルホヤンスクハイヴを攻略することで作戦は終了するはずだった。
   フェイズ2のハイヴなど、当初の予定では三時間ほどで攻略が成功するはずであった。
   例え、国連や米国を始めとする国々が、この作戦に参加していても、それは、覆ることがないはずだった。

   しかし、それは二種類の新種のBETAが現れたことによって、大きく変わっていくことになってしまった。

    「こちらレイン1、CP聞こえるか?こちらは、孤立していた部隊の救援に成功。本隊と合流するため、本隊の座標を送ってくれ。」

    「こちらCP、聞こえている。本隊の座標を送る、それと、ハイヴ攻略部隊がまもなく反応炉に到達するらしい。こんなところで死なないでくださいよ。。」

   ハイヴ攻略部隊か、確か、あのヴォルコフ中佐が率いているんだっけ。
   あの時会ったときは知らなかったけど、まさかあの人が、ソビエトの白狼で有名な人だったとは、しかもアレクセイと同期だったなんて知らなかったな。
   ま、今はそんなこと考えてる余裕はないか。

    「レイン1より、中隊各機へ。これより本隊と合流する。途中、BETAの大部隊と当たっちまうが、絶対に死ぬなよ。」

    「「「了解!」」」

   武の部隊も、作戦開始時は十二機いたが、今では武を含めて四機しかいなくなってしまった。

   くそ、どこも混乱してやがる。やっぱり、新種の奴らが現れたってのが大きいな。
   頼みの綱は、やっぱハイヴ攻略部隊か。あの人のことだから、やられはしないと思うが。

   新種のBETAの登場により、多くの部隊に混乱が起こり、地上の部隊の指揮系統がイカレきっている為、もはや希望は反応炉の停止しかなかった。

    「大尉、10時の方向に戦術機が一機取り残されています。」

    「って、あれってType-00じゃないですか?」

    「何!?」

   アレクセイとレイアの二人に言われて見てみると、確かにいる。黄色の武御雷が一機で。

   「くそ、なんであんなに無警戒なんだよ。」悪態をつくが、武御雷は一向に何の反応も示さない。

    「ちぃ、各機!あの武御雷を回収!本隊のところまで連れて行くぞ!」

    「「「了解!」」」

   部隊に指示を出して、黄色の武御雷がいるところに向かう。

    「聞こえるか?そこの武御雷、応答しろ。」

    「・・・・・・・・・・・・」

   返事がない。どうなってるんだ?通信は繋がっているはずなのに。

    「大尉、私が接触してみます。許可を。」

   レイアからの通信が入り、武は許可を出す。

    「どうだ?何か読めたか?」

    「はい・・・・大尉、その、彼女は・・・・・えっと。」

   彼女が煮え切らない態度をとるので、業を切らしたアレクセイが口を出す

    「何だ?さっさと言え。その衛士はどうしたんだ?」

   彼が言うことは俺も知りたい。彼女ということは、その衛士は女ということになる。

    「えっ、えっと、それはちょっと言えないというか、言いにくいというか。」

    「どういうことだ?」

   武がそう言うと、彼女は黙りだした。それでも、言わねばならないと思ったのか、話し出した。

    「彼女の名前は、篁 唯依。斯衛軍の中尉で、その・・・・・・大切な人が・・・・目の前で・・・死んだらしいです。」

   大切な人を亡くす。
   それは、武の心に深く突き刺さる言葉だった。

    「・・・・・・・・分かった。・・・彼女を連れて、本隊に合流する。」


   その言葉を言ったまもなく、ハイヴ攻略部隊が反応炉の破壊に成功したと、全軍に伝えられた。


   Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~


   第6話「白銀 武の日常」

  ***2001年5月1日横浜基地 武の部屋***

   武の朝は、大抵決まっている。
   朝、起床ラッパが鳴る前に、霞が起こしに来るのだ。
   今朝もそれは変わらない。

   ―――ユサユサ

    「・・・ん?」

   ―――ユサユサ

    「・・・・すまん、霞・・・・・あと五分。」

   ―――五分後

   ―――ユサユサ

    「ん、・・・・はいはい。起きますよ。」

   ゆさぶりが止まり、武は自分の体を起こす。

    「ん・・・・おはよう、霞。」

    「おはようございます、白銀さん。」

この受け答えもいつも通り。
   目をこすって、目の前の状況を確認する。
   いつも通りの時間、いつも通りの朝だった。

    「・・・・・またね。」

    「おう、またな。」


  ***2001年5月1日横浜基地 グラウンド***

   今日の午前中の訓練は、距離300mの射撃訓練、この程度のもの簡単すぎるが、他の連中は、さすがに全弾命中というのはないようだが、落ち着いてキチンとこなしている。

   しかし、どうやら約一名、落ち着きのない奴がいるのが見受けられる。

    「大丈夫か?築地?」

    「ふっ、ふひゃい?し、ししし白銀ぐん?」

   この娘、ぜんぜん落ち着きがないようです。

    「な、ななな、なんだべか?」

    「変な訛りで言うなよ。お前、全然落ち着きがないぞ。」

   「そ、そそそんなこと、ないんだべさ。」とか言っているが、どう考えても落ち着きがないように見受けられる。

    「・・・・・・・少しは落ち着け。自分をいい加減に認めろ。」

   珍しいな。麻倉がフォローを入れるとは。

    「・・・・・どうせ私は、嫌味な女ですよ。」

   心を読まれたようです。

    「そ、そんなことはないぞ。お前はいい奴だ。」

   フォローを入れなきゃ、確実に仕返しが来る。
   実際、先日はフォロー入れ忘れたままにしていたら、俺の部屋がとんでもないこと―――口には出せない―――になっていた。

    「・・・・・夕飯、・・・・寄越せ。」

    「・・・・・イ、イエス、マム。」

   そう言うと、「よろしい。」と笑顔になって、訓練に戻った。

    「し、白銀君、ところで、何か用?」

   彼女のこと、忘れてました。

    「え?あ~いや、お前、さっき麻倉が言った言葉、覚えてるか?」

   そう言うと、築地は「ウッ。」と言って、やがて頷いた。

    「しゃーないな。築地、ちょっと手伝ってやるから、銃、構えてみろ。」

   築地は、そう言われたままに銃を構えてみせた。

    「こ、これでいい?」

    「ああ、それと、目を瞑って動くなよ。」

   言われたとおりに目を瞑って動かないようにすると、突然、自分の体が何かやさしいものに包まれたように感じた。

   アレ?なんだろうこれ?なんていうか、温かい感じ?

    「よし、もう目を開けてもいいぞ。」

   白銀君の声?でも、なんで耳の近くで聞こえるんだろう?

