黙然日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

ひとりごと、よしなしごと、黙っているにも等しきこと。

2008-03-15(Sat) 0315 暑いぐらい。

[][]児童ポルノ法改悪問題についての情報整理(長文注意)。

 この件については前回のエントリ http://d.hatena.ne.jp/pr3/20080311/1205235075 以後も動きがあり、エントリへの反応を含めていろいろ情報が錯綜しているので、できる範囲でまとめておきます。児ポ法については10年前から、あるいは最近での人権擁護法などについても、極論を示して煽るような反対運動(端的に言えば2ちゃんねるマルチポストとか)が多いので、確実な情報を集めることがまず必要です。賛成か反対かの判断はそのあとでもいいし、反対するにしても矛先を間違えては無駄な努力になってしまいます。

キャンペーン概要。

 まず、今回のキャンペーンで日本ユニセフ協会などが求めたのは「単純所持の禁止」と「“準児童ポルノ"(マンガアニメゲーム等)の規制」の2点です。それぞれを受けた動きがありますが、今のところ立法の場に“準児童ポルノ"規制の動きがあるようには見えません。逆に言うと、単純所持禁止はかなり現実味を帯びてきたのですが。

シーファー大使の要請。

児童ポルノ:規制で米大使と法相が意見交換 - 毎日jp

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080312k0000m010088000c.html

 シーファー駐日米国大使が鳩山邦夫法相と会い、単純所持禁止を求めた。鳩山法相も賛成の方向を示した、というニュースです。もちろん強制力のある要請ではありませんが、政府・自民党の動きを後押しする影響はあるでしょう。シーファー大使は以前から児童ポルノ規制を求めてきましたが、キャンペーン開始と同じ11日にわざわざ動いたというところが注目されます。

福田首相が児童ポルノ規制を求める。

児童ポルノ アニメ規制も検討 - NHKニュース 3月14日 17時7分

http://www3.nhk.or.jp/news/2008/03/14/d20080314000099.html (現在リンク切れ

自民党は、福田総理大臣が児童ポルノへの対策を強化する考えを示したことなどを受けて、党内に小委員会を設置し、児童ポルノを所持すること自体を罰則を設けて禁止する方向で検討を進めています。児童ポルノについて日本ユニセフ協会は、実写だけでなく、アニメや漫画、ゲームなども規制の対象にすることを求めています。このため、14日開かれた自民党の小委員会では、規制の対象をめぐって議論が行われ、アニメや漫画も加えるかどうか検討していくことを確認しました。また、小委員会は、たまたまメールなどで送られてきた写真や映像を放置していた場合など、処罰の対象にしない例外的なケースを定めるかどうかも検討課題にするとしています。自民党は、党の方針をできるだけ早くまとめたうえで、公明党や野党とも協議し、今の国会超党派議員立法で、児童ポルノ禁止法の改正案を提出したいとしています。

 ありゃ、誰も魚拓取ってなかったのか(自分もですが)……。というわけで、いちおうGoogleキャッシュ*1。キャッシュの魚拓って取った方がいいのかなあ。原則としてニュース記事の全文転載はしないようにしているのですが、記録の意味で貼り付けておきます。このニュースのポイントを時系列で見ると

  • 福田首相は児童ポルノ規制強化の考えを示している
  • 首相の意向を受けて自民党は単純所持規制をすでに検討しはじめている
  • 日本ユニセフ協会の求めに応じて“準児童ポルノ"も14日から検討課題に加えた

というあたりで、首相が直接“準児童ポルノ"規制を求めたのかどうかは、(このニュースからは)わかりません。また、首相が公の場で規制を求めたわけでもないし、そもそも今回のニュースで首相の名が出てくるのはこのNHKニュースのみです。全国ニュースになったのでかなりインパクトはあったようですが。

「18歳以上が18歳未満のふりをする」禁止の目的。

 昨日になってやっと気づいたのですが、“準児童ポルノ"の中にマンガやアニメだけでなく、「18歳以上が18歳未満を装ったもの」も含まれているのは、いささか違和感があります。「セーラー服を着たAV」などと説明されていますが、それを禁止することになんの意味があるのか、すぐにはわかりません(そもそもフィクションの規制に人権保護の意味があるのか、という問題がもちろんありますが)。