   そう思いながら目を開けると、今の自分の状況が分かってきた。
   自分の体と、武の体が、密着している状況が。

    「し、しし、しししじろがねぐん?にゃ、にゃにゃんで?あ、あたたたしの体に、くっくっついてんの?」

    「やかましいな。いいから黙って、目標を見ろ。」

   そう言われて、目標の的を見てみるが、落ち着きがさっきより無くなったのは、自分でもよく分かるほどであった。

   ―――大丈夫。俺がついてるから。

   あれ?体が?なんか、なんて言うか、気持ちが楽になってくる。

   ―――そのまま、狙いを定めて。

   なんでだろう?白銀君の言うとおりにやると、心が落ち着く。

   ―――後はただ、引き金を引け。

   ただ、引き金を引く。



   当たった。それも、全弾命中。

    「し、白銀君、あ、ああああたったよ~。」

    「おう。よくできたな。」

   全弾命中したのがそこまで嬉しかったのか、築地は俺に抱きついてきた。

    「あ、あたっだ、あだっだ。あだっだよ~じろがねぐ~ん。」

    「分かった、分かったから。抱きつくな。」

   こ、このままでは、築地の胸の中で窒息死しちまう。
   男としては、いいかもしれんが、人としては、さすがにどうかと思う死に方だ。

    「はいはい、築地さん、そろそろ退かないとそこの天才君が死んじゃうわよ。」

   委員長、お前っていい奴だったんだな。
   委員長に言われて、築地が謝りながら俺から退いた。

    「胸の中で死に掛けるとは、・・・・・やるね。」

    「いやいや、それが男ってもんじゃないの?」

   彩峰に柏木よ、言葉で言うのは楽でも、実際はそんなこと言ってらんないんだぞ。

    「見事だったぞ築地。ついでに、白銀もな。」

   まりもちゃん、俺はついでなんですか。
   まぁ、俺は築地にアドバイスをしただけなんだが、前の世界で、女性相手だとこの方法が一番いいんだが、なんでだろう?

    「貴様らも、こいつらを見習っておくんだぞ。」

   その言葉を最後にこの場は解散になった。


   ***2001年5月1日横浜基地 PX***

   PXで昼食を食べていると、珍しく高原が話しかけてきた。

    「白銀さん、さっきはすごいね~。まさか、多恵ちゃんをあんなやり方で強制させるなんて。」

    「ほんと、あんなやり方普通は思いつかないわよ。」

   茜が話にはいってきて言ったが、俺はそうは思わない。

    「そうか?よくやったけど、そんなにマズイもんなのか?」

   そう言った瞬間、207の全員からため息が出た。
   な、なんだよ。俺がそんなことしちゃいけないのか?
   前の世界では、確かに、他の女性相手にはヤッちゃいけないって霞は言っていたけど、桂木さんはいいって言っていたぞ。

    「タケル、その、なんというか、その行いは、あまりして良いものではないぞ。」

   冥夜にそう言われて、俺も少々考えを改めようと思った。
   考えてみると、桂木さんって、普段は何考えているのか分からんからな。

    「わかった。今後は、ああいうのはやらない様にする。」

   そう言って、この場は収まったと思ったのだが。

    「でも、タケル、よくやってた言ってたけど、誰にやったの?」

   美琴のこの一言で、207訓練小隊の方々の目が光るのを見た俺は、今すぐ逃げ出したかった。
   だが、現実は俺を逃がしてくれないらしい。

    「・・・・・・・白銀、答えろ。」

   麻倉よ、その視線は怖すぎです。

    「諦めるのもまた肝心ですよ。」

   高原よ、まさか貴様は、これを予想してたのか?顔が計画通りって顔になってるぞ。
   う~ん、どうしよっかな。別に言ってもいいんだけど、一番初めにやった相手がこの場にいるからな~。
   言ったらどんな反応すんだろう?
   まぁ、ご本人のことも考えて、ここは黙ってやりますか。

    「悪いが、それは秘密だ。本人との約束でな。」

   そう言うと、「チッ。」と、舌打ちが聞こえてきたが、俺は気にしない。

   他の連中も興味が失せた様だったので、この話はこれで終わった。


   ***2001年5月1日横浜基地 シュミレーションデッキ***

   夜、時間は十時をまわったところであろう。
   この時間帯になると、基地のところどころで昼のうるささは鳴りを潜め、基地全体が静まり返っているハズだ。
   この部屋を除けば。

    「だ・か・ら、な~んで、アンタは、いっつも手を抜くのよ!」

   模擬戦が終わって、シュミレーターから出てきた俺を見て、速瀬中尉が開口一番にそういった。俺は、「またか。」と思いながら、いつもの言葉で答えるしかないと思った。

    「皆さんがなるべく、長く生き残ってもらって腕を上げてもらうためですよ。速瀬中尉。」

   この言葉は何度目になるだろうか、確か、毎回訓練のたびに一回ずつ言ってた筈だから。
   数えるのがめんどいな。

    「水月~、しょうがないよ、水月達が白銀少尉に比べて、弱いのは事実なんだから。」

    「ぐは!」

   速瀬中尉がしおれていくの見て思う。
   親友である涼宮中尉からのこの一言、かなりきついだろうな。

    「涼宮中尉、今のは、その、さすがに。」

   宗像中尉からも、同情の視線が速瀬中尉に向けられる。
   まぁ、俺もこんなこと言われたら、確実に落ち込むだろうけど。

    「しかし、我々が、白銀に比べ、弱いというのは間違ってはいない。」

    「た、確かにそうですけど。・・・・・・・・・。」

   伊隅大尉の言葉に、何とか反論を心がける速瀬中尉であったが、事実である以上、思うように言葉が見つからないようだ。
   仕方ない、フォロー入れといてやるか。

    「それでも、初めて会ったときと比べて、皆さんの技量は格段に上がっていますよ。特に、速瀬中尉は皆さんの中で一番XM3の力を発揮できています。」

   そう言われて、うれしくなったのか、速瀬中尉は、立ち上がって俺を指差し。

    「だったら、あたしと勝負しなさい。」

   この一言である。
   このパターン何回やったっけ?
   そう思う俺は、ふと見回すと風間少尉が、気の毒そうな顔で俺のこと見てくれた。

    「分かりましたよ。ただし、今日はこれ一回で終わりですからね。」

   シュミレーターに入る速瀬中尉を見ながら、「やれやれ。」と思いながらもシュミレーターに入っていく俺を見て、伊隅大尉が若干すまなそうな顔をしていたのを
、俺は視界の端で見かけた。