 すでに現在、市販のアダルトゲーム(エロゲ)は流通上の自主規制として、《18歳未満のキャラクターによる性描写は禁止》とされています。で、セーラー服を制服にする女子大学が舞台だと設定されたり、どう見ても10歳ぐらいのキャラクターに18歳という公式設定が作られたり、あるいはそのへんを逆手にとってギャグのネタにしたり、ということが行われているわけですが、もし“準児童ポルノ"が禁止されたら、マンガやアニメや同人ゲームでも同じ手法が使われるだろうと予想されます。それでは禁止が骨抜きになるので、設定がどうあろうと18歳未満に見えるキャラクターの性描写は禁止という方向に持っていきたいのではないでしょうか。この指摘はあまり見かけないので、憶測ですがいちおう書いておきます。

日本ユニセフ協会の存在意義。

 今回のキャンペーンの中心になっている日本ユニセフ協会は、繰り返しますが国連機関のユニセフ(UNICEF)とは別の団体です。しかし、それだけで「UNICEFの名前を騙る詐欺募金団体」という決めつけを(あるいはその決めつけに対する藁人形叩きも)多く見かけたので、少し冷静に見てみましょう。

 日本ユニセフ協会は、国連UNICEFによって「日本における唯一の代理者である」と認められています。そういう意味では詐欺団体ではありません。また、集めた募金の最大25%を経費として使うことが認められていますが、逆に言えば最低75%はUNICEFに送られるのですし(実際は10:90前後の比率のようです)、寄付集めの事務経費などを認めなければ、日本における寄付集めそのものが成立しなくなってしまいます。(協会による強引な寄付集めや個人情報保護法違反くさいダイレクトメール問題はまた別の話です)。

 なお、国連UNICEFから直接指名されたユニセフ親善大使の黒柳徹子氏は、自身の口座に振り込まれた寄付金から手数料を取らず、「1円残らず」UNICEFに送金していると表明しています*2。ただこれは、黒柳氏に高名な女優・司会者としての収入があるからできることで、一般のボランティアが経費を求めることは常識的に認められる行為だと思われます。*3

 また、国連機関が代理者としての国内法人を(法的に別団体として)作ることそのものも、特におかしな話ではありません。これは海外メーカーと国内代理店の関係のようなもので、直接国内子会社を作る場合、専門商社と専属代理店契約を結ぶ場合、総合商社に販売を委託する場合など、いろいろあるでしょう。代理店は代理店の判断で、自身と海外メーカーの両方が利益を得られるように営業活動するだけです。

 ただし、いくら専属契約があっても、代理店が海外メーカーのブランドを勝手に使ってパチモン商品を売り出すことは許されません。日本ユニセフ協会がやっているのはそういうことで、UNICEFの名前を日本で独占的に使える権限を濫用して、UNICEFが主張してもいないことを政府や国民に求めているのです。代理店であることが問題なのではなく、勝手にやっていることが問題なのです。

マイクロソフトヤフーがキャンペーンに賛同している。

 これは、両社の目的についてははっきりしません(企業の社会イメージ向上を考えているのは確実ですが)。具体的な協力手段としては、検索エンジンで児童ポルノが表示されないようにするという対策を取るのでしょう。ただし注意しておきたいのは、児童ポルノのネットでの頒布はすでに法的に禁止されているのですから、現時点でこの対策を取るのは当たり前だということです。ただ、児ポ法の規定と関係なく“準児童ポルノ"のフィルタリングまで始めるなら厄介な話になります。今のところ、そういう動きはないようですが。まあ個人的には、一般の検索エンジンに引っかからない方が平和かなー、という気もしないでもないのですけどね。

 今回のキャンペーンと関係なく、一部の規制派が「有害情報」への対策としてフィルタリング利用を推奨しているのが、ちょっと気になるところです。なんらかの利権が絡んでいることも想像できますが、あくまで想像です。

児童ポルノとゾーニングの違い。

 わりと基本的なことなのですが混同している人が多い上に、このキャンペーン関係者を含め混同を狙っている人たちもいるようなので。

 児童を描写したポルノと、児童がポルノを見ることは違います。

 前者が児童ポルノ、後者はゾーニングと呼ばれる問題です。こうして書けば間違える人はいないでしょうが、「児童ポルノ」という言葉を印象だけで捉えたり、具体的にあれはいけないこれはいいという話をしているうちに、混乱してしまう場合が多いのですね。そしてキャンペーンをやる側が、わざと両者を混同させて反対を増やそうとしています(たとえば日本ユニセフ協会のサイトでも、そのような記述がみられます)。上記の検索エンジンフィルタリングも、ゾーニングの問題だと思っている人が多いような気がします*4。ゾーニングそのものについての詳しい話はエントリのテーマから外れるので、とりあえずご自分でぐぐるなどしてみてください。いずれここでも扱うかもしれませんが。