   ちなみに、その時も速瀬中尉は俺に完敗して、もう一回と言ってきた。


   ***2001年5月2日横浜基地 屋上***

   既に日付は変わっており、屋上には誰しも、基地全体が完全に眠りについたように感じられる。

   にしても、俺ちゃんと最後って言ったよな。
   速瀬中尉、何回やれば気が済むんだよ。五回はやらされたぞ。

   そんなことを考えながら、飲んでいたコーヒーが飲み干した様だったので、寝ようかと思って部屋に帰ろうと思ったとき、後ろに誰かいる気配を感じ取った。

    「誰だ?」

   少し殺気を込めて、前を向いたまま後ろにいる筈のやつに話しかける。

    「あら、脅かせようと思ったんだけど、まさかばれるとは。」

   この声は。

    「柏木?何やってんだ?こんな時間に?」

   後ろにいたのは柏木であった。

    「何って、消灯時間とっくに過ぎてるのに屋上にいた白銀の観察。」

    「ストレートに言うねぇ。」

   そう言うと、何が面白いのか柏木は笑った。

    「あはは、ところで、なんでこんな時間に一人でいたのかな?」

   悪戯そうな笑顔を浮かべて、柏木は俺に問いかけてきた。

    「別に、ただ、ふら~ッとしてたらここに来てただけさ。」

   そう言うと、柏木は「ふ~ん。」と言って、少し黙った。

    「ほら、さっさと寝ないと、明日の訓練に響くぞ。」

   そう言って、部屋に戻ろうとしたが柏木に呼び止められた。

    「ねぇ、白銀。」

    「なんだ?」

   そろそろ眠くなってきたので、俺は早く部屋に戻りたかった。

    「白銀はさ、なんで衛士になろうと思ったの??」

    「は?」

   何故衛士を目指したか?か。

    「特に理由はないな。強いて言うなら、気づいたらこうなっていたから、だな。」

   すると、柏木は少しつまらなそうな顔をしていた。

    「何だ?その顔は?」

    「別に~、なんか面白い理由かなと思って質問したんだけど、ぜんぜん面白くなくてガッカリしただけですよ。」

   おいおい、面白い理由があると思ったのか?
   そう言って柏木は少しすねた様子だ。

    「・・・・・・・・初めは、現実についていけなかった。」

    「え?」

    「衛士だのなんだの言う以前に、俺は、現実から逃げたかった。
     それでも、仲間がいたおかげで俺は、何とか現実と向き合うことができた。
     でも、そのために俺は、いろんなものをチップに出さなきゃいけなかった。仲間、大切な人、恋人もな。
     だからこそ、俺は今、ここにいる。
     あいつらの思いを無駄にしないために、俺は、闘う。
     ただ、それだけの話さ。」

    「白銀。」

    「辛気臭くなっちまったな。先に帰るぞ。おやすみ~。」

    「あ、うん、おやすみ。」

   そう言って、俺はその場から立ち去って行った。

    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

   一人残された柏木は、夜空を見て呟いた。

    「やば、こりゃあ、まさか、惚れちゃったかな?」

   その一言は誰の耳にも入っていなかった。



[20023] Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~ 第7話
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/08/05 12:41

  ***2002年8月15日日本帝国軍 朝霞駐屯地***

   運命というのを信じますか?
   私はそんなものを初めは、信じていませんでした。
   でも、あの人に出会えたことで、私は運命というのを、信じてみたいと思いました。

   朝霞駐屯地、ここはかつて、日本帝国軍のエースにして、かの12・5クーデターで有名な沙霧大尉がいた。
   今では、彼がいたことを知る者はほとんどおらず、彼の名前は歴史の中に消えかかっていた。
   その場所で彼らは出会った。

    「それにしても、一応俺、国連からの出向扱いですよね?」

    「そうだが、それがどうかしたのか?」

   隣にいる月詠少尉は、「何をいまさら?」という顔をしており、武は目の前にある書類の山と戦うことしか彼には選択肢がなかった。

    「そろそろ、休憩にするか?あの男もそろそろ来るころだと思う。」

    「や、やっと、きゅ・・・・・・・う・・・・けい・・・。」

   力なく倒れそうな武を月詠は、ギリギリのところで支える。

    「き、昨夜から、・・・・・・・ずっと書類仕事ってどうなのよ。」

   自分の現状を考えてみるが、あまりの理不尽な要求に武の精神は、完全に死にかけだった。

   夕呼先生から帝国軍に出向ってのは、ある程度予想できたことだけれど、まさかこんな書類仕事が待っているなんて知らされてねえよ。
   でも、まさか月詠さんが部下になるなんて、世の中何が起こるなんてわからないものだな。
   それにしても、今度は一個大隊を任せられ、その書類手続きのために昨夜からほとんど寝てねえし、マジ疲れた。
   つーか、一番の問題は、なんで俺の副官になる奴がこんな大遅刻をするんだ?おかしいでしょ?
   月詠さんの話によると、何でもそいつは、ことあるごとに転属願いを出すとか、ソ連だったら即死刑もんだな。

   そんなことを考えながら、武は月詠に「ちょっと、そこら辺歩いてきます。」と言って、部屋を出た。

   部屋を出た後は、特に何もすることなく、辺りをフラフラとしていたら、休憩所らしきところに一人の男がいるのが見えた。

   あれ?この駐屯地って、今は人がほとんど出払っているんじゃなかったけ?

   すると、男性はこちらに気づいたのか、武のいるところに近づいてきた。

    「はじめまして、本日から貴方の副官を勤めさせていただきます。桂木 誠一郎と申します。」

    「へ?」

   武は目の前の男性が言ってる意味が初めは理解できなかった。

    「え?副官?いや、遅れるって聞いたんだけど?」

    「あ~、それですか。ウソです。」

    「ウソ?」

    「はい、ウソです。ホントは三時間ほど前に到着していました。」

   よし、コイツどうやって殺そっかな~。
   ていうか、なるほど。夕呼先生が怒っている時の感情が少しわかってきたぞ♪

   ワクワクしながら、脳内が血で染められている武の顔を見て桂木という男は突然笑い出した。

    「ふふふ、あはははははははは。これはこれは。私にも面白い人が来たようですね。はははははは―――」

   ずっと笑い続ける彼を見て武は「この人、頭大丈夫かな?」と思う。
   彼が笑うのをやめるまで、どれくらいかかったのか武は数える気にもならなかったが、それでも一応笑いやむまで待ってやった。

    「ふふふ、久しぶりに笑わせていただきました。」

    「あーそうですか。それじゃ、さっさと仕事に戻りますよ。誰かさんが遅れたせいで、とんでもない量が残っていますんで。」

   すると、彼は武についていかず、立ち止まったままだった。

    「ん?どうかしたんですか?」

   そう言って振り返ると、そこには先ほどのようなふざけた表情は一切なかった。

    「一つ、質問に答えてくれますか?」

    「別にいいですよ。」

    「では、何故?貴方は戦うんですか?」

    「え?」

   初めは質問の意味ができなかった。

    「私の調べによると、貴方は、シベリア奪還のときに大勢の部下が死んできたそうですね。
     桜花作戦のときは、なんでも、大切な仲間だったとか、そんな方々を亡くしてまで貴方は今を戦い続けている。
     もう一度問います。」