 この、児童ポルノ(特に“準児童ポルノ")規制とゾーニングの問題を混同させる手法は、元警察庁生活安全局長・元東京都副知事・現東京都教育委員の竹花豊氏が盛んに行っていました。今回のキャンペーンに竹花氏は直接参加していないようですが、後述の後藤啓二弁護士が要注意です。

ECPATについて。

 今回のキャンペーンを日本ユニセフ協会とともに主導している、ECPAT/ストップ子ども買春の会(通称・ECPAT東京)にも注意してください。

ECPAT/ストップ子ども買春の会

http://www.ecpatstop.org/

 ECPAT運動とは「児童売春・児童ポルノ・性的人身売買を撲滅しよう("the elimination of child prostitution, child pornography and the trafficking of children for sexual purposes.")」という国際的な運動で、国連UNICEFとも協同しています。*5

 この運動そのものには賛同できるのですが、ECPAT東京はなぜか“準児童ポルノ"規制に熱心で、ときには児童買春禁止など本来の目的より優先させているのではないか、と思える節があります。そういう意味で怪しい団体なので、この名前を見かけたら注目しておいてください。

 日本国内でECPAT運動をしている団体は他にもあり、たとえばエクパットジャパン関西は“準児童ポルノ"規制などまったく唱えていない(そうした表現規制にはむしろ反対の立場を示している)ことからも、“準児童ポルノ"規制がECPAT運動そのものとは無関係であることがわかると思います。

エクパットジャパン関西

http://homepage3.nifty.com/ecpat/

*1http://209.85.175.104/search?q=cache:vM1o1C56tVEJ:www3.nhk.or.jp/news/2008/03/14/d20080314000099.html+http://www3.nhk.or.jp/news/2008/03/14/d20080314000099.html&hl=ja&ct=clnk&cd=1&gl=jp&client=firefox-a

*2:トットチャンネル/お願いチャンネル http://www.inv.co.jp/~tagawa/totto/hope.html

*3:日本ではまだ、ボランティアについて「全財産投げ打ってでも自腹を切って他人を助ける」という認識が多いかもしれませんが、そんな奇特な人が一人現れるのを待つより、百万人が少しずつできることをやった方が、全体として効率的なのです。「他人のために損得抜きでなにかする」のがボランティアで、たとえばこうしてネット上に情報を残すのもボランティアだとわたしは思っています。

*4:実は、自分が最初混同していて、検索エンジン問題をスルーしてしまっていたのでした。

*5:もともとは"End Child Prostitution in Asian Tourism"の略語で、アジアへの児童買春ツアー禁止を目指すものでしたが、現在は児童への商業的性的搾取全般への反対運動になっています。

aaaaaa 2008/03/15 22:54 児童ポルノ規制や人権擁護法案を見ていて思うことですが、現状の法律や自主規制をフル活用すれば法律をつくる必要がないんですよね。現状であるものをフル活用しようという頭が抜けていますね。
エロを規制している暇があったら、文春や新潮や産経や、やしきたかじんや宮崎哲弥や勝谷雅彦あたりの暴言を問題にしたほうがいいのではないでしょうか(笑)
たかじんなんか狂信的な信者がついていますしね。ネット上での信者の発言はアルカイダより怖いですよ(笑)

pr3pr3 2008/03/15 23:00 >aaaさん
児ポ法制定当初も、買春については児童福祉法の一部改正と刑法の条文を使って同じ効果が出せるという議論はありました。児童ポルノも猥褻罪などの組み合わせで(あきらかに問題があるものは)ほとんど規制できると思います。明確な運用という意味では、総括的な法律に意味がないわけでもないと思いますが。

Bill McCrearyBill McCreary 2008/03/16 08:49 米国のシーファー大使が動いたというのがとても興味があります。どのような行動の一環としてなのか、日本政府や自民党の思惑はとか、これからの動向を注目したいと思います。