   そこで区切って、彼は武を見つめた。

    「貴方は、何故、戦うのですか?」

    「・・・・・・・・・・・・・・・。」

    「黙秘ですか?それとも答えられないのですか?それでは私は・・「守りたいから。」・・・・え?」

    「あいつらが命を賭けてまで守りたかったものを・・・・・・・俺は、守りたいから。」

    「そんな大それたことは誰でも言うことができます。しかし、実際にできたものはほとんどいない。大概の者は、志半ばで死ぬか、諦めるかです。」

   彼はそう言っている。それは、彼が今まで多くの者に失望してきたことの証でもあった。

    「分かっている。」

    「わかっているなら何故?そのことを口にするのですか?」

    「・・・・・・・他にすることがないからだよ。」

    「え?」

    「他にすることがないって言ったんだよ。
     俺には、守るべき家族もないし、国を守るなんて大それたことは言わない。
     ただ、俺には他にすることもないし、そしたら必然的に、俺を必要だって言ってくれる奴がいるだけだから。
     だからこそ、俺は、戦う。
     ただ、それだけのことさ。」

   そのときの武の瞳は、ただ真っ直ぐ桂木という男を見つめていた。

    「そうですか・・・・・・・なるほど、将軍殿下が貴方に熱をあげるのも分かる気がします。
     では、改めて、
     本日から、白銀武少佐の副官を勤めさせていただきます、桂木 誠一郎と申します。
     以後、よろしくお願いします。」

   それが、人類の救世主と言われた武と、影の英雄と言われた桂木の初めての出会いであった。


   Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~


   第7話「本日、とても理不尽です。」


  ***2001年5月3日横浜基地 グラウンド***

   初めに言っておこう。どうしてこうなった。
   現在の状況を説明しよう。

   ただいま、格闘訓練の真っ最中、でも訓練とは名ばかりのいじめです。ホントに。
   Aチーム 俺一名。
   Bチーム 武を除いた207小隊。

   おかしくない?いじめでしょコレ?
   まりもちゃんはなんか知らないけど、別によさそうな顔しているし、俺、なんかした?
   ッ、そうだ、元はといえば、麻倉、貴様の一言じゃねえか。

  ***回想中***

   朝、PXの麻倉のこの一言で武の地獄は始まった。

    「白銀は、幼女偏愛主義者なのか?」

   は?何を言っているんだ?この女は?

    「あ~、いや、違うなら否定してもいいんだぞ。ただな、私は今朝、白銀の部屋から社・・・・・霞だったか?彼女がでてくるのを見てしまってな。真偽のを知りたいと思ってな。」

    「ハァ?何が言いたいんだ?別に霞は、ただ俺を起こしに来ただけで、別段やましい事は一切してないぞ。」

   必死の弁解をするが、目の前の麻倉の顔は完全に笑っており、そして、後ろのほうから猛烈な殺気が感じるのは気のせいだと信じたい。

    「あ~、大丈夫だ。白銀がそういうことはないと私も信じたい。同じ小隊の仲間だしな。」

   ニヤリ、と顔を笑顔にして、指で後ろのほうを向けとやっているが、俺は断じて後ろを向くわけには行かない。
   何故かって?俺だって死にたくはないからです、ハイ。

   しかし、神は本当に俺を見捨てるのが好きらしい。チクショウめ。

    「タケル、その話、ちと詳しく聞かせてくれぬか?」

   笑顔が怖いですよ冥夜さん。ていうか、他の皆さんも何で笑ってるんですか?それ以前に、笑っているはずなのに、こんなに寒気を感じるのは何故でしょう?教えてください神様。ていうか助けてください。お願いします。

    「白銀よ。諦めることも、人生においてはまた肝心だぞ。」

   麻倉よ、貴様だけはいつか絶対に殺してやる。

   ちなみに、そのときは何もなかったが、その後も他の連中はずっと笑い続けており、俺は一目散にPXから脱出した。


  ***現在***

   神様って残酷だよね。
   だって、俺に死ねって言ってるようなもんじゃないかコレ。

   でも、捨てる神あれば拾う神ありとは、すばらしい言葉だ。
   だけど、拾ってくれた神様よ。どっちにしても、俺は全員と戦うことになるのかよ。
   まぁ、勝ち抜き戦方式にしてもらっただけども充分だが。

   そう考えながら、現在の状況をもう一度確かめる。

   現在、地獄――――格闘訓練という名―――も大方が終わり、残りは、彩峰、冥夜、高原、茜の順番で待っていた。
   ちなみに、麻倉は初めから気分が悪いという理由で休んでいるため、ここにはいない。クソッタレ。

   後、残っている連中は、全員殺意むき出し状態で俺のことをにらんでくる。
   マジで怖いです。

    「・・・・・・次、いくよ。」

   そう言って、模擬刀を構える彩峰。
   できれば、殺意はしまってください。お願いします。

    「・・・・・・死ね。」

   あ~、ガチですか。
   まぁ、今の彩峰程度なら、簡単だから大丈夫でしょ。

    「よっと。」

   そう思いながら、彩峰が繰り出してきた剣先をかわし、前に出された腕を掴み、彩峰の体を地面に叩きつけ、首筋に模擬刀を突きつける。

    「そこまで。」

   まりもちゃんの終了の言葉で、俺は彩峰の拘束を解き立ち上がる。

    「・・・・・・ふう。」

    「年?」

    「同年代だぞ。俺とお前は。」

    「・・・・・・バカな。」

    「あのね。」

   一息ついて、冥夜と向き合う。
   冥夜とは既に、一度戦っているから、前回のような戦法は使えない、となると、正々堂々の戦いを強いられるが、難しいな。
   しかし、あまり体力は消費できない。
   冥夜を倒せたとしても、まだ高原と茜が残っている。
   それに、美琴によると、高原は結構強いらしい。

   どうしようか迷う時間は俺にないらしく、冥夜は模擬刀を構えた。

    「そなたとこうするのは、二度目となるな。今度は、私が勝たせてもらう。」

    「オウ、かかって来い冥夜。」

    「ゆくぞ。」

   そう言って模擬刀を構えるが、前回のようにすぐに突進はしてこない。
   なるほど、それなりに学習はしているようだな。

    「へ~、突っ込んではこないんだ。」

    「前の時のことをそれなりに考えたのでな。そなたに勝つにはこんくらべが必要と判断しただけだ。」

   さすがは冥夜、やるね。
   となると、今度は俺から行かせもらいますか。

   そう思った瞬間、武は地面を蹴り、冥夜がいる場所に向けて走り出した。

    「ふ、この勝負私の勝ちだ。」

   自身の勝利を確信した冥夜だったが、その確信はすぐに崩された。

    「・・・・・・・・・沈め!」

    「な!?」

   無現鬼道流 奥義 月華 武が前の世界で、紅蓮から教わった剣技の一つ、話によると、冥夜はまだ習得できずにいたらしい。
   もっとも、他に武ができるものは二、三個しかないが、それでも、今の冥夜にとっては充分威力を発揮する。

    「これは、無現鬼道流?何故、そなたが?」

    「いい男には秘密がつきものさ。」

   あれ?我ながらかっこよくね?