さて、「単純所持」禁止となると、例えばデヴィッド・ハミルトンやジョック・スタージスといった人たちの写真集はどうなるんかいなという疑問はあります。今でも書店で売っているのですから関係ないのかもしれませんが、スタージスにFBIが入ったこともあるくらいで、「無関係」ではすまないかもしれません。

pr3pr3 2008/03/16 19:02 >Bill McCrearyさん
児童ポルノに限らずポルノ全般への規制は、宗教右派が揃って求めるものなので(どの宗教かを問わず、というのが凄いというか不思議ですが)、米大使の要請はとりあえずそういう文脈で見ることができると思います。この視点にとらわれるとまずいかもしれませんが。
「児童ヌードで芸術的なものはポルノとみなさない」という認識はいちおうあると思われます。児ポ法に限らず、猥褻罪でもそうですね(先日もメイプルソープ写真集はわいせつではないという最高裁判決が出ました)。すでに児童ポルノの流通は禁止されているので、現在流通している写真集は児童ポルノとみなされておらず、単純所持にもならないでしょう。ただ、取り締まりの口実と膏薬はどこにでもつきますからねえ。

凡人69号凡人69号 2008/03/16 21:00 日本でいえば、(古臭いですが)清岡純子作品集、「プチトマト」、少女M、あるいは篠山紀信が撮影した栗山千明の写真集などが引っかかるものになりそうですね。また、逮捕者がでた心交社などのジュニアモデルDVDを持っていても引っかかることになるかもしれません。秋葉原、大阪日本橋、名古屋大須、あるいはコミケが狩られるという事態になるかどうかはわかりませんが、「あつものに懲りてなますを吹く」じゃないですけど、怪しいものが片っ端から取り締まられる可能性もないとは言えないのかもしれませんね。
今回の件については左右関係なく反対している人が多いようですが、それぞれの思惑の違いで肝心なところでの足並みの乱れなんてことになったらどうなるのでしょうか?

aaaaaa 2008/03/17 11:22 援助交際は首都大学の宮台(笑)とまともだったころの宝島が騒ぐまで問題にならなかったくらいですから。テレクラを使った淫行や未成年売春はしばしば報道されていたというのに。
rnaさんのところで知ったんですが、宮台が当時つきあっていた女子高生(テレクラで知り合ったらしい、こっちの方が問題だと思うんだが)の友達が援助交際をやっていたかららしいんですね。で当時の調査で援助交際をしている未成年者は2%しかいなかったらしいです。
ですから騒ぐ必要はなかったわけで。
多分児童ポルノもよく見ているやつらが騒ぎだしたんじゃないかと。騒いでいる統一協会は韓国で当初ただのセックス宗教だったらしいですし。摂理みたいに信者女性を強姦しまくって、教祖が逮捕されています。ただ反共だったのでKCLAが支援して今の教理など考えになったらしいですが。

名無しベイベー名無しベイベー 2008/03/17 15:44 私は児ポ法自体が悪法だと思いますね。悪質業者による児童搾取は無くなったけど、映画などへの表現は厳しくなったわけで。十分な討議をしない可決させちゃった法律の一例だったりもします。

この問題については篠山紀信などの大御所が反対声明をしないと響かないでしょう。

pr3pr3 2008/03/17 20:18 >凡人69号さん
9年前に児ポ法が施行されて販売等が禁止されたとき、当初摘発されたものは(報道を見るかぎり)児童ポルノと猥褻に両方引っかかるようなもの、つまり悪質な児童虐待映像だったと記憶しています。それがだんだん厳しくなり、施行前に危惧されたような「17歳の水着映像」で摘発されるようになるまで(ただし児ポ法では不起訴、別件で起訴)、8年ほどかかりました。「それだけかかる」とも言えるし、「いずれそうなる(される)」とも言えるところです。

>aaaさん
よく、禁酒法と対比されますね。禁止すれば闇の勢力が儲けるようになる。もっとも、映像については同じundergroundでもネットの裏に隠れるでしょうから、児ポ法を推進しても儲けられないことは、たいてい馬鹿にでもわかると思います。とんでもない馬鹿がいるのかもしれませんけれど。

>名無しベイベーさん
正直、現在施行されている児ポ法に賛成すべきかどうかも、微妙だと思っています。児童虐待防止の主旨についてならば全面的に賛同しますが、悪用しようと思えばいくらでも悪用できるので。――まあ、それを言い出したらたいていの法律がそうなのですが。
篠山氏や加納典明氏あたりの反対表明もあればあった方がいいですが、実効性は疑問です。日本ペンクラブや日弁連の反対声明さえ無視されて制定・改正されてきたものですから。

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