    「そうか。また私の負けか。だが、次は負けぬぞ。」

    「オウよ。」

   何とか勝ったか。
   しかし、やはり体に少しガタが来たな。
   何とか持つかな?

   そう考えながら、次の相手である高原を向く。

    「それじゃ、行きますよ。白銀さん。」

    「オウ、かかって来い。」

   だけど、少々油断していた。
   目の前の彼女が、彩峰や冥夜に負けずも劣らずの格闘戦のエキスパートだってことを俺は知らなかった。

    「では、本気で行きますね。」

    「え?」

   だからこそ、彼女が目の前に来ても、俺は一瞬だけ反応が遅れた。

    「は!」

   肘うち!・・・間にあわ・・・!

    「グッ!・・・・・・ガハッ!」

   一撃、もろに食らっちまったな。
   コイツ、彩峰や冥夜並、いや、下手すりゃそれ以上だ。

   後ろの連中も、驚いているようで、まりもちゃんも驚いている。
   実際、彼女は今まで本気を出したことがなかった。

   オイオイ、コイツは訓練で培ったってもんじゃ説明つかないぞ。
   まず間違いなく、コレは長年の訓練でようやくできるもんだ。
   単純な話、こいつの実力はプロ並だぞ。

    「あ、だ、大丈夫?ご、ごめん、初めて本気で打ち込めたから、ちょっと、調子に乗っちゃったかも。」

    「いや、何とか大丈夫だ・・・・・・クッ。」

    「白銀、無理しなくてもいいぞ。」

    「まりもちゃんご心配なく、丈夫な体がとりえですので。」

    「まりもちゃん?」

   オーマイゴッド。
   考えが口に出ちゃったよ。
   確実にリンチもんだなコレ。

    「はぁ~、まぁいい、続けろ!」

    「あ、だ、大丈夫ですか?無理しなくても。」

    「大丈夫だ。さっさと来い!」

   武の体は既に悲鳴を上げようとしているが、本人にとってはこの上ないくらい嬉しかった。
   自分以上の力を持つ者が目の前にいる。
   ただ、それだけの事が武の体を動かしていた。

    「では、行きます!」

   ッ!やはり、速い。

   すんでのところでかわすが、それでも、彼女の攻撃は続き、それを何とかよけることで精一杯であった。

   何か、何か手はないのか?

   そう考える武だったが、ふと目の前の高原を見ると、自分以上に息が上がっているのが見える。

   なるほどね。彼女、短期戦型か。
   となると、次で決める。

   そして、攻撃が遅くなった瞬間を狙って、一気に倒した。

    「きゃ!」

   いや、きゃ!、って

   そんなことを考えながら、倒れた高原に手を差し伸べる。

    「大丈夫か?」

    「え?あ、はい、大丈夫です。それにしても、強いんですね。初めて負けちゃいました。」

    「そうか。お前も結構強かったぞ。」

   ありがとうございます。と言って、後ろに下がっていく高原を見送り、武は、最後に残っている茜のほうを向こうとして、倒れた。

    「アレ?ちょ、ちょっと白銀?だ、大丈夫?」

    「限界だったんだろう。涼宮、白銀を医務室に連れて行ってやれ。」

    「は、はい。」

   そう言って、茜は、武を何とか背負って医務室に行った。


  ***2001年5月3日横浜基地 医務室***

    「大丈夫ですよ。ただ、疲れて倒れたようですので少ししたら、目も覚めるでしょう。すいませんが、見ていてくれませんか?少々、用事があるので。」

    「あ、ハイ、分かりました。ありがとうございます。」

   お大事に、と言って、衛生兵の女性は医務室を出て行った。

    「ハァ~、それにしても、倒れるまでやるんじゃないわよ。皆心配したじゃない。」

    「・・・・・・・・・そいつは悪かったな。」

    「え?し、白銀?お、起きてたの?」

    「ああ、横になったあたりからかな?」

   そう言って、自分の体を起こそうとするが、茜に止められる。

    「寝てなさい。アンタ、結構疲れそうだから。瑞希のアレをもろに喰らってるでしょ。多恵なんか最初、気絶までしたんだから。」

    「ハイハイ、じゃあ、寝てますよ。後、ありがとよ。」

    「ん?何が?」

    「ここまで連れてきてくれたこと、それ以外になんかあるか?」

    「あ、そのこと?別に大丈夫だよ。神宮司教官に言われて、やったことだし。」

   そう言うと、なぜか白銀が自分のことをじっと見つめているのに気づく。

    「し、白銀?どうか、したの?」

    「いや、ちょっと知り合いに似てると思ってな。」

    「あたしが?どんな人だったの?」

    「人に好きだって告白しときながら、返事も聞かずに消えやがったバカな女。」

    「え?」

    「俺もそいつのことは少なからず想っていたんだが、勝手に消えやがって、返事は今度でいいからとか言っておきながら、自分はどっかに行っちまったっていう、最低な女だよ。」

    「その人が、あたしと似てるって?」

   ああ、そう言って白銀は目を閉じた。

    「今でも白銀は怒ってる?」

    「別に、もう顔も忘れちまったよ。そんなことはよくあったからな。」

    「そう。」

   二人の間に沈黙が走る。

    「だけど、当時は本当に泣いたな。あの頃は、もうアイツしかいなかったからな。」

    「そう・・・なんだ。」

    「だけど、今はお前らがいる。」

    「え?」

    「なぁ、武って呼んでくれないか?その代わり、俺も茜って呼ぶから。」

    「え?え?え?」

   そのときの茜の頭の中は混乱しきっており、何がなんだかわけが分からなかった。

    「あ、駄目か?」

    「い、いや、駄目ってわけじゃないけど。・・・・・・」

    「じゃあ、これからもよろしくな茜。」

   とびっきりの笑顔でそんなことを言われたら、常人なら確実に堕ちる。
   それは、彼女も例外ではなかった。

    「よ、よろしく、お願いします。」

    「よろしくな。」

    「私からもよろしく頼む。」

   え?今の声は?

   ふと、武の隣のベットを見ると、そこに麻倉がいた。

    「ゆ、由香?ど、どうしてここに?」

    「何故と聞かれてもな?私は気分が悪いからここにいるんだが、何か問題でもあるのか?」

    「い、いや、特に問題ってわけじゃ・・・「麻倉ぁ!てめぇのせいで、俺は今ここに運ばれたんだぞ。」・・・・・・。」

    「ハッハッハ、よい運動になっただろう。私に感謝しろ。武。」

    「するか!てか、人の名前を勝手に呼ぶな!」

    「いいじゃないか、別に減るもんじゃあるまいし、その代わり、私のことは由香様と呼べ。」

    「アレ?様付け?おかしくない?」

    「どこもおかしくはないぞ、武。」

    「チクショー!理不尽だーーー!」

   医務室に武の声が響く。



  あとがき

  いつも、この作品を読んでもらってありがとうございます。
  そろそろ、Muv-Luv板に移ろうかと考えていますが、どう思いますか?
  ぜひご意見などをよろしくお願いします。



[20023] Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~ 第8話
Name: 人生負け組◆6ad14272 ID:5184a456
Date: 2010/08/08 15:43

  ***2003年9月27日国連軍鉄源基地***

   今年四月に発動された錬鉄作戦によって、朝鮮半島にある鉄源ハイヴ跡は、国連軍の鉄源基地として作られた。
   極東国連軍と大東亜連合、日本帝国によって攻略されたこともあり、この基地は一応国連の基地として扱われているが、各国の部隊が駐留しており、問題が絶えない。

   おかしい、おかしすぎる。
   俺の立場って、一応今は帝国軍ですよね?
   だったらなんで?この国連軍基地の書類仕事をしなくちゃならないの?おかしいでしょ?

    「チクショーー、やってられるかーーー!!!」

    「・・・・・・・・・諦めて・・・下さい・・・。」

   隣いる桂木さんは、今にも口から魂でも出てきそうな状態だし。
   月詠さんは、書類に埋もれて見えん。一時間程前から、声がしないし。

    「だっておかしいじゃん!なんで俺たちがこんな書類仕事やんなきゃいけないの!?」

    「・・・・・・それは、横浜基地の機能をこの基地に移すに当たって、少佐が昔、横浜基地に所属してたからです。」

    「その理由はおかしいけど、だからって、この量はおかしすぎでしょ!?他にも、なんか関係ないようなものも混じってるし!」

    「・・・・・・・・・・・・」

    「桂木さん?お~い。」

    「・・・・・・・・・・・・」

   返事がない。ただの屍のようだ。
   仕方ない、医務室に連絡して、二人を回収してもらおう。
   その間に俺は、そこらへんを歩いてこよう。


  ***2003年9月27日国連軍鉄源基地 屋上***

   気がついたら、もう夕方か。
   作業を始めたのが、確か、昨日の夜になった頃からだから、一日中仕事してたわけですね。
   そりゃあ、皆さん倒れるな。

   そんなことを考えながら、PXで買った缶コーヒーを飲みながら基地を見回した。

   やっぱり、いろんな機体があるな、今週中にはこの基地は国連軍に引継ぎされるって話だけど、大東亜の連中はここに駐留させろって言ってたし、帝国の方はまだ何も言ってこないけど、大東亜の連中の行動によってどうなるか分からないからなぁ。
   
    「G元素の分配問題だって色々問題起こったって聞いたし、ほんと、めんどくさいよな。」

    「それでも、あんたは上に行くんでしょ。」

    「ああ、当然・・・って誰!?」

   いきなり後ろから声がしたので後ろを振り向くと、そこにいたのは、同じA-01所属していた涼宮茜がいた。

    「涼・・・み・・や?」

    「久しぶり、白銀も元気そうじゃない。」

    「久しぶり。ただ、元気かどうかの点についてだけは疑問にさせてくれ。」

    「え?なんで?」

    「先ほど、一緒に書類仕事をしていた部下が過労でぶっ倒れて、俺も限りなくそれに近い状態だから。」

   そう言うと、なぜか茜は「やっぱり。」と言った。
   よく見ると、彼女も目の下に隈があるのが見える。

    「まさか、お前もか?」

    「・・・・・・うん。」

    「・・・そうか、お互い大変だな。」

    「皆倒れちゃって、あたしはさっき目が覚めて少し歩いてたの。」

    「・・・・・・そうか。」

   なんでこんなことになっちゃたんだろうと考えていると、茜が話し出した。

    「白銀って、結構変わったね。」

    「そうか?」

    「うん。なんていうか、覚悟を決めたっていうか、そんな感じ。」

    「ふ~ん。」

   気のない返事をすると、茜が立ち上がった。

    「ねぇ、約束、覚えてる?」

    「アラスカに行く前のアレだろ?当然覚えてるよ。」

    「じゃあ、もう一回約束しよ。武。」

    「いきなり人を名前で呼ぶのはどうかと思うぞ。」

   そう言いながらも武の顔はまんざらでもなさそうだった。

    「うっさいわね。ほら、あん時と同じで、空もこんな感じだったでしょ。だからもう一回しよ。」

    「ハイハイ。それじゃあ、俺は必ず、大将まで上がって火星まで行ってBETAをぶっ倒してやる。」

    「あたしは、みんなの思いを継いで、戦乙女の名を火星まで持って行ってBETAを倒す。」

    「「お互い頑張ろうぜ。(頑張ろうね。)」」

   これが、俺と茜との約束。俺の、夢だった。


   Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~


   第8話「戦乙女の憂鬱」


  ***2001年5月3日横浜基地 シュミレーターデッキ***

   夜、シュミレーターデッキではXM3を一日も早く使いこなすために、武によるA-01の訓練が行われている。
   本日もそれは同じで、結果も武の圧勝で終わっていた。

    「また・・・・・・負けた。」

    「だ、大丈夫ですか?速瀬中尉?」

    「うっさいわね。いつも通りアンタが勝ったんだから、そんな顔すんじゃないわよ。」

   いや、勝ったって、確かに俺は、皆さんにXM3を一日も早く使いこなしてもらうために、実戦形式にしてますけど、勝ち負けの問題じゃないですから。

   ため息をつきながら、武は、現在のA-01部隊について考える。

   一応、現状でもXM3によって、彼女らの実力は前の数倍くらいに上がっている。
   もっとも、たった四機のXM3搭載の戦術兵器を戦場に投入したところで、戦略に与える変化など所詮は微々たる物だ。
   それでも、今の彼女らにとって、このXM3はとてつもないものだ。

   そんなことを考えていると、目の前にいる速瀬中尉に話しかけられた。

    「そういえばさ、白銀って、普段なにしてんの?」

    「え?」

    「あ、それは私も気になりました。いつも夜にしかお会いしないので、昼は何をやっておられるのですか?」

   風間少尉も速瀬中尉の素朴な疑問に興味があるようだ。

   不味いな。夕呼先生から黙ってろ言われているし、どうしよっかな?

    「え~と、それについては・・・「Need to know。」・・・え?」

    「博士からは、白銀に関する全ての情報はそういう事だと聞かされている。知りたければ、首を代わりに出せば考えないこともないらしい。」

   伊隅大尉、皆さんむちゃくちゃ引いてらっしゃいます。
   そういう発言はこれから気をつけて下さい。

    「あ、し、白銀、い、今のは忘れて頂戴。」

    「へんなこと聞いてしまってスイマセン。」

   別にいいんですよ。こんなの慣れてますから。

    「・・・それにしても、相変わらずお前のあの機動は全く読めんな。」

   伊隅大尉が少々気まずくなった雰囲気を変えるため話題を変えた。

    「まぁ、俺のあの機動は皆さんのとは、少し概念が違いますからね。
     前にも言いましたけど、皆さんには、空に上がれば、レーザーに当たってしまうという概念が定着してしまっているんです。
     例え制空権が取られていようとも、空に上がることは可能なのに、だからこそXM3というものが今まで生み出されなかったんですよ。」

    「・・・・・・・・・。」

   武が説明している最中は、何故か、いつも速瀬が食い入るように聞いていたのを伊隅は知っていた。
   その後も、数回シュミレーターで模擬戦をやって、その日はお開きとなった。


  ***2001年5月4日横浜基地 PX***

   朝、PXは一度の時間に全員が来ないように、たいていは使用する時間が分けられる。
   それは、A-01のような秘密部隊の存在を隠すためでもある。

    「あ~、眠い。」

    「あれ?水月、昨日、早めに寝たと思うんだけど?」

   珍しく親友が眠そうにしているので、隣にいた涼宮中尉が少し心配そうに顔を覗き込んだ。

    「ん?ああ、ちょっと考え事があってね。」

    「おや、珍しい。速瀬中尉に考えるという思考能力がまだあったとは。」

    「む~な~か~た~。」

    「って、白銀が言ってました。」

    「なら、今日こそアイツをぶっ倒す。」

   いつも通りだと思いながら、どこか彼女に違和感を感じた。


  ***2001年5月4日横浜基地 シュミレーターデッキ***

   その日は、たまたま武が少し早めに来てしまい、今日のことについて思い出していた。

   クソ!なんで俺が座学で居眠りするたび、築地が俺を見つけるんだよ。
   それに、俺の居眠りの技術は築地如きには見つからないはずなのに、待てよ、あの時も確かに築地に見つかったけど、・・・・・・間違いない。
   由香だ!あの女が築地に告げ口してるんだ。
   クソッタレが!毎日、毎日、人の人生弄んで面白いのか!

   にしても、207の連中は、かなりくだけた感じになってきたな。
   最初に会ったときは、委員長と彩峰を中心にして研ぎ澄まされたナイフみたいな感じになってたけど、今は、本当に良くなったもんだな。
   まぁ、今でも二人は、犬猿の仲ですが、そろそろ、本格的に何とかしなくちゃな。

   それに、俺もそろそろ動き出さないとな。

   武が自分の世界に入っていると、既に時間が結構流れていたのか、伊隅大尉たちがやって来た。

    「すまん、今日は少し遅れてしまったか?」

    「いえ、俺が早めに来ただけですので。いつも通りの時間です。」

   伊隅大尉は「そうか。」と言って、今日の特訓は始まった。


  ***シュミレーター内***

    「確かに可能だと思うが、本当にいいのか?」

    「ハイ、やらせて下さい。」

   その時、伊隅大尉がいや、皆が少し困り顔だったのは、アタシでも分かった。
   当然だ。アタシがこれからやろうとしているのは、今まで、白銀以外が成し遂げたことのない三次元機動だ。
   それをXM3に触れてまだ一月も立っていない私が、それをやろうとしているのだ。
   心配しないのがおかしい。

    「わかった、やってみろ。」

    「ありがとうございます。」

    「こちらで援護しますから、存分にやってください。」

    「そろそろ、白銀に黒星をつけたいところですから、応援しますよ。」

    「頑張ってね、水月。」

   仲間からの応援もあり、白銀から「そろそろ、始めましょうよ。」と急かされたので、いつも通りの市街地戦を模した設定で模擬線は始まった。


   訓練時、武は吹雪を使っている。
   これは、A-01が不知火を使うことによって、少しでも実力差を縮めようとするものだった。

    「さ~て、今日も楽しい、楽しい、お遊戯を始めますか。」

   そう言う俺の心の中には、その時は、かなりの慢心があったのだろう。
   彼女らが自分より格下だと、自分の心の中で決め付けてしまっていたのだ。

    「周辺に敵機はっと、なし。」

   妙だな。
   いつもなら、既にしかけてきてもおかしくはないはずだが、戦術を変えたか。
   なら、あぶりだすか。

   そう考えていると、ロックオン反応が出た。

   誘導弾!となると、風間少尉か。
   だが、ロックオンしてから撃つまでの時間が少しだけ長い!

   機体を飛ばせると、さっきまで武がいた場所の地面が弾けた。

   制圧支援の風間少尉があそこにいるとなると、必然的にエレメントの宗像中尉も近辺にいる。
   まずはそこから叩くか。

   そう考えたときには既に、武の機体は風間少尉のいる場所に向かわせていた。

   まずは一つ。

   そう思った瞬間に、全く反対の方向からロックオン反応が出た。
   確認するために武が少しだけ機体を後ろに向かせたことが

    『今だ!撃て、ヴァルキリー4。』

    「何!?」

   なるほど、俺の機体を後ろに向かせるために自分の機体を晒したか。
   なかなかヤル・・・・・・とでも言うと思ったか?
   三次元機動をなめるなよ!

   武はブースターを使い、機体を垂直方向に持ち上げて、機体を逆さまになる形に変え、二機とも大破させた。

    『ヴァルキリー3・4、ともに大破。』

    「やりぃ、さて。」

   残るは、伊隅大尉と速瀬中尉の二人だが、この二人がどう出るか。
   小隊での行動をしてないのは、今の二人の行動で分かる。

   となると、向こうは何か隠し玉でもあるのかな?

   そう考えながら、機体を動かしていると、レーダーに反応があった。

   お、来たか。さ~て、遊んでや・・・・・・オイオイ、マジかよ。

   レーダーを見てみると、二機の不知火がこちらに向かってくるのが見える。
   だが、二機のうち一機が、明らかにもう一機とは違う動きをしている。

   間違いない、三次元機動。
   となると、速瀬中尉か。

   武はこちらに向かってくる二機に36mmを撃つが、二機とも軽々と避ける。

   マジかよ。
   伊隅大尉もそれなりにモノにしてるじゃねえか。

   そう思いつつも、内心では喜んでいた。

   なら、俺も少しばかり本気を出しても文句はないよな!

   武は自分の機体を浮かせて、迎え撃った。


    『ヴァルキリー1より、ヴァルキリー2。予想通り、敵は食いついてきたな。では、作戦通り行くぞ。』

    『ヴァルキリー2了解。』

   速瀬は返事をしながら、一人微笑んでいた。
   今までの白銀の機動は、最初に見たヴォールクデ―タの時と同じとは到底思えなかった。

   だからこそ、毎日訓練が終わった後にコッソリとシュミレーターで白銀の言う三次元機動を日々練習して、昨日、ようやく訓練中の白銀と同じ機動をモノにした。

    『ヴァルキリー1、フォックス3!』

   隣にいる伊隅大尉の声が聞こえる。

   後悔させてやるわよ。
   アンタがそうやってあたしたちのことをなめてた事を、アンタがそうやって、あたしたちを見くびっていた事を!
   だから!

    『ヴァルキリー2、フォックス3!』

   白銀、あんたを倒す!


    「さぁ、俺を楽しませてくれよ!」

   シュミレーターの中で武は、一人そう言った。

   そうだ、そうだ。
   俺は、あんたたちが強いから、XM3を教えたんだ。
   だからこそ、俺は、この戦いを存分に楽しみたい、楽しませてくれよ!

   目の前の不知火―――おそらく、伊隅大尉―――が36mmをこちらに向けて撃ってくると、速瀬中尉のほうも撃ってきて、武はそれを難なく避ける。

    『ヴァルキリー2、吶喊します。』

    『こちらヴァルキリー1、援護する、存分にやれ。』

    『ヴァルキリー2了解。』

   速瀬機がこちらに吶喊してくるのが分かると、武は後ろにいる伊隅機をまず撃墜しようと、36mmを撃った。
   すると、伊隅大尉の不知火は、機体を持ち上げて何とか避けた。

    『ヴァルキリー1、跳躍ユニット損傷』

    「チッ。」

   通信を聞いて、武は舌打ちをした。
   大破を狙ったんだが、さすがにそこまではやらせてくれないか。

    『貰ったーー!』

    「まだ、あげませんよ!」

   長刀を構えて、こちらに切りかかってくる速瀬中尉の不知火を長刀で払いのけて、左手に持ち替えた36mmで牽制をしつつ、伊隅大尉の不知火にとどめをさす。

    『ヴァルキリー1、大破。』

   通信が入った気がしたが、武には聞こえていなかった。
   彼は、目の前にいる一人の戦乙女の動きに酔っていた。
   かなり手を抜いているとはいえ、自分をここまで追い込んでくれた彼女に彼は酔っていたのだ。

    「本当に楽しませてくれるよ、貴方たちは!」

    『こんのーー!』

    「だが、そろそろ引き際といこうか。」

   一気に勝負を決めようとした武だったが、速瀬は空中で機体を回転させて、切りかかってきた。

   オイオイ、俺はこんな技教えてねえぞ。

   一瞬肝を冷やしたが、すぐさま機体を動かして対応させて、速瀬機を堕とした。

    『ヴァ、ヴァルキリー2、大破。状況、終了です。』

    「ふぅ。」

   ため息をついて、武はシュミレーターを出た。


  ***シュミレーターデッキ***

    「ふっふっふ、どう?恐れ入ったかしら?」

   なんでこの人負けたのに、今日はこんなに嬉しそうなんだろう?

    「そう思うな、ようやくお前の本気が見れたのだ、速瀬中尉が喜ぶのも無理はない。」

    「声に出てました?」

    「いや、顔に出てたし、私も速瀬中尉の気持ちが分かるからだ。」

   さいですか。

    「それにしても、最後のアレはどうやったんですか?白銀少尉からは教わっていないはずですけど。」

   あ、風間少尉、それは俺も知りたかった。

    「フフン、それはアタシがアンタより強い・・・「本当は、速瀬が毎晩一人でシュミレーターで練習をしていたのだ。」・・・ちょ、ちょっと、伊隅大尉、なんで知ってるんですか?」

   な~るほど、全く、そう言うわけですか。

    「毎晩、毎晩遅くまでやっているのだ。さすがに、私も気づいたさ。」

    「あ、だからこの頃眠そうだったんだね、水月。」

    「確かに、速瀬中尉が夜中に考え事など、ありえないと気づくべきでした。」

    「む~な~か~た~、それってどういう意味よ。」

    「って白銀が言ってました。

    「し~ろ~が~ね~。」

   くそ、俺としたことが、こんな初歩的なミスを。

    「まぁまぁ、水月も結構かっこよかったよ。」

    「あ、ありがとう、遙。」

    「確かに、今まで見たいにテキトーに手を抜いてたら、やらちゃうかもしれませんね。」

    「フフン、そういうわけよ、分かった?」

    「では、これからは不知火を使って、少々本気を出していきますか。」

   今、速瀬水月の天下が完全に崩れ落ちた音が聞こえた気がする。
   ちなみに、当の本人はそれを聞いた瞬間、膝をついてブツブツいい始めた。


  ***2001年5月4日横浜基地 副司令室***

    「へ~、速瀬がね~。」

   先ほどのシュミレーターでの一件を話した所、かなり興味があったようだ。

    「この調子だと、後、一月もすればA-01の皆さんに教えることはほとんど無くなっちゃいますね。」

    「あら?案外弱気ね。これからもアンタには伊隅たちを鍛えてもらおうと思ったんだけど。」

   武の言葉を冗談だと思っているのか、夕呼は口元に笑みを浮かべている。

    「正確には、教えられなくなる、の間違いですがね。」

   その瞬間、夕呼の目が鋭くなったのはいうまでもない。

    「どういうことかしら?」

    「そのままの意味ですよ。一ヵ月後までに、俺がこの横浜基地にいられるかどうか分からないんで。」

   武の顔にも笑顔はあるが、夕呼はその笑顔があの時、武に何故00ユニットの数式を教えないかを聞いたときの顔だと、すぐに分かった。

    「へ~、今のアンタに行き先があるとは思えないけどね。」

    「今は確かにないですよ。でも、いずれはここを出させていただきますから。ああ、ご安心を、00ユニットの数式やら何やらは、渡しておきますので。」

    「私がアンタみたいな使える奴をそう簡単に手放すと思ってるのかしら?」

   すると、武は笑顔で「思いますよ。」と言った。

    「どうして?」

    「簡単です。そっちのほうがメリットがあるからですよ。まぁ、まずは鎧衣課長と話をしなくちゃならないですけどね。」

   終始、武は笑顔だった。その笑顔に夕呼が不気味さを感じるほど。

    「そう、それじゃあ、あたしのメリットっていうのを・・・・・・いえ、どうせ教えてくれないんでしょう。」

    「プレゼントっていうのは、ギリギリまで内緒にするのが楽しみでしょう。」

    「そうね。いいわ、今度会わせてあげる、その代わり、・・・・・・分かっているわね。」

    「分かってますよ。夕呼先生を裏切ったりしたら、俺の首なんて簡単に飛んじゃいますからね。」

   「ならいいわ。」その言葉を聞いて武は部屋を出た。

   変わらない笑顔とともに。


  あとがき

  いつもこの作品を読んでいただきありがとうございます。
  Muv-Luv板に移るかどうかについてですが、もう少しだけ様子を見てからにします。
  それと、過去現在を同時ではなく・・・というお方がいましたが、過去のほうは、後5、6話と外伝を挟んで終わらせる予定ですので、ご了承ください。




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